そこは薄暗い部屋だった。  
 酷く生活感が欠け、むしろそれを奪うかのような空気。  
 そこはまさしく、一般に拷問部屋と呼ばれる部屋だった。  
 そして異様なのは、何よりもそこの登場人物。  
 中央で気絶している少女と、それを囲む二人の少女。どち  
らもこのような部屋には似つかわしくない風貌だった。  
「起きろ」  
「起きろ」  
 二人の少女が声を揃えながら、中央の少女に声をかけた。  
「うぅ……んん……?」  
 その声に意識を少女……古槍頭巾は、意識を覚醒させた。  
「起きたか、裏切り者」  
「起きたか、裏切り者」  
「……? あ、あれ……私……え!? な、何これ!?」  
 そしてここに来て、ようやく頭巾は自らの置かれた状況の  
異様さに気づく。何故なら彼女の両腕は、天井から垂れ下が  
る鎖によって拘束されているのだ。  
「ちょ、何よこれ!? っていうか貴方達だれっ!?」  
「《十三階段》の九段目、澪標深空」  
「《十三階段》の十段目、澪標高海」  
「じゅ……《十三階段》……? な、なら何で……痛っ!」  
 頭巾が言葉を続けようとしたその時、二人の手が彼女の顔を  
交差した。その手には、とても小さな―――それでいて、確実に  
傷をつけるための―――鞭が握られていた。  
「っ!? な、なななな、なにをっ……痛っ!」  
「黙れ、裏切り者」  
「黙れ、裏切り者」  
 ただそう告げると、二人はその鞭を左右対称になるように乱舞  
させた。みるみる内に、頭巾の顔に赤い傷が出来上がってゆく。  
本来顔を守るべきその手は、拘束されているために一切の抵抗が  
出来ない。  
(な……何!? 何なの!?)  
 まるで状況も分からない頭巾に出来ることは、ただ歯を食いしば  
り、その痛みと恐怖に耐えることだけだった。それでもなお、お構  
い無しにと二人の鞭は降り注いだ。そしてそれは次第に顔から首。  
そして……、  
 
「うぁっ!?」  
 頭巾の口から今までとは違う種の悲鳴が上がる。二人の鞭が、彼  
女の胸のふくらみを捕らえたのだ。  
「どうした、裏切り者」  
「どうした、裏切り者」  
「あぐっ!? うぁっ! そ、そこはやめっ……うあぁぁっ!!」  
 まるでその反応を楽しむかのように、二人の鞭はそこを刺激し続  
けた。いくら服越しとはいえ、その鞭はあまりにも強烈過ぎた。そ  
して次第に、その僅かな服という防壁も鞭によって崩されようとし  
ていた。  
「……む」  
「……む」  
「……? ……あ!? や、やだ!」  
 ふと、二人の鞭が止まる。頭巾がそこを見ると、決して小さくはな  
い二つのふくらみが露出していた。  
「や、やだっ……み、見ないでよ……」  
 同姓の為、そこまでの羞恥心は無いものの、やはり恥ずかしいもの  
は恥ずかしいらしく、俯きながら顔を赤らめていった。  
「綺麗な、肌だ」  
「綺麗な、肌だ」  
「……え? ……ひぅっ!?」  
 予想だにしない言葉に、顔を上げる頭巾。だが彼女を待っていたの  
は、またしても鞭の洗礼だった。  
「裏切り者のくせに、生意気だ」  
「裏切り者のくせに、生意気だ」  
「あっ……あひっ……や、やめっ……ふぁっ……!?」  
 二人の鞭が容赦なくふくらみを襲った。先ほどまでの痛みが、今度  
は直に伝わってくる。それはあまりにも、強烈な刺激だった。  
「やっ……む、胸はっ……ひぃっ……さ、先はっ……!?」  
 そう暫くとしない内に、そのふくらみにも顔と同様うっすらと赤い傷  
が出来始めてきた。そしてそこをなぞるかの如く、鞭は続いた。  
 そして……その『変化』は、訪れた。  
「ひぅ……うぅ……うぁっ!?」  
 突然、今までとは違う感覚が全身に流れた。先ほどまでと同じ鞭に  
もかかわらず、全く新しい痛みが駆け巡ったのだ。そしてそれは、む  
しろ痛みなどではなく……、  
(そ……そんな……!? か……感じてる!?)  
 快楽。悦び。このような言葉に分類される感覚だった。その感覚  
は強烈で、意識したのをきっかけに、痛みが次々とそれに変わってい  
った。  
 
「あぅ……あ……あひぃ!」  
「効いて来たか?」  
「効いて来たか?」  
(……っ?)  
 次々と襲い来る快楽でぼんやりとした意識の中、頭巾は二人の聞い  
ていた。  
「流石狐さん、凄い効き目だ」  
「流石狐さん、凄い効き目だ」  
「き、効き……目……? ひぅっ! ……な、何を」  
「お前には関係ない」  
「お前には関係ない」  
「ひぁぁぁぁぁっ!!」  
 口を挟まれたのが気に入らなかったらしく、一際大きな一撃が、的  
確にその先端を捉えた。そして、ようやく鞭の洗礼が終わる。  
「……はぁ……ぁ……はぁ……」  
「何を黙っている、裏切り者」  
「何を黙っている、裏切り者」  
 頭巾はその霞のかかった意識で考えていた。先ほどの発言、『凄い  
効き目』について。  
(効き目って……ことは……やっぱ……はぁ……アレなのかなぁ……)  
 いくら高校生とはいえ、聞いたことはある。その効果で、体の性感  
を一気に引き上げる、そういった類の薬が存在することは。  
「こっちを向け、裏切り者」  
「こっちを向け、裏切り者」  
「んぁ」  
 二人がが鎖に向けて、いつの間にか刃を握っていた手を一閃させた。  
頭巾の体がどさり、と音を立てて崩れ落ちる。  
「……? ……ゆ……許して……くれる……の……?」  
 呼吸を整えながら、恐る恐る頭巾が尋ねると、二人が答えた。  
「何を勘違いしている」  
「何を勘違いしている」  
「……ぇ?」  
「これからが始まりだ」  
「これからが始まりだ」  
 二人がある方向を指差す。頭巾がそこを目で追うと……、  
「……? ……あ……あぁ……あぁぁぁぁ!?」  
 頭巾の顔が恐怖で振るえ、そして引きつり、絶叫が響き渡る。  
 そこには、蝋燭があった。  
 そこには、首輪があった。  
 そこには、椅子があった。  
 そこには、木馬があった。  
 そこには、用途さえ分からない、禍々しい『何か』があった。  
 そして。  
 そしてそこには、古槍頭巾の心を壊すだけの光景があった。  
 

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