気づいたら自室のベッドで寝ていた。
あの魔法を受けて生きていたのは奇跡だ。
だが、あのまま死んでいた方がよかったのかもしれない。
おぞましい記憶、体内に射出された精液、生々しい傷・・・
周囲にいる侍女や主治医が一歩引いているように見える。
だがそれは仕方のない事だ。
私はもう……汚れた存在なのだから。
シャワーを浴びる事にした。
汚された体を念入りに清めないと頭がおかしくなりそうだった。
だが、洗っても洗っても不浄な烙印は消えない。
「いくら洗ってもよごれた心まではきれいにならないよ…ね。」
すると剃刀がゼルダの目に止まった。
おもむろに剃刀を手に取り、刃先を手首に向ける。
「これで楽になるかな」
手首の上で、すぅっと刃を引く。
「あ…血が……ふふ、血だわ」
剃刀を手がリズミカルに動き、血が噴き出すたびにゼルダは悲痛な歓声をあげた。
シャワールームでの出来事で記憶しているのはここまでだった。
ゼルダ姫…ゼルダ姫!!
…誰かが自分の名前を呼んでいる。
その声は……
「リ…ンク?」
「良かった、意識が戻った!」
「私は…そう、この手首を……」
ゼルダの手首には包帯が巻かれていた。
しかし幸運にも創傷の全てがためらい傷だった。
「湯中りを起こしたんだって? 気をつけなきゃ。 一国の王女なんだから。」
リンクはゼルダが湯中りで倒れたと聞かされた。
一国の王女が自殺未遂というのは、はっきり言うと汚点だ。
そんなものはもみ消さなくてはならない。
上層部はそう考えたらしく、リンクにさえ事実を伏せていた。
裏の動きなど全く知らされていないリンクは、
軽い注意だけして、スキンシップのつもりでゼルダに近づいた
だが、ゼルダは制止した。
「私に近付かないで!!」
できれば会いたくなかった。
こんなに荒んだ自分を見せたくない、それが一番想っている人ならなおさらだ。
「私は汚れた存在なのっ…だから……近付いてはだめ!」
リンクは怪訝な顔をしていた。
「…私は…私はッ!!」
ゼルダはリンクに真実を話すことにした。
ガノンドロフにどんなに酷いことをされたか、そして自殺をしようとまで考えていた事など全てを打ち明けた。
「……分かったでしょう…私がどんなに汚れているかが。」
「だとしても自殺をすることは!」
「ガノンドロフの子を宿す事になるかもしれない、自分が自分ではなくなるかもしれない……あなたには分からない。 この辛さが!」
言葉にすると悲しくなる。
ゼルダは涙を浮かべながらリンクを睨んだ。
「俺に、何かできることはない?」
「今は…一人にして。」
「分かった。 ……また来るよ。」
リンクはさりげなくゼルダの頬を撫で、その場を離れようとした。
不思議だ。
リンク触れられた瞬間、体から負のエネルギーが消えたような気がした。
「待って!」
ゼルダはリンクが部屋から出るのを制止した。
リンクは足を止め、不思議そうにこちらを見た。
「あの…その……もう一度…触れてくださらない?」
まごつきながらやっと出た言葉だった。
リンクは一瞬何のことか分からなそうな顔をしていたが、すぐにゼルダの方へ歩み寄った。
「これでいい?」
そう言ってリンクはゼルダの手を握った。
そう…この感じ。
シャワーでも流れなかったものがリンクは洗い流せた。
「ああ…癒される……」
「あの…ゼルダ姫?」
リンクが顔を赤くしていた。
気付けばゼルダはリンクの腕に頬ずりをしていた。
そんなことされては止めることもできない。 リンクは立ち尽くしていた。
10分くらいだろうか、ゼルダがやっと顔を上げた。
「あれ? ごめんなさい…何やってたんだろう、私。」
今はまだ誰も気付いていない。
ゼルダが無意識のうちにリンクの体を欲するようになっていった事を。