つけられている。  
 しかし、こっちがそれに気づいていることを知られてはならない。  
 リンクは背後に神経を集中させながら、歩調が変わらないよう注意した。  
『炎の精霊石』に続いて『水の精霊石』も無事に手に入れ、ゾーラの里からハイラル城へと、  
平原を横切る最短の経路をとって急ぐ旅の途中だった。いまは三日目の夜。夜通し歩けば、  
夜明けまでにはハイラル城に着けるはずだった。  
 だが、平穏無事というわけにはいかなくなったようだ。  
 リンクはちょうど、道の両側に数本の木が集まった、見通しの悪い所にさしかかっていた。  
すばやく道をそれ、木の陰に隠れる。  
 一分も経たないうちに、リンクが来た方向から足音が聞こえた。  
 二人……いや、三人か……  
 リンクが隠れている木の前を、小走りの足音が通り過ぎた。  
 さらに一分ほど待って、物音がしないのを確かめてから、リンクはそっと道に戻った。  
「あ!」  
 声がした。  
 しまった! やり過ごせていなかった!  
 一人そこに残っていた。かろうじて身体の輪郭が見えるが、風貌まではわからない。  
 剣を鞘から抜く音。つつ……と近づく気配。  
 リンクは落ち着いていた。引きつけておいて、デクの実を放つ。  
「うぁ!」  
 閃光に目をくらまされ、リンクに迫っていた人影は棒立ちになった。光の中にその姿がさらされる。  
 これで数分は目がきかないはずだ。逃げ切れる。  
 が、そうはいかなかった。前方から二人分の足音が聞こえた。先に行った二人が戻ってきたのだ。  
リンクは再び横の木の陰に飛びこんだ。  
 じっとしているわけにはいかない。いまここに隠れたのは悟られているだろう。  
 リンクは腰の袋に手を伸ばした。中身は爆弾。ゴロン刀とともに、ゴロン族の特産品の一つ。  
ゴロンシティを去る時、旅に役立てろと言ってダルニアがくれたものだ。通常の爆弾は持ち歩くには  
重すぎたが、ダルニアは携帯用の小型爆弾をいくつか渡してくれたのだ。  
 目がくらんだ仲間の所まで、二人が戻ってきた。爆弾を取り出し、点火する。わざと音を立てて、  
道とは逆方向へと後ずさる。  
 二人はこちらへ踏みこんできた。ぴったりのタイミングで爆弾が爆発した。  
「あぅッ!」  
「ぐぁッ!」  
 二人分の悲鳴を聞きながら、リンクは木の後ろを回って、離れた所から道に戻った。  
 小型爆弾の威力は小さい。しかし足止めには充分なだけの怪我は負わせられただろう。  
 リンクは走った。背後から追ってくる気配がないことがわかっても、リンクは速度をゆるめず  
走り続けた。  
 なぜ自分が襲われたのか。理由は明らかだ。  
 三つの精霊石。  
 追っ手の正体がわからないうちは、剣を抜きたくなかった。それでデクの実を使ったのだが……  
閃光の中に浮かび上がった姿──女戦士──それはインパに聞いていたゲルド族に違いなかった。  
ガノンドロフが放った刺客だ!  
 それがわかったからには、もう彼女らを相手にしている暇はなかった。  
 ついにガノンドロフが牙を剥いたのだ。一刻も早くハイラル城に戻らなければ。  
『ゼルダ……』  
 心に暗い影が差す。それを振り払うように、無事でいてくれ、と強く念じながら、リンクは  
一散に道を駆けていった。  
 
 ゼルダは湯の中で身を伸ばした。  
 伸ばしてもなお格段の余裕がある、大理石の床に掘られた浴槽。それだけで一つの部屋ほどの  
広さだ。泳ぐことだってできる。三十人は楽に入浴できるであろう、その浴槽につかっているのは、  
いまはゼルダただ一人だった。  
 浴槽の壁側には、熱に強い植物が植わった自然の岩が積まれ、そのすき間から絶え間なく湯が  
浴槽に注いでいる。城の背後の山々に続く活火山、デスマウンテンの恵みによる温泉だ。  
 浴室全体はさらに広く、浴槽の部分の五倍はあった。一方の壁には、浴室には不似合いな、  
横に長い大きな窓があり、曇り止めのガラスを通して戸外に臨んでいる。日中であれば、  
ハイラル平原の雄大な風景を眺めることができた。  
 浴室は城下町をめぐる城壁の最外層に面しており、またかなり高い場所にあって、外からは  
浴室の中が見えないよう、入念に設計されていた。  
 城下の西縁にある王家の別荘はゼルダのお気に入りで、月に一度は訪れることにしていた。  
その最大の理由が、温泉と展望を享受できる、この浴室だった。日が落ちてしまったいまは、  
風景を目にすることはできないが、そのかわり、浴室内の照明を落とせば、無数の星にあふれた  
夜空が見える。  
 だが、いまのゼルダには、夜空を楽しむ心の余裕はなかった。  
 二つの精霊石を求めてリンクが旅立ったあと、ゼルダの生活に変化はなかった。日々は穏やかに  
過ぎていくようにみえた。しかし計画発動による緊張は、常にゼルダを捕らえて離さなかった。  
気晴らしになるかと思って、いつものようにこの別荘を訪れてみたのだが、緊張は去っては  
くれなかった。  
『リンク……』  
 心を占めるのはそのことだった。  
 リンクが城を出発してから、もう三週間近くになる。その間、リンクからは何の連絡もなかった。  
連絡を約束していたわけではないし、また、連絡がないからといって、リンクが危地に陥って  
いると決まったわけでもない。むしろ、リンクの活動が順調に進んでいることを意味するとも  
いえる。が、リンクがいま、どこで何をしているのかがわからない、ということが、大きな心の  
揺れをゼルダにもたらすのだった。  
『待つしかない』  
 そう自分に言い聞かせる。同じ思考を何度も繰り返し、そのつど帰着するのはその一点だった。  
 リンクは、すべての精霊石を手に入れない限り城へは戻るまい、と考えているのだろう。  
それほどの強い意志を持ったリンクであって欲しい、とわたしも思う。感傷的な心の揺れなどに  
捕らわれていてはいけない。  
 それでも……  
 リンクの顔が目に浮かぶ。その衝動で、手が思わず、下へと伸びる。  
 単なる感傷とは異なる、もっと大きな心の揺れを、感じないではいられない。  
 予知。  
 リンクと出会った日の夕刻、リンクと一緒にいた時、予兆の星によって喚起された、あの予知。  
 わたしはそれに従った。後悔はしていない。あれは絶対に必要なことだった。  
 なぜ必要だったのか。インパに言ったように、その理由は、わたしにもわからない。予知は  
そこまで語ってはくれない。けれども、そうしなければならなかったということに、わたしは  
絶対の確信を持っている。  
 それをリンクにさえ告げてはならないということにも。  
『切り札』  
 ゼルダの胸に浮かぶ、一つの言葉。  
 そうなのだ。いつかは切ることになるであろう、切り札なのだ。  
 でも……これは……  
 もっと大きな心の揺れ。  
 これは結局、リンクを手段として用いてしまったことになるのではないか。わたしはリンクを  
信じていないことになるのではないか……  
『違う!』  
 ゼルダは激しく首を振る。  
 わたしは信じている。わたしはリンクを信じている。にもかかわらず、わたしはそれをリンクに  
告げることはできなかったのだ。それもまた、予知の一部であったから。  
 理由があるはずだ。いまはまだわからない、何らかの理由が。  
『いつか、わかる』  
 ゼルダは再度、自分に言い聞かせる。  
 
 いつかリンクにすべてを話せる時がくるだろう。その時までは……  
 そう、リンクが三つの精霊石を手に入れてここへ戻ってきたら、そしてガノンドロフを倒す  
ことができたら、その時こそ、わたしは……  
『リンクに会いたい……』  
 さっきとは違った衝動に突き動かされ、ゼルダの指はそこに触れた。  
 その目的で触れるのは、初めてだった。  
 自分の中で蠢く何か。殻を破って外に出たいと悶える何か。  
 その正体を見極めようと、その衝動に身を任せようと、目蓋を閉じかけた、その時。  
 窓の外に輝く星の光が、ゼルダの網膜に像を結んだ。  
 そこにひときわ大きく光る、あの星は……  
『来る!』  
 予兆の星に刺激された、あの感覚が、一つの概念を生み始める。  
 予知。新たな予知。  
 なぜいまここで?  
 思う間もなく、それは具体的な文言となってゼルダの脳に到達した。  
 
 タダチニ 『トキノおかりな』ヲ りんくニ ワタサネバ ナラナイ  
 
 リンクに? 『時のオカリナ』を?  
 なぜだろう。わからない。でも、わたしの予知は、はずれたことがない。それに……  
「直ちに」  
 この切迫した言葉の意味は何だろう。それは……  
『危険!』  
 間近に迫るそれを、ゼルダは感得した。  
 一刻の猶予もならない。  
 ゼルダは瞬時に行動した。浴槽から飛び出し、浴室から脱衣所に走り出、身体も拭かず、何も  
身につけないままで、隣の部屋へと駆けこんだ。  
 城の中であれば、入浴中でも複数の侍女が控えている。しかしこの別荘へは、特にお気に入りの  
侍女を一人連れてきただけだ。そして自らの入浴中、ゼルダは彼女に数刻の暇を与えていた。  
部屋には誰もいない。  
 ゼルダは荷物の中にひそませた『時のオカリナ』を手に取った。リンクが出発して以来、常に  
肌身離さず持ち歩くようにしており、今日も別荘まで持参してきたのだ。  
 それをリンクに渡す意味を、すでにゼルダは理解していた。  
 全身が濡れていることに初めて気づき、近くのソファの布ですばやく手をぬぐう。文机の  
引き出しから紙を取り出し、机の上にあったペンを持つ。  
 リンクに何を知らせなければならないか。  
 ゼルダは全速力で頭を回転させ、必要な情報ともに、リンクへの呼びかけを走り書きで  
したためていった。  
 書き終わると、その手紙と『時のオカリナ』を持って、ゼルダは脱衣所へと戻った。部屋との  
間のドアに鍵をかけることを忘れなかった。  
 身体を拭きながら、ゼルダの頭は次の課題を追った。  
 どうやってリンクに渡せばよいか。  
 のんびりとリンクを待っている余裕はない。とはいえ、居場所もわからないリンクを、  
こちらから探しに出てゆくこともできない。  
『インパがいてくれたら……』  
 ゼルダは後悔した。インパはゼルダについて別荘に来る予定だったが、城で外せない用件が生じ、  
到着が翌朝に遅れることになっていた。別荘訪問そのものを翌朝に延ばしたら、とインパは  
勧めたのだが、ゼルダはさほど気にもせず、単独行動をとることにしたのだった。別荘まで  
ついてきているのは、侍女と料理人が一人ずつ、それに護衛の兵士が十人だけだった。他には  
別荘番を兼ねた馬丁がいるきりだ。これほどの重大事を、彼らには頼めない。  
 明日の朝、インパがここに来るのを待つしかない。  
 入湯後の身体が冷えてしまうまで熟考した結果、ゼルダはそう結論した。  
 バスローブを羽織り、タオルで髪を包む。手紙を細く折ってオカリナに結びつけ、それを  
ポケットに落としこむ。  
 結論はしたが、不安は去らない。  
 部屋へのドアを開く。その瞬間、ゼルダは予知が早くも的中したことを悟った。  
 ガノンドロフがそこにいた。  
 
 とっさに思ったのは、さっき裸でこの部屋にいたのを見られただろうか、ということだった。  
 そのはずはない。部屋が無人だったのは確かだし、窓のカーテンは引いてある。いまは  
開け放たれている廊下との間のドアは、先刻は──鍵はかけていなかったが──しっかりと  
閉じられていた。  
 だが安心などできない。いまも状況はほとんど違わない。バスローブの下は素裸なのだ。  
 襟もとを手で握る。同時に自らを叱咤する。  
 何を些末なことを考えているのか。  
 問題は『時のオカリナ』だ。それがいま、バスローブのポケットにあることを、絶対に  
気取られてはならない。  
「じかにお話しできる機会を得られて光栄です」  
 ガノンドロフが言った。  
 丁寧な台詞とは裏腹に、態度は尊大だった。ソファに深く身を沈め、足を組み、薄笑いを  
浮かべてこちらを見ている。ハイラル城におけるこれまでの従順さは消え失せていた。  
「こちらの都合も聞かずに訪ねるとは無礼でしょう」  
 ガノンドロフの言葉に直接は答えず、ゼルダは努めて厳しい声を出した。声が震えないよう、  
気力を奮い起こした。  
「ご叱責、身にしみます」  
 謝罪めいた言葉を口にしながら、態度は全く変わらない。明らかにゼルダを揶揄し、なぶろうと  
している。  
「出ておゆきなさい」  
 ゼルダは声にさらに力をこめた。ガノンドロフは動じなかった。  
「気のお強いことだ」  
「人を呼びますよ」  
「ご随意に」  
 その時点で、ゼルダは初めて気がついた。呼んで人が来るくらいなら、ガノンドロフがこの  
部屋に入ってこられるわけがない。ということは、すでに侍女や護衛の兵士たちは……  
「たれか!」  
 呼ばずにはいられない。が、応える者はいなかった。  
 なぜガノンドロフが廊下へのドアを開け放したままでいるのか、なぜ容易に自分の姿をさらす  
危険を甘受しているのか、ゼルダは初めから疑問に思っていた。答は実に簡単だった。何の危険も  
ないからだ。  
 
「無駄だ」  
 敬語が省かれた。短い言葉だったが、そこにひそむ冷酷な色が垣間見え、ゼルダの背筋は凍った。  
「『時のオカリナ』を渡せ」  
 やはりそれが目的。しかしそれだけだろうか。  
「そんなものは知りません」  
 否定するしかない。が、ガノンドロフの表情は変わらない。見透かされている。  
 それに……わたしを見る、その目。そこには……拝謁の場で感じたのと同じ……爛々と燃えさかる  
醜悪な欲情が……  
 犯される。わたしは犯される。  
 ゼルダは恐怖した。  
「その目だ」  
 いたぶりの声。  
「その恐怖を待っていたぞ」  
 口の端が吊り上がる。残酷な笑いが湧き上がる。ついに全貌を露わにした、その本性。  
 ガノンドロフがゆっくりとソファから立ち上がる。ゼルダは一歩、後ずさる。  
「抵抗しても同じことだ。ゼルダ」  
 その呼びかけに、身体がぴくんと反応する。  
「結局、オカリナは俺が手に入れることになる」  
 ──わたしをそう呼んでいいのは、お父さまの他には、ただ一人だけ。  
「だから先にオカリナを渡せ。そうすれば……」  
 ──リンク、あなたの勇気をわたしに……  
「心おきなく、お前を味わえるからな……」  
 ──たとえここで散ろうとも、ハイラル王女としての矜持は捨てない。  
「控えよ! 下郎!」  
 ゼルダの口から激しい罵倒がほとばしり出た。ガノンドロフの顔から笑いが消えた。かわりに  
噴き上がる憤怒。  
「小娘が!」  
 ゼルダは廊下に続くドアへと身をひるがえした。しかしわずかに遅かった。ガノンドロフに  
片腕をつかまれ、ぐいと引き寄せられる。床に組み伏せられる。バスローブの前がはだけ、  
胸元がのぞく。  
 かまわない。『時のオカリナ』さえ見つけられなければ。でも……  
 このまま犯されたとして、そのあとは……わたしは命を保てるだろうか。保てなければ、  
オカリナは……  
 ガノンドロフの顔に、再び酷薄な笑いが満ちる。手がバスローブの紐を解き放つ。ゼルダの  
すべてが露呈されようとした、その瞬間。  
 ガノンドロフが横へ飛びすさった。同時にその場所を凄まじい風が舞った。  
 戸口に剣を払ったインパが立っていた。  
 
 インパの剣は、直前にそれを察知して身をかわしたガノンドロフには届かなかったが、ゼルダを  
自由にするだけの時間は確保した。ゼルダはインパの足元へと転がり、身を起こした。  
 剣を構えるインパに対し、ガノンドロフには応戦の方法がなかった。剣をソファの横に放置して  
いたからだ。顔が怒りのために醜く引きつっていた。  
「浴室へ」  
 インパはゼルダにささやき、同時にガノンドロフめがけて煙幕玉を放った。  
「うぉッ!」  
 噴出する黒煙にガノンドロフが怯む。開いたままの脱衣所へのドアへとゼルダは走り、  
すぐあとからインパも飛びこむ。即座にドアを閉め、鍵をかける。脱衣所にある家具や品物を、  
手当たり次第にドアの前に積み上げる。外から荒々しくドアが乱打されるが、これで少しは時間が  
稼げるだろう。  
「どうしてここへ?」  
「あとです」  
 ゼルダの問いをインパは封じた。脱出することが先決だ。  
 別荘へ行くゼルダを見送ったあと、城中で所用を片づけながら、インパは嫌な予感に襲われた。  
ガノンドロフの姿が見えないのだ。ゲルド族の宿舎の様子をうかがうと、そこにもほとんど人が  
いない。用事を放り出し、馬で別荘に駆けつけた。玄関前にたむろしていたゲルド族の包囲を  
破って中に入りこみ、インパはゼルダの危難を救うのにぎりぎり間に合ったのだった。  
 脱衣所に残されていた衣服をゼルダに渡し、しかしそれを着る暇も与えず、インパはゼルダを  
浴室内に追い立てた。窓に駆け寄り、剣でガラスを割る。すき間からゼルダを押し出し、続いて  
自分も外に出る。インパはゼルダを抱き、狭い窓際の縁を走った。窓を掃除する使用人のための  
通路だ。複雑に折れ曲がった通路をたどり、インパは地面に到達した。ゼルダに服を着るよう  
指示すると、インパはこれからの方策をすばやく考えた。  
 たどってきた通路をふり仰ぐ。  
 ドアを破って浴室に入ってきても、あとは細く狭い通路。しかも夜の闇の中だ。土地勘のない  
ガノンドロフは、ここを追っては来られまい。だがすぐに玄関へ回るだろう。  
 一刻も早く城へ戻らなければならない。そのためには馬を確保しなければ。乗ってきた馬は、  
ゲルド族のいる玄関前に乗り捨ててきてしまったが、この別荘には馬小屋がある。  
 着衣したゼルダを連れて、インパは馬小屋へと急いだ。駿足の白馬を選び、手早く馬具を装着する。  
 馬を外へと引き出すと、玄関の方からどよめきが聞こえた。  
 インパは疑問を感じた。ここへ来た時、玄関前にいたゲルド族は十人足らずだった。ところが  
いまの様子では、その倍以上いるように思われる。そもそもガノンドロフについて城に来た  
ゲルド族は十人だったはず。その人数が増えているとは?  
 そもそも、王家のお膝元であるこの町で孤立していると言ってよいガノンドロフが、これほどまでに  
大胆な行動に出たのはなぜだろう。人に知られれば即座に身の破滅になるような暴挙だ。  
 何かある。ゲルド族の人数が増えているのは、それに関係があるに違いない。  
 それが何かはわからない。ただ現時点で確実なのは、このまま玄関前を突破して城へ戻るのは  
困難だろう、という点だった。そうなると……  
 馬小屋の近くの城壁には、遠乗りのために直接ハイラル平原へ出て行ける、王家専用の門が  
設けられていた。そこからいったん平原に出、外を回って正門から再び城下に入るしかない。  
 インパは門の扉を開けた。その時にはもう、こちらの存在に気づかれていた。  
「あそこだ!」  
「追え!」  
 興奮した声が飛び交っている。馬で追ってくる気配もある。  
 白馬にゼルダを乗せ、自らもその後ろに跨る。即座に拍車を入れ、門をくぐり、インパは  
急速力で夜のハイラル平原へと馬を駆りだした。  
 
『まずい』  
 ゼルダとインパの乗った白馬を単騎で追いながら、ガノンドロフは歯噛みした。  
 反乱を起こす。ゼルダから『時のオカリナ』を奪う。リンクから三つの精霊石を奪う。この  
三つは、ほぼ同時に行わねばならなかった。が、誤算が重なってしまった。  
 第一はリンク。あの小僧だ。  
 キングドドンゴが倒されたのを察知した時点で、ガノンドロフはゲルドの砦にいるツインローバに  
使いを出し、反乱軍の出発を促していた。しかしリンクは、反乱軍の動きをはるかに上回る速さで、  
バリネードまで倒してしまった。リンクはすでに三つの精霊石を持っている。このままハイラル城へ  
戻られてはならない。だが反乱の火の手を上げるにはまだ早い。すでに仲間を少しずつひそかに  
城下へ忍びこませ、手元の人数を増やしてはいるが、決起するにはどうしても本軍の到着を待つ  
必要がある。リンクには刺客を放っておいたが、成功するどうかはわからない。そのため、  
ゼルダから『時のオカリナ』を無理にでも奪い取るよう、行動しなければならなくなった。  
 第二の誤算はインパだ。  
 ゼルダが別荘を訪れる。しかもインパは一晩不在。隠密組の活動で得たこの情報は、窮地の  
ガノンドロフを喜ばせた。リンクの帰還までに、という切迫した状況で、それは絶好の機会だった。  
ゲルド族を引き連れて秘密裡に別荘を襲い、お付きの者全員を片づける。常に持ち歩いているで  
あろう『時のオカリナ』をゼルダから奪い、そして永久に口を塞ぐ。その新鮮な肉体を蹂躙した  
あとで。事件はすぐに知られるだろうが、自分たちの仕業であるという証拠さえ隠してしまえば、  
反乱軍の到着まで白を切って時間を稼ぐことはできる。武芸の達人である護衛役のインパさえ  
いなければ、ことは容易のはずだった。が、インパが予定外の時刻に出現したことで、『時の  
オカリナ』の奪取に失敗したばかりか、反乱計画そのものが崩壊の危機にさらされてしまった。  
 このままゼルダとインパが城に戻ってしまったら終わりだ。自分の行動は言い訳できない。  
絶対に阻止しなければ。  
 城壁の外縁に沿って、ガノンドロフは漆黒の馬を駆る。  
 二人の乗った白馬はまだ見えない。だが行く先は明らかだ。城へ戻るためには正門から城下に  
入るしかない。正門にはゾーラ川に架かる跳ね橋があり、夜間は橋が上がっていて通行できない。  
橋を下ろさせるにしても時間がかかるだろう。その時間が頼みの綱だ。  
 ガノンドロフは焦燥に駆られつつも、自らの命運を握る二人に向け、心の中で牙を研いだ。  
 
 全力で疾駆する白馬の激しい振動に、ゼルダは必死で耐えていた。振り落とされないよう、  
馬の背にしがみついているのが精いっぱいだったが、それでも心には安堵感があった。  
 無事だった。『時のオカリナ』も、わたし自身も。  
 それでも危機は去ったわけではない。何としてもガノンドロフの追撃を振り払わなければ  
ならない。そしてあの予知に従い、リンクに『時のオカリナ』を渡さなければ。  
 服の隠しに移した『時のオカリナ』の、物理的には小さな、しかし意義的には限りなく大きな  
重みを感じながら、ゼルダはインパの御す馬の疾走に身を任せた。  
 やがて馬は城下町の正門前に到達した。  
「橋を下ろせ! 開門せよ!」  
 インパが叫ぶ。数度それを繰り返したのち、門の上に番人の姿が現れた。  
「夜は通れない。朝まで待て」  
 番人は職務に忠実だった。  
「ここにおわすは王女、ゼルダ様だ! 賊に追われている! 早く橋を下ろせ!」  
 門の上が騒がしくなった。数人の人影が慌ただしく動き、火が焚かれた。川べりを照らす  
その光の中で、ゼルダは自らの姿が明らかとなるよう、馬上で身を伸ばし、胸を張って、門の方に  
顔を向けた。  
 門の上でひとしきりざわめきが続いたあと、番人は言った。  
「城に確かめる。それまで待て」  
 王女が城外にいることに疑問を持つのは当然だ。その警戒ぶりは見上げたものだ。だがいまは  
そんなことを言ってはいられない。  
 背後からかすかに馬蹄の音が聞こえてきた。敵が追ってきたのだ。  
「ちッ! 間に合わん!」  
 そう小さく吐き捨てると、インパは馬首を東にめぐらし、ゼルダにささやきかけた。  
「カカリコ村へ行きます。あそこなら……」  
 インパは言葉を切った。東の方向を凝視している。ゼルダにもわかった。その方向からも馬の  
駆ける音が聞こえてくる。元の方向からの追っ手も近づいてくる。  
「はさまれたか」  
 再びインパは馬の向きを変えた。南。その方角しかない。  
「やッ!」  
 掛け声とともにインパが馬に拍車を入れる。馬は大きくいなないて南へと駆け出す。  
 その時、ゼルダは見た。  
 左前方から走ってくる人影。初めは暗くてよくわからなかったその姿は、すぐに門の火による  
光の輪の中に飛びこんできた。  
「ゼルダ!」  
 リンクが叫ぶ。  
「リンク!」  
 ゼルダも叫ぶ。  
 二人の声と視線が交錯する。  
 ゼルダは背後のインパをふり返った。  
「だめです」  
 インパは冷たく言った。しかしその顔は苦渋にゆがんでいた。  
 追ってくる左右の馬蹄の音が大きくなる。白馬はリンクを置いたまま速度を増す。  
『いましかない』  
 ゼルダは隠しから『時のオカリナ』を取り出した。もうリンクの姿は小さくなっていた。  
その方向へと力の限りオカリナを投げる。  
 あなたしかいない。もう頼みはあなたしかいない。どうか……どうか……!  
「リンク……すまない……」  
 インパが呟く。それでも速力は落とさない。  
 一瞬間の再会と別離。  
『リンク……』  
 いつかまた必ず、わたしたち二人の道が交わる時が……  
 一心に祈るゼルダを乗せ、南へ、南へと、白馬は遠く駆け去っていった。  
 
 リンクはそれを拾い上げた。馬上のゼルダが投げ放ち、草の上に落ちた、それ。  
 悪い予感が当たった。ゼルダは追われている。誰に追われているかは、考えるまでもない。  
 その誰か。夢の中で自分を襲った邪悪な影。世界を飲みこもうとする強大な力。  
 リンクはそれを懐に隠し、門の方をふり返った。  
 その相手が、もう間近に迫っていた。  
 
 正門前の橋が上がったままなのを見て、ガノンドロフは安堵した。  
 城へ逃げこまれることは免れた。だがゼルダとインパの馬はどちらへ行ったか?  
 東からゲルド女を乗せた馬が三騎現れた。リンクに向けて放った刺客だ。  
「ガノンドロフ様?」  
 思わぬ所で会ったことに驚いているようだ。それにはかまわず、先頭の者に短く問う。  
「首尾は?」  
「仕損じました。申し訳ありません。ここまで追ってきましたが……」  
 そう言って、問われたゲルド女は、ちらと横に目をやった。ガノンドロフはその視線をたどり、  
離れた所に立ってこちらを見ている少年を認めた。  
 ならば三つの精霊石は、まだ……  
「白馬とすれ違わなかったか?」  
 視線を動かさず、ガノンドロフはさらに問いを発した。  
「いえ」  
 飛躍した質問に戸惑った様子を見せつつも、女は答えた。  
 とすれば、あいつらの去った方角は……  
「ゼルダとインパが南へ逃げた。足の速い白馬だ。追え」  
「はッ!」  
「捕らえて『時のオカリナ』を奪え。それがかなわぬまでも、追いまくって絶対に城へは戻すな。  
例の事を起こすまではな」  
「殺しますか?」  
 肯定しようとして、ガノンドロフは迷った。  
「インパはかまわん。ただ……ゼルダは殺すな」  
「はッ!」  
 三騎は即座に駆けだした。直後、別荘からガノンドロフを追って到着した十余騎にも、同じ  
命令を出してあとを追わせ、ガノンドロフは一人そこに残った。  
 ゼルダを殺すなと命じたことに、ひっかかりが残っていた。  
 ツインローバの言葉を思い出す。  
『あんたのこれからの運命に、大きく影響してくる人物だろうってね』  
 生かしておくと、厄介の種になる可能性もある。だが……  
『狙った獲物は、そう簡単にはあきらめられんからな』  
 これが俺の弱みなのかも……と、ガノンドロフは自嘲めいた思いを抱く。  
 ゼルダを犯そうなどと考えず、『時のオカリナ』の奪取に専念していれば、今夜の襲撃は  
成功していたかもしれない。が、こればかりはどうしようもない。  
 欲望。それが俺のすべての原点なのだ。  
 おのれを確認したあと、ガノンドロフは当面の問題に目を向けた。  
 三つの精霊石。  
 それを持つリンクが、こちらを睨みつけていた。  
 
「そこの小僧」  
 黒い馬をゆっくりと近づけながら、ガノンドロフが声をかけてきた。  
 その重い低音に、リンクは底知れぬ圧力を感じた。  
 黒褐色の皮膚。歪んだ口元。邪悪な笑い。夢で見たとおりの姿だ。しかし実際に目の前にいる  
男は、夢の中の姿よりもはるかにどす黒い、悪の香りを発散させていた。  
 怯えるな!  
 リンクは自分にそう言い聞かせ、ガノンドロフを見据える目に力をこめた。  
「その目……」  
 薄笑いをたたえたまま、ガノンドロフが言った。  
「おもしろい。気に入ったぞ」  
 馬の歩みが止まる。  
 地上と、馬上と。  
 互いを敵とみなす二人が、いま初めてここに対峙した。地上からの激しく熱した視線が、  
馬上からの醒めた余裕の視線が、ぶつかり合い、火花を散らした。  
「子供にしては、なかなかの活躍だったな。だがそれも、もう終わりだ」  
 ガノンドロフの目が暗い光を増した。  
「三つの精霊石を渡してもらおう」  
 リンクは口の中に溜まった唾を飲みこんだ。  
 やはりそうか。『時のオカリナ』を狙ってゼルダを襲い、いまは三つの精霊石を狙ってぼくを……  
 かなうだろうか。ぼくはこの男に立ち向かえるだろうか。ぼくは……  
 忘れるな! 勇気を!  
 逡巡を打ち消すように、リンクは心の中で自らに向かって叫んだ。  
 眼前の巨悪から発する重圧に耐え、リンクは剣を抜き放った。  
「やる気か」  
 相変わらず余裕の感じられる声。  
「いい度胸だ」  
 その余裕の色が、さらなる圧力となってリンクにのしかかった。立ったままでいることさえ  
困難だった。  
『これが、ガノンドロフ……』  
 震えそうになる身体を必死で制御する。  
 勇気を!  
 リンクは再び心で叫び、剣を上段に構え、一歩、前へと踏み出した。  
「やあああッッ!!」  
 喉から気合いを絞り出し、全身の力を集中して飛びかかろうとした、その時。  
 馬上のガノンドロフが右手をかざした。何の気負いもない、軽い動きだった。が、そこから  
放たれた白い波動は、一直線にリンクを後方へとふっ飛ばした。  
 対抗のしようもない、圧倒的な力だった。  
 
 地面に叩きつけられたリンクは、その際の怪我と、魔力攻撃による痺れとで、身体を動かせない  
ようだった。しかしその目は、まだ戦いの意志をみなぎらせ、ガノンドロフをまっすぐに  
見据えていた。  
 ガノンドロフは、その目に、ふと自らの記憶が刺激されるのを感じた。  
 俺はこの目を見たことがある。この俺を前にして、ひるみもせず戦いを挑んでくる、強固な  
意志を宿した目を。  
 身体の一部にかすかな違和感を覚える。  
 右頬と、左脇腹。  
 完治した古傷。だがそこに感じるこの違和感は……  
 苦い過去の記憶が、リンクの姿に重なる。  
 九年前。  
 ──こいつの年回りは……  
 コキリの森の近くの村。  
 ──こいつがどこからやって来たか……  
『そうか……お前が、あの時の……』  
 ガノンドロフは小さく笑った。ある種の感慨が胸に漂った。  
 自分を傷つけた、ただ二人の人物。その二人の血を引く者が、いま目の前にいる。  
「因縁だな……」  
 声に出して、そう言う。  
 リンクの目が不審の色を帯びる。と、緊張の糸が切れたのか、その目から不意に力が失われ、  
リンクの顔は、がっくりと前に傾く。  
 ガノンドロフは嘲った。  
「お前の父親は、もっと骨があったぞ」  
 リンクの顔が少しずつ持ち上がる。信じがたいことを聞いたとでも言いたげな、驚きに満ちた目。  
 その驚きも、もうお前には無用のものだ。  
 とどめを刺そうと、ガノンドロフは馬を降りかけた。  
 その時、背後で音がした。  
 ガノンドロフはふり返った。正門の橋が下り始めていた。門の向こうに人馬がひしめいている  
気配があった。ゼルダの失踪が知られ、軍勢が動員されたのだ。  
『ちッ!』  
 ガノンドロフは舌打ちした。ここで王国軍と事を構えたくはない。ゼルダを追っていたことに  
ついての言い訳が必要になるし、それでも怪しまれるのは確実で、今後の行動が著しく制限される。  
ましてやリンクを襲っている場面を見られたりしたら……  
 一時、回避だ。  
 ガノンドロフは南へと馬を飛ばした。だがゼルダを追跡する気はなかった。しばらく行った所で  
馬の向きを変える。  
 ゼルダは手下に任せておく。俺はあの小僧から目を離さないようにしなければ。あいつは  
ゼルダと接触したかもしれない。ひょっとしたら……  
 この予感は捨て置けない。  
 平原をぐるりと回って、ガノンドロフは違う方角から再び正門を目指した。  
 
 橋が下り、正門が大きく開かれると、それを待ちかまえていた騎兵団が、ひしめき合って平原へ  
飛び出した。倒れているリンクを、彼らは完全に無視した。番人の指示に従い、ゼルダを追って、  
南へと我先に突進してゆく。  
 騒然となったあたりの風景をぼんやりと見やり、敗北感に打ちひしがれながら、リンクは  
ガノンドロフの言葉を、心の中で幾度も反芻していた。  
 ぼくの父親? 父親だって? なぜガノンドロフがそれを知っている?  
 思いがけない状況で、突然に投げ出された、おのれの出自の手がかり。  
 リンクは混乱した。しかし混乱しながらも、いま自分がなすべきことへと、リンクは意識を  
ねじ向けた。  
『時のオカリナ』と三つの精霊石。それらがすべて、ぼくの手にある。  
 痛みと痺れ、そして屈辱に耐え、リンクは立ち上がった。足を引きずりながら正門へと向かう。  
正門は大騒ぎで、城下町に入ってゆくリンクを呼び止める者もいない。  
 無人の裏通りで、リンクは懐から『時のオカリナ』を取り出した。オカリナに紙が結びつけて  
あるのには気づいていた。それをほどき、開いてみる。  
 
 リンク  
 あなたがこのオカリナを手にした時、  
 わたしはあなたの前から、もういなくなっているでしょう。  
 あなたを待っていたかったけれど、もう間に合わない。  
 せめてこの『時の歌』のメロディを、オカリナとともに、あなたへ送ります。  
 さあ! 時の神殿の石板の前で、この歌を!  
 トライフォースはあなたが守って!  
 
 その下には短い楽譜が記されていた。末尾には署名があった。その文字で、記憶が、思いが、  
一挙に湧き上がった。  
『ゼルダ……』  
 ハイラル城の中庭で初めて見たその姿。ころころと移り変わる豊かな表情。間近に見た顔。  
微笑み。涙。輝く笑い。そして馬上からの悲痛な叫び。  
 もう一度、手紙を読む。最後の文章がリンクを奮い立たせる。  
『トライフォースはあなたが守って!』  
 やるとも。もちろん。それがぼくの使命だから。  
 かつてゼルダに向かって言い切ったその言葉を、リンクは心の中で繰り返した。  
 
 時の神殿の入口には、以前に会ったのと同じ二人の兵士が見張りに立っていた。先方はリンクの  
ことを覚えていたようで、厳しい声で行く手をさえぎったが、リンクはハイラル城を出発する際に  
ゼルダから貰った手紙を見せ、「王家のために働く者」として、神殿に入る権利を堂々と主張した。  
兵士は戸惑いながらもリンクを中へ通した。  
 短い通路を過ぎ、吹き抜けの広い部屋に出る。昼でも薄暗かったその部屋は、いまはほとんど  
真っ暗だった。天窓から差しこむわずかな星明かりを頼りに、リンクは奥へと向かった。  
 石版の上に並ぶ三つの窪みを探り当てる。懐から三つの精霊石を取り出し、それぞれに合致する  
窪みへと、順にそれらを填めこんでゆく。  
 
 三つの精霊石を持つ者 ここに立ち 時のオカリナをもって 時の歌を 奏でよ  
 
 そう刻まれた石版の前で、リンクは『時のオカリナ』を構えた。  
 サリアにオカリナの演奏法を習った経験があったので、リンクは簡単な楽譜なら読むことができた。  
ゼルダの記した楽譜に従って、リンクは『時の歌』のメロディを奏でた。  
 突き当たりの短い階段の上で、重々しい音が響いた。リンクは階段を登り、そこにあった青黒い  
石の扉──『時の扉』が開け放たれているのを確認した。  
 扉の奥へと足を踏み入れる。壁そのものが発光しているのか、そこは前の部屋よりもわずかに  
明るかった。それで中の様子が見て取れた。天井がドーム状となった、八角形の大きな部屋だった。  
 リンクはあわただしく視線を動かした。  
 ここにトライフォースが?  
 だがそれらしいものは見えない。かわりに目を引いたのは、低い壇となった部屋の中央の台座に  
刺さる、一振りの剣だった。その刃は天窓から差す星明かりを反射し、美しく煌めいていた。  
刃渡りはコキリの剣の倍以上あり、複雑な形状をした柄の部分は、神聖さを感じさせる深い紫色に  
塗られていた。  
 ダルニアの言葉が頭によみがえる。  
 伝説の剣。退魔の剣。心悪しき者は触れることのできない聖剣。床の台座に刺されていて、  
勇者としての資格ある者だけが、台座から抜き放つことができる。  
『マスターソード!』  
 それがなぜここに? デクの樹サマもゼルダも、マスターソードについては何も言わなかった。  
トライフォースに関係があるのだろうか。  
 あるに違いない、とリンクは確信する。  
 三つの精霊石と『時のオカリナ』はトライフォースへの鍵。それらを使って入ったこの部屋が、  
トライフォースにつながる場所であることは間違いない。ならばこの部屋に存在する唯一のもの、  
マスターソードもまた、トライフォースへの鍵であるはず。  
 リンクは台座の前に歩み寄った。そこに刺さるマスターソードの柄を、リンクは両手で握りしめた。  
『勇者としての資格ある者だけが、台座から抜き放つことができる』  
 ふとリンクは思う。  
 勇者とは? ぼくは勇者なのか? その資格がぼくにあるのか?  
 目を閉じて、自分のなすべきことを考える。  
 いまのぼくは、ガノンドロフにかなわない。けれども、マスターソードを手にする資格が、  
勇者たるべき資格が、もし、このぼくにあるのなら……  
 いや……  
 もし、ではない。なければならない。それがなければ、トライフォースは守れないのだ。  
 世界を救うという、ぼくの使命。それは勇者の名に値するものである。  
 奢ることなく、リンクは冷静にその結論へと達した。  
『勇気を!』  
 目を開く。両手に力をこめ、その力を一気に上へと解放する。力をさえぎるものはなく、  
マスターソードがまっすぐに抜き放たれる。  
『やった!』  
 リンクの叫びは、しかし声にはならなかった。リンクのまわりのすべてのものが、急速に暗転し、  
リンクを押し包んだ。  
 ──これは?……ぼくは?……どうなったんだ?  
 現実との絆を断ち切られ、  
 ──ぼくには……資格がなかったのか?……ぼくは使命を果たせないのか?  
 深遠な闇へと引きずりこまれ、  
 ──ぼくは……ゼルダ…………ぼく………………は…………………………  
 リンクの意識は、そこで絶えた。  
 
 南へと殺到する騎兵団をやり過ごし、リンクが城下町へ入るのを確かめたのち、さらにしばらく  
経ってから、ガノンドロフは馬で正門に乗り入れた。立ち騒ぐ人々を尻目に、ひとり城下町の中を  
駆け、時の神殿へと向かった。そこがトライフォースの眠る聖地への入口であることは、  
ツインローバに聞かされていた。  
 神殿からやや離れた所で、ガノンドロフは馬を降りた。前方を行くリンクの姿が見えた。  
気づかれないよう、足音を忍ばせてリンクを追う。  
 リンクは時の神殿の中へと入っていった。ガノンドロフも神殿の入り口へ向かった。  
「失礼ですが」  
 見張りの兵士が声をかけてきた。ゲルド族の使者団の長として、王家の客人という立場にある  
ガノンドロフの顔を知っているのだろう。その口調は丁寧だった。が、見張りの役割を放棄する  
気はさらさらないようだった。  
「ここへは王家の許可がないと入れません」  
「許可はある」  
 ガノンドロフは傲然と言った。だが兵士は引き下がらなかった。  
「ではその証拠をお示し下さい」  
 ぶった斬って押し通るか……いや、手荒な行動を起こすのはまだ早い。  
「城の者に聞け。それとも……」  
 そう言って、兵士を睨みつける。  
「俺の言葉が、信じられぬとでも?」  
 さすがに兵士は黙ってしまった。その気合いの効果が薄れないうちに、ガノンドロフは早足で  
神殿の中へと歩を進めた。  
 暗い吹き抜けの部屋の奥で、オカリナの音色が響いた。  
 やはりゼルダは『時のオカリナ』をあの小僧に……  
 予感が的中したことに満足しつつ、ガノンドロフはそっとリンクを追った。石板の上に填めこまれた  
三つの精霊石を横目に見て、開け放たれた扉の陰から、次の間の様子をうかがう。  
 リンクが部屋の中央で、何かに手をかけていた。  
『剣……?』  
 しばらく動かずにいたリンクは、やがて意を決したかのごとく、腕に力をこめて、その剣を抜いた。  
 とたんにリンクの姿が消えた。地の底にでも潜ったかのように。  
『何が起こった?』  
 部屋の中へと駆けこむ。リンクの姿はない。トライフォースもここにはない。  
 ガノンドロフは驚き焦ったが、周囲を見渡すうち、床の一部に黒々とした穴が開いているのに  
気がついた。底の見えない暗黒の穴。ガノンドロフはしばしの逡巡ののち、穴の中へと足を踏み出した。  
 目には見えないが、そこは下へ降りる螺旋階段となっていた。足の先で段を探りつつ、上下左右も  
わからない暗黒の中を、ガノンドロフはゆっくりと下っていった。  
 
 螺旋を何周しただろうか。永遠とも思える距離を進んだガノンドロフの前に、それは不意に現れた。  
 ガノンドロフの背丈ほどもありそうな、大きな図形だった。黄金色に輝く三角形。その三つの  
頂点に位置する形で、三つの三角形が並んでいる。  
『トライフォース!』  
 ガノンドロフの身体は驚喜に震えた。とともに、リンクへの加虐的な思いが胸に湧く。  
 ご苦労だったな、小僧。俺の思ったとおり、トライフォースへの鍵は、すべてお前が握って  
いたのだな。お前がこの俺を聖地へ導いてくれるとは……感謝するぞ、小僧。  
 そのまましばらく、ガノンドロフはトライフォースを見つめていた。すぐに行動するのが惜しく  
なるような、それは大きな満足感だった。  
 その感動を深々と味わったのち、右腕をゆっくりとトライフォースへ伸ばす。  
『俺は……世界を支配できる!』  
 右手の先が、少しずつ、少しずつ、トライフォースに近づき、そしてついに、その頂点へと達する。  
 右手が、がっとそれをつかんだ。その瞬間、右手は目もくらむ閃光を発し、激しい疼痛が右腕を  
走り抜けた。  
「!!!」  
 衝撃に思わず目を閉じる。だが閉じきる前に、ガノンドロフは見た。  
 おのれの右手の閃光から、二つの光が分かれ、一つは上へ、一つは下へと、無限の暗黒の中を  
飛び去っていくのを。  
 長い時間が過ぎていった。  
 やっとのことで目を開く。閃光はすでに消え、目の前の大きなトライフォースもいまはなく、  
右手の甲にのみ、わずかな光が残っていた。小さなトライフォースの印。それを構成する三つの  
三角形は、しかし頂点の一つのみが金色に光り、残る二つは空白だった。  
 俺は……トライフォースの三分の一しか手にしていない?  
 激しい動揺がガノンドロフを襲った。  
 どういうことなのだ? 失敗したのか? まさか? ここまで来て?  
 さらに長い時間、ガノンドロフはそこに立ちつくしていた。  
 動揺は徐々に静まっていった。  
 自らの中に新しい何かが生まれたことを、ガノンドロフは感じ取っていた。  
 
 神殿を出ると、そこには、元の見張りの二人に加え、思わぬ数の兵士が集まっていた。  
「ガノンドロフ殿」  
 隊長格の男が、硬い声をかけてきた。  
「陛下がお呼びです。ゼルダ様の件で、聞きたいことがあると」  
 視線に敵意がこめられていた。が、ガノンドロフはそれを受け流した。  
「承知した」  
 そう答えて、ガノンドロフは男の誘導に従い、城へと向かった。前後左右を兵士たちに包囲され、  
ほとんど罪人の扱いだった。だが、ガノンドロフは爽快だった。大きく哄笑を上げたいほどに。  
 そんな程度では、俺をどうこうすることは、もうできんぞ。  
 肉体と精神に満ちあふれる、巨大な力の感覚。  
 それをどのように解放すればよいか、ガノンドロフには、もうわかっていた。  
 
 ナボールは一人でゲルド族の宿舎にいた。  
 この数日、他の仲間たちは宿舎には居着かず、どこかで何らかの活動を行っているようだった。  
それについてナボールは、何の説明も聞かされていなかった。敢えてこっちから仲間に問いただす  
こともしなかった。ひそかに仲間の数が増え、反乱の時期が近づいていることは察していたし、  
それに、ガノンドロフと密着している仲間たちとの接触を、できるだけ避けたいという思いも  
あった。最近のナボールは、ほとんど宿舎に一人でこもりっきりだった。  
 その間、周囲の状況が大きく変化していることに、ナボールは気づいていた。反乱のことばかり  
ではなく、別の動きが進行しているのは確かだった。  
 ゼルダ姫の失踪。その時期に一致した、ガノンドロフと隠密組のあわただしい動き。ナボールは  
その動きからは完全に排除されていたが、そこに何らかの関係があることは容易に想像できた。  
 ガノンドロフはいったい何をやろうとしているのか。  
 以前からあった「やばい」という感じが、ナボールの中で、日々ふくれあがっていた。  
 自分はこれからどうすればいいのか、と、ナボールは考え続けていた。  
 以前はもっと単純に割り切っていた。反乱が起これば、思う存分、暴れまくる。思い切り欲望を  
解放させ、快楽にふける。その後のことは、なるようになれ。その日その日に満足できれば、  
それでいい。  
 でも、いまはもう割り切れない。  
 このままガノンドロフのもとにいて、ほんとうにいいんだろうか。自分が落とされる危険ばかり  
ではない、何かもっと……そう、とてつもなく「やばい」ことが起こりそうな予感がする。  
 部屋の入口に人の気配を感じ、ナボールは気を引き締めた。  
 ガノンドロフがそこに立っていた。  
 犯されそうになった、あの日以来、ナボールは決して単独ではガノンドロフに会わないように  
していた。会った際も、できるだけ目を合わさないように努めた。そんなナボールの態度に  
気づいているのかいないのか、ガノンドロフはあれ以後、ナボールに手を出そうとはしなかった。  
 だが今日は?  
 警戒するナボールに対し、ガノンドロフは、からかうような口調で言った。  
「そう硬くなるな。今日は仕事だ」  
 仕事? いまさらあたしが? ハイラル城に来てからこれまでずっと、何の用も与えられ  
なかったのに?  
「城へ行く。護衛しろ」  
 護衛? その役目はいつも隠密組が……  
 ナボールは気づいた。隠密組はみな、どこかに散って働いているのだ。護衛するとすれば  
自分しかいない。だが、これまで蚊帳の外にいた自分に、敢えて護衛を命じなければならないほど、  
切迫した状況なのだろうか。  
 
 背を向けて宿舎を出るガノンドロフを、ナボールは追った。  
 隠密組の女が足音もたてずにガノンドロフに近づき、何かをささやいた。ガノンドロフは頷いた  
だけだった。女はそのまま、いずこへともなく立ち去った。  
 何かが起ころうとしている。ついに決起か? それとも……  
 これまで抱いていた疑惑が、一挙にナボールの胸を満たした。それに突き動かされ、ナボールは  
思わず、前を行く背に向けて声をかけていた。  
「ガノンドロフ様」  
 答はなかった。ナボールはかまわず問いを発した。  
「ゼルダ姫の失踪に、ガノンドロフ様は、何か関係しているのですか?」  
 ふっ、と、ガノンドロフは小さく笑ったようだった。  
「聞きにくいことを、はっきり言う奴だな」  
 ふり向きもせず、ガノンドロフは続けた。  
「だが、その心意気がお前のいいところだ。よかろう。教えてやる」  
 ガノンドロフは背を向けたまま、歩きながら低い声で話し始めた。  
「一週間前、別荘にいるゼルダ姫を、何者かが襲撃した。俺はそれを察知し、隠密組を連れて  
救助に赴いた。ゼルダ姫は襲撃者に追われてハイラル平原に逃げ、俺はそれをさらに追った。  
正門まで行ったところで見失った。その時には騎兵団が出動していたので、俺は城内へと引き上げた。  
納得したか?」  
 ナボールは黙っていた。一応の筋は通っているようだが、おかしな点も多い。襲撃者とは  
誰なのか。どうやって襲撃を察知したのか。なぜゲルド族が独自にゼルダ姫を救助しなければ  
ならないのか。  
「城の連中は納得していないようだ。この一週間、毎日呼び出されては質問攻めだ。今日は何を  
訊かれるか……」  
 のんびりした言葉とは裏腹に、声にはどす黒い意思が感じられた。それは次の言葉で明らかになった。  
「証拠はないからな」  
 ナボールは悟った。すべてこの男の仕業なのだ。  
「それにもう……弁明を繰り返す必要もなくなった」  
 その意味は明らかだった。さっきガノンドロフに話しかけてきた隠密。それはこう言ったに  
違いない。「準備完了」と。  
 どうする? あたしはどうする?  
 激しく心惑いながら、それでもナボールは、ガノンドロフについて行く足を止められなかった。  
 城に入り、ガノンドロフが呼び出された部屋の前に行くまで、それは続いた。  
 ナボールは部屋に入ることを許されなかった。  
「心配するな。待っていろ」  
 薄笑いを浮かべてそう言い、ガノンドロフは部屋の中へと消えた。  
 ナボールは控えの間に残された。周囲の城の人間たちの、冷たい視線にさらされたまま。  
 
「貴殿はこれまでのらりくらりと言を左右にしてきたが……」  
 王国の高官の一人が立ち上がり、激した声でガノンドロフを責め立てていた。ゼルダの行方は  
いまだにわかっていない。それが舌鋒を鋭くしている理由の一つでもあろう。  
「今日こそは、ほんとうのことを話してもらいますぞ」  
 部屋の中には多くの人数がいた。大臣や役人たちが居並んですわり、後ろには兵士たちが  
立っていた。そして正面の壇上の玉座には、ハイラル王、その人が座していた。はるか手前に跪く  
ガノンドロフは、完全に孤立していた。自分以外のすべての人間が敵だった。が、ガノンドロフの  
心は鏡のように平静だった。  
「ほんとうのことも何も……すべてはすでに話したとおりで」  
「ゼルダ姫の襲撃にかかわってはいないと?」  
「まさに」  
「嘘だ!」  
「ならば証拠を」  
 いつもここで平行線になる。しかし今日は違った。  
「いいだろう。聞かせてやる」  
 高官の口調が皮肉めいたものに変わった。  
「ゼルダ姫を救助するため、ハイラル平原に派遣された騎兵団の一人が、今朝、戻ってきた。  
騎兵団はゲルド族と遭遇し、これに攻撃されたそうだ」  
 あいつら、やりおったな。だが、それでもいい。  
「これは明らかに、わが王国に対する反逆行為だ。この点について、貴殿はどう釈明するのか」  
 ガノンドロフは黙っていた。確かに、これ以上の言い訳はできない。  
「ガノンドロフ殿」  
 玉座のハイラル王が声を発した。名君として知られてきた王の声は、深くその場に響き渡り、  
聞く者の心を打つものがあった。  
「説明して欲しい。わが娘、ゼルダに何をしたのか。そしてその目的は何か」  
 言葉そのものは平明だったが、声には断固とした厳しい意志が感じられた。が、いまの  
ガノンドロフには、そんな厳しい意志でさえ、何の歯止めにもならなかった。  
 頃合いはよし。  
 ガノンドロフは立ち上がった。  
 王の前での、礼を失したこの行動に、室内はどよめいた。  
「目的は……」  
 ガノンドロフはハイラル王を直視した。右手に少しずつ力をこめた。  
「これだッ!!」  
 手のひらをハイラル王に向け、全身の力を集中させる。と、稲妻のような一条の光がそこから  
放射され、玉座へと殺到した。ハイラル王の身体が破裂し、大量の血を噴き出して四散した。  
 室内の全員が、凝固したように動かなかった。誰も何も言わなかった。  
 奇妙な沈黙が過ぎる中、突然、部屋の扉が押し開かれ、うわずった声が響いた。  
「城下町が燃えている! ゲルド族の軍勢が襲ってきた!」  
 その声に、場の凝固が解けた。坐していたみなが一斉に起立し、抜刀した。背後の兵士たちも  
槍を構えた。  
「貴様!」  
「何をした!」  
 憎悪に満ちた無数の目が、ガノンドロフを突き刺した。それを平然と受け止めつつ、ガノンドロフは  
自らの力に酔いしれていた。  
 肉体と精神に満ちあふれる、巨大な力。それを解放することへの、絶大な快感。  
『これが俺の力なのだ。誰であろうと、もう俺を止められんぞ』  
 襲いかかってくる人々に向かい、ガノンドロフは再び右手をかざした。  
 
 室内の異変に、ナボールは気づいた。  
 奇妙な物音。その後の沈黙。  
 兵士が部屋に走りこみ、反乱勃発の知らせを叫ぶ。騒然とする室内。  
 ナボールは柱の陰に身を隠した。反乱が始まった以上、城内の者に見とがめられれば攻撃される。  
 室内では、人々の絶叫と物の破壊音が、荒れ狂う嵐のように響き渡っていた。誰も部屋から  
出てこない。何が起こっているのか。ナボールは身体の震えを止められなかった。  
 音が途絶えた。  
 不気味な静寂の中で、ナボールは、護衛という自らの役割を、やっと思い出した。  
 おそるおそる、部屋に入る。  
 瞬間、ナボールの脳は真っ白になった。  
 地獄。  
 それに違いない。  
 かつて人間であったいくつもの物体が、無数の肉塊となって、部屋中に飛び散っていた。  
床も壁も天井も、部屋のあらゆる面が鮮血に染まり、その臭気があたりに充ち満ちていた。  
 すべての命が死に尽くした部屋の中で、ただ一人、ガノンドロフだけが、全身を朱に染めて  
立っていた。  
 その顔が、ナボールに向けられる。  
 悽愴──という言葉では言い尽くせない、この世のものとは思えない笑いが、そこには浮かんでいた。  
『やばすぎる……』  
 こいつはもう、人として立ち入ってはならない領域に踏みこんでしまった。  
 これからいったいどうなるのか? 自分は? そして世界は?  
 魔王ガノンドロフの誕生を目の当たりにし、ナボールはただ、そこに立ちすくむばかりであった。  
 
 
<第一部・了>  
 
To be continued.  
 

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