あらすじ(公式webより抜粋)
メイウー・メイイェン姉妹の故郷である上海付近を飛行するオケアノス。
同じ頃、キョウは舞浜南高校のプールで、前回の戦闘終了後にゼーガペイン・アルティールから降りた際、自分の手首が消えた理由について考えていた。
そして、「ゼーガペインの戦闘はリアルなヴァーチャルゲームだった」という結論に到達し、飛び込み台からダイブしたとたん、額にセレブアイコンが出現して、
キョウはオケアノスへと転送されてしまう。
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「ありえねーーーーーーっっ!!」
キョウは絶叫しながら、非日常の大空にダイブした。
自分が飛び込んだはずのプールはなぜか底が抜けていて、こんな上空高く放り出された。
おかしい。
異常だ。
だがそんなことを考えている場合ではなかった。
落下する彼の眼下には巨大な空中戦艦があり、今まさにその強固な壁面へと叩きつけられようとしていたのだから。
どさっ!
「いてててっ!! なんだあ?」
あの高さから落下した割に、この程度の痛みで済んでいるのを不思議に思い至らないまま、痛む身体をさすりつつあたりを見渡す。
「あ・・・ゼーガペイン」
彼がバーチャルゲームの中で駆る巨大な機体、ゼーガペイン・アルティールがそこにそびえていた。
「って、なんで俺、こっちにきちまったんだ?」
ここはどうやら、ゲーム内のバーチャル空間、ゼーガペインの格納庫のようだ。
いつもは、アルティールのウィザード(副操縦士・制御者)であるシズノから誘(いざな)われることでゲームに参加していたのだが、なぜか今日は一人だ。
パートナーの姿はない。
ここは、ゲームの世界だ。本当に良くできている。
だが、こっちはあくまでも作り物。自分がいるべき現実はここではない。、
キョウは、目の前のロボットを見ながら、そんなことを考えていた。そうやって、揺れる自分を無理やりにでも納得させようとしていた。
「うふ、キョウさん、まだセレブアイコンの使い方に慣れてないのですね。転送座標がずれてましたよ?」
そんな女性の声と共に、彼の足下から平面的なホログラムが立ち上がる。
等身大のホログラムは、四角いカードのような背景に制服の女性を映し出した、奇妙なビジュアル。
映し出されたのは、控えめな微笑みを浮かべた、大人しそうな女性。
彼女はこのゲームに登場するAI(人工知能)、つまり、この世界が彼の信じるとおりのゲーム世界であるならば、
NPC(ノンプレーヤーキャラクター)に相当する存在なのだろう。
キョウは、突然の登場に少々驚きながらも、彼女が口にした言葉を自分の中で噛み砕くように応じる。
「アイコン・・・あ、そか、おでこの光るやつ! ・・・え? でも、こんなものいつの間に・・・」
先日、ゲーム中に現れた、額の光るマーク。シズノに言われたとおり、額に精神を集中したときに現れ、操縦していたゼーガペインの性能を引き上げた。
また、シズノに誘(いざな)われ、ゲームの世界に進入するときにも発現していたような気がする。
ならば、このセレブアイコンとやらがプールの飛び込み台から身を投じた自分の額に発現し、水中からこの空間へと自分を運んだのであろう、とも納得できる。
キョウは、自分の身体にいつの間にか備わっていたゲームの機能に僅か一瞬だけいぶかしんだが、すぐにそのこと自体はどうでも良いように感じた。
平面ホログラムの彼女がフォローする言葉を軽く遮って、悩むのを止める。
むしろ、自分の知りたいことをある人物から聞き出すためには、こちらの世界にいる方が都合がいい、と判断したからだ。
「え・・・と、たしか、フォセッタ、だっけ?」
軽く指をさしながら、相手の名前を確かめてみる。それに対して平面ホログラムの彼女は、はい、と、少し控えめな返事をした。
キョウは、そんな彼女の画像に僅か心引かれながらも、思い立った用件を尋ねることにした。
自分の数々の疑問に答えてくれそうな人物、自分をこの世界に誘(いざな)った張本人である、シズノのことだ。彼女も今、この世界に来ているのか、
それを目の前の女性、フォセッタに尋ねてみた。
「ねぇ、シズノ先輩いる?」
「はい、いま会議中ですけど。ご案内します」
そう言って、フォセッタの全身を映し出す平面ホログラムがくるりと反転した。人間が身を翻す動作に相当するそのアクションにキョウは驚きの声を上げそうになる。
普通に話をしている限りとても人工物とは思えない彼女の自然な表情、言葉を、一気にデジタライズしたような落差は彼にとってちょっとしたサプライズであった。
そんなキョウを置いて、フォセッタは目的のブリッジに向かって進み始める。
一瞬呆気にとられていたキョウであったが、案内してくれる彼女に遅れないよう、慌てて後に付いていった。
それほど幅広くもない通路、そこを、一定のスピードで、フォセッタが『歩く』。
平面ホログラムに映し出される彼女の背中を、キョウは奇妙な面もちで眺めながらついて歩く。プールの飛び込み台から直接ここに来た彼は、
競泳用のビキニパンツ一丁の半裸姿だ。機械的な外観の通路と比べて非常に浮いた身なりなのだが、そんなことに気が引けてしまうほど彼の精神は細くない。
そんなことよりも、キョウは、自分の前を『歩く』フォセッタに気を取られていた。
AIである彼女ならば多分、この船の中を一瞬で行き来できるのだろうが、彼を案内するために人間の歩くスピードに合わせて通路を進む。
独特の電子音をさせて彼女の平面ホログラムが通路に現れ、そして消えたかと思うと、数歩先に進んだであろう位置に新たに現れる。
キョウから見える彼女の背中の画像は少しも歩く動作をしていなかったが、もとより少々大人しそうな雰囲気を持つ彼女であったから、似合っていると言えば似合っている。
彼女はAIで。目の前の姿はホログラムで。いかにも人間らしからぬ歩みをするのだが。
それでもキョウは、先ほどのやり取りや今の彼女の後ろ姿に人間臭さのようなものを感じてしまう。
キョウは、そんな彼女に興味を持った。
好奇心がわき始めると、抑えることが出来ずに身体が動いてしまう彼である。自然と足早になり、彼女のホログラムに追いついた。そして彼は、
空中に浮かぶ彼女の背中、その慎ましいお尻の映像に手を差し伸ばしてみた。
「きゃああああああっ!!!」
突然の悲鳴にキョウは狼狽した。そして同時に、好奇心に駆られて自分がやってしまったことの意味に気が付いた。
彼は単に、ホログラム画像を手で触ることが出来るのか否か、そのことが確かめたかっただけなのだが、よりによって女性の尻を触るという痴漢的行為に及んでいたのだ。
「ち、ちちち、ちがう!ちーがーうー、そういういみじゃねー・・・・・・です・・・・・・」
確かに彼自身としてはやましい部分はなかったのだろうが、やってしまった行為を客観視すると、どう見ても女性に対して失礼な行為である。
そのことに気が付くと、弁明の語尾も細くなる。
ホログラムを掴める掴めないの検証ならば、ぽん、と肩を叩いてやればそれで良い。
わざわざお尻である必要はない。
キョウは、自分の心にスケベ心があったことを否定できず、しゅんと項垂れてしまった。
「・・・って、人間の女の子だったら反応するんですよね?」
先ほどまでの、悲鳴をあげて悪戯に困惑する女の子、という雰囲気をあっさり中断して、彼女は言った。
くるり、とパネルを翻すようにしてこちらに向き直った彼女は、キョウを非難するような怒りや怯え、そう言った翳りのいっさい無い、笑顔を浮かべていた。
「私、AIですから」
思わず、え、と聞き返すキョウ。先ほどまで彼女に感じていた人間臭さを、彼女本人が否定する。
自分はAIだから、人間の女の子に謝るように恐縮しなくてもいい、人間の女の子が困るような行為でも気にしない、と彼女は言っているのだ。
「退屈されているようでしたら、お天気のお話でもしましょうか?」
フォセッタが言葉を続ける。が、キョウにとってはまったく意味不明の切り返し方だったので、これもどう反応すればよいのかわからない。
その表情を読み取ったのか、フォセッタは自分の言葉を補足する。
「人は、挨拶のかわりにお天気の話をするんですよね?」
これは誤解だ。そう、ツッ込もうとしたキョウだったが、フォセッタがキョウの言葉を待たずに、こう言った。
「こう見えても得意なんですよ? お天気の話」
その言葉とともに作られた彼女の微笑みがあまりにも可愛らしく感じられ、キョウは自分の無粋な突込みを引っ込めることにした。
AIだけど人間臭く、だけれどもAIであるのは間違いなく、それでも人間の女の子に負けない魅力がある。
そんな矛盾に矛盾を重ねた印象に、キョウはますます混乱してしまった。
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「会議はまだ終わらない。あと1時間くらいはかかるでしょう」
「うーん、そうですか・・・」
通路を歩きながら、フォセッタはディータと通信会話していた。ディータはフォセッタと同じくAIで、大人の女性をイメージしたビジュアルに、クールな性格設定が与えられている。
フォセッタを映すパネルの右隅に小さなウィンドウが現れ、そこにディータの上半身が小さく表示されていた。AI同士の電話だと考えればイメージしやすい。
キョウはそんな彼女の背中を眺めながら、聞くとはなしに聞いた内容に、小さく溜息を吐く。どうやらしばらく待たなければいけないようだ。
「キョウさん、どうやらしばらくお待ちいただかないといけないようです」
「ああ。ま、しかたねーか」
こちらはいわばアポ無しで来ているわけだから、こういうこともある。それは仕方のないことだとキョウは諦めた。しばらく時間を潰して待つしかない。
「そうですね、では、お天気の話でも」
「いや、それはいいって」
フォセッタの提案を軽く退ける。
自分の得意な話題をあしらわれて、少ししゅんとしている彼女を見ると罪悪感も湧く。しかし、これから1時間も天気の話題で潰すというのも不毛な気がする。
キョウがそんな風に考えていたところに、急に弾んだフォセッタの声。
「そうだ、良いことを思いつきました♪」
「え? なんだ? いいことって」
「うふふ、それはあとのお楽しみです。さぁ、こちらへどうぞ」
そう言ってフォセッタが、慎ましい笑みを浮かべながら進路を変更、キョウを先導する。お楽しみ・・・ねぇ、などと呟きつつ、彼はフォセッタの後に続いた。
「ここって・・・」
キョウが案内された場所、そこは男性用トイレだった。とまどいを覚えつつも、彼女に促されるまま、個室に入って洋式便器に腰掛ける。
まるで、今まで誰も使ったことのない新品のように綺麗なトイレだった。もちろん今も、他に誰もいない。
「別に今、トイレなんか・・・って、なんでアンタまで入ってきてんの?!」
「直接『接続』してもらう必要があるからです」
キョウの驚きを、今度は彼女が軽くあしらって、個室のドアを閉めた。ぴ、と小さな電子音がしてスライド扉がロックされる。
本来は二人の人間が入るように作られていない狭さの個室だが、フォセッタには厚みがないのでスペースに支障はない。
個室のドアに、まるで等身大ポスターのようにフォセッタの映像が張り付いている。
「キョウさん、セレブアイコン、出せますか?」
フォセッタが、自分の額を指でさし示しながら問いかけてきた。
「せれぶ・・・って、そんなの簡単に出ねぇよ」
「額に意識を集中して、強く念じるようにしてください」
キョウは、フォセッタに言われるまま目をつむり、意識を集中した。すると、キン、という起動音と共に、キョウの額に『セレブアイコン』が現れる。
それを知覚したキョウは目を開けてみたが、アイコンはそのまま発現したままだった。
「おお、出た」
「はい、お上手です。それではそのまま、ここのコネクタに指をあてがってください」
フォセッタは、自分を映しだしている四角い平面の上隅にある、六角のマークを指さした。そのマークは、ゆっくりと明滅して、キョウの『接続』を待っている。
言われるままそこに自分の指を重ねると、強いフラッシュが起こった。
「ッ!!」
あまりの眩さに目を閉じる。
そしてキョウが恐る恐る目を開けたときには、周りの景色が変わっていた。
「ええ?!」
そこは、キョウがここに来るまでいた、学校のプールサイドだった。そこのベンチに腰をかけている水着姿の自分は間違いなくいつもの風景なのだが、何か違和感がある。
「ここは、・・・プール、いや、なんか違うぞ?」
そういって、キョウはベンチから立ち上がり、走り出した。
「あぶない!」
どこからかフォセッタの声が聞こえるのと、走り出したキョウが『何か』にぶつかるのはほぼ同時だった。
跳ね飛ばされたキョウはしりもちをつきながら身体を擦る。
キョウの目の前、ベンチからプールに向かう途中に、見えない壁があった。
「すいません、キョウさん。私が、こっそりと私的に使えるメモリが少ないもので、あまり広いスペースが取れないんですよ」
そう説明する背後のフォセッタに、いまだ理解できていないキョウが詳しい話を聞くべく振り返る。
すると、そこには、『平面でないフォセッタ』がいた。
「え! フォセッタ、おま、あれ?」
ますます混乱するキョウに、フォセッタは少し楽しそうな表情を浮かべながら説明をはじめた。
曰く、ここはフォセッタが即興で組み上げた仮想空間なのだそうだ。
だからキョウたち人間は、彼らの本来の世界とは別に、この空間用の仮肉体を作ってここに来ている、ということになる。
そしてフォセッタ達AIも、この仮想空間用の肉体を作ってここに来ているのだ。
そうすることで、この『箱庭』の中ではキョウとフォセッタも普通の人間のような存在として、互いに触れ合うことが出来るようになるのだ。
ただ、フォセッタに与えられた権限で利用できるリソースでは、人間キャラクター二人分と、せいぜい八畳間程度の空間しか創造することが出来ないため、
先ほどキョウがぶつかったような『壁』が存在する。
つまり、キョウが感じた違和感は、ほとんどの背景が壁に映し出された平面の書き割りでしかないことから感じるものだったのだ。
「は〜、すげえもんだなぁ」
感嘆しながら改めてフォセッタをみる。
彼女は、いつもの制服姿ではなく、清楚な白のワンピース水着で、プールサイドという場面設定に合わせた格好をしている。
そして、水着になれば彼女のプロポーションも明らかになってしまう。
制服の見かけ以上に膨らむバスト。
細くくびれたウェスト。
慎ましく小さな、しかしそれでいてツンと上を向いた形の良いヒップ。
そして、普段よりも活き活きとした笑顔。
いつもの平面画像だけではわからなかった、女性的な体の起伏が新鮮で、ついキョウは彼女を見つめてしまう。
「どうですか? 私のスタイル。ダイエットの成果で、かなり上質のプロポーションを維持しているという設定なのですが」
「あ、ああ、すごく、いいぜ・・・」
問われても、うわのそら気味に答えるキョウ。彼女の顔、そして身体から目が離せない。
「そうですか、気に入ってもらえて、すごく嬉しいです♪」
フォセッタはそれでもその答えが嬉しいらしく、満面の笑みを浮かべた。
キョウは、その笑顔に、強く惹きつけられている自分を意識した。
(相手はただのAIだ、ゲームのNPCだぜ? そんなキャラに、何で俺はトキメいたりしちまってんだよ? ありえねーっ!)
そんな内心の動揺を必死で隠しながら、彼はフォセッタに尋ねた。
「で、なにするんだ? こんなところに俺を連れてきて」
「はい。ここで、キョウさんとセックスしようと思いまして」
「ふ〜ん、そう、セックスね・・・・・・って! セッ!!」
・・・クス、と語尾が小さくなる。その、途切れた言葉を、清楚な女性の姿をしたAIが正しく言い直す。
「セックス、です。キョウさんは初めてですか?」
フォセッタがそう問い掛けるものの、キョウは答えない。いや、答えられない。突然の展開に硬直してしまっている。
その硬直振りをみて、どのように答えを判断したのか、彼女は微笑みながら言った。
「大丈夫ですよ、キョウさん。セックスとはいっても、仮想空間内での疑似体験です。
私の作った空間にあるキョウさんの仮肉体を通じて、キョウさんの脳に快楽信号を送って、擬似的に気持ちよくなる仕組みです」
そう言ってフォセッタはキョウの手を取ると、自分の胸にあてがった。ふにゃり、と柔らかく形を変える胸の感触が、キョウの掌に感じられた。バーチャルであるが、実にリアルな感触だ。
「もし私に気を遣ってらっしゃるのでしたら、お気になさらずに。私、AIですから。キョウさんにとっては、アダルトビデオで自慰するのと同じようなものです」
その、掌の感触の心地よさに逆らえなくなってきたキョウは、ゆっくりと指を動かす。水着に包まれたフォセッタの胸が、柔らかさと適度な弾力を持ってキョウの指遊びに応える。
「キョウさんはまだお若いから、性欲をもてあましていらっしゃるんですよね? ここでならちゃんと触れますよ、私のおしり」
キョウのあいた片手を今度はヒップに導くフォセッタ。彼女を抱きしめてしまうように密着したキョウは、いよいよ観念した。
「ま、いーか。バーチャルだったら、こーゆーのもアリかもなぁ・・・」
誘惑に抵抗することを止めたキョウは、大胆に指を動かし始めた。
「あっ! ああん!!」
突然の強い刺激に、フォセッタはキョウの胸に頬を寄せてしなだれかかる。
「フォセッタも感じるの?」
「人間の女の子と同じような刺激を受け取ることが出来るモジュールを搭載しましたので・・・あふ、人間と同じ様に、感じ、ちゃいます・・・」
フォセッタの声に、だんだんと艶が混ざり始める。彼女が見せる新たな表情に、キョウは最初の戸惑いも忘れ、のめり込み始めた。
「ふあぁ、身体を触られるのって、こんなに気持ち良いことなんですね・・・」
「もしかして、フォセッタも初めて?」
「はい。人間のかたにこのモジュールを使ったのも、はじめて、です・・・」
フォセッタのその言葉に、キョウは心のどこかで安堵した。
「でも安心してください。なにをどうすればいいのか、手順は分かります。こう見えても得意なんですよ? エッチな話」
そして彼女はキョウの首筋にキス、そのまま舌を滑らせて彼の肌をくすぐった。彼の背中に回されたフォセッタの両の手も、優しくさわさわと男の背中を撫で回す。
キョウは、その刺激がくすぐったくて、それでいて心地よいものだから、自分も彼女に同じようにしてやろうと考えた。胸を揉んでいた手を背中に回し、
お互いが深く抱きしめ合うように肌を寄せて、お互いの背中をさすり合った。自分の肌に押しつけられる水着越しの胸の感触も心地よい。
どんどんとペニスに血液が送られ、熱くなっていくのが分かる。
「キョウさんのペニスが反応しています。気持ち良い、んですよね?」
大人しそうな女性の言葉で『ペニス』などと言われると、それだけでもなにやら背徳感がある。
「ああ、結構良いな、こういうのも」
「それじゃあ、もっと気持ちよくして差し上げます」
そう言ってフォセッタは身体を密着させたまま、彼の水着をサポーターごとするりとずり降ろさせた。
「くっ!」
男の敏感な器官が外気にさらされた。それと同時に、フォセッタが自分の腰を彼のペニスに押しつける。水着繊維の肌触りで、若く敏感な器官をゆっくりと擦ってきた。
キョウは短く呻いて、その刺激をこらえる。その様子に気をよくしたのか、フォセッタは押しつける腰を回すようにして、じわじわと男の快感を与えていく。
「なぁ、フォセッタ、もう俺、あんまり我慢できねーよ」
彼女の背中を強く抱いたまま、キョウは熱い息と一緒に弱音を吐く。だが、キョウは自分の状態維持に必死で、フォセッタの息がずいぶん甘くなっているのに気が付かない。
「く、・・・もう、でちまう、・・・ッ!!」
どくっ、どくっ、
キョウのうめきとともに、熱い精液が噴出した。溢れ出すどろどろの液体は、キョウとフォセッタ二人の身体の隙間を埋めるようにして広がり、彼女の水着に染み込んでいく。
「あは、キョウさん、気持ちよかったですか?」
熱く、甘い息を交えた笑みを浮かべながら、フォセッタが言う。
射精のけだるさに脱力したキョウだったが、この段に至ってようやく自分がフォセッタを置き去りにした独り善がりな射精をしてしまったことに気がついた。
「フォセッタ、すまねぇ。俺ばっか勝手に気持ちよくなっちまって」
「いいんですよ、私のことは気にしなくても」
彼女がAIとして応えた言葉に、キョウは強い言葉で否定する。
「いや! 駄目だ、ぜってぇダメだ! こういうのは、お互いが良くならないとダメだろ!? ああっ、バカだぜ、俺ってヤツは!!」
フォセッタは、AIである自分を相手にそんなことまで気にするキョウのことを不思議に思った。もちろん、そういったものも含めて男性としてのプライドなのだろう、
ということは知識として理解できているはずなのだが、それほど融通の利く思考形態ではないらしい。
「ようし、フォセッタ! 次は俺も気合入れるからな! いっしょに気持ちよくなろうぜ!!」
「は、はい・・・」
少し苦笑気味に応じたフォセッタだったが、彼のこのポジティブさには、素直に好感を持った。
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白の水着は清楚で、フォセッタにとても似合っていた。
だが今は、キョウの手によって肩紐を解かれ、二つのふくらみがまろび出ている。
力なく横たわり、編んでいた髪もほどけて床に流れている。
水着は汗で湿り、特に股布の部分は汗以外の液体でじっとりと湿っている。
浅く、速い呼吸が、彼女の動悸の高鳴りを物語っている。
頬は羞恥で赤く染められ、うっすらと閉じられた瞳は視点定まらずに、それでも目の前のキョウを見つめている。
その乱れた姿は、ただの全裸よりも数段いやらしく、とても清楚とはいえない。
だがキョウは素直に、可愛い、綺麗だ、と思った。
「キョウさん・・・本当にお上手です・・・まさか、女の子が、こんなに、気持ちよくなるなんて、思いませんでした・・・」
フォセッタが息を途切れさせながら言葉をつむぐ。彼女の言ったことは、少なからずキョウも驚いていたことだ。
(俺、女の子とエッチするの、初めてのはず、なのに。・・・なのに、昔、女の子を抱いたような記憶が、残ってる?)
奇妙な既視感を覚えるキョウだったが、今は自分のことで悩む時ではないことは自覚している。
目の前の愛らしい女性と、一緒に気持ちよくなる。
そのことだけに集中しなければいけない、と再度自分に言い聞かせた。
「じゃあフォセッタ、つぎ、いくからな?」
「はい・・・」
キョウは、横たわるフォセッタを仰向けにさせ、覆い被さるように身体を重ねていく。
軽く膝を立てて開かれた両足の間に身体を割り込ませる。
「あ・・・キョウさん、私、まだ水着を・・・」
着たままです、とフォセッタは言う。しかしキョウは、先程さんざん行った彼女への愛撫によって自分の興奮も限界まで高められているため、
水着を脱ぐ、という行為が非常にもどかしく感じられてしまう。
「大丈夫、ほら、こうすれば」
キョウは、胸をはだけ乱れた水着の下腹部、股布部分をつまんで伸ばし、横にずらすことで彼女の性器を露出する。
先程の愛撫で、さんざん指でこねられた女陰は、熱気を帯びてほころんでいた。蜜に潤い、こなれ、ほぐされている。
「それじゃ、いれるぜ?」
先程何度も交わした、舌を深く絡める愛撫のキスではない、ちゅ、と触れるだけのキスを合図に、自分の、猛々しくいきり立った怒張を彼女の秘部にあてがう。
ぬるり、とぬめる愛液に包まれた粘膜に亀頭が触れただけで、ぞくぞくする快感信号がキョウの背骨を伝って脳へ駆け上がった。
たったそれだけのことですら射精の引き金になりかねないほど高まっていたキョウだが、そこをぐっとこらえ、フォセッタの媚穴へと自身をめり込ませていった。
「ん! んあっ!! キ、キョウさん、はい、はいって、きましたぁ・・・」
AIのフォセッタが初めて受ける、ペニスの挿入という人間の快楽に、彼女は驚きと嬉しさの混ざった声を上げる。
そして彼女は、キョウの腋から背中に回された両手で、ぎゅっ、としがみつく。
キョウは、ペニスを締め付ける膣の感触に耐えながら、じわじわと腰を送り出していった。
「あああっ、奥に、奥に入ってきます、どうしよう、私、こんな、こんな凄い刺激情報、処理できない!」
「良いんだよ、フォセッタ、なにも考えなくて。ただ俺だけを感じてくれれば、いいんだ」
「はぁっ、はいぃ、」
人間で言うならば、快感のために理性が保てない状態だろう。キョウにとっても、その方が望ましい。快感に乱れるAIというのも見てみたいものだ。
キョウが深く腰を沈めると、ペニス先端がコリコリとした子宮口に突き当たる。
彼は、ペニス根元までの残ったストロークを全部彼女の膣に埋め込んで、その子宮口を強く突き上げた。
「ひゃあああっっ!!!」
身体が揺さぶられるような衝撃に、声を乱して叫ぶフォセッタ。
ぎゅう、と締め付けるフォセッタの膣にキョウも歯を食いしばって耐えた。お互いが、それぞれの性器で与え合う快感の波に激しく揺さぶられる。
「ああッ、キョウさん、だめっ、こんなの、強すぎますっ!!」
顎をキョウの肩に預けるようにして、しっかりと身体を密着させてしがみつくフォセッタ。彼女の艶声を耳元で聞かされて、キョウの情動もますます加速する。
「フォセッタ、いくぞ!?」
キョウは短く宣言して、挿入したペニスのピストンを開始した。
「ああっ!はっ!あっ!!はあっ!あっ!!」
フォセッタは、本来の自分にない肉体の、女性器を通じて送られてくる快楽の電気信号に、あられもなく狂った。
キョウが力任せに腰を叩きつけ、膣壁を擦りながら抜き出すその動きに、抗うことも出来ずにはしたなく善がり声をあげた。
「だめッ!!こんなッ!わた、おか、ひっ!おかしく、なって、しまいますっ!!」
フォセッタに限界が近づいてきたことを、なぜかキョウは感じ取った。まるで女を喜ばせる術に長けた、熟練者のように。
彼女は腕だけで抱きつくのが切なくなり、より強い密着を求めてキョウの腰に足を絡め、完全にしがみつく形になった。
彼は、彼女の限界を自分の限界とシンクロさせるべく、最後の追い込みを開始する。
「やあっ!!ああっ、だめぇっ!こんなの、すごい、だめぇっ!!」
彼女の体の激しい痙攣にあわせて、キョウの肉棒を包む襞(ひだ)の壁もざわざわと蠢き、締め付ける。
その蠢きに、キョウの限界が訪れた。最後の力を込めて、渾身のスパートをかける。暴力的なまでの、激しいピストン。
その強引さに、フォセッタの官能の波も無理やり引き上げられた。
「あっ!ああっ!ああっっ!だめ、だめ、だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「くぅっ!!」
キョウの射精とともにフォセッタも果てた。最大限に膨れ上がった肉棒が、びく、びくんと何度も脈打ち、そのたびに大量の精液をフォセッタの子宮に流し込んだ。
彼女もまた硬直にも似た激しいアクメに至り、キョウの体をしっかりと抱きとめて吐き出される熱い精液を出来る限り奥で受け止めようとしている。
それにしても、ここは仮想空間という実体を伴わないデータだけの世界であるはずなのに、なんと生々しい情交なのか。
射精や膣の動き、子宮が圧迫される感覚など、こんなところまで再現してある仮想の肉体の緻密さにも、キョウは感心する余裕を失っていた。
いや、すでに彼女が人間ではなくAIであるということも失念しはじめているのかもしれない。
同時絶頂のけだるい余韻の中、二人はごく自然に唇を合わせ、舌を絡ませてお互いの唾液で喉を潤した。
そしてキョウは、まだまだ自分が力を失っていないことを把握すると、腕の中の愛らしい女性をふたたび攻め立て始めたのだった。
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「お疲れ様です、キョウさん。いかがでしたか?」
フォセッタの声にあわせて、キョウは目を開けた。
そこは、戦艦オケアノスの、男子トイレ個室の中だった。
キョウとフォセッタは、何度も何度も愛し合ったあと、仮想空間から離脱した。
どうやら仮想空間内では時間の進み方が異なるらしい。向こうで2〜3時間も身体を重ね、いろいろな性戯で楽しんだのだが、こちらでは30分程度の経過でしかないようだ。
「いまから『後始末』をしてブリッジに向かえば、ちょうど良いくらいのタイミングになると思いますよ?」
キョウは、彼女の言う『後始末』の意味を掴み損ねたが、疲労した体を押して立ち上がったとき、その意味を理解した。
競泳用ビキニ水着からはみ出した陰茎の周りには、仮想世界で射精した分と同じだけの精液が溢れていた。
「うへぁ、ありえねぇ・・・」
情けない声を出して脱力するキョウを、フォセッタは小さな笑みを浮かべて見つめていた。
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キョウがトイレの後始末を終え、シャワー室で手際よく身体を洗っている間に、フォセッタは機械を操作して水着の洗濯、乾燥を行った。
すべてを終え、キョウは再び、フォセッタに案内されてブリッジに向かっている。
他愛のない雑談をしていた二人だったが、フォセッタが目的地の傍に来た事を告げた時、キョウは彼女を呼び止めた。
「どうしたんですか?」
首を傾げるフォセッタに、キョウは言いにくそうに口をもごもごと言葉飲み込んだあと、ようやく。
「・・・さっきのやつ、他の男には、させんなよ?」
そんな、子供っぽい言葉をつむいだ。
フォセッタはその言葉に、最初目を丸くして驚いたあと、次第に頬を赤く染め始める。
そして、彼女は恥ずかしそうに身をよじって言葉を選んだあと、キョウに言った。
「・・・わかりました、さっきの仮想肉体と関連モジュールの使用は、キョウさんだけに限定します。・・・それでは、使用許可の本人認証を、ここに、お願いします」
そういってフォセッタは目をつむり、その可憐な唇を差し出した。
キョウは、フォセッタに近寄り、平面ホログラムに映し出される彼女の小さな唇に自分の唇を重ね、アクセスした。
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フォセッタがキョウをブリッジまで案内終えたのは、ちょうど目論んだ時間どおりだった。
しかし、そこには誰もいなかった。
会議補佐をしているディータに連絡をとってみると、議題の難航で会議が長引いているのだという。
「なんだよ、慌てて損しちまったぜぇ。もうちょっと、ゆっくりしてても良かったのにな?」
キョウが、ゲーム中は指揮官役の、シマ生徒会長のものである座席に、どっかと腰を下ろす。
もうすこしだけ、あのまま二人だけのけだるい時間を過ごすのも悪くない、などと、キョウは考え、そして苦笑した。
(相手はAIだ、まさか本気になるわけにもいかないよなぁ)
彼女自身が言うとおり、あくまでも先ほどの行為(いや、仮想空間での話であれば行為ですらない)は、あくまでもゲームのようなもので、ただの自慰でしかない。
しかし、そんな理屈などは脇において、単純に彼女、フォセッタが好きか、と聞かれれば、好き、と答えるに違いない。
あくまでもキョウは、お気に入りのマンガや、愛用のシャープペンシルなどに対する『好き』と同程度の、愛情というよりも愛着に近い感情を持っていた。
先ほどの『契約』も、そんな愛着ゆえの独占欲だ。
おそらく、それで間違いはない。
AIであるフォセッタもそれを望むだろうし、キョウもそれで十分だろう。
「それでは、もう少し、会議が終わるまで、お天気のお話でもしましょうか」
そういって、ほんのりと嬉しそうな色に染めた表情で、明日の天気を語り始めたフォセッタを、まんざらではない気分で眺めるキョウ。
彼は、自分が抱く感情が、いったいどういったものなのか、それ以上深く考えることをやめた。
頭だけで深く悩むなんて自分らしくない、そんな風に思えるからだ。
しかしキョウは、その感情が『愛着』だけで終わりにはならないであろうことを、うすうす感じていたのだった。
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「・・・では次に、二十三日後のお天気です。この日は・・・・・・」
(ありえねぇ・・、いったい、いつまで続くんだ?)
彼女には悪いが、天気の話はだんだん飽きてきた。立ち上がって背伸びをしてみるが、彼女はそんなアクションも気にせず、話を途切れさせることがない。
「キョウ!?」
「シズノ先輩!」
そして、永遠に続くかと思われたフォセッタの天気話は、シズノと、続いてブリッジに現れたシマとミナトによってようやく終了した。
(やれやれ、だぜ・・・・・・)
ほっ、と息をつき苦笑するキョウ。フォセッタには悪いが、何週間も先の天気話はもう勘弁して欲しかった。
苦笑するキョウにだけわかるように、フォセッタが小さく手を振った。そんな彼女を見ていると、キョウの苦笑も照れ笑いへと変わる。
(またね)
(またな)
応じて手を振るキョウに微笑を返し、平面ホログラムの愛らしい女性が、姿を消した。
END
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嘘予告
フォセッタ「あぁ・・・、とうとうキョウさんが真実に触れ始めました。
どちらの世界が虚構で、どちらが現実なのか。自分がいったいなんであるのかを。
そして、これから知ることになる、もっと衝撃的な真実の一端を。
落ち込んでしまったキョウさんに、AIである私はいったい何をしてあげられるのでしょうか?
ナースの衣装はお好きでしょうか。それとも・・・
次回、ゼーガペイン『迷える魂』
消されるな、この想い」
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「ゼーガペインまた見てな! このあとは極楽とんぼのお二人、ヨロシクっ!!」
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