「あぁ……あああぁぁ……ん……」  
 右側に寄り添う女が悩ましげな声をあげ、身体をくねらせる。それを抱き寄せ、唇を塞いで  
やると、女はすぐさま口を開け、貪欲に舌を伸ばしてくる。自らも舌でそれに応じながら、  
張りつめた両の乳房に手を這わせる。  
「んんん……はあぁ……ぁぁぁ……んん……」  
 女の声のトーンが上がる。手を下ろし、密生する恥毛をかき分けると、そこはもうすっかり  
熔けている。そのぬめりに指を浸し、そのまま奥まで突き進めてやると、  
「ひぃぃッ!!……」  
 女は小さな悲鳴を上げて一瞬身を硬直させ、そして自ら腰を前後させ始める。  
「はぁッ!……はぁッ!……はぁッ!……」  
 股間ではもう一人の女が、彼の肉棒を愛おしそうに口に含み、舌を使っている。  
 左側ではまた別の女が、両腕を彼の胴に巻きつけ、胸を脇腹にこすりつけてくる。  
「あ、あぁッ!……いいぃぃぃ……」  
 最初の女の目がつり上がり、膣が彼の指を締めつける。頃合いと見て、二番目の女の口から  
硬直を引き抜き、仰向けのまま最初の女を跨らせ、下から一気に突入させる。  
「ひいいいぃぃぁぁッッ!!」  
 苦しげな悲鳴を上げつつも、女の腰が激しく上下動を始める。それに合わせて彼も腰を突き上げ、  
それがますます女の狂乱を高めて行く。  
「こっちにもぉ……」  
 口から陰茎を奪われた二番目の女が、焦れた声を上げながら右腕にすがりつく。  
「態度が気にくわんな」  
 冷淡な声で言ってやると、女はすがりつくような目を彼に向け、従順に言い直す。  
「お願い……します……どうか……」  
「……いいだろう」  
 空いた手をその女の恥部に伸ばし、氾濫した陰門を指で貫き、硬くしこった陰核を刺激する。  
「あああぁぁ!……あ……ありがとう……ございますぅぅ……!」  
 女は喜悦の表情で天を仰ぐ。  
 左側の三番目の女は、いまでは彼の脇腹に濡れた秘裂を直接押しつけ、身体を揺すりながら  
激しく喘いでいる。  
 上に跨った女の体動がさらに速くなり、  
「……ああああぁぁぁ!……いくぅぅぅ!!……いきますぅぅぅッッッ!!!」  
 と淫らな叫びを上げながら絶頂する。  
 しばらく固まっていた身体が崩れ、失神した女が足下に転がる。その体内から取り出された  
陰茎は硬く勃起したままだ。すぐさま四番目の女が寄ってきて、それを手に取ろうとするが、  
彼の指に犯されていた二番目の女が、機先を制してそれにかぶりつく。  
「あわてるな」  
 彼は短く言い、最初の女と同じように二番目の女を跨らせ、いきなりその身体を下に押しつけて、  
中心部を貫いた。  
 
「ぅああああぁぁぁぁッッ!!」  
 絶叫が吐き出される。しかし苦痛にゆがむ表情はすぐに喜悦へと変わり、女はだらしなく涎を  
垂らしながら腰を使い出す。  
 獲物を奪い損ねた四番目の女は、代わりに右手で胸と股間をなぶってやると、たちまち激しく  
喘ぎながら身体を弾ませる。左側の女を引き寄せ、反対の手で同じように攻め、これにも甲高い  
悲鳴をあげさせる。  
 陰茎と両手で同時に犯される三人の女。  
 広い部屋の中には、彼のそばに近づけない女がまだ何人もうごめいており、ある者は女同士で  
抱き合い、ある者は自分で自分を慰めていた。  
「あぁ……あぁ……」  
「どうか……どうかあたしにも……」  
「お願い……早く……」  
「あぁぁ……きて……きて……あぁぁぁん……」  
 淫猥な声が渦巻く部屋の中で、彼ひとりが支配者だった。すべての女が彼の足下にひれ伏し、  
彼の恩恵を被る機会を待ちわびているのだった。  
 三人の女がのぼりつめ始める。  
「あッ!……あッ!……あッ!……」  
「ひぃッ!……ひぃッ!……ひぃッ!……」  
「もう……だめですぅ!……あぁッ!……」  
「ああッ!……どうか……あたしに……あたしにぃッ!……」  
「わたしに……あぁん!……わたしにも……どうかぁッ!……」  
「お願い……お願いしますッ!……はやく!……はやくぅッ!……」  
「くぅぅッ!……すごいッ!……すごいですぅッ!……」  
「あぁッ!……あああぁぁぁッッ!!……」  
「ひぃッ!……もうだめぇぇッッ!!……」  
「くぅぅぅぅぅッッッ!!」  
「アアアアァァァッッ!!」  
「ひいいぃぃぃッッッ!!」  
「……ガノンドロフさまぁぁぁッッッ……!!!」  
 三人の女が同時に絶頂し、その場に倒れこむ。  
 しかし、彼、ガノンドロフの巨大な剛直は、いまだ疲れを知らず、天に向けて邪悪な屹立を  
保っていた。  
 
「おやおや、今日もお盛んなことで。ねえ、コウメさん」  
「ほんにまあ、ガノンさんの絶倫ぶりには驚き入りますよ。ねえ、コタケさん」  
 女たちがみな昇天し、疲れ果てて眠ってしまった中、いつの間に部屋に入りこんできたのか、  
箒に乗った二人の老婆が、空中をゆらゆらと漂いながら、揶揄するように声をかけた。  
 氷の魔道士、コタケ。  
 炎の魔道士、コウメ。  
 片手でも持ち上げられそうな小柄な身体。両目と鼻が大きく飛び出した醜い顔。濁った青銅色の  
皮膚。耳障りなキイキイ声。  
 コタケが凍りつくような青白色、コウメが燃えるような赤褐色と、髪の色が異なるだけで、その  
他は全く区別がつかない、双子の老婆。  
 ガノンドロフは平然とした態度を崩しもせず、ちらりとその方を見やった。  
「何か用か」  
 二人の老婆は、ガノンドロフの頭上をゆっくりと旋回しつつ、交互に言葉を続けた。  
「何か用かじゃありませんよ、ガノンさんや」  
「ハイラル城には、いつ出向くおつもりだい?」  
「うかうかしていると、せっかくの機会を失うよ」  
「ハイラル王に頭を下げるのが、気にくわないのかもしれないが」  
「いまはそうしておかないと」  
「そうそう、何度も言って聞かせたでしょうに」  
「トライフォースを」  
「得ることが」  
「あんたにとって」  
「「絶対必要なことなんだって」」  
 最後は二人が同時にしゃべり、耳障りな声が二倍になった。  
「わかっている。一週間後には出発だ」  
 ガノンドロフの答は素っ気なかった。だがその言葉の裏には、長い雌伏の時期を耐えてきた彼の、  
断固とした決意が秘められていた。  
「おお、一週間後と」  
「おお、それは重畳」  
「よかったのう、コウメさん」  
「ほんにほんに、コタケさん」  
 二人はさも嬉しそうに声をかけ合いながら、部屋の中をくるくると飛び回った。  
 ここ数年の間、ゲルド族はハイラル王国と小競り合いを繰り返してきた。女ばかりとはいえ、  
武勇を誇るゲルド族は、ハイラル王国の正規軍に対し、個々の戦闘では互角の力を示してきた。  
しかし物量に優るハイラル王国は、戦闘だけではなく政治をも駆使して、徐々に近隣の村や町を  
勢力下に収めてゆき、ゲルド族の影響力は低下する一方だった。いまやハイラル全土をほぼ  
統一した王国に対し、ゲルド族の勢力圏は、ゲルドの谷から西、幻影の砂漠にかけての一地方に  
限定され、生活の糧を得るための襲撃や略奪もままならない状態だった。  
 ハイラル王国を倒し、世界を征服するという野望を抱くガノンドロフにとっては、実に不本意で  
屈辱的な事態だった。いくら戦闘で力を尽くし敵を殺そうとも、不利な方向へと変わってゆく  
全体の状況は止めようがない。ガノンドロフは焦った。  
 
 そんな時、ツインローバが囁いたのだった。三百八十歳とも四百歳とも言われるゲルド族の長老、  
百年に一度産まれてくる男を王として育てる役割を担い、ガノンドロフの育ての親でもある  
ツインローバが。  
「あたしらはね、ガノンさんや」  
「百年前も二百年前もゲルドの王を育ててきたが」  
「あんたはその中でも出色の出来だよ」  
「あんたは自分で思っているように」  
「ゲルド族のみならず、世界を支配するだけの力を秘めている」  
「だからあんたには教えておこう」  
「ハイラル王国に伝わる秘宝、トライフォース」  
「それに触れた者は、世界を支配する資格を持つ」  
「「あんたはそれを手に入れるんだ」」  
 トライフォースとは何なのか、なぜそんなことを知っているのか、というガノンドロフの問いに、  
ツインローバは詳しくは答えず、  
「あたしらはね、『堕ちた賢者』なのさ」  
「だからトライフォースのことはよく知っている」  
 と、謎めいたことを言うばかりだった。だが魔力についてのツインローバの示唆は、ガノンドロフの  
心を大きく動かした。  
 魔道士であるツインローバの指導で、ガノンドロフは多少の魔力を使えるようになっていた。  
しかしその力は大したものではなく、せいぜい衝撃波で人ひとりをふっ飛ばし、性交時には相手の  
喜悦感を増加させる程度だった。  
「だがね、ガノンさんや」  
「トライフォースを手に入れたなら」  
「あんたはあたしら以上の魔力を使えるようになるんだよ」  
「そうそう、魔王になるのだって夢じゃあない」  
 ガノンドロフは行動に出た。ハイラル王国に使者と貢ぎ物を送り、低姿勢で恭順の意を表した。  
最初は疑わしげだったハイラル王国も、たび重なる朝貢に最近では警戒心をゆるめ、両者の間には  
和解の空気が熟成してきた。そしていまでは、ゲルド族の王であるガノンドロフ自身がハイラル王に  
謁見し、ゲルド族が正式に王国の傘下に入るという約定が結ばれることになっていた。  
 だがこれは、すべて偽りの平和だった。ハイラル王国に降ると見せて、ガノンドロフはひそかに、  
しかし着々と軍備を整え、兵力を増強していた。一週間後にはハイラル城を訪れ、トライフォースを  
得る。その上で、一挙に反乱を起こすのだ。  
 二人の老婆が、再びガノンドロフの頭上を回り始めた。  
「ガノンさんや、あんたがハイラル城にお出かけとなれば」  
「あんたとは当分お別れということ」  
「ならばこの際あたしらも」  
「ここに倒れている女たちのように」  
「満足させてもらわんことには」  
「困りますわなあ、コウメさん……ホッホッホ」  
「ほんにそのとおりで、コタケさん……ヒッヒッヒ」  
 醜怪きわまりない笑い声が部屋の中に響く。ガノンドロフは表情も変えず、指で二人を差し  
招いた。  
 二人の老婆は箒に乗ったまま、並んで空中に静止した。二人の間の距離が少しずつ狭まり、  
二人が接し、二人が重なり……物理法則を無視した現象を経て、そこには一人の新たな女が  
出現していた。  
 
「ねえ、いいでしょ。ガ・ノ・ン」  
 さっきまでの耳障りなキイキイ声とは全く違った、しっとりと響くアルト。その声の主は、  
大柄なガノンドロフと遜色のない長身で、表情には冷たくもあり熱くもある不思議な美しさが宿り、  
つややかな肌には皺ひとつなく、身体は細く引き締まり、しかし豊かであるべき所はあくまで  
豊かに、熟しきった女の匂いを芬々と発散していた。  
 合体変身したツインローバは、ガノンドロフの肩に手を回し、しなだれかかってきた。切れ長の  
目は深い欲望をたたえ、上目遣いに彼の顔を直視し……そして返事も待たず、肉厚な唇が頬に  
押しつけられる。  
『この女は……』  
 醜い二人の老婆と、妖艶な一人の熟女。どちらがこの女の真実の姿なのか。それはガノンドロフにも  
わからない。  
 ツインローバの唇がガノンドロフのそれを捕らえ、同時に舌が口腔に差しこまれる。ガノンドロフも  
それに応えつつ、ツインローバの盛り上がった胸に手をやり、表面を覆うわずかな布を引きはがす。  
空気にさらされた二つの乳房は、ガノンドロフの手にも余るほどの大きさでありながら、  
張りきった脂肪の密度により、重力に抗して球状の形態をしっかりと保っていた。凝固した乳頭に  
触れてやると、ツインローバは含んだ笑いを漏らした。  
「フフ……素敵よ、ガノン。これだけの数の女を相手にして……」  
 硬い猛りを失っていないガノンドロフの巨根に、ツインローバの手が伸びる。  
「……まだイッてないのね。ほんとに……」  
 五本の指を駆使して、  
「……逞しいわ。ゲルドの王にふさわしい強さ……」  
 断続的な圧力を加えながら、  
「……いいえ、それだけじゃなくて……」  
 ゆっくりと前後に手をスライドさせ、  
「……世界中の女を支配できるわよ、あんたなら……」  
 さらに怒張を勢いづかせようと、  
「……それができるわ、ガノン……」  
 ガノンドロフもツインローバの股間に手を這わせる。濃密な恥毛の奥はすでに、溢れる粘液で  
どろどろにぬかるんでいる。勃起した陰核を親指で操りながら、人差し指と中指を煮えたぎる膣の  
中へと挿入してやると、  
「あぁ……いいわぁ……ガノォンンン……」  
 艶めかしく延びた声が、大きく波打つ息とともに、ツインローバの口から吐き出される。  
 
『ガノン……か』  
 熟練した手技を駆使しながら、ガノンドロフは冷ややかに考える。  
 俺に服従しきっているゲルド族の中で、このツインローバだけが俺と対等に振る舞っている。  
王の俺をガノンなどと愛称で呼び、それでも老婆の時には一応「さん」付けだが、合体した時には  
それすらもなく、呼び捨てだ。だが……  
『……俺にとっては育ての親だからな』  
「ねぇ、なに考えてるのよぉ、ガノン……早く来てぇ……」  
 ツインローバが甘えた声を出し、仰向けに倒れながら、両手でガノンドロフを引き寄せる。  
ガノンドロフは素直に応じ、ツインローバの上にのしかかって、脈動する肉茎を淫孔へと没入させた。  
「ああぁぁッ!」  
 悲鳴に似た喘ぎが漏れ、ガノンドロフを抱くツインローバの腕に力がこもる。挿入後の  
ガノンドロフは動かない。摩擦の快感を得ようと、ツインローバは自ら腰を激しく前後させる。  
「どうしたのよぉガノン……あんたも突いてぇ……焦らさないでよぉ……」  
 身体をくねらせてねだるツインローバに、ガノンドロフは落ち着いた口調で言った。  
「女は焦らすに限る、というのがお前の教えだ」  
「いまさらそんなこと……あたしに向かって言うなんて……」  
 潤んだ目で見上げながら、ツインローバが恨めしそうな声を出す。  
「確かにあたしは……そう言ったわよ……あんたにはあたしが……すべて教えてやった……でも……  
いまのあんたにはもう……そんな……そんな小手先のことなんか……必要……ないじゃない……」  
 とぎれとぎれの言葉がツインローバの欲情を反映している。ガノンドロフは心の中でほくそ笑み、  
ゆっくりと肉柱を動かし始めた。  
「あぁぁ……そうよ、そうやって……やって……もっと……やってぇぇ……」  
 仰向けになっても形の崩れない二つの豊乳が、二人の体動に合わせてゆさゆさと揺れる。  
「もっとぉぉぉ……ぉああぁあぁぁあガノオオォオォンンーん……んんあぁぁあああッ!」  
 のたうち回るツインローバを視姦し、次第に動きを速めながら、ガノンドロフはなおも冷静に  
回想していた。  
 そう……俺はこの女にすべてを教わった。ゲルドの王となるための諸々の知識と心得……  
そして性技を。物心つく前から毎日、俺はこの女と床をともにし、あらゆる行為、あらゆる技術を  
教えこまれた。初めはツインローバの底知れぬ淫美さに圧倒されるばかりだったが、数年も経つと  
対等に渡り合えるようになった。それからツインローバは、ゲルド族の女を一人、俺にあてがい、  
俺はその女を苦もなく征服し、さらに寄越される別の女たちを次々とものにし……ついには  
ゲルド全体が俺のハーレムとなった。さまざまな年齢、さまざまな性癖の女たちが、こぞって俺の  
前に跪いた。姉や妹、そして実の母親さえもが、喜んで俺に身を任せたのだ。そしていまでは……  
 激しい攻撃にさらされ、獣のような声をあげてよがり狂うツインローバ。  
 完璧な性教師だったこの女ですら、いまでは俺の支配下にある……  
「もう……ぅああぁぁッ!……もうッ!……ガァノオオォォンッ!!」  
 ツインローバの身体が悦びに痙攣し始めたのを機に、ガノンドロフも最後の仕上げに向けて  
スパートをかける。  
「あぁぁあガノーォォンンッ!!……あんたであたしをぉぉッ!!……あたしをぉぉーッ!!……  
ぃぃいっぱいにィィぃいにしてええぇぇーーッッ!!!」  
 狂乱の叫びとともにツインローバの全身の筋肉が強直し、ガノンドロフを激しく締めつける。  
その圧力に抗するかのように、ガノンドロフの巨茎はさらに膨張し、次の瞬間には、今日初めての  
精を、狭隘な肉洞の中に噴出させていた。  
 
「……で、ハイラル城へは誰を連れて行くの?」  
 寄り添って横たわるツインローバが訊いた。数分前までの狂いっぷりが嘘のような平静さだ。  
『これだからこいつはわからん……』  
 ガノンドロフはひそかに苦笑する。俺に支配されているようでいて……実はまだ俺の方がうまく  
あしらわれているのかもしれない。その肢体は、かつてガノンドロフに性の手ほどきを施し始めた  
頃と、全く変わらない瑞々しさを保っている。まさに魔性の女だ。だが……  
 ツインローバのよいところは、自分の立場をわきまえている点だ。俺を補佐するパートナーで  
あり参謀であるという立場を崩さず、その立場を利用して権力を握り、俺を凌ごうなどとは考えて  
いない。俺にとっては実に都合のよい、ありがたい存在だ……  
 そんなことを考えながらも、ガノンドロフはいまのツインローバの問いに、頭の中で素早く  
計算を始めていた。  
「大軍を連れて行くわけにはいかん。せいぜい……十人ほどだな……」  
「そうね、ハイラル王国に降るという名目なんだからね……それで誰を?」  
「……ナボールにしようと思う」  
「ナボール?」  
 訝しげな顔つきで、ツインローバが身を起こした。  
「確かにあの娘は、若いけれど腕は立つ。護衛にはいいだろうけど……あんたはあの娘を  
信用してるのかい?」  
 その心配はもっともだ。ガノンドロフに心酔しきっているゲルド族の女たちの中で、ナボールだけは  
異色だった。王と部族民という主従関係はきちんと守っているが、いまだガノンドロフとは肉体の  
絆を結んでいない。その態度にはどこか、ガノンドロフとの間に距離を置こうとする意図が  
感じられるのだ。そう思うと、武技に優れているうえ、さっぱりとした気性で仲間内の評判がよい  
という彼女の美点も、逆に気がかりになる。  
 少し間をおいて、ツインローバはくすくす笑い始めた。  
「さてはあんた……あの娘を落とすつもり?」  
 ガノンドロフは黙っていた。が、ツインローバは聞かずともわかるとばかり、からかうような  
口調で続けた。  
「やれやれ、自らの浮沈を賭けた大勝負に出ようっていう時に、この盗賊王サマといったら……  
呼び名を変えたらどうなの、ゲルドの陵辱王ってさ」  
 ツインローバはひとしきり笑っていたが、すぐに真顔に戻って問いかけた。  
「それでガノン、あんた、ハイラル城へ行って、何をするかはわかってるわね」  
 ガノンドロフは短く言った。  
「『時のオカリナ』だ」  
「そう……トライフォースを手に入れるためには、その鍵となる『時のオカリナ』が必要なんだからね。  
それがどこにあるのか、まず突き止めなくちゃ」  
「見当はついている」  
「え?」  
 意外そうに首をかしげるツインローバに向けて、ガノンドロフは続けた。  
「以前、噂に聞いたことがある。ハイラル王家には、母から娘に代々伝えられる楽器があると。  
それがおそらく……」  
「ふん……だとすると、いま、それを持っているのは……」  
「ハイラル王女、ゼルダ……まだ幼いが、美しく気高い姫君だという……」  
「はぁ?」  
 ツインローバは、呆れたようにガノンドロフの顔をのぞきこんだ。  
「あんたったら、もう……どうせハイラル城へ行ったら、そのゼルダ姫にも会うことになるんでしょ。  
勝手にすればいいわ、この陵辱王サマは」  
 
 そこでツインローバは、ふと真剣な表情に戻った。  
「でも……ハイラル王国の王女……ひょっとすると……」  
「どうかしたか?」  
 ガノンドロフの問いにも答えず、ツインローバは何ごとかを考えている様子だったが、やがて  
曖昧な口調で言った。  
「……いえ……ただ……ゼルダ姫とやら……予感がするのよ。あんたのこれからの行動に、  
大きく影響してくる人物だろうってね……別に根拠があるわけじゃないけど……まあ、それは  
ともかく──」  
 ツインローバの声が元に返る。  
「ガノン、あんたこの前、デスマウンテンに行ったでしょ。首尾はどうだったのよ」  
「ああ……」  
 ガノンドロフは、ゴロン族の族長、ダルニアとの会見を思い出した。  
「簡単にはいかぬ。だがお前の魔力を借りて、手は打っておいた」  
「そう……ドドンゴを凶暴化させたのね。とりあえずはそれで様子を見るか」  
『時のオカリナ』とともに、トライフォースへの鍵となる三つの精霊石。これもまた、ツインローバが  
ガノンドロフに伝えた情報だ。ガノンドロフには、それらをすべて入手するという課題もあった。  
「で、残りの二つだが……」  
 ガノンドロフはツインローバの顔をふり返った。ツインローバは頷いて言った。  
「あんたの指示に従って手配したよ。コキリの森のデクの樹にはゴーマを、ゾーラの泉の  
ジャブジャブにはバリネードを送りこんでおいたわ」  
「よし……」  
 これで三つの精霊石は何とかなる。あとはハイラル城へ赴いて、『時のオカリナ』を、そして  
トライフォースを手に入れるのだ。  
「俺の留守中、砦のことはお前に任せる。時が来たら使いを出す。それまでにしっかりと準備して  
おけ」  
「了解」  
 ガノンドロフの簡潔な指令に、ツインローバも短く応じ、再び傍らで横になった。その手が  
名残惜しそうにガノンドロフの身体を撫でる。しかしガノンドロフはそれを無視し、無関係な  
記憶をまさぐっていた。  
『コキリの森といえば……』  
 九年前、初めてハイラル軍と遭遇し、戦った村。あれは確か、コキリの森の近くだった。  
戦いには勝ったが、苦い記憶だ。ハイラル王国の騎士に右頬を切られ、その妻には左脇腹を  
刺された。俺が戦いで血を流したのは、後にも先にもその二回だけだ。  
 傷は完治している。だが、その二箇所の傷跡が、なぜかいま、奇妙に疼く。  
 そういえば……あの女と、生まれたての赤ん坊……あの時は格別、気にも留めなかったが……  
あれからどうなったのだろうか……  
 
 
To be continued.  
 
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル