二学期末テストの一週間前、僕は戦場ヶ原の家にお邪魔していた。  
文化祭後に行われた実力テスト、その結果があまり芳しくなく、戦場ヶ原に泣きついて勉強を教えてもらっているのだ。  
楽しかった文化祭から一転、地獄のような日々を過ごしてきた。彼女と二人きりで過ごせるのは、まぁ、嬉しかったけど。  
「ゴミ…阿良々木君、勉強中にぼーっとするのは感心しないわよ」  
「いま自分の彼氏を呼ぶにはふさわしくない言葉を吐かなかったか!?」  
「ゴミより美しい阿良々木君、と呼ぼうと思ったのよ。残念ながら噛んでしまったけど」  
「どっちにしろ僕はそんな褒め言葉は受け取れないな!基準が酷すぎる!」  
「わかったわ、訂正しましょう。阿良々…ゴミ」  
「そのものかよ!お前は普通に人の名前を呼べないのか!?」  
なんていうのもお約束で。  
戦場ヶ原は相変わらず感情が読み取れない瞳をこちらに真っ直ぐ向け、薄く笑っている。楽しいらしい。  
こいつがこんな顔を見せてくれるのは珍しくて、僕は戦場ヶ原をまじまじと見つめた。  
 
その直後、戦場ヶ原ひたぎの口から信じられない言葉が放たれた。  
「セックスを、します」  
いきなりのその発言に、僕はただ固まるしかなかった。  
 
その直後、戦場ヶ原はいつぞやと同じように机を乗り越えて僕の眼前に迫ってきた。  
ヤバい、またペンを―――  
そう思い身構えた僕だったが、予想外の事が起きた。  
戦場ヶ原ひたぎは、ペンを持っていなかった。  
…キスされた。  
いくら時代遅れの吸血鬼に血を吸われ、身体能力が著しく向上した僕でもこれには反応できない。  
いや、いまとなっては常人より優れているのは自己治癒能力だけだし、  
自分の彼女のキスを避ける理由もないのだけれども。戦場ヶ原は僕をそのまま押し倒すと、馬乗り状態になった。  
彼女の重みを感じる。  
それは出会った時のような非現実的な重みではなく、普通の人間のようなリアルな重みで。  
いや、それでも軽いんだけど。  
「戦場ヶ原、重いんだけど…」  
「失礼ね、そりゃ阿良々木君の頭と比べたら誰だって重いわよ」  
「僕の脳は人より詰まってないって言いたいのか!?」  
「違うわよ、心外ね。阿良々木君の頭、カラッポじゃない。」  
「自分の彼氏を貶めて楽しいか…?」  
「逆に考えて頂戴。貶める為に彼氏にしたんだって。それに、私は阿良々木君を貶める為には全力を尽すのよ」  
戦場ヶ原はそう言うと、僕の股間に手を伸ばした。  
 
戦場ヶ原は後ろ手のままズボンのチャックを開き、僕のナニを取り出した。  
やけに手際がいい…。  
「…いきなりなにするんだよ」  
「ナニをするのよ。さっきはセックスすると言ったけど、予定変更よ。今回は阿良々木君にご奉仕するだけにするわ」  
「そうですか…」  
戦場ヶ原はこんなこと言っているが、恐らくもとからセックスをしようとは思ってはいなかったのだろう。  
戦場ヶ原ひたぎが負った傷は、そんな簡単に癒えるモノではないのだから。  
「流石に頭が沸騰してしまったら恐いもの」  
「それは物の例えだろ!そんなもんまで読んでるのかお前は!?」  
随分偏った読書遍歴をお持ちらしかった。  
「なんにせよ、今回は阿良々木君の××××をシゴいてあげるからそれで満足して頂戴」  
「××××って言うな!」  
「そこはエクスカリバーに置き換えても良いわ」  
「いい加減変な少女マンガから離れろ!」  
いや、もっと凄い言葉を以前聞いているんだけどさ。  
 
「…うっ」  
会話が途切れた直後、戦場ヶ原の手が上下に動き始めた。  
突然の刺激に体が一瞬硬直したが、快感の波が全身を徐々に解きほぐしてゆく。  
それと同時に、僕のエクスカ…陰茎は、段々と逞しくなっていった。  
 
これは…確かに気持ち良い。気持ち良いんだけどさ…。なんかこう、順序がおかしくないか?  
お互いが未経験のカップルってのは、他にすべきことがあるはずだ。僕たちはどれだけ階段をすっ飛ばしているんだろうか。  
でも、戦場ヶ原にそれを求めるのは酷ってもんだよなぁ…。となるとこうするしかないわけで。  
止まることなく押し寄せる快感に負け、僕の脳はこの状況を肯定する方向に全力疾走していた。  
「でも、なんかくやしい…」  
「『ビクビクッ…!』が抜けてるわよ」  
「そんなのも…読んでるのか…」  
戦場ヶ原、恐るべし。  
わかってしまう僕にも問題はありそうだが。  
そんな会話が続いている間も、戦場ヶ原は手の動きを休ませることをしない。僕の顔を見据えたまま、しなやかに指を這わせる。  
正直、そろそろ限界なんですけど…。  
戦場ヶ原も察したのか、更に手の動きを早める。  
「出しちゃっていいのよ…我慢しないで」  
そう耳元で囁かれた途端、僕の高ぶりは最高潮を迎える。  
「く…せんじょ…はら、だ…すぞ…!」  
ビクビクと痙攣した僕の体から、大量の精液が放たれる。戦場ヶ原はそれを右手で受け止めると、その手の中にある白い液体をまじまじと見つめていた。  
 
「一杯出たわね、気持ち良かった?」  
戦場ヶ原はティッシュで手を拭きながら、淡々と尋ねてくる。  
「ハァ…ハァ…そりゃ…気持ち良かったけど…。なんで…そんなに手慣れてるんだよ?」  
僕が不審に思って聞くと、戦場ヶ原ひたぎは事も無げに言い放った。  
「こんなこともあろうかと、あの子に色々と参考資料を借りていたの。何事も予習は必要よね」  
…僕の事を思ってそこまでしてくれた彼女に対する感謝より、自分の後輩の行く末を憂う気持ちの方が大きくなった。  
一体何処に行こうとしてるんだ、神原駿河。  
とはいえ、戦場ヶ原に感謝の言葉をかけるのもやっぱり大事だ。  
「ありがとうな、戦場ヶ原。でも、そんな無理することないんだぞ?僕はお前がいいって言うまで耐えられるからさ」  
「それは残念ね。口の方も予習していたのだけれど」  
その言葉を聞いて、僕の陰茎はムクムクと再び起き上がり始めた。さっき出したばかりだというのに、なんという回復力。  
そして、戦場ヶ原がそれを見逃す筈も無く。  
「やっぱり、回復力は吸血鬼並ね」  
彼女は、嬉しそうな顔をして、そう言った。  
 

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