明るい──というのが、目をあけた時の第一印象だった。 
 きのうよりも、さらに明るい。暗雲が消えつつあるのだろうが、それにしても…… 
 上半身を起こす。頭の中はぼんやりとしているものの、身体は軽いと感じられた。 
 横を見る。ゼルダはいない。 
「起きた?」 
 そのゼルダの声が、斜め上からやんわりと降ってきた。 
「おはよう──じゃないわね。もうお昼が近いから」 
 昼──ということは、ほぼ半日、眠っていたわけだ。『幻影の砂漠』で遭難した時を除けば、 
冒険を始めて以来、これほど長く熟睡したことはない。きのう、あれだけ放埒な行為にふけって 
おきながら、身体が軽く感じられるのは、充分な休息が得られたからだろう。あたりの明るさが 
目立つのも、日が高くなる頃だからで…… 
「君は……早くから起きていたの?」 
 声の方を見上げて、問う。 
「わたしもさっき起きたばかり」 
 あでやかな笑みとともに、答が返る。 
 落ち着いた声音。生彩がある。ゼルダもゆっくり休めたようだ。が…… 
 視野にある光景に、違和感を覚える。まだうまく稼働しない頭を揺り起こし、違和感の正体を 
探り当てる。 
 ゼルダは服を着ているけれど、着ているものがふだんと違う。紅色が基調の衣装であるはずが、 
いまは胸から脚まで白っぽく見えて…… 
「すぐ食事ができるわ。ちょっと待っていて」 
 ようやく気づいた。ゼルダはエプロンをまとっているのだ。 
 テーブルの上を拭いたのち、ゼルダは台所へと歩いてゆく。目で追いかける。金色の髪が 
背の半ばほどまで流れ落ちていて、エプロンの紐が腰の後ろで結ばれていて、あとは素肌で、 
尻の二つの丸みがきゅっきゅっと揺れて── 
『え?』 
 つまり、これは…… 
 脳が事態を把握すると同時に、股間が勃然と熱を帯びる。熱はぐんぐん高まってゆき、脳も 
きりきりと刺激される。 
 ゼルダが部屋に戻ってきた。湯気のたつ皿を両手で持ち、しずしずとテーブルに歩みを寄せる。 
皿を置く。向きを変える。白い双臀が目を射抜く。 
 裸のままの身体を素早く起き立たせ、再び台所に消えようとするゼルダの背後に迫る。気配を 
察してふり向きかけるのを、両肩をつかんで封じ、 
「あッ!」 
 狼狽の声も無視して、食卓とは別のテーブルへと押しやる。後ろから体重を浴びせかける。 
前にのめったゼルダが卓上に両手をつく。 
「だめよ、スープが冷めるわ」 
「スープなんかより」 
 右の耳に口を寄せ、 
「君さ」 
 ささやいてから、舌を這わせる。 
「ひッ!」 
 小さく悲鳴を発し、きゅんと全身を縮み上がらせるゼルダ。 
「そこ……は……」 
 早くも弾み始めた息の下から、語句の断片がこぼれ落ちる。 
 耳たぶの複雑な凹凸を、ゆっくりと舌でなぞりながら、ぼくは内心、にんまりとする。 
 君の耳が敏感なのは、初日の夜からわかっていた。射精直前になったぼくが、この右の耳に 
口を当てたら、君はいきなり達してしまった。きのうだってそうだ。耳を舐めてやるたびに、 
君は格別の興奮を表していた。だから、いまも…… 
 ふっ──と息を吐きかける。 
「あんッ!」 
 かわいい喘ぎが喉から噴き出す。びくんと肢体が震動する。 
 君は感じている。耳への口接で感じている。 
 だけど、それだけじゃない。 
 ぼくは君の後ろにいる。後ろにだ。君が後ろからされるのが好きなことも、きのう、充分、 
教えてもらった。同じようにしてあげよう。  
 
 高ぶりきった肉柱を、尻の割れ目の下にやる。無論、はなから挿入はしない。君にも準備が 
要るだろう。腿の間に挟みこませ、緩やかに腰を前後させる。入口の表面を摩擦してやる。ゆうべ、 
最後にそうしたとおり。 
 両手を前にまわす。敢えて内には差し入れず、エプロンの上から胸を揉む。布を隔てたその下で、 
すでに乳首は勃起している。撫でて、つまんで、こねくってやる。勃起がさらに硬くなる。 
 テーブルと口づけせんばかりに頭を落とし、喘ぎ続けていた君が、きれぎれに言葉を漏らし始める。 
「……せっかく……スープ……作ったのに……」 
 ゆるゆると首を後ろに曲げて── 
「……それも……立ったままで……なんて……」 
 切ない顔で、切ない声で── 
「……いけないひとね……」 
 何を言う。そもそも君がいけないんだ。 
 君はずっと裸でいて、その美しさにぼくは魅了されっぱなしで、これに優る素晴らしい姿態を 
目にすることなんかできないと思っていたら、裸の上にエプロンだけ着けるなんて奇抜な格好を 
君がするもんだから、ぼくは余計にそそられてしまったんじゃないか。 
 なるほど、君にそういう意図はなかったんだろう。食事の用意をするというだけの目的だったんだろう。 
でも生じた結果の責任は取ってもらう。ぼくの欲望をそそった責任は。だいたい君だって、 
きちんと服を着ずに裸同然でいたのは、いつどうなってもかまわないと思っていたからじゃないのか? 
君もぼくが欲しかったんだろう? その証拠に、恨みがましい台詞を口にしながら君はいっさい 
抵抗しないし、それどころか、ぼくが腰を突き出すのに合わせて君も腰を揺り動かしているし、 
そこはもうべちょべちょで、淫らな液体であふれかえっていて、もちろんぼくの分も混じっては 
いるけれど、君がぼく以上に垂れ流しているのは明らかなわけで、そうだろうゼルダ、君はぼくが 
欲しいんだ、ぼくも君が欲しいんだ、だったら問題はないじゃないか! 
「挿れるよ」 
 ぼくは言う。ことさら露骨に。 
「ん……」 
 君は頷く。微笑みさえ浮かべて。 
 やっぱり、と得心するうちにも君は頭を元に戻して尻を持ち上げ気味にしてぼくを迎える 
体勢をとって、わかったそれなら待たせはしないとぼくは一気に突入する! 
「あぁんッ!!」 
 叫ぶ君。 
「あ!……あぁ……ん……んんん……」 
 叫びが呻きに移行する。呻きは消えずに続いてゆく。ところが一方ぼくときたら、声も出せない。 
動きもできない。君にがっちりとくわえこまれて。 
 何度も挿れた場所なのに、そのたびぼくは思い知る。 
 ここほど素敵な所はない! 
 というのは、そう、いまのように、君が壁面を収縮させて、ぼくを締めつけてくるからで、 
意識してのことなのか無意識なのかは判断がつかないが、締めつけの具合は実に実に絶妙で、 
しかしそんな物理的因子では説明しきれない何かがここにはあって、それが何かはぼくには 
わからない、わからない上で無理にでも言うとするならば、これは、まさに、君が、君で── 
 ぐっと君は尻を突き出す。何をしているのかと咎めるがごとく。 
 そこまでされたら是非もない。ぼくは突く。ぼくは突く。突いて突いて突きまくる。こうやって 
後ろから突かれたい、攻められたいというのが君の願望なんだろうわかってるんだぞゼルダ、 
望みどおりにしてやるさ、攻めてやる、攻めてやる、君をとことん攻めてやる、とか偉そうな 
ことをほざきながら、ぼくの限界は目前だ、君のここでこんなに動いて長もちするはずが 
ないんだった、いってしまう、いってしまう、もうすぐぼくはいってしまう、君もいけ、君もいけ、 
いけ、いけ、いけ、いけ──! 
 いった! いったね! いま君は、随喜の声を張り上げて、総身をぎりぎりと拘縮させて、 
行くべき地点へ行き着いたね! ならぼくも、ぼくの方も、いかせてもらう、いかせてもらう、 
行くべき地点へ行かせてもらう──!!  
 
 快楽の結末は──警告されたとおり──冷えたスープだった。 
 当初、リンクは気後れせずにはいられなかった。承知の上であったとはいえ、ゼルダ手ずからの 
一品を台無しにする形となったからである。欲望を発散させたあとでは、頭の中も冷静となり、 
自分の行動や発想が、いかにも手前勝手であったと省みられた。しかしゼルダは、別段、非難を 
述べるでもなく、大らかな態度で食卓についており、それがリンクを安堵させた。ゼルダだって 
楽しんだのだから、と開き直った気分にもなり、できるだけ負い目は引きずらないことにした。 
 そうしてみて注意が向くのは、やはり眼前のひとである。 
 ゼルダは裸だった。食事を始めるにあたってエプロンを解きはずし、そのまま席についたのである。 
リンクも同様にした。結果、二つの全裸体が向き合ってすわることとなっている。 
 こうしていて思い出すのはアンジュのことだ。全裸で食事をするという同じ体験を──改変前の 
世界においてではあるが──ぼくはアンジュと持ったことがある。ただ、全く同じかというと、 
そうではないと言わざるを得ない。 
 アンジュの振る舞いは自然だった。彼女の気質でもあったのだろうか、裸でいるということを 
自覚していないかのような自然さだった。 
 ゼルダの場合は…… 
 きのうは夕食に際して着衣したゼルダが、どんな心境の変化で裸となっているのかはうかがい 
知れない。が、一見、何を気にするふうもなく、端然と食事を続けている。そこには例の気品が 
まとわっていて、手の上げ下ろしにさえ見惚れてしまうほどだ。のみならず、この明るみの中に 
あっては、白い素肌が昨日にも増して輝かしく感じられ、豊かな乳房は重力の影響を受けつつも 
くっきりと美麗な形状を保ち、やや上向き加減に突出した乳頭がその美麗さをなおさら完璧な 
ものにしていて、ゼルダが身体を動かすごとにそれらもふるふると揺れ撓んで、また、面立ちは 
言うに及ばず── 
「どうしたの?」 
 と問いかけられる。こちらの視線を感じ取ったのだろう。 
「きれいだなあって思って」 
 正直に告げてしまう。告げてしまってからどぎまぎする。いつもなら「別に」とか言って 
ごまかすところなのだが、見えるものがあまりに印象深く、言葉にまで気がまわらなかったのだ。 
「まあ……」 
 目を見張ったのち、 
「ありがとう」 
 と小声で返し、ゼルダはうつむく。顔がほんのりと赤らんでいる。 
 そう、この含羞の物腰だ。何を気にするふうもないと見えながら、ゼルダの仕草のあちこちには、 
自分が裸でいるという意識、ぼくの前でそうしているという意識が、そこはかとなく表れている。 
それがアンジュと違うところだ。  
 
 二人の間には、似て非なる点が、もう一つある。 
 挿入された物の扱い方。 
 ゼルダの塩梅はかなりのもので──前に少し考えたことだが──あるいは、シークであった時に 
経験したアンジュの技を参考にしているのかもしれない。けれども技巧の面ではアンジュの方が 
格段に優っていた。当然だ。アンジュは経験豊富だったのだから。 
 ただしゼルダには──さっきも思ったように──単なる物理的因子では説明できない特性がある。 
その特性が何なのか、説明はできない。男を悦ばせる何らかの物質をそこから分泌しているのでは 
ないか、などと馬鹿げた空想をするくらいがせいぜいだ。それでも敢えて答を出すなら、きのう 
得た結論と同じく、「ゼルダであること」とするしかない。 
『ともあれ』 
 リンクは流動する思考を打ち切った。 
 二人の女性を比べて云々するのは、いい趣味ではない。どちらに対しても誠実とはいえまい。 
特に一方がゼルダとあっては、それこそ負い目を感じてしまいそうだ。 
 女を教われとぼくにアンジュを薦めたのは、いわばゼルダ当人なのだけれど──という 
苦笑めいた感想を最後として、リンクの思いは別方面へと移った。 
 場の雰囲気についてである。 
 裸のゼルダを目の前にして、膣の具合がどうのと助平ったらしいことを考えながら、不思議に 
ぼくは欲情していない。ゼルダの美しさに感嘆はしても、むらむらした気分にはならないのだ。 
 ついさっき交わったばかりだからだろうし、きのうの荒淫の反動がきているのかもしれない。 
しかしそれを考慮に入れても、この場の空気はひとかたならず穏やかで、温かで、安らかだ。 
 昼夜のけじめなるものについて、ぼくは試行錯誤してきた。おとといは昼に夜の要素を 
持ちこみたくなるのをどうにか抑制した。きのうは夜の要素ばかりとなり、一度あった食事の席は 
異様な緊張を孕んでいた。ところがいまは、全裸の二人が、食事という日常生活の一景を、 
いとも静かに構成している。昼夜の要素がうまく混淆されている…… 
「きのうは──」 
 ゼルダが言う。はにかんだ表情で。 
「──凄かったわね」 
「うん」 
 短く応じる。ゼルダが続ける。 
「でも、ちょっと、激しすぎたかも」 
「そうだね」 
 頷いておいて、訊いてみる。 
「今日は、どうする?」 
 ゼルダはかすかに首をかしげ、 
「とりあえず……」 
 嫣然と笑む。 
「横になりたいわ」 
 治まっていた欲情が、じわじわと滲み出してくる。 
「いいね」 
 真昼ではあっても夜の要素を強めようというのが、いまのこの場の流れになった。いや、もはや 
昼も夜もない。望むままに、求めるままに、二人は、あればいいだけだ。 
 リンクは椅子から身を立ち上げた。  
 
 リンクの左手がわたしに触れている。 
 わたしの右手がリンクに触れている。 
 横になり、互いに向かい、互いの腕を交差させ、互いの最も感じる場所を、わたしたちは優しく 
探り合っている。余した手は相手の胸に寄せ、時には口と口を絡め、数点で接触を保っている。 
 穏やかで、温かで、安らかだった食事の席の流れが、淫蕩な色合いを深めながらも、なお、 
よどみなく続いている。まるで雲の上に臥しているかのような、危うくも静かな、この釣り合い。 
 きのうみたいに熱狂した身体をぶつけ合うのもいいけれど、こんな和やかな触れ合いも、また、 
いい。 
 身体を重ね合わせてぐっさりと貫かれるのもいいけれど、少し離れて微妙な触れ合いを楽しむのも、 
また、いい。 
「いい気持ち……」 
 言葉が自然に口から出る。何のためらいも覚えない。この温雅な空気の中では、ためらいなど 
起こるはずもない。 
 それに…… 
(きれいだなあって思って) 
 本人が意識していたかどうかわからないが、そういう種類の評をリンクがわたしに述べたのは、 
あれが初めてのことだった。 
 言葉がなければならないというものではない。前から思っていてくれてもいたのだろう。 
それでも、口に出してそう言ってもらえて、どんなにわたしが嬉しかったか。 
 その喜びが、いまもわたしを酔わせている。 
 こうしていたい。ずっとこうしていたい。ずっとあなたとこうしていたい。 
 ……というわけにもいかないことは、よく承知している。初めは軟らかだったリンクの物は、 
もう、かちかちに固まっている。じきに欲望を言い立ててくるだろう。わたしだって、これ以上の 
快さを期待はしている。が…… 
 リンクが身体を寄せてきた。上に乗ろうという体勢だ。予想どおりの行動。 
「だめ」 
 言ってやる。穏和に。しかしきっぱりと。 
 きょとんとした顔になるリンク。 
 続けて言う。 
「これは──」 
 ぎゅっと硬直を握りしめる。 
「──中へは、だめ」 
「どうして?」 
 リンクの顔が当惑に満ちる。 
「スープの恨みは、晴れてはいないのよ」 
 軽い冗談だ。こだわってはいない。これまでも何度となく行った、互いの手による交歓を、 
今回は単なる前戯にとどめることなく、さらに続けてみたい──と思ったまで。 
 ところがリンクは、しゅんとなってしまった。本気にしたらしい。起き抜けの行動を、 
リンクなりに反省はしていたのだろう。 
 気の毒な感じがするが、面白くもある。ほんとうにリンクは正直だ。考えていることが、 
すぐ顔に出る。「かわいい」と表現したくなる。こんなふうに思うのは、リンクがわたしより── 
ほんの少しではあっても──年下だという認識があるせいかもしれない。 
 そのかわいいリンクに、わたしは幾度も「犯された」のだけれど、いまは、ちょっぴり 
意地悪してやりたくなった。スープの件は、冗談だとは言わず、リンクが受け取ったままに 
しておこう。食事前の交わりでは、わたしだって楽しんだのだから、それを理由に拒絶するのは 
不当なのだが、これくらいの悪戯は許してもらおう。  
 
「ね、リンク」 
 微笑をもって、語りかける。 
「わたし、こうしていて欲しいの」 
 離れかかったリンクの左手を、元の位置に戻す。 
「手で、愛して」 
 リンクの顔にも、微笑が宿る。 
「うん」 
 身体を引いたリンクが、指を動かし始める。これまでの愛撫で、そこはすでに濡れ濡れに 
なっていて、指は滑らかに谷間へともぐりこんでくる。左右の唇を弄ばれる。狭間の奥を掬われる。 
上にある突起に触られる。なんて、なんて、素敵な動き。 
 どうして手でして欲しかったのか、あなたにはわかる? こんな緻密な愛し方は、手でしか 
できないことだからなの。そう、そうやって、わたしのいちばん敏感な所を、一本の指で、撫でて、 
押して、掻いて、次に二本の指で、挟んで、つまんで、こねて、ひと言では言えないそんな複雑な 
操作を、あなたの指はたやすくやってのけられる。わたしをはらはらと解きほぐしてくれる。 
 かと思えば、あなたは指を中に挿れてきて──ええ、指なら挿れてもいいわ──ほんとうの 
交わりのようにずんずんと往復させて、それは長さも太さも本物には及ばないのだけれど、 
あなたは、そう、そういうふうに、ただ往復させるだけじゃなくて、曲げたり、押さえたり、 
ぐりぐりと回したりできるでしょう? しかも鞘の内側にとどまらず、もっと奥の、女の中心の 
中心にある器官のとば口にまで、同じ施しができるでしょう? この玄妙さはとうてい他の 
やり方では味わえないのよ。 
 愛されてばかりではいけないわね。わたしも愛してあげる。手で愛してあげる。あなたの硬い 
男の部分を、握って、こすって、しごいて、とろとろと粘っこい液体を漏らす、すべすべした 
先っぽを撫でて、その裏側をくすぐって、根元にある袋もやわやわと揉んで、どう? リンク? 
感じる? 感じているのね、わかるわ、あなたの荒ぶる呼吸、あなたのとろけた表情、きっと 
わたしも同じ表情をしているんだわ、だってわたしも感じているから、あなたに愛されている 
場所がじりじりとめらめらと感じているから! 
 ああ、腰が動く、動いてしまう、あなたの手の動きに合わせて腰を揺らさずにはいられない、 
あなたの腰も動いている、わたしの手の動きに合わせてあなたの腰も揺れている、二人で触り合って、 
二人で腰を揺らし合って、わたしたち二人とも感じ合って、激しくなる、激しくなる、あなたの 
手捌きが激しくなる、中も外もいっぺんにあなたの指でもみくちゃにされる、だからわたしも 
一生懸命できる限りの速さで手首を振って、振って、振って、振って、あなたの男をしごき立てて、 
わたしの女はかきまわされて、いいわ、いいわ、いってしまう、いってしまう、もうすぐわたしは 
いってしまう、あなたもいって、あなたもいって、いって、いって、いって、いって──! 
「うッ!」 
 とあなたは呻く、あなたは手を止める、ペニスがどくりと脈を打つ、わたしの下腹にぴしゃりと 
何かが飛び散ってくる、それは精液、あなたの精液、わたしが絞り出したあなたの精液、そうよ 
わたしがそうしたんだわ、あなたを手でいかせてあげられたんだわ、嬉しい、嬉しい、とっても 
嬉しい、嬉しすぎてわたしも、ああ、わたしも、わたしも、わたしは、わたしは──!!  
 
 それはリンクにとって思いがけない悦びだった。膣よりもなお精妙なゼルダの手の操りを 
最後まで堪能できたという満足感、そして、ゼルダと身体を触れ合わせていながら敢えて体外で 
射精することの何とはない倒錯感が、リンクを魅したのだった。 
 やがて快感の波は去り、リンクは自らの姿勢を再認した。まだ左手をゼルダの股間に 
差し入れている。自分が達した直後にゼルダが絶頂したことはわかっていたので、それ以上の 
刺激は控え、ゆっくりと手を引いた。 
 左手はどろどろになっていた。 
 行為中、こんなに大量の液体を、ゼルダは漏らし流したのか。あるいは男の射精のような── 
これまでのゼルダにそんな現象はなかったが──絶頂に際しての放出なのだろうか。 
 どちらにしても驚くばかり──と、横たわったまま、顔の前にやった左手を眺めているうち、 
同じく横たわったままのゼルダが、こちらへと目を向けているのに気づいた。 
 見られているのを意識した上で、左手についた粘液を、念入りに舐め取る。薄い酸味とともに、 
あのゼルダの香りが、そこにはほんのりと感知された。 
 舐め終わったところで、ゼルダが行動を起こした。その時までこちらの股間に添わせ続けていた 
右手を引き、下腹を撫で、顔の前に持っていった。意味ありげな視線をこちらに寄せ、指を舐めた。 
指に何がついていたのかは見当がついた。 
「とても、よかったわ」 
 うっとりとした面持ちで、ゼルダが微笑む。 
「ぼくも、よかった」 
 合わせて微笑み、つけ加える。 
「上手だね」 
 本音だった。 
 恥ずかしそうに目を伏せ、ゼルダが呟く。 
「ありがとう」 
 ゼルダに握られた時の著明な快さは、初日の夜から実感してきた。理由となると、やはり 
「ゼルダであること」とするしかなかろうが、いまの手の使い方からみて…… 
「やっぱり、あれかな」 
 こんなことを訊いていいのだろうか──との懸念を覚えつつも、いや、これくらいのことは 
言える間柄にぼくたちはなっているんだ──と確信し、リンクは続けて言葉を送り出した。 
「シークだった時の経験があるから、かな?」 
「そうね」 
 気にする様子もなく、ゼルダは応じた。 
「シークが女の人に接した時、どんなふうにされたか──という記憶は、確かにあるわ」 
「いや、それもそうだけれど……」 
 言い換える。 
「シークが……その……自分一人でした時の記憶で、さ」 
 意味が伝わっていることは、表情から察知できた。が、ゼルダはすぐには答えなかった。 
 しばしの間をおいて発された言は、こうである。 
「シークの時は、しなかったの」 
 意外な気がした。しかし考えてみるに、自慰経験があるとシークが言っていたわけではないし、 
もとより見たわけでもない。自慰について平然と語っていたので、何となく経験者だと思い込んで 
いたに過ぎないのだ。 
 別に奇怪ではない。世のすべての男が自慰を行うとも限るまい。シークの場合は、射精しなかったから、 
とも考えられる。射精は絶頂に必須ではないが、その点が影響していた可能性は否定できない。 
根本的には、シークの中におけるゼルダの存在が原因だった、といえるだろうか。ただ、それにしても…… 
 ゼルダの言い回しが引っかかっていた。 
「シークの時は」というのなら…… 
 こんなことを訊いていいのだろうか──との懸念がまたも湧く一方で、問いつめてみたい 
誘惑にも駆られる。 
 誘惑が勝った。 
「じゃあ、ゼルダの時には、してたってこと? あ、もちろん──」 
 あわてて言い足す。 
「──ガノン城での件は、別としてさ」 
 ゼルダは再び沈黙し、ややあって、目を伏せたまま、ぽつりと言った。 
「一度だけ」  
 
『ほんとうに!?』 
 ひょっとして、とは思ったのだが、知らされてみると、やはり驚かずにはいられない。 
 ガノン城での行為はゼルダの意思によるものではなかった。が、それを除外した上で、なおかつ 
ゼルダに自慰の経験があったとは! 
 シークの発言を思い出す。 
(ゼルダは神様じゃない。一人の女性なんだ。オナニーくらいしても不思議はないだろう) 
 あの時、ぼくは、 
(君はゼルダを知らないからそんなことを──) 
 と食ってかかったが、何のことはない、シークはゼルダを──潜在的に──よく知っていた 
わけだ。ゼルダとしての潜在意識が、シークにあの発言をなさしめたのだ。 
 その節の自分の反応も、いまとなっては苦笑ものだ。「オナニーするゼルダ」というイメージに、 
ぼくは反発して、動揺して、胸を焦がしもして、ずいぶん混乱させられた。いまは違う。ゼルダの 
告白は驚きではあるが、ぼくはそれを素直に肯定できる。なにしろ淫らなゼルダを実際に知って 
いるのだから。 
 肯定できるだけじゃない。妙にわくわくしてくる。追求したくなる。 
「その時、何を想ってた?」 
 真っ赤になった君。でもいやがってはいない。なぜなら君は、伏せていた顔を上げて、潤んだ 
目でぼくを見つめて── 
「あなた」 
 ──と答えてくれる。そうだろう。そうであるはずだ。 
(ゼルダがオナニーする時に、君を想ってしているとしたら) 
 とシークが言ったからには、それが事実に違いないんだ。 
「いつ?」 
「あなたの七年間の封印が解ける、少し前の頃」 
「どこで?」 
「妖精の泉」 
「え?」 
 追求が止まる。止まらざるを得ない。茫然となるぼくに君はにっこりと笑いかけて── 
「あなたが初めてしたのも、そこだったわね。わたしを想って」 
 ああ、君はそれを知っている。ぼく自身がシークの君に話したんだ。で、感想は? いったい君は── 
「そうとわかって、どう思った?」 
「嬉しかった」 
 果たして! これもシークが示唆したとおり! 
「あなたは?」 
「ぼく?」 
「わたしがあなたを想ってしたんだとわかって、あなたはどう思うの?」 
「嬉しいさ!」 
 シークであった君なら知っているはず。だがこうやって、ゼルダの君にはっきりと告げて 
おくのが、ぼくたちの間での筋というものだろう。 
 感動する。妖精の泉。ぼくたちにとっての運命の場所。時こそ違え、かの同じ場所で、互いを 
想って、ぼくたちは初めての慰めを得た。おそらくはその慰めに伴って、君はトライフォースの 
耳飾りを落とし、のちにぼくがそれを拾い上げた。ぼくの信じていたとおり、君がそこにいたのは 
ぼくに先立つことわずかであって、ぼくの七年間の封印が解ける少し前の頃── 
 ちょっと待て、おかしいぞ、迂闊にもいままで気がつかなかったが、その頃の君はシークだったはず。 
シークが耳飾りをしていたわけじゃないのに、どうして泉に耳飾りを落とせた? どうして君に 
慰めができた? 
 ──とリンクが疑問を呈したのに対し、 
「これまで言う機会がなかったの」 
 との前置きのあと、ゼルダの口から経緯が語り述べられた。リンクは驚きをもってそれを聞き、 
そして、深く納得したのだった。  
 
 ──最初は、シークとして南の荒野で修行を始めてから数ヶ月後の、ある夜のことだった。 
 突然、激しい腹痛に襲われたシークは、苦悶の末、意識を失った。気がついてみると、 
ゼルダの姿に戻っていた。ただし衣服は──耳飾りを除けば──シークのままであり、肉体だけが 
変化していたのだった。シークであった時の記憶は保たれていたので、恐慌に陥ることは 
なかったものの、当初はわけがわからなかった。 
 失神していた時間は長くはなかった。が、腹痛は軽減しながらも継続していた。疼痛のみではない 
下腹部の変調を自覚し、着衣を解いて確かめた結果、性器からの出血が見いだされた。 
 初潮だとわかった。いずれ来るべき女の性徴として、インパから教育を受けていたのである。 
 なおも惑いにある中で、一つの事実に、ゼルダは思い当たった。 
 自分はラウルの宿りを受けてシークとなった。つまり、このゼルダへの復帰は、ラウルが 
自分から離脱したことを意味する。 
 思い当たった直後、精神が感応した。いったん離脱したラウルが外面から思念を及ぼし、事態の 
本質を解説したのだった。 
 女であるゼルダが、シークという男として存在する。ゼルダが幼いうちは、それを維持するのに 
問題はなかった。しかし第二次性徴期に入り、爾後も女の性質を深めてゆくとなると、恒常的に 
男の肉体を保つことは不可能である。時には女の姿に戻って、雌性を発散させなければならない。 
一年ごと、というのが、最小限の頻度。よってゼルダは、年に一度、一夜のみを、女の身で過ごし、 
その都度、短時間ではあるが月経を──むしろ「年経」と呼ぶべきか──迎えることになる。 
 ゼルダは了解した。初潮と並ぶ性徴である、ほのかな乳房のふくらみも、この時、認知した。 
 夜明け前となって、ラウルは再びゼルダに宿り、シークの肉体が復元された。シークは 
ゼルダとしての記憶を持たなかったので──言うまでもなく、人の心を読む能力を持った 
ツインローバの追求から、ゼルダとラウルを守るよう、精神活動が制御されていたためである── 
事態の知識は有さず、一夜の意識喪失を、一過性の急性疾患と見なしただけだった。 
 その後の経過は順調だった。年に一度の復帰は、当然、ゼルダを危険にさらすことになるのだったが、 
シークは慎重であり──ゼルダやラウルが内から警告したせいでもあっただろう──自分の奇妙な 
「持病」を把握して、当の一夜を安全に過ごせるよう心がけた。結果、復帰は毎回、特段の障害なく 
行われた。 
 初回の復帰の際、真夜中を過ぎて訪れた日は、奇しくもゼルダ十歳の誕生日にあたっていた。 
すなわちゼルダは、自分の誕生日を、毎年、ゼルダとして迎えることができたわけだった。 
暗い世情に慨嘆しつつも回天への努力を心に期し、リンクへの罪の意識におののきながらも 
尽きせぬ想いに胸を燃やし、ゼルダは一つずつ年齢を重ねていった。育ちゆく肉体への戸惑いと 
喜びも、毎回の復帰にあたっての産物だった。 
 妖精の泉での復帰において、ゼルダは十六歳となった。時の勇者の登場が目前となっていた 
その時、ゼルダは完成していた肉体をもって、リンクへの想いを解き放ったのだった──  
 
 しばらく沈黙を続けていたリンクが、ふと表情を柔らかにし、問いを発してきた。 
「身体を洗う?」 
 体表への射精を慮っているのだろう、と察せられた。手で容易に拭えるほどの量であり、 
気にしてはいなかったのだが、前日の乱行で全身が体液まみれになっていたことも考慮して、 
ゼルダは肯定の返事をした。 
 リンクは立ち上がり、倉庫に入っていった。出てきた時には、タオルと石鹸を手にしていた。 
が、身を起こして待っていたゼルダにそれらを渡すでもなく、そのまま戸口へと至り、ふり返って、 
快活な声を出した。 
「行こう」 
「え? どこへ?」 
「井戸だよ」 
「その格好で?」 
「そうさ、君もおいで」 
 ゼルダは動けなかった。 
 初日のように、水を汲んできてくれるのだと思っていたら…… 
 リンクは裸で外に出ると? わたしにもそうしろと? 
 考えてみれば当たり前。身体を洗うのなら、着衣して出ていっても意味はない。とはいえ…… 
 屋内生活を裸で過ごすについては、一応、抵抗を捨てられたわたしだけれど、まさか戸外にまで 
範囲が広がろうとは── 
「さあ、行こうよ」 
「でも……」 
「平気さ、誰も見ちゃいない」 
 それはわかっている。わかってはいるが── 
「君は妖精の泉で裸になったんだろう? 同じことだよ」 
 違う。あそこは自然の中だった。夜でもあった。だけどいまは── 
『いいえ、同じだわ』 
 リンクの言うとおり、いまの城下町に人はいない。自然の中と変わりはない。となれば、 
昼だろうと夜だろうと関係ない。 
 ゼルダは身を立たせた。そろそろと戸口に歩を寄せる。笑みを保って迎えてくれたリンクは、 
空の方へと視線を移し、 
「雲がだいぶ減って、明るくなったね」 
 と朗らかに言い放つや、その明るみの中へ、一人ですたすたと歩み出ていった。 
 ゼルダは戸口で立ち止まり、リンクに倣って空を見上げた。 
 頭上には、まだ黒い雲がわだかまっていて、直射日光は届いていない。それでも黒さの程度は、 
かなり減じた。視線をハイラル平原の方へと転じれば、澄んだ青空が目に映る。気温も前よりは 
高くなっている。 
「何してるんだい、早く」 
 大きな声で呼びかけられる。リンクが井戸端に立っている。 
 ゼルダは周囲を見まわした。人目はないと知ってはいても、確かめずにはいられない。 
安心できると自分に言い聞かせ、広場の中へと足を踏み出す。ただ、リンクのように屈託なくとは 
いかない。胸と股間を手で覆ってしまう。 
 ようやく井戸まで行き着く。水を汲み上げていたリンクが、変わらぬ笑顔をふり向けてくる。 
「それ、なかなかいいよ」 
「え?」 
「その恥ずかしそうな格好がさ、君らしくて」 
 どきっとし、次いで、じんわりとおかしみを自覚する。 
「いやなひと」 
 リンクを軽く睨みつけ、差し出されるタオルと石鹸を、ひったくるようにして手に取る。 
しかし笑いが出てくるのを抑えきれない。 
 聞きようによっては下品なリンクの台詞。なのに、全然そうとは感じられない。からかいの意は 
表にあっても、根は無邪気で、率直で、純真で…… 
 井戸の水は冷たかったが、ゼルダの胸は温かかった。  
 
 身体を洗い終える頃には、全裸で戸外にいることへの羞恥も、ゼルダの心からは消えかかっていた。 
洗い終えてみると、今度は寝床が気になった。汗や体液がじっとりと染みこんでいる。せっかく 
きれいにした身を、そんな場所に横たえたくはない。寝具の替えはあったので、新しい寝床を 
作るだけならすぐにでもできたが、リンクと話し合った末、この際とばかり、汚れた敷布を 
洗濯することにした。洗濯といっても、敷布を水に浸して揉みこするだけで、あとはせいぜい 
目立つ汚れを石鹸で落とす程度。簡便なやり方である。ただ──井戸水は豊富だったものの── 
盥など、大量の水を溜めておける容器がなかったため、作業は意外に手間取った。 
 腰を曲げて仕事をするうち、同部の筋肉に疲労を覚え、ゼルダは手を止めて、背筋を伸ばした。 
それだけでは足りないと感じ、落ち着ける場所を探した。井戸端に据えられた石材が注目された。 
表面の平たい直方体で、かつてはベンチ代わりに使われていたもののようである。ゼルダはそこに 
腰を下ろし、休まず働き続けているリンクを、静かな気持ちで眺めた。 
 食事の時がそうだったように、日常生活の一場が、裸の二人によって、しかもいまは戸外に 
おいて、穏やかに展開されている。本来なら奇態きわまりないことなのだが、ごく普通の 
情景として、わたしには受け入れられる。 
 これも一緒にいるのがリンクだからこその趣というものだろう。 
 先ほどの会話を思い起こす。 
 自慰についてのやりとり。 
 告白するのは、正直、恥ずかしかった。でも、リンクとあんな話ができるのが、嬉しくもあった。 
わたしたちはこれくらいきわどいことを言い合える間柄なのだ、と実感できたから。 
『言い合える……だけ……?』 
 不意に背筋がぞくりとする。しまっておいた記憶がよみがえってくる。 
 ガノンドロフに強いられた忌まわしい行為。その過程で、わたしは何を思ったか。 
(好きな男の前でなら) 
 身体の奥が収縮する。ゆうべと同じ現象。 
(この場にいるのがリンクとわたしだけだとしたら) 
 そう、わたしとリンクだけ。いま、ここにいるのは。 
(わたしは自ら進んでそれを行えるとでも?) 
 行える? わたしはそれを行える? いま? ここで? 
『できる……かも……』 
 途端に収縮が連発する。じわりと何かが流れ出す感覚。これもゆうべと全く同じ。 
 ぎゅっと両脚をくっつける。流れ出す何かを止めようとして。しかしそんなことでは治まらない。 
締めた部分の奥底で、うずうずと蠢くものがある。 
 そっと右手をやる。腹に。その下に。毛の生えた恥丘の、もっと下に。脚を少し開いて、 
すき間を作って、左右に分かれる秘唇の間の、深く細長い谷間の中に。 
 濡れている。そこは濡れている。愛撫を求めて、刺激を求めて、そこはぬるぬると濡れそぼっている。 
 する? できる? わたしに? それが? 
 する! できる! わたしは! それを!  
 
 わたしは指を動かし始める。さっきリンクがしてくれたとおりの、緻密で複雑で玄妙な操作を、 
わたし自身でなぞってゆく。 
 リンクは? リンクは何をしているの? しゃがんで洗濯している。わたしの方を見向きも 
しないで、熱心に仕事を続けている。気づいていない。気づいてくれない。あなたはそこにいると 
いうのに。ほんの目と鼻の先にいるのに。 
 このままだったらずっとあなたは気づかないかもしれない。ここでわたしがリンクに何かを 
言わない限りは。 
「リンク」 
 聞こえた。あなたはこちらを向いた。ぴたりと体動を止めた。 
「ゼルダ……」 
 あなたは絶句する。凝然となって。わたしの行為をまじまじと見つめて。 
 ぐいと両脚を広げてやる。右手の動きを激しくする。 
 驚いている? もちろんね。あきれている? かもしれない。 
 そう考えたわたしは急に自分の姿を意識してしまう。 
 いったいわたしは何をしているのか。一国の王女であるわたしが。 
 いいえ、いまのわたしは王女じゃない。ただの一人の女に過ぎない。 
 だけどそうであるにしても、わたしの異常さは言を俟たない。日のあるうちから、家の外で、 
素っ裸で、あられもなく脚を開いて、自分をなぶりまくるさまを、堂々と他人に見せつけるなんて、 
どこのどの女がやることだろう。わたしは世界でいちばん淫らな女なのではないだろうか。まして 
自分の愛するひとの、すぐ目の前でこんなことを── 
 違うわ、逆だわ、正反対だわ、愛するひとの前だからこそ、あなたの見ている前だからこそ、 
わたしはこんなことができるんだわ、そうなのよ、リンク、だから、わたしを、見て、見て、 
見てちょうだい── 
 そこで気づく。あなたのペニス。いつの間にか膨らみきって、ぎんぎんと勃起したあなたの 
ペニス。嬉しいわ。嬉しいわ。そうなってくれて。わたしの行為に興奮してくれて。 
 でも、ひょっとして、その調子だと、あなたはわたしに迫ってくる? わたしにペニスを 
使おうとしてくる? それともスープの件があるから、じっと我慢しているつもり? スープの 
ことなんか実はわたし自身、どうでもいいと思っているし、ペニスを使ってもらいたいと 
思わないでもないのだけれど、いまは、むしろ、そうではなくて、この行いを見ていて欲しい。 
 見て。 
「見て」 
 見ていて。 
「見ていて」 
 そして、そして、できることなら、わたしが行うだけではなくて、あなたも、あなたも、 
してちょうだい、してちょうだい、してくれる、してくれる、あなたはペニスをしごき始める、 
わたしと同じことを行い始める、それをわたしに見せてくれる、わたしもあなたに見せてあげる、 
妖精の泉で互いを想って初めて行ったこのことを、いまは同時に見せ合って、見せ合って、 
互いの前で見せ合って、そう、わたしたちはこれくらいきわどい行為を見せ合える間柄に 
なったんだわ、あなたはわたしを想ってしている、だからわたしは嬉しい、わたしはあなたを 
想ってしている、だからあなたは嬉しい、互いが独自にどれほど相手を想っているかを如実に 
示して、じかに相手に触れないでいても最後まで行けるのだとはっきり主張して、行ける、行って、 
いける、いって、わたしはいける、あなたもいって、わたしは、わたしは、いきそう、いきそう、 
いくわ、いくわ、いく、いく、いく、いく──!! 
 いった! いったわ! だから! あなたも! お願い! 早く! 一気にいって! 一気に 
いって! どうか! もう! さあ! いま! あなたは放つ! わたしに放つ! そこから 
びゅんと放たれたあなたの粋がわたしの胸に! わたしはそれを胸いっぱいになすり広げて、 
あなたの愛を胸いっぱいに広げつくして、ああ、ありがとう、ありがとう、ありがとうリンク!!  
 
 リンクは陶酔した。 
 羞じらいを完全に捨て去ったゼルダの姿は、理性的に見るとすれば異常の極みと言うべき 
だったが、この世のものとは思えないほどの美とも感じられた。 
 ゼルダは性に惑溺する一人の女である、と、すでに知ってはいた。それでも、目睫の間とはいえ、 
距離をおいてそのさまを眺めるのは、とてつもない衝撃であり、感動だった。 
 先の話題が発端であることは明白だった。しかし、ゼルダは自らの所感を、言葉のみではなく、 
行動で示したのである。リンクもまた、おのれの所感を、同じ方法で披露せずにはいられなかった。 
逡巡の余地はなかった。 
 相手を直近に置いての体外射精は、先刻、経験したばかりではあったものの、今回は加うるに、 
自身の手をもって達したわけである。なおのこと倒錯感が強調され、いやが上にも陶酔は濃厚と 
なった。 
 行為を終えたのちも、ゼルダの表情には、夢の中をさまよっているかのような色合いがあった。 
ものを言うこともできない様子だった。 
 長い時間を経て、ゼルダは呟いた。 
「ありがとう」 
 曖昧な言ではあったが、リンクは真意を理解できた。 
 それを機に、状況は転回した。ゼルダは胸部の皮膚を清めたあと、敷布を洗う仕事に戻った。 
リンクも中断していた作業を再開した。自然な移行で、違和感は生じなかった。ただ、ゼルダの 
相好は、含羞の色を取り戻しながらも、依然、夢幻的な雰囲気に彩られており、その内面の 
幸福感を、ほのぼのとリンクに想像させた。  
 
 洗濯を終えた時には、空はもう薄暮のしるしを現し始めていた。敷布を乾かしているうちに 
夜となってしまうのは避けられなかったが、天候に大きな変化はないと予想し、外に干しておく 
こととした。 
 ゼルダには夕食の準備という仕事があったため、洗濯物の処理は、すべてリンクが引き受けた。 
倉庫にあったロープを、屋外の適当な場所に張り、広げた敷布を引っかけた。屋内では、替えの 
寝具を倉庫から持ち出し、寝床を作り直した。 
 夕食では改めてスープが供された。今回のリンクは、ゼルダのエプロン姿に胸をどきつかせは 
したものの、その種の行動を控えていたので、心尽くしの一皿を、温かいまま味わうことができた。 
 食事の途中で、ゼルダがスープの感想を求めてきた。リンクは素直に賛辞を呈し、さらに独特の 
風味があることを指摘した。倉庫で見つけた香草を使ったのだ、とゼルダは答え、満足そうな 
笑みを頬に浮かべた。 
「スープのよさにひきかえ──」 
 皿に残ったパンを指でつつき、リンクはため息をついた。 
「──これには困ったもんだね。硬くて噛むのに苦労するよ」 
「そうね」 
 笑みを絶やさず、ゼルダが応じた。 
「軟らかくしてあげるわ」 
 どうするのか、と怪訝に思ううち、ゼルダは椅子を左隣に寄せてきた。食事の間、二人は 
もちろん着衣していなかった。麗しい裸体の接近は、それを見慣れたいまとなっても、なお 
リンクに動悸をもたらした。 
 ゼルダはパンを手に取り、指で一端をちぎり取った。口に入れ、数度、おもむろに顎を 
動かしたあと、目を閉じ、顔を突き出してきた。 
 意図がわかった。 
 動悸の増強を自覚しつつ、リンクは自らも顔を近づけた。 
 口が触れ合うやいなや、ゼルダの唇が開き、ねっとりとした物体が送りこまれてきた。リンクは 
口腔にその物体を受け取った。軟らかさに加えて甘さがあった。唾液による変質と察せられたが、 
唾液自体の味とも感じられた。 
 顔を離すと、ゼルダの笑みは薄まっていた。代わりに夢幻的な色調が強まっていた。 
 問われる。 
「どう?」 
 答える。 
「おいしい」 
 請われる。 
「わたしにも」 
 容れる。 
「うん」 
 パンをちぎって口に含む。噛んでいる間に、ゼルダが身を傾け、右手を伸ばしてきた。すでに 
勃起していた部分を握られる。穏やかにこすられる。リンクも左手をゼルダの秘部に触れさせた。 
潤みを感じ取りながら、唇を合わせる。そっと口中のものを送り出す。 
 再び離れる二つの顔。 
 問う。 
「どう?」 
 返る。 
「おいしいわ」 
 言葉に続けて、ゼルダは立ち上がった。椅子にすわったこちらに向かい、脚を跨いで、右手に 
持った陰茎の上へと、ゆっくり腰を落としてくる。  
 
「恨みは晴れたのかい?」 
 からかうように言ってやる。くすりとゼルダは笑いを戻し、心持ち眉を上げ、鷹揚な口調で 
答弁した。 
「もういいの。ちゃんとスープを飲んでくれたから」 
 腰が下降を継続する。陰茎がずぶずぶと埋まってゆく。ゼルダの尻が腿に接着し、密な結合が 
完成された。 
「ああ……」 
 感に堪えないと言いたげに、ゼルダが悩ましい声を漏らす。こちらの股間もわんわんと唸りを 
あげている。相変わらずの肉鞘の旨味を満喫して。 
 強いて平静に呼びかける。 
「もっと食べる?」 
 放心の表情で、ゼルダが頷く。 
「ええ……」 
 結び合った状態で、口移しのやりとりが繰り返される。 
 摂食と性交の究極的な合一。 
 しかし長くは続かなかった。そのうちゼルダの口は、もっぱら喘ぎを吐き出すだけの器官と化し、 
腰はゆさゆさと運動を始めた。 
 リンクは敢えておのれを動かさず、パンに代えて乳房を賞味するにとどめた。 
「あぁ……あぁ……あぁ……あぁ……」 
 ゼルダの喘ぎが速まってゆく。 
「あぁッ……あぁッ……あぁッ……あぁッ……」 
 少しずつ、少しずつ、強まってゆく。 
「あぁッ!……あぁッ!……あぁッ!……あぁッ!……」 
 声を切迫させ、首に巻きつけた腕を震わせ── 
「あぁッ! あぁッ! あぁッ! あぁッ!」 
 激しく上体をよじらせた末に── 
「んああぁぁぁッッ!!」 
 はたと運動が止まり、ゼルダの全身はぶるぶると痙攣した。 
 緊張は、やがて、解けほどける。 
「ごめんなさい……わたしだけ……」 
 深い息の合間に、言葉が忍び出る。 
「いいさ」 
 耐えて笑みを返してやる。 
「君も、ほんとうは──」 
 ずん、と突きをくれてやる。 
「──これが欲しかったんだろう?」 
 羞じらいが夕焼けのようにゼルダの顔を覆い、そして、問いの形に変化した。 
「くれる?」 
 リンクは勢いよく椅子から腰を浮き上がらせた。 
「あ!」 
 と小さく叫んで手足を絡めてくる裸身を抱きかかえ、挿入を保ったまま寝床へと移動する。 
かがみこむ。ゼルダを仰向けに横たえる。 
「やるよ、欲しいだけ」 
 身をのしかからせる。 
「まだ夜は長いんだから」 
 リンクは活動を開始した。 
 
 
To be continued.  
 

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