「う〜〜、トイレトイレ」  
今トイレを求めて全力失踪しているぼくは、  
大学に通うごく一般的な男性。  
強いて違うところをあげるとすれば、  
周囲に変人が多いってとこかナ──  
名前は×××××、聞こえない?あぁ、放送禁止用語みたいだ。  
 
そんなわけで帰り道にある公園のトイレにやってきたのだ  
 
ふと見るとベンチに一人の狐面の男が座っていた。  
「ウワッ!変な奴……」  
そう思っていると突然その男は僕の見ている目の前で  
狐の仮面をはずしはじめたのだ。  
「 や ら な い か 」  
にやり、と。  
狐面が笑った気がした。  
ぼくは絶句する。絶句する理油がわからないけど、絶句する。  
そういえばこの公園は変人達の集会場があることで有名なところだった。  
狐面の男は続けた。  
「ついて来いよ。やっぱり俺とお前は縁があったってことだ。  
これほどの縁に逆らうのはそりゃお前、無謀って門だぜ。  
運命は受け流すもの、これは基本。  
運命を切り開こうなんてのは傲岸不遜の三乗倍だ──俺たちは運命に流されてるんじゃない、  
運命に流していただいてるんだからな。  
ふん、これだから人生はやめられない……  
どうせこの辺、警察の風紀指導なんざやらねえって  
……」  
「あ、はい……えっと……」  
「迷ってんじゃねーよ。早くついて来い」  
言って狐面の男は先へ先へと歩いていく。  
ぼくはまだはっきりと承諾の返事をしたわけでもないのに、この人、随分とまた強引な人らしい。  
押しの強い人に弱い僕は誘われるままホイホイとトイレについて行っちゃったのだ  
 
彼――  
ちょっとオタっぽい運命論者で西東天と名乗った。  
ホモ・セックスもやりなれているらしくトイレに入るなり素裸にむかれてしまった。  
 
「よかったのかホイホイついてきて、俺は一般人だって何にも考えないで食っちまう人間なんだぜ」  
堂々と偉そうに言われた。  
「こんなこと初めてだけどいいんです…  
僕…西東さんみたいな人が好きなんですから…」  
 
「興が乗ること言ってくれるじゃないか、それじゃあとことんよろこばせてやるからな」  
言葉どおりに彼はすばらしいテクニシャンだった  
僕はというと性器に与えられる快感の波に身を震わせてもだえていた。  
しかし その時予期せぬ出来事が…  
「うっ…! で 出そう」  
「ん?もうか?意外に早いんだな」  
「ち、ちがう…実はさっきから小便がしたかったんです。公園に来たのもそのためで…」  
「そうか…いいこと思いついた。お前、俺のケツの中でションベンしろ」  
「えーっ!?おしりの中へですかァ?」  
「ククク、試してガッテン!何でもためしてみるのさ、きっといい気持ちだぜ。  
ほら遠慮しないで入れてみろよ」  
彼はそういうと素肌にまとった死に装束を脱ぎ捨て、逞しい尻を僕の前につきだした。  
自分の肛門の中に小便をさせるなんてなんて人なんだろう…  
しかし彼の堅くひきしまったヒップを見ているうちにそんな変態じみたことをためしてみたい欲望が…  
「それじゃ…やります…」  
ググっと、彼の肛門の中へ、ぼくの肉棒を押し込んでいく。  
不安と緊張から、思うように進まないが、それでも無事に根元まで格納することができた。  
「は…はいりました…」  
「ああ…つぎはションベンだ」  
「それじゃ出します…」  
締め切っていた蛇口を一気に捻るようにして、それを開放する。  
「いいぞ、腹の中にどんどんはいってくるのがわかる」  
そして全てを出し切るころには、一体ぼいくの身体はどこからワイヤーで吊られているのだろうかと思うくらいの気持ちよさで、放心していた。  
「しっかりケツの穴をしめとかないとな」  
「くうっ!気持ちいい…!」  
この初めての体験はアナリスクでは知ることのなかった絶頂感を僕にもたらした。  
あまりに激しい快感に小便を出しきると同時に僕のペニスは肛門の尿の海の中であっけなく果ててしまった。  
「ああーっ!!」  
「このぶんだとそうとう我慢してたみたいだな。腹ン中がパンパンだ」  
 
「どうしたい」  
「あんまり気持ちよくてこんなことしたの初めてだから」  
「だろうな、俺も初めてだ」  
「……物欲しそうな面だな」  
狐面の男は言う。  
「ところで俺のキンタマを見てみろ、こいつをどう思う?」  
ぼくは迷う。何を答えればいいか。何を言うべきか。  
肉棒。陰茎。ペニス。肉茎。麻生美忍。果てない精力。(以下略)  
くそ。くそ、くそ。考えても考えても考えても考えても考えても解答が導き出せない。  
この場における最適の応答なんて、さっきの狐面の男のように的確には出てこない。  
曖昧で、どうでもいいような解答事項しか浮かんでこない。  
ああ……畜生、なんて大きい息子なんだ。  
すごく──  
「すごく…」  
ぼくは、、言った。  
「凄く……大きいです」  
「でかいのはいいからさ、このままじゃおさまりがつかないんだよな」  
「あっ…」  
ぼくの解答なんてどうでも良かったらしい。  
「こんどは俺のばんだろ?」  
「ああっ!!」  
「いいぞ…よくしまって吸いついてきやがる…!」  
「出…出る…」  
「なんだァ?今出したばかりなのにまた出すってのか?精力絶倫なんだな」  
「ちっ、ちがう…!!」  
「なにイ?こんどはウンコォ?お前俺を天吹とまちがえてんじゃねえのか!?」  
「しーましェーン」  
「しょうがねえなあ、いいよ、いいよ。  
俺が栓しといてやるからこのまま出しちまえ。  
クソまみれでやりまくるのもいいかもしれないしな!」  
「えーーっ!?」  
──と  
こんなわけで僕の初めてのハッテン場体験は  
クソミソな結果に終わったのでした…  
 
 
「本気でこれを掲載したのか?」  
ぼくの質問に奈波は静かに首肯した。  
なんてことだ。  
悪い夢なら──どうか、冷めてくれ。  
「じゃあ──そろそろ戸籍も変わる、俺の敵に──俺の嫁に、最初のお願いをすることにするか」  
狐面の男は──ものすごく事務的に言った。  
「聞こえるか……俺の可愛い花嫁  
 ──好きにする」  
それが──終わりの合図だった。  
幼稚な狐の面が──払われる。  
浴衣が──引き千切られる。  
そして、  
その腕が、  
ぼくと、  
ぼくの股間に伸びた。  
「あ……ああああああああああああっ!!」  
ぼくは──絶叫した。  
声の続く限り──絶叫した。  
そして、ようやく、理解した。  
終わってなかったということを。  
ずっと続いていたんだということを。  
そして──  
そして、これからの情景は、  
続きようのないほどに、終わっている。  
これが──終わりだ。  
世界の終わり──  
物語の終わりだ。  
続きがないから、終わり。  
それを、心底、理解した。  
 
それこそは最悪なる遊び人。  
鎖縛の狐、西東天。  
 
 

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