寝床での交合は情熱的に推移し、リンクに二度、そしてゼルダには少なくともその五倍の回数の 
──例によってゼルダは正確な数を数える余裕を持たなかった──絶頂をもたらした。次いで 
訪れた心身の弛緩を、二人は素直に許容し、抱き合って眠りについた。 
 ゼルダが目を覚ましたのは、夜が明けて間もない頃だった。起きる気になれないまま横たわって 
いると、やや遅れてリンクが目をあけた。夢心地のうちにまぐわいが始まり、やがて静かに終息した。 
 爾後も二人は怠惰な時間を過ごした。うつらうつらとしながら互いを愛撫し、時おり、 
とりとめのない言葉を交換した。 
 その交換の一つは、半ば睡眠状態にあるリンクが、思い出したように発した問いから始まった。 
「そういえば……君は、ルトに会ったのかい?」 
「ゼルダとして、という意味?」 
「うん……水の神殿で、ルトは……君がぼくのことを好きだって……教えてくれたんだ……だから、 
君と……会ったんじゃないかと……」 
「ええ、一度」 
「そうか……やっぱり……」 
 続きを聞くだけの意識を保てず、まどろみに落ちていったリンクの横で、ゼルダは当時を回顧した。 
 シークであったわたしが、キングゾーラに依頼され、ルトをハイリア湖まで送り届けた時のこと。 
 ルトとともに地下水道を泳ぎ進むうち、年に一度の「持病」が起こり、シークは失神して 
しまった。その夜、発作が来ることはわかっていたので、できるだけ早くゾーラの里を発とうと 
したのだが、ルトが駄々をこねたせいで出発が遅れてしまったのだ。 
 気がつくと、わたしはゼルダの身となって、ルトの手でハイリア湖の岸辺に引き上げられていた。 
ルトは驚き入っていた。当然至極。さっきまで男だった人物が女に変わってしまったのだから。 
 わたしの方は落ち着いてルトに事情を説明できた。秘密が暴露されてしまうことを、発作が 
起こった時点で覚悟していたのだ。 
 相手がハイラル王国の王女と知り、ますます驚いていたルトだったが、次にリンクを話題に挙げ、 
わたしを「恋敵」と見なし、強硬な態度を示してきた。わたしも対抗心を抱いた。当夜、十二歳の 
誕生日を迎えたばかりで、まだ女として熟していなかったわたしに比べ、二歳年長のルトの肢体は、 
もう成人に近いくらい発達していた。それを──しかも全裸のそれを──見せつけられ、劣等感を 
覚えた、という側面もある。 
 ルトは強気だった。リンクとの肉体関係、さらには婚約の経歴を誇示してきた。 
 リンクとの契りが賢者の覚醒に必要な過程であることを、その時のわたしは知らなかった。 
ラウルはそこまで説明してくれなかったし、シークとしても知る機会がなかった。ゾーラの里で 
ルトやキングゾーラと話をした時も、詳細は聞かされなかった。キングゾーラは過去に戻った 
リンクから賢者の覚醒機序を知らされていたはずだが、デリケートな内容なので、第三者である 
シークに話すのを憚ったのだろう。ルトとは口喧嘩をしてしまい──そうなったのも互いが 
相手から「恋敵」の臭いを無意識的に嗅ぎ取っていたせいかもしれない──微妙な話ができる 
雰囲気ではなかった。 
 ゆえに、リンクと契りを結んだというルトの宣告は、大きな衝撃だった。わたしもリンクと 
契ってはいたが、それはまことに「いびつな」行為で、とうていルトの契りには及ばないものだった。 
 婚約の件に至っては、打ちのめされたと言っていい。 
『水の賢者』として神殿に赴かなければならないルトは、リンクと結婚はできない。しかし、 
結婚という手続きの有無にかかわらず、リンクの愛情が──わたしにではなく──ルトに 
寄せられているのなら、その意を尊重すべきである、と、わたしは断腸の思いで結論せざるを 
得なかった。 
 実際には、契りの意義や婚約の虚構性をルトが正直に告白し、身を引いてくれたため、わたしは 
自分の想いを捨てずにすんだ。 
 のみならず…… 
 シークがゼルダであることをリンクには──そしてシーク本人にも──知らせないで、との 
わたしの求めを、ルトは、事情を理解した上で快く聞き届けてくれ、翌朝、ゼルダとしての記憶が 
消えたシークには何も詳細を語らないまま、従容と水の神殿に消えていった。現実世界から 
切り離されるという厳しい運命を受け入れたのだ。その行動は『水の賢者』であるルトの 
「なすべきこと」ではあったのだが、そうと簡単には片づけられない、重い意味を持った 
自己犠牲だった。 
 わたしがいまこうしてリンクと愛を交わせているのも、ルトの献身があってこそ。 
 それを忘れてはならない。  
 
 もちろん、他の賢者たちについても、同じことがいえる。現実世界との繋がりを自ら断ち、 
同時にリンクとの関係にも──その重みは個々により差はあっただろうが──終止符を打たなければ 
ならなかった、という点で。 
 インパは最初から最後まで恬淡と運命に従っただろう。あのインパが──厳しくてぶっきらぼうで 
愛想なしのインパが──どんなふうにリンクと交わったのか、想像しがたい気もする。けれども 
心根は温かい人だった。母親を早くに亡くしたわたしにとって、インパは単なる乳母にとどまらない、 
第二の母親と呼ぶべき存在だった。それは彼女の「息子」であったシークの立場としても深く 
実感できる。シークの初体験に際してインパがとった態度から類推するに、リンクに対しても 
彼女は、その時と同一ならずとも同種の思いやりを示したはずだ。 
 ナボールも立派だった。ガノンドロフの悪行の片棒を担いだゲルド族の一人としてせめてもの 
罪滅ぼしと言い、自分の運命をさばさばと受容していた。セックスに関して貪欲なゲルド女と 
あって、リンクとの交わりでは奔放に振る舞っていたが──シークであったわたし自身もその場に 
立ち合い、あまつさえ彼女と肌を合わせもしたのだが──別れの際、シークに──実はゼルダに 
──向けた「幸せにな」という台詞は、彼女の真情の発露だったと思われる。もともとリンクに 
恋愛感情を抱いていたわけではないだろうけれども。 
 ダルニアについては、詳しいことは知らない。ゲルド族の反乱が勃発して間もない時期、 
シークとしてカカリコ村に滞在している間に、共闘の打ち合わせのため村を訪れた彼女を、 
一、二度、瞥見しただけだ。ゴロン族の族長という立場や、その風貌を思えば、インパの場合 
以上に、リンクとの交わりは想像しがたいが、それだけに、普通の女性にはない葛藤が彼女には 
あっただろうし、リンクとの間でも複雑な想いのやりとりがなされただろう、と推測できる。また、 
族長である彼女なら、賢者たる運命も迷いなく泰然と受け入れたに違いない。 
 サリアは…… 
 見たことすらない。リンクから断片的に話を聞いただけで、詳しい人となりもわからない。 
しかしそんな断片のみからでも、リンクがサリアに抱いている感情は、充分にうかがい知れる。 
リンクはサリアを「かけがえのないひと」と呼び、サリアから貰った『妖精のオカリナ』をいまも 
大事に持ち続けている。リンクの生い立ちを考慮するなら、自然な感情といえるだろう。が、 
その感情は、余人が立ち入ることのできない二人の独特な関係を明確に反映している、と、 
わたしは認めざるを得ないのだ。 
 リンクと初めて会った日に、もう印象づけられていた。 
 わたしを友達に──とリンクが言ってくれた時。 
(リンクにとっては、わたしも、サリアという人も、同じように大切な存在なのだ) 
(いまはそれでいいではないか。それ以上の何かが──わたしが期待するような何かが──さらに 
加わるかどうかは、まだ先の問題だ) 
 と、わたしは自分を納得させたが、その思考の流れは深く心に残った。サリアに関してリンクと 
会話を交わした時のシークが、全く同じ思考をたどったほどだ。それくらい、サリアという人物は、 
わたしの思いの中で大きな比重を占めていた。 
 もっとも、サリアに対するリンクの感情は、愛とは別次元のものなのだろう。 
 リンクに対するサリアの感情については、いまやその本質を知る手だてはないけれども。 
 そう、サリアもまた、賢者としての運命を承引した。子供の身にとっては、あまりにも 
苛酷な運命。彼女の心情を想像すれば──とはいえ想像することすら困難な苛酷さなのだが── 
ただただ、敬服あるのみだ。 
 ──というふうに…… 
 一人の人間としての人生を投げ打たなければならなかった賢者たち。 
 覚醒によってリンクと別れなければならなくなった賢者たち。 
 わたし自身の運命も、決して平坦なものではなかったが、彼女らのことを思えば、わたしは 
以て瞑すべきである。 
 現実の世界にとどまっていられるのだから。 
 なおかつ、リンクとともにあることができて。 
 ルトやサリア、そして、マロンやアンジュなど、賢者以外の面々をも含めた、リンクをめぐる 
女性たちに対し、わたしが抱いた「嫉妬」の情は、折に触れてシークを動揺させた。が、種々の 
葛藤を経た末、シークは──すなわちわたしは──ある境地に達した。 
 リンクと彼女たちの間には、常に──賢者にあっては覚醒という目的をも超えた──真摯な 
触れ合いがあった。双方が貴重な収穫を得た。 
 それを否定してはならないし、否定しようとも思わない。素直に肯定できるのだ。 
 ただ……  
 
 わたしがこれほど平らかでいられるのは、たとえ「いびつな」形であれリンクと初めて 
結ばれたのはわたしなのだ、という意識があるからだし、また、わたしはリンクに愛されている、 
との真実を、いまにして確保できているからなのだけれど…… 
 回顧に端を発した思いの拡散を、現在の幸福に終結させ、いつしか近寄っていた微睡の澱みに、 
ゼルダはおのれを沈めようとした。 
 沈められなかった。 
 何かが心の中にある。 
 何だろう。 
 探る。 
 一つの概念が浮かび上がる。 
 ──覚醒によってリンクと別れなければならなくなった賢者たち。 
 ──リンクと別れなければならなくなった。 
 ──別れなければならなくなった。 
 それが・自分にも・密接に・関係した・ことのように・思われて── 
 なぜ? 確かにわたしは賢者だが、覚醒したのちも、こうしてリンクとともにいられるではないか。 
 わたしは、本来、ガノンドロフを封印するという役割を持っていたがゆえに──実際には 
筋書きが大きく変わったものの──現実世界にとどまっていられる。いや、とどまるよう 
運命づけられている。他の賢者たちとは事情が異なるのだ。 
 しかし、ならば、どうして── 
「トライフォースは──」 
 リンクが言葉を発した。おぼろげな声だったが、ゼルダにとっては意表外で、自ずと思考は 
中断した。 
「──どうなったのかな?……ガノン城の、上空には……なかったみたいだけれど……」 
 思考をそちらにねじ向ける。 
「あるべき場所にあるわ」 
「……どこ……?」 
「聖地」 
「ああ……そうなのか……」 
 ぼうっとしたリンクの顔。それでも腑に落ちた様子ではある。 
「見てみたいな……」 
「あとで行ってみる?」 
「うん……そうしよう……」 
 望みを告げて気が緩んだのか、リンクは何度目かのうたた寝に入っていった。 
 ゼルダは目をあけたままでいた。眠気はすっかり吹き飛んでいた。その原因となった思考には 
戻りたくなかった。敢えて現時点の思考に固執した。ところが、そうするうちに、今度は新たな 
思考がゼルダの脳を侵蝕し始めた。 
 聖地。時の神殿の、剣の間から、長い階段を下った先にある、その場所。 
 時の神殿。 
 そこへ赴くという行為が、何か大きな意味を持っているように思われる…… 
『そんなことはない』 
 時の神殿は、『時の賢者』であるわたしにとって、確かに意義深い場所といえる。が、そこへの 
訪問に実質的な意味があるとは考えがたい。 
 他の賢者たちは、覚醒するのに神殿という場が必要だった。けれども現実世界にとどまる 
わたしの場合、覚醒は神殿という場には囚われない。事実、わたしは、四日前の夜、いまいる 
この場所で、リンクに抱かれて、『時の賢者』としての真の覚醒を得た。これから時の神殿に 
行ったところで、なんら影響は受けないはずだ。 
 受けないはず……なのに…… 
 中断させていた思考までが、新たな思考と組み合わさり、脳の中を浸透してゆく。その浸透を 
阻もうと努めながら、自分はそこで重要なことを知る手筈になっている、という予感をも、 
ゼルダはひそかに抱いていた。  
 
 二人で軽い昼食を取ったあと、ゼルダは衣服を身にまとった。久しぶりに髪を結い、額冠を 
装着した。肩当てと手袋は言わずもがなである。中途半端な格好で神聖な地を訪れるのは憚られた。 
もちろん裸で行くなど論外だった。 
 見習ってか、リンクも神妙な態度で着衣した。万が一の危険を慮ってのことだろう、マスターソードと 
ハイリアの盾をも背に負った。 
 二人は戸外に出、時の神殿へと向かった。神殿は宿所から遠からぬ場所にある。近辺に地割れは 
存在せず、行程に障害はなかった。 
 天候も上々だった。暗雲の占有範囲は昨日よりもさらに狭まり、また雲の中にも途切れがあって、 
時には太陽を目にすることができる。七年ぶりに生の日光が城下町を照らしているのだった。 
 空を見上げたリンクが、喜びの意を口にする。 
 対して、ゼルダは純粋な喜びに浸れなかった。心の中に緊張があった。進むにつれて緊張は 
強まり、目標の前に至って、それは最大となった。 
 地震により破壊の極みに陥った城下町の中で、時の神殿だけは、以前からの荘厳な佇まいを 
いささかも損なうことなく、超然とそこに建っていた。相当、造りが堅固であるのだろう。 
あるいは、先に張られた結界が、防壁の役割を果たしたのかもしれない。ただ、その不変さが 
何かを主張しているようにも、いまのゼルダには感じられた。 
「どうしたの?」 
 こちらの緊張を察したらしく、リンクが怪訝そうに訊いてくる。 
「いいえ、別に……」 
 何気ないふうを装い、入口へと歩を進める。リンクと並んで短い通路を過ぎ、吹き抜けの 
部屋に出る。シークからゼルダへと変じた際、おそらくはラウルの覚醒に伴って保持されていた 
明るみはすでになく、室内は単調な薄暗さに占められていた。 
 ゼルダはおのれを監視した。 
 何も変化は起こらない。 
 緊張が一気に解けてゆく。 
 そう、何も起こるはずはない。 
 が…… 
 ならば、あの予感は何だったのだろう。 
 去り残る緊張の切れ端を自覚しながら、それでもかなりの程度に心を安んじさせ、ゼルダは 
リンクとともに、開いた『時の扉』をくぐり、剣の間へと足を踏み入れた。 
 心が逸るのか、リンクはわき目も振らず、つかつかとマスターソードの台座に歩み寄った。 
近くの床に開いた穴の縁で立ち止まり、奥を注視している。少し遅れて追いつくと、リンクは 
ふり向き、真剣な表情で、左手を差し出してきた。応じてゼルダは右手を出した。二つの手が 
繋がれた。 
「行こう」 
 リンクの抑えた声に、頷きを返す。  
 
 下降を開始する。 
 無限とも思える長さの螺旋階段。かつてシークとしてここを下りた時は、全くの暗黒だったが、 
今回はカンテラを用意してきている。リンクの右手に掲げられたそれは、頼りない光量では 
あるものの、歩行に支障のない程度には、足元を明るくしてくれている。 
 狭く細長い空間に、足音だけがこだまする。会話は生じない。リンクの表情はいよいよ真剣さを 
増し、前途にあるものへと関心を集中させているさまが明らかである。その真剣さに影響され、 
ゼルダの心も張りつめてゆく。 
 完全体のトライフォースを見るのは初めてなのだ。リンクも。そして、わたしも。 
 やがて、それは、現れた。 
 黄金の三角形。 
 三つの頂点に、より小さな三つの三角形が配置されている。しかし相対的には小さなそれらでさえ、 
手の甲に宿っていた時とは比べものにならない大きさだ。全体となると自分たちの身長をも 
上まわっている。 
 圧倒的な存在感。 
 二人は無言で佇立していた。 
 沈黙の陰で、ゼルダは思う。 
 わたしたちは何をしなければならなかったか。世界は何を経なければならなかったか。 
 この単純な図形のために。 
「これが……」 
 リンクの呟きが、沈黙の中にこぼれ落ちる。 
「……触れた者の願いを、かなえてくれる、と……君は……言ったけれど……」 
 完結に至らないまま、呟きは途切れた。 
 試みに、問う。 
「触れてみるつもりはありますか?」 
「ぼくが?」 
 さも心外といったふうに、リンクが語調を強める。 
「とんでもない。ぼくなんかが触れたら、また世界はめちゃくちゃになるよ。触れる資格のある 
人がいるとしたら、それは君さ」 
 首を振る。 
「わたしにも、そんな資格はありません」 
 静かに、続ける。 
「トライフォースに触れる資格を持つ人など、いまのこの世には、一人もいないでしょう。 
のみならず、未来永劫、現れることはない──と、わたしは思います」 
 再び場にわだかまった沈黙を、ややあって、リンクの声が引き取った。 
「そうだね」  
 
 自らの抱いた感慨を、心の中で繰り返しつつ、ゼルダは階段を登っていった。リンクも同様に 
感慨を噛みしめているようだった。下りの時と同じく、会話は交わされなかった。 
 剣の間に戻って、ようやくリンクが口を開いた。 
「誰も下へ行けないようにしておかないといけないね」 
 同意しかけて── 
 愕然となる。 
 七年前、リンクがマスターソードを台座から抜いたために、聖地への道は開いた。その逆を 
行えば、道は閉じられる。けれども、それだと…… 
 リンクは過去へ戻ってしまう。そして、道を完全に閉じておこうとするなら、マスターソードを 
台座に置いたままにしておかなければならない。リンクは過去に居続けなければならない。 
二度と再びこの未来の世界へは帰って来られない。 
『まさか……』 
 思考が崩壊寸前となった時── 
 リンクが言葉を継いだ。 
「といって、マスターソードを台座に刺すわけにはいかないし……」 
 思案げな、しかし何の迷いもない様子。 
 惑乱は治まった。 
 リンクにその意思はない。過去へ戻ろうなどとは思っていない。 
 だいたい、リンクが過去へ戻ったら、それこそ大変なことになる。ガノンドロフが暴威を 
振るっている世界の真っ只中に放り出されるわけだ。どうしていまさらリンクがそんな目に 
遭わなければならないのか。必然性は全くない。 
 ないのだが…… 
 では、どうする? トライフォースを誰の手にも触れさせないようにするには…… 
「『時の扉』を閉じられないかしら」 
 咄嗟の思いつきを口にする。 
 リンクは首をかしげながらも、 
「やってみようか」 
 と言い、出口に向かって歩き始めた。あとに従い、吹き抜けの部屋に出る。リンクは足を止め、 
『時の扉』に向き直った。懐から『時のオカリナ』が取り出され、『時の歌』が奏でられた。 
 扉が動く気配はない。 
 次にリンクは石板の前へと移動し、左側に填められた『森の精霊石』に手をかけた。 
 微動だにしない。 
 残る二つの精霊石も、同じく不動を保っている。 
「七年前の世界でも、一度、こうやって試したんだ。その時もやっぱり扉は閉まらなかったよ」 
 肩をすくめるリンクに応じもせず、ゼルダは再び剣の間に入り、台座へと身を近づけた。 
 代わりの剣をここに刺しておけば…… 
 だめだ。マスターソードの代わりになる剣などあるはずもない。 
 となると…… 
「大きな岩でも運んできて、穴を塞いでしまえばいいんじゃないかな。人手が要るから、 
いますぐにはできないけれど」 
 背後に寄ってきたリンクが、安閑とした口ぶりで提案する。 
 それが妥当な方法だろう。あるいは『時の扉』の方を塞いでしまうか。神殿そのものを封鎖して 
しまう手もある。 
『でも……』 
 緊張が、惑乱が、またもじわじわと湧き出してくる。 
 そんな安直な方法でいいのだろうか。そんなことでわたしの責任は果たされるのか。  
 
『責任?』 
 
 ──ゼルダも責任を負わなければならない。 
 
 何の責任? わたしは何を考えている? 
 
 ──ゼルダにも、世界荒廃の原因の一端があると見なしうる。 
 
 それはわかっている。不幸な偶然とはいえ、自らトライフォースを手に入れてガノンドロフに 
対抗しようとしたわたしの浅はかさが、この悲劇の引き金となった。だが、ガノンドロフを倒した 
ことで、責任は果たされたのではないのか。それ以上の何がわたしに求められているというのか。 
 
 ──この七年の間に、ガノンドロフのせいで命を落とした人も多いわけで…… 
 
 そのこと? 
 
 ──過去の改変によって助かった人がいる、といっても……それはやっぱり、死んだ人の 
ごく一部でしかないわけで…… 
 
 そして一人の人間としての人生を投げ打たなければならなかった賢者たち! 
 そこまでの責任をわたしが? けれど、もう── 
 
 ──この未来の世界でいくら頑張っても、もう取り返しのつかないことが、いっぱいあるんだよね。 
 
 そう、取り返しのつかないことなのだ。この未来の世界だけの話ではなく、たとえリンクが 
過去へ戻ったとしても、それ以前に起こった──トライフォースをガノンドロフの手に委ねて 
しまったという──悲劇の開幕は防げない。絶対に不可能だ。わたしにはどうしようもないこと── 
『違う!』 
 そうではない! そうではない! そうではない! 
 わたしにはできる! わたしにはそれができるのだ! 『時の賢者』として──ああ、やはり 
時の神殿はわたしに影響を及ぼした──いまこそ真に真の覚醒を得たわたしには! 
 知る手筈になっていた重要なこととはこれだったのだ! 
 しかし…… 
 しかし!! 
 
「いやッ!!」 
 叫びが口からほとばしる。 
「そんなのいやよッ!!」 
 蒼惶とふり返る。 
 そこにあるひとしか見えなかった。  
 
 リンクは喫驚した。 
 いきなり叫びをあげたゼルダが、唐突に向きを変え、恐ろしい何者かに追い立てられてでも 
いるかのような強迫的な表情で、瞬きもせず、こちらを射抜かんばかりの激した視線を 
送りつけてくる。顔がわなわなと震えている。 
 こんなゼルダを見るのは初めてだ。ガノンドロフとの戦いの時でさえ、これほど取り乱しは 
しなかった。 
 何があった? いったい何が「いや」なのだと? 聖地への道を岩で塞ごうというのが 
気に入らないのか? 
 とは思えない。その程度のことなら、こんなにうろたえはしないだろう。 
 では何が? 
 ゼルダが足を動かした。一歩、一歩、近づいてくる。強迫的な表情を保ったまま、口だけが 
一つの語を発し── 
「リンク……」 
 語は強く繰り返され── 
「リンク!」 
 君は歩みを速めてまっすぐぼくに接近してきて、両腕を首に固く巻きつけてきて、顔を目の前に 
突きつけてきて── 
「わたしを離さないで! ずっと一緒にいて!」 
 もちろん離したりなんかするもんか。でもどうして君は急に── 
 疑問が脳内で渦を巻く。ところが言葉は出てこない。君のあまりの豹変ぶりに。 
 次の瞬間、言葉を出したくても出せなくなった。 
 口を吸い立てられる。舌を突っこまれる。唇を噛まれる。がつがつと貪られる。 
 攻撃的な接吻をどうにか受け止めながら、押しつけられる身体を腕で抱き支えながら、否応なく 
興奮する頭の隅でぼくは考える。 
 君の口調は時に応じて変化する。七年前の出会いの日から感じていた。 
 王女としては、丁寧に。一人の女としては、より親しみをこめて。 
 意識してのことなのかどうかはわからないが、明らかにそんな傾向がある。 
 この神殿で、君は王女だった。口調だけでなく、態度全体がそうだった。 
 ついさっきまでは。 
 ところがいまの君は王女ではなくなってしまって、つまり一人の女に戻ってしまったわけで── 
 口が離れる。ぼくを凝視する君。切迫した表情は変わっていない。 
 その顔が不意に見えなくなった。首にまわされていた腕がほどけた。どうなったのかというと 
君は床に膝をついて、ぼくの服の下に手を入れてきて、あわただしく股間を探って、下着から 
ペニスを引きずり出して、握って、こすって、あまつさえそれを口に──! 
「うッ!」 
 呻くだけのぼく。抵抗できない。声もかけられないし身を避けもできない。できるはずがない。 
君がここまでしてくれているのだから。 
 君は欲情している! 一人の女となって!  
 
 しかし、ここで? 
 各地の神殿で種々の行いをしてきたぼくだけれど、ここ、時の神殿には、他の神殿とは一線を 
画した、身を正さずにはいられないような厳しげな雰囲気があって、君がここへ来るのに衣装を 
整えたのもそれを考慮したからだろうに、ここでこんなことをしていいのだろうか、いや、 
こういう場所だからこそ逆に興奮が高まるのか、ぼくが抵抗できないのもそんな意識があっての 
ことか、君の突然の欲情もそれが理由なのか、そうなのか、それだけなのか、それだけでは 
ないような気もするが、もはや考えがまとまらない、キス以上に攻撃的な口の使い方をいまの君は 
していて、あっという間に最大となったぼくの部分を、まだまだ足りないと言いたげに君は舐めて、 
しゃぶって、くわえて、ひたすら口で焚きつけてきて、跪く君の熱烈な奉仕をぼくはただ 
甘受するだけで、このままだとぼくは、もうすぐぼくは、ぼくは、ぼくは、だがこうなったら、 
こうなったら、甘受するだけでは治まらない、君の頭をつかんで固定して、ぼくは腰を動かして、 
激しく前後に動かして、動かして、動かして、動かして、続けて最終段階に入ろうと── 
 ──したところで君は顔をもぎ離す。なぜここまできて、というぼくの内心の憤懣を見透かした 
ように、君は立ち上がり、服の裾をまくり上げ、股間を覆う小さな布に手をかけて、一気に 
引き下ろして、左右の足を抜いて、手に残った布を横に放り出して、これと同じ行動を君は 
ガノン城でもしていたけれど、意に反する強制下だったあの時とは違って、いまは全くの 
自由意思でそうしているのであって、つまり君がそこに──垂れ落ちた裾に隠されて直接は 
見えないもののその服の下で露出されている部分に──ぼくを欲しがっているのは明らかで、 
それは── 
「して!」 
 ──という君の要求でも証明されるが、その言葉にぼくは驚いてしまって、しかし驚きは 
それにとどまらない、君はくるりと背を向けて、再び床に両膝をついて、前かがみになって、 
裾をからげて尻を丸出しにして、両肘も床につけて四つん這いになって── 
「やって! リンク!」 
 ──と大声で呼ばわる。 
 現実か? これは? 
 裸の君は素晴らしい。エプロンだけの君も素敵だ。ところがいまの君は王女の姿のままで 
尻と秘所をさらして這いつくばっていて、しかもこれまで喘ぐ他にはせいぜいぼかした言い方しか 
しなかったのがにわかに露骨な言葉を使い始めて、がんがん頭を殴られるような衝撃をぼくは 
受けてしまって、でも君がそこまで言うのならぼくのすべきことはただひとつ、君に身を近寄せて、 
腰を落として、膝立ちになって、両手で君の尻に触れて── 
「あぁッ! 早くッ! 早くきてッ!」 
 ──それだけで悶える君に凶暴な意思さえ覚えながら、尻に添えた手に力をこめ、後ろから、 
そう、君の大好きな方向から、いきり立ち続けているぼく自身を── 
「リンク! お願いッ! 早くッ!」 
 ──すでにてらてらと欲望の潤みを照り輝かせている君の秘裂にひたりとつけて── 
「そこッ! そこにッ! そこにきてぇッ!」 
 ──いっそう乱れる君の哀願に応えようとして、はたとぼくは思いとどまる。  
 
 きのうのスープの件。あれはゼルダがぼくをからかったのだ。その仕返しをしてやろう。 
「そこって、どこ?」 
「そこよ!」 
「『そこ』じゃわからない」 
「わかるでしょう?」 
「わからないね。ちゃんと言ってくれないと」 
「言えないわ」 
「言って」 
「だめ!」 
「なら……」 
 腰を引く。 
「だめッ! 離れないでリンク!」 
「どっちも『だめ』だなんて、わがままだな」 
「あなたの方こそいけないのに」 
「そうさ、ぼくは『いけないひと』で『いやなひと』なんだよ」 
「でも……ああ、でもッ!」 
「挿れて欲しい?」 
「挿れてッ! お願いッ!」 
「じゃあ、どこに挿れて欲しいか言って」 
「だからそこッ!」 
「『そこ』じゃわからないって」 
 尻から手を離す。完全に接触を断つ。 
「ああぁッ! 待ってッ! 挿れてぇッ!」 
「言ってくれたらね」 
「言わせないでッ!」 
「言って!」 
「ああぁぁッ! そんなッ! そんなことッ!」 
「言うんだ!」 
「あッ! そんなッ! あぁッ!」 
「言うんだゼルダ!」 
「ああ! お! あ!」 
「さあ!」 
「おお! お!──」  
 
 ついにその名が叫ばれる! 
 刹那、君は息を止め、びりびりと全身をわななかせる。 
 達したんだ! 
 ぼくが手を触れてもいないのに、自分の言葉だけで君は行き着いてしまった! 
 いたぶりを重ねるうちに膨れ上がっていた高揚感が、限界ぎりぎりに到達する。 
 君は言ってくれた。今度は望みをかなえてやる番だ。 
 尻に手を戻す。勃起を「そこ」に触れさせる。 
 間をおかず奥まで突き挿れる! 
「ああーーーーーーッッ!!」 
 絶叫する君。緊縮する肉襞。ぎりぎりと締め苛まれるぼくの分身! 
 すぐにも漏らしてしまいそうになるほどの快美感と必死で戦い── 
「ああぁぁぁッ! きてくれたのねッ! リンクッ! 嬉しいッ!」 
 ──できる限りの慎重さで抽送を開始するぼくの耳に── 
「いいッ! いいわッ! してッ! もっとしてッ!」 
 ──立て続けの絶頂にもかかわらず止まる気配のない君の叫びが── 
「突いてッ! 犯してッ! いかせてッ! もっともっといかせてぇッ!」 
 ──たががはずれたように口から吐き出される君のものとは思えない言葉の連続が── 
「あーーーぁぁあんッ! いくッ! いくわッ! ああぅあぁあッッ!!」 
 ──神聖な空間にきんきんと反響しつつ突き刺さってきて── 
「あぁぁッ! いいのッ! よくって死にそうッ! たまらないわッ!」 
 ──加えてそれを発しているのが王女の姿の君であるという事実にぼくは── 
「でもまだよッ! もっとやってッ! わたしをめちゃめちゃにしてッ!」 
 ──煽られて、駆り立てられて、とても慎重ではいられなくなって── 
「そうよッ! そうしてッ! 離さないでッ! 絶対絶対やめちゃいやよぉッ!」 
 ──しゃにむに腰を動かし続けるしかなくなって、その果てにある終点を── 
「ぅあッ! あぁぁあぁあッ! いきそうッ! またいくぅッ!」 
 ──目指すしかない、止められない、ぼくは止められない、いくしかない! 
「いってッ! あなたもッ! 一緒にいってぇッ!」 
 ──いこう! いくよ! ゼルダ! 一緒に! 
「だめッ!! もうだめぇッ!!」 
「ゼルダ!!」 
「リンク!!」 
 
 射精開始と同時に膣が激越な痙攣を起こした。陰茎が潰れそうになるほど強烈な圧迫だった。 
その圧迫に抗して次々と精弾を発射させながら、ゼルダの喉から噴出する遂情の叫喚を、リンクは 
満足のうちに聞き取った。 
 声は次第に消えてゆき、硬直していたゼルダの肢体も、やがて緊張を失った。がくりと頭が 
床に落ち、あとは無反応となった。 
 余韻という言葉では足りないくらいの陶酔を満喫するため、しばらく体勢を維持していた 
リンクだったが、行為中は意識もしなかった腰と膝への負担をふと感知し、ゆっくりと自分を 
撤退させた。 
 支えていたゼルダの腰が、へたりと床に沈みこむ。 
 うつ伏せとなったその身の上に、リンクもおのれの身を覆いかぶせた。 
 ゼルダが意識を取り戻すまで、そうしているつもりだった。 
 離れていたくなかった。  
 
 帰途、ゼルダはひと言も口をきかなかった。神殿での狂態が嘘のような静かさだった。宿所に 
着いても態度は変わらず、椅子にすわってうつむいているばかりだった。 
 自分がゼルダに強いた行為は限度を超えていたのではないか──とリンクは反省し、口ごもりつつ 
謝罪を述べかけたが、ゼルダは首を振り、 
「違うのよ。ちょっと頭痛がするの。少ししたら治ると思うから、気にしないで」 
 と弱々しく言っただけで、再び沈黙に戻った。 
 頭痛というのが方便であることくらいはリンクにもわかった。が、では何がゼルダを沈黙させて 
いるのか、と考えてみても、これといった答は出てこないのだった。 
 自らが示した狂乱ぶりを恥じているというふうでもない。敢えて言うなら、何かを思い詰めて 
いるような雰囲気が感じられる。 
 ともかく、当面は、そっとしておいた方がいいだろう。 
 リンクは戸外に出た。ぶらぶらしていてもしかたがないので、前日から干しっぱなしに 
なっていた敷布を取りこみにかかった。途中、思いついたことがあった。仕事を中断し、地割れが 
ある所まで足を伸ばしてみた。 
 底を覗くと、以前にあった赤みは薄まっており、黒々とした部分がわずかに点在していた。 
先のゼルダの予想に違わず、熔岩が冷え始めているのだった。 
 この調子なら、あと、二、三日もすれば、向こう側へ渡れるようになるだろう──とリンクは 
推測し、先に抱いた思いつきを、さらに発展させてみた。 
 ゼルダの態度が急変したのは時の神殿に入ってからだが、その前からすでに様子が変だった。 
神殿に向かっている時だ。天候の改善をぼくが喜んでみせても、ゼルダはあまり嬉しそうな顔を 
しなかった。 
 実際、嬉しくなかったのだろう。二人きりの休暇は終わりかけている。ゼルダはそれが 
「いや」だったのだ。あの狂乱も、もっとこうしていたいと願うあまりの暴走だったのだ。 
 気持ちはよくわかる。ぼくだってこの休暇を終えたくはない。いつまでもゼルダと二人きりで 
過ごしていたい。 
 けれども、そうはいかないのだ。 
 ゼルダには、なすべきことがある。王女として──いや、今後は女王として──ハイラルを 
治めてゆかねばならない。ぼくとの関係も、いまのように奔放に、とはいかなくなるだろう。 
 だが…… 
 ゼルダの立場がどうなったとしても、ぼくとの関係が消えてなくなるわけではない。二人の愛に 
揺るぎはない。できる限りの方法で、関係を、愛を、深めてゆけばいい。 
 リンクはおのれを力づけた。 
 
 宿所に帰ると、ゼルダは沈黙状態を脱していた。 
「もうよくなったわ。ごめんなさい、心配かけて」 
 親しげで、安らかで、朗らかだった。心がかりを吹っ切ったという感じである。 
 残り少ない休暇を堪能すると決めたらしい──と察し、リンクは自分の思いの内容を告げない 
ことにした。 
 時は夕刻に近づいていた。ゼルダは夕食の仕度に取りかかり、リンクは中断していた仕事に 
戻った。屋内に持ちこんだ敷布は山をなし、それらを畳んで倉庫にしまうのは、けっこう 
手のかかる作業だった。 
 夕食は着衣のままで行われた。それまで着続けていた服をわざわざ脱ぐのもおかしな気が 
したからだが、何となく落ち着かない。裸でいるのが当たり前という感覚になっているな──と、 
リンクは胸中で苦笑した。 
 ゼルダの方は、別段、戸惑ってはいないようだった。例の気品ある物腰で食事をし、明るい 
表情で種々の話題を出してくる。その話題に応じながら、しかし表に見えるものだけが真理では 
あるまい、とリンクは思った。  
 
 案の定、食後となって、ゼルダの態度は一変した。 
 台所へと食器を運んだのち、部屋に戻ってきたゼルダは、リンクの見ている前で──後ろを 
向けとも言わず──次々と衣装を脱ぎ捨てた。瞬く間に全裸の美体が現れた。胸や股間を隠す 
こともなく、むしろそれらを見せつけるような格好で、ゼルダはリンクにも脱衣を迫った。 
リンクは従った。暴走の再開が予期された。 
 予期された以上だった。 
 リンクが最後の肌着を取り去るやいなや、ゼルダは身体をぶつけてきた。文字どおりの衝突で、 
リンクは寝床に尻餅をついてしまい、あとはただ、詫びもなしにのしかかってきたゼルダを、 
仰向けとなって抱きとめるしかなかった。 
 陰茎がゼルダの手に握られた。そこは脱衣の過程ですでに勃起していた。淫靡な笑みを浮かべた 
ゼルダは、身体をその上に移動させ、一気に腰を落としてきた。ゼルダの秘部は──やはり 
夕食時から欲情していたのだろう──洪水状態となっており、挿入に抵抗は生じなかった。 
 前戯抜きで始められた交接は、ゼルダがその主導権を保持していた。ゲルド族にまさるとも 
劣らぬ躍動が展開された。腰は終始あらゆる方向に運動し、乳房は縦横に跳ね躍った。膣の 
締めつけは強力で、摩擦が可能な程度の余裕は残しつつも、陰茎を食いちぎらんばかりの収縮を 
繰り返した。のみならず、ゼルダの口からは、自分がどれほど快感を得ているか、どこで快感を 
得ているか──もはや「そこ」という代名詞は使用されなかった──そして、その快感を 
得るために何をして欲しいか、等々の意味を持った言葉が、逡巡もなく、脈絡もなく、絶えず 
吐き散らされた。 
 高貴な王女の面影は跡形もなく消え失せていた。そこにあるのは、快楽に悶え狂う、ただの女の 
姿だった。否、もはやゼルダは女ですらなく、理性のかけらもない一匹の雌となり果てていた。 
 ただしそれはあくまでも、ひたむきに愛を貪ろうとする、この上なく美しい雌なのだった。 
 騎乗位での交わりは短時間で終わった。色情にまみれたゼルダの言動と、そのゼルダに犯されて 
いるかのような状況が、リンクを圧倒し、熱狂させ、早期の射精に追いこんだのである。 
 行為中、何度も登りつめたに違いないゼルダは、しかしまだ満足していないことを行動で示した。 
リンクの上から離れ、横に身を移し、萎えた陰茎を手で弄び始めた。射精直後のそれが感覚を 
鈍らせていることは承知のはずなのに、次の交合を待ちきれないでいるのだった。手に加えて 
口をも動員したゼルダの督促は、鈍麻していた性感をよみがえらせ、ほどなくリンクを活動可能にした。 
 今度はリンクが上になった。仰向けに組み伏せられたゼルダは、抗いもせず嬉々としてリンクを 
迎え入れた。刺突に応じて切なく喘ぎ、あるいは服従を意味する淫語を次々と口から垂れ流した。 
ゼルダの感度は高まりきっており、分単位では測れないほどの間隔で絶頂していると思われた。 
 にもかかわらず、主導権は依然としてゼルダにあった。リンクは激しくゼルダを攻め立てたが、 
それはゼルダが使う迎え腰の勢いに押しまくられての結果であり、ペースを調整する余裕はなかった。 
またも終局は短時間のうちに訪れた。 
 再び督促が始まった。が、連続した二度の射精のあと、しかも二度目の直後であるため、 
手と口の執拗な奉仕によっても、陰茎は立ち直らなかった。暫時の休息をリンクは申し出たが、 
ゼルダは同意しなかった。 
「我慢できないの。どうにもならないの」 
 自分で自分の性欲を制御できないというふうに、いまにも泣き出しそうな顔で言い立てる 
ゼルダを見ては、リンクもそれ以上の注文はつけられなかった。好きなようにさせてやろうと 
思い直し、陰茎は玩弄に任せ、自らもゼルダの陰裂に手を伸ばした。 
 指での刺激は、さらに数峰の頂上へとゼルダを運び上げた。その後もゼルダの感度は低下せず、 
むしろますます高くなり、唇や乳房への接吻、果ては皮膚への愛撫だけで達するようになった。 
全身が性器であるかのごとき様相である。とりわけ敏感なのは、やはり耳だった。 
 それでも不足とばかり、ゼルダは新たな行動を起こした。リンクの右脚に跨り、膝頭に陰部を 
こすりつけ始めた。右手は陰茎を揉み続けていたが、自身の快感に引きずられてか、やがて動きは 
腰の方が主となった。貧乏揺すりのように膝を震わせてやると、その振動がいたく気に入った 
ようで、継続を求める嘆願──ないしは命令──の言葉を吐き連ね、最後には声を張り上げて 
絶頂に至った。  
 
 ゼルダがリンクの下肢に向ける関心は、なおも尽きなかった。足元に移動し、敷布の上に 
腰を据え、リンクの左足首を両手で持ち、股間に引き寄せた。足の指で自分をなぶろうと 
いうのである。あまりのことにリンクは思わず制止したが、ゼルダは耳を貸そうともせず、指先に 
局部を押しつけ、うねうねと腰を蠢かせた。目は焦点を失い、舌は自らの唇を舐めまわしていた。 
呆けているとしか表現できないありさまだった。 
 いくら制止しても無駄とわかったので、リンクはすべてをゼルダの手に預けた。好きなように 
させてやろうとの思いを、再び適用したのである。 
 が、そのうち、足で女陰を苛んでいるという嗜虐の快感が自覚されてきた。 
 指を動かしてみた。ゼルダが喜悦の喘ぎを発した。力を得て指の動きを強くする。手指とは 
違って細かい操作はできないものの、不躾に近い単純な挙動が、かえって被虐の快感を 
増進させるのか、ゼルダは足から手を離し、リンクの攻めを一方的に受け入れる姿勢を示した。 
親指を膣にねじこんでやると、ゼルダは悲鳴のような歓声をあげ、さらなる刺激を要求した。 
挿入した親指を前後させ、隣接する指との間に陰核を挟みこむ。瞬時にしてゼルダは行き着いた。 
 足での性交という、それまで考えたこともなかった行為が、リンクを高ぶらせていた。陰茎も 
硬度を取り戻しつつあった。その仕上げに、とゼルダが提言したのは、乳房による性交である。 
リンクにとっては既知の行為であり、拒む理由はなかったが、懸念はあった。手で完全には 
包みこめないくらいの豊かさを持つゼルダの乳房ではあっても、その行為を許容するほどの 
豊かさかどうか、確信が得られなかったのだ。 
 ゼルダは奮起した。仰向けとなり、両手で乳房を内に寄せ、谷間を形づくった。リンクは 
ゼルダの胸部を跨ぎ、そこに自分を置いてみた。陰茎全体を乳房に包みこませることは 
できなかったが、行為自体は可能と思われたので、ゆっくりと前後運動を開始した。 
 予想を大幅に上まわる心地よさだった。 
 決して最適の条件ではないのに、どういうわけか絶大な快感が得られる。乳房の絶妙な弾力の 
せいかもしれないし、皮膚の繊細さが理由かもしれない。あるいは例のごとく「ゼルダであること」が 
影響しているのか。 
 いまや完全となった勃起を、リンクは一心に動かした。動きはどんどん速くなった。 
 膣への挿入を準備するだけの行為であるはずなのだが、とうてい動きを止められそうにない。 
 このまま果ててもいい、果てたい、果てさせてくれ──! 
 そんなリンクの心理を動作の懸命さから感じ取ったのか、それとも乳房を犯されているという 
感覚に煽動されたのか、 
「いってッ! そこでいってッ!」 
 ゼルダが使嗾の叫びをあげた。 
 願ってもない!──と欣喜する反面、どうしても気になる一点。 
「でも、これだと、顔にかかって──」 
「いいのッ!!」 
 喚き立てるゼルダ。 
「いいからかけてッ!! わたしの顔にいっぱいかけてぇッ!!」 
 吹っ飛ぶ思慮。 
 リンクは衝動に身を任せた。結末はすぐに到来した。脈動する陰茎から放たれる精液は── 
この場では三度目、朝から数えると五度目の射精とあって──さすがに「いっぱい」とはいかず、 
しかもゼルダの顔まで届いたのは、その一部に過ぎなかった。それでもゼルダは、顔面に飛沫を 
受けた瞬間、びくりと身体を攣縮させ、次いで無言の硬直に移った。 
 到達したのである。 
 傍らに身をすわらせて待つうち、硬直は解けた。ゼルダは横たわったまま、顔を撫でまわし、 
指に付着した粘液を、それが甘露でもあるかのような、うっとりとした面持ちで舐め取った。 
 リンクもまた、陶然とした心境にあった。女性の顔に精を放つという、普通なら背徳的としか 
思えない所行が、実に甘美な愛情表現と認識された。 
 ぼくたちはこれくらいきわどい行為を交わせる間柄なんだ。 
 が…… 
「リンク……」 
 我に返る。 
『きた』 
 膣に投じるべき情を──本人の許可があったとはいえ──別の部分に投じてしまったわけだ。 
君の欲望は、まだ満たされてはいないはず。萎縮したぼくの持ち物が── 
「次は……」 
 ──そう、次はいつ回復するか、はなはだ心許ないと── 
「後ろでして」  
 
 一瞬、意味をとり損ねた。 
 即座に解釈を訂正する。 
 後ろ「から」ではない。後ろ「で」だ。 
 アナルセックス。 
 言い出しかねていた。望みながらも。 
 シーク相手に経験していることではある。けれども、これまでの君の発言や、何より、実際に 
触れた君の身体のありようからは、ゼルダとシークは肉体的に──もちろん精神的にも── 
別個の存在と見なしうる。つまり、いまの君は、そこでの経験を持っていない。 
 慎重にならざるを得なかった。君の意向もわからなかった。 
 でも、君自身が望むというのなら、ためらってはいられない。 
 それに、ここまでぼくたちがしてきたことを考えたら、そのことだけをためらうのもおかしな話だ。 
「いいんだね?」 
 念を押す。 
 上半身を起こした君は、きっぱりと答を返してくる。睨めつけるような眼差しで。 
「わたしはあなたに前の処女を捧げたわ。それだけじゃない、手も、目も、口も、胸も、顔も。 
だから後ろの処女もあなたのものよ」 
 語調は穏やかになってはいるが、言葉は相変わらず露骨きわまりない。 
 その露骨な言葉によって、萎えしおれていた陰茎が、むくむくと膨張し始める。 
 心を決める。 
「わかった」 
 立ち上がる。脚がふらつく。 
 体力は限界に近い。今日の連戦のせいばかりではなく、ここ数日の淫行の積み重なりが影響して 
いるのだろう。だが、いつになるかと危ぶまれたぼくの回復は、君とぼくとの望みが一致した 
ことで、たちまちのうちに成し遂げられた。この機を逸することはできない。 
 倉庫に入る。目的の品を手に取る。 
 小さな瓶。ゲルド族が使っていた日焼け止めの油。 
 ずっと暗黒に閉ざされていた城下町では、日焼け止めの必要などなかったはず。他に用途が 
あったのだ。張形と並べて棚に置かれているから、用途が何なのかは明白だ。その用途のとおりに 
使ってやる。 
 部屋に戻る。腰を下ろす。何かを言いかけてくる君を手で制し、うつ伏せにする。両脚の間に 
身を置く。股間に顔を近づける。まっすぐ肛門に口を寄せる。接吻する。 
「んッ!……あぁ……」 
 喘ぐ君。まぎれもない快感の音調。 
 そう、ここへのキスが君に快感をもたらすことは、もう、よくわかっている。まずはできるだけ 
感じて欲しい。感じて緊張を解いて欲しい。 
 わずかに褐色がかった固いすぼまり。中心に向けて集中する皺。その皺が平坦になるくらいまで、 
丁寧に舌を使ってやる。 
 舐める。舐める。舐めまわす。 
 挿し入れる。挿し入れる。できるだけ奥に届かせる。 
「……あ……はぁ……ん……あぁぁ……」 
 感じている。君は感じている。感じるにつれて緩んでゆく。固かった部分が緩んでゆく。 
 頃合いと判断して上体を起こす。瓶を取る。中身を少し手に垂らす。その手を目標に押し当てる。 
「あッ!」 
 君は小さく声をあげ、きゅんと腰を引きつらせる。 
「じっとしてて」 
 撫でる。撫でる。撫でまわす。 
 粘っこい液体をなすりつけ、緩んだ部分をさらに緩ませ、次の頃合いとみた上で、人差し指を 
もぐりこませる。 
「んんッ!」 
 急激に収縮する括約筋。指がぎちぎちに締めつけられる。 
 指示しようと口を開きかけたところで、 
「はぁぁ……」 
 と君は息を吐く。収縮が消える。 
 経験はないが、知識はあるのだ。どうすればいいかをわきまえている。 
 開いた入口を通り抜ける。指を先へと進ませる。わずかずつ、わずかずつ、送りこむ。 
「んん……んんん……うぅ……うぅん……」 
 なよなよと君は呻きを漏らす。が、顕著な収縮は起こらない。 
 指の根元までを埋めこんで──  
 
 問うてみる。 
「どう?」 
「……んん……ちょっと……変な……気分……」 
 ため息を挟みつつ、きれぎれではあるものの、 
「……でも……何となく……不思議な……具合……」 
 意外にしっかりした応答。 
「動かしていい?」 
「……ええ……」 
 指先を曲げる。内壁を撫でる。そっと回転させる。ゆっくりと前後させる。 
「あぁ……んんぁ……ぁはぁ……ぅあぁ……」 
 声の調子が変わってゆく。 
「まだ、変?」 
「……変よ……変……だけど……いいわ……」 
「気持ちいいの?」 
「……そうよ……いいの……わたし……感じる……」 
「もう少し、こうしていようか」 
「……ええ……そうして……気持ち……いいから……」 
 猛った自分を抑えに抑え、指を動かし続けてやる。優しく、優しく、愛でてやる。 
 声は徐々に高まり、強まり、君が新たな楽しみに目覚めたことを明示する。 
「もういい?」 
 短い間をおき、 
「ん……」 
 と頷く君。 
 指を抜く。うつ伏せのまま君は大きく息をつく。その横で準備を調える。君の後方に膝で立ち、 
おもむろに腰を持ち上げる。やにわに速まる君の呼吸。来るべきものを待ち構えて。それをぼくは 
近づける。油を塗りたくった怒張の先端を、尻の中心の陥凹部に接触させる。 
 は!──と君は息を呑む。緊張している。無理もない。だがその緊張の解き方を君は知っている 
はずだ。ぼくの舌と指を受け入れてくれたさっきのように、ぼくのこれをも受け入れてくれ。 
「いくよ」 
 押す。抵抗がある。待つ。 
 しばしののち── 
 君は開く。乗じて進む。 
「ああぁッ!」 
 君は叫ぶ。ぼくは止まる。焦るな。焦るな。入りかかった亀頭が狂おしいばかりの快感を 
訴えるけれど焦っちゃいけない。無理はいけない。待っていろ。待っていろ。 
 再び君は開く。亀頭が埋没する。 
「んんあぁッ!」 
 再び君は叫ぶ。再びぼくは止まる。最も苦しい地点は過ぎた。が、まだだ。急ぐな。君が 
どんなふうに感じているのかがわからないうちは── 
「……リンク……」 
 かすれた声。 
「……きて……」 
 いいのか? 
「……挿れて……全部……」 
 わかった。そうしよう。君がそう言うのなら従おう。 
 ぼくは進む。ぼくは進む。狭隘な坑道が染み渡らせてくる信じがたいほどの快感をしのいで、 
じりじりと、じわじわと、ぼくは前に進んでゆく。 
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 
 君の声は消え入りそうで、それでもどうにか安定していて、ならばとぼくは前進を続けて──  
 
 入りきる。 
『ゼルダ!』 
 完没の感慨が胸を満たす。 
 何と! 言ったら! いいのだろう! 
 やっぱり君は超絶的。前だけでなく後ろにも、これほど素晴らしい場所を持っているなんて! 
 触感。圧力。軟度。温度。あらゆる要素が完璧だ。 
 そんな所にいられることの何という幸福! 
 ぼくは君のここにいる。君の後ろを充たしている。君の尻を充たしている。 
 君も感じてくれ。ぼくを感じてくれ。ぼくをはっきりと感じてくれ! 
 ところが、その君は── 
 いつしか声を出さなくなって、額を敷布に押しつけて、両手は敷布をひっつかんで、呼吸は 
微弱で、身動きもしないで、耐えている。君は耐えている。感じられていないのだろうか。 
苦悶に打ちひしがれているのだろうか。だとしたら、だとしたら、ぼくがここにあり続けるのは 
君にとって── 
「……もう……」 
「え?」 
「……大丈夫……だから……」 
「ほんとうに?」 
「……ええ……ほんとよ……嘘じゃ……ないわ……」 
 君はゆるゆると頭を上げる。こっちを向こうとして向ききれない。詳しい表情まではうかがえない。 
けれども言葉の調子には、真実の気配が感じられる。 
 安堵する。訊いてみる。 
「感じてくれてる?」 
「……感じるわ……あなた……とても……素敵……」 
「君も素敵だよ」 
「……嬉しい……あなたに……きて……もらえて……」 
「このまま、いてもいい?」 
「……だめ」 
 意表を突かれる。 
「どうして?」 
「……このまま……なんて……だめよ……お願い……」 
「なに?」 
「……して」 
 そういうことか! 
「いいの?」 
「……いいのよ……あなたを……いっぱい……感じたいの……」 
 許しが出た。とはいえ、いきなり大きな動きはできない。 
 そろそろと腰を引く。 
「……あぁ……いいわ……そうして……ちょうだい……」 
 そろそろと腰を出す。 
「……あぁん……あなた……きてる……感じる……」 
 緩徐な運動を継続させる。君は苦痛の片鱗も見せず、ただただ、安らかな微声を漏らす。 
 こんな悠揚とした交わりもいいのだが、いつまでもこうしてはいられない。往復を繰り返す 
肉柱は必然的に過熱してゆく。過熱は速度を要求する。このゆったりとした周期では賄えなくなる。  
 
 ──というぼくの危惧を読み取ったかのごとく、君は腰を揺らし始める。 
「あぁ……あぁぁ……欲しいの……あなたが……」 
 応じて進退の幅を長くする。 
「欲しい……んんん……んあぁ……あぁぁ……」 
 周期が少しずつ短くなる。 
「んんんん……んぁぁあ……もっと……もっとして……」 
 大丈夫か? 大丈夫。君は苦痛を感じてない。それどころか── 
「とても……あぁぁぁ……気持ちが……いいわ……」 
 ──君が得ているのは快感だけだ。快感だけだ。だからぼくは── 
「ぁああん……やって……もっとよ……突いて……」 
 ──突いてやる。突いてやる。後ろから。そうだ、この姿勢は── 
「ぁあぁッ……そうよ……これよ……ぅううあッ……」 
 ──君の好きな姿勢だった。前だろうが後ろだろうが君は── 
「そこから……されたら……ああぁあッ……わたし……」 
 ──こんなふうにされるのが大好きなんだ。なぜなら── 
「感じる……リンク……ぁあああッ……犯して……」 
 ──そう、まるで犯されているみたいに感じるから、それが君を── 
「わたしを……んああぁぁッ……犯して……犯して!」 
 ──燃え立たせるんだ、だったらぼくは犯してやる、君を犯してやる、徹底的に── 
「あああぁッ!……わたし……いいの!……お尻が……」 
 ──君の尻を犯してやる、本来ならここで君の胸とか前の敏感な部分とかを── 
「こんなに……いいなんて……ぁああぁあッ!……いいなんて!」 
 ──手でくすぐってやるところなんだが、そうはしてやらない、いまは── 
「あああぁんッ!……いいわッ!……それでいいのッ!……ぅああああッ!」 
 ──君の尻だけを犯してやるんだ、君だってそうして欲しいんだろう? ほんとに── 
「お尻がいいのッ! いいのよッ! してッ! してッ! もっとしてぇッ!」 
 ──なんて君は淫らなんだ、こんな淫らな女だとは思っていなかったよ、だけど── 
「やってッ! 奪ってッ! 犯してッ! わたしのお尻を犯してぇッ!」 
 ──そこがいいんだ、だからこそ君は素晴らしいんだ、美しさと淫らさがこうまで── 
「いっぱい犯してッ! 好きなだけ犯してッ! お願い犯してぇぇッ!」 
 ──完璧に同居していて、しかもそんなひとがぼくを愛してくれているなんて── 
「ぉあああああッ! いいッ! いいわッ! いいわぁぁあああああッ!」 
 ──ああ、この幸せが永久に続いて欲しい、続くだろうか、でも君なら── 
「わたしッ! もうッ! ああぁぁあああッ! もうだめッ!」 
 ──ずっと続くようにしてくれるだろう? ゼルダ、ゼルダ、ゼルダ、ぼくは──! 
「リンク! リンク! いくわッ! あああぁぁッ!」 
 ──ぼくも! ぼくも! すぐに! ゼルダ! 
「いくわぁッ! いくぅッ! いくぅぅううううーーーーーッッ!!」 
 ──いくよ!! ゼルダ!! 
「うあああああああッッ!! リンクッッ──!!」 
 ──ゼルダ!! 
「ああッッ!! いやッッ!! いやあああああああッッ!!」 
 ──ゼルダ? 
「出るッ!! あああああああッ!」 
 ──出る? 何が? 
「出る!……出るぅ……ぅあああぁぁ……あぁ……ぁぁぁ……ぁぁ……ぁ……」 
 ──何だ? これは? 君は何を── 
 
 下方で起こる奇妙な音をリンクは聞いた。音は次第に弱まった。いぶかるうち、腿に温かい 
ものが触れた。ゼルダの股間から流れ落ちてきたのである。音はそれが噴出する際に生じたのだと 
知れた。 
 肛門から注意深く陰茎を引き出す。ゼルダは失神しており、撤退にあたっては何の反応も 
示さなかった。その身体を横に倒して安置する。寝床を確かめる。 
 黄色い液体が溜まりをつくり、敷布に染みを広げていた。  
 
 目が開いた。 
 窓から朝の光が差しこんでいる。 
 とうとう直射日光がここまで届くようになったのか──と、ぼんやり思いながら、ゼルダは 
おのれの身の状態を確かめた。 
 横たわっている。リンクに肩を抱かれ、その胸に顔を埋めている。二人とも全裸のままである。 
リンクの顔に目をやる。眠っている。起きる気配もない。 
『疲れているのね』 
 直後、気づいた。 
 リンクをこれほど疲れさせたのは、他ならないわたし。 
 昨日の記憶が次々と脳裏に立ちのぼる。 
 顔が火照った。顔だけでなく、全身の皮膚までが赤々と染まってゆく気がした。 
 生まれてこのかた一度も口にしたことのない卑猥な言葉を吐きまくって、何度も何度も 
気をやって、それでも飽かずにリンクを求めて、求めて、求め続けて、挙げ句には…… 
 最後の交わり。 
 肛門に残る激動の感覚。 
 やはりわたしは世界でいちばん淫らな女だ。そうとしか言いようがない。 
 自らを罵倒しながら、しかし心には一片の後悔もなく、そこまでの痴態をリンクの前でさらせた 
ことに、むしろ、ゼルダは満足していた。 
「あなたのせいよ」 
 微笑みつつ、眼前の寝顔に向けて呟く。 
 時の神殿でリンクに強いられた言。 
 恥辱の極致であるはずのあれが、わたしを刺激し、変貌させたのだ。 
 ──あなたの前では、恥すらも悦び。 
『だからあなたが起きられないほど疲れ果てても、それは自業自得なの』 
 理不尽な責任転嫁をひそかに面白がりながら、同時にゼルダは、変貌の原因が、実は自分自身に 
あることを、明確に認識していた。 
 時の神殿で知った件。『時の賢者』としての最後の──真に最後の──使命。 
『思うまい』 
 もう決めたのだ。いまは残り少ない休息の日々のことだけを考えていよう。 
 思考の抑制には慣れている。シークの時、しばしば経験した。 
 その抑制の過程において、意識下の奇妙な引っかかりを、ゼルダは感得する。 
 昨夜の記憶の終端にある、かすかな残滓。 
 あれは何だったか。 
 直腸に埋められたリンクの熱棒が爆発するのに一致して、わたしが得た無上の快感。そして、 
いつもとは違う場所に生じた解放感。  
 
 無意識に秘部へと伸びる指が、その場所を探り当てた瞬間、ゼルダは脳天に雷が落ちたような 
衝撃を覚えた。 
 跳ね起きる。 
 最後の最後にしでかしてしまったことを、ようやく思い出す。 
 震える視線が、股間に、敷布にと、あわただしく落ちる。 
 形跡はなかった。 
 なぜ?──と思う間もなく、動かしようのない結論に達する。 
 リンクだ。 
 あのあとリンクは、意識を失ったわたしを清め、寝具も取り替えてくれたのだ。 
 男と尻で繋がったまま失禁し、さらにはだらしなく眠りこけ、その男に後始末をさせた女。 
 それがわたし。 
 羞恥のあまり身悶えしそうになる。 
「ゼルダ」 
 心臓を鷲づかみにされたような気がした。 
 おそるおそる、ふり返る。 
 わずかに目蓋を上げて、リンクがこちらを見ている。 
「ごめんなさい!」 
 目を固くつぶり、両手で顔を覆って、ゼルダは敷布の上に突っ伏した。 
 顔向けできるわけがない! 
「何てことを……わたし……ごめんなさい……ごめんなさい……」 
 これ以上の恥があるだろうか。恥ずかしい。ひたすら恥ずかしい。 
「いいんだ……」 
 穏和な声。 
「あんな君も、素敵だよ……ぼくは……君の全部が……好きなんだ……」 
 夢うつつでありながら、唐突な謝罪の意味を、リンクは理解しているようだった。 
 その顔を盗み見る。 
 再度、眠りに落ちている。 
 吐息とも喘ぎともつかぬ空気の塊が、ゼルダの口をついて出た。 
『自業自得だなんて思ったりして、ほんとうに悪かったわ。疲れきっていたあなたに、そんな 
ことまでさせて……』 
 激しい羞恥は消えるはずもない。 
 が、これさえもまた…… 
 ──あなたの前では、恥すらも悦び。 
 膣壁がびくびくと痙攣する。 
 そして、いまの、リンクの言葉…… 
 股間の潤みを自覚する。 
 眠るリンクの手を引き、そこへと導く。 
「でも……やっぱり……あなたのせいよ……」 
 じんじんとうずく中心部に指が触れた刹那、ゼルダはあられもない声をあげて絶頂した。 
 
 
To be continued.  
 

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