魂の神殿を目指して『幻影の砂漠』の残り半分を行くリンクとシークの旅は、熱暑と砂塵に 
苦しめられながらも着実に進んだ。これまでの経験に鑑み、水と食料は多めに持参していたので、 
当面、不足する気遣いはなかった。改変前の世界でリンクを大いに悩ませたリーバも、全く 
出現しなかった。 
 地下室での一夜以来、シークの体調は万全に復したようだった。歩みは逞しく、常にリンクの 
それと相伴っていた。態度もまた、いつものごとく平静で、感情をあふれさせる気配など、一度も 
見せなかった。 
 シークは何を考えているのか──と、ややもすれば思いを惹かれるリンクだったが、そんな 
態度のシークには問いかけるのも憚られ、そのつど屈託を振り払った。 
『いずれは、わかる』 
 心の中で繰り返し、リンクはひたすら足を前に出し続けた。 
 
 六日間を費やして、砂漠の踏破は完了した。 
 神殿に入るのはひとまず後まわしとし、二人はオアシスに歩を向け、喉の渇きを癒した。 
旅の終わり頃には、水筒の中身もさすがに残り少なくなり、できるだけ消費を控えていたのである。 
 水をがぶ飲みするリンクに対し、シークはいち早く摂水を切り上げ、オアシスから離れた。 
リンクはその行動を目で追った。巨大邪神像の傍らにあるゴシップストーンに歩み寄ったシークは、 
竪琴で『ゼルダの子守歌』を奏し、しばらくそこに佇んだのち、水辺に戻ってきた。 
「メロディが聞こえたかい?」 
 リンクの問いに頷きを返し、シークが竪琴をつま弾き始める。 
 重々しい中にも不思議な安らぎが感じられる曲調だった。リンクは『時のオカリナ』で 
その旋律を奏で、記憶にとどめた。 
「題は?」 
「そうだな……」 
 シークは宙に目をやっていたが、さほどの間もおかず、再び口を開いた。 
「『魂のレクイエム』──とでもしておくか。もっとも……」 
 シークの視線が巨大邪神像に移る。 
「題をつけなければならないほどの重要性は、このメロディにはないようだが」 
 意味はリンクにもわかった。すでに気づいていた点である。メロディで扉を開くまでもなく、 
神殿の入口はあけ放たれていたのだった。 
 それならそれでもいい──とリンクは考える。 
 神殿へ入る手間が減ったのだから、むしろ好都合だ。問題はナボール。ケポラ・ゲボラは 
魂の神殿でぼくたちをナボールに引き合わせるつもりだろう──とシークは言ったが、 
そのケポラ・ゲボラの姿は、ここにはない。果たしてナボールに会えるのかどうか…… 
「行こう」 
 シークの声に促され、リンクは立ち上がった。 
『神殿の中を探ってみなければ』  
 
 探る必要はなかった。神殿の大広間に入った二人を、いきなり声が出迎えた。 
「待ってたよ」 
 正面の階段にナボールが腰かけていた。記憶にあるとおりの風采で、かつての出会いの場面が 
再現されているかのようだった。ただ、その容貌は、七年という時間によって、若いうちにも 
成熟した女の色を濃くしてはいたが。 
「七年前の、あのチビ助が、もういっぱしの剣士じゃないか」 
 からかうようなナボールの台詞。しかし表情は柔らかい笑みを宿している。 
 そう、こっちも変わっているんだったな──と、いまさらのごとく思いながら、リンクは 
ナボールの笑みが、過去を懐かしみ、かつ再会を喜ぶ、率直な心情の表れであることを見てとり、 
心の緊張を緩ませた。 
 歩みを寄せると、ナボールが片手を差し出してきた。こちらも片手を出す。固い握手を 
交わしたのち、リンクはシークを紹介した。ナボールは黙って頷いた。シークの存在を怪しんで 
いる様子はなかった。 
 楽にしろ、との言葉に応じて、リンクとシークも階段に腰を下ろした。すぐに密度ある会話が 
始まった。ナボールに訊きたいことは山ほどあり、またナボールの方も話したいことを山ほど 
溜めていた、という感じだった。 
 リンクが知っているのは、七年前、ここ、魂の神殿で、ツインローバに襲われたナボールを、 
ケポラ・ゲボラが救い出したところまでである。ナボールはその後のいきさつを語った。卓越した 
飛行能力を持つケポラ・ゲボラは、ツインローバの追跡を易々と振りきり、ナボールを安全な 
場所に連れて行った。そこでナボールは事情を説明され、七年間、身を隠しているよう、 
ケポラ・ゲボラに言い含められたのである。シークが予想していたとおりの経緯だった。 
 その安全な場所とはどこなのか──と訊ねるリンクに、ナボールは意外きわまりない答を 
返してきた。 
「あんたの故郷さ」 
「え?」 
「コキリの森だよ。といっても、コキリ族の坊ちゃん嬢ちゃんをびびらしちゃ悪いから、 
気づかれる心配のない森の奥の奥で、ひっそり暮らしてたんだけどね」 
 驚きに打たれるリンクだったが、コキリの森が潜伏に格好の地であることは理解できた。 
ハイラルで最も辺鄙な場所といってよく、一般には存在すらほとんど知られていない。加えて 
サリアが森の神殿に入ったあとは、結界によってガノンドロフの追求をも遮断できたわけである。 
 ただしナボールは、森に逼塞し続けていたのではなかった。時にはケポラ・ゲボラに連れられて、 
賢者の結界で守られた他の地に──人の多いカカリコ村は別として、デスマウンテンやハイリア湖には 
──赴くこともあった。のみならず、結界外の地域に足を踏み入れた経験もあるという。 
一般住民にとっては敵対するゲルド族であり、そのゲルド族にとってはお尋ね者といってよい 
ナボールであるから、人目につくような事態は絶対に避けねばならなかったのだが、にもかかわらず 
危険を冒して行動したのは、世界のありさまを自らの目で見ておきたい、という強い希望を、 
ナボールが持っていたからである。 
 もともとナボールは、ガノンドロフに「やばい」匂いを感じ取っていた。ガノンドロフが 
魔王となってから、その匂いはいっそう強くなった。さらにリンクが、かつての出会いの際、 
世界全体を窮地に落としかねないガノンドロフの危険性や、ゲルド族の将来についての不安を 
指摘した。ナボールの心はガノンドロフ打倒へと大きく傾いたが、しかし思い切ることは 
できなかった。 
 思い切るべきかどうかを、ナボールは自分で決めようとしたのだ。 
 結論は出た。おのれの欲望を満たすために、天候や自然現象までねじ曲げるガノンドロフの 
所業は、まさにリンクが指摘したとおり、世界の荒廃を現実のものとしてしまった。初めは安泰に 
見えたゲルド族も、徐々にその影響を受け、最近では日々の生活さえ脅かされるようになっている。 
ガノンドロフ打倒は、いまやナボールにとっても、至上の命題となっていたのだった。  
 
 力を入れて語るナボールを、リンクは感慨深く見つめていた。 
 シークと同様、ナボールもまた、この七年間を耐え忍んできた。しかも、多少は人との交流を 
持てたシークより、ずっと孤独な境遇だったのだ。目の前のナボールは活力に満ちていて、 
孤独による寂しさなど微塵も感じさせないけれど、七年という長い期間のうちには、苦しいこと、 
つらいことも、多々あったに違いない。ふと気弱になることだってあっただろう。それを 
乗り越えてここまで来られたのは、男まさりのゲルド族の中でもとりわけ傑出した、逞しいと 
いっていいくらいの強固な心身がなせるわざであっただろうか。 
 そういえば──と、リンクの思いは広がった。 
 ナボールと同じように、七年間、姿をくらましているゼルダは、いったいどこにいて、どういう 
行動をとっているのだろう…… 
「そんなわけでね」 
 リンクの感慨をよそに、ナボールが明るい声を出した。 
「あたしはもう腹を決めてる。賢者のことだって承知してるよ」 
 言葉のとおりだった。自分が『魂の賢者』であり、ガノンドロフを倒すためには賢者として 
覚醒しなければならないこと、その覚醒がリンクとの交わりによってもたらされることを、 
ナボールはすでに知っていた。ケポラ・ゲボラに教えられたのだという。 
「最初は驚いたし、信じられない気がしたもんだ。ツインローバの婆さんたちに、すんでの 
ところでいいようにされそうになったあたしが、なんとご大層な『魂の賢者』とやらで、六賢者の 
一人としてガノンドロフとやり合うことになるなんてさ。だけどいまじゃ、それも面白いじゃ 
ないかって思うようになったよ」 
 さばさばとした口調で、ナボールが続ける。 
「賢者として覚醒したら、現実の世界とは切り離されちまうってことだが、ガノンドロフの悪行の 
片棒を担いだのが、あたしらゲルド族なんだから、その一人として、せめてもの罪滅ぼし── 
といっちゃ大げさだけど、それくらいのことはあって当然だと思ってるよ」 
 そう言い切るナボールの強さに感嘆しつつも、リンクは気になる点を確かめずにはいられなかった。 
「ここへはケポラ・ゲボラに連れられて来たのかい?」 
「そうさ」 
「いまどこにいるんだ? 外では姿を見なかったけれど」 
「呼べば来るよ」 
「呼ぶ?」 
「ああ、会いたきゃ会わせてやる」 
 ナボールは身軽に腰を上げ、神殿の出口に向けて、すたすたと歩みを進めた。リンクとシークも 
あとを追った。外に出たところでナボールは立ち止まり、空を見上げ、指笛を吹いた。思いのほか 
大きな甲高い音響が、あたりの空気を切り裂いた。  
 
 待つほどもなく、頭上で羽ばたきの音がした。いままでどこにひそんでいたのか、さっきまで 
飛ぶものの一つとしてなかった空に、ゆったりと舞う影が現れた。影は少しずつ大きさを増し、 
やがて神殿前の石柱の上に降着した。 
 七年の間、ナボールはこういうふうにケポラ・ゲボラと連絡を取っていたのだろう──と 
想像しながら、リンクは石柱のもとに歩を寄せ、巨大な影に呼びかけた。 
「頼みたいことがあるんだ」 
 首をかしげるケポラ・ゲボラ。すぐには続けず、手で招く。地に降り立ったケポラ・ゲボラは、 
おかしみをこめたような例の口調で訊いてきた。 
「わしが話すべき時が来た、と思うておるかな」 
「それもあるけれど……頼みというのは、別のことなんだ」 
 リンクは「頼み」の内容をささやいた。ケポラ・ゲボラは丸い目をますます丸くしていたが、 
「よかろう」 
 と返事をしてくれた。かすかにくちばしの縁が持ち上がり、にやりと笑ったようにも見えた。 
「ところで──」 
 ケポラ・ゲボラの声が真剣味を帯び、視線が動いた。神殿の前に立ってこちらを見ている 
シークとナボールの方に、視線は向けられていた。 
「──おぬし、まだ気づかぬか?」 
「え? 何に?」 
「……まあよい。先に頼まれ事を片づけるとするかの」 
 ケポラ・ゲボラは飛び立った。その姿はみるみる小さくなり、東の空に消えていった。 
 疑問を無視され、リンクは戸惑いを感じずにはいられなかった。 
 何に気づけというのだろう。シークとナボールに注目していたようだが、二人のうちの 
どちらかに──あるいは両者ともに──関係したことなのか。 
 気にかかる。が…… 
 ここは無理に頭を悩まさず、疑問は疑問のまま措いておこう。ケポラ・ゲボラが謎めいた発言を 
するのは毎度のことだし、「先に」頼まれ事を片づける、と言うからには、あとで再びこの件に 
触れてくるだろう。 
 懸念を押しやり、リンクは神殿の入口へと立ち返った。 
「何を話してたんだい?」 
 ナボールが訊ねてきたが、その時まで伏せておいた方が効果的だろうと考え、頼み事が 
あったのだ、とだけ答えておいた。大して興味も持たない様子で、ナボールは神殿内へと 
足を向けた。あとについてゆきながら、リンクはシークに頼み事の主旨を耳打ちした。一瞬、 
シークは目を見張り、次に笑顔となって、リンクの肩をぽんと叩いた。  
 
「さて、これからのことだけど……」 
 と、大広間の階段まで戻ったところで、ナボールが言い始めた。 
「賢者としての目覚めを迎える前に、あたしはぜひとも確かめておきたいんだ」 
 何を?──という問いに対する答は、端的だった。 
「神殿にあるというお宝さ。そもそも七年前、あたしがここに来たのは、そのお宝を見つけるため 
だったんだが、リンク」 
 ナボールが話の矛先を向けてくる。 
「あんたには、あの時、お宝探しを頼んだね。何か見つかったかい?」 
 リンクはありのままを告げた。 
 巨大邪神像の右手の上で『銀のグローブ』を発見し、それはのちの冒険で大いに役立ったこと。 
そして、邪神像の左手の上には、別のお宝が隠されていそうな箱が置かれていること。 
「やっぱり……」 
 と呟いたのち、ナボールは熱心に言葉を継いだ。 
「あたしは前から気になってたのさ。ここにあるのは、ただのお宝じゃない、自分がしなけりゃ 
ならないことに深く関わったものなんじゃないか──ってね。『銀のグローブ』とやらが 
役に立ったっていうんなら、もう一つのお宝もそうに違いないよ。どうだい? これからそいつを 
見に行こうじゃないか」 
 リンクに否やはなかった。今後の戦闘に有用なものならぜひ手に入れておきたい、というのが 
正直なところであり、シークも同意を表明した。  
 
 巨大邪神像の左手へ行くには、神殿の、向かって右側の領域を上ることになる。三人は 
いくつかの部屋を抜け、女神像のある大きな吹き抜けの部屋に達した。左側の方ではさらに 
階上へと足を伸ばした経験のあるリンクだったが、右側の方はそこまでしか来たことがない。 
一方、ナボールは右側の階上も知っていた。その先導により至った場所は、何の変哲もない、 
がらんとした広い部屋である。奥に見える扉が進路と思われたものの、扉は人力では開くことが 
できなかった。 
「七年前も、ここで引っ返すしかなかった。この扉さえ抜けられたら、左手の上へ行けそうな 
もんだけど……」 
 悔しそうに言うナボールには答えず、リンクは部屋の中をくまなく目で探った。果たして、 
それは見つかった。 
 床の一隅に描かれた、太陽の絵。 
 左側の部屋と同じだ。これに光を当てれば扉が開く仕掛けだろう。 
 同じではなかった。左側の部屋では天井から光が漏れていたが、この部屋の天井には、日光が 
まともに差しこむだけのすき間がない。 
「光が差しこまないのなら、差しこむようにすればいい」 
 助言のようで、しかし意味の取れない──としか思えない──台詞を、シークが口にした。 
いぶかしむリンクの前で、シークは天井に目をやり、一点を指さした。 
「いまの太陽の位置を考慮すると、天井のあのあたりを破壊すれば、その絵に光が当たるはずだ」 
「破壊する? どうやって?」 
 天井は岩でできている。矢やフックショットでは破壊できない。爆弾なら可能だろうが、 
投げても届かないくらいの距離がある。 
「お誂え向きのものを、君はカカリコ村で手に入れただろう」 
「あ!」 
 そうだ、ボムチュウ! 
「ちょうど天井に出っ張りがある。そこを狙うんだ」 
 シークの指示に従い、途中で障害物にぶち当たらないよう、慎重に経路を選ぶ。これぞ、という 
方向が決まったところで、リンクはボムチュウを取り出した。点火する。手を離す。鼠の形をした 
爆弾は、床をするすると這い、壁をよじ登り、落ちることなく天井すらも走行して、みごとに 
目標地点で爆発した。光が飛びこんできた。と見るや── 
「やった!」 
 ナボールが叫びをあげ、重い音をたてて開き始めた扉のすき間に身をすべりこませた。 
「気をつけて! 何がいるかわからない!」 
 注意の声とともにシークが開ききった扉を駆け抜ける。リンクはあとに続こうとした。 
 その目の前で、扉はいきなり閉じられた。 
『何だ!?』 
 光がなくなったわけじゃない。ちゃんと太陽の絵に当たっている。なのにどうして── 
「我らの神殿で勝手放題やるのも」 
「そこまでにしといてもらおうかねえ」 
 聞き苦しい二つのキイキイ声が、部屋の中に響いた。  
 
『ツインローバ!』 
 即座にふり向く。 
 いつどこから部屋に入ってきたのか。 
 青白い髪のコタケ。真っ赤な髪のコウメ。髪の色だけが異なる醜い二人の老婆が、不気味な 
薄笑いを浮かべて、箒に跨らせた身をゆらゆらと空中に漂わせている。 
 あっけないほどの容易さでナボールに会えた。神殿内には魔物もいない。事が順調に進むので、 
すっかり安心していたのだが……やはりただではすまなかった。敵は見逃してはくれなかった! 
「どうしてやろうかね、コウメさん」 
「わかってるくせに、コタケさん」 
 腰を落として身構えながら、リンクはあわただしく思考した。 
 何をしようとしている? こっちはどう出ればいい? 
 最優先事項は賢者であるナボールを守ることだ。が…… 
 こいつらはなぜ扉を閉じた? ぼくだけを孤立させる目的で? 
「他の二人はあいつに任せておいて」 
「とっくりといたぶってやりましょうかねえ」 
 あいつ? 誰のことだ? ともかくナボールを追うつもりはないらしい。こいつらの狙いはぼく。 
なら戦ってやる。どうやって? 宙に浮いている敵に剣は届かない。となれば── 
 腰のフックショットを右手でつかみ、コタケに向けて発射する。 
「おっと」 
 あっさりかわされる。 
「そんなとろくさい攻めが」 
「通用すると思うのかい?」 
 素早くやったつもりだったのに。歳に似合わないこいつらの敏捷さ。これだと矢を射たって 
当たるまい。真正面からの攻撃はすべて回避されるだろう。 
「それで終わりかね」 
「終わりなら」 
「「こっちからいくよ!」」 
 天井を向いた二人の右手が勢いよく振り下ろされる。コタケの指先から氷の棘が、コウメの 
指先から炎の帯が、まっすぐ噴き出し、襲いかかってくる。 
 横っ飛び! 
 予想していた攻撃だったので避けることはできた。しかし氷と炎は次々に放たれる。息をつく 
暇さえ与えてくれない。身をかわすのが精いっぱいだ。このままだといずれは直撃される。 
隠れる場所もないこの部屋ではこちらが圧倒的に不利。 
 入ってきた方の扉に目をやる。開いている。迷わず身体を突進させる。 
「お待ち!」 
「逃がさないよ!」 
 追ってくる気配を察知する。扉に達したところでふり返る。床にデクの実を叩きつける。 
「くぁッ!」 
「ひぇッ!」 
 閃光に怯む二人の老婆。一瞬、反撃を考えたが、目が眩んだのは眼前に迫っていたコウメの 
方だけで、 
「小賢しい真似を!」 
 その陰にいたコタケは視力を保っている。そっちには爆弾を放り投げ、 
「わッ!」 
 爆発音を背にして階段を駆け下りる。 
 女神像のある吹き抜けの部屋。一案が浮かぶ。 
 デクの実と爆弾は一時しのぎ。すぐ追いかけてくるだろう。この下に降りて待ち伏せるか? 
女神像の陰に身を隠して── 
『だめだ!』 
 いったん下に降りると簡単には上に戻れない。追いつめられたら一巻の終わりだ。待ち伏せるなら── 
 リンクは意中の場所へと足を駆けさせた。  
 
 異常な気配を感知し、シークは急いで背後をふり返った。が、その時にはもう扉は閉じられていた。 
 手をかけてみる。びくともしない。 
 開く時間に制限があったのか? それとも── 
「何があった?」 
 先に行きかけていたナボールが、あわてた顔で戻ってくる。 
「しッ!」 
 制しておいて扉に耳を貼りつける。かすかに声が聞こえる。人間のものとは思えないような 
キイキイ声。 
『この声は!』 
「ツインローバだ!」 
 同じく聞き耳を立てていたナボールも驚きの声をあげる。 
 扉を閉めたのはツインローバ。リンクだけ引き止めて襲うつもりか。 
 どうするべきかを瞬時に頭の中で組み立てる。 
 賢者であるナボールを守るのが最優先。しかしリンクも助けなければ。自分がゲルドの谷で 
奴らに襲われた時のことを考えると、リンクといえども一人で立ち向かうのは相当の難事。 
 そのためには? この扉はもう開くまい。開くとしたらツインローバがこちらを狙ってくる時だ。 
いずれにせよここにとどまっていてはならない! 
「別の道を探すんだ!」 
 ナボールに声を投げ、眼前の階段を駆け上がる。新たな部屋に出る。進路は右側。その先には── 
 ぎょっとして立ち止まる。 
 部屋の奥に金属製の甲冑が立っていた。巨大な斧を手にしている。 
 シークは足を動かせなかった。奇妙な雰囲気を感じ取ったのである。 
「アイアンナックか」 
 あとを追ってきたナボールが、横で足を止め、小声で呟いた。 
「あれに名前があるのか?」 
「ゲルド族の言い伝えさ。聖なる場所を守護する甲冑武者。お宝を守ってるってことかねえ」 
 甲冑の背後の壁には扉がある。なるほど、そこに近づく者を阻むような立ち位置ではある。 
「つっても、ありゃあただの飾りさ。気にするこたあない」 
 そうだろうか。単なる装飾品とは思えない。かといって中に人がいるふうにも見えないが…… 
 ナボールが甲冑に向かって歩き始めた。 
 止まれ!──と叫ぶ間もなく、がちゃり、と音を立てて甲冑が──いや、いまや任務に目覚めた 
アイアンナックが──こちらに一歩を踏み出した。 
「おッ!」 
 喫驚するナボール。しかしさすがはゲルドの女戦士。後ろへ跳びすさって腰の堰月刀をすらりと 
抜き放つ。シークも短刀を構えながら、素早く脳内で検討した。 
 ツインローバが扉を閉めたのは、僕たちをここへ追いこんで、アイアンナックに始末させる 
ためでもあったのだ。逃げ場はない。戦うしかない。ナボールの堰月刀と僕の短刀。それで 
あの斧に対抗できるか? 
 刀を振り上げるナボール。そこへ斧が降ってきた。とても受けられないと見たか、ナボールが 
横に身を飛ばす。一瞬遅れて斧が床に叩きつけられる。大音響とともに床石が砕かれ、破片が 
周囲に飛散した。 
 対抗できるわけがない! 
 全身の肌に冷や汗が滲むのをシークは感じた。  
 
 リンクは神殿入口の大広間まで駆け戻った。 
 壁際には風変わりな格好をした彫像が並んでいる。その一つの陰に身をひそませる。 
 ここにいても、じっとしているだけなら、すぐ見つかってしまう。機を逸さないようにしなければ。 
 フックショットを右手に持つ。 
 その時、 
『来た!』 
 自分が走ってきた通路の方から、空気を分けるかすかな音が聞こえてきた。 
 右手を差し上げ、通路の出口に狙いをつける。 
 直後、箒に乗ったコタケが通路から出てきた。きょろきょろとあたりを見まわしている。動きが 
のろい。 
 軌道を読んで射出する。 
 気配を察したか、コタケがこちらに目を向けた。が、もう遅い。まっすぐに伸びるフックショットは── 
『あ!』 
 コタケの頬をかすめて空を切った。 
 はずした! 寸前に動かれたせいで! 
 しかし不意打ちにはなっていた。コタケは体勢を崩し、どっと床の上に落下した。 
 いまだ! 
 彫像の陰から走り出る。走りながらマスターソードを抜き、床を這うコタケに斬りかかろうと 
したその時、 
「させるか!」 
 コウメが大広間に飛びこんできた。指が振られた。正面から炎が飛んできた。 
 咄嗟に横へ跳ぶ。ぎりぎりで回避できた。身体が床を転がる。転がって距離をとり、再び 
立ち上がろうと足に力を入れる。 
 立ち上がれなかった。 
 ぎょっとして目をやると、右足が凍りつき、床に固定されている。 
 しまった!──と思っても、もう遅い。 
「よくも!」 
 左足が、 
「やってくれたね!」 
 右手が、 
「おとなしく!」 
 マスターソードを握ったままの左手が、 
「してやがれ!」 
 怒りに震えるコタケの手によって次々に氷で固められ、仰向けの格好で床の上に貼りつけられて 
しまう。 
「まあまあ、あんまりかっかしなさんな」 
 空中を漂ってきたコウメが、おどけた声をコタケにかける。 
「わかってるさ。だから全身を凍らせなかったんだ」 
 表情に憤りを残しながらも、コタケの声は冷静となる。その声がこちらにも向けられる。 
「ここでお前を殺すのは簡単なことだが」 
 コウメが続ける。 
「お前には、まだ役に立ってもらわなきゃならない」 
 改変前の世界でも言われた台詞だ。意味は明白。ぼくを捕らえておいて、ゼルダをおびき出す 
つもりなのだ。 
 させてなるか!  
 両手両足に全力をこめる。床に固定された四カ所は、しかし全く動かない。 
 だめだ。自力では無理。助けが得られないか? シークはどうしている? 
「シークなら、いま頃は」 
「アイアンナックの餌食になってるさ」 
 アイアンナック? 
「ガキの時、お前は見たはずだよ」 
「斧を持った甲冑武者さ」 
 あいつか! 『銀のグローブ』を見つける前に戦ったあいつ! 改変前の世界ではナボールが 
扮していたあいつ! あれがいまシークとナボールの行く手に──  
 
「改変前の世界?」 
「改変だって?」 
 怪訝そうな声を出す二人の老婆。そこで初めて気がついた。 
 心を読まれている! すべてを知られてしまう! 
 二人の顔がみるみるうちに驚愕と激高を満たしてゆく。 
「過去の改変!」 
「賢者の生存!」 
「マスターソードにそんな力があったとは!」 
「ラウルの差し金だね!」 
「そういうことだったのかい!」 
「ガノンさんは気づいていて!」 
「あんなに焦ってたのか!」 
「せっかくうまくいっていた歴史を!」 
「「お前が書き換えてしまっていたなんて!!」」 
 耳を裂くような絶叫が、続けざまに二人の口から噴出する。 
 リンクは腹をくくった。 
 知られたってかまうもんか。こいつらは覚醒した賢者に手出しはできない。 
「お前を甘く見過ぎてたようだね」 
「さすがは時の勇者といったところか」 
 一転して声を落とすツインローバ。抑えた調子の中にも、冷酷な色が垣間見える。 
「だが、まだ勝負はついちゃいない」 
「覚醒してない賢者が残ってる」 
「ナボールとラウル」 
「その二人だけは、お前の好きにはさせない」 
「お前だって、いまはこうして」 
「あたしらの手の内にあるんだからね」 
「ここまで虚仮にされたからには」 
「相応の礼はしてやるから覚悟しな」 
 床に立つコタケの像と、空中に浮かぶコウメの像が、じわじわと接近し、接触し、重合し、 
一人の熟女となって新生した。 
「お前、なかなか美味しそうだから、じっくりなぶってやるよ。もっと美味しくなる場面を待つ 
つもりだったけど、いますぐじゃないと気がすまなくなっちまった」 
 ツインローバが近づく。身をかがめるやいなや、股間に手を突っこんでくる。急所を潰されるか 
と肝を冷やしたが、つかまれたのは陰茎の方だった。 
 下着越しに揉みしだかれる。乱暴な手つきなのに、男を高まらせる勘所は押さえていて、 
いやでも快感がかき立てられる。あっという間に勃起してしまう。 
「若い奴は元気がいいねえ。長さ太さは大したことないが、硬さは立派なもんだ」 
 いまや怒りに換えて欲情を目に燃やし、喉の奥で陰湿に笑いながら、下品な台詞を吐くツインローバ。 
「これで賢者どもをひいひい言わせてきたってわけかい」 
 下着を膝まで引きずり下ろされる。ツインローバも下半身の衣装を脱ぎ捨て、濃密な恥毛に 
覆われた秘部をあらわにする。上に跨ってくる。再び硬直をつかみ、先端をぐりぐりと自らの 
股間に押しつける。そこはすでにじっとりと潤んでいた。 
「味見させてもらうとするか」 
 聞こえた直後、リンクのそれは熱い肉洞に呑みこまれた。  
 
 すぐさま激しい体動が開始された。熟した大柄な肉体が、股間を押しつぶしそうな勢いで、 
急速な上下動による衝撃を、のべつ幕なしにぶつけてくる。こちらの都合を全く無視した、 
それはまさに強姦と呼んでいい猛々しさだった。 
 初めてゲルドの女たちに犯された時も同様の状況だったが、ツインローバの躍動ぶりは、 
彼女らなど及びもつかない凄まじさだ。しかも短時間で達した彼女らとは違って、ツインローバは 
一向に果てる気配を示さない。 
「お前……なかなか……いいよ……けっこう……感じさせて……くれるじゃないか……」 
 荒い呼吸の合間に挟みこまれる控えめな言葉とは裏腹に、狼藉はとどまるところを知らず、 
ますます激しさを増してゆく。リンクは苦痛の呻きを止められなかった。 
 ただ、もたらされるのは苦痛ばかりではないのだった。 
 熟練の技巧というべきか、あるいは魔力のなせるわざなのか、自分の快楽だけを求める一方的な 
暴行のようでありながら、膣内に捕らえられた陰茎は、無慈悲な仕打ちに悲鳴をあげつつも、 
確かな快感を得てしまっていた。 
 そうなると、服を破らんばかりに張りきった乳房が目の前で盛んに弾み踊る光景にも、否応なく 
劣情を刺激されてしまう。 
 不意にツインローバの動きが止まった。 
「お前も感じてるね」 
 心の中を読み取るような──いや、文字どおり読み取っているのだろう──指摘を受け、 
リンクは羞恥を覚えずにはいられなかった。 
「敵の女に犯されてよがる勇者の姿を、ゼルダに見せてやりたいよ」 
 かっと顔面が熱を持つ。 
「惚れてる女には見られたくないってかい? 王女様に傍惚れとは、分不相応も甚だしいね」 
 嘲りの表情となるツインローバ。 
「ゼルダとやりたいって思ってるんだろう?」 
 必死で思考を抑えようとするが、そんなことではどうにもならない。呵々と笑いをあげたのち、 
ツインローバが顔を寄せてきた。 
「お前がゼルダの居場所を知っていて、会うことができていたら、かなった願いかもしれないね。 
でもこうなったからには、もうお前に機会はないよ。いずれゼルダは出てくるだろうが、そしたら 
あの王女様は王女様じゃなくなって、お前以上に恥ずかしい思いをすることになるのさ」 
「どうする気だ!」 
 思わず発する叫びに、凄艶な笑みが返される。 
「そのうちわかるよ。いまは──」 
 ぐっと陰茎が締めつけられる。 
「──しっかりあたしの相手を務めるんだ。言っとくけど──」 
 ゆるゆると摩擦が再開される。 
「──あたしより先にいくんじゃないよ。いったりしたら──」 
 摩擦の速度が上がってゆく。 
「──お前の尻を引き裂いてやる!」 
 リンクの背筋に冷たいものが走った。男の尻を引き裂くゲルド流のやり方が、明瞭に思い出された 
からだった。  
 
 殺到する斧の攻撃を、シークは間一髪で回避した。 
 アイアンナックの動きは緩慢だ。斧の軌道を見切るのは難しくない。が…… 
 空振りに動じる気配もなく、敵は向きを変え、のしのしと歩み寄ってくる。 
 まるで機械仕掛けのようだ。やたらと斧を振りまわしているのに、疲れの片鱗もうかがわせない。 
対してこちらの体力は──逃げるだけとはいえ──徐々に減殺されてゆく。 
 後ずさりする背が壁に当たる。 
 広い部屋ではあるが、閉鎖された空間。動ける範囲は限られている。身を隠す場所もない。 
せいぜい柱がある程度で── 
 壁に沿って移動するシークの眼前で、斧が大きく横に薙がれた。身体をのけぞらせて避ける。 
斧は近くの柱に衝突し、大量の石塊を飛び散らせてきた。その一つを頭に受けてしまい、束の間、 
シークの意識は遠くなりかけた。 
 その柱も奴の斧の前ではとうてい遮蔽の役には立たない。いつまで無事でいられるか。 
「こっちだ!」 
 注意を引きつけてこちらを助けるつもりなのだろう、ナボールがアイアンナックの背後に立ち、 
大声を張りあげた。斬りかかろうとする体勢は、しかしくるりとふり向いたアイアンナックに 
相対すると、それ以上の攻撃に移れない。斧の到達範囲が広いため、うかつに踏みこめないのだ。 
 さっきからその繰り返しなのだった。二人が共同することで、何とか攻め手を見つけようと 
しても、敵は全く隙を見せない。剽悍な女戦士の名に恥じず、ナボールはしきりに堰月刀を 
叩きこもうとするのだが、いままでただの一太刀も浴びせられていない。浴びせられたところで、 
頑丈そうな甲冑に効果があるとは思えなかった。シークが一度投じた短刀は、甲冑に傷も 
つけられず、簡単にはじき飛ばされていた。 
 攻撃方法は皆無なのか。 
 狙いを替えたアイアンナックが、無造作な歩みをナボールに寄せてゆく。じりじりと後退する 
ナボール。それを側面から支援できる位置に身を移しながら、シークは必死で頭脳を振り絞った。 
 皆無のはずはない。どこかに弱点があるはずだ。 
 牽制の意図を察したのか、アイアンナックがふとこちらを向いた。が、攻撃する様子がないと 
判断したのだろう、頭の向きはすぐにナボールへと戻った。 
 その仕草がシークを打った。 
 奴は見ている! 兜の下から奴は見ている! 
「あッ!」 
 後退していたナボールが足をよろけさせ、うろたえた声を出した。アイアンナックの斧によって 
床は穴だらけになっている。そのうちの一つに足を取られてしまったのだ。 
 尻餅をつくナボールの頭上で、アイアンナックが斧を振りかざす。 
 シークは瞬時に行動した。ナボールの横に走りこみ、手にした短刀をアイアンナックの 
顔面めがけて一閃させた。じっくり狙いをつける暇はなかった。身についた投擲の勘だけが 
頼りだった。 
 勘に狂いはなかった。目の部分に開いたわずかなすき間を通して、短刀は兜の中に飛びこんだ。 
 キン!──と金属質の響き。 
 やはり人は入っていないのか。実体のない相手に短刀は効かないのでは? 
 幸い、危惧は当たらなかった。アイアンナックは斧を取り落とし、がくりとその場にうずくまった。 
「やったな!」 
 欣喜の叫びとともに素早く起き上がったナボールが、大上段から気合いをこめて堰月刀を 
振り下ろす。一度にとどまらないその斬撃は、しかし案の定、甲冑を破壊することはできない。 
やがて刀は折れてしまった。 
「ちくしょう!」 
 悪態をついて刀を投げ捨てるナボールだったが、すぐに目を輝かせ、 
「それだ!」 
 床に落ちた斧を持ち上げようとする。持ち上がらない。かなりの重量と見える。 
 シークも手を貸し、どうにか床から浮かせることができた。が、操るまでには至らない。 
横に抱えているだけで足がふらついてしまう。 
 がちゃり、と音。アイアンナックが立ち上がる気配を示している。 
 その気配に煽られた。渾身の力で斧を縦にし、起きかかるアイアンナックに向け、身体ごと 
投げ出すようにして巨大な刃を打ちこむ。派手な音を響かせて床に倒れるアイアンナック。 
「もういっぺんだ!」 
 ナボールの闘志に応じ、甲冑の胸に刺さった斧を再び持ち上げ、今度は首に落下させる。 
鈍い破壊音とともにアイアンナックの頭部が胴から離れ、床の上をごろりと転がった。と同時に、 
胴の部分の甲冑がばらばらと剥げ落ちた。 
 人の形をとっていた敵は、もはやただの金屑となり果てたのだった。 
 その残骸も、いつしか生じた白煙に包まれ、いずこへともなく消えていった。  
 
 シークは大きく息をついた。隣でナボールが同様に息を吐き、笑顔を向けてくる。それに笑みを 
返しながらも、部屋の奥の壁面に長方形の欠落が生じているのを、シークは見逃さなかった。 
 アイアンナックを倒したことで、奥の扉が開いたのだ。危機を脱したからといって安心している 
暇はない。ツインローバこそが真の相手。そのツインローバと戦っているリンクを、僕は助けに 
行かなければ。 
 こちらの視線に気づいてか、ナボールも奥の壁に目をやった。その表情が真剣な色を帯びる。 
「あっちだ」 
 言うが早いかナボールは、つかつかと壁に歩み寄り、開いた部分に身を進ませた。すぐに 
立ち止まった。これまでの経緯から、前途に待ち伏せがいるのではないか、と警戒しているようだ。 
 シークはナボールの横に立ち、前方を注視した。 
 トンネル状となった通路。敵の気配はない。先に光が見える。太陽の光だ。どうやらこの先が 
巨大邪神像の左手らしい。 
「大丈夫かな」 
 ナボールの問いかけに、 
「たぶん」 
 と短く答え、シークは足を踏み出した。 
 背後で音がした。ぎょっとしてふり向くと、扉が閉まっている。ナボールと二人でいろいろ 
試してみたが、扉は全く動かなかった。 
「しょうがない。先に進むとしようや」 
 意外にあっさりとナボールは言い、さらにあっけらかんとした調子であとを続けた。 
「もともとそのつもりだったんだ。どうってこたあないさ」 
 アイアンナックとの激闘を経て、なお、この腹の据わりよう──と、シークは感嘆の思いで 
ナボールを見つめた。 
『副官』らがナボールを慕う理由も、こうしたところにあるのだろう。 
 心強いという気持ちが胸の奥に生まれていた。  
 
 通路を抜けた先は、予想どおり、邪神像の左手の上だった。シークは思わず足を止めた。周囲を 
見まわさずにはいられなかった。 
 左には広大な砂漠。右にはそそり立つ巨大邪神像。ここでしか目にすることのできない、実に 
奇抜かつ雄大な眺めである。 
 そんな絶景を、ナボールは完全に無視し去った。その場にある大きな箱だけが興味の対象なのだった。 
「これだよ、これ」 
 声を弾ませ、箱の前にかがみこみ、蓋に手をかけるナボール。 
 開かない。 
 ナボールがうんうん唸りながら力をこめても、蓋は微動だにしなかった。 
 鍵でもかかっているのか──といぶかしみつつ、シークが試みてみたところ、簡単に蓋は開いた。 
ナボールの苦心が嘘のようである。 
「どうなってんだよ」 
 ぶつくさ言いながらも、ナボールは箱の中身を取り出した。 
 それは一帖の盾だった。下方が尖った六角形。表面は銀色で、鏡のような光沢を有し、奇妙な 
紋章が浮き彫りになっている。まわりには赤い縁取りがある。 
 手にしたものを不思議そうに見ていたナボールが、はっとした表情になった。 
「ミラーシールドだ」 
「知っているのか?」 
「これもゲルド族の言い伝えにある。光を集めて魔を打ち破るとか、魔を跳ね返すとか言われてるんだ」 
 ぴんときた。 
 ツインローバに対抗するには格好の武器! 
 そのツインローバのもとへ行くには──と、シークは思考をめぐらせた。 
 来た道は塞がれている。ここから下に移動するしかない。下はちょうど神殿の入口だから、 
それが一番の近道だ。が…… 
 足元を見下ろす。 
 ここはかなりの高さ。しかも入口の前は石造りのテラスだ。飛び降りたりしたら、よくて骨折。 
下手をすれば死ぬ。 
 しかし──と、今度は反対側に目を向ける。 
 邪神像の方であれば可能かもしれない。膝の上という中間地点がある。そこまでなら地面までの 
距離の半分ほどだ。 
 やってみる価値はある。 
 シークは決意した。企ての内容をナボールに告げ、 
「君はここにいるんだ」 
 と言い聞かせる。 
「賢者である君を危険にはさらせない。通路の中に隠れていたまえ」 
「冗談じゃないよ!」 
 ナボールがいきり立つ。 
「賢者だからこそ、ぼけっとしちゃいられない時だろ、いまは! 隠れてろなんて年下の若造に 
言われて、はいそうですかとしおらしくしてるあたしだと思ってんなら、大きな間違いだよ!」 
 威勢よく啖呵を切ったのち、ナボールは真面目な口調となった。 
「あたしだって腕に覚えはあるんだ。足手まといにはならない」 
 再考する。 
 確かにナボールの戦闘力は馬鹿にならない。ミラーシールドがあれば身を守ることもできるだろう。 
それに…… 
 先刻、ナボールに感じた心強さを、シークは信じた。 
「わかった。だが、ここから飛び降りられるか?」 
 邪神像の膝を見下ろすナボール。ごくりと唾を呑みこむ音がした。 
「やってみるよ」 
「よし」 
 ぐずぐずしてはいられない。ミラーシールドはナボールに背負わせ、 
「僕がやるとおりにして、ついて来るんだ」 
 と言い置いて、シークは空中に身を躍らせた。  
 
 身体の上で踊り狂うツインローバを、リンクはどうすることもできなかった。初め感じていた 
苦痛は、いまや快感に凌駕されてしまっていた。 
 四カ所の氷は溶ける徴候もなく、手足をがっちりと固定している。動かせるのは胴と腰だけで、 
それもうっかり動かそうものなら、きつい膣内でもみくちゃにされている陰茎に、よけいな刺激を 
与えてしまう。 
 歯を食いしばって射精の衝動に耐えるリンクだったが、我慢も限界に近づいていた。 
「もうすぐだね」 
 凄みのある笑みを頬に貼りつかせたまま、ツインローバが腰をくねらせる。その動きに伴い、 
内部にくわえこまれた勃起が、ひねられ、ねじられ、しごき立てられる。あのアンジュの技とは 
似ても似つかぬ粗暴さなのに、湧き上がる快美感はそれと同等、いや、それ以上かもしれなかった。 
「さっき言ったことを忘れなさんな。あたしがいくまで、いくんじゃないよ」 
 うそぶきながら、ツインローバはぼくを先にいかせようとしている。理由は明らかだ。 
ぼくの「尻を引き裂く」つもりなんだ。そんな目に遭わされてたまるもんか! 
「たまるかどうか、試しにやってみるかい?」 
 腰の動きが倍速になった。 
「そろそろけりを──」 
 必死で続けてきた忍耐にも── 
「──つけてやるよ」 
 とうとう終わりが── 
 ツインローバがぴたりと動きを止めた。立て続けに妙な衝撃が伝わってきた。崩壊寸前だった 
抑制意欲を急いで固め直し、衝撃の本態を探る。 
 すぐにわかった。ツインローバが凝然と横を見ている。片腕を顔の前に上げている。その腕に 
二本の短刀が突き刺さっていた。 
『この短刀!』 
 ツインローバの視線を追う。 
 神殿の入口にシークが立っていた。 
 
 
To be continued.  
 

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