ピピピッ、ピピピッ、カチリ
午前7時。今日も目覚まし時計の音できっちりと起きる。ここは、アメリカのヒューストン。僕こと櫃内様刻は、ERプログラム生として生活していた。
元々ここの試験受けたのは夜月が受けてみよう、と思っていたからだけど。僕としてはまさかといったところだったが、本当に受ける気だったので驚いた。手のかかる妹だ。
まぁ、僕もためしに受けてみたのだが、出てきた試験問題が難しい上に面白くて、夢中になって没頭してしまったら合格していた。
「ほら、起きろ」
「んんうぅぅぅ…」
僕の同室は妹の夜月。昔から寝起きは悪かったが、こっちに来てからさらに悪化したように思える。仕方がない、いつものように必殺技だ。
ちゅう
「んぅ…もっと…」
くっ、78の必殺技の一つ、「熱烈キッス」が効かないとは。敵は手強い。
…まぁ、毎日してれば耐性もつくというものだろうが。
「…起きないと裸に引ん剥いて放置するぞ」
「んにゃあっ!起きる!起きたんだよお兄ちゃん!」
やっと起きたか。いつもながら夜月を起こすのは大変だ。
「ほら、顔を洗う、歯磨きをする。朝飯食いに行こう」
「うぅ、わかってるよ、お兄ちゃん」
そう言いながら目をしょぼしょぼさせる夜月。そこは日本にいたころから変わらない。
準備完了。
部屋を出て食堂へと行く道すがら。
「やぁやぁやぁやぁこれはこれはおはよう櫃内家のご両人これから朝御飯かい?奇遇だね僕もこれからなんだよ。それはそれとして今日も今日とて仲の良いことだよ。いや僕にも兄がいるが僕はそんなに甘える気にもなれない。
まったく羨ましいのを通り越しさらに呆れるのを通り越して回りまわって羨ましいくらいの兄弟愛だね。あぁ、心配しなくて良いよこれは僕なりの君たちに対する親愛表現なのさ。それくらいわかってくれるだろう二人とも」
相変わらずのマシンガントークだ。その立て板をぶっ壊す程の水量はいったいどこから来る。
「あ、おはようございます、くろねこさん」
「やぁ再度言わせてもらうがおはよう夜月ちゃん今日も君は可愛いねぇ。様刻くんがおもわずシスコンに走るのも納得できるよ、あぁ今度僕のラボに来ないかい?
おいしいお菓子とお茶を用意して待っているよ。あぁ心配しないで良いよ様刻くん?君の可愛い可愛い妹君を誘惑したり手篭めにしたりはしないよそんな心情は少しは無きにしも非ずだが」
「…とりあえずおはよう。それとお前のラボに行くときは僕もついていくからな」
保健室で売春やっていたらしいがこいつは両刀らしい。しかもタチ。しかも人の妹のことをこれ以上なく気に入っている。夜月もそんなに嫌っていない。まったく、頭が痛い。他のことも含めていろいろと問題はあるが。
そんな病院坂黒猫はプログラム生ではなく、れっきとした研究員だ。
テストの問題を盗み見てたりしていたようだが本気で頭は良かったらしい。
「なんだ君も来てくれるのかもちろん歓迎するよ。なんといっても君は僕の愛すべき変態の一人だからね。君たち兄妹ならいつでも大歓迎さ部屋の鍵も渡したいくらいだが一週間ごとにパスワードが変わるというのはなんとも面倒くさいことだと思わないかい?
まぁそのおかげで無用な来客を省けるのだから一概に悪いとは言えないけどね」
「おい、黒猫さんや。僕としてはお前のお喋りに付き合うよりは、早く食堂に入って夜月と朝飯を食べたいんだが」
「そんなことを言わないでおくれ様刻くん。これでもセーブしているのさ。僕が君たちに対して言いたいこと喋りたいこと全て喋ろうと思ったらこれからの人生全てその為だけに使わなければならないほどになっているのを我慢しているんだぜ。
これは我ながら凄いことだと思っているんだ。でもまぁ君の言っていることももっともだし僕としても空腹を感じているから、喋りながら歩こうではないか」
ここの食堂は昼は込むのだが朝はがらんとしている。なんでも、ほとんどの者は朝は部屋で食べるそうだ。
「相変わらずここの食堂は朝はがらんとしてるね。いやそれだからこそ僕がこの食堂で朝御飯を食べることができるのだけど。でもいっそここまでくると清々しいと思わないかい?見てみなよこの広い食堂が僕たちだけで貸切だぜ?
毎朝ながらまったくもってすばらしい現象だと思うのだが。きっとこれは神様が僕にくれたご褒美だと僕は勝手に思っているのだが、二人はいったいどうだい?」
そう。ほとんどの者。言い換えてしまえば僕と夜月と黒猫意外だが。朝は僕たち三人と食堂を切り盛りしている人以外の人物を見たことが無い。おかしいと思うが、ここはER3。いろんな意味でおかしいし、ここではこれが普通なのだろう。
『いただきます』
三人の声が重なり、食事に箸をつける。さすがER3、朝食から和洋中と食べれる。納豆のついた焼き鮭定食。…ここ、本当にアメリカか?
食事の時ばかりは黒猫も静かで、僕たち兄妹は食事の時は喋らない。つまり朝食時は恐ろしく静かだ。
『ごちそうさま』
しばらくしてからの食後の挨拶。やはり習慣なのだろう。住む国が変わってもぬけるものではない。
「さてさて様刻くんと夜月ちゃん。僕の記憶では今日は確か二人とも休みだったと思うがどうだい?幸いなことに僕もオフでね、良ければこれから一緒に過ごさないかい?今日一日という日を僕と共に存分に楽しもうではないか」