「……ふぅ」  
 牛乳瓶から口を離し、子萩は息を吐いた。  
「そういえばあなたは、牛乳を飲まないの?」  
 なんともなしに前で――――ステーキ、と表現してもいいのだが、凶暴そうなナイフでずたずたにされたその食べ物は肉としか呼べないため――――肉を食べている玉藻に声をかける。  
「ミル」  
 ゆらり、ではなく、ぱくりとして、  
「クですか?」  
 と返事をしてきた。  
「そう。最近は飲んでないみたいだから」  
「最近は飲み過ぎなんですよぅ。飲み過ぎは太りますよー。玉藻ちゃんはちっちゃい方がかわいいので太りたくないんですよぉ」  
 一番もっともじゃない格好をした少女がもっともなことを言う。  
「ま、まあ、いいけど、いつそんなに飲むの?」  
「それはぁ」  
 ぱくり。  
「ひとしきく」  
 ぱくり。ごく、ごく。  
「んとあ」  
 ぱく。もぐもぐ。  
「つたさ」  
「食べ終わってから話しなさい」  
 ぱく、ぱく、ごく。もぐもぐ、ごく、ぱくぱく。ごく。  
「おかわりください」  
「いい加減食べ終わりなさい」  
「えー」  
「どれくらい食べてる気なの?あなたは」  
「食べたいだけー、ですよぉ?」  
「太るわよ?」  
「……ごちそうさまでしたー」  
 やっと地獄絵図のような食事が終わった。  
「で、いつ飲んでるの?」  
「だからー、ひとしきくんと一会った時にー、ひとしきくんのミルクをいっぱいもらうんですよぉ」  
 いつの間にか名前をしっかりと憶えていた。  
「人識くんって、牧場にでもいるの?」  
「まさかぁ。ひとし」  
 ごくごく。  
「きく」  
 ごく。  
「んの」  
 ごく。  
「いい加減飲むのもやめなさい」  
「お」  
 ごく。  
「……ふぅ。人識くんの?」  
「ちんちんからです」  
「…………はい?」  
 ゆっくり過ぎるせいで聞きまちがえたのだろう。きっとそう。きっと。  
「だからぁ、ひとしきくんのおちんちんからでるミルクですよぉ」  
「ッ……!」  
 吹き出しかけ、口を押さえる。  
 まだ中学生とはいえ、そんな隠喩でも理解できてしまった。  
「すー……、はー……」  
 深呼吸。深呼吸。  
「えっと、あなたは……、その、えっと、あの……そ、そう。あの零崎と性交関係にあるの?」  
「せーこーってなんですかー?」  
「せ、せせ」  
「せ?」  
「せっくす……したかって…………ことよ」  
「たくさんしましたけど」  
「うー……」  
 火が出るほど顔を赤くして、子萩が机に突っ伏す。  
 
 
 長い長い夜は、まだ終わりのかけらも見えない。  
 
 
 
 
 携帯から、着信音が鳴った。また、あの人だ。  
 しかし、今回はわたしがまいた種だから仕方がない。  
 
 
Re:ミルク  
 
……そうか。  
今度人識に会った時にぎったんぎったんのけちょんけちょんにしとくよ。  
ところで、子萩ちゃんはミルクを飲んだことがあるのかな?  
よければ私のミルクなんかはいかがな?  
いや、それよりも君のミルクを飲んでみたいと思うんだけど。  
 
 
「玉藻。今すぐ双識さんを殺して来てください。終わったら人識くんといくらでもしてきていいから」  
「……いってきまーす」  
 馬鹿ばかりで頭を抱えながら、玉藻に期待を込めた。  
 
 
 
 
「で?そのぼろ切れチビがどうしたって?」  
『可愛いからと飴をあげようとしたら、いきなり斬りかかって来たんだよ。まあ、そこは私、双識の逃げ足には敵わなかったらしく、どこにも見当たらないけどね』  
「敵前逃亡は零崎としてどうなんだよ」  
『私は可愛い女の子は殺さない主義だから仕方がないさ』  
 このロリコンが。  
 刺青をした少年が心の中で毒づくのと同じタイミングに、チャイムの音が室内に響いた。  
「あ?わりぃ。ちょっと来客みたいだわ」  
『追っ払えばいいじゃないか。兄と来客のどちらが大事なんだい?』  
「来客に決まってるだろ」  
 電話の子機を頬と肩で挟んで、玄関まで行く。除き穴などついていないため、チェーンをつけたまま開けて確認する。  
「誰だー?」  
「ひとしきくん。きました」  
「…………切るぞ兄貴」『ど、どうしてだい?まさか女とか言わな――――ああ、そうだ。君はどこかの女の子をたらしこんで、お口で奉仕させてるそうじゃないか!そんなのは兄である私が許しても、兄である私は許さな――――ツー、ツー』  
 電話を切り、音量を最低にする。そうしなければ、止まらない音のために殺す回数が増えそうだからだ。  
「……と。悪い。今開けるわ」  
 ガチャリと玩具じみた音をさせてチェーンを外す。ドアを開け放すと、べたーっと抱き付かれた。  
「あー。今日はどうしたんだ?」  
「ふたしきさんとか言う人を殺せって言われて、命令じゃなかったんで逃げられてからここにきました」  
「…………お前が兄貴とか」  
 縁はどこにでもあると、未来には狐の面を被る男は言うのだろう。  
「そんなことよりぎゅーしてください」  
「はいはい」  
 ぎゅー。  
 そんな擬音を口に出しながら、小さな体を抱き締める。  
「おふろにー、はいろ?」  
「沸かしてねぇよ。……ま、今から入れればいいだけだかな」  
 抱き締めたまま玄関を閉じる。  
「キスー」  
「わがままだな、ホント」  
「キスしたいけど、だめ?」  
「良いに決まってるだろ、馬鹿」  
 長く長く唇を合わせて、離すだけの動作を、三十分は繰り返した。  
 
「で、なんでこんな日に来たんだ?」  
 ソファーに腰掛ける。玉藻は俺の膝の上だ。  
 髪をドライヤーで乾かしてやりながら、玉藻に聞いた。  
「先輩が遊びに行っていいといったので、きました」  
「……まあ、いいけどな」  
 だからといって、本当に来るのはお前だけだとは言わないでおく。  
「かわいい女の子が遊びにきたんだから、もっとよろこんだらどうですかぁ?」  
「誠心誠意よろこんでるさ」  
 傑作だがな、俺がそんなことでよろこぶなんて。  
「じゃあ、そろそろ寝るか」  
「えっちなことはしないんですかぁ?」  
「お前を相手してたら、腎虚になる」  
「じんきょ?」  
「疲れが溜まった状態だ」  
「いっしょ」  
 あくび。かわいらしく。  
 口許に手を当てて、少しの声が漏れたのを聞く。  
「うけんめいに腰ふ」  
 目を擦る。グーで。  
 小学生というより幼稚園児のような仕草。  
「るから、疲れるんだと思います」  
「振らせるのは誰だ。それに眠そうじゃねぇか」  
「すいみんよりえっちの方がだいじだと思ったり」  
「寝ろ」  
「ひとしきくんと、いちゃいちゃするのが、だいじでだいすき」  
「起きたらしてやるから寝ろ」  
「はぁい……」  
 おとがいが落ちて、体重を俺の体に預けられる。  
「おやすみなさ……い」  
「おやすみ」  
 白いYシャツ――俺の学校に着ていっているもの――に、ノンプリントのパンツ。理想的な長さの脚がだらりと伸びていた。  
「もう少し貞操観念あった方がいいと思うがな」  
 一度ソファーに玉藻を移して、それから抱き上げる。  
「おやすみ、玉藻」  
 らしくもなく唇を合わせて、ベッドへと連れて行った。  
 
 
 
 皿をナイフで傷つけられたら困るので、切った状態で料理を出す。  
 とは言ってもトンカツだから、もとから切れてるんだが。  
「もぐもぐ」  
 口に放り込んでは噛まずに飲み込むのを見せつけられる。  
「もぐもぐ」  
 付け合わせのキャベツは俺の皿に移された。  
「もぐ」  
 俺の皿からトンカツが徐々に減っていく。減ったものはというと、玉藻の胃の中で泳いでいるのだろう。  
「ごちそうさまでした」  
「…………あ、あ。おそまつ、さま」  
 仕方がなくキャベツにソースをかけて、それをおかずにご飯を頬張る。  
「……」  
 甘い。いや、キャベツやソースじゃなく、俺が。何故か、この玉藻に。  
「あ」  
「ん?」  
 手が伸びてきた。トンカツの衣が指についてる。  
「ご飯……つぶ」  
 頬の辺りを触られる。離れた手は、そして細い指は、口へと向かった。  
「もぐもぐ」  
 無気力そうな顔が、少しほころんでいた。  
 いや、家に来た時点でほころんでいたのだから、少しじゃないのかも知れないが。  
「戯言だ、まったく」  
 何故か口をついたのは、そんな言葉。初めて言ったはずなのに、馴染むのは何故だろうか。  
「キャベ」  
 間。すでにこの話し方には慣れた。  
「ツ、おいしいですかぁ?」  
「さあな」  
 機械的に口にいれ、噛んで、飲む。キャベツだ。味は。まさにキャベツ。  
「すこしたべてもいい?」  
「勝手にしろ」  
 無視して食べる。無駄にキャベツが多い。  
 玉藻が立ち上がる。トイレかなんかだろう、揺れながら歩く。  
 
 
 唇がふさがれて、舌が入り込んだのは二秒後だ。  
「あむ……むにゅ」  
 噛むのをやめる。舌が中で動くのが気持ち悪かったが、我慢した。  
「んっ」  
 傑作だ。こんなちびっこいのに口の中を許している。なぜ許しているのかもわからないけど、抵抗しようと思えない。  
「んう…………」  
 唇が離れる。キャベツが口内でかき回されて、喉の奥に当たって痛い。  
「おいしくない…………」  
 玉藻はそう言いながらも咀嚼する。  
 俺はぼーっとしながら、残ったキャベツをただただ眺めた。  
 
 
 
 
「そういえば」  
「あん?」  
 シャカシャカとシャンプーを泡立てる。服からは想像もつかないほど綺麗な髪が手の中で踊った。  
「ふるやりず……きゅん……?」  
「また可愛らしい言葉だな」  
「そんななまえのおじいさんにナイフをつくってもらったことがあったんだけど」  
「ああ。で?そのナイフがどうした」  
「ここに来るとちゅうにおとしちゃった」  
 ナイフを?あ?まさか、こいつはナイフなんてものを落としたというのか?  
「どこでだ」  
「ごみすて場」  
「明らかに捨ててるだろ馬鹿が」  
 こいつに真っ当な考えを求めたのが間違いだった。  
 
 それにしても真っ当か。本当に、俺からすれば、あまりに傑作な言葉だ。  
「ひとしきくん?」  
「ん?」  
「おちんちんあたってる」  
「…………」  
 ほら、このとおり。真っ当などはどこにあるんだろうか。  
「えっち、する?」  
「あー…………。しねぇよ」  
 形だけ考えたフリをする。  
「玉藻のいやらしいおまんこに、いっぱい精液そそぐ?」  
「…………ちょっと待て。お前はどこでそんな言葉覚えたんだよ」  
「ひとしきくんのビデオ」  
 ……俺、そんなビデオ持ってたっけ。  
 
 
「そういえば人識くんは、私が置いておいたビデオは見たのかな。やっぱりあの年頃は性欲が強いからなぁ」  
 針金細工がそう言いながら笑ったかは定かではない。  
 
 
「する?」  
「してぇならしたいってはっきり言えよ」  
「…………先にあがるね」  
 ざぁぁ。  
 浴槽から湯をすくい、頭からかける。そんな動作を三回ほど繰り返すと、玉藻は浴室から出ていった。  
 軽く振り向いた時に、不機嫌そうな顔を残して。  
「なんだってんだ、まったく」  
 俺はゆっくりと湯につかることにした。  
 
 
「どうしたんだ?」  
 風呂から上がり、椅子に座っていた玉藻を後ろから抱き締める。あまりにらしくない。傑作の5乗でも足りないぐらいだ。  
「ひとしきくんは、あたしのこと、どうでもいいんでしょ?」  
「そんなことないが」  
「でも、ひとしきくんは、ずっとあたしを抱いてくれないし、こうやって遊びに来てもうれしそうじゃないし」  
「そんなことないがな。うれしいぜ?」  
 くだらない。そう思う。だが、だ。それでも、うれしいとは、思う。  
「抱かないのだって、子供できるのが心配だからだしな」  
 避妊させてくれねーし、こいつは。コンドームに穴開ける奴を初めて見た。見る機会は皆無なんだろうが。  
「ひとしきくんは子供ほしくないの?」  
「年齢考えろ馬鹿。俺もお前も育てれねぇだろ」  
「ほしくないの?」  
「…………かわいそうだろ、さすがに」  
 俺みたいなのが産まれても、困るしな。  
「じゃあ、今度からピルもらってくるね」  
「もらえるかどうかというともらえないだろ」  
「奪ってくるね」  
「言い直すな」  
 さてと。じゃあ、そろそろ声をかけるか。  
「で、お前はどうしてそこにいるんだ――――出夢」  
 振り向いて、奴に声をかける。拘束衣を着た、奴に。  
「久々にバトろうと思って、妹に散々調べさせたんだよ。ひゃー、まるでストーカー。こんなかわいい子に思われて、零崎ったらしあわせものだねー、ぎゃはは」  
「笑うな。出てけ」  
「彼女との時間だって?おいおいおいおい、こっちは一ヶ月も探したんだぜ?そんなちびっちゃいのはほっといて、僕と遊ぼうぜ。勝ったら特別に、そこのよりもすごいことしてやるからさー」  
「黙れ」  
 本気で睨む。こいつに邪魔されるのは二度目だ。  
 流石に――――殺したらなくなる。  
「なんだいなんだい。ご執心じゃねーの。バカみてえ。やる気失せた」  
 背を向けて、部屋から出――――  
「るわけないじゃねーの」  
 バックステップ。腕が迫る。  
「負けでいいから消えろ」  
 ぴたりと止まる。ピエロか。  
「本気でやる気ないのか?まさか」  
「当たり前だろ。こっちは人殺しなんか楽しくないんだ」  
 本当に、心底、戯言。人殺しが、人を殺さないなんて。  
「ひとしきくん?」  
「なんだ?」  
「するなら、待ってるからしてきたら?」  
「いい。お前の方が大事だ」  
「つまんない奴だなまったく。こんな時に殺してもつまんないから、今日は引いてやんよ。だから、ラりるだけ腰打ち付けてろバーカ。ぎゃは」  
 声に力が無い。無視されるのがそんなに堪えたんだろうか。  
「ひとしきくん」  
「なんだ?」  
「だいすき」  
「ああ」  
 寂しそうに出ていく出夢を見ながら、俺らはそんな言葉を交わした。  
 
 
「ひとしきくん、キス」  
「はいはい」  
 顎を掴んで後ろを向かせる。やっとふたりっき――――  
 ガチャ……、リ。  
「あん?」  
 ドアの開いた音がしたが……。  
「あ、あのー、うちの兄貴がこちらに来たかと思うんですけど…………」  
 振り向く。そこには、寂しそうに出ていったはずの出夢がいた。  
「……消えろって言ったよな?」  
「へ?え、なにかしました?え?え?」  
 無視されたのがそんなに堪えたのか、こいつは。話し口調まで変わってやがる。  
「いや、出夢の妹で、兄貴を探してて、たぶんここじゃなかいかって思って」  
「言い訳はいい。黙れ」  
 立上がり、袖を降る。ナイフが飛び出す。  
「え?ま、まさか、それでずばーっとかしないですよね?」  
「する。消えないなら」  
「し、失礼しましたー!!」  
 ダッダッ、バタンッ。ただし転んだ音みたいな。  
「痛い……。ごめんなさい、立つの手伝……」  
 ナイフを降る。  
「ヒッ……!?」  
 芋虫のように這って出ていく出夢。清々した、本気で。  
「じゃ、続きと」  
 今度は玉藻の前に立つ。顎を持ち上げて、軽く唇を咥えこむ。  
「ん……」  
 玉藻は目を閉じている。意外なほど、こいつは乙女だ。見た目に似合わず。  
「あむ……」  
 舌を中に差し入れる。喉を鳴らすと、舌をおずおずと絡めてくるのが可愛らしい。  
「ん、ん……、んむ」  
 にしても、うまいな、こいつの口の中。もう少し味わっとくか。  
「んっく、んんんー!!」  
 体が震えてきてるな。感じてるのか、一丁前に。  
「ん、ん、ん、ん……ぷはっ」  
 口を解放してやると、盛大に息をし始めた。にしても、一瞬口から唾液の糸が引いてたけど、妙にエロいなまったく。  
「……じゃ、寝るか」  
「え?」  
「ん?どうした?」  
「寝る、の?」  
「寝るだろ。時間も時間だし」  
「…………イジワル」  
 生意気なことを言う口を鳥みたいなキスで軽くふさいでから、抱き抱えてベッドに連れていった。  
 らしくない。まったく、人ってのは変わるもんなんだな。  
 
 
 
 
「ん……あむ」  
 目を開けると、腹の辺りからくちゅくちゅと粘つく音が聞こえてきた。  
 何だかやわい気持ち良さがある。  
「ちゅっ……、おはよ…………、あみゅ、んぐ」  
 玉藻の声。  
「何やってんだお前は」  
「フェラ」  
 体を起こして視線を向けると、丸くなって口に咥えている玉藻が見えた。  
「いや、何で」  
「ひろひきふん、しおわ」  
 じゅるると唾液を啜られる。咥えながら話してくるから、口内が震えて快感が倍増する。  
「はら、すくねひゃうはら」  
 言葉を人語に直す。たぶん、するだけして寝やがったからというところだろう。  
「……五回もしたらそりゃあ、な」  
 拭うことをしない玉藻の膣には、白がこびりついていることだろう。洗ってやらないとな。  
 そんなことを考えていると、玉藻ははち切れそうなモノを吐きだして、唾液やら何やらでぬるぬるしているのを気にせずに、ゆるゆるとしごき始めた。  
「つまんないから、遊んでた」  
「こっちは射精のし過ぎで倒れそうなんだが」  
「看病し……てあげるね」  
 朱のさした頬と手で擦りつける。  
 あ、やばい。イキそうだ。  
「玉藻……、そろそろ出」  
「あむ」  
 咥えられる。瞬間歯が掠り、堪えることなど頭の隅からも吹っ飛ぶ。  
「あ……ぐぅぅ」  
「ん…………、ごくっ」  
 情けない声を出して射精する俺と、出た液体を飲み込む玉藻。  
「は、は……はぁ、はっ」  
 心拍が速いのは、射精のせいなのか、それとも、かいがいしく出したものをすべて飲んだ玉藻を、もっと汚したいと思ったからなのか。  
「でも……」  
 もう、今日はでねぇな…………。  
「ひとしきくん」  
「……なんだ?」  
「お風呂、はいろ」  
「ああ」  
 いいけど、ちょっとだけ、  
「休ましてくれ」  
 
 
「キス」  
 シャワーをかけて泡を流してやっていると、玉藻がそう言ってきた。  
「ちょっと待てよ。全部流してからな」  
 泡が流れて、徐々に肌が露出していく。なんだろう、服を脱がす時みたいな感じだ。  
「まだ?」  
「あー、うるせぇな。してやっから顔よこせ」  
「ん……」  
 鳥が餌をねだるように顔が向けられる。ご丁寧に目をつぶってだ。  
 少し震える唇に、自分の唇を重――――ニガッ!う……、不味い…………。  
「…………したぞ、おら」  
 そういや、口をゆすいでなかったな、こいつは。ってことは、精液の味かよ、今のは。  
「ほら、湯につかれ。風邪ひくぞ」  
 そう急かしながら、、唾を吐きだした。キスが怖くなりそうだ。  
 

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