二人は寝室に戻った。服を着ようとするリンクの腕を押しとどめ、アンジュは言った。  
「もっと知りたいの。リンクのことを」  
 リンクの目が固まり、次いで、揺らめき始める。その揺らめきを煽るように、言葉を続ける。  
「リンクは、もう知りたくはない? わたしのこと、女のことを」  
 答はない。が、ぎゅっと腕をつかまれる。それが答だった。  
 ベッドに腰かけ、リンクを隣にすわらせる。予定を訊くと、二、三日は村にいる、との返事。  
ならば、と意図をこめ、誘いをかける。  
「じゃあ、その間、うちにいて」  
「うん……」  
 頷くリンク。顔がこわばっている。こちらの意図を察している。  
 ひそかに満足の笑みを漏らし、リンクの肩を抱いて、ベッドの上に寝転がる。  
「続きよ」  
 すでに全裸の二人。すぐに行為が始まる。唇を触れ合わせ、互いの肌の隅々まで手を伸ばし、  
さっきのおさらいとばかりに秘部への愛撫を交換し……  
 ひとしきりの接触ののち、リンクを仰向けにとどまらせ、全身に舌を這わせてゆく。唇から頬、  
額、首、肩、腕、手。  
 次は胸に。乳首を吸ってやる。  
「ぅ……」  
 と小さな呻き。  
 男は女ほどには感じないはずだけど、リンクはけっこう敏感みたい。  
 続けて腹、腰。とんで、脚。そして……  
 下半身に覆いかぶさり、すでに天を衝く勢いのそれに手を添え、先端に軽く接吻する。  
 はっ──と短く息を吸うリンク。訊いてみる。  
「これは、経験ある?」  
 無言の頷き。  
 あら、そうなの。マロンはずいぶん積極的だったのね。でも、わたしだって……  
 亀頭を唇で軽くこする。表面にぐるりと舌を這わせ、縁をなぞり、裏筋をくすぐる。透明な  
液体をあふれさせる小さな口に、つんつんと触れる。続けて根元まで舐め下り、再び先に戻って、  
口に含む。舌と口蓋と頬粘膜の動きで包みこみ、断続的に咽頭まで届かせる。  
 一連の操作を繰り返す。舌で、唇で、口で、上から下まで、じっくりと味わう。二つの袋も  
含めて。手と指の刺激も加えながら。  
 密生した陰毛が顔に触れる。そそり立つ陰茎の逞しさ。シークよりも濃い。シークよりも太い。  
中性的なシークとは違う、明らかな男の様相。  
 その男が、ひたすら息を荒げている。わたしの口技に酔いしれて。まだ慣れていないリンクの  
こと、いまはこのくらいで……  
 口を離し、身を戻して、リンクと顔を合わせる。頼りなげな目を向けてくるリンク。  
 そんな目をしないで。さあ、次は──  
「リンクの番よ」  
 
 先刻、女の部分にさんざん翻弄された物を、今度は口で攻め立てられ、リンクは快感に振り回された。  
口の方が、もっと複雑で、もっと巧みだった。マロン以上に玄妙なアンジュの技を、リンクはただ  
甘受するのみだった。  
 高まりつつあったところで、放り出された。こっちの番と。  
 どうするか。  
 同じようにしてやるしかない。  
 アンジュに倣って、舌を這わせる。思いつく限りの場所に。思いつく限りのやり方で。  
 できるだけ均等に、とは思うものの、やはり興味はそこに集中する。  
 胸。乳房。女の証となる、その隆起。  
 柔らかい二つのふくらみの間に顔を埋める。手で撫で、触れつつ、左の頂点を口に含む。唇に  
はさみ、舌で転がす。さっきアンジュにされたように。  
「は……」  
 アンジュのため息。感じている。これでいいんだ。  
 次いで右。同じように。深くなるため息。よし。  
 ふと思いつき、歯で軽く噛む。ぴくりと痙攣するアンジュの身体。  
 どうだ? いいのか? もう少し強く?  
「つッ!」  
 アンジュの顔が歪む。  
「あんまり強く噛まないで。敏感な所だから」  
「……ごめん」  
 わかった。どの程度にしておけばいいか。優しく。あくまで優しく。  
 しばらく両胸と戯れたのち、執着を抑えて、下半身に挑む。  
 下腹部の茂み。それが間近に。自分にも生えている毛が、女に生えているというだけで、  
どうしてこんなに胸を騒がせるのか。そして……  
 その奥にある女の部分。挿入したことはあっても、見たことはない。そこは……いったい……  
どうなって……  
「ここを見るのは初めて?」  
「……うん……」  
 見透かされた。なぜわかるんだろう。態度に出てしまっているのか?  
 いいじゃないか。知らないものは知らないんだ。アンジュに……教えてもらえば……  
「見せてあげる」  
 言葉とともに、脚が広げられる。思わず顔を寄せてしまう。男を受け入れるそこは……そこは……  
 驚く。  
 これが……女なのか!  
 黒ずんだ構造の中に、ぱっくりと開いた陥凹。周囲と対照をなす、鮮紅色の粘膜。複雑な、  
奇妙な、だけどきれいな、生き物のような……例えるなら……そう……何かの花のような……  
そして、そこは……  
「濡れてる……」  
 これまでにも触れてわかっていたことだけれど……実際に見てみると……なんて不思議な……  
泉のようにしたたって、きらきらと光って……  
「女は感じるとこうなるの。男だってそうよ」  
 そういえば……さっきアンジュに触られた時、ぼくの先端はぬるぬるとすべって……  
「どうして……」  
 思わず漏らした疑問を、アンジュが解き明かしてくれる。  
「二人がそこを優しく触れ合わせられるようにするため」  
 そうか、こすれても痛くないように……  
 
「女の身体を教えてあげるわ。いい? ここが──」  
 指で示しながら、アンジュが各部の名称と、その役割を述べ始める。どれも初めて聞く言葉。  
不思議な語感。不思議な音列。  
「──で、この奥に、子供が宿る所があるの。指を挿れてみて」  
 挿れてみる。もう挿れたことがある場所なのだが、「膣」という名前を知ったいまでは、同じ  
ようにぬめった感触にも、新たな印象がかき立てられる。  
「もっと奥よ。そっと……伸ばして……」  
 そっと伸ばす。奥へと。奥へと。やがて指先は感じ取る。こりっとした固く丸い部分。  
「そう……それが子宮……子宮の入口……」  
 子宮。この中に子供が。膣に出された精子が、この中に入って……  
 感動すら覚える、その実態。  
 その感動に心を揺らすうち、アンジュの呼吸が速くなる。どうして? ああ、そうか。ぼくが  
指を挿れっぱなしだから……  
 そっと、抜く。アンジュが、はぁッ──と息を吐く。  
「そういえば……男の方の場所の名前を、リンクは知ってるの?」  
「よくは……」  
 再びアンジュが名前を挙げ始める。ぼくを手に取って。ぼくの……「陰茎/ペニス」を……  
触りながら……  
 知っている名前もあれば、知らない名前もある。でも、もうわかった。理解した。男と女の  
性器の名称と、その役割。  
 アンジュが微笑む。  
「じゃあ、リンク……わたしを、口で……してちょうだい……」  
 そう、ぼくの番。さっきはアンジュに口でしてもらった。だから今度は……  
 広げられたアンジュの股間。開いた部分に顔を近づける。左右に割れた二重の隆起。厚く  
ぽってりとした外側の堤と、薄く皺の寄った内側の壁と。  
 陰唇。  
 まさに唇のように……唇……唇なら……キスしなくちゃいけない……  
 キスする。熱い。柔らかい。  
 舐める。酸っぱい。粘っこい。  
 舌を伸ばす。奥へと。そこに迎えてくれる舌はない。ただ深い隧道だけが──膣だけが──  
続いている。ほんとうはペニスが収まる場所。舌を固めて送りこむ。出し入れする。小さな硬直。  
小さなペニス。  
「ああ……リンク……上手よ……」  
 そう? ほんとうに? それなら……  
 残った場所。陰裂の上の合わせ目にある、小さいしこり。男の亀頭と同じように、女の最も  
敏感な場所。  
 陰核/クリトリス。  
 そっと、舐める。  
「んッ!」  
 アンジュが固まる。  
 そっと、吸う。  
「あッ!」  
 アンジュが震える。  
 そっと──ああ、ここは敏感な場所、優しく、優しく──噛む。  
「きゃッ!」  
 アンジュが跳ねる。  
 繰り返す。刺激を繰り返す。恥毛の感触を顔に得ながら、そこばかりでなく全体を。アンジュの  
性器の全体を。  
「あ! リンク! 待って! 待ってぇッ!!」  
 切迫した調子を感じ取り、叫びに従って動きを止める。大きく肩を上下させ、喘ぐアンジュ。  
ややあって、口を開く。  
「もう、いいわ……次に……行くわよ……」  
 次に? 何だ? 本番のセックス?  
 考える暇もなく、アンジュがぼくを押し倒す。仰向けになったぼくに、アンジュがかぶさる。  
逆向きに。アンジュの股間がぼくの顔の上に。アンジュの顔がぼくの股間の上に。これは……  
ひょっとして……  
 
 危うく達してしまうところだった。リンクが口を使うのは初めてのはずなのに。  
 わたしもそんなに経験を積んでいるわけじゃないから──口でされるのは、キスと同じく、彼と  
シークに次いで、まだ三人目だから──かもしれない。でも、それにしたって……  
 単なる技術ではない。これも、相手を悦ばせようとする誠実な心根の表れなのか。  
 けれど、教えるんだから、負けてはいられない。  
 見下ろす形になったリンクの屹立を、まずは手に握りしめ、ごしごしとしごきたてる。  
「うッ!」  
 リンクが呻く。その口に股間を押しつけ、呻きを封じる。べたり──と動きのない接触。が、  
すぐに口が動き出す。さっきのように、リンクが口で攻めてくる。  
 背筋を這い上がるぞくぞくとした感覚に震えつつ、こちらも攻めを開始する。  
 さっきは手控えしたけど、もう、それもなしよ。  
 かぶりつく。口の中を総動員して、固まりきったそれをなぶりつくす。  
 両の尻にかかるリンクの手に力がこもる。しこりを舐められる。唇を食べられる。舌を突っこまれる。  
 迫り来る快感と戦いながら、激しく頭を上下させて、口を膣にして、締める。絞る。吸いこむ。  
 リンクの腰が固くなる。筋肉が収縮している。リンクも戦っている。射精の欲求と戦っている。  
 ──いって!  
 防壁を打ち破るべく、アンジュは最後の攻撃に入った。  
 
 互いの秘所に口づけ合う。思いもしなかったその行為に、ぼくはいま嵌りこんでしまっている。  
可能な限りアンジュを攻め、同時にアンジュの攻めをも受け……  
 さっきぼくを振り回した快感よりも、さらに桁違いに大きい快感が、ぼくを取り囲む。ぼくを  
縛りつける。ぼくを打ちのめす。  
 もう……近い……このままだと……このままだと……  
「……出ちゃうよ……」  
 口を離して警告する。アンジュは止まらない。それどころか、ますます動きを速めてゆく。  
聞こえないのか。  
「アンジュ……だめだよ……いきそう……」  
 まだ止まらない。  
「離れて……すぐ……出るから……」  
 まだ。  
「アンジュ!」  
「いいの!」  
 さえぎられる。やっと口を離したアンジュの、激しい意思表示。  
「出して! 口の中に!」  
 ──口に中に出す!?  
 必死で意味を反芻しようとする間にも、アンジュは再びぼくをくわえこみ、激しい動きを継続する。  
 いいのか? いいのか? 口の中なんかに。  
 そうか! セックス、これもセックス、口でするセックスなんだ! いいんだ! 出していいんだ!  
このままいってしまってもいいんだ!  
 安堵が防壁をがらがらと崩し、巨大な波が押し寄せる。  
 ──来た!  
 びゅん! と逸走する快美。どくどくと撃ち出される弾丸。そして──  
 ごくり、と嚥下音。  
 ──飲んだ!?  
 顔面をぐいとアンジュの股間に押しつける。口も、鼻も、顎も、すべてをアンジュに、アンジュの  
ために!  
「んーーーーーんんんッッ!!」  
 くわえたままの喉から絞り出される終局の呻き。アンジュの全身が硬直し、どっと尻が落ちてくる。  
その重みを敢えて受け、顔を塞がれたぼくは、もう、息もできなくて……  
 それでもいい。  
 アンジュは、ぼくを……ぼくの命を……飲んでくれたんだ……  
 限りなく心が震える、それは感激の結末だった。  
 
 絶頂のあとのけだるい忘我にふける楽しみを、アンジュは早々に打ち切った。続けてリンクと  
交わる気はなかった。起き上がり、今度は衣服を身に着け、リンクにも同じようにさせた。  
 時間は充分にあるのだ。ゆっくり進めればいい。リンクの体力のことも考えて。そのためにも、  
他にしておくことがある。まだ日が暮れるには間があるが、そろそろ準備を始めなければ。  
 アンジュはリンクを連れて、村の広場へ赴いた。二人で一緒にいるところを村人に見られる  
ことになるが、そんなことは気にならなかった。  
 シークの場合は、こうはいかない。村を訪れる時、シークは可能な限り人目を避ける。アンジュが  
シークと顔を合わせるのは常に自宅の中のみで、二人して戸外に出ることは決してない。村には  
シークが「インパの息子」であることを知る者が、少数ではあるが残っており、時折やって来る  
ゲルド族に通報されるおそれがあるからだ。が、その理由がなかったとしても、自分はシークとの  
関係を公にはしなかっただろう。娼婦という商売への影響を考えなければならないし、何より、  
年若い情夫とともにいる姿を他人に見られること自体に、ためらいを禁じ得ないのだ。  
 ところがリンクの場合は、全然そんな制約を感じない。リンクとは会ったばかりで、商売への  
影響を顧慮する必要はない、という理由もあるが、シークと同様、身体の関係を持ちながら、  
リンクといる姿を衆目にさらすことには、なぜかためらいの気持ちが湧かないのだった。  
 二人に対する認識の違いのせいだろうか。  
 シークへの想いは尽きないが、その立場は「情夫」という一語で説明可能だ。だがリンクの  
立場は、いったいどう表現したらいいだろう。情夫とは言えない。友人……でもない。ましてや  
単なる知人とは言い得ない。  
 結論の出ないまま、アンジュはリンクと連れだって、広場の一角にある市場へと足を向けた。  
市場といっても、そこは構えの大きな一軒の商店に過ぎなかったが、闇物資の中継地点となって  
いるカカリコ村だけあって、生活に必要な品物は、たいがいその店で購うことができた。  
 アンジュは食料を買いこんだ。パン、ミルク、乳製品、野菜、卵、それにふだんめったに口に  
しない肉類までをも購入した。天候の悪さを反映し、野菜類の品揃えはよくなかったが、値が張る  
ことは承知の上で、できるだけ良質なものをアンジュは選んだ。いくつもの袋がアンジュの手に  
渡った。持ちきれないのがわかっていたので、リンクを連れてきたのだが、全部持とう、と  
リンクは言ってくれた。アンジュは素直にその好意を受け取った。  
 帰途、アンジュは酒場に立ち寄り、女主人に、二日ほど商売を休む、と告げた。客の斡旋を  
してくれているので、事前に言っておく必要があったのだ。女主人は了解し、次いでリンクを  
見やると、馬はどうするのか、と訊いてきた。エポナという馬を預けているのだ、とのリンクの  
説明で事情がわかり、続けての世話をアンジュは依頼した。  
 金額を確かめると、明らかに通常の相場を上回っていた。アンジュは女主人と交渉し、今後は  
追加料金を取らず、リンクがエポナを引き取りにくるまで、すでに支払った額ですべてを賄う  
ことを了承させた。女主人は渋い顔をしたものの、ぼっていたのがばれた後ろめたさのためか、  
文句は言わなかった。そのかわり、詮索するように質問を投げかけてきた。  
「そっちの剣士さんは、あんたとどういう関わりなんだい?」  
 さっきまで自分が考えていたことを訊かれ、アンジュは困ったが、口は咄嗟に答えていた。  
「前からのつき合いで……まあ、弟みたいなものよ」  
「なんだ、親戚かい」  
 当てがはずれたような顔をする女主人には勝手に誤解させておき、アンジュはリンクとともに  
その場を去って、家へと向かった。  
 
 リンクを「弟」という表現したことに、アンジュは自ら感心していた。セックスした相手を  
そう呼ぶのはおかしいのだが、まさにリンクにぴったり当てはまる言葉のように思えたのだ。  
それはひるがえって、自分がリンクの姉という立場にあることを意味する。仮とはいえその立場が、  
アンジュには実に喜ばしく、温かな思いを誘うものと実感されるのだった。  
 そもそも七年前、両親も家族もいないというリンクを無性にいとおしく感じたのが、リンクを  
意識するようになった最初のきっかけだ。当時は母親に近い感情などと思ったものだが、むしろ、  
姉のような、と呼ぶ方が、しっくりくる気がする。いろいろなことを親しく教えてやるという  
立場も考えると、なお。  
 アンジュは横を歩くリンクを見て微笑んだ。アンジュの内心を知るよしもないリンクは、  
きょとんとした顔で視線を返してきた。その無邪気な様子が、なおさら微笑ましかった。  
 
 台所のテーブルに荷物を置かせたあと、アンジュはリンクに、夕食までエポナの様子を見に  
いってはどうか、と勧めた。自分にとって、リンクとともにいる時間をこれからさらに持てるのは、  
心躍ることだったが、リンクをエポナから引き離す時間を長くしてしまうことにもなるのが気に  
なっていた。リンクも気がかりだったのだろう、頷くと、すぐに外へと出ていった。  
「さて」  
 と声に出し、アンジュは夕食の準備を始めた。リンクを外にやったのは、準備の間、リンクが  
手持ちぶさたになるだろうから、という意図もあったのだ。手伝いは期待しなかった。むしろ  
手伝いなどなく、自分ひとりで夕食を仕上げたいという気持ちだった。  
 料理が得意というわけではない。むしろ苦手な方だ。ふだん自分だけの食事を作る時は、どうせ  
食べるのは自分なのだから、と、ついつい手抜きになることが多かった。でも、いまの気分は違う。  
 朝食も昼食も、粗末なものになってしまった。せめて夕食は立派に調えなければ。  
 リンクを歓迎し、ねぎらう意味があることは言うまでもない。が、のみならず、リンクとは  
無関係に、ちゃんとした食事をしようという、ただそれだけの欲求が自分の中に生まれている  
ことを、アンジュは自覚していた。  
 買い物をしながら考えた献立に、一生懸命、アンジュは取り組んだ。味見と調製を念入りに  
繰り返した。神経を使う作業だったが、それが楽しいとも感じられた。  
 
 酒場の女主人は、がめつくとも世話はきちんとしてくれていたようで、エポナは元気を保って  
おり、機嫌も上々だった。馬小屋でしばしエポナと戯れたのち、リンクは女主人の許可を得て、  
短時間、付近を騎乗してみた。エポナはリンクを背に乗せたがっていたらしく、ともすれば逸って  
先へ進もうとし、なだめるのに苦労するほどだった。  
「また来るからな」  
 日が暮れてから、そうエポナに言い置いて、リンクはアンジュの家に戻った。  
 玄関のドアをあけた瞬間、家の中に漂う芳しい匂いに気づいた。台所のテーブルに並べられた  
夕食のメニューは、リンクをさらに驚かせた。  
 牛肉入りのシチューと鶏肉のソテーをメインとし、具の多いスープ、色とりどりの野菜を配した  
サラダ、軟らかいパン、新鮮なチーズなどが、リンクの目を奪い、舌を楽しませた。ハイラル城での  
晩餐ほど豪華で洗練された料理ではなかったが、リンクの経験した中では、それに次ぐすばらしい  
食卓であり、野趣に富むともいえる味は、むしろ、より親しみが湧くものだった。リンクは率直に  
賞賛を述べ、アンジュはいかにも嬉しそうに礼を返した。  
 デザートは手焼きのクッキーで、いつものお茶が添えられていた。こういう雰囲気が家庭的と  
いうものなのかな、と思いながら、リンクは快くそれらを味わった。  
 最後になって、アンジュが酒を出してきた。あわてて断ったが、これも社会勉強だという  
アンジュの勧めに抗しきれず、グラスにわずかに注がれた赤紫色の液体を、リンクはおそるおそる  
舐めてみた。口当たりのいいものを選んだから、とのアンジュの言葉どおり、意外にいける味で、  
やがてグラスは空になった。  
 リンクはアンジュに酒の名前を訊ねた。長ったらしい銘柄で、覚えるのに苦労した。なぜ  
覚えようとするのか、とアンジュに問われたので、正直に返答した。  
「この先、酒を飲む機会があったら、これに限ろうと思って。これならぼくでも大丈夫そうだし」  
 大笑いされてしまった。真面目に言っているのに、と心外に思ったが、アンジュの笑う様子が  
逆におかしく、そして喜ばしく感じられ、いつしかリンクもその笑いに和していった。  
 
「もう寝みましょうか」  
 夕食の片づけもそこそこに、アンジュが呼びかけてきた。その言葉はリンクをどきつかせ、  
同時に身体の奥で眠っていたものを呼び覚ました。食欲が満たされたあとは、別の欲望が喚起される  
番だった。  
 二人で寝室に入る。朝と同じ展開を予想したが、アンジュは脱衣することなくベッドに歩み寄り、  
そこに横たわった。リンクもそれに従った。  
 弱められた灯火のもと、部屋は薄暗く、それでも互いの姿は明瞭に認められる。  
 抱き合う。  
 アンジュの手が頭に、顔に、背に、腕に、尻に、そして股間に伸びてくる。リンクも同様に  
アンジュの全身を撫でる。服を隔てた接触は歯がゆく、しかしそれゆえ素肌への渇望がさらに  
増幅された。寝むというのは言葉ばかりで、二人の活動は徐々に勢いを増していった。  
 両の胸の隆起をなぞると、目を閉じたアンジュが深い吐息を漏らした。ひとしきり左右の弾力を  
味わったのち、左手をアンジュの脚に這わせる。時期を計りかねていると、アンジュの手が  
重ねられ、スカートの中に導かれた。逆らわずにゆっくりと手を動かし、アンジュの中心に至る。  
下着の上から触れ続けるうちに、指が湿りを感じ取る。  
 アンジュがこちらの股間を開放し、硬くなった物をじかに弄び始めた。思わず荒い息を吐き、  
こちらも呼応してアンジュの下着の中へ手を入れる。ざらりとした恥毛の感触。奥で蠢く濡れた谷間。  
 硬直を握るアンジュの手に力が加わり、こする周期を速めてゆく。その快感に身をゆだねつつも、  
我を忘れず、アンジュの内奥をなぶってやる。  
 互いの急所への穏やかな攻めは、アンジュの言葉で中断された。  
「脱がせて」  
 他人の服を脱がせたことなどない。しかも女性。これも教わるべきことのうちなのか。どういう  
ふうにしたらいいのか。  
 戸惑いながらも、アンジュの脱衣の動作を思い出し、服に手をかけ、開いてゆく。不器用だと  
自分でもわかる。だがアンジュの巧みな動きに助けられ、その肌は徐々にあらわとなる。あらわに  
なるにつれ、アンジュの息が深くなり、リンクの呼吸も同期する。  
 下着だけになったところで、今度はアンジュが動き出す。仰向きに制せられ、その手に身を  
任せる。優しい愛撫とともに、リンクは脱がされる。脱がされてゆく。  
 なんという自然な流れ。不器用な自分とは違って。  
 
 あとわずか、という段階で、アンジュは止まる。無言の誘いを察し、白い下着に手を伸ばす。  
 この下にあるアンジュの素肌。見たい。触れたい。感じたい。  
 逸る。逸る。逸る気持ちを抑え、すでに露出した部分を、そしてまだ隠された部分を、ゆっくり、  
ゆっくり、手と指で味わう。  
 速まるアンジュの息。くねるアンジュの身体。まだ。まだ。もう少し。もう少し。  
 自制。その効果が、やがて現れる。  
「……お願い……もう……裸にして……」  
 アンジュが言った。アンジュに言わせた。アンジュに求めさせることができた。  
 ひそかな満足感をもって、けれどもまだゆっくりと、白い布を剥いでゆく。剥いでゆく。胸が、  
下腹が、さらされる。アンジュのすべてがさらされる。  
 見る。アンジュの肢体を目に焼きつける。ほっそりと、しかし熟れつくした、美しい大人の女性。  
 アンジュ。目を閉じて。仰向けに横たわって。それでもこちらの視線を感じて。見られている  
ことを知って。見せつけて。  
 動きも言葉もなく、ただそこにいるだけの誘いが、これほど強烈なものだなんて。  
 待つ。アンジュを待つ。  
 動かない。アンジュは動かない。  
「……今度は……ぼくを……」  
 ああ、言ってしまった。言わされてしまった。求めてしまった。  
 アンジュが目をあける。してやったりと言わんばかりの微笑。やり返された。でも、かまわない。  
かまわないから、早く……  
 触れられる。撫でられる。弄ばれる。さんざん焦らされた末に、最後の肌着を奪われる。  
 待ちに待った瞬間。衝動を解放し、アンジュを抱きしめる。強く、固く、あらゆる部分の肌を  
密着させる。  
 日中の復習を兼ねて、絡み合う。高め合う。煽り合う。  
 交錯する手。這いまわる唇。荒れる息。熱する皮膚。滲み出る汗。  
 二人の影が重なり、離れ、重なり、離れ、そしてついに、もう離れたくないと切望する、  
その時が来る。  
 アンジュの上にのしかかる。脚を割って迫ってゆく。見上げるアンジュが、かすかに頷く。  
 言葉はない。言葉などいらない。わかっている。もうわかっている。  
 濡れそぼる陰裂に照準を合わせ、力をこめて、リンクは突入していった。  
 
 膣粘膜をこすりたてる逞しい肉棒の感触に酔いながらも、頭の隅に冷静さを残し、アンジュは  
これからの段取りを考えていた。  
 二度の射精が耐久力を、食事と適量のアルコールが体力と興奮を、リンクに与えている。すぐに  
達することはないだろう。  
 しばらくはリンクのやりたいようにさせた。上に乗ったリンクは、もう心得たもので、一気に  
爆走することなく、セーブしながら緩急をつけて攻め寄せてくる。それに耐えるのは容易ではなく、  
何度となく訪れかける熱狂の罠を、アンジュはかろうじて切り抜けた。  
 やがてリンクは動きの調子を変え、スパートをかける気配を示した。その機先を制し、  
「リンク」  
 と声をかける。腰を折られた形のリンクが、不思議そうな顔になる。  
 ──いいのよ。このままいくんじゃ、もったいないわ。  
「マロンとは、どんなふうにしたの?」  
 なぜこんな時に、と言いたげに、それでも素直に、リンクが答える。  
 正常位と騎乗位。最後までいったのは正常位。  
「そう……じゃあ、別のやり方を教えてあげる」  
 慎重に身体を動かし、横向きになる。巧みに脚を組みかえ、接触を保つ。激しい動きには  
向かないが、穏やかでいたい、いまのような時には、ちょうどいい。  
 断続的にゆっくりとした抽送を楽しんだあと、上半身を離し、結合部を中心として回転する  
ように位置を変える。二人の頭部は遠く隔てられ、交差した両脚の真ん中で、局部だけが密着する。  
これほどの密着感は、他の体位では得られない。  
 腰を振りたて、密着の上にも密着を求める。  
 素敵。感じる。皮膚も含めて、股が全部、性器になったみたい。  
 リンクは? リンクはどう?  
 感じている。リンクも感じている。顔をしかめて、上半身をのけぞらせて、リンクが必死に  
耐えている。  
 限界に達する前に、力を抜く。回転して、再び向かい合う。  
 今度はわたしが上に。また横に。もう一度、下に。  
 正面を触れ合わせたまま次々に位置を変え、ベッドの上を転げまわる。転げまわる。  
 さすがに疲れてくる。少しペースを落とさないと。  
 仰向けになったリンクの上に身をもたせかけ、呼吸を整える。リンクも喘いでいる。喘いでいる。  
けれどわたしの中で、それは、まだ硬く、強く、再攻の時を待って……  
 突然、リンクが起き上がる。すわったリンクの脚の上で、わたしは抱きかかえられる。  
 ああ、これも一つの体位。知ってたの? リンクは知ってたの? それとも自然に? 本能の  
ままに?  
 リンクの口が寄ってくる。キス。キス。キス。絶え間ない唇と舌の交歓。  
 リンクの手が胸を這う。乳房を揉む。乳首をつまむ。撫でられ、つかまれ、なぶられる。  
 口と、胸と、そして性器と。三つの場所が同時に攻められる。攻められる。わたしは……  
わたしは……リンクの背に腕をまわし、腰に脚をまわし、リンクに抱きついて、ただ抱きついて  
……その攻めを受け入れて……受け入れるだけとなって……  
 
 ──だめよ!  
 意志を取り戻す。このまま終わりはしない。  
 締め上げてやる。ぐいぐいと。わたしの武器。わたしのあの技で。  
「あッ!……う……ぁ……」  
 リンクが呻く。  
 この体位では、リンクは自ら動けない。上にいるあたしが有利。そして、もっと優位に立つ  
ために……  
 前のめりに体重をかけ、リンクを再び仰向けにさせる。上半身を離し、腰の上に跨る。  
 騎乗位。もうリンクが知っている体位。  
 いや、まだリンクは全部を知らない。この体位では達していない。いかせてあげる。いかせてあげる。  
この格好でいかせてあげる。  
 すべての動きを解き放つ。上へ、下へ、右へ、左へ、前へ、後ろへ、まっすぐに、そして  
回転させて、ぐりぐりと、さわさわと、腰をひねり、ねじり、中では中で、収縮と弛緩を続けて、  
切って、続けて、切って、できる限りの技でリンクを捕らえ、拘束し、いたぶりつくして──  
 なすすべもなく横たわるリンク。目をぎゅっとつぶって。馬鹿みたいに口をあけて。情けなく  
両腕を投げ出して。  
 どう? わかる? これも女よ。女はこういったこともできるのよ。いきなさい。もういきなさい。  
もうさっさといっちゃいなさい。  
 自覚する。頬に浮かぶ獰猛な笑み。胸に湧き上がる攻撃的な快感。それらを全開にしてとどめを  
刺そうとした瞬間、  
「あんッ!」  
 乳房を鷲づかみにされた。まだそんな余裕が──と思う間もなく、もう一方の手が二人の  
接触部に侵入し、  
「くぁッ!」  
 急所を突く。結合の圧力は手を強くはさみこみ、必然的に急所への刺激も圧を増す。  
 思わず動きが止まってしまう。乳房と陰核への刺激を痛いほどに感じ、感じ、感じ……  
 もう我慢できない。わたしもいきたい。いきたい! いきたい!!  
 ──でも!  
 主導権は渡さない。  
 リンクの両腕をつかみ、胸と股間からもぎ離す。前に傾斜して、両腕をベッドに押しつける。  
リンクの動きを封じておいて、こちらの腰を上下させる。上下させる。上下させる。  
激しく、激しく、激しく激しく激しく!  
 弓なりに反るリンクの背。声にならない叫び。震え始めるペニス。  
 あと少しでいかせられる! いかせてやる! けれど、ああ、わたしもいってしまう!  
 限界まで速められた上下動が、ついに限界の訪れを知り、ぴたりと止まる。が……  
 ──もう一回!  
 腰をじりじりと上げる。粘液にまみれた陰茎が、少しずつ、少しずつ、外気にさらされ、亀頭が  
露出する寸前となった時──  
 ずん!──と全体重をかけて腰を落下させる。  
「ぅあああッッ!!」  
 リンクが吼える。子宮口にぶつかるリンクの先端。噴き上がる男の終末。  
 それを受け、  
「リンッ!……クッッ……!!」  
 しゃがれた呻きとともに、アンジュも全身を歓喜で引き絞らせた。  
 
「どうだった?」  
 激烈な遂情から半時間ほどが経ち、二人の荒れた呼吸の音だけに満たされていた部屋が、  
ようやく静けさを取り戻した時、アンジュがそっとささやいた  
 リンクは、なお深々と息を整えながら追想し、短く答えた。  
「すごかった……」  
 間をおいて、続ける。  
「……特に……最後が……なんていうか……まるで……」  
 言葉を探す。が、適当な言葉が見つからない。アンジュがそれを引き取った。  
「犯されてるみたいに?」  
 その表現にどきりとしつつ、  
「……うん……」  
 と素直に頷く。  
 マロンとも、今朝のアンジュとも、最後は自分が攻める形だった。そんなものなんだと思っていた。  
なのに……  
「セックスでは、普通、女が受け身になるけど……その逆もあるのよ……さっきのように……」  
 夢見るような口調でアンジュは言い、そして、  
「でも、リンクもすごかったわ」  
 と、艶やかに笑ってつけ加えた。  
「そうかな……」  
 自分ではよくわからない。できるだけアンジュを悦ばせてやろうと頑張ったつもりではあるが……  
 何も言わず、アンジュが身を預けてくる。並んで横たわる二人は、互いの身体を緩やかに抱いた。  
 アンジュの肌から火照りが引いてゆくさまを感じ取りながら、しばしの沈黙を経て、リンクは  
再び口を開いた。  
「セックスって……いろんなやり方があるんだね」  
 アンジュが静かに応じる。  
「ええ……でも、リンクの知らないやり方が、まだあるわ」  
「まだ?」  
「そう……まだ……もっと……」  
 アンジュが股間に触れてくる。うなだれたぼくの物に、優しく、優しく、指が触れかかる。  
けれどそれは……疲れきって……アンジュの誘いにも応じられないほどに……  
「もうこれ以上は……だめみたいだ……」  
 失望させてしまっただろうか──と、恥ずかしい気持ちになるが、  
「朝から三回ですもの。勃たなくて当たり前。逆に……三回もできるなんて、立派なものよ」  
 その言葉に安心し、リンクは大きく息をついた。が……  
「じゃあ、触ってくれても、役には立たないよ」  
 アンジュが首を振る。  
「そうじゃないの。こうして触っているだけで、気持ちがいいの」  
「……触るだけで?」  
「そうよ。挿れて射精するばかりがセックスじゃないってこと」  
 確かに……萎えた状態でも、こうして触られていると……いきり立った時のような、研ぎ澄まされた  
快感とは違うけれど……解きほぐされるような、穏やかな気分に……  
 アンジュの背中に、手のひらを這わせる。柔らかな、しかしかすかにざらつくような感触。  
それが不思議に……気持ちよくて……  
 は──とアンジュが吐息を漏らす。  
 感じているんだ。ぼくの手を。  
 これもセックス……セックス……なんだね……  
 深く、静穏な安らぎに満たされ、リンクは眠りの淵に沈んでいった。  
 
 目が覚めたのは明け方だった。  
 窓の外は薄暗い。アンジュは隣で寝息をたてている。起きるには、まだ早いか……  
 身体を動かそうとした時、リンクは気づいた。  
 自分は右を向いて横になっている。そっちではアンジュが仰向けに寝ているが、その左手が  
ペニスを軽く握っているのだ。  
 ゆうべ、アンジュもあのまま眠ってしまって、いままで二人とも身動きひとつしなかった、  
ということなのだろうか──などとぼんやり考えているうち、やっと自らの状態が把握できた。  
 勃起している。  
 アンジュに握られていたせいなのか。そんなに強い刺激が加わるような握り方ではないが……  
 リンクはゆったりと腰を前後させた。動かない左手の中で、それはゆるゆると往復し、快感とも  
呼べないほのかな感覚をリンクにもたらした。  
 そのまま怠惰な動きを続けていると、アンジュが目をあけた。焦点の合わない視線をリンクの  
顔に向けたのち、目覚めを呼んだ左手の触覚の原因に目をやり、ぼうっとそれを眺めている。  
「こんなに……」  
 茫洋としたアンジュの声。  
「起きた時には、こうなってたんだ」  
 リンクが言うと、アンジュは眠たげに応答した。  
「……男の人は……朝……こうなることがあるのよ……」  
「どうして?」  
「……さあ……素敵な夢でも……見たんじゃない?……」  
 夢? そんな覚えはないけれど……  
 覚めきっていない脳に思考を漂わせながら、意識するともなしに腰を動かし続ける。  
 気持ちがよくなってきたな──と思い、下を見ると、いつの間にか、アンジュの手も前後に  
動いている。  
「ああ……」  
 思わず声が漏れる。アンジュの顔がこちらを向く。目を半分閉じていて、まだ眠たそうだ。  
しかしその目は潤みを湛え、わずかにではあるが、呼吸が速くなっている。  
 握る力が強くなった。同時に、アンジュの右手に左手首をつかまれ、股間へと引き寄せられた。  
そこはじっとりと濡れていた。  
 欲情してるんだ。  
 思った瞬間、心に火がついた。アンジュをまさぐりながら、腰の動きを強める。息を荒くし、  
アンジュが言う。  
「したい?」  
 頷く。  
 したい。アンジュは?  
 顔を見る。微笑。  
「して」  
 アンジュはくるりと横に転がり、両肘と両膝で四つん這いになった。  
「別のやり方よ……後ろから……して……」  
 後ろから? そんなやり方もあったのか。  
 
 驚きもそこそこに、アンジュの尻に向かう。両脚の間に膝で立つ。  
 どうするのか。いつもとは反対向きだ。けれど場所は同じ。同じように挿れてやれば……  
 すでにどろどろとなった膣口に先端をあてがい、じわりと埋める。  
「んんんーーーーーんんあああ……あ……あ……ああ……あぁぁぁぁぁぁ……」  
 長い呻きに応じて、ゆっくり、ゆっくり、進ませる。まだ進む。これは思ったより……  
「深い……」  
 思わず漏らした言葉に、アンジュがきれぎれの声で答える。  
「そう……この格好が……いちばん……奥まで……届くの……」  
 思い切り突き出して、ようやく進まなくなる。そのまま動かず、みっちりと満たしきった感触を  
楽しむ。  
「胸を……触って……」  
 その要望に応えるためには……上半身を前に倒して、後ろから手を回して……  
 垂れ下がる乳房を両手に捉え、揉みしだく。硬くなった乳首をこねまわす。  
「下も……」  
 そっちにも?  
 二つの乳房を集めて右手に預け、腹に沿って左手を伸ばす。恥毛に触れる。  
「もっと下……」  
 さらに伸ばす。膣に打ちこまれた自分。そのそばの……  
「もうちょっと……」  
 そのそばにあるはずの……  
「ああ、もう少し……」  
 これだ。  
「そこよッ!」  
 そっと押さえる。  
「もっとッ!」  
 力をこめる。  
「まだよッ!」  
 眠気が吹き飛んだような叫びをあげて、アンジュが自らの手を重ねてきた。それでいいのかと  
思われるほどの圧力で、ぐりぐりとこちらの手を押さえつける。ならば、と従い、こねくりまわす。  
「ああッ! いいわッ! 気持ちいいッ!」  
 アンジュの手が離れる。この触れ方でいいということ。  
 左手で陰核への刺激を続けながら、右手にある乳房も翻弄する。さらに、目の前の背中に舌を  
つけ、舐めおろす。  
「はあぁッ!!」  
 悲鳴に近いアンジュの喘ぎ。  
 両手と口と陰茎で、四カ所を同時に攻めている。その満足感。その充実感。  
 が、この前傾姿勢では腰を動かしにくい。  
 挿入した怒張を少し引こうとしたところで──  
「む!……あぁぅッ!……」  
 あれだ。あれが始まった。アンジュの技。アンジュの膣の蠕動。アンジュの反撃。  
 やっぱり……すごい……いや……前よりも……もっと……このままだと……こっちが……先に……  
 上体を起こす。両手で腰をつかむ。他の部分を捨てて、一点のみに集中する。  
 この状態なら、アンジュは手も出せない。這いつくばっているだけだ。こっちが一方的に攻勢に  
出られるんだ。ゆうべはアンジュに「犯された」けれど、今度はぼくがアンジュを犯してやる!  
 リンクは抽送を開始した。可能な限り強く、激しく、アンジュを突きまくった。時には小刻みな、  
あるいは焦らすようにゆっくりとした間奏をはさみながら、リンクは攻め続けた。怒濤のような  
この攻撃の前には、アンジュの技も効果を失い、アンジュはただ、腰を後ろに突き出し、顔を  
ベッドに押しつけ、両手でシーツを握りしめ、悩乱の叫びをあげて酔い狂うだけだった。  
 やがてリンクはアンジュの膣の最深部に残り少ない精を噴射させ、至福のうちに倒れ伏した。  
 
「もう起きたら? お昼が近いわよ」  
 それで目が開いた。声の方に目をやると、ベッドの脇に、笑みを浮かべたアンジュが立っていた。  
 のろのろと起き上がる。  
「あと少しで食事ができるわ」  
「……うん……」  
 答えはしたが、すぐには身体が動かない。アンジュがベッドに腰を下ろし、顔を寄せてくる。  
「疲れた?」  
「いや……それほどでも……」  
 ずっと旅を続けてきた身としては、大した疲労感ではない。ただ、普通の疲れとは違う、  
放心──というに近い、何かが抜けきったような感じがするのだ。  
 今朝の交わりの結果だろうか。  
 交わりといえば……  
 ぼくは全裸のままだが、アンジュはきちんと服を着ている。食事の支度もしているようだ。  
いつ起きたのだろう。ぼくと違って溌剌としていて。心なしか肌もつやつやして。何もなかった  
ように、けろっとして。今朝はあれほど、ひいひい言って乱れていたのに……  
 そこで思い出した。  
「アンジュ」  
「なに?」  
 笑みを絶やさず、首をわずかに傾けるアンジュ。  
「今朝は……ぼく……悪いことをしたんじゃ……」  
「悪いこと?」  
「あんなに……夢中になって……乱暴なやり方をして……」  
「ああ、そのこと」  
 ぱっと笑みが大きくなる。  
「女っていうのはね、あれくらいにされた方が嬉しかったりするのよ。気にすることないわ」  
 そこでアンジュは真顔になった。  
「でも、暴力はだめよ」  
 その様子にリンクも背筋を正す。  
「この際だから言っておくけど、リンクがこの先、女の人とつき合うことになったら、大切な  
ことは──」  
 セックスを無理強いしてはいけない。必ず同意を得ること。相手のいやがることはしない。  
暴力などはもってのほか。  
 人と人との繋がりを確かめ合う、という本質からは当然の帰結だ。リンクは神妙に頷いた。  
「それから、相手が処女で、セックスの経験がない時には──」  
 処女膜というものがあるから、傷つけるつもりはなくても、痛みや出血を伴うことが多い。  
できるだけ優しくしてあげること。  
 どれくらい痛いのだろう、と疑問になったが、自分が感じることのできない痛みだから、  
知りようがない。それだけに思いやりが必要なのだな、と理解できた。  
「じゃあ、起きなさい。食事の前に身体を洗うといいわ」  
 台所の内井戸の水で昨日と同じように身を清めたのち、寝室で着衣し、台所に戻った時には、  
ちょうど朝昼兼用の食事ができていた。バターをのせたパンケーキ、鶏肉入りのサラダ、コーン  
スープ、ミルク、それにリンクの知らない果物がテーブルに並んでいた。果物は甘い中に苦みを  
もっていたが、よく熟れており、容易に喉を通った。他のメニューもリンクの気に入るものだった。  
 食べながら、リンクはこれからの行動を考えた。  
 アンジュにはいろいろと大事なことを教わっているが、ここへ来た目的はそれだけではない。  
探索の方を進めなければ。今日は寝坊してしまったから、デスマウンテンへ行く余裕はない。  
それなら、もう一度……  
 
「墓地を調べにいってくるよ」  
 食事のあと、リンクが言い出した。灯りを欲しがったので、カンテラを貸してやった。昼間  
なのに、と不思議には思ったが、使命について訊かなかったのと同様、詮索はしなかった。  
 リンクが出ていったあと、アンジュは台所の椅子に腰かけ、しばし思いをめぐらした。  
 少し残念だった。今朝の交合中、アンジュは──熱中していたリンクは気づかなかっただろうが  
──三度も絶頂に達してしまっており、その際のとろけるような快感を、肉体が忘れていないのだった。  
 だが、リンクの本来の目的は、神殿の探索なのだ。妨げてはいけない。セックスに溺れきって  
しまわず、なすべきことを忘れずに行動するリンクの姿には、見ているこちらも励まされる。  
 アンジュは椅子から身を起こした。  
 さあ、わたしもなすべきことをなそう。  
 食事のあと片づけをしなければならない。ゆうべの洗い物も残っている。  
 溜まった食器を洗い、調理に使った場所を整理する。テーブルを拭く。汚れたテーブルクロスを  
洗濯にまわす。床の埃が気になり、箒で掃く。気がつくと、台所全体を掃除し始めている。  
 そうなると、他の場所にも手をつけたくなってくる。台所に続く廊下を掃く。寝室の床も。  
そうだ、ベッドを整頓しなくては。数回の性交でシーツも布団も汚れている。窓をあけて澱んだ  
空気を追い出して。暖炉の薪が減っているから補充が必要だ。棚に埃が溜まっている。鏡に手の  
脂がついたままだ。ああ、玄関もしばらく掃いていない。  
 家中の大掃除になってしまう。いや、掃除だけでは治まらない。布団を干して、テーブルクロスと  
シーツを洗って。そういえば、まだ下着の替えはあっただろうか。他の服も。今日中に洗濯して  
おこう。それから夕食の準備を──  
 アンジュは忙しく立ち働いた。一刻も無駄にできないほどの仕事量だった。家の中を飛びまわり、  
休むことなく身を動かし、アンジュはくたくたになった。  
 不思議に心地よい疲労だった。  
 
 真っ昼間に墓石を動かすのは憚られたので、リンクは風車小屋から地下通路に入った。カンテラで  
周囲を照らし、注意深く目を配りながら、何度も往復した。次いで風車小屋を出て墓地に赴き、  
例の石碑、さらには数々の墓標をくまなく調べてまわった。墓地の隅にある掘っ立て小屋──  
シークによれば、ダンペイという墓守の住居だった場所──を調べてみた。墓地を取り囲む山々の  
光景にも目を凝らした。  
 得るものはなかった。  
 力なく村へと戻ったリンクだったが、馬小屋に立ち寄り、再会を喜ぶエポナの勇んだ様子を  
見ると、元気が湧いてきた。目覚めた時の何かが抜けきったような感じも、いつの間にか消えていた。  
しばらくそこで休んだのち、リンクはアンジュの家へと戻った。  
 すでに日は暮れ始めていた。昨日のような夕餉の芳香を期待して玄関のドアをあけたリンクは、  
出かける前とは一変して雑然となった屋内の状況に驚いた。ばたばたと走りまわっていたアンジュが、  
リンクを認めて焦ったように言う。  
「ごめんなさい、片づけが終わってないの。晩御飯の仕度にも、まだ取りかかれなくて……」  
 あわてた口ぶりに、かつてのコッコ探しが想起され、思わず笑みが漏れる。  
「手伝うよ」  
 リンクの言葉に、アンジュは困ったような顔をしたが、背に腹は替えられない、といった様子で  
返事をよこした。  
「じゃあ、お願いするわ。わたしは食事の準備にかかるから」  
 アンジュは台所で竈に向かい、リンクは散らかった場所の整理を受け持った。それをあっちに  
置いて、あれをこっちに持ってきて、というアンジュの指示は複雑で、リンクはしばしば混乱に  
陥った。それでもやがて家の中は、見られるほどに片づいた。ほどなく食卓に夕食の皿が並んだ。  
洗濯されたとおぼしきテーブルクロスには、湿りが残っていたものの、料理へのリンクの関心を  
損なうことはなかった。  
 リンクが初めて見るその料理を、アンジュは「グラタン」と呼んだ。芋と野菜と鶏肉にチーズを  
絡めて焼いたもので、独特の風味がリンクを魅了した。スープやサラダも含め、食材は前日の  
夕食と共通していたが、それぞれに新たなアレンジが加わっており、アンジュの工夫が偲ばれた。  
 デザートは先の食事にも出た果物だった。これはどういったものか、とリンクが訊ねると、  
アンジュは果物の名を言い、  
「食べると元気が出るのよ」  
 とつけ加えた。  
 最後に酒が注がれた。頼むまでもなく昨夜と同じものであり、リンクは安心してそれを味わった。  
 
 グラスを空けたのち、何ごとかを考えるように黙っていたリンクが、おもむろに口を開いた。  
「明日はデスマウンテンへ行くよ」  
 そこに込められた言外の意志を、アンジュは感じ取った。  
「そう……」  
 明朝、リンクはここを去る。今夜がわたしたちの最後の時間。  
 まだ教えていないことがある。教えるには早すぎるかと迷っていたのだが……この際……  
「服がずいぶん汚れているわ。洗ってあげる」  
 話題の転換に戸惑うリンクを、かまわず促し、脱衣させる。すでに見慣れた、けれどもなお  
魅惑的なその肢体を、しばし目で楽しんだあと、アンジュはリンクを先に寝室へと引き取らせた。  
 よほど汚れた時には川や池で洗ったりもする、とリンクは言ったが、実際にはほとんど洗濯する  
ことなどないのだろう、少々のことでは落としきれない汚れが、服にはこびりついており、  
リンクの旅の苦労を物語っていた。服を水に浸し、力をこめて揉みこすりながら、それをリンクの  
新たな出発へのはなむけとできる喜びを、アンジュは快く噛みしめた。  
 そして、これからベッドで展開されることになる、もう一つのはなむけへの思いが、アンジュの  
胸を焦がし始めていた。  
『あの果物……』  
 くすっ──と笑いが漏れる。  
 母親が薬屋であったために知っているのだが、例の果物は栄養価が高く、滋養剤の原料として  
使われる。世間ではこれを精力剤と誤解している人が多く、客の中にも、その原料となる果物を  
欲しがる者がいるので、一つのサービスとして──もちろん誤解を解いてやったりはしないで──  
提供するために、家に置いてあるのだ。  
 リンクは昨日から四回射精している。少ない数ではない。今日の日中は間があいたが、それでも  
体力が心配だった。セックスへの効果はともかくとしても、あれはリンクの体力回復の助けに  
なるはず。  
 洗濯を終え、アンジュは台所に服を干した。  
 ストーブに火を入れておけば、明日の朝までには乾くだろう。  
 入念に身体を洗う。特にあの部分。そこをきれいにするさまを見られるのは、さすがに  
恥ずかしかった。だからリンクを先に寝室へやったのだ。  
 丁寧な作業を続けながら、前がすでに潤み始めているのを感じ、アンジュの心は高ぶりを  
増していった。  
 
 前段はそれまでの復習だった。  
 手と口による長い前戯で互いを高めたのち、さまざまに体位を変えながら、二人は交わった。  
途中で一度、どうにも我慢できず気をやってしまったアンジュに対し、リンクは立派に活動を  
維持し続けた。最後は正常位となり、激しい体動の末、リンクは射精した。変わらぬまっすぐな  
情熱を膣の奥に受け、アンジュも二度目の絶頂に達した。  
 精液は少なく稀薄であり、先が危ぶまれたが、アンジュの優しくも辛抱強い愛撫により、  
リンクはやがて力を取り戻した。  
『ほんとうに元気だわ』  
 果物が予想以上の効力を発揮したのか、あるいは、抑えきれない若さのためか。  
 ただ、いずれにしても、限界は近いだろう。  
 始めよう。  
「リンク」  
 目を寄せ、ささやく。  
「お尻でするやり方を教えてあげるわ」  
 
 最初、理解できなかった。が、次第にアンジュの言葉が意味をなしてゆき、リンクの脳は驚愕で  
満たされた。  
 尻で? あれを? まさか!  
 膣と同じく筒状の器官。挿入は可能かもしれない。けれど、それにしたって……  
「汚いと思うかもしれないけど、これもセックスの一つよ。覚えておいて」  
 ベッドから起き上がったアンジュが、鏡台の前に歩み寄り、そこに並べられた瓶の一つを手に  
して戻ってくる。  
「前の方と違って、自然に濡れない場所だから、すべりやすくしておかないとだめなの」  
 アンジュが瓶をあける。化粧品の一種なのだろう、白っぽいクリーム状のそれを、アンジュは  
指で掬い取った。その指が股間に伸び、もぞもぞと蠢く。  
 仰向けとなり、片膝を立てたアンジュの横に、リンクはにじり寄った。アンジュの手が股間から  
離れ、リンクの手を取る。引き寄せられる。  
「触ってみて。きれいにしてあるから大丈夫よ」  
 その言に背を押され、唾をごくりと呑みこんで、後ろの穴に指を触れさせる。細かい襞が  
集中するすぼまり。潤滑剤があっても、そこは膣口より固く、緊満した隘路だ。  
 ここに……こんな所に……ほんとうに……あれが……  
「挿れて」  
 人差し指に力が入る。反射的に。  
「くッ!」  
 音のない呻きとともに入口が締まる。これも反射的に。  
「ここは……前よりずっとデリケートだから……優しくして……」  
「うん……」  
 そのまま指をとどめる。と、締めつける圧力が不意に緩み、アンジュが、はあっ──と大きく  
息をつく。  
「いいわよ……奥へ……」  
 そろそろと、指を伸ばす。じりじりと、指が入ってゆく。入ってゆく。つけ根まで入っても、  
なお果てのない、その内奥。  
「動かしてみて」  
 膣よりもきつい直腸の中は、しかし入口ほどには強い圧迫をもたらさず、指の活動に支障は  
なかった。  
 そっと、ゆっくりと、指を曲げる。回す。前後させる。  
 苦痛なのかと心配になるくらい、アンジュの顔はぎゅっとしかめられている。が、その口から  
漏れ出てくるのは、  
「……ああ……そうよ……いいわ……そのまま……」  
 まぎれもない快美の言葉だ。  
 尻でもこんなに感じられるなんて。女って……どうしてこんなに……不思議で……魅力的な  
生き物なんだろう……  
 考えたこともなかった場所への接触に、いまはすっかり魅了され、リンクは陶然と手を動かし  
続けた。  
 
 しばらくののち、その手がつかまれる。  
「……そろそろ……本物を……ちょうだい……」  
 本物! ついに!  
 動きが止まった指を引き離し、身を起こしたアンジュが、ぼくの股間に手を這わせてくる。  
期待と緊張で硬直しきった陰茎に、クリームが塗りたくられる。  
 次いでアンジュは四つん這いとなる。後ろに膝で立つ。  
 今朝と同じ格好。でも、いまは……  
 粘液をあふれさせる膣口の上で、クリームの白い泡立ちを伴ってもなお、黒ずんだ色調を  
あらわにする、もう一つの穴。  
 肛門。  
 放射状の襞に縁取られた、浅い漏斗のような陥凹。閉じきったように見えるその奥は、しかし  
まさに漏斗のように底無しなのだ。  
「来て……」  
 アンジュの促しに鼓舞され、先端を触れさせる。そっと、押す。そこはやはり固く、指よりも  
はるかに太い陰茎が侵入できるとは、とても思えないほどだ。  
 だけど、もうわかっている。  
 両手でアンジュの腰を固定し、怒張を押しつける。手強い抵抗が、すいと失われ、亀頭がめりこむ。  
「んッ!」  
 アンジュの呻きを無視して、けれども自分をしっかりと抑制して、少しずつ、少しずつ、ぼくは  
進んでゆく。  
「……ぅ……ぁ……ぁぁ……ぉ……ぁぁぁ……ぅぁ……」  
 つぶれた声を絞り出すアンジュ。その双臀に、ぼくの下腹が接触する。入った。全部が入った。  
いま、ぼくは、いる。アンジュの尻の中に!  
 動けない。ぼくは動けない。その感動のためだけでなく、ぼくを押し包む力のために。  
 きつい。ひたすらきつい。膣の何倍もの密閉感。こんな状態では……ぼくは……全く……  
どうしようもなく……  
 いきなり力が弱まる。ほっと息をつく間もなく、そこは、  
「うぉ!」  
 さらなる力をもってぼくを締め上げる。膣の、あの繊細な技とは違った、豪快ともいえる  
粘膜の躍動。  
 立て続けに刺激が加わってくる。それが早くもぼくを煽りだす。動けないにもかかわらず、  
ぐんぐんと快感が増してゆく。増してゆく。増してゆく。  
 ──まだ!  
 必死に耐え、上体を前傾させる。今朝と同様に、胸と陰核に手を伸ばす。  
 そうだ、こうして、アンジュも、刺激して、そうすれば、少しは、ぼくにも、余裕が、できて……  
 
 余裕どころではなかった。  
「ひゃあッ!」  
 裏返った声でアンジュが叫ぶ。その瞬間、アンジュの筋肉はぎりりと引き絞られ、これまでを  
上回る最大の力に襲われてしまう。  
「!!!」  
 息が止まる。声も出ない。何という力。何というアンジュ!  
 だめだ。耐えられない。  
「……もう……いっちゃうよ……」  
 やっとのことで口に出し、股間を焼きつくさんばかりの快感に身を投げ出そうとした時、  
「待って!」  
 アンジュの制御の声とともに、直腸壁の締めつけがわずかに緩まった。  
「あと……少しだけ……」  
 胸を上下させ、はあはあと呼吸を乱しながら、アンジュが呟く。その呟きに、土壇場で踏みとどまる。  
静かに、静かに、息を整える。どうにか安定を保ったところで、  
「突いて……そっとでいいから……」  
 とアンジュ。  
 動かせばすぐにも達してしまいそう。それに、ぎちぎちのこの中では、動くこと自体が難題だ。  
 それでも、ぼくは動き出す。自分を見失わないように、抑えに抑えて、小刻みに腰を前後させる。  
「ぁ……ぁ……ぁ……ぁ……」  
 シーツに顔を埋めて、アンジュが喘ぎ始める。短く、小さく、突きに応じて規則的に。  
 小刻みな動きを続ける。これなら何とか長引かせられるかも……  
「ぁ……ぁ……あ……ああ……ああああ……」  
 アンジュの声が上ずってくる。  
 興奮してるんだ。  
 尻にペニスを突っこまれて悶える女。なんて淫らな、なんて底知れないその存在!  
 それを感じたくて、それを知りつくしたくて、ぼくの動きは大きくなる。前後する幅が広くなる。  
強い抵抗にもかかわらず、中を押し割って、ぼくは動く。突き入れる。力をこめる。  
 その時。  
「ああ……あぅぁ……ぉあ、ああ! ぅぉぁぁあああああああッ!!」  
 アンジュの喘ぎが規則性を失い、尻上がりに音量を上げてゆく。  
「ぅあッ! ぁあッ! いくッ! いきそうッ!」  
 反り返るアンジュの背。たがのはずれた叫び。  
「ぉああッ! ぉわあッ! ぁぁぁあああいくッ! いくううぅぅぁぁあああッ!!」  
 獣のような吼え声に合わせ、尻が後ろへ突き出される。立て続けに、ものすごい勢いで、動きを  
忘れたぼくの腹に、どしんどしんとそれはぶつけられて! ぼくを締めて締めて締めながら  
こすり立てて!  
「いくぅッ! いかせてぇッ! リンクッ! リィィィイイイーーーーンクッッ!!」  
 動けない。またも動けない。背後から一方的に攻める体勢のはずなのに、アンジュが哀願して  
いるというのに、ぼくは棒のように立って、立ちつくして、アンジュを、アンジュの尻の攻めを  
ただ受け止めるしかなくて!  
「んあぁッッ!! いくぅッッ!! いくわぁぁぁあああああーーーーーッッ!!」  
 ──だめだ! ぼくは! もう! これ以上は! どうにも!  
「あッッ──!!!」  
 狂ったように喚いていたアンジュが絶句し、次いで全身を痙攣させた。その震えはリンクの  
限界をも打ち破った。最後の一矢とばかりにおのれを打ち込み、リンクはアンジュの腸内で、  
電撃のように走る激越な快感を、意識とともに砕け散らせた。  
 
 意識が戻った。  
 気が遠くなった時のことは、どうにか覚えている。それからどのくらい経ったのだろう。  
 失神の経験はある。彼とシークがもたらしてくれた。でも、アナルセックスで失神したのは  
初めてだ。シークとの交わりでさえ、そこまでは行かなかった。  
 うつ伏せになっていた身体を、ゆっくりと横に向ける。目を閉じたリンクが仰向けに倒れている。  
 声をかけようとして、アンジュは気づいた。粘っこい液体をわずかに漏れ出させる肛門が、  
ひりひりとした刺激感を訴えている。さほどの痛みではない。が……  
 優しくして、と言っておきながら、自分からめちゃくちゃに動いてしまった。動かないでは  
いられないほど、すばらしい交わりだったからだが……リンクには注意しておかなければ。  
 そっとリンクの頬に触れてみる。気がつかない。眠っているのか。  
 肩を揺らしてみる。呼びかける。  
「リンク」  
 それでやっと、リンクが目をあける。その目が生気を取り戻すのを待って、静かに問いかける。  
「どう?」  
 かすかに微笑み、リンクは答える。  
「とても……よかったよ……まだ信じられないような気分だけれど……ぼくたち……後ろで……  
しちゃったんだね……」  
 アンジュも微笑み、優しく頷く。  
「ええ……だけど──」  
 肛門でのセックスは、やたらにするものではない。嫌う人もいるので、相手を選ぶこと。  
する時には、さっきのようにすべりをよくして、優しい上にも優しく。経験がない相手なら  
なおさら。力任せに無理やり動いたりはせずに。わたしは慣れているからよかったが。  
「お尻の穴の筋肉──括約筋が締めつける力は、とても強いの。指で慣らしてから、そこの力を  
抜くようにさせて、ゆっくり挿れる。それがこつよ」  
 説明を聞くリンクは、真剣な顔で何度も頷きを返してきた。アンジュはその真剣さを信じた。  
「わたしが教えられることは、これで全部よ。あとは自分で経験していきなさい」  
 そう締めくくり、アンジュはリンクの肩を抱いた。  
『ほんとうは……』  
 リンクの知らないセックスは、まだまだある。アブノーマルなものも含めると。その中には、  
わたしが知っているものもあれば、わたしですら知らないものもある。でも、いまのリンクには、  
これで充分。  
 リンクは立派に行動した。初心者とは思えないほどに。  
 そして、形のことばかりではなく……  
 リンクなら、あのまっすぐな気持ちを忘れずに、誰に対しても、誠実に、真剣に、優しく、  
心をこめて、接していくだろう。そうすれば──わたしがすでに言ってやったように──「愛」の  
ことも、いずれ必ず解決するはずだ。  
 リンクが胸に顔を埋めてくる。甘えたようなその態度が、またも微笑を誘う。  
 男をリードするという立場。それは本来、わたしに合っている。リンクとの一連の体験は、  
まさにその嗜好を満たしてくれるものだった。後ろから攻められて絶頂しても、それは一時の  
バリエーションに過ぎず、すぐ教えるという立場に戻ることができた。さっき肛門を抉られた  
時でさえ、最後にはわたしの方が優勢だった。  
 リンクには、屈服するという感覚は持てない。  
 そこがシークと違うところだ。  
 
 シークに対しては、わたしはすべてを忘れ、何もかも放り投げ、夢中になって身を任せてしまう。  
シークに騎乗して激しく身体を振り動かす時ですら、わたしは下にいるシークに支配されている。  
わたしは完全に屈服してしまうのだ。他の男では決して得られない、シークでしか得られない、  
わたしにとっての至高の時間。  
『シークといえば……』  
 思考がめぐる。  
 最初から抱いていた疑問。リンクはなぜわたしのところへ来たのか。「女を教えて欲しい」と  
いう言葉の意味もわからずに、どうしてそれを望むことができたのか。  
 誰かに言われたのだ。その誰かとは……リンクの交友関係を考えると……  
「リンク」  
 胸の中のリンクが、顔を上げる。  
「わたしに女を教わりに来たのは、シークに言われたからでしょう」  
 あわてたようにリンクが言い始める。  
「いや……それは……ぼくが自分で……自分でアンジュに……教わりたいと……」  
 目が泳いでいる。おどおどと。嘘がつけないのね。どこまでもまっすぐなリンク。  
「やっぱり、シークなのね」  
 決めつけてやる。リンクは黙ってしまい、やがて、ぼそりと言う。  
「……実は……そうなんだ。シークには、口止めされたんだけれど……」  
 どういうことなのか。  
 リンクの教師として見込まれた、ということなのだろう。だが……  
 そういう理由があったにせよ、わたしがシーク以外の男に抱かれることになるのを、シークは  
何とも思わなかったのか。シークはそれで平気だったのか。  
『違う』  
 もしそうなら、リンクに口止めする必要はなかった。シーク自身がわたしのところへ来て、  
「リンクに教えてやってくれ」と頼んでもよかったのだ。なのに、シークは、自分の意図を  
わたしに知らせないようにした。  
 なぜ? わたしがシークの真意を計りかねて、あれこれ思い悩むのを、未然に防ごうという  
気遣いか? それとも……  
 わからない。けれど、一つだけ確かなこと。  
 シークにも葛藤があったのだ。  
 その葛藤を越えてまで、シークがわたしのもとへリンクをよこした理由。リンクのために、  
というだけではなく、わたしのために、という理由があったのではないか。あったと思いたい。  
いや、あったに違いない!  
「アンジュ?」  
 リンクの声。浮遊する思いが呼び戻される。  
「シークのこと……黙っていて……悪かったかな?」  
 微笑んで、答える。  
「いいえ……いいのよ……」  
 リンクの髪に、そっと手を触れる。  
「もう寝みましょう。明日は……早いんでしょ」  
 枕元のテーブルに置いた蝋燭を吹き消す。真っ暗となった部屋に、沈黙が満ちる。  
 リンクと肌を合わせ、その暖かみを味わいながら、アンジュの心は、もう一つの暖かみをも、  
しっかりと感じ取っていた。  
『シーク……』  
 わたしには、わかる。シークの真情。シークこそは、わたしのことを理解してくれている。  
 この上もなく、嬉しかった。  
 
 
 翌朝、アンジュはリンクよりも早く起きた。着衣して台所へ向かい、軽めの、しかし栄養に  
気を配った朝食を調えた。すっかり乾いていた服を携えて寝室に赴き、リンクを起こした。顔を  
洗わせ、二人で食卓についた。二日で六回もの射精を経たにもかかわらず、リンクの心身は活力を  
保っていた。アンジュは安堵し、旺盛な食欲を示すリンクを温かく見守った。  
 食後のお茶の時間を過ごしたあと、リンクは立ち上がり、装備を身にまとった。その雄々しい  
姿を、アンジュは改めて目に焼きつけた。  
 玄関を出て、二人で戸外に立つ。  
「どうか、気をつけて」  
「うん」  
 無事を願う言葉に短く答えたあと、リンクはアンジュに向き直った。  
「アンジュが教えてくれたことは、忘れないよ。ほんとうに、ありがとう」  
 次いで、心配顔になる。  
「たくさんご馳走にもなっちゃって……ずいぶんお金を使わせてしまったんじゃない?」  
「何を言うのよ」  
 思わず笑ってしまう。リンクでも、そんなことに気が回るのか。  
 散財してしまったのは事実だ。だけど……  
「気にしないで。リンクは、それ以上のすばらしいものを、わたしにくれたんだから」  
 リンクは不思議そうな表情となったが、アンジュは説明を加えず、自分の心の中のみに思いを  
とどめた。  
 リンクと過ごしたこの二日間が、わたしにとってどれほど充実したものだったか。  
 セックスばかりではない。  
 鬱屈を忘れて何度も笑うことができたのは、どうしてか。  
 得意でもない料理に楽しく挑むようになったのは、どうしてか。  
 時ならぬ大掃除などを始めてしまったのは、どうしてか。  
 生きることへの活力。それをリンクは取り戻させてくれたのだ。  
 ただ……  
 折からの風が火山灰をまき散らし、発作が誘発される。何度か苦しい咳が出る。  
「大丈夫?」  
 気遣わしげなリンクの声。  
「ええ……大丈夫……」  
 安心させるように答えながらも、思い出してしまう。あの客が残した、胸の痛み。  
 容色の衰え。  
 
 不意に記憶が立ちのぼる。目の前にいるリンクが、七年前、いまと同じこの場所で、別れの時に  
言ったこと。  
 唐突に言葉が出る。  
「わたし、まだ、きれいだったかしら」  
 束の間、リンクの目に驚きの色が宿る。が、すぐに表情はほころんで、はにかみを湛えて、  
「うん……とても……きれいだったよ」  
 ああ、同じことを。そればかりか……  
「……あの頃よりも、ずっと」  
 そんなはずはない。わたしはあの頃よりも衰えている。明らかに。  
 でも……でも……七年前と同じように……  
『リンクがそう言うのなら、それがリンクのほんとうの気持ちなんだわ』  
 熱いほどに、アンジュは感じる。リンクの純粋さ。リンクの真情。  
 シークには、こんなことは訊けない。もし訊いたりしたら、シークは答に困ってしまうだろう。  
 リンクとシーク。陽と陰。正反対ともいえる二人。  
 二人の違い。しかしそれは、どちらの方がよいというものではない。  
 リンクからでなければ得られないものがある。シークからでなければ得られないものがある。  
それをともに得られたわたしは、実に幸せと言わなければならない。  
 そして……  
 シークがわたしのもとへリンクをよこした理由。それは、リンクからでなければ得られない  
ものを、わたしが得られるようにという、深い、深い、シークの思いやりだったのだ。  
「シークに伝えて」  
 高まる熱に身を浸し、アンジュは言う。  
「ありがとう──って……」  
 いぶかしげな顔をするリンクだったが、じきに笑みを戻し、  
「わかった」  
 と答えた。  
 しばしの沈黙。  
 それを破って、  
「じゃあ」  
 声とともに、リンクが軽く手を上げる。無言の頷きで、それに応える。  
 リンクが背を向ける。走り出す。デスマウンテン登山口へ向けて、リンクの後ろ姿が遠ざかる。  
遠ざかる。遠ざかって……それは不意に視界から消える。  
 デスマウンテン。いまだ噴火を続ける、危険きわまりないその場所へ、リンクは行く。かつて  
シークも行った。そこに何があるというのか。  
 二人の使命。  
 あんなに対照的な二人が、それだけは共通した目をもって──未来を見つめる確かな意志を  
もって、挑んでいること。わたしには、わからないこと。  
 けれども、その使命が果たされる時……  
 アンジュは頭上をふり仰いだ。天は今日も陰鬱な雲に閉ざされ、冷たく吹きすぎる風に舞う  
火山灰が、どんよりと空気を濁らせていた。  
『でも……いつかは……きっと……』  
 その彼方にあるはずの、青い空。どこまでも続く、澄みきった空。  
 アンジュの目には、それが見えた。  
 
 
To be continued.  
 
 

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