おのれの腕の中にそのひとがある。 
 そのひとの腕の中におのれがある。 
 それだけで、ただそれだけで、互いをめぐるすべてのわだかまりが、互いを縛るすべての 
しがらみが、何の痕跡もなく溶け去ってゆく。 
 逆巻き、おののく、心と、心が、接し、重なり、混じり合う。 
 目にかかる互いの姿も、耳に届く互いの息吹も、身に押しつけられる互いの実体すらも 
意識されなくなるほどに、あらゆる感覚が忘却される。 
 あるのは感動のみだった。 
 純粋な感動のみだった。 
 激しく燃える熱情は、至高の平安に昇華され、不変の真理となって二人を癒し、満たし、慈しみ、 
そして── 
 
 ひとつの感覚が、リンクをうつつに返らせた。 
 嗅覚である。 
 七年前にも感受した、他の人物にはあり得ない芳しい香りが、残りの感覚を回復させる。 
視覚が、聴覚が、触覚が、再び対象を把握する。 
 夢から覚めた時のような心持ちである。陶酔からの離脱は、しかし失意とはならない。 
より輝かしい現実が、そこに確然と存在しているのだった。 
『ゼルダ……』 
 おもてを見ようと、抱擁をほどきかけて── 
 右の耳が目に留まった。 
 左側とは不釣り合いな空白を呈する、薄桃色の耳朶。 
 その空白を埋められるぼくなのだ──と、リンクは満足をもって自覚した。  
 
 リンクの腕が離れてゆくのを、ゼルダはおぼろげに感得していた。物理的な接触の弱まりは、 
何の不満ももたらさなかった。形而上の接触が完成されていたからである。 
「これを……」 
 覚醒しきっていなかった意識が、リンクの声で揺り起こされる。目を開く。リンクが左手を 
差し出している。そこにあるものが、さらに意識を鮮明にする。 
 トライフォースの耳飾り。 
 右のそれが失われていることには、先刻、身体を拭いた時、気づいていた。いつ失われたのかは、 
わからなかった。時の神殿に出現してから、ガノンドロフとの戦いが終わるまで、常に何らかの 
緊張を感じていたため、耳に留意する余裕がなかったのである。 
 単なる装身具にとどまらない、意義ある品をなくしたことで、ゼルダは内心、落胆していた。 
その落胆が深かっただけに、当該のものが眼前に提示されたのは、ゼルダにとって望外の喜びだった。 
 戦闘中に落としたのを、あとでリンクが回収してくれたのだろう──との想像は、続くリンクの 
言葉で覆された。 
「泉で拾ったんだ」 
 意表を突かれる。 
「ハイラル平原の東の山際から、ちょっと奥に入った所さ。コキリの森の近くだよ。君はあそこに 
いたんだろう?」 
 妖精の泉! 
 この広大なハイラルの、ほんの片隅の一点に落ちた、かくも小さな一品を、他でもないリンクが 
見いだしていたとは! 
 そこへリンクを赴かせたのは、シークであった自分自身。とはいえ、その指示に、耳飾りの件は、 
無意識的にすら影響していない。泉にそれを落としたことなど、いまのいままで知らなかったのだから。 
 偶然といえば偶然である。けれども、ただの偶然であるはずがない、と思わずにはいられない。 
 差し出された手の上に、おのれの右手を重ね置き、ゼルダは、そっと呟いた。 
「運命……」 
「そう」 
 頷くリンク。 
「君とぼくとの運命の、これは繋がりの証なんだ。これを見つけた時も……つい最近、君が泉に 
いたんだとわかって……それでぼくは、君が世界のどこかで生きているって、信じられた。 
どんなに嬉しかったか、口じゃ言えない」 
 素直な弁を快く耳に染み入らせるうち、ゼルダの胸は、不意に大きく動悸を打った。 
 なぜ耳飾りを落としてしまったのか。なぜ落としたことに気づかなかったのか。 
 そこに思い至ったのである。  
 
 ゼルダが急に頬を赤らめるのを、リンクは見てとった。熱がぶり返したわけでもないだろうに、 
といぶかしんでいると、伏せられていたゼルダの目が上がり、ひたと視線を送ってきた。 
「これがすべての始まりだと、わたしも思っていたの」 
 左手に載せた耳飾りをいとおしむように撫でるゼルダの仕草で、リンクは意味を判読した。 
 ゼルダもまた、そう思っていた! やはりぼくたちの想いは通じ合っていた! 
 押し寄せる新たな感動のうねりに── 
「あの時、わたしは……」 
 ゼルダの声が彩りを添え── 
「あのまま、あなたと顔を寄せ合っていたい、と……」 
 ぼくの左手はゼルダの右手に強く握りしめられ── 
「それ以上の何かを、あなたがするのでは……いいえ……」 
 乾ききらない涙に濡れたゼルダの二つの瞳がさらなる潤いを湛え── 
「……してくれるのでは……と……」 
 少しずつ、少しずつ、近寄せられて── 
「それ以上の……何かって……?」 
 言葉を反復することしかできないぼくを、じっと見据える。わかれ、とその目が言っている。 
ところがぼくにはわからない。胸がどきどきして、頭がくらくらして、そうでなければすぐにも 
わかりそうな気がするのに、どうしてぼくはこうも察しが悪いのか…… 
 ゼルダが目を閉じる。首をのけぞらせる。わずかに突き出された唇の上下が離れて小さな 
すき間をつくる。 
 ようやく腑に落ちる。 
 ゼルダが? ぼくと? 
 自然な流れだと認識はできる。切望してきたことでもある。とはいいながら、実際に、ゼルダが、 
ゼルダの方が、ぼくに、このぼくに、それを求めてくるなんて── 
 畏れにも似た気持ちに振りまわされつつも、いつの間にかぼくの左手はゼルダの右手を 
握り返していて、二人の手に挟まれた耳飾りは七年前からここに通じる道を指し示していたのだと 
ぼくは信じざるを得なくなっていて、ぼくの右手はゼルダの左肩を抱き寄せて、ゼルダの左手は 
ぼくの胸に触れかかって、二人の顔が近づいて、近づいて、近づきすぎてどうにもならなくなって、 
とうとう目をあけていられなくなってぼくは──!  
 
 これがわたしの望みだった! 七年前に欲した「それ以上の何か」! 
 あの時は実現に至らず、あとで身体を結ばせた際にもなされなかった行為を、いま、こうして、 
生まれて初めて、わたしはリンクと交わしている! 
 さっきは嵐のような言葉の奔流でわたしの障壁を打ち砕いたリンクが、いまは無言で、けれども 
同じく一直線に、熱した想いを送りこんでくる。 
 その熱に、わたしは炙られる。わたしは融かされる。 
 わななく心で、ゼルダは実感した。 
 
 愛するひととの口づけが、これほど幸福なものであろうとは! 
 
 ──とリンクは実感する。 
 他には何も考えられない。脳が麻痺したかのごとく。 
 ただ感覚だけが鋭敏となり、接し合わせた部分の精緻な変化を知る。 
 かすかに震えているゼルダの唇。他の部位より温度が高い。それらは柔らかい皮膚の下を走る 
血流の速まりに起因していて、はなはだ微細なその流れすら、ぼくは感じ取れるのだ。血液を 
疾走させる心臓の拍動は、唇のみならず、肩に添わせた手にもどくどくと伝わってくる。 
そんなゼルダの生命の高調が、ぼくによって、他の何ものでもないぼくによって引き起こされて 
いるというこの歓喜と充足を、ぼくは生涯、決して忘れないだろう!  
 
 永遠なれと願う時間も、いつかは節目を迎えるもの。 
 ゼルダにそうと悟らせたのは、右手に押し当てられる耳飾りの感触だった。 
 ゆっくりと、唇を離す。目蓋を上げる。遅れてリンクが開く目に、名残惜しい気持ちで、しかし 
それにもまさる期待をもって、ゼルダは見入った。 
 そこにあるのは、陶然と漂う感悦の色調のみである。 
 無理もない──とゼルダはひそかに苦笑する。 
 わたしがリンクの立場なら、やはり同じであっただろう。けれどもいまのわたしは、より 
いっそうの感悦を否応なく欲してしまうほど、心をかき立てられている。リンクの知らない、 
「これ」にまつわる記憶によって。 
 自らの手に移した耳飾りを、本来あるべき場所へと戻す。右の耳垂にかすかな重みを懐かしく 
再認した時、 
「あ……」 
 忘れていたことを思い出したというふうに、リンクが表情を動かした。 
 それきりである。 
 首をかしげて促すと、 
「実は……」 
 どぎまぎした様子で、リンクが言い始める。 
「君に……返さなくちゃならないものが……もう一つあって……」 
 何のことかと怪訝に思ううち、リンクの手が、白い小さな布片を差し出してきた。 
 一瞥して、わかった。 
 身体の最も秘すべき部分を覆うために女が装着する衣装。 
 ガノンドロフの面前で放擲せざるを得なくなったそれを、リンクは拾っていてくれたのだ。 
 リンクのどぎまぎが伝染したかのような胸の鼓動を自覚する一方で、微笑ましくも温かい思いを、 
ゼルダは抱いた。 
 どこまでもまっすぐなリンク。 
 多少とも気のきく男なら、もっとさりげなく振る舞っただろう。身体を拭けと言って渡す 
タオルにくるんでおくとか、いくらでも方法はあったはずだ。 
 そういうところに思いが及ばないリンクを、作法知らずと斬って捨てるのは容易である。が…… 
『そんなリンクだからこそ、わたしは……』 
 半ば自動的に、ゼルダは応答した。 
「いまは、要らないわ」 
 自分の言葉に動転する。 
 何という言い方を──! 
『でも……』 
 もはや後戻りはできなかった。するつもりもなかった。  
 
 意味を解するのに、しばらくの時間が必要だった。解した瞬間、リンクは持っていたものを取り落とした。 
 股間が猛然と勃起した。 
 いままでそうならなかったのが不思議である。 
 ゼルダに欲望を感じなかったわけではない。感じなかったどころか正反対だ。その姿を想像して 
何度も自慰にふけったぼくなのだ。なのに、ゼルダを抱きしめ、あまつさえキスまでしておきながら、 
ぼくの身体は反応しなかった。精神的に満ち足りていたせいだろう。が、ゼルダという女性に 
対するぼくの意識が特別なものであることの、それは証明でもあるだろうか。 
 かつては悩んだものである。 
 自分の激しい生の欲望をゼルダが受け入れてくれるとはとうてい思えない、ゼルダは自分の 
そんな欲望とは別次元の高みにある存在のように感じられる──などと。 
 そういう信仰めいた発想を、まだぼくの頭は残しているのだろうか。 
 七年前にはぼくとの独走的な性交をためらわなかったゼルダであり、時の神殿では羞じらいつつも 
自発的に契りを提言したゼルダなのだから、いまの言葉も何ら奇異にはあたらない──と、 
理屈の上では納得できる。できるのだけれど、このゼルダの積極性が、ぼくにとっては── 
キスを求めてきた時と同じく──なお驚きであることは確かなのだ。 
 その驚きとは、失望か? ぼく自身が作り出したゼルダの幻想と、現実のゼルダとの間に、 
乖離があったという? 
 違う! 断じて! 
 ゼルダが女性の素晴らしさを一身に集めた存在であるとのぼくの信念は、いささかも変わっては 
いない。そんなゼルダが、ぼくには──ぼくにだけは──人としての原初的な欲求を向けてくる。 
それはゼルダをひときわ素晴らしい存在とする要点なのであって、失望など生み出すはずも 
ないのであって、逆に感激のきわみと見なすべきであって、事実、ぼくはそう見なしているのだ。 
ぼくの股間の猛りが何よりの証拠だ。 
「幻想」という単語が、シークの言を思い出させる。 
(ゼルダという女性に幻想を抱かないことだな) 
 さらにシークは、こう言った。 
(ゼルダは君が考えているほど立派な女性ではないかもしれない、ということさ) 
 そして、こうも。 
(むしろその方が君にとっては好都合だと思うんだが) 
 当時はさっぱりわからなかったそれらの意味を、いまのぼくは明確に理解できる。 
 のみならず、それらは、シークの内にあったゼルダが、ありのままの自分を見て欲しいと 
吐露する、純なる真意であった、と、ぼくは確信できるのだ。 
 ならばシークの、あの冗談めかした、もう一つの発言も、実はゼルダとしての真意を述べた 
ものであったに違いない。 
 心を決めて、口を開く。 
「頼みがある」 
 かすかな笑みとともに、 
「なに?」 
 とささやくゼルダ。 
 その所作にも力を得、リンクはあとに言葉を続けた。 
「君の裸が見たいんだ」  
 
 あまりにも率直なリンクの要望が、ゼルダを大きく動揺させた。 
 合わせて記憶が掘り返される。 
 それはわたしがシークとして勧めたこと。 
(裸を見せてくれと頼むのさ。君の言うように、王女とはいえ、ゼルダは一人の女性だ。案外、 
きいてくれるかもしれない) 
 もっとも、そのあとでわたしは、 
(まあ、裸を見せてくれというのは論外としてもだ) 
 と断った。戯れのつもりだったからだ。ところがリンクときたら、断ったそのままを、何の 
修飾もなく、まともにぶつけてきた。当時はリンク自身、頼めるわけがないと言っていたのに。 
 時の神殿で契りを申し出た時点で、裸を見せるくらいは、当然、想定していた。しかも、いまは 
こちらが誘った形なのだ。 
 といっても……こんなに真正面から言われてしまうと…… 
 七年前、わたしはリンクの前で全裸になった。ただし、あの時のリンクは眠っていた。でも、いまは…… 
 動悸が強まる。顔面が、いや、全身の肌が、やけに熱っぽい。身体の中で何かがとろけていく 
ような感じがする。 
 あの夜にも得た情動と、耳飾りにまつわる記憶とが──自分の中で蠢く何かを、殻を破って 
外に出たいと悶える何かを、おのれの手と指で解放した、妖精の泉での行為の記憶とが── 
渾然一体となって、滔々と意思を動かしてゆく。 
(裸を見せてくれと頼むのさ) 
 あれはほんとうにただの戯れだったのか? 
 そうではない。 
 いくら論外と断ったとて、ゼルダとしてのわたしの真意が、あの勧めに反映されていたことは 
間違いないのだ。 
 もう後戻りするつもりもないわたしではないか。 
 応えよう。まっすぐすぎるほどまっすぐな、リンクの求めに。 
『そんなリンクだからこそ……』 
 こくりと頷いてみせる。 
 が、どんなふうに、との当惑を、なおもゼルダは捨てられずにいた。  
 
 ゼルダが緩やかに立ち上がる。その優雅な挙措から、ぼくは目を離せない。 
 すでに肩当てと手袋はなく、両の肩から指先までが、素肌のままとなっている。それだけでも 
ぼくの視覚は痛いほど刺激されるのだけれど、素肌の占める範囲がこれからもっと広くなって、 
素肌だけのゼルダがぼくの前に現れるのだと思うと── 
「あの……」 
 ゼルダが言う。立ちつくして。困ったような表情で。 
「少しの間だけ、後ろを向いていて……いいと言うまで……」 
「あ……うん……」 
 すわったまま、そそくさと従う。 
 恥ずかしいのか。 
 自ら誘いをかけてきたゼルダなのに。 
 ぼくの視線があまりに露骨だったせいだろうか。だとしたら、気をつけないと。 
 とはいえ、気をつけるくらいではどうにもならないおのれの高揚。 
 自省と欲望を戦わせつつ、リンクはひたすら時を待った。 
 
 ゼルダは惑いの中にいた。 
 とうにすべてを許す決意をしているというのに、どうしていまさら、わたしはリンクの視線を 
避けようとするのか。筋が通っていないではないか。 
 いや、必ずしもそうではない。 
 裸を見られることよりも、脱衣の過程を見られることの方に、わたしは抵抗を感じている。 
 なぜだろう。 
 脱衣とは、ただ裸になるだけの作業ではない。その先に展開される場面へと、自分は望んで 
向かっているのだ、との意志を明示する行為である。つまり…… 
 いかにも嬉々としてそれを求めていると思われそうで、でも、はしたないとは思われたくなくて、 
だからわたしは── 
『馬鹿らしい!』 
 見られようが見られまいが、本質は変わらない。実際、嬉々としてそれを求めているわたしなのだ。 
はしたないわたしなのだ。 
 王女であるという意識、自分を飾ろうとする意識が、まだ、わたしには残っている。 
 いまのわたしは、王女じゃない。ただの女。一人の女。 
 どうありたいか。それだけを考えていればいい。 
 ゼルダは惑いを押しのけた。  
 
 リンクは狼狽した。 
 暖炉の炎が、壁にゼルダの影を映し出している。ゆがみを呈してはいるが、その影の動きは、 
行為の内容をあからさまに暴露していた。 
 固く目を閉じる。 
 脱ぐ途中を見ないでくれ、とゼルダは言ったのだ。たとえ影に過ぎなくとも、ぼくは見ては 
ならないのだ。 
 視覚を塞いでも、聴覚は遮られない。 
 背後でさらさらと音がする。 
 その音の具合で、どの衣装が、どのように、ゼルダの身から離れつつあるかを、ぼくは否応なく 
想像してしまう。が、具体的な映像は頭に浮かばない。女性の服飾についてぼくが持っている 
知識は、もともと非常に貧弱だ。ましてや、余人とは異なるゼルダの高貴な装いが、どんな 
要素から成り立っているかなど、まるでわからない。 
 ただ、それほど多くを着こんではいないとは、外観から推測できていた。 
 だから大した時間はかからないはずで、気がつけばそのとおり、背後の音は聞こえなくなっていて、 
つまりゼルダは全部を脱ぎ終わったわけで、だけど沈黙は続いていて…… 
 どうしたんだ? まだか? まだやり残したことがあるのか? いったいゼルダは何を── 
「いいわ」 
 焦燥に割って入る短い言葉。渇望していたはずのそれを耳にしながら、ぼくは身体を動かせない。 
 いいのか? ほんとうに? 
『馬鹿か!』 
 と自分を罵倒する。 
 ここに至って迷う方がおかしい。こちらが頼んだことなのだ。ゼルダは応じてくれたのだ。 
見ればいい。見なければならない。ゼルダの裸を、ぼくのこの目で! 
 ふり向く。 
 
 美の極限が、そこにあった。 
 
 全部が見えているわけではない。折り曲げられた右手が乳房を、伸ばされた左手が股間を、 
絶妙の位置で隠している。なお残る羞じらいの表れなのだろうが、その含羞の物腰が、いっそう 
美しさを強調している。 
 言葉もない。どうにか表現するとすれば、「神々しい」とでも言うしかない。これほどの美を、 
ぼくなどが目にしていいのだろうか、と思ってしまうくらいに。 
 はるか別次元の高みに立つゼルダの姿── 
『いや!』 
 そうじゃない。ゼルダがいるのは、そんな場所じゃない。 
 一方は暖炉の火に照らされて薄赤く、他方は闇に染まってほの暗いその肌は、自然の光の 
もとならば、雪にも比すべき清らかな白さであるだろう。黒子の一つすらない無謬の皮膚には、 
しかし、小さな擦り傷や打ち身の跡が、少なからず認められる。それらはぼくとゼルダがともに 
戦ったことの──ゼルダがぼくの手の届く所にいるということの──明白な証明であって、ゆえに 
ぼくはぼくの前にあるゼルダの裸身を目にする資格が充分にあるのであって、のみならず、 
見えそうで見えない、いや、実は指のすき間からわずかに片鱗を覗かせるゼルダの最も女の 
部分をも、ぼくは残らず見ることができるはずなのだ。 
 だから、だからゼルダ、その手を、どうか── 
「お願い」 
 思いと同じ語を聞かされ、どきりとする。 
「わたしも、見たい」 
 何を? 
 考えるまでもない! 
 ぼくがゼルダを見ていいのなら、ゼルダだってぼくを見ていいわけだ。むしろ見るべきだ。 
そうあってこそぼくたちは、相和した関係になれるんだ。なぜいままでそこに気づかなかったのか。 
 跳ね上げるがごとくに身を立たせ、リンクは自らの衣服に手をかけた。  
 
 焦らしているのではない、そうあってこそわたしたちは、相和した関係になれるのだ──と 
おのれに説き聞かせつつ、爆発せんばかりの胸の高鳴りを、ゼルダはわくわくと認知した。 
 リンクが身に着けたものを次々と脱ぎ去ってゆく。後ろを向けなどとは言いもせず、堂々と、 
わき目も振らず、リンクが裸になってゆく。 
 その直截さが、喜ばしい。 
 わたしもこうするべきだったのだ──と、いまにして悟る。 
 おのれの願望を態度で示すことで、見る者をこんなにも感奮させられるのなら! 
 ほどなくリンクの動きが止まる。リンクがすべてをさらけ出している。わたしと違って、どこも 
いっさい隠そうとはせずに。 
 鮮烈──! 
 以前、シークとして眺めたことのある裸体が、女としてのいまのわたしには、全く異なった 
ものとして印象づけられる。 
 均整のとれた、精悍な肢体。無限の力を備えた、しなやかな筋肉。右腕と左肩に巻かれた 
包帯に加え、無数に刻まれた傷跡が、栄えある戦歴を物語っている。それに…… 
 七年前とは比較にならない逞しさを示す、男の部分。 
 無言のリンク。けれども眼差しが叫んでいる。 
 ぼくはこうした、君もそうしろ──と。 
『いいわ』 
 心の中で、再度の応諾。静かに両手を横へと下ろす。 
 瞬間、リンクが反応した。 
 はっと息を呑む音。ぴくりと震える身体。欲情もあらわな股間の屹立。どぎついほどの熱い視線。 
 嬉しい。この上もなく、嬉しい。 
 わたしを見てそこまで高ぶってくれるリンクなのだと思うと! 
 ガノンドロフに強いられた屈辱の場面に、形の上では類していながら、その時とは似ても 
似つかない、このわたしの喜びを、どう説明すればいいのだろう。 
 ゼルダは思考を放棄した。 
 説明不要の公理である。 
 
 愛するひとのすべてを見、愛するひとにすべてを見られることが、喜び以外の、いったい何で 
あり得よう! 
 
 ただ、その喜びは、まだ完全ではない。見るだけ、見られるだけでは、不充分なのだ。 
 それをリンクも知っている。知っているから、近づいてくる。腕を広げて。わたしに触れようとして。 
わたしと肌を合わせようとして。 
 そしてわたしたちはとうとう──!  
 
 これが!──とリンクは酔いしれる。 
 これがゼルダなんだ! これが素のままのゼルダなんだ! 
 両腕に、手のひらに、胸に腹に脚に接する肌の、何という心地よさ! 
 ほんのわずかなざらつきもない自然性。そのまま溶けてぼくとひとつになってしまいそうな 
許容性。それでいて微妙に蠢きつつ存在を主張する独自性。 
 こんなに繊細で、清明で、みずみずしい触感を、どうしてゼルダの肌は保てるのか。 
 取得できる触感はそれだけではない。 
 胸に押しつけられる二つの乳房。腕にすっぽりと包めるほどの細身でありながら、服の上からは 
予想もつかなかった豊かな張りを、そこは生き生きと投げかけてくる。 
 もう一つ。 
 首筋に吐きかけられるゼルダの息。 
 ひそやかに、しかしまざまざと表出される、ゼルダの生命のしるし。 
 そのしるしを、もっと感じ取りたくて、ぼくは顔を寄せる。ゼルダも顔を上げる。間近に 
向かい合った唇は、もはや何の準備も要さず、それが当然であるかのように、ぴったりと貼りつく。 
とどまらず、ぼくの舌はゼルダの唇をこじ開け、ゼルダの口はぼくを誘い入れ、舌と舌とが 
もつれ合い、歯と歯がぶつかり合い、唾と唾とが混ざり合い、互いを舐めずり、味わい、貪った 
末に、再びぼくは唇を密着させ、ゼルダの息を吸って、吸って、肺を空にするまで吸いつくして──! 
 
 吸われる、吸われる、わたしはリンクに吸いつくされる、そうよわたしはリンクのもの、 
息も命も何もかも、みんなみんなリンクのもの、だからリンク、わたしを奪って、わたしの 
すべてを奪い取って! 
 長い接吻が意識を朦朧とさせ、まばゆいばかりの恍惚を呼び、ようやくリンクの唇が離れて 
呼吸を再開できても、恍惚だけは消えずに残り、けれど身を立たせる力は失われ、膝が折れ、 
腰は沈み、わたしは倒れて、倒れてしまう── 
 ──はずもない。リンクがしっかりと支えてくれて、わたしの身体は安らかに、敷布の上へと 
横たえられる。続けてリンクは寄り添ってくれる。抱きしめてくれる。唇だけでなく、頬に、額に、 
髪にと、絶え間なく口をつけながら、触ってくれる。撫でてくれる。肩を、腕を、腋を、背を、 
そしてわたしの両の乳房を! 
 気持ちがいい、気持ちがいい、そこをリンクに明け渡すことの、たとえようもない快さ! 
 二つの敏感な先端を、指のみならず舌にまで、思うがままに弄ばれて、そのつど走る痺れの 
ような感覚に、溺れてしまう、わたしは溺れてしまう、溺れて、溺れて、もう、何も、考え、られ、 
ない──  
 
 周期を守るかと思えば不意に乱れも挟む荒々しい吐息と、言葉にもならない本能的な、しかし 
慎みをなくしたわけでもない抑え気味の喘ぎが、ゼルダの口から陸続と紡ぎ出される。それを 
興奮の触媒として、ただし一抹の理性も残して、ぼくはゼルダをいとおしむ。 
 胸部に続く腰の細まりは驚くほどで、それでも腹部はやんわりとした弾力を宿すくらいに脂肪を 
含んでいて、臀部では脂肪がさらに量を増して豊麗な双球を形づくっていて、それらをじっくりと 
確かめながら、ぼくの手は、ゼルダの秘密の場所へと、徐々に、徐々に、接近してゆく。 
 なだらかな下腹のふくらみに植わった、金の髪よりはやや色濃い叢。その密度と面積は、 
身体の他の部分、中でも発達した乳房と合わせ、ゼルダが成熟した女性であることを、明瞭に 
言い立てている。 
 そして、さらに下は…… 
 あふれきっていた。 
 理性が吹き飛びそうになる。 
 ゼルダは感じてくれている! ぼくを感じてくれている! 
 ならば、もっと、もっと、もっともっともっと、ゼルダに感じて欲しい、ゼルダを感じさせて 
やりたい、だからぼくは──! 
 性急になりかかる手の動作を、 
『待て!』 
 必死の思いで制御する。 
 忘れるな。ゼルダが傷ついていることを忘れるな。 
 優しく、優しく、可能な限り優しく、ぼくは指を伸ばしてゆく。 
 茂みの生える曲面の中央に、一筋の谷が刻まれていて、その間には岬のように、小さな芯が 
埋まっていて、谷の底からこんこんと湧き出る蜜液に浸され、そこはすでに硬く起き上がっていて、 
そうした生々しい器官をゼルダが有しているのが、いまもって不思議な気もするのだけれど、 
それでこそゼルダはゼルダなのだと堅固に肯定もできていて、そんなゼルダのかわいい蕾を、 
ぼくは、そっと、撫でてやって── 
 俄然、ゼルダが悲鳴をあげる。穏やかな接触には似つかわしくない感情の放出が、とても、 
とても、嬉しくて、なおもぼくはゼルダの奥を、情欲に滾るゼルダの中心を、繰り返し、繰り返し、 
さすってやる。こすってやる。 
 高まるゼルダの声。震えるゼルダの腰。 
 煽られる。ぼくは煽られる。どうにも我慢ができなくなる。 
 ゼルダの右手を引き寄せる。抵抗の素振りも見せないその手を、膨張しきった部分に触れさせる。 
刹那、怯えるように引きつった手は、次には緊張を解き、ふんわりとそこをくるんでくれる。 
「あ──!」 
 猛烈な快感が湧き起こる。 
 どうして? ゼルダは何もしていないのに、ただ握ってくれているだけなのに、何がぼくを 
こうまで切迫させる? ぼくがあまりにもゼルダに耽溺しているからか。あるいはゼルダが 
あまりにもぼくを── 
 いずれにせよ、ゼルダが少しでも手を動かそうものなら、あっという間にぼくは暴発して 
しまうだろう。 
 それでもいいと思いかける自分を、それではいけないと強く叱咤する。 
 限界ぎりぎりで踏みとどまるうち──  
 
 吹きすさぶ快楽の嵐に全身を任せながら、右手に持たされたものの正体だけは、ゼルダにも 
感知できていた。 
 かちかちになったリンクの中心。滾りに滾った男の象徴。 
 そこを感じさせる方法は、よくわかっている。感じさせたいとも、心から思う。けれど、 
わたしは、そうしない。なぜなら…… 
 わたしがそこを握るやいなや、リンクは指の動きを止めてしまった。このままリンクを 
刺激したら、わたしは悦ばせてもらえなくなる。 
 それは、いや。 
 わたしが悦びを得られると同時に、リンクも感じられる唯一の方法を、いま、わたしたちは、 
とるべきなの…… 
 
 ゼルダの手が離れる。危機を脱して息を吐く間もなく、ゼルダがゆるりと両脚を開く。 
 意味を知る。 
 谷間に置いたままだった手を引き、代わりに身体を移し置く。上体を前に倒す。両肘で体重を 
支えておいて、あとはできるだけ密接する。 
 腰を出す。濡れそぼった二人の部分が触れ合う。すぐにも突入させたい衝動をねじ伏せる。 
 忘れるな。ゼルダの傷。それにぼく自身の限界。 
 言い聞かせつつも、感慨を禁じ得ない。 
 七年前、一度、ぼくたちは交わった。ぼくの記憶には存在しない、いびつな形での交わりだった。 
でも、いまこそ、ぼくたちは、二度目の「初めて」の交わりを、完全な形で結び直すんだ! 
「ゼルダ……」 
 上からかける小さな声に、下から小さな頷きが返される。 
 ぼくを抱きしめるゼルダの両腕。静かに閉じられるゼルダの目蓋。 
 ついに、ついに、ついについについに! 
 ぼくは進んでゆく。ぼくは入ってゆく。ゼルダの中に。柔らかくて狭くて熱くてとてつもなく 
素晴らしいゼルダの中に!  
 
 リンクが進んでくる。リンクが入ってくる。わたしの中に。硬くて大きくて熱くてとてつもなく 
素晴らしいリンク自身が! 
 ついに、ついに、ついについについに! 
 七年前、一度、わたしたちは交わった。ともに満足には至らない、いびつな形での交わりだった。 
でも、いまこそ、わたしたちは、二度目の「初めて」の交わりを、完全な形で結び直している! 
 痛みはある。痛むからこそ嬉しい。リンクに痛みを加えられるのが、嬉しくて、嬉しくて、 
どうしようもない。 
 わたしは浄められているのだから! 
 幸せ。 
 幸せ。 
 幸せ。 
 幸せ。 
 リンクを迎え入れる幸せ。 
 リンクに充たされる幸せ。 
 リンクに触れられる幸せ。 
 リンクに口づけられる幸せ。 
 リンクの腕に包まれる幸せ。 
 リンクの重みを受ける幸せ。 
 リンクの身体のすべての動きを、身体のすべてで感じられる幸せ。 
 リンクの心のすべての情けを、心のすべてで感じられる幸せ。 
 生まれてからの幸せをすべて合わせたよりも、もっと大きな幸せ。 
 世界中の人々の幸せを──ああ、ほんとうはこんなことを思ってはいけないのだろうけれど── 
すべて合わせたよりも、もっと大きな幸せ。 
 王女であるとか賢者であるとか、そんなことはどうでもよく、ただの一人の女としてリンクに 
抱かれることの限りない幸せ。 
 いまこうしてリンクに抱かれることでこそ、わたしは人として完全になれるのだ、と思える 
くらいの幸せ。 
 いまこうしてリンクに抱かれるためにこそ、わたしはこの世に生まれてきたのだ、と思える 
くらいの幸せ。 
 だけど……もっと……もっと…… 
 もっともっともっともっともっともっともっと! 
 わたしはリンクを感じたい! 
 わたしはリンクに愛されたい! 
 どうにかして! 
 どうにかして! 
 リンク! わたしをどうにかして!  
 
 慎重に、慎重に、分け入らせた自分が、奥の奥まで到達した時点で、ぼくはぼくの動きを止める。 
止めざるを得ない。手でくるまれる快感を、はるかに凌駕する圧倒的な快感が、ぼくを捉えて 
離さない。ゼルダの中にぼくがあって、ぼくのまわりにゼルダがあって、それだけなのに、技巧も 
何もない状態なのに、泣きたくなるくらいの幸福感が、ぼくの満身に染み渡る。 
 ゼルダ! ゼルダ! ゼルダ! 
 どうして君はこれほどに── 
 どうして君はこんなにも── 
 超絶的なひとであるのだろう! 
 その上に、ああ、その上に…… 
 ゆっくりと、君は腰を前に出す。なおも密着を求めるがごとく。 
 かと思えば── 
 ゆっくりと、君は腰を後ろに引く。次の密着に備えるがごとく。 
 前に出す。後ろに引く。 
 前に。後ろに。前に。後ろに。 
 どうにかして、とすがりつくような、ためらいがちな往復が、どんどんぼくを追いこんでゆく。 
耐えられない。耐えられない。とうていぼくは耐えられない! 
 腰が引かれるのに合わせてぼくも腰を引く。一気に強まる摩擦の勢いが君を喘がせ、ぼくをも 
喘がせ、君が動きを止めてしまうのを無視してぼくは勢いよく腰を突き出し、そのひと突きで 
堰は切れ、内部からせり上がってくる波濤にぼくは抵抗もできず、がくりと頭を落とし、 
何の考えもなくちょうど目の前にある君の右の耳に口を当てるや── 
 
 やにわにわたしは絶叫し、全身が硬直して、反り返って、痙攣して── 
 
 直後、ぼくに究極の時が来て、ぼくはぼくの精髄を── 
 
 その絶頂の第一波が治まるいとまもなくわたしは── 
 
 君の中に撃って、撃って、撃って── 
 
 同期的に達して、達して、達して── 
 
 撃てる限り撃ちきって── 
 
 達せる限り達しきって── 
 
 そうして、ぼくは……ぼくたちは………… 
 
 そうして、わたしは……わたしたちは…………  
 
 右手の甲に走る痛みを、酩酊状に混濁する頭脳で、ゼルダは知覚した。 
 リンクの背にまわしていた腕をはずし、痛みの部に見入る。 
 知恵のトライフォースが光を放っていた。 
 やがて、三角形の厳かな煌めきは、音もなく皮表を離れ、緩徐な上昇を開始した。部屋の高さの 
上限に達しても動きはやまず、そこが虚空でもあるかのように、天井面を通過する。 
 見えなくなった。 
 ゼルダは得心する。 
 ほとんど同時に行き着いたリンクとわたし。けれどもわたしの方が一瞬だけ早かった。それが 
知恵のトライフォースの行く末を決めたのだ。 
「どうして……」 
 事態に気づいていたリンクが、茫然と呟く。知恵のトライフォースが消えた地点と、空白である 
自らの左手の甲とを、交互に見比べながら。 
 勇気のトライフォースを持たないぼくが、どうしてゼルダから知恵のトライフォースを 
分離させられたのか──と、不思議に思っているのだろう。 
 もっともな疑問である。ガノン城での戦いの際、示されたように、トライフォースのやりとりは、 
持ち主の間だけでなされることだからだ。しかし…… 
 説く。 
「トライフォースは、ただの印。それが宿っていようといまいと、持ち主の本質は、変わらないの。 
少なくとも、わたしたちにとっては……」 
 力のトライフォースを得て、ガノンドロフは魔王となった。その変化は、トライフォースを 
手に入れようという強烈な意志を、ガノンドロフが持っていたことによる。対して、リンクと 
わたしは、ガノンドロフの野望に巻きこまれる形で、受動的にトライフォースを割り当てられた 
だけだ。それが宿ったからといって、性質や能力が変化したわけではない。逆に言えば、それが 
なくとも、できることに変化はないのだ。 
 勇気のトライフォースの有無にかかわらず、リンクは勇者である。それを失ったのちも、 
マスターソードを手にすることができた。 
 わたしも同じ。 
(知恵のトライフォースなんかくっつけてるから、頭がまわりすぎるんだ) 
 とのリンクの言は──リンクも本気で言ったのではなかろうが──的はずれだ。知恵の 
トライフォースが宿ったあと、自分の頭がよくなったとは、わたしは、ついぞ、思わなかった。 
 リンクも理解できたのだろう、深く点頭し、安堵するように息をついてから、ゆったりと体重を 
預けてきた。 
 下にあって、重みをいとしく感じつつ、ゼルダは再びリンクを抱きしめ、ほのかに微笑んだ。 
 ただの印ではあっても、知恵のトライフォースは、わたしにとって、苛酷な使命の象徴だった。 
ある意味、軛だったとも言えるだろう。 
 その軛から、わたしは、やっと、解放されたのだ。 
 わたしの手から離れた知恵のトライフォースが、どこへ行ったのか、どうなったのか、 
わたしには見当がついている。しかし、そんなことを気にかける必要も、もはや、ありはしない。 
 わたしは自由になったのだ! 
『でも……』 
 念頭に置いておかねばならない。 
 いまのリンクとの交わりにより、わたしは『時の賢者』として、真の覚醒を迎えた。その立場に 
おいて、わたしは一つだけ、なすべきことを残している。 
 とはいえ、それは、完了した使命の幕引きにあたる、いわば儀式的な行為に過ぎない。わたしの 
──そしてリンクの──今後の人生を左右するようなものではない。 
『だから、リンク……』 
 挿入されたままの男根は、少しく硬度を弱めながらも、なおくっきりと存在感を保っている。 
 もう一度、との願いを秘めて、伏せられたリンクの顔をうかがうと── 
「まあ……」 
 眠っている。 
 さもあろう。 
 まる一日の熟睡を経たわたしとは違って、リンクは戦いのあと、ろくに休息もとっていなかったはず。 
『眠りたいだけ、眠ってちょうだい』 
 睦み合う機会は、何もこれが最後ではない。むしろ、これが始まりなのだから。 
 ──と、リンクを抱く腕に力をこめ、温感に満ちる胸の中で、ゼルダは思った。 
 
 
To be continued.  
 

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