気がつくと、微笑みがあった。 
「ゼルダ?」 
 微笑みが言った。 
「ぼくがわかる?」 
「あ……ええ……」 
 微笑みが近づき、唇に触れる。澱む意識に、波紋が生じる。 
 顔を引き、けれども微笑みはそのままに、リンクが柔らかい視線を送ってくる。身を仰向けに 
して対面しているのだと気づく。顔と顔、胸と胸、腹と腹が向かい合い、巻かれた腕が肩と首と 
頭に沿い、互いの肢体は密な接触を保っている。性器も結合したままである。 
 リンクは微笑みを絶やさない。永久に微笑み続けるのではないかと思われるほど、自然な表情。 
あたかも微笑みが顔の造作の一部として定着しているかのような。 
 まさにリンクの優しさを体現する微笑み、とぼんやり考え、のみならず、力強さと激しさの体現にも 
直面したのを思い出し、その際は必死の形相だったリンクが、いつ微笑みに移行したのだろう、と 
いぶかしんだりしているうち、徐々に頭が冴えてくる。 
 自分が失神していたことを知る。 
「どのくらい……経ったの……?」 
 覚束ない言葉で問いかける。 
「そんなに長くじゃないよ」 
 微笑みを崩さず、リンクが答える。 
 二人とも姿勢が変わっていないから、そのとおり、長時間ではないのだろう。とはいえ、 
リンクが──そしてわたしも──平穏な呼吸に戻っているところをみると、数分ではきかないはず。 
 そこまで記憶が飛んでしまうほどの感悦を、リンクはわたしに与えてくれたのだ。 
 天国的な幸福感が、身体の隅々にまで、なお浸透している。同じ幸福感を、リンクもまた、 
全身に満たしている、と確信できる。 
 わたしたちは一体なのだ、という想いを、どうにかして表現したくなり、投げ出していた両腕を、 
リンクの背にまわす。リンクの腕にも力がこもり、接触が一段と密になる。 
 かかってくる重みを安らかに受け止めようとした時、リンクが微笑むのをやめた。目を閉じ、 
眉の間に皺を寄せている。怪訝に思ううち、膣内に変化が察知され、ゼルダは事態を悟った。 
 腰を安定させるための筋肉の動きが、会陰部の筋肉にも波及して、そこを自然に収縮させたのだ。 
それをリンクは感じ取ったのだ。 
 二度の射精を経て、さすがに硬さを減じていた陰茎が、ぴくり、ぴくり、と断続的に緊張している。 
 その反応が、凪いでいた性感を波立たせた。 
 今度は意識的に収縮させてみる。 
「あ……」 
 リンクが切なげな声を漏らし、呼吸を深くした。 
 困惑したような表情が面白い。かわいいとさえ思ってしまう。あれほど自分を熱狂させた 
リンクを、いまは自分が操っているのだ、と考えると、胸がわくわくしてくる。 
「どう?」 
 リンクが失った微笑みを引き取り、煽りっぽい言葉とともに投げ返す。 
「いい……とっても……」 
 朴直な告白に励まされ、なおも収縮を繰り返してやる。いつしかそこに生まれていた圧迫感が、 
次第に程度を増してゆく。陰茎が膨張しているのだった。 
 リンクの腰が揺れ始める。完全となった勃起に内部をさすられる快美感と、大した間もおかず 
三度目に挑むリンクの強靱さへの感嘆とで、欲情が急速にかき立てられる。が……  
 
「待って」 
 試みてみたいことがあった。 
「起こしてくれる?」 
 体動を止め、当惑顔となったリンクは、しかしすぐに理解してくれた。挿入したまま膝を折り、 
腰を据え、肩に両手をかけてきた。引き寄せられるまま、上体を浮かせる。同じく上半身を立たせ、 
膝を伸ばしたリンクの、脚のつけ根に跨る。向かい合う格好は変わっていないが、ともに坐す形と 
なったことで、より自由に手を動かせる。下から貫かれる感覚も新鮮だ。 
 抱擁と愛撫を織り交ぜつつ、口では接吻を続けつつ、腰を緩やかにくねらせる。リンクの下半身は、 
ほとんど動きを封じられているが、時には穏やかな突きを繰り出してくる。温和な交合が、 
じわじわと喜悦を高めてゆく。 
 でも、溺れきるには、まだ早い。 
 胴を前に傾ける。了解したリンクが、仰向けに身を倒す。その上に騎乗する姿勢となる。 
 初めての時と同じ体位。 
 七年前は不完全に終わった、この状態での交歓を、いま、完遂させたい──という思いが、 
わたしにはある。 
 併せて…… 
 さっきはわたしの上で激動したリンクを、ここではいたわってあげたい──という思いも。 
 意図を察したとみえ、リンクは腰を動かすこともせず、両腕を広げて静かに横たわっている。 
 ゼルダはリンクの脇に両手をつき、ゆっくり腰を上下させた。それまでの交わりでリンクが 
演じた往復運動を模したのである。 
 運動の主体が変わっても、結果として生じる摩擦と、それに由来する快感に変わりはない。 
 七年前は、もっぱら苦痛しか感じなかった。快感もあるにはあったが、ごくごくわずかな 
ものだった。ところがいまは快感だけ。苦痛などかけらも存在しない。 
 喜悦が再び高まってゆく。腰の上下動が速まってゆく。リンクの顔がゆがんでいる。やはり 
快感のためだとわかる。いっそう喜悦が高められる。 
 突っ走ろう──と決めかけて、ふと気が変わった。膣の最深部に継続して加えられる衝撃。 
それをもたらすリンクの硬直を、もっとじっくり味わってみたい、という欲求が呼び覚まされたのだった。 
 一杯にくわえこんで、運動を中止する。 
 はち切れんばかりの充実感! 
 さらに腰を沈ませる。充実感が昂進する。同時に、別個の刺激が身を震えさせる。 
 リンクの体表に陰核をこすりつける形となっていた。 
 鮮烈な感触を無視できず、新たな動作を模索する。挿された肉茎を軸として、前後に、左右に、 
身体を揺らす。小さく円を描いてみる。方向と強度の微妙な変化が、実に心地よい。それらを 
こちらの意思で調節できるのも好都合。 
 そう、自分の好きなようにしてみたかった。リンクの下で怒濤の攻めに圧倒される悦びは 
何ものにも代えがたいし、その時も自ら腰を揺すったわたしではあるのだけれど、いまは自由に 
動いてみたい。 
 そこで、悟る。 
「もっと」という、たったひと言すら、口にするのを逡巡していたわたしが、いまや何の 
葛藤もなく、「起こして」と懇願し、男に打ち跨って、腰を振っている。 
 七年前の交歓を完遂させたいとか、リンクをいたわってやりたいとか、そんなのは表面的な 
理由に過ぎない。 
 肉体の快楽を自分から追い求める女に、わたしは、なってしまったのだ。 
 それを悪いことだとは、寸毫も思わない。そうしなければならない、とさえ思う。肉体の快楽を 
極めればこそ、精神の幸福も充たされるのだ、と。 
 わたしがこの境地に達したのは──  
 
「あ!……うぅッ……」 
 ぎゅっと目を閉じて、リンクが呻く。わたしの動きに、なすすべもなく。 
 膣を締めてやる。リンクが歯を食いしばる。一生懸命、耐えている。その表情にそそられる。 
『かわいい』 
 さっきも、わたしは、そう思った。それが、わたしを、踏み切らせた。 
 自分の行いが相手を悦ばせ、同時に自分も悦ぶことができる。 
 たまらなく、嬉しい。 
 リンクだって、わたしを攻めまくりながら、同じように思ったことだろう。 
『だから、わたしも……』 
 上下運動を再開させる。 
 こうすれば摩擦が最も強くなる。こうすればリンクが最も感じてくれる。 
 リンクの喘ぎぶりで、その確信は裏づけられる。 
 このまま一気に終わりまで──と決心した時。 
「んッ!」 
 胸に思わぬ感触を得、ゼルダの身体は固まった。それまで無抵抗だったリンクが、乳房に手を 
這わせてきたのである。 
 撫でられる。撫でられる。優しく。優しく。 
 股間に集中していた感覚が飛び火する。乳房全体が張りつめる。手のひらで擦過される二つの 
乳首がきりりと突き立ち、電流のような快感をびりびりと放散させる。痛みにも近い強烈さ。 
覚えず背中をのけぞらせてしまう。 
「あッ!」 
 次の瞬間、股間に感覚が弾けた。リンクが左手を胸から離し、結合部に差し入れてきたのだった。 
「あ……あぁ……ッ……んん!……いッ……!」 
 膣を陰茎で貫かれ、陰核を指で押さえられ、乳房を手で揉み立てられる。 
 三つの場所への同期的な刺激が、ゼルダを急激に高揚させる。 
 さらに刺激が強まった。リンクが腰を突き上げ始めたのだ。 
 かわいいだけのリンクではなかった。やっぱりリンクは「男」だった。わたしが上になって 
いても、下からわたしを攻め立ててくれる。 
 自分の行いが相手を悦ばせ、同時に自分も悦ぶことができる。それをリンクは実践している。 
『だから!』 
 ゼルダは三たび躍動に移った。もう止める気はなかった。止めようとしても止まらないと 
わかっていた。 
 膣の内面をこすられる。子宮の入口をどつかれる。濡れた恥毛が絡み合う中で、膨れた陰核が 
こねくられる。両の乳房が弾み踊り、乳首から放たれる電流が、陰部の炎上感と融合して、 
あまねく全身を発火させる。 
 ほどなく絶頂が訪れた。 
 同時に、リンクが脈打ち、熱い液体を噴出させるのを、真空となってゆく脳内で、からくも 
ゼルダは認識した。  
 
 身体が前に倒れてゆく。それをどうにもできない。姿勢を保つだけの余力が残っていない。 
 衝突は起こらなかった。リンクが受け止めてくれたのである。 
 逞しい腕に支えられ、上半身がリンクの胸に安着する。 
 息が荒れる。声を出せない。 
 感謝と、そしてリンクに身を寄せることへの言うに言われぬ満足感を、ゼルダは心で披瀝した。 
 時間がゆるゆると過ぎ去ってゆく。 
 純粋な陶酔のみを、ゼルダは感じていた。陶酔は果てる気配もなく、延々と続いた。不思議とは 
思わなかった。思考する余地そのものが失われていた。 
 しばらくして脳に活動が戻り、陶酔を持続させていたものの正体を、ゼルダは知った。 
 胸をしっとりと愛撫されている。 
 知ってしまうと、応じずにはいられない。この陶酔を手放したくない。できればもっと深めたい。 
 乳房をリンクの手に押しつける。おもむろに腰を揺らしてみる。 
 体内にとどまっている陰茎は、しかし硬度をなくしたままだ。 
 三度も達したのだから、当然ではある。あの収縮を味わわせてやれば、すぐ回復するかも 
しれないけれど…… 
 ゼルダはそうしなかった。 
 身体を浮かせる。萎えた一物が膣からすべり出る。名残惜しく思いながら、リンクの傍らに 
横たわる。溜まりに溜まった三回分の精液が、股にどろりと滴れ落ちてくる。それが名残惜しさに 
輪をかける。が…… 
 また、いつでも、埋めてもらえる。満たしてもらえる。 
 試みてみたい別の一事が、ゼルダにはあった。ただ、リンクの現状を考慮すると、性急で 
あってはならなかった。 
 横に向き合って互いを抱きしめる安楽を、しばし堪能してから、ゼルダは重心を移動させ、 
再び仰向けとしたリンクの上に、身を覆いかぶせた。 
 胸に触れてくるリンクを、 
「じっとしていて」 
 と穏やかに制する。 
 自由に動いてみたいという望みを、まだ果たしきれていないのだった。 
 顔を見下ろす。精悍であるとともに情愛にもあふれた、若々しい青年の表情を、暫時、温かい 
思いで目に染みこませたのち、おのれの顔を寄せかける。 
 唇をついばむ。口をやんわりと貪る。同じ動作を、顔いっぱいに散じさせる。次には首へ、 
さらには胴へと、少しずつ対象を移してゆく。 
 筋肉の張った胸壁は、硬いうちにも弾性を秘め、接し動かす唇に、溌剌とした生命の息吹を 
送ってくる。また、筋肉の下から伝わる、心臓の規則的な鼓動が、ひときわ明瞭に、雄渾に、 
生命力を表出している。 
 そんな「男」に酔いつつも、ゼルダの関心は、胸にある一対の器官に向いた。 
 女にとっては多様な意味を持ち、かつ多様な姿であり得るその場所は、しかし男の肉体に 
あっては、素っ気ないほど単純である。 
『でも……』 
 唇と舌を使ってみると、平坦だった所から、むくりと乳頭が隆起してくる。女のそれには 
遠く及ばない、小さく頼りなげな存在ではあるものの、自分の行為への反応が、素直に喜ばしく 
思われる。かすかに聞こえる息の乱れが、喜ばしさを拡充させる。 
 リンクは感じてくれている。  
 
 成果に促され、下行を続ける。胸に劣らぬ筋肉が伏する、腹部の中央にある臍を、自分が 
されたのと同じように、舌でぐりぐりとまさぐってやる。漏らされる深いため息に、リンクの 
感懐をうかがい知り、なおも心が鼓舞される。 
 目標に到達する。 
 ペニス。 
 自分を何度も恍惚の極に追いこんだ壮者が、いまは力なくしおれている。とはいえ、七年前から 
すると、比較にならない大きさだ。 
 ゼルダは意識する。 
 そう、わたしは七年前、これを見、これを手に取った。男の性器に接したのは、それが生まれて 
初めてだった。リンクに目と手の処女を捧げたのだ。そののち真の処女をも捧げ……そして、 
七年後のいま…… 
 右手で、そっと、握ってやる。 
 二人の放った分泌液が、全体をべっとりと濡らしていて、手にも粘着を強いてくる。精臭が 
芬々と鼻をつく。 
 全く気にならない。 
 たわやかに、揉んでやる。 
 昨夜、二度目の「初めて」の前に握った時は、すぐにも爆発してしまいそうで、手を動かすには 
至らなかった。そんな切迫は、いまは、ない。いくらでも戯れていられるのだ。 
 軟らかかった肉塊が、徐々に硬さを取り戻し始める。尽きせぬリンクの強さの現れ、と賛する 
一方で、この変化を自分が引き起こしているという事実に、晴れがましさを覚えずにはいられない。 
 硬直が半ばまで復活する。まだ切迫にはほど遠い。むしろ切迫して欲しい。わたしの手で。 
なおかつ、わたしの…… 
 顔を近づける。 
 どうすればいいかは、わかっている。シークとして女性に施された経験があるからだ。ゼルダに 
戻ったいまとなっては、その感覚を鮮明に想起はできないのだが、記憶はしっかりと頭にある。 
 のみならず── 
 シークは施した経験もある。他ならぬリンクに。 
 ただし、あくまでも、シークとして、だ。 
 シークはゼルダであり、けれどもゼルダではなかった。心にしても身体にしても、ゼルダとは 
異なる、一個の独立した人間だったのだ。 
 ぬらめく亀頭に接吻する。続けて口中にくるみこむ。耳に届くリンクの喘ぎと、一気に勢いを 
増す口腔内の膨張が、感慨を煌びやかに修飾する。 
『これで、わたしは、口の処女まで、リンクに捧げられたんだわ』 
 できうる限りの献身を、ゼルダは行った。舌と頬と口蓋を駆使し、時には咽頭まで奥入らせて、 
完全体に復帰した肉柱を歓待した。解放した状態では、それの先端から根元までを、唇と舌とで 
くまなく愛撫した。亀頭の裏側は、特に念を入れて慈しんだ。密生する陰毛に頬ずりし、陰嚢の 
皺を舐め伸ばし、睾丸を袋ごと口内に含んで軽妙に転がした。 
 リンクは悦んでくれていた。派手な反応は示さなかったが、加速する呼吸、そして時おり抑制を 
突き破ってなされる発声と体動が、リンクの興奮を物語っていた。 
 切迫は、しかし、なかなか来なかった。リンクの快感の閾値が上がっている、と、ゼルダには 
理解できた。長きにわたって奉仕を続けられるのは嬉しかったが、その結実を味わえないのが 
もどかしくもあった。ゼルダは行為に専念した。 
 やがて熱意は報われた。リンクの腰が上下し始めた。すっぽりと口をかぶせると、そこが 
あたかも膣であるかのように、往復運動が続けられた。合わせて首を振り動かす。摩擦が倍加する。 
運動は次第に激しくなり、しかるのち、唐突に中断された。 
 陰茎が周期的に痙攣し、遂情の粘液を噴射した。 
 ゼルダはすべてを飲み下した。 
 歓喜をもって。  
 
 とうに夜半は過ぎていたが、リンクは眠気を感じなかった。眠りに時を費やすのが勿体なかった。 
いっときでも長くゼルダと睦んでいたかった。 
 間をおきつつではあっても、うち続く絶頂が肉体に及ぼす影響は少なからず、陰茎が弛緩状態に 
ある期間は、漸次、延長していった。が、精神の高ぶりは一向に果てなかった。また肉体の方も、 
ゼルダの手技と口技によって、時間をかけながらも確実に、その都度、臨戦態勢へと戻って 
ゆくのだった。 
 自分の身体はどうなってしまったのか、とリンクは怪しんだ。経験上、少々のことでは参らない 
という自負はあったものの、これほど強壮だったとも思えなかったのである。 
 ゼルダがそうさせているのだ、と結論せざるを得なかった。ゼルダの技巧が特筆すべき水準に 
あるというわけではない。「ゼルダであること」自体が最大の理由なのだった。 
 二人は交わり続けた。互いが上になり、下になり、横になり、あるいは言葉で表現するのが 
困難な形となって絡み合った。 
 ゼルダもすっかり情欲に浸りきっているようだった。リンクがしかけるいかなる行為も 
嬉々として受け入れた。そればかりか、淫猥な──とゼルダが意図していたかどうかは不明だが、 
リンクにはそうとしか思えない──行為を次々と自発的に披露した。 
 正常位では、腰を揺らすにとどまらず、両脚をリンクの背に巻きつけ、強固な密着を図ってきた。 
 後背位にはとりわけ感興が湧いたとみえ、他の体位で漏らす以上の嬌声を口から発し、麗しい 
双臀を震わせて、絶え間なく頂点を極めた。 
 そんなゼルダのありさまに、リンクは戸惑いを覚えなかった。それが自然であり当然である、と、 
すんなり得心できた。 
 性器と性器が離れている間も、交わりは途切れなかった。頭頂からつま先までのあらゆる領域を、 
二人の手と口は満遍なく探りつくした。 
 互いの局部を口でなぶり合う性戯も、迷いなく行われた。リンクにすれば、自分が放出した 
体液を舐めることにもなるのだったが、ためらいは全く起こらなかった。加えて、ゼルダが自分の 
性器に口を寄せているのだ、と考えると──それが自然な成りゆきと理解できてはいても── 
多大な感激を禁じ得ないのだった。 
 肛門への口づけも、無論、リンクは厭わなかった。ゼルダは初め──反射的にであろう── 
身をよじって逃れようとする素振りを見せたが、すぐに従順となり、若干の色素を帯びた粘膜が 
すぼまる部分の扱いを、諾々とリンクの舌に委任した。軌を一にしてリンクはゼルダから、 
同じ場所への同じ舌技を、同じ熱心さで給された。ますます感激は極まった。 
 
 夜が明けた。が、リンクは行為をやめなかった。昼夜のけじめをつけようとの所存は、 
雲散霧消してしまっていた。あるのは性欲ばかりで、食欲などはいささかも喚起されなかった。 
 ゼルダもまた、様態を変えなかった。起床の意思を匂わせもしなかった。ただ淫らな一念だけを 
発散させていた。 
 汲み置いた水で喉を湿すなどの、わずかな休憩を時に挟むだけで、肉交は営々と続けられた。 
秘部は片時も乾くことなく、それのみか、全身までを汗と唾液と精液と愛液にまみれさせ、 
二つの肉体は敷布の上で、いつ果てるとも知れず乱れ狂った。 
 雲が薄まったためであろう、窓に映る戸外の空気は、前日にまさる明るみを擁し、室内の光景も、 
より明瞭な実相を呈していた。天然の光の中で見るゼルダの体躯は、予想どおりの清らかな白さで 
包まれており、ことさらリンクを感奮させた。 
 
 真昼を過ぎ、さらにしばらくの時が経った頃、リンクは否応なく疲れを実感するようになっていた。 
脳が的確に働かなくなった。油断すると眠りに落ちかかってしまう。ゼルダも同じであるようで、 
リンクの攻めに返していた敏感な反応が、ともすれば鈍麻する傾向を示し始めた。 
 けれども終結とはならなかった。一方の意識が混濁すると、他方が活動して覚醒させる。 
それを交互に繰り返すことで、行為は中断なく続行された。ただし遅滞は免れなかった。 
 夕刻に至って、ついに限界は訪れた。双方の意識がともに混濁してしまい、相手の覚醒を 
促せなくなったのである。 
 まず、ゼルダの体動が停止した。リンクは事態を感知したが、その時にはもう、自分の身体も 
動かせなくなっていた。 
 じきに思考も動かなくなった。  
 
 ゼルダの意識が混濁を脱した時、あたりは暗くなっていた。窓の外はほとんど夜だった。が、 
夕暮れの残光が、まだかすかに空を彩っていた。 
 眠っていたのは、一時間くらいか。 
 うたた寝程度である。とはいえ、ほぼまる一日の饗宴で、これほどの空白が挟まったのは 
初めてだった。 
 二人で何回交わったのか、各々が何回達したのか、全然わからない。確かなのは、自分の達した 
回数は数えようとしても数え切れないほどだった、ということだけだ。 
 横たわったまま、わだかまる疲労と、なおもひたひたと体内を洗う快感とを、虚脱した神経に 
伝えさせるうち、室内の暗さの本態に、ゼルダは気づいた。 
 暖炉の火が消えている。 
 これから何をするにしても、光と温度は確保しておかなければならない。 
 ゼルダは上体を起こした。傍らにあって──完全には眠っていなかったのだろう──横にした 
身体の向きを変えようとするリンクには、敢えて呼びかけず、這って暖炉の前に移動した。 
 火打ち石を手に取る。発火を試みる。手に力が入らず、うまくいかない。 
 後ろでリンクの声がした。 
「ぼくがやるよ」 
 隣に這い寄ってきたリンクに火打ち石を渡す。手間取りなくリンクは作業し、やがて暖炉に 
火は宿った。 
 それで人心地がついた。 
「食事にするわ」 
 空腹が感じられていたのである。 
 ゼルダは衣服を身に着けた。リンクは何か言いたそうな雰囲気を漂わせていたが、しかし 
発語には至らず、着衣に及んだ。 
 前日、ポトフとは別に、作り置きのきく料理を用意していたので、夕食が始まるまでに、 
さほど時間はかからなかった。 
 席上、会話はほとんど生じなかった。リンクは料理を褒めもせず、単調な手つきで皿のものを 
口に運んでいた。不味いと思っているのではないことは、容易に推測できた。味に留意するだけの 
余裕が、リンクの心にはないのである。こちらに注がれる視線の強さが、それを明白に解説していた。 
 リンクの滾りは治まっていない。 
 そして、同じ滾りは、ゼルダの内にもあるのだった。 
 
 夕食は淡々と終わりになった。ゼルダは食器を台所に運んだ。洗い物をする気にはなれなかったので、 
水を張った桶に浸けるだけとした。 
 元の部屋に戻ってみると、リンクが全裸になっていた。たちまち寝床に押し倒され、引き剥がれるが 
ごときの荒っぽさで衣装を奪われた。ゼルダは抵抗しなかった。進んでリンクの行いに身を任せた。 
 任せつつ、思う。 
 なぜわたしは服など着てしまったのか。まるで脱がされるために着たようなものではないか。 
 起きている時には服を着る。そんな常識に、わたしは囚われていたのだ。 
 思いは早々に破られた。仰向けとなっていた身体の上に、リンクがのしかかってきたのだった。 
 股間に割りこまれる。腰をぶつけられる。勃起がまっすぐ突入してくる。 
 いったいリンクの精力はどこまで──と考えるいとまもなく、ゼルダは極点に到達した。 
 あとは、さながら嵐である。 
 男の本能が叩きつけられる。女の本能が感泣する。 
 強襲に次ぐ強襲をリンクは続け、絶頂に次ぐ絶頂をゼルダは得た。 
 時間の感覚が失われた。 
 いつとも知れぬ時点において、リンクが射精を開始した。最高の悦楽に囲繞され、ゼルダの 
意識はまたもや消えた。  
 
 気がつくと、静寂だけがあった。 
 疲労は溜まったままである。頭の中もぼやけている。 
 仰向けの姿勢を変える気力も起こらず、ゼルダは意識だけを泳がせた。 
 真夜中に近い頃だろうか。今度の空白は数時間。失神が睡眠に転じたとみえる。 
 性器の結合は解かれていた。リンクは横で身を投げ出している。やはり眠っているようだった。 
 起こそうとは思わない。ただ、それだと当面、抱いてはもらえない。 
 まだ自分の欲望は尽きていないのか──と、我がことではあるが、あきれてしまう。しかし 
抑制はかからない。 
『いまがだめなら、せめて……』 
 前夜からの経緯を思い起こす。記憶は整然とはしていない。断片の集積でしかない。が、 
個々の断片のいずれにも、鮮やかな印象が刻みつけられている。 
 とりわけ印象深いのは…… 
 背後から攻められた時のこと。最も激しく感じた繋がり方。 
 どうしてあんなに感じてしまうのか。 
 二人が向かい合う体位なら、いくら荒々しく突きまくられても、わたしはリンクを抱きとめ、 
正面から迎え入れることができる。二人で愛し合っていると実感できる。 
 ところが、後ろからだと、わたしは一方的に攻められるだけ。それでもリンクの愛を充分に 
感じはするのだけれど、愛し合っているというよりは、むしろ、支配されるといった感覚なのだ。 
 その感覚は、正しい。 
 男に支配されたい──そんな願望があるからこそ、わたしは感じてしまうのだ。 
 わたしだけではない。たいていの女は、大なり小なり、同じ願望を持っていよう。 
 それをわたしは以前から知っていた。シークである時に知識を得た。アンジュがそうだったし、 
『副官』はもっと端的だった。男を支配するのが常のゲルド族でありながら、シークと交接する 
際の『副官』は、しばしば後背位を好んだものだ。女を相手にする時の志向が受けだったからでも 
あるだろう。 
 とはいえ、所詮、シークは男。知識を有していたに過ぎない。 
 いまは違う。女であるわたしは、その願望を自分自身のものとして理解できる。 
 もちろん、支配されるにあたっては、条件がある。誰に支配されるか、という点だ。アンジュや 
『副官』の場合はシークであり、わたしの場合は…… 
 横を見る。自分の対象がそこにある。 
 女が男を支配しているふうに見えるのが騎乗位だが、リンクに跨った時、わたしは支配する 
どころか、逆に支配されていた。シークに跨った時のアンジュと同じように。 
 騎乗の際ですらそうなのだ。ましてリンクに後ろから攻められたりしたら…… 
 そのリンクの顔。目を閉じて、口を半ば開いて、すやすやと寝息をたてている。深刻なところが 
全くない、無防備ともいえる、安らかな表情。「かわいい」とさえ形容できるような。 
 おかしみが湧いてくる。 
 こんなリンクに、わたしは支配されたがっている。否、「支配」という言葉は変に大仰で、 
何となく抽象的にも過ぎて、眼前のリンクには似つかわしくない。 
 では、他にどんな言葉が?  
 
『犯される』 
 ぞくりとする。 
 それとてリンクに似つかわしい言葉ではない。そこから連想されるのは…… 
 屈辱。 
 おぞましさ。 
 なのに……ああ、なのに…… 
 生々しくも妖しい、その語感。 
 身体の奥が収縮する。 
 そう、わたしは犯されるのだ。這いつくばって。尻を突き出して。獣のような恥ずかしい格好で。 
何もできずに。相手のなすがままになって。 
 そんな屈辱的な状況が、なぜ、わたしを……いや、屈辱的であるからこそ、わたしは…… 
『犯されたい』 
 途端に収縮が連発する。じわりと何かが流れ出す感覚。 
 おぞましいはずの、その言葉が、なんと甘美に響くことか。 
 犯されたい。わたしはリンクに犯されたい。 
 リンクになら……リンクになら……どんな屈辱であろうとも…… 
 衝動が台詞を構築する。口先まで来て台詞は止まる。 
 言えない。 
 自分の思いを少しは口にできるようになったわたしだけれど、そこまで露骨なことは、まだ、 
言えない。 
 頭の中だけで、ささやきかける。 
『犯して』 
 突然、リンクが身を動かした。ゼルダの心臓は跳ね上がった。あわてて身体を半回転させ、 
背中を向ける。 
 目を覚ましたのだろうか。 
 わからない。 
 でも、もし目覚めたのだとしたら、自分の顔を見られたくない。こんな恥知らずなことを 
考えている、ふしだらな女の素の顔を。 
 わかっている。わかっている。見られたところで問題はない。言葉にしてはいないから 
聞こえたはずはない。思いが勝手に伝わるはずもない。ないのだが…… 
 肩に手をかけられる。 
 やはり起きていた! 
 肩に力が加えられる。ふり向かせようとする意思を、ゼルダは頑なに拒絶した。 
 顔を合わせたくない。背を向けていたい。こちらが眠っていると思ってくれないだろうか…… 
 手が肩からはずれた。ほっとする間もなく、手は胴を越え、前にまわってきた。同時に 
もう一方の手が胴と敷布の間に差しこまれ、これも前へとまわされた。 
 両手で胸をいじられる。後ろから。 
 後ろから! 
 わたしはこうして欲しかったのか。背を向けた真の理由はこれだったのか。 
 意識の深部を探ろうとする。 
 できなかった。 
 リンクに弄ばれる乳房の先端が、例の電流を放散し、思考を妨害するのだった。加えて 
背後からは、胸が、腹が、腰が迫ってくる。いつしか勢いを取り戻していた硬直が、臀溝に強く 
触れかかる。 
 息が荒くなる。止められない。これでは眠っていないことがばれてしまう……  
 
 臀溝に沿って硬直が下る。両脚の間にねじこまれる。思わず脚に力が入り、すき間を塞ぐ形に 
なってしまうが、そんな障害をものともせず、硬直は陰裂に到達する。 
 挿入に至らないまま、急速な往復が開始された。陰唇の表面が激しく摩擦された。すでに恥液が 
あふれていて、摩擦に雑感は混じない。快感だけが生まれてくる。臀部の皮膚に押しつけられる 
恥毛のざらつきまでが快かった。 
 ただし最善の位置ではない。 
 ゼルダは少しく腰をねじり、摩擦の部位を調節した。成功した。硬直が陰核をこするようになった。 
「はぁッ!……あ!……んッ!……」 
 とうとう声を出してしまった。もう眠っているでは通らない…… 
『馬鹿だわ! わたし!』 
 自分から腰を動かした時点で、起きてはいないと白状していた。そもそもなぜ、眠っていると 
思わせなければならないのか。恥知らずな願望を気取られないため? この一日の乱行で、 
とうに恥など捨て去ったわたしではないか。犯されたいという願望を、どうしていまさら隠す 
必要がある? ありはしない! わたしはリンクのものだから、何をされてもかまわない。 
そう心に決めたはず! 
 やにわに身体をうつ伏せにされる。上に乗られる。リンクの胸と腹が背に貼りつき、ぐいぐい 
圧迫をかけてくる。乳房は両手につかまれたまま、重みでぐにゃりと変形し、押しつぶされた 
乳首から、激烈な電流が巻き起こる。うなじに口をつけられる。そこにも電流が発生する。 
唇が背中へと下りてゆく。電流が皮表を駆けめぐる。股間への攻めも続いている。左右の腿と 
陰部が囲む小さなすき間に、がんがん刺突が降り注ぐ。 
 ゼルダは閉じた両脚に力をこめ、さらにぴったりと内側を接し合わせた。防護のためではない。 
すき間を狭くすればするほど、そこを無理やり通過しようとする陰茎が、より強い刺激を与えて 
くれるからだった。もう声は止まらなくなっていた。 
 気持ちがいい。とてもいい。とても、とても、いい……けれど…… 
 表面をこすられるだけでは物足りない。中に入ってきて欲しい。でもこの姿勢では不可能だ。 
わたしは横になっている。リンクは上から突いてくる。向きが一致していない。脚を開けば 
どうにかなるかもしれないが、リンクの両脚にがっちりと挟まれていて、開きたくても開けない。 
 いつまでこんな──との焦燥は、リンクの不意の行動で断ち切られた。 
 重みが消える。腰の両側をつかまれる。引き起こされる。 
『やっと!』 
 頭を敷布に沈ませる。尻を高々と持ち上げる。 
 待つまでもなかった。 
「あッ! あぁッ! あぁぁぁああああーーーーッッ!!」 
 剛直が一挙に肉鞘を充たし、続けて内壁を削り立て始めた。 
 猛々しく前後するリンクの腰が、応じて必死で振る尻に、ぱんぱんと音をたてて打ちつけられる。 
『わたしを犯して! めちゃめちゃにして!』 
 いまだ言葉にはできない願いを、心の中で叫び散らしながら、ゼルダは絶頂に向かって 
突き進んでいった。 
 
 
To be continued.  
 

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