横たわり絡み合う二つの肢体は、しばらく静止を続けていた。安楽な姿勢にあることで、相手の 
質感、相手の体温、そして相手の存在自体を、ひときわ詳しく認知できるのである。その充実感に 
ゼルダは酔った。 
 が、酔いは次なる酔いを求める。静止では物足りなくなってくる。 
 そうなりたい、早くそうなりたい、一刻も早くそうなりたいと願わずにはいられない。ところが 
リンクは動こうとしない。かといってこちらから動くこともできない。どう動けばいいのか 
わからないのだ。 
 期待と焦燥を募らせるうち、ようやくリンクが動きを示した。意外な動きだった。抱擁を解いて 
しまったのである。 
 当惑は、しかし束の間だった。横に添わせた身の位置は変えず、リンクが右腕を首の後ろに 
通してくる。その腕に頭を預けると、今度は左手で右の肩をそっと押された。仰向けになれとの 
示唆である。 
 従う。 
 上半身を浮かせたリンクが、上から目だけで語りかけてくる。視線に込められた慈しみが、 
じんわりと心に染み通る。さらにリンクの左手が、上は髪から下は腿まで、届く範囲のほとんど 
すべてを、和やかに、細やかに、撫でてくれる。撫でられた所はほんのりと快美を宿す。 
手が離れたあとも快美は残る。愛撫の域が広がれば広がるほど、快美の域も広がってゆく。 
 最後の欲求を満たしたい。とはいうものの、こうした温雅な快さも捨てがたい。 
 相反する二方への矛盾した志向がどうすれば解決されるのか、わたしはすでに知っている。 
温雅とみえる快さが、徐々に勢いを増し、大きなうねりとなることによって、究極の快感に 
昇華するのだ。初めての時がそうだった。リンクがそんなふうにしてくれた。ちょうどいまの 
ように、穏やかな刺激を繰り返して、その刺激を少しずつ強めていって、わたしをどんどん 
高揚させるのだ。 
 だから次に起こることを、わたしはだいたい予想できる。実にきめ細かな愛撫を施してくれる 
リンクだけれど、いくつかの場所にだけは触れてこない。わたしの特に敏感な領域。いちばん 
触れて欲しいのはそこなのに、放置すればかえって刺激になるとでも思っているのか──事実 
そのとおりなのだが──リンクはどうしても触れてくれない。でも、もう他に触れる所はなくなった。 
これまで敢えて避けてきた部分へと、いまや放置以上の刺激を切に切に要求している部分へと、 
リンクは触れてくるに違いない、違いない、違いない──  
 
「あ!」 
 やっぱり! リンクは! そうしてくれた! 
 はあはあと息を荒げながらも声を出すまでには至っていなかった。だけどここまできたら── 
「あぅ……んッ……」 
 こらえたくても── 
「う……あぁ……」 
 いや、こらえるつもりもなく── 
「んん……ぅあ……」 
 自然に声は漏れ出してしまう。 
 胸。わたしの胸。わたしの右の胸。 
 その中心が、リンクの指一本に撫でられて、指二本に挟まれて、さらには手のひら全体に 
こすられて、硬くなる。硬くなる。鋭い感覚を急速に集めてつんと突き立ってゆくのが自分でも 
わかる。気持ちがいい。気持ちがいい。この気持ちのよさを左側でも味わいたい。と思ったら 
リンクはちゃんと理解してくれて、わたしの望みどおりにしてくれて、しかもやがては気持ちの 
よさを二倍にしてくれて、つまり両側を同時にそうしてくれて、両側? 同時に? どうやって? 
もちろん両手で。わたしの頭の下にあった右腕がいつの間にか引き抜かれて胸への愛撫に 
参加している。ふくらみの兆しもないわたしの両胸をリンクはこれほどまでにいとおしんでくれる。 
感じさせてくれる。いっぱいいっぱい感じさせてくれる。いつまでもこうやって感じさせて── 
 ──は、くれないのだ。いつまでもというわけにはいかないのだ。しかしわたしは失望しない。 
それどころかますます嬉しくなる。なぜならリンクは右手を胸に残したまま左手を、そう、左手を 
下に、下に、すべらせていって、わたしの脚の間にある、女の身体のうちの最も女である部分を 
探り求めようとしているからで、そこは他の誰にも触らせたことがない、わたし自身ですら 
その目的では触ったことがない、ただ一度、あの夜、リンクにだけ触らせた秘密の場所。そんなに 
感じやすくそんなに気持ちがいいとはついぞ知らず、リンクの手により初めてそうと身に染みて 
得心できた場所。あの時のわたしは愚かにも、いま思えば愚かにも、リンクの手の進入におびえて 
両脚をきつく閉じてしまった。でもそんな抵抗は全く無意味。リンクは進入を諦めたりはしないし、 
何よりわたしに拒む気がない。だからリンクはすんなりと、よどみなく、そこに、そこに、 
わたしのそこに──  
 
「ひッ!」 
 瞬間、頭が、空白に、なって── 
 喜悦の波濤が全身を打つ。 
 たまらない! 
 たまらない! 
 たまらない! 
 それはそれは穏和なリンクの手捌きなのに、生じる快感は信じられないくらい激しい。 
そう感じるだろうとは前の経験から充分に予想できていたのだけれど、実際に感じるとこれほど 
いいものだったのかと改めて思い知らされる。いったいリンクは何をしているのか。どこを 
どうすればわたしをこんなに感じさせられるのか。女のそこを──他人のはもとより自分のですら 
──まじまじと眺めたことはないが、インパに習ったところでは、確かそこには小さな粒状の 
器官がひそんでいて、粒状というからには乳首と似た形と想像できるから、乳首にしてくれている 
ような操作をそこにもリンクはしてくれているのだろう。「だろう」だ。断言はできない。 
気持ちがよすぎて細かい動きを察知するのが難しい。おまけにそこはとてもすべりがよくなっていて 
快感ばかりが際立つのだ。すべりがいいのはそこが濡れているからで、性的興奮がある種の体液の 
分泌を促しているからで、それはリンクが指を動かすのに伴ってねちょねちょといかにも粘っこい 
音がすることでもわかる。前の時にもそうなっていただろうか。なっていたはずだ。「はずだ」としか 
言えない。よく思い出せない。思考がまとまらない。リンクが触る部位を微妙に変えてくるので 
なおさら意識が泳いでしまう。そこはわたしの胎内へと伸びてゆく細い通路の入口。リンクは 
そうするつもりなのだろうか。指を挿れてくるつもりなのだろうか。すでにリンクによって 
穿たれずみの場所ではあっても、そうされるのは、ちょっと、不安が、あって── 
「んーーーんッ!」 
 びっくり! した! 
 キスするなんて、急にキスしてくるなんて、ちっとも思っていなかった。意外に過ぎて 
反応できない。リンクの舌が唇を割って口の中に侵入するのをただただ容認するしかない。 
あそこは? あそこは? 入ってこない。指先が少しだけもぐりこんでいるような感じだけれど、 
それくらいなら大丈夫。気持ちのよさは変わらない。気持ちがいいのは胸も同じで、そこに 
残っているリンクの右手は優しい愛撫を絶やそうとしない。 
 ああ、こうして、三つの部分を、口と、胸と、あそことを、いちどきに攻められる何という快さ。 
これほどのことをしてくれるリンクに対してわたしができることは何だろう。遊ばせていた両手を 
リンクに触れかからせて、頭とか、肩とか、背とか、腕とかを自分がされているように優しく 
撫でてあげて、口に突っこまれた舌には舌で応えてあげて、その程度のことに過ぎないとしても、 
できる限り、できる限り…… 
「はぁッ」 
 と顔を離して息を吐くリンク。長すぎるキスで呼吸が続かなくなったのか。わたしの息も大きく 
弾んでいる。それでも苦しいとは感じない。リンクも苦しげな様子ではない。ただ、唇を唇には 
戻してこずに、ずらせて頬へと、さらには耳へと── 
 耳!? 
「きゃッ!」 
 悲鳴が口を衝いて出る。総身に激烈な痙攣が走る。 
 この感覚は! 
 前にもそこに口づけされて、同じ感覚を得た記憶がある。あの時は瞬刻で終わったけれど、 
いまのリンクは執拗で、くわえたり、噛んだり、しゃぶったりして、いっかな行為を終えようと 
しない。くすぐったい。くすぐったい。でもくすぐったいだけじゃない。気持ちがいいといえば 
気持ちがいい。だからもうやめてちょうだいと叫びたくなる一方で、もっと続けてちょうだいとも 
願ってしまう。しかし気持ちがいいではすまされない異様さ、空恐ろしさも感じられる。自分が 
変になってしまいそうな、身体がばらばらになってしまいそうな、わけのわからないこの感覚が 
続いたら、わたしは、いったい、どう、なって、しま、う、の──!!  
 
 どうなったのだろう。わたしはいったいどうなったのだろう。記憶が飛んでしまっている。 
かつて知った「究極の快感」とは少し違う気がするが、これもその一つの形なのだろうか。 
 リンクの顔が見える。わたしを見下ろしている。なんだか笑っているようだ。どうにかなって 
しまったわたしを怪しむふうでもない。こうなるのはわかっていたとでも言いたげだ。どうして 
わかるのか。わたしが性交時に示す反応を知りつくしているわけでもないだろうに。 
 それにしても、なぜわたしは耳であんなに感じてしまうのだろう。セックスとは関係のない 
場所であるはずなのに。女はみんなそうなのだろうか。でなければわたしの体質が特異なのか。 
 いずれにせよ、性交だのセックスだの、露骨な単語をすらすら想起できるようになっている 
ところをみると、どうやらわたしはいまので何らかの一線を越えてしまったらしい。とはいっても 
性感は薄らいでいない。薄らぐどころかいよいよ濃くなる。最後の欲求が満たされていないからだ。 
が、最後の地点を目指すより前に、リンクは別のことをしてくるだろう。 
 いつしか胸からも秘部からも手が引かれている。それでも不足とは思わない。じきに戻ってくると 
信じていられる。ただし戻ってくるのは手ではなく…… 
 口。 
 リンクの口。 
 耳が解放されたあとは、顔全体が接吻の対象となって、対象は少しずつ下に移っていって、 
喉が、首が、肩が、腋が、次から次へと明け渡されていって、ついには── 
 胸を吸われる。 
「あ! あんッ!」 
 感じる! 感じる! 感じる! 
 何かが身体の中でぽんぽんと続けざまに破裂してゆくかのようなこの快感! 
 手でまさぐられるのもいいけれど、それよりももっと気持ちがいい。唇と舌と歯の各々が、 
あるいは三者の混合が、一段と多彩な刺激を作り出してくれるから! 
 喘いでいる。わたしは喘いでいる。泣くがごとくに喘いでいる。ひょっとしたらほんとうに 
泣いているのかもしれない。自分のことなのにわからない。わかるのは、こうまで快楽に 
溺れているわたしがなおいっそうの快楽を求めていることと、その求めに応えてくれる 
リンクであるということだけだ。 
 そう、リンクは応えてくれる。胸での戯れを切り上げて、口の位置をだんだん下ろしていって、 
火照りに火照っているわたしの中心部に、ひたり、ひたりと迫ってくる。 
 そこに間近から視線を受け、あまつさえ口をつけられる──そんな行為があり得ることなど、 
以前は想像もしていなかった。それで初めての時はうろたえてしまって、リンクにずいぶん手間を 
かけさせた。いまは少しもうろたえていない。あられもなく股を開いてリンクの口技を 
待ち焦がれている。ベッドの横では脱衣するのにさえあれだけ羞じらいを覚えたわたしが、 
大して時間も経たないうちにすっかり慎みを失ってしまった。 
 一国の王女であるわたしが──などという理性の弁も歯止めにはならない。そもそもわたしは 
王女である前に一人の女であって、リンクのことが好きで好きで好きで好きでたまらないただの 
一人の女の子であって、リンクにとってもわたしが王女であることは本質的な問題ではないので 
あって、それでも自分が王女だとの意識を完全に放棄はできないのだけれど、そんなわたしが 
かくも淫らな振る舞いを、と思うとよけいに色情がかき立てられてしまう。 
 だからリンク、いいようにして。もう手間をかけさせたりはしないから、どうか、リンク、 
お願い、早く── 
 ──と、ひたすらわたしが冀っているのに、ああ、リンクは無情にも、寸前まで近づけた口を 
するりと横に逸らせて、腿から膝へ、脛から足へと遠ざけてゆく。それはそれで気持ちのいい 
感覚ではあるものの、もっと気持ちよくなりたいという熱望がわたしの中では沸騰している。 
焦れったい。焦れったい。そうだわリンクはわたしを焦らしているんだわ。手でもなかなか触れて 
くれなかったのと同じで、放っておけばかえってわたしが高ぶると思っているんだわ。そのとおり 
わたしは高ぶっている。まんまとリンクの術中に陥ってしまっている。でもそれでいいの。 
リンクの術中になら喜んで陥りたい。こうやって陥ることができてわたしは満足──  
 
 ──は、まだできない。いまなお高ぶりは頂点に達していない。リンクだってわたしを 
この程度に高ぶらせただけで終わりと思っているはずはない。そうでしょう? そうだわね? 
ね? リンク? わかってくれた? くれたのね? そうやって口づけの場所を上に移して、 
上に、上に、もっと上に、わたしの脚の間に身体を置いて、わたしのお尻に両手をかけて、 
もう少し、もう少し、もう少しでそこに、そこに、そこにあなたが、あなたの口が── 
「ぅあッ!」 
 ──やっと! 
「あぁあッ!」 
 ──やっと! 
「あああぁんッ!」 
 ──やっと! 
 どうされているのかわからないのは手で触られた時以上。唇と舌と歯が個々に、あるいは 
組になって、胸にしてくれたのと同じようなことをしてくれているのだと想像はできるのだけれど、 
舐めたり吸ったりしゃぶったり、時には軽く噛んだりもしてくれているのだろうけれど、 
それぞれの動作を区別することができない。いいえ区別する必要なんかないんだわ。リンクが 
給してくれる無類の悦楽をただただ享受していればいい。 
 続けて! 続けて! 続けて! 
 わたしの、いちばん、感じる、所を、あなたの、口で、めちゃくちゃに、して! 
 でも、ああ、でも、どうされているのかわからないわたしでも、そうされるとさすがに 
気づいてしまう。わたしの中に何かが、そう、リンクの舌が忍びこんでくる。リンクが舌を 
挿れてくる。そうされるのはとても快い反面、わたしは不安を抑えられない。指を挿れられそうに 
なった折りにも感じた不安。その際は入口でとどまってくれたから、特に問題は起こらなかった。 
今度はどんなふうにするつもりなのだろう。指よりも少し深い所まで来ているような気がする。 
しかし奥には進んでこない。大丈夫。これなら大丈夫。わたしのそこは広がっていて、リンクの 
舌で広げられていて、それはわたしを緊張させると同時に、痺れるような心地よさをも 
湧き上がらせて── 
 不意に股間の感覚がなくなる。リンクが顔を離したのだ。離された顔はわたしの顔の上に 
移動してくる。リンクの胴がわたしの胴の上に乗る。股間にはいままでとは別のものが接している。 
 その時が来た。最後の欲求が満たされる時を、わたしはとうとう迎えたのだ。 
 早くそうしてと心は叫ぶ。ところが同じ心の一隅は、ちょっと待ってと怖じる声を出す。 
 ややもするとわたしを不安がらせる要素。 
 初めてそこにリンクの男を受け入れた時の激しい痛み。あれがまたわたしの前に立ちはだかる 
のではないか。 
 二度目なのだからそんなに苦痛であるはずはない。それにあの時でさえ、初めの苦痛に 
耐えきったあとは快感が芽生えて、快感は徐々に大きくなって、しまいには急激に爆発へと至って 
わたしを恍惚の極みへと運び去った。そういうふうになれるのなら、少々の苦痛は我慢できる。 
リンクに苦痛を与えられること自体を快感と見なしたっていい。 
 ──などと考えながらも不安は消えない。消えないうちに、 
「いい?」 
 とささやくリンク。残る不安を無視してわたしの首は勝手に頷く。リンクに肩を抱かれる。 
わたしもリンクの背に手をまわす。そのようにして上半身がつくる密着よりも、はるかに密な 
結合を下半身で果たそうと、リンクがそれを押しつけてくる。そうされたからには他にすべもなく、 
わたしはリンクの到来を待つ。 
 でも、でも、お願い、リンク、どうか優しくして、優しくして、わたしができるだけ苦しまずに 
すむように、優しく、ゆっくり、そっと、静かに、そう、そうよ、そうして、そんなふうに──  
 
 入ってくる。入ってくる。リンクがわたしの中に入ってくる。 
 充たされる。充たされる。わたしはリンクに充たされてゆく。 
 そこを次第に押し広げられる感覚。時おり走るぴりっとした刺激。だけど痛くはない。痛くはない。 
初めての時の痛みが嘘のようにいまは全く痛みを感じない。二度目だから、リンクが優しくして 
くれるから、それに、そうだわ、慣れたんだわ、苦痛なくそれを迎えられるように、リンクが 
わたしを慣らしてくれたんだわ、指で、舌で、ちょっとずつわたしを緩やかにしてくれていたんだわ、 
リンクは最初からずっとわたしに心を配ってくれていたんだわ! 
 嬉しい。嬉しい。何もかもが嬉しい。 
 あなたが気遣ってくれるということ。 
 あなたと一緒にいられるということ。 
 あなたを愛しているわたしだということ。 
 あなたのものであるわたしだということ。 
 そしてあなたに抱かれて、あなたに刺し通されて、あなたと完璧に、そう、いま、あなたと 
ぴったりひとつになっているわたしだということ! 
 奥の奥まで来てくれたあなたを、もはやいささかの不安もなくわたしは受け止められる。 
あるのはこの上ない喜び、この上ない幸せ、この上ない── 
『この上ない?』 
 ある。 
 この上にくる喜びが、幸せが、まだ、ある。 
 なんて欲深なわたしなのかしら。 
 けれど求めずにはいられない。 
 そのためには何がどうなったらいいのか、わたしにはわかっているわ。リンク、あなたも 
わかっているはずよ。初めての時、わたしが苦痛から脱するのを待って、あなたはそうして 
くれたわね。あのとおりのことを、いま、してちょうだい、してちょうだい、充たすだけでなく 
わたしを満たしてちょうだい、わたしを、満たして、ちょうだい、リンク── 
「あぁ……」 
 そう、そんな、具合に、前に、後ろに、動いて、くれたら── 
「いいわ……」 
 感じる、あなたが、わたしを、ゆるりと、じわりと、攻めて、くるのが── 
「とても……」 
 素敵よ、ほんとに、いいの、だから、続けて、そのまま、ずっと── 
「リンク……」 
 あなたと、わたしが、こんなに、濡れて、繋がって、こすれて、でも── 
「もっと……」 
 激しく、してくれて、いいのに、わたしは、全然、苦しく、ないから── 
「もっと」 
 強くして── 
「もっと!」 
 速くして── 
「もっとよ!」 
 もっともっと強く── 
「あぁッ! もっとよッ!」 
 もっともっと速く── 
「あぅあッ! あッ! んあッ!」 
 突いて! 突いて! 思い切りあなたをぶつけてきて! 
「いいッ! いッ! あッ! おぉッ!」 
 強くして! 速くして! もっと! もっと! もっともっともっともっともっと! 
「ひぁッ! やッ! ああぁあッ! ぁあああッ!」 
 そうよ! これよ! これで! わたしは! 
「ぁああッ! あぁああッッ!」 
 わたしは! 
 わたしは! 
 わ、た、し、は──!!  
 
 気を失ったのではなかった。意識も感覚も保たれていた。自分が「究極の快感」に達したことは 
わかっていたし、それに同期してリンクが頂点を極めたことも──躍動の唐突な終息と、体内に 
埋められたものの脈打ちから──はっきりと理解できていた。しかしゼルダを支配する至福感は 
あまりにも濃密で、筋道立った思考を困難にしていた。時間の流れも認識の枠外にあった。 
 数分とも数時間ともわからぬ朦朧とした間ののち、皮膚の感触が変化した。上にあって動きを 
止めていたリンクが、おもむろに身を起こしたのだった。局部の結び合いもほどかれた。 
離れがたい気分ではあったものの、不満とするほどの心情にはならなかった。こちらに重みを 
かけ続けるのをリンクは憚ったのだろう、と推し量られたのである。実際のところ、重みなど 
苦になってはおらず、むしろリンクに重みをかけられるのが喜ばしいくらいだったのだが、配意は 
素直に受け取ることとした。 
 代わりにゼルダは横向きの姿勢となり、傍らで仰臥するリンクに寄りかかった。リンクの右腕が 
肩を抱いてくれた。それで充分に満足できた。 
 最初の契りの際は、交合のあと、たちまち眠りに落ちてしまったゼルダである。当の相手である 
リンクに悟られぬよう契りを果たすというのが当初の計画であり、その綱渡り的な行動を前にして、 
ゼルダの心は限界まで張りつめていた。現実には、計画とは異なる理想的な形で契りは達成され、 
混じりけのない幸福感と安堵感がゼルダを緊張から解放し、結果、速やかな睡眠がもたらされたの 
だった。このたびは初めからそうした緊張がないせいか、茫漠とした精神状態であるにも 
かかわらず、眠気は訪れてこない。余韻を堪能できるのである。性器の結合が喚起するものとは 
別の次元の感慨に、ゼルダはしみじみとおのれを浸らせた。 
 が、余韻はいつまでも余韻のままにとどまってはいなかった。 
 リンクと接触している部分の皮膚が、微弱ながらも明確な心地よさを感得する。リンクが少し 
身体を動かしただけで、心地よさの度合いが強まってゆく。絶頂を過ぎたのちとなっても、肉体は 
常態に戻っていないのだった。 
 ゼルダの呼吸は速まった。それにそそられてか、リンクの手がゆるゆると愛撫を開始した。 
ゼルダも愛撫を返した。接触の複雑化は心地よさを数倍にした。ゼルダは接吻を望み、相手の顔に 
自分の顔を寄せた。自らの恥部に接した口が対象であることは、露ほども気にならなかった。 
言葉にするまでもなく、リンクは望みをかなえてくれた。こうして余韻は次なる場面の序奏に 
転じた。 
 接吻が一段落すると、ゼルダの右手は愛撫を封じられた。リンクの左手が手首をつかみ、 
下方へと誘導したのだった。そこに触れた右手は、咄嗟に回避の動きを行いかけた。それを目で 
見もし、また、つい先刻まで女の最も大事な場所に迎えてもいながら、手にすることは躊躇された 
のである。前二者に比べて後者の方が、より主体的な行為であるせいかもしれなかった。とはいえ、 
性行為という括りでは、両者の間に大きな差はない。男性器に対する純な興味もないではなかった。 
ゼルダは躊躇を捨て、それを静かに右手でくるんだ。 
 さっきまで継続的に勃起していたものが、いまは軟らかく萎れている。絶頂を経たあとは 
こうなるのが普通なのだろう。 
 普通の状態であったのは、しかしごく短時間に過ぎなかった。それは間もなく長さと硬さを増し、 
勃起状態に立ち戻った。くるんでいた手の中に収まる程度の膨張ではあったが、いかにも力強い 
変化と感じられた。リンクが吐息をつく。うっとりとした面持ちである。ゼルダは感動を 
禁じ得なかった。 
 勃起は陰茎内の血流増加による物理的な現象だ。けれども誘発にあたっては精神的な要因の 
占める割合が大きい。性的興奮。わたしは特に何をするでもなく、ただ握っているだけなのに、 
リンクは興奮してくれている。わたしの手がリンクを興奮させている!  
 
 さらに、 
「手を、動かして……」 
 と言われてゼルダは知った。 
 握っている以上のことがわたしにはできる。手を動かしてここを刺激したら、リンクはもっと 
興奮するだろう。 
 最初の契りの時も、いましがたの交わりでも、わたしはリンクにほとんど何もしてあげられ 
なかった。リンクがあれだけわたしを悦ばせてくれたというのに、わたしはその悦びに溺れる 
だけで、自分からリンクを悦ばせてあげようとはしなかった。どうしたらいいのかわからなかった 
せいもあるし、セックスとは男の側が主導するものだと何となく思っていたせいもある。だが 
それでは不公平だ。女の側が「主体的」に行動して男を悦ばせるセックスがあってもいい。いや、 
そうあるべきだ。そうしてこそ二人はほんとうにほんとうの悦びを得られるはずだから! 
 ──との志はいいとして、この場はどうしたものだろう。どんなふうに手を動かせばよかろうか。 
女のそこが敏感であるごとく、男のここも敏感であるならば、気をつけて扱わなければならない。 
優しく、そう、リンクがわたしにしてくれたように、優しく、優しく、あくまでも優しく…… 
 握っていた手に少しだけ力をこめる。そして緩める。力をこめる。緩める。力をこめる。緩める。 
ゆっくり、ゆっくり、繰り返し、繰り返し、揉んで、捏ねて、揉んで、捏ねて…… 
 これでいい? うまくやれている? リンクが息を荒くする。顔が切なそうに歪んでいる。 
痛いの? 苦しいの? 強すぎる? 力が入りすぎ? 
 訊いてみる。 
「どう?」 
 答が返る。 
「いい……」 
 いいのね? わかった。続けるわ。続けるわ。こんなわたしの稚拙な行為で感じてくれるのが 
とても嬉しい。だけどこんなわたしの稚拙な行為で感じてくれるなんてリンクはとりわけ 
敏感なのではないかしら。このままずっと続けていって、リンクがもっともっと気持ちよくなって、 
最後までいってしまったら…… 
 いったん絶頂に達しているから、簡単にそうなったりはしないかもしれない。でも実際に 
どうかはわからない。もしもリンクがそうなったら、わたしの手でそうなってくれたら、 
嬉しい上にも嬉しくはあるけれど、それだとわたしは、わたしの方は── 
「あッ!」 
 こう! される! という! こと! 
 いじられる。いじられる。リンクの手でいじられる。わたしのそこがいじられる。わたしが 
リンクにしているよりもなお複雑でなお巧妙な手技をリンクはわたしのそこで繰り広げる。 
そこはすっかり濡れそぼっていて、先の交わりでの潤いがなくならないうちから新たな潤いが 
湧き出していて、わたしが絶大な快楽を得るのに何の障害もない状態となっている。そうだったわ 
リンクはこういうことができたんだったわ。手だけでわたしをよがり狂わせることができたんだったわ。 
わたしの快感の中心点を実に実に実に実に上手に探って翻弄して、それに、ああ、それに、指が、 
リンクの指がわたしの中に、中に、中に、中に、入ってきて、挿しこまれてきて、もう入口で 
とどまったりせず、深く、深く、深く、深く、奥まで送りこまれてきて、かと思うと今度は 
引かれて、次にまた挿されて、引かれて、挿されて、引かれて、挿されて、あたかも真の 
まぐわいのように、わたしの手の中にあるものがさっきそこでしていたように、往復する、 
往復する、のみならず性器ではできないことを、関節のある指だからこそできる微妙な動きを 
取り混ぜて、そんなふうにされているにもかかわらずもはや痛くも苦しくもないわたしを、 
気持ちがいいとしか感じられなくなっているわたしを呻かせる、喘がせる、叫ばせる!  
 
 が! 
 リンクがそうまでするのなら、そんなに派手なことをしてくるのなら、わたしもそうしたって 
かまわないだろう。もっと強く、もっと速く、この手を動かしてもいいだろう。どうするのかと 
いうと、そう、リンクがしてくれているのは指でのセックス、それならわたしがしてあげられるのは 
手でのセックス、つまり、握った手を上にやって、下にやって、上にやって、下にやって、 
上に、下に、上に、下に、こうして往復させてやれば、こすってやれば、しごいてやれば、 
あなたは感じるはず、あなたは気持ちいいはず、いいでしょう? いいでしょう? わかる、 
わかるわ、あなたの表情、あなたの息づかい、あなたが悦んでくれているのがはっきりとわかる、 
もっとしてあげる、もっとしてあげる、あなたももっとしてちょうだい、もっとしてちょうだい、 
もっと、もっと、もっと── 
 突然リンクの手が止まる。思わずわたしも手を止める。何かあったのかいぶかる暇もなく、 
ぐいと頭を下に押しやられる。 
 そこには、それ。 
 わたしの右手と、その中にあるもの。 
 求められていることは── 
「ぼくにも……」 
 ──理解できた。 
 口でのセックス。 
 普通には汚いとされている場所に口接することを、わたしは…… 
 微塵も厭わない! 
 すでにリンクはそうしてくれた。今度はわたしがする番だ。義理でお返しするのではない。 
心からそうしたい、リンクを口で愛してあげたいと切望しているわたしなのだ。 
 リンクが仰向けのまま脚を開く。その間に身を移して蹲る。顔を寄せる。右手を添えて観察する。 
 わたしと同じく無毛の股間。そこにすっくりと立ち上がる肉の棒。 
 一般的な尺度からすれば、小さいと表現すべきなのかもしれない。事実、見ていてかわいいとも 
思える。しかしそれがわたしの中でどんな活躍をしたかと考えたら、雄々しい、逞しいと評して 
あげたくなる。 
 最初に握った時から察知していたように、全体がべっとりと濡れている。いま添えている 
右手にも粘性が及んでいる。わたしの中にあるうち、そこから分泌される粘液がまとわりついたのだ。 
だがそればかりではない。リンク自身の体液も混ざっている。それの全長を覆う皮膚が、 
先端部では少し途切れていて、ちょっとだけ中身が覗いていて、そこにある小さな裂け目から、 
透明な液体が滲み出ている。精液ではない。精液なら白いはずだし、男が射精するのは絶頂した 
時であるはずだし、何より、リンクは射精しない。初めての契りのあとでそうと知った。わたしが 
初潮を迎えていないのと同じで、まだリンクは射精するほどの年齢に達していないのだ。そこに 
滲み出ている液体は、わたしが性的に興奮して分泌するのと同種の粘液。言い換えれば── 
わざわざ言い換えるまでもないことではあるが──いまのリンクは性的に興奮している。 
その興奮をわたしはもっと高めようとしている。 
 この口で。 
 どうすればいいのか、ここでも知識を欠いているわたしだけれど、手であれだけできたのだから、 
口でもできるだけやってみよう。 
 まずは…… 
 先端に舌をつける。ちょんと。 
 それが震えを示す。ぴくりと。 
 反応してくれたのだという喜びと、いまのでよかったのだろうかという危ぶみが、組み合わさって 
心を揺らす。リンクの顔をうかがう。目を閉じて浅い呼吸を繰り返している。忘我の表情。 
間違ってはいなかったと安心し、舌は掬い取った液体を調べる。かすかに辛いが、おかしな 
味ではない。  
 
 ならば…… 
 次は先端に唇をつける。ちょんと。 
 再びそれが震えを示す。ぴくりと。 
 その震えだけで、わたしは正しいやり方をしているのだとわかるから、もう迷いは持たず、 
舌と唇を側面に這わせて、根元まで這わせて、自分の粘液を舐め取って、代わりに唾液を 
まとわりつかせて、耳に届くあなたの呼吸音の速まりが興奮の高まりを正確に表していると 
胸をわくわくさせながら、附属する左右の袋にも達して、まわりの皮膚にまで遠征して、そこで 
引き返して、来た道を戻って、先端部に立ち返って…… 
 興味を惹かれる。 
 皮をかぶった先端部の中身。確か亀頭というのだった。どんなものであるのだろう。 
 皮膚を少し押し下げてみる。それはなめらかに後退し、覗いて見える範囲が少し広がる。 
なおも押し下げ、 
『あ!』 
 抵抗があった!──と思った瞬間、皮膚はくるりと捲れてしまい、 
「うッ!」 
 あなたは呻きを漏らす。 
「ごめんなさい、痛かった?」 
「……いや、大丈夫」 
 ほんとうに? ほんとうに? 嘘をつけないあなただけれど、いまもそのとおりのあなたなの? 
「大丈夫だよ。心配しないで」 
 そこまで言ってくれるのなら信じるわ。そうね、傷ができているふうでもないし、血が出ている 
わけでもない。ではあっても、気をつけよう。気をつけよう。やっぱりここは敏感な場所。 
優しくしてあげなくてはいけない場所。 
 改めて露出部を見る。 
 兜のような外観。赤みを帯びた表面。先からこぼれる粘液がてらてらと光って。 
 きれい──と素朴に思う。 
 しばし見入ったのち、しようとしていたことに取りかかる。 
 舌先で、触れる。 
「あッ!」 
 あなたの声。ぎくりとする。顔を上げる。 
「違うんだ。痛いんじゃなくて……とても、よくって……」 
 ほっとする。と同時に胸が熱くなる。 
 感じてくれているんだわ。あなたはあなたの中心の、さらにその中心の部分で、わたしを感じて 
くれているんだわ。 
 続けよう。続けよう。続けてあなたに感じてもらおう。 
 舌を伸ばして舐めまわす。唇をかぶせて吸いたてる。そして全体を口内に含む。歯が当たらない 
ように注意して、頬をすぼめて、舌を絡めて、思いつく限りのことをして、それを口の中で弄ぶ。 
 あなたは不規則な喘ぎを漏らす。腰を間欠的に震わせる。快美に耐えきれず悶えている。 
 そう、わたしはあなたを悶えさせている。わたしはあなたを操っている。全裸をさらして見せた 
時と同じく、いいえ、その時以上の誇らしい気持ちにわたしはなっていて、わたしにもこういう 
ことができる、口だけであなたをよがり狂わせることができると自信を持って、これからあなたを 
興奮の坩堝に追いこんで── 
 ──あげたいのはやまやまなのだけれど、わたしは、ああ、わたしの方は、ついさっきあなたの 
手でかきまわされた場所を、いまはあなたの手が届かない位置にあって虚しく泣き濡れている 
だけの場所を、うずいてうずいてどろどろに熔けそうになっているその場所を、どうにかしたい、 
どうにかして欲しい、ならばあなたが感じている場所とわたしが感じている場所を合体させるのが 
最善の方法、要するにわたしがして欲しいのは、いますぐあなたがわたしを組み敷いて、わたしの 
上にのしかかって、わたしの口の中にあるこれを、わたしの別の口に力の限り押しこんでくれること!  
 
 口を離す。顔を上げる。願いをそのまま言葉にすることはとてもできない。だからあなたを 
じっと見つめて、目と表情に精いっぱい意図を語らせて…… 
 ところがあなたはそうしてくれない。ベッドにつけていた頭を浮かせて、とろんとした顔に 
不審そうな色をまじえて、わたしの視線を受け止めている。なぜ口を使うのをやめるのかと怪訝に 
思っているようだ。なんと察しの悪いあなた。こちらから言ってやらなければならないとは。 
恥ずかしい。でもこの期に及んで恥ずかしがるのはかえっておかしい。言ってやろう。言葉を 
限って言ってやろう。 
「して」 
 通じるだろうか。これで通じるだろうか。 
 通じた! 
 あなたは微笑んで、左手をわたしの方に差し出してきて…… 
 それだけ? 
 起き上がろうともしない。何を考えているのか。 
「おいで」 
 え? どこに? 
「君が上になって」 
 わたしが? 上に? 
「わからない?」 
「わかる……けれど……」 
 体位に詳しいわけではないものの、その程度のことなら理解できる。そもそも初めての時、 
眠っているあなたと契りを結ぶのなら、そういうふうにするしかないと思っていた。が…… 
「上になって……それから……どうすればいいの?」 
 いまの場合、上になるだけではすまないのだ。真のセックスには動きが伴う。下になるのなら 
差し支えはない。あなたが動いてくれるから。だけど…… 
「さっきみたいにすればいいさ」 
「さっき──って?」 
「結び合った時、腰を揺らしてただろ?」 
 愕然となる。 
「……そんなこと、わたし、してた?」 
「してたとも。すごい勢いだったよ。覚えてないの?」 
 覚えていない。全く覚えていない。 
 あなたの緩やかな動きに酔いしれる一方で、緩やかなのがもどかしくもあって、もっともっとと 
心の中で叫んで、心の中だけでなく言葉にもして叫んで、その叫びに応じてあなたが動きを 
極限まで激しくしてくれたから、わたしは「究極の快感」に到達できた──と思っていたのに、 
あの激しさには、実はわたし自身の動きも作用していたのだ、と? 
 顔から火が出るとは、まさにこのこと! 
 女のわたしが自分から腰を振っていたなんて。そこまではしたないわたしだったなんて! 
『でも……』 
 羞恥が感悦へとすり替わってゆく。 
 わたしはただ受け身でいたのではなかった。無意識にではあっても活動していた。そうしてこそ 
──あなたと共同してこそ──到達できた、あの最高地点だったのだ。 
 あなたとともにそこへ至るためなら、どんなことだってやり通してみせよう。手を使い、 
口を使ってあなたを悦ばせられたわたしではないか。そのわたしが、あなたの上になって、 
意識的に主体的に女の部分を使って、いまだ途上にある悦びを完全なものとすることに、 
何の支障があるだろう!  
 
「やってみるわ」 
 とゼルダは意志を言葉にし、次いで行動にも移していった。 
 上半身を起こす。膝立ちになる。仰臥するリンクの腰部を跨ぐ。起立している肉柱を右手に持つ。 
そろそろと身体を下げる。大きく開いた股の中央に、それがひたりと触れかかる。 
 ほんの軽微な接触が、得も言われぬ快さを醸し出す。 
「ん……」 
「う……」 
 二つの小さな呻きが重なった。自分が感じているように、リンクも感じているのだと信じられ、 
ゼルダの胸は高鳴った。 
 さらに少し腰を落とすと、接触の広さと強さが増し、併せて快さの程度も増した。先端が 
入りこんでいるのだった。代わりに把持が難しくなった。右手を離す。浅くはあっても結合は 
確実で、快さが絶たれることはなかった。 
 そのあとにも特段の関門はなく、ゼルダの腰は下降を続けた。間もなく位置は安定した。 
尻がリンクの股間に密着している。全長が内部に没したのだった。 
 ゼルダは敢えて静止を保ち、両目を閉じて、結合の完遂がもたらす極上の旨味を満喫した。 
 上から体重をかけているせいか、その部の充溢感は、下になって突かれるよりもはるかに大きい。 
さほどの長さでもないリンクのそれが、あたかも喉元まで届いているかのごとく感じられる。 
そんなふうに貫かれている、串刺しにされているという意識が、自然と胴を垂直にさせる。 
 けれども静止状態のままではいられない。かくも素晴らしい充溢感を、なお上まわる素晴らしい 
境地が、先に待っているのだった。 
 ゼルダは体動を開始した。動き方は考えついていた。膣内での摩擦が快感を生む。そうなる 
ように動けばよいのである。 
 直立した胴を上下させる。初め、おとなしくゆっくりだったその運動は、狙いどおりに快感が 
増幅したことで、徐々に勢いを強めていった。 
 口が忙しく喘ぎを吐く。耳にも喘ぎが聞こえてくる。目をあけてみると、リンクの顔が 
引きつっていた。苦しいのではなく気持ちがいいのだとわかった。それがいっそうの快感を呼んだ。 
身の躍動を抑えられなくなった。 
 が、快感の高まりは姿勢の制御を狂わせる。直立を維持するのが困難になる。 
 やむなくゼルダは運動を止めた。胴を前に傾け、リンクの両脇に手をついて、ふらつく上体を 
支えた。 
 その格好が新たな快感を誘った。結合部よりも上にある敏感な一点が、前傾によってリンクの 
肌に接したのである。この機を逸したくないと思うより早く、それまでとは違った運動を、すでに 
ゼルダは始めていた。前後に、左右にと腰を揺らし、そこをこすりつけることから生じる愉楽を 
堪能した。隣り合った二つの場所で同時に快を得られている自分が、とてつもなく恵まれた存在と 
感じられた。  
 
 そこへ予期せぬ要素が介入した。リンクの手が両胸を占拠し、乳首を撫でさすり始めたのだった。 
二つどころか四つの部位を刺激されることになり、ゼルダの心身は危うく壊乱しかかった。 
とてつもないと見なした恵みは、まだ真のとてつもなさには及んでいなかったのである。 
 切迫した声を発し続ける口から、溜まった唾液があふれこぼれる。止めようとしても止められない。 
垂れ下がる雫は、ちょうど真下にあったリンクの顔へと向かい、それをリンクは開口して受けた。 
意想外の行いが感奮を惹起した。ゼルダの両腕は力を失う。流涎の軌跡を追って頭は落ちる。 
唇と唇が第五の接触点を形作り、すかさず活発な交流に移行した。 
 二つの胴に挟まれたリンクの両手は、繊細な動きを封じられ、やがてそこから撤退した。しかし 
刺激は弱まらなかった。胸と胸とを直接こすり合わせることができるからだった。制御するに 
容易な姿勢とあって、動きは思うがままである。欲情の滾りをとどめるつもりもなく、ゼルダは 
奔放に身体を蠢かせ続けた。 
 出し抜けに股間が衝撃を感じた。衝撃は周期をもって連続した。リンクが腰を突き上げて 
きたのだった。 
 こちらが上に覆いかぶさっているせいか、あまり強烈な攻めは繰り出せないようだ。なのに 
突いてくるということは、さらなる快感をリンクは欲していて、かつ、こちらからもさらなる 
快感を引き出したがっているということ。 
 合わせて腰を上下させる。うまくいかない。うつ伏せの状態では運動の方向が合致しないのだった。 
 ゼルダは上体を起こした。ただし直立には戻らず、両手を支えとして前傾姿勢を保持した。 
それで充分だった。二つの動きが調和した。リンクが腰を引けば、ゼルダは腰を浮かせる。 
リンクが腰を突き上げにかかれば、ゼルダは腰を落とす。互いに向かう力の総和が最大となる 
ように、絶妙な共同運動が展開される。 
 ──そう、共同! 
 リンクの動きが速まった。頂点を求めているのだと知れた。ゼルダも動きを速くした。肉体は 
炎上し、精神は飛翔した。頭の中で金属的な唸りがし、次第に思考は稀薄化した。 
 意識が消え去る寸前となって、股間に加わる衝撃が減じた。リンクが体動を停止させたのだった。 
が、自分のものではない動きが、なおそこにはあった。より詳細にそれを感じ取ろうとして、 
ゼルダも腰の動きを止めた。膣壁が脈動を感知した。 
 ──あなたをここに至らせることができた!  
 感銘が誘爆を導いた。 
 随喜の破片が全身に拡散してゆくのを自覚しながら、ゼルダは突っ伏し、意識の途絶をおのれに 
許した。  
 
 覚醒した時、体位は変わっていなかった。頭はリンクの顔のすぐ傍らにあって、ベッドに 
接していた。耳朶をかすめるリンクの荒々しい呼吸が、失神していた時間の短さを物語っていた。 
 リンクが息を整えるのを待って、その上に置いていた身体を、ゼルダはゆっくりとベッドに 
移した。満ち足りた気分と疲労により、結合の解除は安らかに受け入れられた。二人は互いを 
やわらかく腕に包み合い、それがゼルダの安らぎを深めた。 
 感動を如実に表す短い言葉が、二人の間でぽつぽつと取り交わされた。言葉の間隔は少しずつ 
開いてゆき、やがて沈黙が場を占めた。心地よい沈黙だった。 
 ほどなくリンクの呼吸は、かすかな音の規則的な繰り返しとなった。眠りに入ったのである。 
 その寝顔に見入りつつ、ゼルダはおのれの心を吟味した。 
 明日──いや、もう今日という日になっているが──リンクはこの城を発つ。 
 胸の波立ちは起こらなかった。そうあるべきリンクなのだ、と、すでに了解はできていた。 
 リンクは行く。世界を知るために。世界を守るために。 
 それと同じ使命を、わたしもまた、担っている。城を離れられないわたしにも、すべきこと、 
できることは、少なからずあるだろう。わたしはわたしの本分を尽くさなければならない。 
(ぼくとゼルダの関係が強まれば強まるほど、世界はいい方に進んでいく) 
 あの言にどれだけの拠り所があるのかはわからないけれど、あれがリンクの単なる思いつきでは 
ないことを、わたしは確信できる。 
 世界で何が起こっているのか、どんな具合に動いていっているのか、全部、わたしに教えて 
くれる──とリンクは言った。いずれハイラル王国を統治する立場となるわたしにとって、 
リンクの教示は欠くべからざる糧となる。 
『それに……』 
 会うごとになされるはずの、リンクとの交歓も…… 
 ふと思考が垣を越える。 
 城を離れられないわたし──と思いこんでいるが、ほんとうにそうなのだろうか。わたしだって 
城を出て、旅することくらいできるのではないか。 
 いますぐ可能だとはいわない。しかし、自らの目で世界を見る機会が、将来的にも皆無で 
あるとはいえないのではないか。むしろそういう機会を持つべきではないのか。 
 持つべきだ。 
 リンクに依存してしまうことなく、わたしはわたしで、主体性をもって、王女として独り立ち 
しなければ。 
 わたしにはそれができる。 
 セックスでも主体的であれたわたしなら──と、いささか強引な理由づけを、さして強引とは 
考えず、ただし微笑ましい感をも抱きながら、新たな思いを定めるゼルダだった。 
 
 
To be continued.  
 

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