リンクとシークと『副官』は、ゲルドの砦に着いた日とその夜を、純粋な休息に費やした。 
魂の神殿における饗宴は、とてもすぐには新たな活動を起こせないほどの疲労を、三人に与えて 
いたのである。幸い、砦を引き払うための作業は、他の仲間たちの手によって、すでにほぼ 
完了しており、休息は気兼ねなくとることができた。 
 翌日、完全にとはいえないまでも体力を回復した三人は、砦にとどまっていた少数の仲間たち、 
それにエポナを伴って、いまやゲルド社会の中心地となっているハイラル平原西端の町へと 
帰り至った。たちまち『副官』は多忙となった。不在の間に溜まった案件が、いまかいまかと 
指導者の帰還を待ち構えていたのだった。 
『副官』は用務に専念させておき、リンクとシークは、町の宿屋の一室をねぐらとして、三日間、 
最後となるべき旅の準備と情報収集を行った。二人を驚かせる情報があった。ハイラル城下町に 
駐留していたゲルド族がすべてその地を去った、というのである。ついに一族全員がガノンドロフを 
見限ったわけだった。それはすなわち、現時点でガノン城に居座っているのがガノンドロフ 
ただ一人であることを意味している。大敵に立ち向かう機がいよいよ熟しているといえる状況だった。 
 城下を去ったゲルド族の一部は、この町に到来している、とのことだった。『副官』の多忙さも、 
その件に関係していると思われた。離反した者を追ってガノンドロフが襲ってくるのでは、と 
リンクは案じたが、シークはその懸念を否定した。 
「『魂の賢者』として覚醒したナボールが、ゲルド族の支配領域の周囲に結界を張ったはずだ。 
ガノンドロフは侵入できまい」 
 他の地ではゲルド族を閉め出していた結界が、ここではそれを排除せず──結界内にいるのが 
ゲルド族だから当然なのだが──対ガノンドロフという意味合いだけを持っているのだった。 
いや、いまとなっては他の地でも──ナボールがそうだったように──ガノンドロフを除く 
ゲルド族全般が受け入れられるようになっているだろう、と二人は推量した。 
 ガノンドロフの麾下にあって暴虐の限りを尽くした連中が、離反したとはいえ、そのまま 
味方へと合流してくる点に、リンクは以前から複雑な思いを抱いていたが、結界がそれを 
許すのであれば、と、こだわりを捨てることにした。  
 
 翌朝には町を発つという日の晩、忙しい身であるにもかかわらず『副官』は、リンクとシークを 
歓送するための宴席を自宅に準備してくれた。以前、砦で知り合った仲間たちも招かれ、出会いと 
別れを同時に、ただしあくまでも陽気に談じ、かつ、戦いを控えた二人を励ます、楽しくも 
意気盛んな時間が過ぎていった。 
「軍勢を出してあんたたちを助けられたらいいんだが、いまはこっちも混乱してるし……それに 
寝返ったといっても、ガノンドロフに打ちかかっていけるだけの度胸がある奴は、おいそれとは 
出てこないだろうしね」 
 すまなそうに言う『副官』は、それでも、離反者たちから得たという情報を残らず提供してくれた。 
城下町の現況や、そこに至るまでの行程についてである。城下には部隊が物資を置き去りに 
してきた宿所があるから、かの地を訪れた時はそこを利用しろ──と『副官』は強調した。 
リンクとシークは宿所の位置を聞き取り、しっかりと記憶した。 
 ガノンドロフ打倒に関する熱心な会話は、さらに続いた。その会話に加わりながらも、リンクの 
胸には、別の疑問がわだかまっていた。 
 シークと『副官』の、今後の関係についてである。 
 会席者の間では、シークが『副官』の「彼氏」であることは、すでに周知の事実だった。 
仲間たちは二人を露骨に冷やかし、『副官』は顔を赤らめつつもきわどい内容の応答をした。 
が、二人の将来に関わる話題を、『副官』は──そしてシークも──全く口に出さなかった。 
 めったに内面を表出させないシークはともかく、シークに単なる好意以上の思いを寄せている 
はずの『副官』が、その点だけには触れようとしないのを、リンクは奇異に感じた。他者の 
面前とはいえ、ざっくばらんな『副官』とあらば、直接シークに関係の継続を求めてもおかしくは 
ないだろう、と思ったのである。しかし『副官』がこちらに求めてきたのは、ナボールの功績の 
記念としてミラーシールドを手元に置かせて欲しい、ということくらいで、他にはいっさい 
要望と取れるような発言をしなかった。 
 結局は二人の考え次第である、詮索はしないでおこう──とリンクは決めた。ただ、時が 
経つにつれ、シークに向けられる『副官』の目が、ある種の情を徐々に満たしてゆくさまは、 
リンクにも観察できていた。 
 宴が終わったのち、他の仲間たちとともに辞去しようとするリンクとシークを、『副官』は 
呼び止めた。 
「もう少し話していかないか?」 
 いったんは応じたリンクだったが、爾後の『副官』の素振りは、彼女の関心が──先日のような 
三者の共存にではなく──シーク一人に集中していることを明瞭に物語っていたため、エポナの 
様子を見に行きたいからと理由をつけて、早々に席を立った。案の定、『副官』は強いて 
引き止めようとはせず、シークも同行する気配を示さなかった。 
 リンクは宿に帰り、ひとりで眠りについた。 
 
 シークが戻ってきたのは早朝だった。 
「すまなかった」 
 と短く言うだけのシークに、リンクもまた、短く答えた。 
「いいさ」 
 出発の準備を調えて町の出口に至った二人を、『副官』と数人の仲間が待ち受けていた。 
『副官』は改めて激励と別離の辞を述べ、二人は簡潔に礼を返した。 
 シークと『副官』のやりとりに感傷的な色合いはなかった。交わすべき言葉と行いは昨夜の 
うちに交わし終えたのだろう──とリンクは推測した。  
 
 ハイラル平原を行くリンクとシークの旅は、格別の支障もなく進捗した。時に遭遇する 
ゲルド族の連中は、全く敵意を向けてこず、協力的ですらあった。ゲルド族と一般住民との和解が 
浸透しつつある証左と思われ、二人の胸は安らいだ。 
 天候も上々だった。上々すぎるほどだった。ゲルド族の支配領域がそうであるのは当然としても、 
その先の世界を黒々と覆っているはずの暗雲が、行けども行けども見えてこないのだった。 
 領域を脱した所で実態は把握できた。暗雲はほとんどなくなっていた。ハイラル平原のほぼ 
全域が、七年ぶりの晴天を享受していたのである。 
 すでに平原東方で──そしておそらくハイリア湖方面においても──拡大の徴候を示していた 
好天がさらに範囲を増し、またナボールの覚醒に伴って西方でも雲が消褪し、いっそうの 
相乗効果が触発されて、この喜ばしい現象を引き起こしたものと考えられた。 
 リンクの胸は熱くなった。これまでの数々の苦労が報われたと実感できた。 
 ただし、感動に水を差す要素が、まだ残っていた。 
 城下町方面の情勢である。 
 他の地を覆っていた雲よりも、ひときわ暗く陰鬱な密雲に、なおそこだけは支配されていた。 
 当初、遠くの一点に過ぎなかった密雲は、その地へと近づくにつれ、徐々に規模を大きくし、 
リンクに緊張をもたらした。天候の回復と、それに伴う魔物の消散が、心を鼓舞する要素と 
なってはいたものの、進めば進むほど、緊張は強まる一方だった。 
 城下町へは何度か潜入したことがあるというのに、どうして今回はこんな気分になってしまうのか。 
 ガノンドロフとの最後の戦いを目前としているからに他ならない。 
 七年前にガノンドロフと対峙した時、自分がいかに無力な存在であったかが、否応なく 
思い出された。いまの自分はあの時よりもはるかに力をつけているのだ、と、おのれを 
奮い立たせようとしても、緊張は去らなかった。 
 食欲は減退し、睡眠も浅くなった。こちらの心境を察してか、シークはしばしば励ましの言葉を 
かけてくれた。しかし、あまり効果は得られなかった。 
 そこへ別の懸念が加わった。エポナが身体に変調をきたしたのである。 
 気づいたきっかけは進行速度の低下だった。調べた範囲に怪我はなかったが、どことなく 
元気がない。そのうち便秘の傾向にあることがわかった。原因は不明である。食餌に問題は 
ないはずだった。 
 城下町まであと二日、という地点に至っても、エポナの体調は改善しなかった。心配を募らせる 
リンクに向けて、シークが不気味な発言をした。 
「馬の便秘は意外に厄介で、悪くすると命に関わる、と聞いたことがある。腸閉塞というやつだ。 
目的地が近いとはいえ、放置しておくのはまずい」 
 どうすればいいか、との問いに、一つの提案が返された。 
「ロンロン牧場へ行って、馬に詳しい人の意見を聞いてみたらどうだろう。ここから大して遠くは 
ない場所だ。さほど時間はかかるまい」 
 リンクは同意した。自分は先に城下町へ赴いて状況を探っておく──と言うシークには悪い気が 
したが、親友であるエポナの窮地を見過ごすわけにはいかなかった。 
 城下に程近い集落で落ち合うこととし、二人は互いに一時の別れを告げた。  
 
 これが慰みになってくれたら──と、城下町への道をたどりながら、シークは胸の中で独り言ちた。 
 ロンロン牧場へ行けとリンクに勧めたのは、もちろんエポナを案じてのことだが、他にも 
理由があった。 
 リンク本人の精神状態を慮った上で、あのように提案したのだ。 
 ここ数日、リンクの気が張りつめているのは、傍目にも明らかだった。ガノンドロフとの決戦を 
控え、相当の重圧を感じているのだ。行動に変化をつけることで緊張を和らげられるかもしれない。 
腸閉塞だの命に関わるだのと大げさに言い立てて、リンクの背を押してやったのは、そういう 
意図があったからだ。 
 ロンロン牧場には、リンクが心を休ませるのに格好の人物がいる。 
 マロン。 
 リンクとマロンが出会った時、そこで何が起こるかを、僕は正確に予想できる。けれども胸に 
痛みは覚えない。魂の神殿における経験が、僕を寛大にしているのだ。いまの僕が口で励ます 
だけではできないことを、リンクの初めての相手であるマロンなら、うまくやってくれるだろう 
──と、こだわりなく認められる。 
 それに、僕と『副官』が二人きりで一夜を過ごせるよう気遣ってくれたリンクへの、これは 
お返しでもあるのだ。 
 そこで思いは旋回する。 
 僕と『副官』との、今後の関係。 
 セックスの面では奔放な彼女だが、僕にはひとかたならぬ感情を向けてくれている。僕にとっても 
彼女の存在は、決して小さなものではない。しかし、この先、二人が恒久的な関係を築いてゆくか 
どうかは、また別の話だ。 
 ゲルド族のリーダーである『副官』と、ハイラル王家に関わりの深いインパの「息子」である 
僕が結びつきを深めるとなると、そこには政治的な問題が生じてくる。 
 対立してきた両者の、それは和解の象徴となるかもしれない。が、現時点では、要らぬ障害を 
生む可能性も、また高いのだ。 
『副官』がリーダーの立場となって、まだ日は浅い。一族の支持を完全に固めたとは言い切れない。 
そんな時、つい先日まで敵方だった男との関係が公になったら…… 
 男を男とも思ってこなかったゲルド族だ。反感を持つ者が現れかねない。 
 同様のことは僕にもいえる。ゲルド族との和解の空気は、ハイラル西方でこそ醸成されつつ 
あるが、なお東方には及んでいない。ゲルド族に蹂躙された経験のある、たとえばカカリコ村の 
人々などは、僕とゲルド女との関係を、簡単には容認できないはずだ。 
 おそらく『副官』も、そう認識している。あの夜、僕に抱かれて喜悦の極致に達しながらも、 
より深い関係を結びたい、とは、彼女は言わなかった。かつて『幻影の砂漠』を目指して町を 
去ろうとする僕にかけた「また会おう」という言葉を、今回の彼女は口にしなかった。 
 他にも、個人的な感情という問題がある。 
 アンジュとの繋がりを絶たれた僕。それに匹敵する別の繋がりを急いで求める気にはなれない。 
ナボールとの繋がりを絶たれた『副官』も、たぶん同じ心境だろう。 
 第一、いまはそんなことに囚われている時ではないのだ。ガノンドロフ打倒という使命の 
遂行だけを、僕は考えなければならない。 
 実に困難な使命だ。果たせるかどうか心許ない。命の保証もありはしない…… 
 いや、弱気になってどうする。必ず果たす。果たしてみせる。さもなければこの世界は──  
 
 ふと我に返る。 
 いつの間にか、歩みが止まってしまっていた。 
 大きく息を吐き、肩に溜まっていた力を抜く。路傍の草地に腰を下ろす。 
 緊張に襲われているのはリンクだけではない。僕もかなりの緊張状態にある。適度の緊張は 
必要だが、過剰になると逆効果だ。心の均衡は保っておかなければ。 
 前向きに考えてみよう。 
 使命を果たすことができたとして、そののち、僕はどうするか。 
 もう『副官』とは会わない、と決めたわけではない。たまさかの逢瀬を持つ機会くらいは 
あるだろう。世界が平和を取り戻し、旧王国民とゲルド族との和解が進展すれば──また、 
愛する者を失ったという互いの傷が癒える時が来たら──その時には、僕と彼女の関係も…… 
 思いは中断する。 
 おかしい。 
 自分の未来を考えてみても、まるで実感が湧いてこない。自分のこととは思えないくらい、 
あやふやで、不確かで、非現実的だ。 
 世界が統合される直前、アンジュとの将来を頭に描いた時は、こうではなかった。使命が 
果たされたなら、あれもしよう、これもしよう──と、必死で考えたものだ。 
 アンジュと『副官』とでは、僕の持つ想いの深さが違うからなのか。 
 必ずしもそうではあるまい。ガノンドロフとの最終決戦という、あまりにも大きな試練を 
眼前にして、そのあとのことなど自然には考えられない精神状態に、僕はなっているのだろう。 
 そもそも、僕の存在自体があやふやなのだ。僕の中にはラウルがいて、彼とは異なる 
「何者か」もいて、僕自身の過去の記憶は封じられていて、僕がどういう人間なのか、七年前に 
インパと出会った僕はそれ以前にどこで何をしていたのか、たとえば僕と何らかの関係がある 
はずのゼルダは──(ゼルダ?)──僕にとっていかなる意味がある人物なのか、などといった 
諸々のことがらを、僕は全く知ってはいない。そんな僕が自分の未来を現実的に捉えられないのは 
当然ともいえるわけで、『副官』であれリンクであれ──(リンク?)──誰がどんなふうに 
未来の僕と関わることになるのか、いまの僕には予測もつかない。 
 考えるべきは、ただ一つ。 
 使命。 
 僕の内にあるラウルが真の覚醒に至ることで、僕なる者の実相は明らかとなる。そして 
ガノンドロフ打倒という究極の目的を果たし得た時こそ、僕の未来は開けるのだ。 
 シークは立ち上がった。 
 その時は、すぐそこまで来ている。いくら緊張が身を苛もうとも、僕は自らの行く道を 
直視しなければならない。 
 北の方角を閉ざす陰惨な暗黒にまっすぐ目を据え、シークは覚悟の歩みを続けていった。  
 
 七年ぶりの陽光のもと、ハイラル平原はかつての美しさを取り戻しつつあった。いまだ多くは 
枯れ草に覆われているものの、緑の新芽がそこここに顔を出しており、新たな命の息吹を確然と 
感じさせた。リンクは胸の温まりを覚えた。目指す地へと近づくにつれ、胸はさらに温かみを増した。 
 理由はわかっていた。 
 マロン。 
 最初の過去改変によって、悲惨をきわめていたマロンの運命は一変した。二度目の過去への 
旅ではマロンに会わなかったから、先の改変の結果に影響はないはず。マロンは幸せを保っている 
だろう。その幸せなありさまを、ぼくはもう一度確かめたい。 
 どこに向かっているのかを察知したのか、エポナも元気を取り戻したようで、少し歩みが 
速くなった。便通の状態に変化がない点は気がかりだったが、多少は症状が軽減したわけである。 
リンクは一応の安堵を得た。 
 
 平原の緩やかな傾斜を登りつめると、ロンロン牧場の門が目に入ってくる。すでに見慣れた 
構図であるのに、胸は自然と浮き立った。 
 リンクは門の前でエポナから降りた。あとは轡をとって牽き進み、母屋と馬小屋の間を抜けて、 
牧場に出た。 
 午後の太陽が投げかけるまぶしい光を受け、一面に生い茂る牧草は、生き生きと、青々と 
輝いている。吹き過ぎるそよ風が、その葉先を優しく揺らす。場に点々と散る馬たちは、佇んだり、 
歩んだり、あるいは草を食んだりと、思い思いにくつろいでいる。 
 七年前を彷彿とさせる、穏和でのどかな風景だった。 
 その中に、唯一、七年前とは異なる要素がある。 
 牧場をめぐる柵に沿って歩いてゆく、君。 
 馬の清拭用の水でも運んでいるのか、両手で重そうに手桶を持って。 
 風にたなびく栗色の髪には変わりがないけれど、その持ち主である君は、七年前のような幼い 
少女ではなく、若いながらも成長の跡が明らかな大人の女性だ。 
 かけようとした声が、エポナの嘶きに先んじられる。 
 ふり向いた顔に一瞬走った驚きはすぐさま、あの咲きほこる花のような笑顔に取って代わられ、 
「リンク!」 
 地面に落ちた手桶が水を全部こぼしてしまうのを気にも留めずに君は走り寄ってきて、 
抱きついてきて、それはぼくが前にここを訪れた時の── 
「ふた月ぶりね!」 
 そう、二ヶ月前の、君の姿形、君の行動と全く同じと言っていいほどで── 
「元気かい?」 
「ええ!」 
 交わす言葉もその時とほとんど違いはないというのに、君から受ける印象は微妙に異なっていて── 
「暮らしはどう?」 
「うまくいってるわ。ほら、こんなにお天気がよくなって、草はきれいに生えてきたし、馬や牛や 
コッコたちも喜んでる」 
 なぜならぼくは、日の光に照らされた大人の君を、いま、初めて目にしているからで、そんな 
君の明るさは── 
「それだけじゃないの。父さんが戻ってきたのよ。昔の怠け癖が嘘みたいに、いまは頑張って 
働いてくれてるわ」 
 君の幸せが、なおいっそうの幸せとなったことを意味していて、そうした君の様子がわかって、 
ぼくは── 
「よかった……」 
 と心から言える。 
 リンクはしっかりとマロンを腕に抱き包んだ。  
 
 再会を喜び合う抱擁は、しかし長くは続かなかった。エポナの体調がすぐれない件を伝えると、 
たちまちマロンの顔に影が差した。 
「確かに肌が荒れてるわ。毛色に艶もないし……」 
 気遣わしげにエポナの体表を観察していたマロンは、自分の手に余ると考えたのだろう、 
いったんその場を離れたかと思うと、引きずるような勢いでタロンとインゴーを連れてきた。 
挨拶もそこそこに、リンクは経過を話した。インゴーは眉根に皺を寄せ、エポナの腹部に手を 
触れたり、耳を当てたりしていたが、やがて意外に安閑とした口ぶりで所見を述べた。 
「腸の蠕動音が少し弱い。といっても腸閉塞ってほどじゃねえ。疝痛の気もねえようだしな。 
ま、ここまで歩いて来られたんだから、大したこたあねえだろう」 
 意味不明の単語が混じってはいたものの、軽症であるということは理解でき、リンクは胸を 
撫で下ろした。 
 
 もう少し詳しく診てみるから──と言って、インゴーはエポナを馬小屋へと牽いていった。 
タロンは別の作業に取りかかり、リンクとマロンだけがそこにとどまった。 
 二人は柵にもたれて話をした。エポナに大事はないと知って安心したのか、マロンの表情には 
明るさが戻っていた。口調も軽く、朗らかだった。 
 マロンはロンロン牧場の好調さを──特にタロンの熱心な働きぶりを──さらに詳しく、 
嬉しそうに語った。その言に掛け値のないことはすぐわかった。二人が立っている前をタロンは 
ひっきりなしに往復し、母屋、牧場、馬小屋、牛小屋といった牧場内の各場所で仕事に没頭していた。 
カカリコ村で会った時「目が覚めた」と言っていたのはほんとうだったんだな──と、リンクは 
温かい思いを抱いた。 
 マロンの話は近隣の村々の現況にも及んだ。ゲルド族の介入がやみ、また天候が回復したことで、 
人々は生きる張り合いを取り戻しているらしい。彼らの生活がたちどころに豊かとなったわけでは 
ないにしろ、力づけられる点ではあった。  
 
 マロンの心は弾んでいた。 
 世情が好転していると感じられるようになっていたところへ、他ならぬリンクの到来である。 
エポナの件は気になったが、それも心配なさそうとわかり、身のまわりの幸せを語るのに、 
知らず知らず熱が入った。 
 途中で、ふと思い出した。 
「でも、これって……リンクなの?」 
 つい漏らした舌足らずな発言に、リンクがいぶかしそうな顔つきとなる。マロンは言葉を 
継ぎ足した。 
「リンクは前に言ってたでしょ。世界をよくしてみせる、みんなの幸せを取り戻してみせる── 
って。最近、世の中がいい方に進んでるみたいなのは……リンクがそうしてくれたの?」 
「うん、まあ……」 
 照れたように、リンクが微笑む。 
「ぼくが直接そうしたってわけじゃなくて……ぼくだけの力でもないんだけれど……ぼくも 
精いっぱい、やってきたよ」 
 やっぱりそうなんだ。リンクは控えめにしか言わないけど、あたしにはわかる。天気が 
よくなったのも、ゲルド族がおとなしくなったのも、父さんが帰ってきたのも、きっとリンクが 
この世のどこかで悪と戦って、その悪を打ち倒してきた結果に違いない。 
「旅はどんなだった? どういう所へ行ったの?」 
 リンクは話してくれる。コキリの森、デスマウンテン、カカリコ村、ゾーラの里、ハイリア湖、 
そして『幻影の砂漠』。ハイラル全土を、しかも何度も経めぐらなければならなかったという 
その旅は、どんなにつらく苦しいものだったことか。あたしには想像もつかない困難を、それでも 
リンクは切り抜けてきたんだわ。未来を見据えて戦ってきたんだわ。 
 リンクの精悍な顔、引き締まった口元。そしてすべてを見とおすような力強い眼差しが、 
不思議な暖かみとなってあたしを包む。あたしに染みとおる。じんと心が痺れて、じんと身体が 
潤んで、もっとリンクを感じ取りたい、もっと他の方法で感じ取りたい、もっともっともっと 
いっぱい感じ取りたいという欲求が湧き上がってきて、それはもちろんリンクが目の前に現れた 
時からあたしの中でくすぶっていたのだけど、いまはそれが抑えようもなく強まってきて、 
強まってきて、だめよあたしったら何を考えてるの、せめて夜まで待って── 
『あ!』 
 やにわに思考が現実へと戻る。 
 今夜はまずい。明日から「危険な四日間」が始まる。指を折って数え直すまでもない。周期が 
狂うことなどないのだから。 
 せっかくリンクが来てくれたのに、なんて運が悪いのかしら……  
 
 どうしてマロンは急にそわそわし始めたのか──と奇妙に思っているところへ、 
「お邪魔しますぜ」 
 声をかけられた。馬小屋から出てきたインゴーが、にやにや笑いながらこちらに歩を寄せている。 
 インゴーはぼくとマロンの関係を知っている。いまの台詞といい、にやにや笑いといい、 
冷やかしの意図が明白だ。とはいえ悪意は感じられない。 
 節度は守るということなのか、それ以上の突っこみはなく、近くまで来て立ち止まった 
インゴーは、真面目な顔になって話し始めた。 
「ざっとエポナを診てみたが、いますぐ治療しなくちゃならねえ状態でもねえようだ。様子見で 
充分だろう。ただ便秘の理由がわからねえから、しばらく休ませた方がいい」 
 ほっとしつつも、訊き質す。 
「しばらくって、どのくらい?」 
「一週間ってとこかな」 
 一週間。落ち合う約束をしているシークのことを考えると、そんなには待てない。理由が 
わかれば何とかなるだろうか。 
 そもそも馬の便秘とはどういう時に起こるものなのか、と訊ねてみた。 
「いろいろあるぜ。餌のせいだったり、運動不足だったり、気候の具合とかな。おめえの話じゃ 
どれも当たってそうにねえから、他にといやあ、ストレスか」 
「ストレス?」 
「そう。馬ってなあ、ああ見えてなかなか繊細なのさ。エポナは図太い方だが、それでも緊張が 
続きゃあ便秘になっても不思議はねえ。なんか思い当たるこたあねえか?」 
 答は返さず、考える。 
 ぼくの緊張が伝わったせいかもしれない。もしそうなら、ぼくとエポナの結びつきの強さを 
反映しているといえそうだ。しかし好ましい反映のしかたではない。いまのぼくは、ここへ来て、 
マロンに会って、だいぶゆったりとした気分になってはいるけれど、この先、再び緊張に囚われて 
しまう可能性は多分にある。エポナと一緒に旅を続けるのは、とりあえずは避けるべきなのではないか。 
 城下町までは大した距離じゃない。それなら……  
 
『一週間!』 
 マロンの胸に希望の灯がともった。 
 一週間あれば充分だわ。四日が過ぎたら、あとは好きなだけリンクと…… 
「しかたないわよ」 
 わくわくする気持ちを抑え、難しい顔をしているリンクに、慰めもどきの台詞を述べる。 
「エポナの身体のこと、考えてあげないと。それに、ちょうどいいじゃない。リンクも一週間、 
ここでゆっくり休んでいったら──」 
「そうもしていられない」 
「え?」 
「人と会う約束があるんだ。エポナは置いていくよ」 
『そんな……』 
 わくわく気分が吹っ飛んでしまう。 
「好きにするがいいさ。エポナはおめえの馬だからな。置いていくってんなら預かっててやるよ」 
 気にする様子もなくインゴーは言い、ぶらぶらと馬小屋へ戻っていった。 
 残された二人の間に沈黙が落ちる。 
 黙ってちゃいけない。何か言わなきゃ。このままリンクと別れるなんて。 
「行っちゃうの?」 
「……うん」 
 うん、ですって? そんなにあっさり? 
 覚えず言葉を足してしまう。 
「何もしないで、行っちゃうの?」 
 言ってから気づく。かっと頬が熱くなる。 
 あたしったらなんて物欲しげなことを。何を「しないで」なのかすぐわかってしまう。ほら、 
リンクがまじまじとあたしを見つめて。知られてしまった。あたしが何を求めているかを知られて 
しまった。でもいいわ知られたって。ほんとはリンクに知らせるために言ったんだもの。あたしの 
気持ちをリンクに知って欲しかったからそう言ったんだもの。 
「あ、いや……今夜、一晩くらいなら……」 
 どぎまぎしたふうにリンクが言う。 
 一晩くらいならいいのね? リンクもそのつもりなのね? よかった! いいえよくないわ。 
今夜は都合が悪いのよ。だから、だから…… 
 これから! いますぐ! 
 どこで? 母屋? 馬小屋? 牛小屋? だめだわどこも父さんが出入りしてる。屋根のある 
所は全部だめ。外しかない。 
 外で? この昼日中に? 
 外でオナニーしたことはある。といってもあれは夜だった。する内容も全然違う。 
 だけど…… 
 そうよ、そうするわ、だってそうするしかないんだもの。 
 外のどこがいいかしら。父さんやインゴーさんが来ない場所。 
 あそこだわ! 
「来て!」 
 リンクの手を取る。面食らっているのを無視して、どんどん引っぱっていく。 
 いまは父さんもインゴーさんも外にはいない。見つからないうちにそこまで行かないと。 
急がないと。 
 あたしは何をしてるんだろう──と、頭の隅であたし自身があきれている。淫らなあたしに 
あきれている。けれど、もう、どうにもならない。 
 そこに着く。何の施設もない牧場の隅っこ。他の建物からは遠く離れていてふだんは誰も 
通らないし、馬の給水場が視野をさえぎっているので見られる心配もない。ただ用なしの 
場所だけに荒れている。地面は大きな石だらけ。腰は下ろせないし、横にもなれない。 
 かまわないわ! 
 外壁を背にしてリンクと向かい合う。 
「ね……」 
 手を持ったまま、引き寄せる。 
 言おうとして、滞る。 
 ほんとに誰も来ないかしら。来たらどうしよう。あたしとリンクがしているところを、しかも 
こんな真っ昼間から家の外でしているところを、もし見られてしまったら。 
 はしたない、などという言葉ではとうてい追いつかない、恥知らずのきわみ。 
 でも、ああ、ここまできたら止まらない。止めようがない。いっときすらも我慢できない! 
「して」 
 リンクがぽかんと口をあける。 
「何を?」 
 ここまできて! 
 ひょっとして、前みたいにあたしに言わせようとしてるの? 違うわね。そんな企みがある 
ようには見えない。本気でわかってないのなら、いいわ、言ってあげる! 
「セックスよ!」  
 
 その露骨な単語が、耳を貫き、脳を撃ち、さらには心臓を鷲づかみにする。 
 七年前、小さなマロンがやたら口走ってぼくを絡め取った言葉。 
 二ヶ月前、大人になったマロンの慎みを剥ぎ取ってぼくが叫ばせた言葉。 
 いったん捨てた慎みはもう戻らないと言わんばかりの、いまのマロンの、この開けっぴろげな 
積極性は、マロンならでは個性であり魅力であり、それを率直に発揮できるのはマロンが本来の 
生き方を取り戻しているという証拠であって、つまりとても喜ばしい事態であるわけで、 
ぼくだって実はマロンとそうなることを牧場に着いた時から、いや、着く前からひそかに期待は 
していたのだけれど、まさかこんなふうにとは…… 
「ここで?」 
「そうよ」 
「いま?」 
「そうよ」 
 念押しの問いにも即座に答は返ってきて、でもマロン── 
「夜になってからの方がいいんじゃ──」 
「だめなの」 
「え?」 
「明日から危険日に入っちゃうの。今夜はもう危ないのよ」 
 キケンビ? 何だそれは? どこかで聞いたことが…… 
 ああ「危険日」か。アンジュが教えてくれた。妊娠の可能性がある四日間。子供をつくる気が 
ないのならセックスは避けるべきとハイリア人女性がみなよくわきまえている四日間。そういう 
ことかと納得しつつもだからといってこんな時にこんな所で── 
「誰かに見られたら──」 
「ここなら大丈夫よ!」 
 首に両腕をまわされる。同時に顔が迫ってくる。ぶつけられる唇を唇で受け、突き出される舌を 
舌で迎えるうちにも、正面に押しつけられる君の胸を、歳に似合わない君の豊かな胸のふくらみを、 
服越しであるにもかかわらずはっきりとぼくは感知してしまって、さっき君を抱いた時にはさして 
気に留めなかったそれをいまのぼくはやけに意識してしまって、それをもっと感じたくて、 
もっともっともっといっぱい感じ取りたいという欲求が湧き上がってきて君を固く固く固く 
抱きしめるとぼくの股間も硬く硬く硬くいきり立ってきて、そこを君もいっぱい感じ取りたいんだろう、 
接する君の腰が前後左右上下に揺れて撓んで蠢いてぼくを揉み潰して、その感触がぼくをますます 
高ぶらせて、高ぶらせて、だけどできたらもっと、もっともっともっと高ぶりたい── 
 ──というぼくの願いを読み取ったかのように、君の右手は首から肩へ、脇へ、腰へ、さらに 
前へと移動してきて、服の裾をくぐって下着の上からぼくに触れて、のみならずぼくを解放しようと 
躍起になって、しかし男の下着に慣れないせいか作業はなかなかはかどらない、もどかしい、 
もどかしい、もどかしいからぼくは矢も楯もたまらず自分の左手を助けにやる。露出させる。 
 ところが君は握ってくれない。握られたのは手の方だ。ぐいとスカートの中に引きこまれる。 
離される。離れた君の右手が今度はぼくの硬直をつかむ。そこに凝縮する快感をひしひしと 
自覚しながら、同じ行為をせがまれたのだと悟ってぼくは君の中心に手を伸ばす。指が下着に 
触れる。驚く。湿っている。押せば滲みそうなほど濡れまくっている。感じやすいマロン。 
淫らなマロン。こうなったらもう君の淫らさの源泉をじかに確かめないではいられない! 
 左手を腹まで持っていき、性急に下着の中へと差しこむ。ほっこりと盛り上がる丘に生えた 
薄い恥毛を賞味する余裕もなく、ぼくの指はいまや一面の氾濫地帯と化した谷あいにまっすぐ 
侵入していって、 
「あ!」 
 とろとろと蜜をあふれ出させる奥底にもぐりこんでいって、 
「あぁ!」 
 軟らかい襞の重なりの中でそこだけは硬い小さなしこりを探り当てて、 
「んぁん!」 
 君にかすかな叫びをあげさせる。その叫びがぼくを刺激する。同期してぴくぴくと脈打って 
しまう。それを契機に君の手も動き出す。ぼくを勢いよくこすり始める。ぼくも負けじと君をくじる。  
 
 二人の呼吸が速くなる。時に口を接し合わせながら、ぼくたちは息を荒げてゆく。 
 二人の腰が揺れ動く。激しく急所を攻め合いながら、ぼくたちはともに高まってゆく。 
 首にまわされていた君の左手が背中にかかる。剣やら盾やら弓やら背負ったものが邪魔に 
なるかといっとき手を引いて荷を下ろそうとしたぼくを、 
「そのまま」 
 君はさえぎる。 
「そのままのリンクがいいの」 
 そのままのぼく?──との疑問は君の行動で吹き飛んでしまう。君は下着を膝までずり下げて、 
スカートの裾を持ち上げて、そこをすっかりあらわにして、 
「して」 
 抵抗はできない。ぼくは自分を接近させる。触れかけたところで抱き寄せられる。秘部と両腿の 
間の狭い空隙にぼくは捉えられる。挟みこまれる。そこは膣と変わらないくらい心地よい空間で、 
そこに包まれる感覚は実際の挿入に劣らないほどで、たまらずぼくはぼくを前後させる。 
前後させる。その摩擦は君にも確かな快感をもたらしていて、 
「あ……あ……あ……あ……」 
 断続的に呻きを漏らしながら再び君はぼくの首にかじりついてきて、身をよじらせてぼくを 
迎え撃つ。ぼくを貪る。ぼくをもみくちゃにする。 
 けれどもそんな擬似的行為では君は満足できないらしく、 
「お願い、挿れて」 
 と耳元でささやく。直接的な言葉にぞくぞくと興奮を覚えつつ、この状態でするのか。 
立ったままするのか。未体験の体位だけに刺激的。でもどうやって? マロンはぼくより 
背が低いからいまの格好だと挿れられない、そうだぼくが── 
 ──かがみこもうとした瞬間、君はいきなり右膝を上げて、下着を踵から抜いて、右脚をぼくの 
腰に絡ませてきて、左足でつま先立ちになって、ぐらつく君の身体をぼくは何とか抱きとめて、 
しかしそれで君の入口は正面からぼくに向くようになって、ぼくの先端に触れていて、ぼくを 
呑みこもうとして、呑みこみ始めて、入ってゆく、ぼくは入ってゆく、立ったまま、ああマロン、 
ぼくは君の中に入ってゆく! 
「あぁ……いい……いいわ……」 
 君の喉からかすれた声が忍び出る。その声がますますぼくを興奮させる。 
 小刻みに突きをかます。燃え盛る隘路の中で肉棒が短く往復する。往復する。気持ちいい。 
素晴らしい。でもこの不安定な体勢、思い切った躍動には移れない。浅い所にとどまるしかない。 
そんなじれったさに、なおさら欲情が煽られる。 
「もっと……リンク……もっと奥まで……」 
 そうしたい。ぼくだってそうしたい。だが難しい。どうしたらいいだろう。 
 こうすれば? 
 腰に絡んだ右脚をほどく。膝の裏に左手首をあてがう。ぐっと持ち上げる。角度が変わり、 
いくぶん進入が深くなる。 
「あぁん……いいわ……もっと……」 
 切ない声に応じてさらに右脚を持ち上げる。さらにぼくは深みへと進む。この調子なら奥まで 
行けそうで、行けそうで、だけど行けない。脚の挙上にも限度がある。だからマロン、君が身体を 
後ろに、そう、そうやって傾けてくれたら、ぼくは先に進んでいける。もう少し、もう少しで── 
「あッ!」 
 無理な姿勢が破綻をきたす。そこだけで立っていた君の左のつま先が、とうとう地面から 
離れてしまう。君は後ろに倒れかかる。あわてて両腕で抱き掬う。落ちまいとして君はぼくに 
しがみつく。両腕が首に、両脚が腰に巻きついてくる。すべてを預けられたぼくは渾身の力で 
君を抱える。抱えながら、この変動でかえって挿入が安定したと知る。  
 
 ゆっくりと、抱き起こす。 
 君の身体が起きるに従い、ペニスはずぶずぶと膣を充たしてゆく。先端が子宮口に到達し、 
なおもそこを圧迫する。 
 感動のあまりか君は声も出さず、顔をくしゃくしゃにして、ただぼくにかきつくばかり。 
 君の全体重を持ち支えるぼくも、しっかと足を踏ん張って、ただ貫通の維持に注力する。 
 これ以上は不可能という完璧な結合を、静止のうちに堪能しながら、それでも不足とばかり君は 
腰を蠢かせ始める。動きが欲しいと訴えてくる。同じ思いだったぼくも得たりとばかり攻めを 
試みる。しかし抱きつかれた状態だとうまくいかない。だから君がさっきのように傾いてくれたら、 
そう、君はわかっている、そうすればいいとわかっている、ぼくに両脚を巻きつけたまま、 
首の後ろで両手を組み合わせ、そこにぶら下がるようにして、上半身をのけぞらせる。ぼくは 
両手で慎重に君を支えて、じっくりと腰をためて、多少の動きでも結び合いは崩れないと 
確かめておいて…… 
 突く! 
「うぁッ!」 
 とマロンが叫ぶ。膣が締まる。快美が背筋を駆け上がる。 
 もうやめられない。 
 突く。突く。突く。突きまくる。突きまくる。突きまくる。 
「あッ! あッ! あッ! あぁッ! あぁッ! あぁッ!」 
 突くたびに君は喘ぎをあげる。必死に声を殺そうとしているけれど、自然に湧き出す喘ぎを 
君は止められない。 
 突くたびに君の胸がゆさゆさと揺れる。服の下で乱舞しているはずの豊満な乳房をぼくは 
脳裏に描く。 
 突くたびに君のスカートがめくれてゆく。繋がった部分が日にさらされる。君の恥液に濡れた 
肉茎がてらてらと光りながら頻繁に出入りを繰り返す。繰り返す。繰り返す。どこまで繰り返せるか、 
いつまで繰り返せるか、君を支えたままでいるのはけっこう大変だ、さほど余力はない、 
腰が崩れてしまわないうちに行き着かないと、行き着かないと、いこうか、いこう、もういこう、 
もういってしまおう、マロン、マロン、いくよ、マロン──! 
「おーい!」 
 凍りつく! 
 タロンだ! 見つかったか? 
「おーい、マローン! どこなんだあ?」 
 見つかっていない、声は遠い、だけどこっちに来るかも、離れないと、マロンから離れていないと── 
「インゴーよお、マロンがそっちに行ってないかあ?」 
 ──いけないというのにぼくはすでに臨界を越えてしまっていて、ぼくの内奥から湧き出る 
熱塊はとどめようもなく── 
「こっちにゃあ来てませんぜえ、旦那あ」 
 ──君の中に次々と撃ちこまれていって、君も全力でぼくを捕捉して、そこの筋肉が痙攣した 
ように── 
「どこにいるのか知らないかあ? 牧場にはいないみたいでなあ」 
 ──最後の一滴まで絞りつくそうとぼくをぎりぎりと締め上げて、締め上げて、と思うと不意に 
締めつけは緩くなって── 
「さあーて、牧場にいねえんなら外に行ったんじゃあねえですかあ?」 
 ──絶頂を経たぼくたち二人が陶然と動きを控えているうちに、タロンとインゴーが遠くで 
交わす会話は── 
「外お? しょうがないなあ日暮れが近いってのに……」 
 ──徐々に音量を減じるタロンの台詞で終わりとなった。 
 いまの話の様子だと、こっちには来ないだろう。 
 安堵とともに力の限界が訪れ、白昼の催しに幕は下りた。  
 
 身支度を調えたのち、牧場が無人であることを確かめて、二人はそそくさとその場を離れた。 
マロンが夕食の準備を始めなければならない時刻となっていたのである。 
 母屋の前に至ったちょうどその時、馬小屋の扉が開いて、タロンとインゴーが姿を現した。 
「おやあ、お前たち、いままでどこにいたんだ?」 
 問いかけてくるタロンに、 
「ちょっと外にね。近くの村へ行く道をリンクに教えてあげてたの」 
 しゃあしゃあとマロンがでたらめを言う。 
 さっき聞こえた会話に乗っかったつもりなのだろうが、あまりいい嘘ではない。旅を続けている 
ぼくがこのあたりの地理を知らないはずがないのだ。 
 タロンは追求してこなかった。 
「そうかい。お前たち、昔から仲がいいなあ。どうだ、リンク、いっそのこと、うちの婿に 
ならないか?」 
 一瞬、意味が取れなかった。わかった上で、今度はぎくりとした。 
 ぼくとマロンの関係に気づいていて、タロンはこんなことを言うのだろうか。 
 そうは思えない。タロンの話しぶりはのんきなもので、マロンの嘘を見破っている感じでもない。 
「な、なに言い出すのよ父さんたら。つまらない冗談はよして」 
 マロンが顔を真っ赤にして口調を強める。タロンの方はいかにも愉快そうな顔でからからと 
笑っている。 
 そのとおり、冗談なのだろう。七年前にもタロンは、マロンとの仲のことでぼくをからかった 
ものだ。タロンにとってはいつものおふざけに過ぎないのだ。 
 晩御飯の仕度をするから──と言い捨ててマロンは母屋に入ってゆき、それで話は打ち切られた。 
が、リンクの心には残るものがあった。何の興味もないといったふうに立っていたインゴーが、 
こっそり飛ばしてくる視線にも、ある種の意味が感じられた。 
 
 夕食の席では、もっぱらリンクが話題を提供した。ハイラル各地の状況改善、特にゲルド族との 
和解進行の実態が、聞き手を驚かせ、かつ喜ばせた。 
 タロンは興味深そうにリンクの話を聞き、時おり牧場の仕事と関係ありそうなことを訊き質してきた。 
労働意欲を反映したその態度を、リンクは改めて嬉しく思った。また安心したことに、マロンとの 
関係は冗談としても話題にはならなかった。 
 リンクが牧場で一泊することに反対はなく、むしろ大いに歓迎された。ただ、どこで寝るかが 
問題となった。訪れる者とて少ないロンロン牧場には、客用のベッドがなかったのである。 
 二ヶ月前はマロンのベッドで夜を過ごしたものだが、タロンがいるとあっては、まさかそうする 
わけにもいかない。 
 心の中で苦笑しつつ、リンクは申し出た。 
「牛小屋で寝かせてもらえたら、ありがたいんだけれど」 
 そんな所では申し訳ない、との意見もあったが、他に適当な場所があるわけでもなく、リンクの 
希望は了承された。 
 夕食後、インゴーは自室へと引き取り、場には三人が残った。マロンの態度が気になった。 
リンクと話をしたいのに、タロンがいるので切り出せない──とでも言いたげな雰囲気なのだ。 
リンクも話すにやぶさかではなかったものの、マロンの胸中を忖度すると、うっかりしたことは 
言えなかった。 
 しばらく待ったが、タロンは一向に席を立とうとしない。リンクは一計を案じた。 
「そろそろ寝るよ」 
 マロンが牛小屋まで送ってくれれば、その途中で話ができる──と考えたのである。 
 案に相違し、マロンはついてこようとはしなかった。タロンに怪しまれそうな行為を慎んでいる 
のかもしれなかった。 
 ここはしかたがない。まだ話す機会はあるだろう。 
 リンクはひとり戸外に出た。  
 
 牛小屋は言うまでもなく牛たちの住みかである。が、牛たちのいる領域とは別に、倉庫とも 
呼べる一画がそこにはあり、ミルク壷やら木箱やらが雑然と並べられていた。その一画の片隅には 
藁が敷かれていて、寝るには都合がよいのだった。 
 リンクは装備を下ろし、藁の上に横たわった。組んだ手を頭の後ろに置いて枕とし、全身の力を 
抜いた。 
 野宿が常の身としては、屋根のある所で眠ることができるだけでも大助かりだ。ここには藁まで 
あるのだから、なおさら申し分ない。ベッドを望むのは贅沢すぎる。 
 それに…… 
 ここは思い出の場所なのだ。 
 室内は暗く、天窓から差しこむ月光だけが、どうにか視覚を保たせてくれている。この世界の 
時間では四ヶ月あまり前となる、あの夜も、いまのように月光は──いや、あの時は暗雲のせいで、 
いまよりもなお、かぼそい光だったのだが──ここをほのかに照らしていた。その光の中で…… 
マロン……君は裸になって、ぼくも裸になって、そして…… 
 ぼくは初めての体験をした。 
 それは、いまやこの世界に統合された歴史改変前の世界でのできことではあるのだけれど、 
ぼくにとっては忘れようのない、限りなく鮮烈な真実だ。 
 そのマロンを初めとして──と思いは流れる。 
 アンジュ、『副官』、ゲルドの女たち、サリア、ルト、ダルニア、インパ、ナボールといった 
数々の女性たちと──別枠的な存在である大妖精やツインローバは、この際、措いておこう── 
ぼくは交渉を重ねてきた。どの出会いも大切だった。誰もが魅力的だった。個別にいろいろな 
事情はあるにせよ、ぼくはみんなとの体験を嬉しく思うし、みんなもそう思ってくれるだろう。 
 が…… 
 タロンの言にこめられた意味が、心に澱む。 
 結婚。 
 どんなものかは知っている。これもアンジュが教えてくれた。ぼくに話してくれることで 
直接的に。かつ結婚した女としてのありようをぼくに見せてくれることで間接的にも。 
 愛し合う男女が──当然セックスこみで──暮らしをともにする間柄であると公に認められた関係。 
 そう、知識としては持っている。しかし知識だけだ。いまのぼくには、まるで実感が得られない 
概念だ。マロンに限らず、自分が誰かと結婚するという発想を、ぼくはこれまで意思として持った 
ことがない。第一、結婚の大前提である愛の何であるかさえ、ぼくはわかっていないのだ。 
 確かにぼくは多くの女性たちと関係してきた。結婚を念頭に置くこともなく。それを間違った 
行為とは思わない。アンジュが言ったように──そしてぼく自身も深く納得しているように── 
セックスとは「人と人との繋がりを確かめ合うもの」であって、結婚とは別個の概念なのだから。 
結婚とセックスが密接に関連しているのは理解できるけれども。 
 唯一、ぼくに結婚というものを突きつけてきたのはルトだったが、あれはまことに筋の通らない 
主張で、ルトが賢者であるという点を抜きにしても、実現に至る話だったとは考えがたい。 
 ぼくにとって特別なひとであるゼルダにおいてすら、事情は変わらない。インパの暗示で 
ゼルダと一緒にいる未来の自分を思い描いた時も──実に感激的な想像ではあったものの── 
結婚という認識はなかった。ただ二人が一緒にいる場面を考えただけだ。それにさえぼくは実感を 
持てなかった。  
 
 そのように──と思いは移る。 
 実感を持てないのは結婚の件だけではない。自分の将来というものが、ずいぶん曖昧に感じられる。 
 直近の将来といえばガノンドロフとの対決だが、そこで勝利できたとして、以降のぼくの人生は、 
いったいどんなものになるのだろう。 
 全く現実感がない。 
 世間と隔絶されたコキリの森で、物心つくまでのんびりと生きてきて、『外の世界』への憧れは 
あっても、それは単なる憧れにとどまっていて、その後、巨悪を倒すという使命を帯び、いざ 
『外の世界』に出てからは、ずっと使命の遂行ばかりを考えてきて、ここまで必死に戦ってきて…… 
 自分の人生なるものを真面目に考えたことなどなかった。そんなぼくが自分の未来を現実的に 
捉えられないのは当然かもしれない。 
 とはいえ、完全な白紙というわけでもない。たとえば、未解決の問題であるぼくの両親、 
とりわけぼくの父親について、どういう人物であるのか、いま生きているのか、生きていると 
すればどこでどうしているのか、といった点をぼくは知らねばならないし、それにマロンであれ 
ゼルダであれ──(ゼルダ?)──誰がどんなふうに未来のぼくと関わることになるのか── 
『それどころじゃないだろう!』 
 とおのれを叱咤する。同時に、忘れかけていた緊張が襲いかかってくる。 
 ガノンドロフに勝利できたとして、などと安易な仮定をしているが、そんなに簡単に果たせる 
使命ではない。果たせるかどうか心許ない。命の保証もありはしない…… 
 いや、弱気になってどうする。必ず果たす。果たしてみせる。「勝利できたとして」ではなく 
「勝利する」のだ。ガノンドロフ打倒という究極の目的を果たし得た時こそ、ぼくの未来は 
開けるのだ。 
 ──と自分に言い聞かせる。 
 緊張は消えない。 
 思考は行きつ戻りつし、そのつど緊張は増してゆく。 
 こんなことでぼくは戦えるのか、と焦る気持ちも増幅される。 
 時間ばかりが過ぎてゆく。 
 考えれば考えるほど疲れてしまう。 
 諦めかけた時。 
 扉が開く音がした。瞬時に上半身を起こし── 
 苦笑する。 
 ここではそんな警戒は必要ないのに、身についた習慣というのは、つい反射的に行ってしまう 
ものか…… 
 誰の訪いかは予想がついた。 
「来ちゃった」 
 淡い月光の中に姿を現した訪問者が、首をわずかに傾け、悪戯っぽく微笑む。 
 話をしに来たんだな、とリンクは察した。 
 話だけではなかったことを──いや、話は本来の目的ではなく、別に大きな目的があったことを、 
のちにリンクは知ったのだったが。  
 
 マロンはリンクのもとへと歩みを寄せ、その隣に腰を下ろした。 
 リンクが牛小屋で一夜を過ごすことになったのは、マロンにとって、ある意味では不都合であり、 
ある意味では好都合だった。 
 不都合なのは、ここに来るには父の目を憚る必要があり、ゆえに父が眠ってしまうまで、 
かなりの時間、待たなければならなかったことだ。反面、来てしまえば、あとは誰にも見咎められる 
ことなく二人の時間を持てる。それが好都合な点だった。 
 また、リンクと牛小屋にいるという行為が──なぜか──たいそう運命的なものであるかの 
ように感じられ、マロンをふつふつと高揚させていた。 
 その高揚を吐き出そうとして、踏みとどまった。 
 リンクの表情に、何とはない憂いの色を見いだしたのである。 
「どうしたの?」 
 返事はない。 
「ひょっとして、父さんが言ったこと、気にしてるの?」 
 あたしもそれを考えていた。リンクだってそうに違いない。 
「うちの婿になんて、本気にしちゃだめ。あたしたちのことを知ってるわけじゃないんだから。 
あれはただの冗談よ」 
「それは──」 
 リンクが口を開く。 
「──わかっているけれど……君は、どう?」 
「あたし?」 
「うん。君自身は、ぼくとの結婚について、どう思ってるんだい?」 
「あたしは……」 
 迷ったが、言う。 
「あたしはリンクが大好きよ。でも、結婚は、別。リンクと結婚したいなんて、あたし、 
思ったことないわ」 
 仮にリンクがあたしとの結婚を望んでいるとしたら、これは酷な言い方だ。しかしそうでは 
ないとあたしは知っている。父が結婚話を持ち出した時、リンクは明らかに当惑を──それも 
負の意味での当惑を──顔に出していた。だからはっきり言ってやったのだ。リンクの意思を 
酌んでやったのだ。 
 かといって、自分の方の意思を犠牲にしているのではない。 
 いつまでもリンクと触れ合っていられたら、どんなにいいだろう──などと思ったことはある。 
けれどもよく考えると、自分の真の願いは、実はそんなものではない、とわかる。 
「リンクは世界に出て行く人でしょ? 世界を旅して、悪と戦って、その悪を打ち倒さなきゃ 
ならないんでしょ?」 
 そう、そんなリンクが、あたしは好きなのだ。そもそもあたしを魅了したのは、七年前、 
この牛小屋の塔の上で目を輝かせて世界を語ったリンクであり、巨大なグエーを一刀のもとに 
斬って捨てたリンクだった。子供っぽいと言わば言え。そういう雄々しい、格好のいい、 
勇者としてのリンクを、あたしは好きになったのだ。 
 昼間、リンクに抱かれた時もそうだった。剣を、盾を、弓を背負った、勇者としてのリンクに、 
あたしは抱かれたいと思ったのだ。 
 リンクがあたしと結婚したら、田舎の牧場で、毎日、地味な仕事に専念する生活となる。 
あたしはかえって失望してしまうだろう。  
 
「だからリンクはあたしと結婚なんかしちゃいけないのよ」 
 それがあたしの本心。嘘偽りのない本心。 
 もしあたしが本気で結婚を望むのなら、リンクとの関係を父に暴露してしまえばいいのだ。 
危険日なのをいいことに子供を──無論、必ずできると決まっているわけではないが── 
つくったっていい。リンクは責任を取らなければならなくなる。なのにそうしないのは── 
そんなことをしようなどとこれまで思いつきもしなかったのは──あたしがリンクとの結婚を 
望んではいないという何よりの証拠ではないか。 
「あたしなんかにかまわないで、どうか、リンクは戦って。力いっぱい戦って。世界の平和と 
幸せを取り戻して!」 
 訴える。心の底から訴える。 
「わかった」 
 かすかに微笑むリンク。憂いは薄まっていた。が、なくなってはいなかった。 
「戦いも、あと少しなんだ。でも、これからが大変で……」 
「これから? どうするの?」 
 リンクの表情が硬くなる。 
「ガノンドロフと戦う」 
 ガノンドロフ! あの魔王と! ついに! リンクが! 
「とてつもない強敵さ。正直……勝てるかどうか──」 
「勝てるわよ!」 
 その先を言っちゃだめ! 
「リンクなら勝てるわよ! 勝てるに決まってる!」 
 そうよ決まってる! 勝てるかどうかなんてそんな不安そうな顔をして言わないで! 
「だって……リンクは……リンクなんだから……」 
 どう言ったらいいのかわからないけど、こんなことしか言えないけど── 
「……あたし……信じてるから……」 
 だからリンク── 
「……お願い……」 
 筋道のない言明を聞かされて、驚いたように、戸惑ったように固まっていたリンクの顔が、 
ややあって、ほろりとほころんだ。 
「……そうだね」 
 リンクが手を重ねてくる。 
「やってみせるよ」 
 こちらも手を重ね、頷いて見せる。 
「ありがとう」 
 ああ、その言葉! 
 いつも何気なく使っているその単純な言葉を、リンクがかけてくれたというだけで、何か特別な 
意味があるかのようにあたしは感じてしまう。どういうわけなのかわからない。でもその言葉は 
あたしとリンクの繋がりを実に適切に象徴しているとあたしは深く確信できる。 
 リンクの声。リンクの笑み。手から伝わるリンクの温もり。 
 それらすべてが、リンクの憂いの消失を知らしめていた。 
 それらすべてが、マロンの再度の高揚をもたらしていた。  
 
 心を占めていた緊張が、さらさらと溶け流れてゆく感を、リンクはしみじみと味わっていた。 
 詳しい事情も知らないマロンが、根拠もなくぶつけてくる「勝てるわよ」との主張を、ぼくは 
素直に受け取れる。なぜならマロンは、マロン本人の幸せ、ロンロン牧場の幸せ、ハイラル全体の 
幸せという、ぼくがこれまでなしてきた活動の成果を何重にも得ている存在であるからで、そして 
そこにぼくが関わっていることをよくわかってくれている人であるからで、そんなマロンに 
必死の面持ちで「信じてるから」と迫られたら、ぼくの方だってその言葉を信じないではいられない。 
 そうだ。マロン。ぼくにはできる。 
 君の幸せを、世界中の幸せを、もう少しでぼくは完全にできる。 
 ありがとう。マロン。ありがとう。 
 あたしと結婚なんかしちゃいけない──と君は言う。 
 あたしなんかにかまわないで──と君は言う。 
 その言はぼくの思いともひそかに符合はするのだけれど、だけどマロン、ぼくは君の真情に 
どうにかして応えたい。応えてあげたい。 
 ぼくは君を抱きしめる。そうすることしかできないから。 
 君もぼくを抱きしめる。それでいいのと呼ばわるように。 
 限りなく強固な抱擁が、時の経つのも顧みず、一心に、熱烈に、続けられていった。  
 
 身体に食いこむリンクの腕の、熱い力に酔いしれながらも、なお満たされない欲求が、おのれの 
内奥で燃え上がってゆくのを、マロンは痛切に実感していた。 
 結婚なんて望んでない。抱いてくれるだけでいい。ただ「抱く」にもいろいろ種類がある。 
いまとは別のあり方でも、あたしはリンクに抱かれたい。 
 ここに来たのは、そのためなのだ。 
 日中、屋外で、着衣のまま、立って性交するという体験は、はなはだ猥褻で、放埒で、 
刺激的ではあったものの、あまりにあわただしく、不安定でもあって、完全にのめりこむまでには 
至らなかった。もっと念入りに、もっと濃密に、交わりたかった。 
 リンクの胴から腕を引く。合わせてリンクも腕を離す。 
 ささやきかける。 
「脱いで」 
 見開かれるリンクの目。 
「けれど……危険日だって──」 
「そうよ。でも、セックスって、ひとつだけじゃないでしょ」 
 理解したような、理解しきれないような、あやふやな表情となるリンク。 
 わからない? リンクなら、わかるはずよ。 
 スカーフを解く。エプロンの紐をほどく。ブーツを足から引き抜く。スカートを下ろす。 
ブラウスを捨てる。下着も何もかも放り出し、あたしはあたしの全部をさらす。 
 リンクも脱ぎ始める。リンクがリンクであることの証である緑の服が、身体から取り去られる。 
にもかかわらずそこにいるのはやっぱりリンク。白い肌着がなくなって、逞しい肢体が明らかに 
なっても、それはやっぱりリンク。リンクそのもの。 
 あたしは身を寄せる。リンクも身を寄せる。 
 あたしは手を伸ばす。リンクも手を伸ばす。 
 あたしとリンクが抱きしめ合う。 
 勇ましい身なりのリンクに抱かれるのもいい。だけどこうやって裸のリンクに、リンクだけの 
リンクに抱かれる方が、もっといい。だってリンクが勇ましいのは、身なりのせいだけじゃ 
ないんだもの。リンクはリンクだから勇ましいんだもの。 
 暖かい。暖かい。体温とはまた違った暖かさ。心の中の埋み火が熾り出すような、どこか 
懐かしい暖かさ。これさえあれば生きていけると思えそうな、勇気を伝えてくれる暖かさ。 
あたしが感じるこの暖かみを、どうにかしてリンクにも返したい。返してあげたい。 
 こういう触れ合いもセックスなんだわ。素肌と素肌をぴったりとくっつけて、お互いの暖かみを 
感じ合う、このありようもセックスなんだわ。  
 
 リンクの手が動く。背中から前にまわってくる。二つの乳房に触れてくる。 
「触りたかった?」 
 思わず訊いてしまう。 
「ね、あたしの胸に触りたかった?」 
「触りたかったよ」 
「ほんと?」 
「ほんとさ」 
「いっぱい?」 
「いっぱい」 
 きゅん!──と痛みにも似た快感が乳首に走る。 
 そうよね、リンクはあたしのこの大きな胸が好きなのよね。 
 いいわ、触らせてあげる、いくらでも触らせてあげる、触ってちょうだい、触ってちょうだい、 
触って、撫でて、揉んで、吸って、舐めて、噛んで、あたしの胸をめちゃくちゃにして! これも 
セックス、セックスなんだから! 
 他にもあるわ。もっと他にもセックスはあるわ。どうしようもない理由でただ一つできない 
あのセックスの代わりに、いまのあたしたちができるすべてのセックスを、リンク、どうかリンク、 
あたしと、あたしと、してちょうだい! 
 唇で接し合うセックス。 
 舌で探り合うセックス。 
 身体中を手でさすり合うセックス。 
 身体中を口で味わい合うセックス。 
 あそこを手でなぶり合うセックス。 
 ──ここでリンクが達したらあたしの手はリンクの精液でぬるぬるになっちゃう…… 
 あそこを口でねぶり合うセックス。 
 ──ここでリンクが達したらあたしの口はリンクの精液でどろどろになっちゃう…… 
 二つの乳房の間にペニスを挟んでこすり立てるセックス。 
 ──ここでリンクが達したらあたしの胸はリンクの精液でべとべとになっちゃう…… 
 どれもいい、どれも素敵、どれも最高、でもまだある、もうひとつある、あたしたちにできる 
セックスがもうひとつある、だからまだよ、まだいっちゃだめよリンク、あたしがリンクの命の 
ほとばしりを受けるのは他のどこでもないそこなんだから! 
 なのにリンクはそのやり方を試みようとしない。あたしを気遣ってるの? それとも知らないの? 
どっちにしてもあたしの方から言わないといけないのね。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしいけど── 
「リンク」 
 恥ずかしいけど── 
「して」 
 言わないと! 
「お尻に」  
 
 言った! 言っちゃった! とうとうリンクに言っちゃった! 
 お尻でするセックスというものがあるとあたしが知ってるのは、父さんとインゴーさんが 
ひそひそと話してるのを盗み聞いたことがあるから。その時はとても異常なやり方だと思った。 
でもリンクとだったらしてもいい。 
 だけどリンクはどう思うかしら。こんなことをねだるあたしをどういう女だと思うかしら。 
「いいの?」 
 リンクが問う。驚いてはいない。 
 あたしは頷く。訊き返す。 
「したこと、ある?」 
 今度はリンクが頷く。やっぱり。 
「あ、そうか」 
 リンクが調子のはずれた声を出す。 
「そこだと子供ができないから、危険日でもかまわないんだね」 
 吹き出してしまう。 
 いまさら何を。気づいてなかったとでも? 小さい時からセックスを知ってるリンクだって 
いうのに、けっこう間が抜けてるのね。 
 それで気分が楽になった。 
「教えて」 
 リンクがあたしを抱きすくめる。まっすぐあたしを見る。欲情に滾る二つの目で。 
「教えてあげる」 
 自然な仕草。自然な言葉。 
 リンクはあたしを異常な女だなんて思っていない。淫らな女だとは思っているだろう。でもその 
淫らさを悦んでくれている。 
 嬉しい。嬉しい。とってもとっても嬉しい。 
 仰向けにされる。股間に顔をうずめられる。リンクの舌が這い進む。 
 前から、少しずつ、後ろへ。 
 あたしが排泄に使っているその部分へ。 
「待って!」 
 咄嗟の制止。 
「そこ、きれいには、してきたつもりだけど……」 
 スカートのポケットに入れてきた石鹸を取り出す。 
「……これ……」 
 手渡されたまま、リンクが首をかしげる。どうやって使おうか、と考えているのだろう。 
 さしたる間もおかず、それは股間に押しつけられた。 
「あん……」 
 前の割れ目をこすられる。そこにあふれるもので溶かしてるのね。それと合わせて後ろに 
広げるのね。後ろに塗るのね。塗ってるのね。あたしの後ろの一点を撫でて、撫でて、撫でて、 
ああ変な感じ、変な感じ、でも何となく気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい、押される、 
押される、指に押される、リンクの指が押してくる、入ってくる、もぐってくる、貫いてくる! 
「うぅッ!」 
 反射的な筋肉の収縮。 
「痛い?」 
 痛いというか、重いというか、悩ましいというか、胸がかきむしられそうというか、そんな 
いわく言いがたい感覚を、 
「ん……平気……」 
 あたしは受け入れる。そう、受け入れる。 
「楽にして、マロン」 
 息を吐く。力を抜く。 
 しばらく経って、また指が動き出す。奥に入って、出ていって、何度も、何度も、ゆっくり、 
ゆっくり、あたしの中を濡らして、あたしの中を洗って、あたしの中を慣らして。 
 いくばくかの時が過ぎ、その行為が素直に快いと思えるようになった頃、指はそこから去っていった。 
 胴を両手で持たれる。うつ伏せにされる。腰をつかまれる。持ち上げられる。四つん這いに 
なったあたしの後ろに、リンクの身体が接してくる。 
「するよ」 
「うん」 
 迷いはない。 
 押しつけられる。 
 大きい!──と感じる間もなくそれはそこをぐっと押し分けてきて、 
「いッ!」 
 筋肉が急激に緊縮する。 
 指より大きいのは当たり前……楽にしないと……力を抜かないと……こうやって……そっと…… 
静かに……もういいわ……大丈夫……入ってきて……そう……入ってきて……入ってきて──  
 
「んんッ!」 
 また縮めてしまった。リンクを阻んでしまった。リンクは優しくしてくれてるのに。 
「……ごめんね……あたし……」 
「いいんだ。落ち着いて」 
 間があく。緩む。掘り進まれる。 
「うッ……!」 
 間があく。緩む。掘り進まれる。 
「くぅッ……!」 
 間があく。緩む。掘り進まれる。 
「くぅぅぅッ……!」 
 それが何度となく繰り返される。繰り返される。繰り返される。 
 そこの感覚を吸収するのに精いっぱいで、何がどうなっているのかわからない、わからない、 
わからないけど、これを続けていったら、我慢して続けていったら、そのうち、あたしは、 
リンクに、すっかり…… 
 なおも時は経過する。次第に感覚が和らいでゆく。自分の状態が把握できてくる。 
 気がつく。 
 リンクが動いていない。 
 そこの筋肉を絞っているわけじゃないのに、リンクが進んでこない。これは、もしかして── 
「……全部……入った……?」 
「全部入ったよ」 
「……あたしの……中に……?」 
「君の中に」 
「……ほんと?」 
「ほんとさ」 
「……いっぱい?」 
「いっぱい」 
 にわかに感動が湧き起こる。 
 あたしのお尻は充たされている。リンクのペニスで充たされている。存分に。完全に。 
 これであたしはすべてをリンクに、前も後ろもみんなリンクに捧げられたんだわ。 
 幸せ。 
 これ以上ない幸せ。 
 胸に満ちあふれる幸福感が、全身に染み渡り、全身を駆けめぐり、リンクと繋がったその部分に、 
肉体的な喜悦を誘発させる。 
 あたしの腰は動き始める。摩擦を求めて。快感を求めて。 
 そう、そこにはすでに快感が渦巻いていて、腰を動かせば動かすほど快感は強まってきて、 
あたしの動きに応じてリンクのペニスも往復を始めていて、それが快感をますます強めていって、 
この悦びをリンクに詳しく知らせたいと思っているのに口は全然あたしの思いどおりにならなくて、 
いいわだのもっとだのすごいだの断片的な言葉を秩序なく吐き散らすことしかできなくて、あとは 
言葉にもならない獣のような喘ぎを漏らしているだけで、でもそんな醜態がかえってあたしの 
悦びを的確に表現しているんだとあたしはわかってきて、だから醜態は醜態じゃなくあたしの 
真実を映した美というべきものであって、そのことは言葉じゃなくてもリンクには正しく伝わって 
いるはずだとあたしは確信できていて、なぜならあたしを突きまくる、そう、いまや最初の 
優しさをかなぐり捨ててただただあたしを突きまくるリンクの行為があたしのお尻への崇拝じみた 
執心を証明しているからで、さらにリンクの執心はぷるぷると揺れるあたしの、リンクの好きな 
あたしの大きな乳房にも及んでいて、そこをリンクの手はやたら激しく揉みしだいてぴんぴんと 
勃った二つの乳首、あたしの感じる乳首と乳首をきりきりとこねまわしてあたしをやおら絶叫させて、 
のみならずリンクはあたしと繋がった部分の前にも手を伸ばしてきて、残念なことに今日は 
リンクのペニスをくわえられないあたしの膣にペニスの代わりの指を突っこんできたりして、 
そうやって前と後ろの両方であたしを攻めるものだからあたしはあたしはどうしようもなく 
気持ちがいい気持ちがいい気持ちがいいだめよだめよだめになりそうなところへそこでも 
勃ちっぱなしのあたしの肉芽をリンクがリンクがぐりぐりぐりぐりいじめてくれる、いじめていじめて 
あたしをいじめてもう来そうだからあたしにあれが来そうだからもっといじめてちょうだい 
リンクをちょうだいリンクもいってちょうだい、いって、いって、いっていっていって 
出して出して出して、出して、出して、あたしに出して、あたしのお尻に出して、どうかお願い 
出して、出して、出る、出てる、リンクが出してる、あたしのお尻にリンクが出してる、あたしは 
感じる、どくどくと脈打つペニスから射出されるリンクの精液、熱い熱い熱いリンクの精液が 
あたしのお尻の中に噴出して充満して拡散してそれであたしにも来そう、来そう、来る、来る、 
来てる、来てる、来ちゃう、来ちゃうッ! 来ちゃうぅぅぅぅッッ──!!  
 
 夜明け前までの時間を、マロンはリンクの腕の中で、安らかに眠って過ごした。 
 目覚めたのち、眠る前の自分を思い出した。狂乱の記憶が頬を熱くした。が、ほどなく心は 
平静に戻った。 
 着衣の途中で、リンクが目をあけた。起き出そうとするのをとどめておき、マロンはひとりで 
牛小屋を出た。 
 なお夜のとばりに覆われた牧場を横切ってゆくうち、股間の湿りに気づいた。肛門から精液が 
漏れ出ていた。事後に始末はしたのだが、拭き取ることのできなかった分が、歩行に伴い腸の 
奥から流れ落ちてきたのだった。 
 マロンは牧場の隅にある井戸に向かい、濡れた部分を洗った。湿った感触だけなら我慢すればいい。 
しかし臭いは消しておかなければならなかった。 
 母屋に戻り、父の動静を部屋の外からうかがった。まだ起きてはいないようだった。安慮し、 
自室に戻って、もう一度、身体と服装を点検した。問題なしと判断し、いつもの起床時刻と 
なるのを待ってから、台所に赴き、朝食の仕度に取りかかった。 
 やがて父が起きてきた。娘の夜間外出には全く気づいていないようで、再度、マロンは安堵の 
息をついた。 
 朝食が始まる頃になって、リンクが母屋に入ってきた。そのように打ち合わせておいたのである。 
リンクの服装は整っており、前夜の所業を想像させるところはなかった。 
 リンクは父に、次いで、その時すでに着席していたインゴーに、そしてマロンにも、型どおりの 
朝の挨拶を述べた。マロンもまた、その朝、初めて顔を合わせたふうを装って、挨拶を返した。 
 朝食の席の話題は平凡で、結婚話に触れる者はいなかった。父が何の疑いも抱いていないのは 
確かだった。インゴーの方は、時に探るような視線をリンクとマロンに送ってきたが、意図を 
口にすることはなかった。 
 朝食を終えると、リンクは出発の準備を調え、父と別れの言葉を交わしたのち、インゴーと 
ともに馬小屋へと入っていった。マロンもあとに続いた。 
 インゴーの話では、エポナには数度の排便が見られ、体調は改善しつつある、とのことだった。 
リンクは大いに安心したらしく、快活な声でインゴーに礼を言い、今後の世話を依頼した。ただ、 
牧場に戻ってくる時期をリンクは明言せず、その点がマロンの気にかかった。 
 リンクはエポナにも真摯な態度で別れを告げた。エポナは寂しげな様子だったが、リンクは 
相手が人間であるかのようにその意を酌み取り、心からとわかる慰めを与えるのだった。そこには 
二者の緊密な関係が浮き彫りとなっており、マロンは我がことのような喜びを感じた。が、 
リンクはエポナにも帰還の時期を伝えようとはしなかった。  
 
 馬小屋を出たリンクは、牧場の出口へと向かっていった。マロンは従った。ハイラル平原に 
開いた門の所でリンクは立ち止まり、マロンの前に位置を占めた。 
 無言の対面がしばらく続き、やがてリンクが沈黙を破った。 
「ありがとう」 
 胸に突き刺さる、ただし痛みならぬ暖かみを生み出す、その単純な言葉を、マロンは再び、 
感動をもって受け取った。 
 しかし、言葉はそれだけだった。 
 また来てね──とは、あたしは言えない。 
 また来るよ──と、リンクが言わないから。 
 生還を期しがたい戦いへと、これより、リンクは赴くのだ。 
『でも……』 
 リンクの表情。 
 憂いの色は、もはや、ない。 
 そこにマロンは望みをかけた。 
 リンクの手を取る。両手を両手で包みこむ。 
 すべての思いを、マロンは注いだ。 
 
 両手を両手で包みこみ、その上で頭を垂れるマロンの行いを、リンクは動かず収受した。 
それは何かの祈りのようであり、何の祈りかはうかがい知れなかったものの、昨夜に続くマロンの 
真情であることだけは、はっきりと認識できた。 
 長い時間ののち、マロンの手は離れた。リンクも手を戻した。 
 数歩、後ずさる。 
 向きを転じようとして、思いとどまる。 
 マロンの目が、すがるように、訴えるように、ひたすらこちらを見つめていた。 
 告げる。 
「勝つよ」 
 マロンの顔が咲きほこる花のように輝く。首が力強く縦に振られる。 
 微笑みを送り、軽く片手を上げて見せ、リンクはマロンに背を向けた。 
 足を踏み出す。歩む。歩み続ける。 
 ふり返る気はなかった。北のかた、行く先にある陰惨な暗雲だけを、リンクは注視し続けた。 
 緊張が心身を捉えていた。しかしそれは縛りとはならず、おのれを律し、おのれを奮起させる 
原料として、いまのリンクには感じられるのだった。 
 
 ガノンドロフ。 
 ぼくはお前に勝つ。 
 必ず、必ず、勝つ! 
 ぼくのすべてと、ぼくに力を与えてくれた人々のすべての思いを懸けて、ぼくはお前を倒してやる! 
 
 勇気をもって! 
 
 
<第四部・了> 
 
 
To be continued.  
 

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