「…………………………………………」
「…………………………………………」
とある部屋の一室。
背の高い、誰に聞いても美人と言う返答が返って来るであろう抜群の容姿とプロポーションを備えた人類最強と、背の低い、黙っていれば女の子のように可愛い顔の人間失格が揃って沈黙を守っていた。
『あ』
『…………………………………………』
同時に言葉を口にし、そしてまた同時に黙る。
「ヤらしてくれんだよな」
ポツリと、零崎人識が、零す。
「ヤらしてやるとは、言った」
端的に、哀川潤が、返す。
「それでさ、まあその、ちょっとあれだ」
「あ?煮え切らねえな、はっきりしろよ」
「あのさ…………………………動かねーの?」
「人識くん。てめーはアホか?ヤる方が来るんだよ、とっととしろよ」、
「マジで?あんたって何か一旦そうなったらむしろバリバリ襲ってくるようなイメージだったんだけど俺」
思わず身を乗り出し、
「んなこと言ったらそっちだってそうだろうが。いかにも女には慣れてますーみたいなフリしやがって全然じゃねーかむしろ童貞じゃねーか」
べちんとはたかれる。そこそこのダメージだ。
「何でそんなに早口なんだよわけわかんねえよあんたこそ処女だろ」
「一息で言っておいてどの口がホザくむしろ戦るか?」
「図星かよ」
沈黙。
「『童貞』の否定はしないんだな」
沈黙。
「とりあえず、寄るか……」
「まあそりゃ……ここでもうやめて帰りますって、なんか滅茶苦茶情けないししょうがないだろ……」
みんなヘタレて終わろうぜ。
そんな人類最悪の人類最悪な台詞が無駄に蘇る。本当に無駄だ。と言うかあの存在自体無駄でありそして最悪だ消え去ればいいのに。誰がそんなことを思っていたのかはともかく、とりあえずのところ行為は始まった。始まった……はずだ。
「だから何つうの?俺のフィンガーは人間を殺して解して揃えて並べて晒すために存在していたわけであって、人間を愛して良くしてイかせて生ませて増やせてには向かないみたいで……ちゅーならやったことあんだけど」
「あたしだってある。言い訳はいいんだよちんこ握り潰すぞ。とりあえず、痛いから」
痛覚あったのかこの人。
「その……悪い」
「いや……素直に謝られても」
「や、だってあんた処女だし」
「ああそいつはどうも」
赤い人が何故か更に赤かった。人間失格は童貞なりに普通に真剣だった。
恥ずかしい。何故か強烈に気恥ずかしい。これは気恥ずかしさを極めたと言ってもいい。何故こうなったのだろうとかは人類最悪の言葉を思い出すまでもなく今更だが、始まりがあれば、終わりもある。それだけが唯一の救いのはずだった。
いや、救いを求めてしまっている時点でどうかとか言う問題でもあるが。
ぎち。
「っ………」
「………ぁ…」
「……頼むから力抜いてくれよマジいてーよ、つーか指が千切れる本当にあと五秒以内ぐらいにブチっと」
処女な人類最強は下腹部の筋力が並みじゃなかった。何だろう。根本的に、お互い性行為と言うものに向いていないのではないか。そう思わないでもない。
「ぅ――――――やっぱ、このあたりまでにするか?」
「な、情けねー……あんたがそれ言うかよ……いいよ頑張るよ俺」
汗。
この二人にはあまり似合わない液体だったが、じわじわと滲むそれはどうにも隠し様が無かった。
「いやあ、心遣いはありがたいんだけどな。人識くんはマジに生ませて増やせてには向かねーみたいだし」
ただの事実に、童貞少年――実年齢は少年ではないが――の心は深く傷ついたのかもしれなかった。
「……諦めたらそこで試合終了だって、兄貴が口癖のように」
「そらまた気が合いそうなこって。とにかくじゃあアレだ――――ここで終わってサヨナラが情けないんなら、このまま一緒におねんねでもしようぜ。無理すんな、な」
「………………どっちが」
「時には妥協も必要だって」
零崎人識の台詞を遮って哀川潤が言った。
「……………………」
さて。
それから結局どうなったかは知らないが、まあ――
見栄っ張りもほどほどにしないと、いざと言う時に困りますよって話で。