新しいシリーズを始めます。 
『私本・時のオカリナ』のリンクが冒険を終えて七年前に戻り 
ゼルダと仲よく暮らしている世界でのお話です。 
『私本』の設定をそっくり引き継いでおり、その意味では続編なのですが 
全体の展開や雰囲気はかなり異なります。 
そこで「第六部」とはせず、別のシリーズとして書くことにしました。 
順序としては『5-12 Zelda VII』の続き。おおむね『Epilogue』で概観した時期が舞台です。 
(つまり原作のストーリーとは全く重なりません) 
 
 
 
 
 リンクが言った。 
「旅に出ようと思うんだ」 
 ゼルダは返事ができなかった。 
 ハイラル城の自室の居間で、明るい陽が差す窓際のテーブルに向かい、椅子に身をくつろがせて 
午後のお茶を喫しながら歓談していた時のことである。 
 同席していたインパがリンクに問うた。 
「どこへ行く?」 
「コキリの森へ」 
 ゼルダは意図を把握できた。すでに事情は聞かされていた。 
 九年前、ハイラル王国の騎士であったリンクの父親は、王国の勢力拡大を図るよう命じられ、 
妻と生まれたばかりの息子──すなわちリンク──を伴って、コキリの森近くの村に移住した。 
ある夜、村はゲルド族に襲撃され、武運つたなく父親は戦死した。重傷を負った母親は、リンクを 
抱いてコキリの森に逃げこみ、その将来をデクの樹に託して息を引き取った。父親の遺体は 
ハイラル城に運ばれ、戦没者のための墓地に葬られた。一方、母親の遺体はデクの樹によって土に 
返され、定まった墓は存在しない。 
 死後の両親をひとつ場所に添わせてやるのは無理としても、せめて母が斃れた地の土を、父の 
眠る地に加えてやりたい──とリンクは望んでいるのだった。 
「でも、それだけじゃないんだ。他にもいろんな所へ行ってみたいんだよ。この世界のハイラルを、 
ぼくは、まだあまりよく知らないから」 
「なるほど、見聞を広めるつもりなのだな。殊勝な心がけだ」 
 インパは微笑み、次いでゼルダの方に顔を向けた。 
「姫のご意見は?」 
「そうね、とてもいいことだと思うわ」 
 努めて平静に答えたものの、胸は大きく波立っていた。「この世界のハイラル」というリンクの 
言いまわしの奇妙さを追求してみる気にもなれないほどに。 
「出発はいつだ?」 
「明日にでも」 
 ──明日? 
 いっそう強まるゼルダの胸の波立ちに感づく様子もなく、リンクとインパは対話を続ける。 
「準備はできているのか?」 
「いや、まだなんだ。それについては、頼みたいことがあって……」 
「食料やルピーなら心配するな。必要な分は渡してやる」 
「ありがとう。助かるよ」 
「武器は? 辺境には野生の魔物が巣くっている地域があると聞くが」 
「コキリの剣とデクの盾で、たいていの敵には対応できると思う。飛び道具ならパチンコと 
ブーメランがあるし」 
「ブーメランはキングゾーラに貰ったのだったな」 
「うん。ダルニアが分けてくれた爆弾も、まだ残っているよ」 
「そうか。しかし他にも、地図なりコンパスなり、携えるべきものはあるだろう。見せてやるから、 
いまのうちに選んでおけ」 
「わかった」 
 リンクが席を立った。その目がゼルダを見た。何か話したそうな表情である。が、実際に口から 
出てきたのは、ごくありふれた言葉に過ぎなかった。 
「じゃあ、またあとで」  
 
 ひとり室内に残ったゼルダは、椅子に腰を据えたまま、思いに自らを沈ませた。 
 思いの中心に疑問があった。 
『わたしたち二人のこれからのことを、リンクはどんなふうに考えているのかしら』 
 根底に揺るぎはない。 
 出会いの日、ハイラル城の中庭で、ガノンドロフの魔手から世界を守ろうとする互いの意志を 
わたしたちは確かめ合い、口づけを交わし、そして、その夜、男女の契りを結んだ。それは 
ガノンドロフを倒すのに必須の事項であると──理由はわからないまでも──わたしの予知は 
断言していて、リンクもまた同じ確信を──これも詳細は不明ながら──持っていたのだけれど、 
そうした使命感のためだけではなく、互いが純粋に相手を想い、相手に惹かれていたからこその 
行為であったことは間違いない。 
 わたしはリンクを愛している。 
 リンクはわたしを愛している。 
 互いが言葉にして伝え、なおかつ、言葉で表現できない分は心と肉体に語らせた、動かしようの 
ない絶対の真実。 
『でも……』 
 あれ以来、わたしたちは一度も身体を重ねていない。 
 理由はいくつかある。 
 実にあわただしい日々だったというのが一つ。 
 ゲルド族に反乱の企図ありとの情報をリンクがもたらし、承けてインパは探索に取りかかった。 
そんな緊迫した情勢のもとでは、とうてい他のことにかまけてはいられなかった。 
 和平の約定を結ぶと偽ってハイラル城に滞在していたガノンドロフは、いち早く王国側の 
温度変化を察し、ゲルドの砦に舞い戻った。状況から叛意は明白とみえたものの、反乱の 
決定的証拠は得られずじまいであり、また、ゲルド族との全面対決に踏み切るだけの準備が王国に 
なかったこともあって、いまだガノンドロフを討つには至っていない。それでも当面の危機は 
回避された。 
 だが、まだ問題は残っていた。ガノンドロフは『炎の精霊石』と『水の精霊石』を奪わんとし、 
各々を所持するゴロン族とゾーラ族に対して、卑劣な陰謀を張りめぐらせていた。その陰謀を 
打ち破るため、リンクはデスマウンテンとゾーラの里に赴いた。さほど長い期間ではなかったにせよ、 
わたしたちは別れて過ごさねばならなかった。 
 みごとに目的を果たして帰還したリンクは、ハイラル城内で大きな注目を浴びる存在となった。 
過去の調査により名家の出であることが判明した。国王──わたしの父──からは功績を賞せられ、 
将来の厚遇を約束された。それは喜ばしい成りゆきではあったが、反面、不都合な事態でもあった。 
人々の関心がリンクに集中したせいで、わたしたちは迂闊な行動がとれなくなってしまったのだ。 
 わたしとリンクの関係は、絶対、秘密にしておかなければならない。 
 知っているのはインパだけだ。 
 あの夜、リンクとの契りを主張したわたしを、初め、インパは厳しく批判した。乳母という 
立場からすれば当然だ。しかし結局は許容してくれた。今後、わたしたちが交際を続けることも、 
基本的には認めてくれている。 
 ただし、しっかりと釘は刺された。 
 自分の立場と互いの年齢をよくわきまえ、子供らしいつき合い方をするように──と。 
 言われるまでもない。 
 九歳という二人の年齢。加えて王女というこちらの立場。 
 本来なら肉体関係などあってはならないわたしたちなのだ。 
 それはよくわかっている。 
『わかってはいる……けれど……』 
 身体の交わりが生む悦びをひとたび知ってしまったわたしは、もはや「子供らしいつき合い方」 
では満足できない。リンクに抱かれたい、リンクと肌を触れ合わせたい、リンクを我が身に 
受け入れてひとつになりたいとの切実な欲求を、どうにも抑えきれないのだ。 
 これが性欲というものか。 
 なんとふしだらなおのれであろうかと省みる一方で、そうしてこそ真の愛ではないかと開き直る 
自分がいる。 
 そんなわたしの胸の内を、インパは見通しているに違いない。いつもわたしの行動に注意を 
払っている。契りの再現に至れない二つ目の理由がそれだ。  
 
 実際、契るどころではなかった。あの日からこっち、わたしとリンクの間に起こった恋人らしい 
できごとといえば、初めての一夜が明けた朝、インパの面前で交わしたキスだけだ。いま思えば、 
あれがインパに警戒心を植えつけてしまったらしい。以後は、いつ、どこで、何をするにも、 
インパの目が光っている。リンクと二人きりでゆっくり話をすることすら、めったにできない。 
いましがたのお茶の場面にしても、リンクだけを招き入れようとしたところへ、呼びもしないのに 
インパが現れ、ご一緒させてもらいます、と割りこんできたのだ。 
 インパがリンクの旅立ちに賛同するのも、わたしとリンクを引き離したいからではないのか、 
と考えてしまう。 
 さすがにこれは邪推だろう。ただ、リンクの旅については、別の面でも懸念がある。 
 コキリの森の土を持ち帰りたいとの決意は先に聞いていた。けれどもそれにはとどまらなかった。 
旅から旅への暮らしをリンクは望んでいるのだ。 
 見聞を広めようという意向は理解できる。世間から隔絶されたコキリの森で九年も暮らしてきた 
リンクだ。何もかもが新鮮なのだろう。大いに心を刺激されているのだろう。リンクのためを 
考えるのであれば、喜んで旅に送り出してやるべきだ。「とてもいいことだと思うわ」とわたしが 
言ったのは、そのように分別したからで、あれは決しておざなりな弁ではなかった。 
 だが、リンクが旅を望む理由は、他にもある。 
 もしリンクがハイラル城で暮らしたいと願ったら、実現は容易だったはずだ。父を含め、城内の 
人々は、おおむねリンクに好感を持っている。わたしの学友とか、そんな種類の地位をリンクが 
得るのに、さして問題は生じなかっただろう。ことに父は、断絶していた家を継ぐようにと 
リンクに勧めさえした。そうしていれば、リンクの地位は、なおも確固たるものとなっていた。 
 ところがリンクはそれを希望しなかった。 
 希望しないと表明したわけではない。しかし、家を継げと父に言われた時の困惑した様子が、 
そして、まだリンクは若年であるから家督の件は将来時機を得てからにしては、とわたしが 
取りなした時の安堵の表情が、ありありと内心を語っていた。 
 リンクは自由でありたいのだ。 
 気持ちはわかる。自然の中でのびのびと生きてきたリンクにすれば、城での生活は肌に合うまい。 
わたしですら窮屈に感じることがしばしばなのだ。 
 だから、旅に出るというリンクの発言は、実は、意外ではなかった。ああ、やはり──と 
思われたのだった。 
 が…… 
 当初の疑問が戻ってくる。 
『わたしたち二人のこれからのことを、リンクはどんなふうに考えているのかしら』 
 疑問はさまざまに分裂する。 
 わたしと一緒に城で暮らすよりも、旅する方がもっと面白いとリンクは思っているのか。時には 
戻ってくるのだろうけれど、愛するひとと片時も離れていたくないと思うのが普通ではないのか。 
男と女では考え方が違うのか。それともわたしの考え方が偏っているのか。 
 さらなる疑問。 
 契りを結んだあの夜のあと、リンクはわたしを求めてこない。欲求をぶつけてこようとしない。 
 リンクはわたしに性欲をそそられないのだろうか。欲情に囚われているのはわたしの方だけ 
なのだろうか。リンクにとってわたしとの契りは、ガノンドロフに対抗するための手段に過ぎず、 
一度なされたら完了ということなのだろうか。それが契りの再現されない理由の第三なのだろうか。 
 日々のあわただしさやインパの存在に妨げられているだけなのかもしれないが、そのつもりが 
あるなら意思の片鱗くらいは見せてくれてもよさそうなものだ。なのに、そんな気配をリンクは 
一向に示さない。 
『いや……』 
 示したのでは? 
 さっき部屋を出てゆこうとする時、リンクは何か言いたげな素振りをした。ひょっとすると、 
あれはリンクが意思の片鱗を垣間見せようとした徴候だったのでは? 
 深読みに過ぎるだろうか。 
 そうではないと信じたい。 
 確かめておかなければ。明日には旅立ってしまうリンクなのだ。 
 徐々に傾いてゆく窓からの陽光を受けつつ、ゼルダはじっと黙想を続けた。やがて思いは 
定まった。王女たる身を考慮した上で、けれどもやはりそれしかすべはないという結論だった。  
 
 夕餉の時刻となり、ゼルダは食堂で再びリンクと顔を合わせた。 
 ゼルダの食席は寂しいことが多かった。普通ならそこにあるべき家族が、ゼルダの場合、 
父ひとりだけであり、しかも国王とあっては政務や饗礼に忙しく、ともに食事をする機会は 
稀なのだった。ところが最近では、食卓につくのが心楽しいゼルダである。リンクがそばにいて 
くれるからだった。 
 その晩も楽しいことに変わりはなかった。が、例のごとくインパに居座られたため、会話は 
無難な内容にとどめざるを得なかった。さもあろうと予期していたので落胆はしなかったものの、 
旅への意気込みを熱心に語るリンクを見ていると、切ない気分になるのを如何ともしがたい。 
ただ、時にリンクから向けられる意味ありげな視線が、先に達した結論を補強してくれるものと、 
ゼルダには思われた。 
 食後、暫時の雑談を経て、リンクはおやすみの挨拶をし、自室へと去った。ゼルダも自分の 
部屋に引き取り、侍女を呼んで入浴と寝支度をすませた。 
 侍女が退いたのち、ゼルダはベッドの縁に腰を置き、しかし横にはならなかった。城内の人々が 
寝静まる頃となるのをひたすら待った。 
 リンクのもとへ忍んでゆこうとしてのことである。 
 想う相手の真意を質し、そして想いを遂げようとするならば、それが唯一の方法なのだった。 
 リンクが初めてハイラル城を訪れた時に提供した、王家の私的な客を泊める部屋の一つが、以来、 
リンクの私室のようになっている。深夜、そこへ忍んでゆくという状況は、かつての契りの際と 
同じである。ゼルダは興奮を感じていた。 
 ただし大きな違いもあった。 
 あの時は協力者だったインパが、今回は障壁と化している。そちらへの警戒を怠ってはならない。 
 ゼルダの部屋は、居間、書斎、寝所の三域に分かれ、さらに化粧室と浴室が附属している。現在、 
ゼルダがいる寝所には、三つのドアがあって、一つは居間に、一つは化粧室と浴室に通じている。 
ゼルダは残る一つ──隣接するインパの部屋へと繋がるドア──に注意を集中させていた。 
 夕食のあと、インパは部屋に籠もったはずだ。いまもそこにいるはずだ。壁も扉も厚くできて 
いるから、気配を探るのは難しいが、かすかな音さえしない時間がしばらく続けば、眠って 
しまったと判断してもいいだろう。 
 一方で、ゼルダは自らの気配を隠そうとも努めた。寝所を含め、部屋の灯りはすべて消して 
あった。就寝したと装うためである。シーカー族として裏の仕事に携わった経験があるほどの 
インパなら、それくらいはしないと騙されてはくれない、と考えての処置だった。 
 暗闇の中、どれほどとも計りがたい長さの時が、のろのろと、けれども着実に流れてゆき…… 
 ゼルダは行動に出る決心をした。 
 廊下に通じているのは居間だけである。足音を殺して移動する。 
 そこで自分の格好が気になった。 
 侍女を呼んで寝支度をした時、薄い寝衣に着替えている。そんな姿で夜更けに男の部屋へ 
忍びこむところを、万が一、誰かに見られたら、怪しまれるのは必定だ。もちろん、姿が 
どうであれ、不審を呼ぶことに変わりはないが、ふだんの衣装を身に着けていれば、まだしも 
言い訳が可能だろう。 
 ゼルダは寝所に引き返し、物音をたてないよう留意しながら、手探りで衣服を選び出した。 
再び居間に戻って、着ているものを取り替えた。着衣に乱れはないと確かめてから、廊下の方へと 
歩みを寄せた。 
 そっとドアを引きあける。 
 息を呑む。 
 インパが立っていた。  
 
 廊下に点在する燭台からのほのかな明るみを受け、ドアの真正面に立ちはだかったインパが、 
腕を組んだまま身じろぎもせず、厳格な視線を向けてくる。いかにも待ち構えていたという 
ふうである。 
 服を着替えたのがまずかった。あれで気配を悟られてしまった。インパを出し抜くことなど、 
できるわけがなかったのだ。 
 悔いる思いに萎縮と羞恥が加わり、ゼルダはいたたまれない気持ちになった。インパの顔を 
正視できない。するはずだった言い訳も出てこない。インパも無言を保っている。沈黙が 
いたたまれなさをいっそう強くした。 
 ややあって、肩に手が置かれた。落としていた目を上げると、インパが室内に向けて顎を 
しゃくった。ゼルダは従った。 
 居間の中央に置かれたソファにすわるよう、手ぶりで促される。そのとおりにする。インパは 
部屋の灯りをつけ、廊下へのドアを閉めたのち、ゼルダの前に立って口を開いた。 
「こんな遅くに一人でどこへ行かれるおつもりだったのです?」 
 冷ややかな声だった。わかった上で訊いているのだと判じ、黙していると、インパが答を代弁した。 
「リンクの部屋ですな?」 
 断定的な言い方に圧力を感じ、しかたなくゼルダは頷きを返した。 
「深夜、一つ部屋にいる男女が何をするかと考えた場合、あることが想像されます。あなたも 
そのことを意図していたと解してよろしいですな?」 
 再度、頷く。 
 インパはため息をつき、説諭とも懇願ともつかぬ口調になって、なお言い募った。 
「私は何度も申し上げてきました。あなた方はまだ子供だし、ましてや、あなたは王女なのですよ。 
つき合い自体をやめろとまでは申しませんが、つき合い方をお考えください。軽はずみな 
振る舞いで、あなた方の関係が他に漏れでもしたら、とんでもないことになります。あなたも 
おわかりでないはずは──」 
 インパが言葉を切った。廊下側のドアに注目している。どうしたのかといぶかしんでいると、 
インパは足音もたてず戸口へと移動し、やにわにドアを引いた。 
 そこにはリンクの姿があった。 
 いきなり眼前のドアが開いて驚いたのだろう、ものも言わず、茫然と佇立している。 
 ゼルダも驚いた。併せて胸がときめいた。 
 リンクはわたしに用があったのだ。何の用? もしかしてわたしと同じ? リンクが先に見せた 
素振りは、やはりその意思表示だった? リンクの服はいつもの緑衣。着替えをしたわたしと 
同一の発想? 
「入れ」 
 インパの短い指示に応じ、リンクはそろそろと室内に歩み入ってきた。場の朗らかならぬ 
雰囲気を察したとみえ、こちらに目を向けつつも、なかなか口がきけない様子である。  
 
 再びドアを閉めたインパが、立ちつくすリンクのそばに寄って、尋問めいた言を発した。 
「なぜここへ来た?」 
 どぎまぎしたふうにリンクが答える。 
「ぼくは……あの……ゼルダと……」 
 途切れ途切れの弁が結尾に至らないうち、 
「契ろうとしてか?」 
 インパがあとを引き取った。リンクは顔を真っ赤にしてうつむいていたが、しばしの間ののち、 
「うん……」 
 と呟いた。 
『リンクもそのつもりだった!』 
 ときめきが歓喜に変じて胸に満ちあふれる。 
「よほど心が通じ合っているようですな、あなた方お二人は」 
 インパが皮肉な調子で言った。 
「しかし認められないものは認められません」 
「でも!」 
 ゼルダは反射的に言葉を返した。歓喜が後押しとなっていた。 
「わたしとリンクの繋がりは、ガノンドロフを倒すのに必要で──」 
「それは前にうかがいました。ですが必要な契りはあの夜の一度きりだったと私は理解しています。 
そうでしょう?」 
 反駁できない。確かにわたしの予知が断言したのはあの夜の契りだけだ。もっとも、一度だけだと 
断言したわけでもないのだが…… 
「仮に一度きりではなかったとしても、大人ならではの行為を城内でみだりに営むのは、とうてい 
感心できたことではありません」 
『え?』 
 インパの台詞に微妙な意味が隠れているような気がした。 
 城内でみだりに? では城外で、あるいはみだりにではなく充分に気をつけてする分には 
かまわないと? 
 感心できたことではない? 認められないというのに比べて否定の加減が弱まってはいないか? 
 あまりに手前勝手な解釈と自覚しながらも、ゼルダはかすかな希望を抱いた。その時、 
「そうじゃないと思っているんだけれど……」 
 リンクがおずおずと発言した。 
「何のことだ?」 
「つまり……必要な契りは、一度だけじゃないんじゃないかって……」 
 胸を衝かれる。 
 契りについてはリンクもお告げを得ていた。わたしの予知が語らなかったことを、リンクは 
知っているのだろうか。 
「ぼくとゼルダの関係が強まれば強まるほど、世界はいい方に進んでいくんじゃないかって…… 
そんなふうに思えて……」 
 そうであって欲しい! いや、リンクが言うならそうに違いない! 
「世界だと? 大きく出たものだな。根拠を聞こうか」 
 言って! リンク! インパにはっきり言ってやって!  
 
「……根拠は……ないよ……」 
 ああ!──とゼルダは心の中で嘆きの声をあげた。 
 ゲルド族が反乱を企図していると述べた時のリンクは、やはり根拠はないと断りつつも、絶対に 
確かなことだと言い切った。その自信あるさまにインパは動かされ、ゲルド族を調査する気に 
なったのだ。いまだって同じように言い切れば、インパは納得したかもしれない。なのにリンクの 
話しぶりはあやふやだ。反乱の件を告げた時ほどの絶対的確信がないからなのだろうが、これでは 
とてもインパを動かすことはできまい。 
 馬鹿正直なリンク! 嘘でもいいからそうだと断言すればよかったものを! 
 けれどもリンクにはそれができない。嘘をつけない人なのだ。たとえついたとしても、内心が 
飾りなく顔に出るリンクなら、誰もが嘘と見破るだろう。 
「だけど──」 
 一転してリンクが力強い声を出した。 
「根拠のあるなしは、この際、問題じゃない。ぼくが言いたいのは……」 
 ひときわ声が大きくなる。 
「今夜、ぼくはゼルダと一緒にいたい! それだけなんだ!」 
「わたしも!」 
 思わず和する。 
「わたしも今夜はリンクと一緒にいたい!」 
 立ち上がる。インパに身を寄せ、その腕にすがる。 
「インパが心配するのはよくわかるわ。でも、わたしの気持ちもわかってちょうだい!」 
 必死の思いで願いをぶつける。 
 リンクの言葉には何の理屈もない。破れかぶれといってもいいだろう。だが、そこがいかにも 
リンクらしい。率直な心情が伝わってくる。 
 わたしは誤っていた。インパを欺くことしか考えていなかった。すべきことはそうではなく、 
リンクの率直さを見習って、自分の内面をさらけ出して、そうしてもインパには通じないかも 
しれないけれど、望むところを衷心から訴えれば、もしかすると、もしかすると…… 
 長い沈黙を挟んで、インパが言った。 
「私は疲れています」 
 意味をとれなかった。聞き間違いかとも思った。が、その続きで真意は知れた。 
「自分の部屋に戻ればすぐ眠ってしまうでしょう。隣で多少の物音がしても気づくことは 
ありますまい」 
「インパ──」 
「とはいえ」 
 にこりともせず語を継ぐインパ。 
「侍女とか用人とかにうるさくされると、さすがに目が覚めるでしょうな。ゆっくり寝みたいから 
朝までこのあたりには近づくなと命じておきます。姫にはご不便かもしれませんが、お許しください」 
 腕にすがっていたゼルダの手を、インパはそっと解き払い、廊下に続くドアへと足を向けた。 
ノブを握ったところで、顔をふり返らせた。 
「戸締まりにはくれぐれもご用心を」 
 インパは部屋を出ていった。最後に少しだけ顔がほころんだように見えた。 
『ありがとう、インパ』 
 ゼルダは胸中で礼を捧げた。  
 
 ドアに施錠して向き直ると、リンクが不思議そうな表情で話しかけてきた。 
「インパは何を言ってたのかな? 意味がよくわからなかったんだけれど……」 
「許してくれたのよ、わたしたちのこと」 
「あれで?」 
 腑に落ちない様子。気性のまっすぐなリンクにしてみれば、持ってまわったインパの言は、 
理解の外にあるのだろう。 
 微笑ましい心持ちとなりながら、そしてようやくリンクへの想いを解放できる場面となった 
ことを喜びながら、しかしゼルダは心にひそむ疑問と懸念を忘れてはいなかった。確かめて 
おかなければならないことが残っていた。 
 ゼルダは再びソファに腰を下ろし、リンクに隣の位置を勧めた。坐すのを待って、 
「リンク」 
 と呼ぶ。 
「なに?」 
 と声が返る。 
「旅に出たいと思うのは、どうしてなの?」 
 ゼルダにとっては自然な問いだった。が、リンクにとっては唐突であったらしい。戸惑った 
ような顔つきで、すぐには返事ができない模様である。 
 代わって述べる。 
「いろんな所へ行ってみたい──って、言っていたわね?」 
「うん」 
「他にも理由があるんじゃない? お城で暮らすのが窮屈なんでしょう?」 
「……正直、それもある」 
「わたしと一緒にいるよりも、旅の暮らしの方がいいの?」 
「そういうわけじゃ──」 
 リンクはいったん語気を強め、次いで答に詰まったふうとなって沈黙し、しばらくののち、 
態度を改めて話し始めた。 
「旅のことは、君には突然で、驚かせてしまったみたいで、悪かった。きちんと言うつもり 
だったんだけれど、これまで機会がなかったんだ。いまがその機会だから、言っておくよ」 
 一息おいて、リンクは宣した。 
「ぼくは君を愛してる。いつまでも愛してる。一生だって愛し続けられる」 
 きゅん!──とゼルダの胸は引き絞られた。そうだとわかっていたことではある。それでも 
たとえようなく嬉しかった。ときめきをも歓喜をも超える無上の幸福感がゼルダを陶酔に誘った。 
 しかしゼルダは踏みとどまった。 
 リンクの話は終わっていない。ここから先が肝腎なのだ。わたしを愛しているとこうまで 
強調するリンクが、なぜ旅暮らしを選択するのか。 
「君と一緒にいると、ほんとうに楽しくて、幸せで、ずっと離れていたくないと思う。だけど、 
旅は必要なんだ。ぼくは世界を知らなきゃならないから」 
 不動の意志がうかがわれた。旅は単なる希望ではなく義務であるとでも言いたげだった。 
「いいかい」 
 リンクが続ける。 
「ぼくたちは、このハイラルを守らなければならない。そうだよね?」 
 頷くのがやっとだった。よけいな言葉を差し挟めないほどの真剣さが、リンクの口調にはあった。 
「そのためには、この世界をよく知っておかないとだめなんだ。ガノンドロフを警戒して対策を 
練っておくという意味もあるけれど、それだけじゃない。この世界のどこで、どんな人たちが、 
どんなふうに、どんな考えを持って暮らしているのかを知って、これはいいとか、これは悪いとか、 
いろんな点があるだろうから、悪い点はよくして、いい点はもっとよくして、みんなが幸せに 
生きることができる平和な世界をぼくたちは作らなくちゃいけないんだ。そうだろう?」  
 
 圧倒される思いだった。感動すら覚えた。 
 まさにわたしたちはそうあらねばならない! 
 かくも広い視野を有するリンクであったとは! 
 それにひきかえ、わたしの視野の狭いことといったら! 
 二人の関係だけにこだわって。課された使命をないがしろにして。これでは王女の名に 
値しないと非難されてもしかたがない。 
 将来、国を治める立場となるわたしこそ、しっかりと世界を見据えていなければならないと 
いうのに! 
 厳しくおのれを責めながらも、ゼルダはとろけるような快さを味わっていた。これほどのひとに 
自分は愛されている、これほどのひとを自分は愛することができているとの実感が、先刻は 
見送った陶酔を呼び戻したのだった。 
「よくわかったわ」 
 心底からの承諾をゼルダは伝えた。 
「どうか世界のすみずみまで旅をして、たくさんのことを知ってちょうだい」 
 リンクはそうであるべきだ。それがリンクの生き方なのだ。城でのほほんと過ごすリンクよりも、 
旅にあるリンクこそがリンクらしい。わたしもその方が好ましいと思う。離れて暮らすのだって 
かまわない。わたしとリンクの繋がりは、常にべったりとくっついていなければ保てないような、 
そんな脆弱なものではないはずだ。 
「でも、たまには戻ってきてね。旅先で見聞きしたことを教えて欲しいから」 
「もちろんさ」 
 勢いこんでリンクが応じる。 
「世界で何が起こっているのか、どんな具合に動いていっているのか、全部、君に教えてあげるよ。 
それから──」 
 突然、声が滞った。勇ましいとさえ感じられていたリンクの表情が、躓いたようにぎくしゃく 
していた。 
「それから?」 
 促すと、 
「それから……あの……」 
 言葉までがぎくしゃくし始めた。 
「……帰ってきたら……その……君と……二人で……」 
 目が伏せられる。 
「……二人きりで……一緒に……ええと……」 
 またもや頬が紅潮していた。 
 ゼルダは新たな陶酔に包まれた。リンクの言わんとするところが理解できたのだった。 
 言い足してやる。 
「今夜、ここへ来た理由と、同じことを?」 
 リンクは小さく頷き、ぼそぼそとあとを続けた。 
「今夜は……旅に出る前に……どうしても……君と一緒にいたかったから……」 
「今夜だけだったの?」 
「え?」 
「いままではそういうふうに思わなかったの?」 
「まさか!」 
 さも心外といった面持ちになって、リンクが声を強くした。 
「ずっとそうしたいと思ってたさ」 
 やはり!──と心を躍らせつつも、気になっていた点を口にする。 
「でも、そんな感じには見えなかったわ。そうしたいだなんて、おくびにも出そうとしなかった 
じゃないの」 
「そりゃあ、いろいろと忙しかったし、始終インパに見張られてたし、それに……」 
「それに?」 
「君がそうしたいと思ってるのかどうか、わからなくて……」  
 
 意外だった。 
「そうなの?」 
「そうさ。君はいつも……なんていうか……毅然としててさ。ぼくがおくびにも出さなかったって 
言うけれど、君の方こそ、とてもその手のことを考えているようには見えなかったよ。もちろん 
前の契りの時は君自身が望んでああしたんだってことはよくわかってるさ。だけど君が得た 
お告げだと契りはあの夜の一回きりで、それ以上は必要ないって君が思ってるとしたら、ぼくだって 
そうしたいとは切り出しにくいじゃないか」 
 笑ってしまった。 
 きょとんとした顔のリンクに向け、弾ける声の下から言葉を送り届ける。 
「わたしたち、馬鹿だったわ」 
「馬鹿? どうして?」 
「だって、二人とも同じことを考えていたのに、お互い気がつかずにいたんだもの」 
「同じって……つまり、君も、ずっと、そうしたいと?」 
 どきりとする。答をためらってしまう。 
 女の側がそんなことを言うのは…… 
『何をわたしは!』 
 今夜はリンクと一緒にいたいと言い放ったわたしではないか。いまさらためらう理由はない。 
「ええ」 
「ほんとう?」 
「ほんとうよ」 
「なんだ……」 
 自嘲含みの笑みを漏らすリンク。 
「だったら思い切って言っとけばよかった」 
 そう、言っておけばよかったのだ。わたしは臆病だった。うじうじと一人で悩んだりせず、 
リンクに対して率直に──さっきインパに内面をさらけ出してみせたように──本心をぶつけて 
いればよかったのだ。 
 でも、もう、すべてがはっきりした。 
 わたしはリンクを欲している。 
 リンクはわたしを欲している。 
 欲し合う二人がすべきことを、とうにわたしは知っていて、もちろんリンクも知っていて、 
だからリンクは、 
「ゼルダ……」 
 とささやいてわたしの手を握ってくれる。わたしも、 
「リンク……」 
 とささやいて握ってくる手を握り返す。互いの温かみをしっとりと感じ取りながら、手だけでなく 
他の場所でも温かみを感じ取ろうとして、わたしたちは顔を見合わせて、見合わせた顔を近づけて── 
 唇に、唇を、届かせる。 
 久しぶりに得るやわらかい感触とともに、期待していたとおりの温かみが伝わってくる。それは 
他でもない、リンクがわたしに寄せる熱情の表れであって、わたしも同じ熱情をリンクに伝えて 
いるのであって、交換される熱情が二人を燃え上がらせ、そうなると唇を合わせているだけでは 
我慢できない。顔を押しつけて密着の程度を強めてみたり、首を傾けて接触の角度を変えてみたり、 
鳥が餌をついばむようにせわしなく離合を繰り返してみたり、果ては舌を絡めてぴちゃぴちゃと 
なまめかしい音をたてて一心に相手の口を貪ってみたりなどするうちに、握り合っていた手は 
いつの間にか互いの腕に、首に、頬に、髪にとさまよっていって、リンクの両腕が肩の上から 
わたしの背にまわされてきて、わたしの両腕は腋をめぐってリンクの背にまわされていって、 
固く、固く、固くわたしたちは抱き合って、それにとどまらず可能な限りの面積で接し合いたい 
わたしたちだから、最適な位置を求めてごそごそと身体を蠢かせてみるのだけれど、このソファと 
いうのはそういう点であまり便利ではない。狭くて動きが制限されるし、そもそも二人が 
正面切って向かい合うためのものではない。ならばもっと便利なように── 
「リンク……」 
 二人が好きなだけ動けるように── 
「あっちで……」  
 
 リンクを寝所に入れるのは初のことである。ベッドの傍らに一つだけ灯したランプは、室内の 
詳細を明らかにするだけの光量を持たない。その脇に立って、見える所へ、見えない所へと 
興味深げに目をやるリンクだったが、ゼルダが居間の灯りを消して戻ると、見る対象はベッドに 
固定されていた。 
 天蓋つきの豪華な作りや、五人が並んで寝てもお釣りがくるほどの広さばかりが、リンクの 
関心を惹いているのではあるまい──と思うと、とうから動悸していた胸が、ますます鼓動を 
速くする。ドアに鍵をかけたあとは、外部から遮断された空間にいる自分たちなのだと否応なく 
認識され、心臓は破れんばかりとなる。 
 どうにかベッドの横まで行き、しかしそこでゼルダは惑いに直面した。 
 ふだんの衣装のままでベッドに入るのはおかしい。入る前に脱がなければならない。でも、いま、 
ここで脱衣すれば、リンクに裸を見られてしまう。すでに最初の契りの時、すべてをリンクの目に 
さらしたわたしではあるが、あれは床に就いてからのことだった。ベッドの外でそうするのには 
抵抗がある。 
 あの時のように、脱ぐ間、リンクには後ろを向いていてもらおう…… 
 口を開くより早く、リンクが行動を開始した。次々に衣服を脱ぎ去ってゆく。発しかけた台詞を 
呑みこんで見守るしかないゼルダの前に、ほどなく一個の裸身は現れた。 
 衝撃だった。 
 先の契りでは何もかもをリンクに任せ、その身をじっくりと眺める余裕もなかったゼルダである。 
リンクの肉体の全貌を──のみならず男というものの全裸体を──初めて目にする機会なのだった。 
 自分とあまり違わない小さな子供の身体でありながら、臆する様子もなく堂々とこちらを向いて 
立つ格好が、諸所に見てとれる筋肉の張りが、そして何より、ぴんと股間で起立を誇示するものが、 
明瞭に「男」を描出している。 
 絵画や彫刻を通じて男性器の形態は知っていた。それが勃起という現象を呈し得ることも、 
その現象の機序や意味も、インパが施してくれた性教育によって、しかと頭に入っている。が、 
単なる知識など、いまや何の重みもない。それを自らの体内に収めた経験があるとの事実さえ、 
現物を目の当たりにしての鮮烈な印象を弱めはしない。 
 言葉もなく立ちすくんでいるうちにも、ぎらぎらした視線が突き刺さってくる。命令と言っても 
いいくらいの一途な訴えかけが、リンクの両目からは放たれていた。訴えの内容はあからさまだった。 
 そうしなければならない。けれども惑いは消えやらない。 
 男らしいリンクに比べて、いかに見劣りするわたしであることか。やせっぽちだし、胸は 
平べったいままだし、女っぽさのかけらもない。もちろん初潮も発毛も迎えてはいない。かくも 
未熟で貧弱な身体をあらわにするのはどうしても──  
 
『いいえ!』 
 こんなわたしでも、あの夜、リンクはきれいだと言ってくれたではないか。いまだってリンクが 
あれをいきり立たせているのは、わたしの裸を見たいがためであって、わたしに欲情している 
からであって、だったらわたしは迷うことなくリンクの求めに応じなければならない! 
 内なる声に従い、ゼルダは身に着けたものを、ひとつ、またひとつと床に脱ぎ落としていった。 
リンクの凝視がともすれば羞じらいを呼び覚まし、動作は滞りかけるのだったが、そのつど 
ゼルダはおのれを励まし、やがて真裸の姿となった。 
 胸と秘部を隠したくなるのを懸命に自制する。隠さずにいてこそリンクの望みをかなえることに 
なるのだと自らを説く。事実、リンクの面差しにはまざまざと感激の色がうかがわれ、それが 
ゼルダにも感激をもたらした。喜びが羞じらいを凌駕し、誇らしい気持ちすら生まれてきた。 
 リンクはわたしに魅されている。 
 その魅されるさまにわたしも魅される。 
 わたしとリンク。リンクとわたし。互いを見て、互いを煽って、高まる情感に心を委ねて、 
強まる情欲に身を燃やして、そうするうちに見ているだけ見られているだけでは情感も情欲も 
囲いきれなくなって── 
 二つの裸体が近接する。自分の腕に相手を包み、相手の腕に自分を包ませ、再度の抱擁が 
成し遂げられる。 
 目の前にあるリンクの顔が、感極まったように震えている。半ば開いた口からしきりに 
吐き出される熱い息が、わたしの顔に吹きかかる。かてて加えて、衣服という夾雑物のない状態で 
抱き合っていると、頻回の呼吸でリンクの胸壁が波打っているのがはっきりと感知できる。心臓が 
どくどくと暴れているのもわかる。そして同じ熱い息や胸の波打ちや心臓の拍動を、わたしも 
リンクに伝えているのだ。わたしたちは命を寄せ合わせているのだ。 
 ああ、わたしの欲求は──リンクに抱かれたい、リンクと肌を触れ合わせたいとの切実な欲求は 
──ついに、こうして、満たされた。言葉にできないくらいの幸福に、いま、わたしは、 
浸されている。けれど、その幸福が最高最大となってはいないことも肯定せざるを得ない。 
身体の正面をぴったりとくっつけ合って立つわたしたちの間で、一箇所だけなめらかな接着を 
成し得ない下腹の部分。そこでは、きりりと固まったリンクの男性自身がわたしの肌に 
押しつけられていて、それを、リンクを、リンクのそれを我が身に受け入れてひとつに 
なりたいという最後の欲求を、いつにも増して強く強く強く強くわたしは意識してしまう! 
 そうなろうとするのであれば…… 
 ちらりと横目でベッドを見る。刹那、視界が傾いた。思わず立ち直ろうとするも及ばず、身体は 
ベッドの上に横倒しとなる。リンクも一緒に倒れている。抱擁は継続されている。リンクに 
寄り倒されたのだと知れ、不意の体動が引き起こした緊張を、ゼルダは一瞬で忘れ去った。 
立ち直る必要はないのだった。  
 

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