「ふあっ……ああああ……」  
 ナボールはソファの上で、大きく身体を伸ばしながらあくびをした。  
 退屈だ。  
 ハイラル城に来てから、もう一週間になる。その間ほとんど、城の構内の片隅にある、  
この宿舎にこもりっきりだ。  
『身体がなまっちまうぜ』  
 ガノンドロフの大将は、儀式やら宴会やらでお忙しいようだが、お供の自分たちにはすることが  
ない。毎日ここであくびしている他はない。  
『それにしても……』  
 と、ナボールは考える。  
 大将はどうして自分をお供に選んだのだろう。自分は決して大将のお気に入りじゃない。むしろ、  
うさんくさい目で見られているはずだ。  
『あたしくらいの剣の腕がありゃ、護衛にはもってこいだからな』  
 強いて呑気にとらえようとしてみるが、どうしても説明できないもどかしさが残る。  
 護衛なら、大将について城に上がるよう命じられてもいいはずだが、そんな命令は下ったことが  
ない。いつも大将についているのは隠密組だ。あいつらは側近だから、大将にまとわりついて  
いたっておかしくはない。だがそれなら、自分はなぜここにいるのか。  
 疑問は堂々巡りをする。  
 十人のお供の中で、自分だけが浮いている。他は、ふだんあまりつき合いのない奴ばかりだ。  
それもおかしな気がする。  
『ま、そのうち大将の目論見がうまくいきゃ、どうだっていいことだけどな』  
 反乱。  
 ナボールも、それは心得ている。  
 今回、ガノンドロフがわざわざハイラル城までやって来たのは、ゲルド族がハイラル王国の  
傘下に入り、これまでの敵対関係を解消する約定を結ぶため──ということに、表面上はなって  
いる。しかしそれは見せかけだ。城内に入った機を利用して、一挙に反乱を起こそうという  
計画なのだ。いまごろ砦は、すでに臨戦態勢に入っているはずだ。  
 ハイラル王国に押されてジリ貧のゲルド族。ここらで乾坤一擲の大博打をうつ、という手も  
ありだろう。盗賊団の一員として、これまで略奪と殺戮を繰り返してきた自分だ。反乱くらいでは  
驚かない。  
『あたしゃ、どうだっていいのさ。楽な暮らしができるんなら……』  
 割り切った考えを反芻しながら、ナボールはソファの上の身体を、もう一度ぐいと伸ばす。  
 割り切ったつもり。でも、割り切れない思いが胸を離れない。  
 大将は、それ以上のことを考えているんじゃないか。  
 根拠はない。ただ……隠密組がときおり漏らしている、『石』とか『オカリナ』とかいう言葉。  
意味はわからないが、何か別の計画が進行しているように思えてならない。  
『あたしの知ったこっちゃないが……』  
 割り切れなさを忘れようと努めながらも、ナボールの意識は自然とガノンドロフに向けられる。  
 
 ガノンドロフの大将。ここのところ確かに、ハイラル王国に対して分は悪いが、戦闘力や  
統率力は圧倒的だ。ゲルドの王として文句のない存在だ。なのに……  
『どこか、やばい』  
 そんな匂いがする。  
 何がやばいのか、自分でもわからないが、漠然とした不安が胸から去らないのだ。  
 それに……  
「いけ好かない」  
 ナボールは小声で、しかし露骨に嫌悪感を口から吐き出した。  
 女ばかりのゲルド族の中の、ただ一人の男。飢えた女たちがみな、ガノンドロフをもてはやす  
のも当然だ。だが、ハーレムの君主を気取って、そんな状況を当然と考えている様子が気に  
くわない。仲間たちも仲間たちだ。ガノンドロフの前でメロメロになる体たらくを見ていると、  
ゲルド族のくせに、もっとしゃきんとしろ、と言いたくなる。  
 ゲルド女のほとんどは、ガノンドロフに屈服している。でもあたしは、そんな軟弱な女じゃ  
ないんだ。男は奪って犯すもんだ。  
 そんな考えが、うさんくさく見られる理由だとはわかっている。もちろん表だってガノンドロフに  
逆らったりはしないが、態度には自ずと現れているだろう。  
『かまうもんか』  
 ナボールは昂然と鼻息を漏らした。  
 とはいうものの……  
 奪って犯すはずの男とは、最近とんとごぶさたなのだ。ハイラル王国の圧迫で、男狩りの機会は  
激減していた。前に男と交わってから、どれくらいになるだろう。五ヶ月? 半年?  
 町へ出て男を漁ってやろうか、とも思う。しかし正式な使者団の一員であるいま、ゲルド族の  
体面に関わるような行動はできない。  
『畜生……こんなこと考えてたら……その気になってきやがったぜ……』  
 忘れていた性欲が沸きたち始める。奥がうずく。何かが流れ出すような、この感覚。  
『しかたがない』  
 ナボールは右手を服の間に差し入れた。いつものように、自慰で気を紛らすしかない。  
 弾力のある下腹部の皮膚に触れ、さらに恥毛におおわれた丘を越えて、ナボールの指は、股間の  
合わせ目にある突起に触れる。親指でゆっくりとそれを転がしながら、残りの指をさらに下へと  
伸ばす。まだ潤いが足りない。  
『やっぱりオカズが要るよな……』  
 誰を犯してやろう。  
 頭の中で人選を試みるが、これという候補は浮かんでこない。  
 ハイラル城に来てから一度だけ、仲間たちと城下町を見物に出かけたことがあった。その時、  
仲間の一人が誰かに目をつけて、あいつはいい男だと喜んでいた。あれは薬屋の店員だったか……  
確かに優男だったが、興味は湧かなかった。  
 あんなひょろひょろしたやつ、犯し甲斐がない。あたしはもっと……強いやつと……  
 
 ナボールの頭の中に、一人の男の姿が現れる。  
 それが誰かを確認した時、ナボールの背筋に冷たい震えが走り、  
「う……」  
 同時に膣壁が収縮して、中から粘液があふれ出る。  
 ガノンドロフ。  
『どうして……あんなやつを……』  
 必死で脳裏から消し去ろうと努めるが、その姿はますます大きく、明瞭になり、それにつれて、  
股間の氾濫域がどんどん範囲を広げてゆく。  
『ちがう……あたしは……あいつなんか……』  
 頭では拒否していても、身体は正反対に反応する。  
「うっ……あ……」  
 指の動きが速度を増し、振動に近いペースで陰核を刺激する。止めようとしても止まらない。  
 妄想の中で、すでにガノンドロフはナボールに迫り、いつしか全身を露わにして、巨大な肉柱を  
傲然と屹立させていた。  
 どうしたんだ、あたしは……ガノンドロフなんか……ただのエロオヤジじゃないか……  
 いや、ナボールも、心の底ではわかっていた。ガノンドロフには魔力的な吸引力があることを。  
 いけ好かないと自分に言い聞かせようとしてきたが……それは……  
 ついに妄想内のガノンドロフはナボールを圧倒し、冷たい笑いを浮かべながら、硬い肉柱を  
差し入れてきた。その瞬間、  
「うあッ!……ああッ!……あ……あ……」  
 犯られた……と、ナボールは感じた。しかしそれは錯覚だった。実際にはナボール自身の指が  
膣内に挿入されただけだった。  
 その錯覚に気づき、ナボールは愕然とした。  
 あたしは……ほんとうは……ガノンドロフに犯されたがってるのか……?  
 馬鹿な!  
 必死でふりしぼる理性の叫びもむなしく、ナボールの意思とは無関係に、その指は膣内を激しく  
かきまわし、肉体は急速にクライマックスへと向かいつつあった。  
「あッ!……あッ!……ああッ!……あああぁぁッッ!!」  
 ガノンドロフに一方的に蹂躙され、悦楽の悲鳴をあげる自らの姿を、ナボールは見、そして、  
絶頂した。  
 
 数分後。  
 ソファの上で、ナボールは屈辱に身を震わせていた。  
 よりによって、ガノンドロフに犯される自分を想像しながら、いっちまうなんて……  
 ナボールは激しく首を振った。無理やり自分を納得させようと努めた。  
 あたしの本心じゃないんだ。男に飢えていたから、つい身近な男を思い出してしまっただけなんだ。  
 でも……ほんとうは……  
 ふと気配を感じ、ナボールは顔を上げた。同時に、心臓が凍りつくような衝撃を覚えた。  
 部屋の入口に、ガノンドロフが立っていた。  
『見られた!?』  
 身体中に電流のような刺激が走った。  
 ここにはめったに来ることはないのに……どうして今日に限って……どうしてあたしが……  
こんな時に……  
「ガノンドロフ……様……」  
 ナボールはふらっと立ち上がった。心の中の動揺をよそに、身体は自然に動いた。何かに  
操られてでもいるかのように。  
 ガノンドロフは無言で、唇の端に薄い笑いを浮かべ、興味深そうにナボールを注視していた。  
その表情は、獲物を前にして舌なめずりをする猛獣のように、酷薄で残忍な色調に満ちていた。  
「ナボール」  
 ガノンドロフが言った。  
「……は……はい……」  
 ナボールの声は震えた。  
「いま、歳は?」  
 飛躍した質問。しかしナボールの口は、素直に答を返していた。  
「十……八……」  
 ガノンドロフの表情が、少し動く。  
「熟れ頃だな……」  
 ずい、とガノンドロフは歩み寄り、ナボールに近づいた。  
 犯られる!  
 ナボールの脳内で警報が鳴った。  
 このためだ。あたしをお供に加えたのは、あたしを落とすためだったんだ。  
 だが身体は動かない。目の前に迫るガノンドロフの顔。さっきの妄想と同じ。  
 同じなら……と、ナボールは思う。  
 あの妄想と同じなら、これからあたしはこいつに犯されて……でも……あたしが本心ではそれを  
望んでいるのだとしたら……それでも……いいじゃないか……  
 かすんでゆく理性を快く見送ろうと、決心しかけた、その時。  
 ナボールの脳の別の部分が、大音量で新たな警報を発し始めた。  
 だめだ! こいつに落とされたらだめだ! こいつはやばいやつなんだ! 深入りしたら  
とんでもないことになる!  
「ガノンドロフ様」  
 声。  
 隠密組の一人が、部屋の入口に立っていた。  
 ガノンドロフが振り返る。その視線がはずれた瞬間、ナボールの身体の呪縛が解けた。  
 直後、ナボールはガノンドロフの横をすり抜け、脱兎のごとく部屋から飛び出していった。  
 
「……まずかったでしょうか?」  
 走り去るナボールを不思議そうに見送りながら、それでも何となく状況を察したのか、隠密組の  
女は、気まずげな顔でガノンドロフに言った。  
「いや、かまわん」  
 ガノンドロフは感情のない声で答えた。  
 惜しいところだったが……まだ機会はあるだろう。  
「……で、何かわかったか?」  
「はい」  
 女は冷静な隠密の表情に戻り、淡々とした声で報告を始めた。  
「先ほど、ハイラル城の中庭にいた、ゼルダ姫の様子を観察しておりました。一緒にいたのは、  
インパと、きのうゼルダ姫を訪れた少年です」  
「あの緑色の服を着た小僧だな」  
「はい。彼らの話によると……」  
 女は声を低くした。  
「森の精霊石は、その少年が持っているとのこと。そしてゼルダ姫は少年に、残りの二つの  
精霊石の探索を依頼していました」  
「そうか……」  
 ガノンドロフは視線をやや上に向け、考えにひたろうとしたが、ふと気になって、女に問いを  
発した。  
「聞いた内容は確かだろうな」  
「大丈夫です」  
 女は自信ありげだった。  
「ゼルダ姫に近づくのは難しかろう。よく聞くことができたな」  
「中庭へは入りませんでした。入口の所に身を隠しておりましたので。私には……」  
 女はそう言って、自分の目を指さした。  
「これがありますから」  
「読唇術か……」  
 隠密組の能力。こいつらを育ててきたのは、正解だったようだ。  
「よくやった」  
「は、ありがとうございます」  
 女は嬉しげに礼をした。  
 ガノンドロフは改めて黙考する。  
 自分がハイラル城に入りこんだいま、『時のオカリナ』は目の前にある。確認はできていないが、  
ゼルダがそれを持っていることは間違いあるまい。しかし、三つの精霊石の方が問題だ。  
 デクの樹にひそませたゴーマが死んだことは、すでに察知していた。森の精霊石の奪取に失敗  
したことで、計画は大きく狂ったかに思われた。炎の精霊石と水の精霊石も、布石は打ってある  
ものの、まだ入手するには至っていない。だが……  
 いまはあの小僧が森の精霊石を持っていることわかり、しかもありがたいことに、この城まで  
のこのこやって来てくれた。残る二つの精霊石は……  
 機先を制して強行奪取するか。いや……探索を頼まれたというあの小僧と、直接ぶつかるのは  
得策ではない。たかが幼い子供、大したことはないが、ゴーマはあの小僧に倒されたに違いない。  
子供とはいえ、油断はならない。それに小僧の背後には、ゼルダとインパがいる。あのインパも、  
警戒しておかねば。  
 下手に動かない方がいいかもしれない、と、ガノンドロフは考え直した。  
 小僧が二つの精霊石を探してくれるのなら、好都合ではないか。面倒なことは小僧にやらせて  
おいて、あとでおいしい所だけをこちらがいただく。  
 こちらが打った布石である、キングドドンゴとバリネードをどうするか、とも考えたが、  
ガノンドロフはそのままにしておくことにした。  
 小僧が成功するとは限らない。二重の方策をとっておく方が安全だ。  
 
「あの……」  
 考えがまとまって満足したガノンドロフの耳に、声が届いた。  
 隠密組の女がそこに控えていた。  
 まだいたのか、と言おうとして、ガノンドロフは女の恥ずかしげな風情に気がついた。再び唇の  
端に笑いが浮かぶ。  
 ナボールの代役にちょうどいい……  
「褒美が欲しいか」  
「はい、できましたら、ぜひ……」  
 女の顔が紅潮している。  
「よかろう」  
 ガノンドロフは女を窓際に立たせ、腰を後方に突き出させると、下半身の衣装を引きずり下ろした。  
「あ……」  
 女はそれだけで切ない声を漏らす。  
 自らを解放したガノンドロフは、女の腰をつかみ、その背後から、隆々と膨張しきった巨根を  
没入させた。  
「んああぁぁッ!……うぅッ!……うぁッ!……」  
 すでに女の秘所は淫液にあふれ、ガノンドロフの逸物をすんなりと受け入れた。口からは  
動物的な呻きがほとばしり、続いてきれぎれに屈服の言葉が漏れる。  
「……ありがとう……ございます……ガノン……ドロフ……さま……」  
 ガノンドロフは機械的に腰を前後させながら、心では全く別のことを考えていた。  
 ゼルダ。  
 ハイラル城内で幾度か見た。  
 王女としての作法の現れか、感情をすっかり隠した、能面のような表情だったが、その中で、  
両の目のみが、ゼルダの心底を露わにしていた。  
 あの冷たい目。嫌悪の視線。  
『だが、それがいい』  
 ガノンドロフは心の中で冷酷に笑う。  
 ゼルダの目に、実は自分への恐怖がひそんでいることを、ガノンドロフは正確に感じ取っていた。  
 そうやって俺を嫌悪するがいい。そのうちに、心ゆくまで恐怖を味わわせてやる。  
 まだ幼いゼルダの肢体を想像し、ガノンドロフの肉棒は脈動する。  
「いぃッ!……あああぁぁッッ!……もうッ!……いくぅぅッッ!!」  
 女の膣が痙攣し、巨根で拡張しきった内腔を、何とかして閉じようと抗い始める。  
 いつもなら、そんな抵抗には平然と耐えるガノンドロフだったが、いまは新たな欲望の対象を、  
邪悪な陵辱の餌食にする幻想に酔いしれ、敢えてそのままスパートをかけた。  
「んぁぁぁあああああーーーんんんッッ!!!」  
 女が到達すると同時に、その膣内でガノンドロフも射精した。  
 おのれに組み敷かれ、処女の秘唇を引き裂かれて泣き叫ぶ、ゼルダの姿を脳裏に浮かべながら。  
 
 
To be continued.  
 
 

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