兎吊木垓輔の美術心理学
「これと似たような心理にチラリズムなんてものが存在している。
こちらは見えそうで見えない、需要と供給のアンバランスから生まれる、ソレを良しとするもの。
考えてみれば不思議なものだ。
オタクなどと呼ばれる存在にとって人気の制服といえば制服そのものの可愛さを求めていたものだ。
もしくは脚線美を求めたもの、胸の大きさを強調したもの、そう言った視覚的なものを攻めてきたものが多かった。
ところが時代がたつとメイド喫茶と呼ばれる存在が大きくなり始めた。
こちらはメイドと言う職業が含有する『従順』と言うキーワードにより『征服欲』と言う心理的なものを攻めてきている。
また、メイドは『非日常的』や『服従』と言うキーワードも持ち合わせている。
今の日本人は現実的だ物の見方をする反面、非現実的な物を求めようとする逆説矛盾(パラドックス)を抱えている。
だからこそ、猫耳だとか白スクール水着とかメイド服と言った物に多くの需要が存在している。
需要がある所に供給がされなければ、それはどれだけ需要が少なくとも流行とみなされてしまう。
そして流行に取り残されまいと、興味の無かったものたちが興味を持ち始め、更に需要と供給との差が大きく開くことになる。
タングステンのようなレアメタルや白いタマゴッチの高騰もコレと同じ現象と言える。
勿論、この現象を狙って意図的に供給を減らすケースもある。
さて、これからのオタク御用達の喫茶店はどのように変化するのだろうか。
オーソドックスに昔のようなものに戻るのか、それとも今のように希少性をうたい文句にした物がのさばるのか、
味や値段を追求した店に変化するのか、私にはわからない。
それをふまえて聞こう」
彼は直ぐには言わず、いくらか間を置いて、それから言った。
「君は──」
僕に向かって訊いた。
「────きみは──」
ぼくの脳内をじっくりと、えぐった。
「きみは玖渚友の事が本当は嫌いなんじゃないのかな?」
全然ふまえてなかった。