「ふ…………」  
 ほんの少しだけ息が漏れる。いつもならばただ吐き出すものを、今日は隠している。  
「……」  
 無言で、ナイフのグリップの、ほんの少し残った部分をこすりつける。  
 恐ろしく凶悪なデザインに、禍々しい彫刻がしてある。  
 見るものが――零が崎のものならば、もしくは言葉と戯れる少年ならば、人間失格のものと寸分違わぬと気付いたかもしれないが、それも、これから数年後にだろう。  
「ふー……、ふー……」  
 赤と言うには薄い色をした豆をつまみ、割れ目を凶器でこすりつける。  
 自分ではなく、その模様にいじられているように、乱れ、抑え、咲く。  
「……ッ!」  
 跳ねる。咲いた快感は乱れ、  
「あ……」  
 ちょろろ、とかわいらしい音をさせて、薄い黄色の液を流して、ゆっくりと治まっていった。  
「ま……た」  
 ゆらり、と揺れる。  
「しちゃった」  
 グリップに付いた液を舐めとる。まるで、牡の棒を舐めるように。  
「ひしときくん……」  
 小さな体を抱いて、慰める日は続く――  
 

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