朝食がまだ、というリンクを、アンジュは家に迎え入れ、台所の椅子にすわらせた。パンに  
加えて野菜のサラダとスープをあつらえ、二人で向かい合って食事をした。その間、アンジュは  
しきりとリンクに話しかけた。  
 いまどうしているのか、というアンジュの問いに、リンクは少し迷う様子を見せながらも、  
すぐにはっきりとした声で答を返してきた。  
 神殿と賢者を求める旅。カカリコ村へ来たのは、この村の墓地とデスマウンテンにある神殿を  
訪れるため。  
 シークと同じことを?──とアンジュは驚いたが、かつてシークの素振りから、二人が知り合い  
らしいと察したことを思い出し、そこを質してみた。シークは友人であり、いまは同じ使命を  
帯びて行動しているのだ、とリンクは言った。その使命の詳細をリンクは語らなかったが、同じく  
それを語らないシークのことが頭にあったので、アンジュは追求しなかった。  
 リンクの方は、アンジュとシークが知り合いであることを、シークから聞いていたらしく、  
アンジュがシークの名を出しても驚きはしなかった。が、墓地に神殿があるとシークに教えたのは  
自分である、とアンジュが告げると、それについては知らなかったようで、  
「なんだ、シークったら、全部一人で調べ上げたのかと思っていたら……ほんとうはアンジュが  
助けてくれていたんだね」  
 と言い、声をあげて笑った。アンジュはその笑顔をまぶしく見つめた。  
 朝食のあとはお茶の時間となった。話題は自然に七年前の出会いの件へと移り、庭のベンチで  
お茶を飲んだ時のことが、二人の間で懐かしく語られた。リンクは、お茶を飲むきっかけとなった  
コッコ探しの大変さと、その際のアンジュのおろおろした様子を、大げさな口調で再現した。  
「わたし、そんなに滑稽だった?」  
「そうだよ。コッコは高くは飛べないから焦らなくてもいいのに、いまにも全部飛んでいっちゃう  
って口ぶりでさ」  
 リンクは肩をすくめ、いたずらっぽい目でアンジュを見た。アンジュは思わず吹き出してしまい、  
それを機に、二人は大きな笑いに包まれた。笑いながらアンジュは、こんなに笑ったのはどれくらい  
ぶりかしら、と考えていた。  
 笑いが引き、沈黙が落ちた。  
 その沈黙の意味を、アンジュは悟った。  
 七年前のやりとりで、まだ話題になっていないこと。二人にとって最も大きな思い出のはずなのに、  
二人ともが触れようとしない、あのこと。  
 リンクが真面目な表情になっていた。何かを言い出そうとして、なかなか言えない。そんな表情。  
 テーブルに両腕をのせ、リンクに顔を近づける。誘うように、リンクの顔を見る。  
 うつむいていたリンクが顔を上げ、こちらの視線に気づいて、はっとした様子になる。  
 ──いいのよ。言って。  
「実は……」  
 思い切ったように、リンクが言い始める。  
「ここへ来たのは……他にも……理由があって……」  
 言葉が途絶える。  
「なに?」  
 問いかけてやる。ためらいで伏せられるリンクの目。またも続く沈黙。  
 待つ。  
 やがてリンクは決然と目を戻し、しかし口にはためらいを残したまま、ついにその意思を  
明らかにした。  
「……女を……教えて欲しいんだ」  
 
 胸がどきりと動悸を打った。  
 驚きながらも、わたしは心の奥でその求めを期待していたのだ、と知る。  
「どうして……わたしに……?」  
 訊くまでもない。七年前の、あの体験。  
 なのに、リンクは答えない。なぜ? 言えない理由ではないはず。  
 まさか……リンクはわたしのなりわいを知っていて?  
「わたしがこんな商売をしているから?」  
 言ってしまう。見開かれるリンクの目。  
「わたしが娼婦だから?」  
 ああ、そこまでも言ってしまった。どうして……どうしてリンクにはこんなことまで言って  
しまえるのか。  
 が、思ってもみなかった、とでもいうような表情でリンクが漏らした言葉は、  
「……その……ショウフって……どういうものなの?」  
 え?  
 そうじゃなかったの? それにいまの言葉……そもそも娼婦というものを知らない?  
 問いには応じず、確かめてみる。  
「リンクは……女を知りたいのね」  
「……うん……」  
「それがどういうことなのか、わかってるわよね」  
「……実は……よく……わからなくて……」  
 何ですって?  
「セックスって、何のことか知ってる?」  
「……いや……」  
 あきれる。と同時に、おかしくなってしまう。  
 何も知らないのだ。七年前と同じように。結婚というものを知らなかったように。どうしたら  
子供が生まれるのかを知らなかったように。どうして大人の女の胸がふくらんでいるのかを  
知らなかったように。まるであの時の子供がそのまま大人になったかのように。  
 何という奇妙なアンバランス!  
 こんな無知な状態で、なぜ「女を教えて欲しい」とだけは望めるのだろう。  
 だけど、その疑問も……(わたしが教えてあげないと)……あの時と同じ衝動にかき消されて……  
 つん、と身体の奥が刺激される。  
 七年前にも、わたしはリンクに女を教えようとした。胸を見せ、触ってもいいとさえ言った。  
それ以上のことまでは考えなかったけど……いいえ、成りゆきによっては……そうしていたかも……  
 思いとどまらせたのは、リンクの目だった。  
 正しいものを求めようとする、まっすぐな感情。侵してはならない純粋さ。  
 あの時は、その純粋さを侵さないのが正しいことだった。  
 けれども、いまは違う。リンクは女を求めている。同じ純粋さで。だから、いまはそれに応じる  
のが正しいことなのだ。  
 心の中で苦笑する。  
 自分を正当化する言い訳だ。  
 それでもいい。リンクが欲しい。何も知らない男を自分のものにする妖しい悦び。  
 アンジュは立つ。  
「いらっしゃい」  
 リンクの腕をとり、立ち上がらせる。そっと手を引き、寝室にいざなう。  
『こんな朝っぱらから……』  
 でも、もう止められない。  
 
 どういうことなのか。自分で求めておきながら、これから何が起こるのか、ぼくにはわからない。  
 導かれた部屋。カーテンが引かれた窓。薄暗い空間。隅にはベッド。  
 ──ベッド……?  
 背後で戸が閉まる音。アンジュが閉めたのだ。ああ、外とは切り離された。戻れない。もう  
あとには戻れない。  
「そこにかけて」  
 アンジュの声。閉ざされた部屋にアンジュと二人きりで。  
 椅子もあるというのに、ぼくはベッドに歩み寄り、その縁に腰かける。  
 アンジュが立っている。ぼくの前にアンジュが立っている。感情の消えた顔が、そこだけに  
意志を宿す目が、ぼくをまっすぐ見下ろしている。  
 すべてが七年前のあの時と同じように。  
 どうなる? どうする? 次にアンジュのすることは……  
 
 どうするか──と考えながら、わたしは何の迷いも持っていない。  
 すべてを七年前のあの時と同じように。  
 服の前に手をかける。上から、下へと、ひとつひとつ、左右をとめるボタンをはずす。開いた  
服を脱ぎ捨てる。露出した肩にかかる下着の紐。左を下ろし、腕を抜く。右を下ろし、腕を抜く。  
その腕は身から離さず、右の手で左の、左の手で右の、それぞれのふくらみを覆い隠す。  
 リンクの目。茫然と開いたリンクの目。  
 覚えてる? 思い出してる? これがどういうことなのか、リンクにはわかる?  
 まだわからない? じゃあ……  
 
 アンジュの手が落ちる。そこにある、それ。  
 ぼくがかつて見たもの。ぼくがずっと思ってきたもの。ぼくがいま見ているもの。  
 まるくて、やわらかそうで、はかなげで、それでいてしっかりとそこにあって。  
 乳房。二つの乳房。女のしるし。大人の女のしるし。  
 ──女……?  
「触ってもいいのよ」  
 アンジュの声に、心臓が大きく収縮する。  
 これがそうなのか? これがぼくの知りたかったことなのか?  
 
 これがそうなのよ。これがリンクの知りたかったことなのよ。七年前に知ろうとして、だけど  
知れなかったことなのよ。さあ、来て。いまこそこれを知りなさい。  
 リンクが、立つ。一歩、踏み出す。  
 すべてが七年前のあの時と同じように。そして七年前には果たせなかったことまでも。  
 あの時、リンクは言った。  
『ほんとに……いいのかな……こんなこと……』  
 いまは言わない。何も言わない。目を惑いでいっぱいにして、けれども一歩が二歩、二歩が  
三歩と、リンクが近づく。左手が上がる。指が広がる。とうとうリンクが触れてくる。  
 
 はっ──とアンジュが短く息を吸う。その音にぼくも息を呑む。それでも手はしっかりと、右の  
乳房に吸いついてゆく。  
 このまるみ。このやわらかさ。たとえる言葉もないこの感触。ぼくがずっと思い追ってきたもの。  
 これがそうなのか? これがぼくの知りたかったことなのか? だとしたら……いまのぼくは  
……もう……  
 心をよそに、身体は動く。左手を右の乳房に置いたまま、右手で左の乳房に触れる。両の乳房を、  
ぼくは得る。  
 猛っている。ぼくは猛っている。股間のそれから、手にも猛りが乗り移る。感じてやる。  
感じてやる。アンジュの女を感じてやる。  
「あ……」  
 一瞬アンジュは目をふさぎ、すぐに再びそれを開く。そこには何かが燃えている。  
 
 両の乳房に加わる力。眼前にあるその力の主。  
 男。  
 七年前の子供とは違う。男なのね。わたしの目の前にいるのは男なのね。何も知らないはず  
なのに、それでも女を求める男なのね。  
『わかったわ』  
 顔を寄せる。いまだ惑いを残しながらも、興奮に沸きたっているリンクの目。その目にぐいと  
近づいて──  
 唇を合わせる。  
 これで三人目。彼と、シークと、そしていまリンクと。数限りない男を身体に迎えたわたしが、  
キスを許し、求めたのは、三人だけ。リンクはその三人目。  
 かまわないわ。当然だわ。教えてあげなくちゃならないんだもの。  
 リンクの手を胸に受けたまま、背に両腕をまわす。合わせた唇を少しずつ動かす。とがらせ、  
開き、吸い、押しつけ、そして舌を送りこもうとしたところで──  
『!』  
 リンクの舌が突っこんでくる。思わず動きを止め、それを受けながら、次いで負けじと自分を  
絡ませながら……  
 意外。慣れた感じ。キスの経験はあるのかしら。  
 それなら……  
 
 手に触れていた胸が、背に触れていた腕が、そして絡み合っていた唇と舌が、すいと離れる。  
 はっとして目をあけると、一歩引いたアンジュが、じっとこちらに目を据えている。誘うような、  
挑むような、妖しい光を放った目。  
 無言の対峙。  
 それも束の間。  
 アンジュの手が動き出す。残った衣服が次々に脱ぎ捨てられる。リンクに視線を向けたまま、  
アンジュはついに素裸となる。  
 これは……マロンと同じことなのか? 女を知るというのは、やっぱりこういうことだったのか?  
それならもう知っている。知っているけれど……ここで「もう知っているから」などとは、とても  
言えない。それに……  
 目の前に立つアンジュ。  
 女の裸。裸の女。  
 静かに燃える青い瞳。首筋に触れた茶色の髪。全身を覆う薄紅色の皮膚。何を隠そうという  
意図もなく脇に降ろされた両腕。重みに垂れながらも誇らかに盛り上がった乳房。その頂点に  
咲く赤茶色の乳首。細めの胴は半ばでさらにくびれ、再び腰に向かって張り出してゆき、腰は  
わずかに開いた、これも細い両脚に支えられ、それが合わさる中心部は、逆三角形に生えた  
暗褐色の毛に覆われて……  
 やせているのに、ぼくより背が低いのに、ぼくを圧倒する、アンジュの、この存在感。  
 ルトも裸だった。でもこんなにまともに向かい合ったことはないし、これほど成熟しても  
いなかった。  
 マロンの時は暗くてここまでわからなかった。確かめようという余裕もないくらい無我夢中だった。  
 それが、いまは……  
 薄暗い部屋の中でも、はっきりとわかる、その全貌。  
 女って……どうして……こんなに……「女」なんだ!  
 マロンを知ったぼくだけれど……ぼくには……まだ、たくさん……知らないことが……  
 知りたいのか? ぼくはそれを知りたいのか?  
『知りたい!』  
 心が叫んだ時には、もう手が身にしたものを解き放ち始めていた。  
 
 リンクが服を脱ぐ。激しい意志のこもった視線をわたしに向けて、何かに取り憑かれたような  
勢いで、どんどん、どんどん、リンクがすべてを捨ててゆく。  
 やがてそれは現れる。若く逞しい男の裸。  
 首筋も、肩も、胸も、腹も、腕も、脚も、中心でいきり立つそれも、むせかえるような若い男の  
力に充ち満ちている。  
 裸のわたし。裸のリンク。二つの裸が向かい合い、じっと向かい合い、いまにも爆発しそうな  
衝動を抱えて、それでも動かずに向かい合い、そして……  
 ぶつかる。  
 リンクの腕が強くわたしを包む。わたしもそっとリンクの胴を抱く。  
 密着した二人の間で、乳房はリンクの胸板の圧力につぶれ、下腹はリンクの屹立にぐいぐいと  
押され、いま一度、リンクの唇がわたしに吸いつき、舌が挿しこまれ、わたしはそんなリンクの  
さまざまな男の部分を味わって……  
 一歩、引く。リンクが一歩、前に出る。  
 さらに、引く。リンクがさらに、足を送る。  
 一気に後ずさり、背中からベッドに倒れこむ。密着を保ったまま、リンクがわたしにのしかかる。  
 顔が離れる。ぎらぎらと男の欲望に燃えたリンクの目。いまにもその欲望を貫いてきそうな  
切迫した目。  
 ──焦っちゃだめよ。  
 いなすように身をずらす。横になって見つめ合う。再び攻めかかる機を図るこわばった顔に、  
ちらりと笑みを投げておき、先まわりしてリンクを握ってやる。  
 きゅんと身体を固め、くっと目を閉じ、かっと口を開いて──はあっ……と荒い息を漏らすリンク。  
 そっと、そっと、揉んでやる。ゆっくりと、ゆっくりと、しごいてやる。ぬるりと露出した  
先端に、さらさらと指をすべらせてやる。  
「……ぅ……あ……」  
 攻めを忘れた、頼りない呻き。  
 ──どう? まだ大丈夫? まだ我慢できる?  
 と、心の中で微笑んだ瞬間──  
「あッ!」  
 こっちが触れられた。わたしのあそこに、指が触れてきた。  
 ──そんなことができるなんて……でも……  
 すっかりぬかるんだ秘裂の中で、ぬちぬちと音を立ててリンクの指が動きまわる。動きまわる。  
快感の破片を散らばらせながらも、しかしその動きは目標への統御を欠いて……  
 ──やっぱり、よく知らないんだわ。  
 余した手をリンクの手に重ねる。綴じ目の上で高ぶる小さな芽に、リンクの指を押しつける。  
「ん……!」  
 続けて、続けて、押しつける。  
 ──ここよ、わかった?  
 力を緩めてやると、リンクは忠実に習った刺激を繰り返す。  
「ん……んあぁ……あ……んん……」  
 じんじんとする快感にしばし身をゆだね、そして次の段階へと、今度は下へ手をずらす。  
リンクの指を、もぐらせる。奥へと、奥へと、送りこむ。  
 ──ここも……知っておいて……  
 教えるという意識を残しながらも、ずぶずぶと、くいくいと活動し始めるリンクの指に、  
「くぅ……ぅ……ん……んぁ……ぁ……」  
 口からは止めようもなく快美の声が漏れる。けれど忘れちゃいけない、と、こちらもリンクを  
握りしめ、  
「うぁ!……あ……」  
 互いを手と指で攻め合う二人の、荒ぶる呼吸と動物的な呻きが、密閉された部屋に充満してゆき……  
 ──もう……いいわね……  
 仰向けになる。上にリンクを引き寄せる。股を開いてはさみこむ。手にしたリンクを中心に  
あてがう。  
「来て、リンク……」  
 
 触れている。ぼくの先端が触れている。  
 いままでぼくの指が入っていた場所。これからぼくの物が入ってゆく場所。マロンの時には  
じっくり感じる余裕もなかった、女の入口の、この熱さ。この潤み。  
「いいのよ……来て……」  
 アンジュがささやく。手がぼくを引き入れる。先がもぐりこむ。なおも熱く、なおも潤んだ  
その中に。もうじっとしてはいられない! もう入らないではいられない!  
 ずん!──と一気に貫く。  
「あぁッ!……ぅぅ……ぅ……」  
 アンジュが呻く。がっと背をかき抱かれる。その力に、アンジュの中のぼくもぐいと  
押しつけられて……  
 いい。耐えられない。このまま、このままぼくは……いますぐにでもぼくは……  
「動かないで」  
 アンジュの声に衝動が止まる。  
「まだよ」  
 下から見上げるアンジュの目。かすかな笑み。そこに秘められた何かの企み。  
「ぉあッ!」  
 思わず声が出る。思わず目を閉じる。ぼくを包むアンジュの襞。それがぼくを締めつけて、  
放して、締めつけて、放して、ぴったりとくっついたかと思うと、さやさやと撫でるように、  
まるでそこだけが別の生き物であるかのようにぼくを……ぼくを……  
「どう?」  
 静かな声。ぼくはそれに頷いて、ただ頷くことしかできなくて……  
 蠕動が続く。アンジュがぼくを弄ぶ。強く、弱く、長く、短く、じわじわと、ひたひたと、  
少しずつ、少しずつ、ぼくを追いこんで、ぼくを追いつめて……  
 ぼくは女の中にいる。女に包まれている。マロンの時と同じように。だけどマロンの時とは  
全然違ってもいて。これも女。これがアンジュ。アンジュ。アンジュという女!  
「あ……くッ……」  
 あれが来る。このままだとあれが来る。もう……もうそこまでそれは来て!  
 不意に蠕動が止まる。  
 暴発寸前で解放され、大きく息を吐く。  
「そのままでいて」  
 続けて息を吐きながら、アンジュに従い、身体の力を抜く。  
 落ち着け。落ち着け。まだ早い。まだ早い。  
 ぎりぎりの切迫感が引いてゆく。引いてゆく。危機を脱して安んじた、その直後。  
「あッ!……う……ぉ……」  
 またもアンジュが蠕動し始める。もう一度それはぼくを弄んで、追いこんで、追いつめて……  
 止まる。  
 それが幾度も繰り返される。その間、優しくも厳しいアンジュの言葉がぼくを縛りつけ、ぼくは  
一寸たりとも動くことを許されない。ただアンジュに翻弄されて、アンジュのなすがままになって、  
アンジュの女を徹底的に味わわされて……  
 
 寄せては返す快感の波。その波は、押し寄せるたびに高さを増し、振幅を増し、これ以上は  
どうあっても耐えられないという限界まできたところでアンジュが──  
「よく我慢したわね」  
 目をあける。きれぎれに必死の息をつくぼくの下で、アンジュが微笑む。余裕をこめてゆったりと、  
しかし目には爛々と何かを求める炎を燃え上がらせて。  
「もういいわ……して……存分に……」  
 ようやく許しを得て反射的に動き出そうとする身体。でも……でもそれをぐっと抑えつけ……  
 アンジュはここまでぼくに感じさせてくれた。だから……  
「今度は……アンジュが……ぼくを……感じて……」  
 え?──と、意外そうなアンジュをよそに、ぼくは動き出す。すぐにも噴き出させたい欲求に  
耐え、耐え、耐え、ゆっくりと、ゆっくりと、ぼくは進み……退き……進み……退き……  
煮えたぎる坩堝の奥底まで侵攻しては……どろどろと熱い液体をこぼれさせる入口まで退却し……  
大きく……大きく腰を前後させて……静かに……静かに……けれど力をこめて……こめて……  
「ぁ……ぁ……ぁぁ……ぁぁぁあああああ……」  
 アンジュの口が少しずつ開き、少しずつ声が絞り出され、少しずつ声は大きくなり……  
 ──感じてる? アンジュは感じてる? アンジュはぼくを感じてる?  
「ああ……リンク……感じる……感じるわ……」  
 ──もっと、もっと感じて……ぼくを感じて……  
「リンク……もっと……ああ……もっと……」  
 アンジュの腰が動き出す。ぼくをくわえこんだまま、ぼくの動きに呼応して、ぼくが進めば  
前に突き出され、ぼくが退けば後ろに引かれ、二人が触れる幅を倍にしようとして、二人の感じる  
悦びを倍にしようとして……  
「はぁッ!……はぁッ!……リンク!……あぁんッ!……」  
 速くなる。アンジュの動きが速くなる。ぼくも合わせて速くなる。  
「あぁッ!……うぁッ!……もっとッ!……リンクッ!……」  
 速くなる。速くなる。速くなる。動きが、摩擦が、声が、衝撃が、快感が、何もかもが、  
「あッ!……あッ!……あッ!……あッ!…あッ!…あッ!…」  
 二人の共有するあらゆるものがただその一点に向けて真っ逆さまに加速する。加速する。  
 もう止められない! もう引き返せない! もう最後まで行くしかない!  
「あッ! あッ! あッ! あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!」  
 ──アンジュ! アンジュ! ぼくは! ぼくは!  
「あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!」  
 ──もう! アンジュ! どうか! ぼくと! ぼくとぼくとぼくとぼくとぼくと!!  
「あッ!あッ!あッ!あッ!あッ!あ……ぁ……ぁぁ……ぁぁぁあああああああーーーーーーッッッ!!!」  
 アンジュの絶叫が空気を裂き耳を貫き脳髄を撃ち──  
「アンジュ!」  
 小さな叫びとともに──リンクもまた、アンジュの深奥でおのれを爆発させた。  
 
 達してしまった。  
 そのつもりはなかったのに。  
 ぐったりと力を失って傍らに横たわるリンクを抱き、自らも陶然と絶頂の余韻に酔いながら、  
アンジュはぼんやりと考えていた。  
 自分が行き着かなくてもよかった。ただリンクに女を感じさせてやりたかった。わたしという  
女を、リンクにしっかりと感じてもらいたかった。そのために、わたしができる最高のやり方を、  
リンクに披露してやったのだ。  
 中に迎えた男を歓待する技術。  
 彼との体験で覚えたこと。最初は無意識の動きだった。だけど悦ぶ彼を見て、彼が悦ぶのが  
嬉しくて、もっともっと彼に悦んで欲しくて、わたしは技を磨いていった。  
 それはわたしの武器になった。わたしが娼婦としてやってこられたのも、この技があったからだ。  
これを使ってやれば、どんな男だって、あとは我を忘れて一直線に最後まで突っ走ることになるのだ。  
慣れない男なら、これだけで射精に導くこともできる。  
 ところが、リンクは……  
 最後まで至らないように手加減していたとはいえ、わたしの技に耐えただけでなく、その上で  
なお自分を保って、自分の意志をもって……  
『今度は……アンジュが……ぼくを……感じて……』  
 あのリンクの言葉。思い出すだけで胸が熱くなる。  
 そんな言葉をかけられたのは初めてだ。金のために抱かれた男たちはもちろんのこと、彼や  
シークでさえ──心の中では思っていたに違いないが──そんなことを直接わたしに言いは  
しなかった。男としては照れ臭くなる台詞だろう。けれど、リンクの、その馬鹿正直なまでの  
まっすぐな気持ちがわたしを打って……言葉にもならない喘ぎしか吐き出せないほどにわたしを  
舞い上がらせて……わたしを絶頂させてしまったのだ。  
 でも……  
 その情熱だけでは頷けない。  
 リンクはシークのような技巧を持ってはいない。秘部への触れ方も慣れたものではなかった。  
それでもリンクは自分からそこに触れてきた。ディープキスの経験もあるに違いない。何より、  
あそこまで耐えて、なおかつ自分を忘れずに行動できるなんて……  
「リンク」  
 腕の中で、目を閉じて静かに息を整えている若い男に、アンジュはそっとささやきかけた。  
その男が、ぼうっとした目を向けてくる。  
「ほんとうは、初めてじゃなかったんでしょ」  
 意味が伝わるのに少し時間がかかった。が、やがてリンクは目を伏せ、  
「……うん……」  
 と頷いた。  
「どうして嘘を言ったの」  
「……え?」  
「女を教えて欲しいだなんて……リンクはもう知ってたんじゃないの」  
 気まずそうに、しかし真面目な顔で、リンクが答える。  
「嘘じゃないんだ。ただ……」  
「……ただ?」  
「……女を知るっていうのが……このことだとは……思わなくて……」  
 唖然とする。と同時に、またも笑いがこみ上げてくる。  
 すでに知っていたことを、知らないと思いこんでいたと? リンクの性知識は、いったい  
どうなっているのか。  
「何回目?」  
「……二回目」  
 やっぱり、まだ慣れてはいないのだ。  
 
「それでも、どうして子供が生まれるのかは、わかったわけね」  
 かつての会話を思い出し、からかうように言ってやる。が、リンクは、  
「え?」  
 と不思議そうな顔だ。  
「七年前、わたしに訊いたでしょ。どうしたら子供が生まれるのかって」  
 リンクは黙っている。  
「……わかってないの?」  
「……あ……うん……」  
 ああ、またしても。何という奇妙なアンバランス!  
 わたしが教えてあげないと。  
「セックスよ」  
「……セックス……って?」  
「いまわたしたちがしたこと」  
 絶頂時にペニスから噴出する液体のことは──精液という名称は別として──さすがにリンクも  
知っていた。けれどもその意味はわかっていなかった。  
 アンジュは順を追って詳しく説明していった。  
 セックスによって男が女に送りこむ精子と、女が体内に有する卵子との結合。受精、受胎、妊娠、  
そして出産。  
 リンクは目を丸くして聞いていたが、話が一区切りついたところで、強迫的なほどの真剣さを  
もって言葉を発した。  
「確かアンジュは……前に言ったよね。男と女が結婚したら、子供が生まれるんだって」  
「そう、それが普通よ。だけど、ほんとうは、結婚してなくても、セックスすれば子供はできるの」  
 もう真実を知られてもかまわない。いや、いまこそ真実を知らせておくべきだ──とアンジュは  
考え、そう告げたのだが、聞くやいなや、リンクはがばと身を起こし、目に見えて動転した挙動を  
示し始めた。  
「じゃ、じゃあ、アンジュは……アンジュはぼくの子供を産むの? ぼ、ぼくは、どうしたら……  
いや、アンジュだけじゃない、マロンは……」  
 自分の知らない名前が出たことに気づいたが、それ以上にリンクの早合点がおかしく、  
アンジュは声をあげて笑ってしまった。その笑いにさらに茫然とし、惑乱の極みを呈するリンクに、  
「笑ったりして、ごめんなさいね。でも──」  
 セックスしたからといって必ずしも子供ができるということにはならないのだ、と、とりあえず  
言っておき、アンジュは教育を続けていった。  
 ハイリア人女性の月経周期はきわめて規則的であり、よほどのことがない限り、一日とずれる  
ことはない。月経周期は三十日で、月経開始から排卵までが十五日、さらに次の月経開始までが  
十五日。月経期間は四日間。ここで重要なのは、妊娠可能な期間も排卵から四日以内と決まって  
いることで、それ以外の時期のセックスは決して妊娠をもたらさない(もちろんその時期内で  
あっても、必ず妊娠するというわけではない)。  
 さらにハイラルの暦では、一年が三百六十日で十二ヶ月、つまり一ヶ月が常に三十日で、  
月経周期と一致するから、各々の女性にとって、月の何日に月経が始まり、何日に月経が終わり、  
何日に排卵が起こり──そして何日から何日までが妊娠可能か、逆に言えば、妊娠の可能性のない  
期間がいつなのかが、ほぼ完全に決定していることになる。ハイリア人女性はみなそれをよく  
わきまえているので、子供をつくるという同意なしに、女が自らの意思でセックスに臨むならば、  
それは基本的に妊娠の可能性のない時期だと見なしてよい。事実、わたしの場合もいまは妊娠の  
可能性がない時期である──  
 リンクにとっては未知の単語が多く、理解させるには時間を要したが、アンジュの丁寧な  
説明により、最後にはリンクも安心したようだった。リンクは大きく息をつき、再びアンジュの  
そばに身を横たえた。  
 が、リンクの当惑は、まだ解消してはいなかった。それは続くリンクの言葉で明らかになった。  
 
「……セックスって……何なのかな……」  
 アンジュはいぶかしい思いでリンクの顔を見た。リンクは目を合わせようとせず、訥々と言葉を  
続けた。  
「ぼくとアンジュは……結婚しているわけじゃないし……子供をつくろうとしてるわけでもない……  
だったら、何のためのセックスなんだろう……」  
 困惑する。とりあえず端的な答を返してみる。  
「素敵な気持ちになれるわ」  
「うん……」  
 短い肯定。だが深刻な表情は変わらない。  
「確かに……とても素敵で……気持ちがよくて……こんな素敵なことは他にないっていうくらい  
素敵なことだと、ぼくも思うよ。でも……それだけなのかな。セックスって、ただそれだけの  
ことなのかな」  
 言ってしまえば、それだけのことだ。特に、日々わたしが相手にしている男たちにとっては。  
しかしリンクはそんな答には満足すまい。セックスの意味を真剣に考えている。  
 若い。  
 けれど、その若さが微笑ましく、また羨ましい。  
 こちらも真剣に答えてやらなければならない。  
「男が女を求めて、女が男を求めて、セックスしたいと思うのは、自然なことよ。本能と言っても  
いいわ」  
「本能──か……」  
 リンクが繰り返す。動かない表情。納得していない。  
「それは他の人にも言われたことがあるけれど……それですませられればいいんだろうけれど……  
でも……ぼくの中には……それではすませられないっていう気持ちがあって……つまり……ぼくが  
アンジュとセックスして……いや、アンジュだけじゃなくマロンとも……他の人ともセックスして、  
それでいいのか──って……」  
 リンクの口調は次第に熱を帯び、はずされていた視線がアンジュに向けられた。  
「アンジュは、前に、愛のことも言ってたよね。男と女が愛し合って、それで子供が生まれるんだって。  
大人になればわかるってアンジュは言ったけれど、まだぼくには、愛っていうのがどんなものなのか、  
わからないんだ。それがセックスとどう結びつくのかもわからない。わからないんだよ!」  
 激しい感情の吐露をもって、リンクの言葉は終わった。言葉は脈絡を欠いていたが、アンジュには  
リンクの言いたいことが理解できた。そして、リンクが突きつけた容易ならぬ問いは、アンジュに  
即座の応答を許さなかった。  
 どう答えてやればいいか。完全な答は、誰にもできないだろう。  
 アンジュはその糸口を、リンクが二度、口から漏らした名前に求めた。  
「マロン──っていうのは、リンクの初めてのひと?」  
 リンクが頷く。  
「その時のことを、教えてくれない?」  
 口ごもりながらも、リンクは初体験の顛末を語った。  
 牧場の娘、マロン。酷使され、虐待されていた、不幸な少女。その少女に会って、リンクが  
どう思い、どういう行動をとったか。  
 リンクは自分のことのみを述べ、マロンの心情には言及しなかった。しかしアンジュは、  
マロンが抱いていたであろう感情を洞察することができた。マロンがリンクという人物に会って、  
何を思い、何を得たか。マロンと似て不遇な状況にあるアンジュには、それがよくわかった。  
 
 アンジュは慎重に、心をこめて、できる限りの答をリンクに施していった。  
 愛。結婚。妊娠。快楽。そしてセックス。密接に関わり、重なり合いながら、けれども完全に  
一致することのない、それらの事ども。  
 結婚した夫婦のセックス。子供をつくるためのセックス。愛し合う者同士のセックス。  
コミュニケーションとしてのセックス。快楽のためのセックス。いろいろな形のセックスがある。  
男がおのれの快楽を金で求めるだけのセックス(──と、娼婦という自らの例まで引いて  
アンジュは説明した)、さらには強姦という、暴力による一方的なセックスすらある。  
 セックスとはどうあるべきか。人によって考え方は違うけど、わたしの場合は……  
「人と人との繋がりを確かめ合うもの──だと思うわ」  
 男が女を、女が男を、それぞれの相手を、知りたい、理解したいという気持ち。心を許し、  
身体を許し、二人がすべてを触れ合わせ、その繋がりを喜び合う。  
「だから、リンクがそれを望んで、相手のひともそれを望むなら、そうするのが自然なことなのよ」  
 望まないセックスを続けてきたわたしは、望み合う二人のセックスがどんなにすばらしいもの  
なのかを、痛いほどよく知っている。  
「愛のことは──いまは、まだわからなくても──いろいろなひとに会って、そのひとのことを  
知って……そういう出会いを重ねていけば……わかる時が、必ずくるわ」  
 リンクは黙っていた。激しい感情はすでに去り、表情には静けさが戻っていた。が、その沈黙は、  
なおもリンクが心に重みを宿していることを示していた。  
 アンジュは言葉を継いだ。  
「リンクは、言ったわね。マロンと経験して、マロンという一人の人間がそこにあったと理解できた  
──って」  
 小さく頷くリンク。  
「それはリンクが、マロンとの繋がりを確かめられたということなのよ。それに……」  
 間をおき、じっとリンクの目を見つめながら、アンジュは言った。  
「マロンはリンクに抱かれて幸せだったと思うわ」  
 リンクの目が動いた。みるみるうちに、そこにはまたも大きな感情が湧き上がってきた。  
「そう……思う……?」  
 静かに答える。  
「ええ」  
 目に感情を湛えたまま、リンクは絶句し……そして、その感情を口にした。  
「……そうであって欲しいと……そうに違いないはずだと……思ってはいたけれど……アンジュに  
そう言ってもらえたら……ぼくは……」  
 リンクは目を閉じた。感情をじっくりと反芻しているようだった。やがて再び目を開いた時、  
深刻な懸念の色はリンクの顔から消え去っていた。  
「ありがとう。アンジュが教えてくれたことは、よくわかった──と思う」  
 そこで表情をゆるめ、リンクは訊いてきた。  
「アンジュは? ぼくとセックスして、アンジュはどう?」  
 まあ──なんてあからさまな。  
 どこまでもまっすぐなこと。  
 でも、リンクの、そのまっすぐな真情ゆえに──二人で話すことができて、二人で笑い合う  
ことができて、そしてリンクに感じてもらうことができて、リンクを感じることができて……  
「幸せよ、とても……」  
 アンジュは微笑み、訊き返す。  
「リンクは?」  
 はにかむように口元をほころばせ、リンクは答える。  
「アンジュと、こうならなかったら、こんなにたくさんのことはわからなかったし……こんなに  
落ち着いた気持ちにも、なれなかったよ」  
 二人は優しく抱き合った。  
 
 アンジュと、こうならなかったら、こんなに落ち着いた気持ちにはなれなかった。  
 たったいま自分が言った言葉を、何度も心の中で繰り返しながら、その安寧をもたらしてくれた  
相手の肌を、リンクは静かに味わっていた。アンジュの身体は、リンクの胴と両腕によって  
すっぽりと包まれてしまうほど細く、はかなげであったが、その内にある真心は、深遠な癒しと  
なって、逆にリンクを大きく包んでいるのだった。  
 セックスのこと。愛のこと。  
 アンジュの言葉は、ぼくがこれまで思い惑ってきたことに、ひとつの決着をつけてくれた。  
完全な答とはいえないのかもしれない。まだわからないことは残っている。それでも、いま、  
この時ほど、自分自身を素直に受け入れられ、かつそれが安らかに感じられたことはなかった。  
 心を解放し、飛翔させ、しかし身体はその場にとどめ、リンクはアンジュの慈しみを快く  
おのれに染みとおらせていった。  
 どれほどの時間が経ったのかわからなかったが、やがてリンクは、アンジュがそっと身を  
離すのを感じた。  
「もうお昼になるわ」  
 アンジュは穏やかに言い、ベッドから降りると、全裸のまま部屋から出て行った。  
 ベッドに横たわって待ったが、アンジュは戻ってこなかった。不思議に思って耳をすませると、  
台所の方から物音がする。リンクはベッドから降り立った。服に手をかけたが、アンジュが  
裸なのに自分だけが着衣するのも変な気がし、戸惑いながらもそのままの姿で、台所に顔を  
出してみた。  
 後ろ姿のアンジュが、竈に向かって盛んに手を動かしていた。リンクが出てきた気配を  
感じたのか、アンジュはふり返り、  
「もうちょっと待っててね。いまお昼ごはんにするから」  
 と明るく笑いながら言った。  
 リンクは椅子に腰かけ、アンジュの作業を見守った。軽やかともいえる身のこなしで、  
アンジュは台所の中を移動した。それは食事の支度としての機能的な動き以上の何ものでも  
なかったが、動いているのが全裸の女性であることで、そこには奇妙な美が醸し出されていた。  
アンジュは自分が何も身に着けていないことなど気にもとめない様子であり、その自然な態度が、  
なお幻想的な趣をリンクに感じさせるのだった。  
「あり合わせのものしかなくて、悪いんだけど……」  
 供されたのは、芋と野菜の炒め物、朝と同じスープ、そしてパンという、言葉どおりの質素な  
メニューだった。だが極度に切り詰めた食生活を続けてきたリンクにとっては──朝食も同様で  
あったが──充分ご馳走の範疇といえる内容だった。アンジュの裸体は相変わらずその場に  
しっくりと調和しており、リンクは自分も同じ姿であるということを忘れ、心身ともに満たされた  
思いを得るのだった。  
 
 昼食を終えたのち、アンジュはふと思い立って、伸びかけた髭を剃ってやろう、とリンクを  
誘った。リンクはあわてたように辞退したが、アンジュはかまわず剃刀を手にし、リンクの前に  
位置を占めた。顔をきれいにしてやりながら、若々しい男の匂いを感じて、アンジュの胸は高鳴った。  
 髭剃りをすませてから、アンジュはリンクに勧め、内井戸の水で身体を洗わせた。次いで自分が  
身を清めた。濡れたタオルで身体を拭く、その動作を、昼食時には抱かなかった意図をもって、  
アンジュはリンクに披露した。顔、両腕、脇、乳房、腹、両脚、そして両脚の間へと、余すところなく  
手を這わせ、各部の曲線を強調させるように、執拗に撫でまわして見せた。それから目を離せず、  
明らかな男の反応を示し始めたリンクのさまをひそかに楽しみ、アンジュの胸は、さらなる  
企てに向け、熱を増し続けていた。  
 リンクの童貞は得られなかった。けれどリンクが知らないことは、まだ多く残っているはず。  
『それを全部、教えてあげるわ』  
 
 
To be continued.  
 
 
 

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