「は、はわわわ……。こ、これがアノあららぎさんですか?」  
「人をこれ呼ばわりするな。それに正確には、それは人じゃない」  
「なで肩で夏服姿がちっとも似合わないあららぎさんからは想像もできないのです」  
「……悪かったな」  
「いやいや、これはもちろんホメ言葉ですよ」  
「悪口にしか聞こえないぞ」  
「ええ。もちろんホネ言葉ですよ」  
「どこの国の言葉だよ、それはっ!? やっぱり僕は馬鹿にされてたのか!?」  
「大丈夫です。ホネ国ではバカでも人並みに生きられます」  
「うわ、って事は僕は人並み以下なんだぁ。つーか、馬鹿のレッテルを貼られてるし!」  
「馬と鹿さんに失礼ですね」  
「さらっと酷いこと言われたっ!!」  
「でも、私はあららぎさんを決して見捨てたりしません」  
「そうか、……って待て待て。ちょっといいセリフっぽいけど単にお前が僕のことを馬鹿にして  
るだけだな」  
「……今日もいい天気ですね」  
「その誤魔化し方は3点だな」  
「……今日も脳天気ですね」  
「今、素直にむかついた」  
 
休日。  
僕の嫌いな休日。  
いつものように妹達に起こされるのだとばっかり思っていたが。  
異変を感じて起きたと思ったら、こいつ───八九寺がいた。  
僕のベッドの中に。というか足の間に。  
で、一体何をしていたのか。  
……ってまぁ、この板に書き込んだ時点でだいたいバレてると思うが。  
事もあろうか、この少女は僕の股間を弄ってたというわけだ。  
八九寺真宵。  
小学5年生───外見上は。いや、中身も同じか。  
幽霊が成長するのかどうかは甚だ怪しいし。それこそ眉唾ってもんだ。  
 
で。  
どういうわけか、股間を弄られていた僕は、妙な刺激を感じて目を覚ましたわけだが。  
そこに男の生理が働いた。  
起床とほぼ同時に起こる男の生理。  
───それは、朝勃ち。  
こればっかりは、さすがに吸血鬼の力を持ってしても抑えられないものだと、思う。  
 
異性に股間を見られたことも初めてだし、触られたのも初めてだ。  
その相手が小学5年生の幽霊。  
考えようによっては非常に喜ぶ状況なのかもしれない。  
日本中探してもそんな高校生は僕だけだろう。誓ってもいい。  
 
「それにしても」  
 
八九寺は目を丸くしている。  
 
「初めて見ました。これが男の人のマラなんですね」  
「その言い方は止めろ。そして、どこで覚えたそんな言葉?」  
「太くて硬い……そして、とても熱いです」  
「あのな、八九寺」  
「はい」  
「お前はさっきから普通に握っているが、僕がいつそれを許可したんだ?」  
「あれ? 許可が必要なんですか?」  
「どこの世界に、勝手に触らせる奴がいるんだよ!?」  
「でも、あららぎさんの持ってる本では、勝手に触らせるどころか街中の女性という女性を触手  
で片っ端から手篭めに───」  
「あれは、漫画だからいいんだよ! って何でいつ僕の秘蔵のエロ本を!?」  
「あららぎさんはどうやら変わった性癖をお持ちのようで」  
「そ、そんなことないだろっ! 普通の高校生なら触手に興味を持つはずだ」  
「らめええぇぇぇぇっっ」  
「こ、こいつみさくら語を学習してやがった!! なんて小学生だっ!!」  
「冗談はともかく」  
 
と八九寺は話を戻す。  
くそ。小学生にいいようにあしらわれてるなぁ。  
つーか、冗談だったのか? ホントに?  
 
「許可は必要ないと思います」  
「何故だ?」  
「あららぎさんは童貞ですよね?」  
「…………はい」  
「素人童貞ですか?」  
「…………いいえ」  
「誰にも裸を見せたことがありませんよね?」  
「……………………はい」  
 
何だ、この小学生。  
そういうお前は経験があるのか?  
ちょっとクラスの中で発育が良いからって。  
展開によっては、お仕置きの必要もあるぞ。高校生様を舐めるな。  
 
「戦場ヶ原さんに言いますよ」  
「……ぐっ」  
 
こ、こいつ。  
小学生の分際で僕を脅迫しようと言うのか?  
しかし、そのセリフは僕にとってどの言葉よりも効果がある。  
確かにこの事実が戦場ヶ原に知られたらどうなるのか……いやだ、想像したくもない。  
先日は、初デートを神原と。  
そして、初タッチを八九寺と。  
……死んだかな、僕。しかも小学生に完敗だ。  
 
「大丈夫です。戦場ヶ原さんには言いませんよ」  
「……言わなくてもバレる気がする。あいつ妙に勘が鋭いから」  
「ま、その時はその時です」  
「見捨てた!! ホネ国は僕を見捨てないんじゃなかったのか!?」  
「何言ってるんですか、あららぎさん。ホネ国なんて存在しませんよ? ちゃんと地図と睨めっ  
こしてください。頭まで怪異ですか?」  
「お前に言われたくねぇよ!! どうでもいいけどさ。八九寺。お前、さっきから僕のこと漢字  
で呼ばないよな」  
「ええ。だって変換されませんから。面倒ですし」  
「面倒って言われちゃった!!」  
「でも、その代わりに噛むこともありませんよ? えーと、あららざさん」  
「平仮名を生かした器用な間違い方をするなっ!!」  
「失礼。噛みました」  
「もはや噛んだというレベルじゃないけどな。明らかにわざとだし」  
 
まぁ、そんな感じで。  
脅迫されたというか仕方ないというか。  
僕の股間は八九寺にいいようにされている。  
小さな手で僕の陰茎を触っている。  
───これはこれで悪くなかった。  
すべすべの肌が皮膚の上を滑るだけでこんなに気持ち良いとは。  
すまん。戦場ヶ原。童貞の僕にはこの程度の快楽に負けてしまいそうだ。  
ふと、ぬるりとした感触が僕を襲った。  
 
「うぉ……」  
 
今まで感じたことのない感触に思わず変な声が出た。  
見れば。  
八九寺が咥えている。  
八九寺の小さな口の中一杯に僕の陰茎が───!!  
 
「ちょ、八九寺、それはマジでやば……っ」  
 
僕の制止も気にせず八九寺は咥えたまま上下にストロークさせた。  
最近の小学生はこんなことまで知ってるのか!?  
恐るべし小学生。  
あぁ、そういえば小学校女子向けの雑誌にそんなやり方が書いてあったような……  
だんだんと遠ざかる意識。  
白い世界が目の前に。  
 
───そして、僕は射精した。八九寺の、小学生の口の中に。  
 
罪悪感はどこかに行ってしまった。  
小学生の幽霊に口でしてもらった高校生も全国で僕一人だろう。  
偏差値でいえば100どころじゃない。自信がある。  
あやうく口だけでは済まなそうな空気に陥りそうだったが、何とか僕の理性がフル稼働した。  
 
「……あららぎさんの甘かったです。病気ですか?」  
「……最初に言うセリフがそれか?」  
「マズかったですか? では仕切り直しです。あららぎさん、ごちそうさまでした」  
「うわ、何か……すげぇ卑猥」  
「あららぎさん、お粗末さまでした」  
「それは断じて違う! 誤解を招くだけで何の益にもならん!」  
「これで私たち二人の秘密ができましたね」  
「……そもそも、お前、何が目的だったんだ?」  
「……え」  
「え、じゃねーよ、え、じゃ。今さら誤魔化すとか無しだぞ」  
「……」  
 
八九寺はしばらく言いづらそうにしていたが、やがて小さな声で。  
 
「……け、毛が生えるんです」  
「は?」  
「だ、だから……毛が、生えて……くるんです」  
 
どうやら八九寺は何かのガセ情報を信じていたらしい。  
こいつ、そのうち納豆とか食べだすかもしれない。  
小学5年生の中では発育が良いとはいえ、八九寺には、その……毛が、生えていないらしい。  
男の精液を飲めば発育が早まって、毛が生えてくるという。  
そして、手近にいた知り合いの男が僕だけだった、と。  
つまりは、そういうことだった。  
馬鹿馬鹿しい。  
しかし、可愛くもある。  
むしろ八九寺には毛があってはいけない気がする。うん。  
八九寺にはこの事は黙っていようと思う。  
そうすることで、また機会が生まれることを期待していなかったというと、ウソになる。  
 
「八九寺」  
「は、はい」  
「また、今度な」  
 
八九寺の顔が、ぱあっと明るくなる。  
くそっ、萌える。  
何て可愛い奴だ!  
 
「はいっ! あらラギさん!」  
「何かラギさんに偶然出くわしたみたいだ!」  
「失礼。噛みました」  
「噛んだ、のか?」  
「紙まみた」  
「えーと、どこからツッコんだらいいかなぁ?」  
「そ、それってセクハラ発言ですねっ?」  
「うりゃーーっ!!」  
「ぎゃーーーっ!!」  
 
 
翌日。  
戦場ヶ原にバレた。  
 

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