ふと疑問が湧いた。 
「どんな具合にするものなの?」 
「あ……ええと……」 
 暫時、はにかみを表情に帯びさせつつも、 
「こんな具合に」 
 リンクは左手をそこにやり、上下方向にこすってみせた。ゼルダは興味深くそのさまを眺めた。 
それはぐったりと萎えてはいたものの、方法自体はよくわかった。自分がリンクに施したのと 
同じ動作である。間違ってはいなかったのだと安堵された。 
 並行して火照りと高ぶりが漸増する。 
 実際にその目的でそうする時は、さぞかし元気にいきり立つのだろうけれど、リンクのそれは 
力を失ったままだ。前にも思ったことだが、男がいったん行き着いたら、復帰するまでには 
多少とも時間を要するものらしい。特にいまは二度も絶頂を経たあととあって、容易には 
回復しないとみえる。 
 女にはそんな制約がない。したければいつでも受け入れられる。 
 いまのわたしがそうであるように。 
 そうなのだ。さらなる交わりをわたしは望んでいる。いくら淫らと思われてもいい。したくて 
したくてたまらない! 
 でもリンクが回復してくれないことには── 
「してくれないかな」 
「え?」 
 脳内にあったのと同一の言葉をかけられ、ゼルダの思いは遮られた。 
「自分でするよりも、君にしてもらいたいんだ」 
 いそいそと従う。リンク本人の希望である。断るいわれはない。これまでの経験から、自分なら 
リンクを興奮させられるはずとの気負いもあった。 
 果たして効果は絶大だった。手と口による鼓舞の結果、ほどなくリンクは立ち直った。 
 逸る心を抑えるつもりもなく、ゼルダはおのれの知るいまひとつの──すなわち先刻とは別の 
──体位をとった。馬に跨るがごとくリンクに跨るのである。女が主導権を握っていられる 
繋がり方だという認識があった。 
 自分がリンクを立ち直らせたのだから、そうする権利は十二分にある。 
 挿入後、数度の上下運動だけで、早くもゼルダは頂点に達した。それほど切迫していたのだった。 
 絶頂は次々に訪れた。背を反り返らせた格好で、あるいは上体をリンクにかぶせた格好で、 
間断なく生じる歓喜の爆発を、ゼルダは無心に感受した。自分が女であり、萎えを介在させる 
要なく続けて至福の境地にいられることが嬉しかった。セックスというものに慣れ、それが 
もたらす恍惚を最大限に賞翫できている自分は、この上なく幸福であると断じられた。 
 気づけば体動が止まっていた。一時的に意識を失ったらしい。どれほどの時間が経ったのか、 
どれほどの絶頂を極めたのか、全然わからなかった。上半身は立ったままである。両胸に 
きりきりと刺激を感じる。突き立った乳首をリンクに撫でられているのだった。 
 ようやく省みる。 
 こちらの放縦な躍動は、かなりの負担を──もちろん相応の快感もあったはずだが──リンクに 
強いただろう。しかるにリンクは文句も言わず、そればかりかいっそうの快美をわたしに 
味わわせてくれる。自分の満足は二の次にして。 
 リンクはいまだ達していない。膣内にあるものの硬さでそうと知れる。わたしは何度も 
行き着いたというのに。 
 申し訳ない。  
 
 ではどうする?──との考按に、リンクの示唆が筋道をつけた。 
「締めつけてみて」 
 意味は把握できた。しかし方法がわからなかった。わからないではすまされないので、可能な 
操作を模索する。骨盤付近で随意に動かせる筋肉を収縮させてみる。結果はむしろ肛門をすぼめる 
形になるのだったが、 
「そう……それ……」 
 いかにも喜ばしげなリンクの呟きが、試みの妥当性を証明した。 
 過去の交わりでも無意識のうちに同じ操作をしてきたような気がする。それをリンクは愉しんで 
いたのだ。この操作を意識して駆使できれば、もっとリンクを愉しませられるだろう。 
 繰り返すうちにこつがつかめてきた。規則的に連続させる。敢えて不規則的に締めの強さと 
長さを変化させる。腰全体の動きを織り交ぜる。 
 そうした種々の改編は、案の定、リンクの感動を誘ったようだった。悩ましげな表情、 
耐えきれないとばかりに漏らされる呻き、間隔を狭めてゆく荒い呼吸が、性感の上昇を物語っていた。 
 リンクが腰を突き上げ始めた。終着点を求める意思表示と悟り、ゼルダも相和しての上下動を 
開始した。リンクの悦楽を導いている自分が誇らしかった。 
『でも……』 
 主導権はこちらにあると思っていたが、実は逆かもしれない。二度の絶頂のあとだから 
リンクには余裕がある。わざとわたしに好き放題させて、悶え狂うさまを鑑賞していたのでは 
ないか。締めつけによる感動の誘発も、リンクの示唆がなければできなかったこと。つまり、 
ほんとうに、導いているのは…… 
 思考は消えていった。股間に沸き立つ快感の嵐が理性を無にした。ゼルダは必死に腰を動かした。 
どんな動きをしているのか自分でもわからなくなった。ただただ気持ちよくなりたかった。 
そうしてこそリンクも頂上に至るのだという確信だけがあった。 
 じきに結末の時となった。ゼルダはその日何度目とも知れぬ法悦境に達し、同時にリンクの 
脈動をも感知した。 
 自分ひとりにいくら絶頂が続こうとも、二人がともに得る一度のそれには、幸福の度合いという 
点でとうてい及ばない──と、ゼルダは思った。 
 
 歓楽はそこで終わりを告げた。ゼルダの心身は弛緩し、欲情もさすがに飽和していた。リンクも 
息を切らせており、これ以上の活動は不可能とみえた。 
 ゼルダは就寝の準備にかかった。といっても、多くのことをする気にはなれない。戸締まりを 
確かめ、部屋の灯りを消すだけである。ただ、消灯に際して、意識せずにはいられない事実があった。 
 横にほんの小さな明るみしかなかった過去二回の交わりとは異なり、今回はあかあかと輝く光に 
照らされて淫奔に行為したわたしたち。 
 羞恥が引き起こされる。が、それでよかったとも思われるのだった。 
 リンクの身体をつぶさに見ることができた。リンクもわたしの身体をつぶさに見たはず。 
 満ち足りた思いを抱いて、ゼルダはベッドに戻った。リンクが肩に腕をまわしてきた。ゼルダも 
腕をリンクの胴に巻きつけた。 
 静やかにして安らかな触れ合い。これもまた、至上の幸福だった。  
 
 覚醒は爽やかに訪れた。開眼した瞬間、意識が澄んでいると感じられた。 
 ゼルダは窓に目をやった。 
 カーテンの向こうに光が見える。室内の光景を見てとるには充分な明るさだが、さりとてあまり 
鮮烈でもない。日の出から、一、二時間、といったところか。 
 朝食の仕度をしなければ、と考えながらも、起床する気にはなれなかった。疲労ゆえではない。 
前夜、あれほど奔放に振る舞ったにもかかわらず、ことのほか眠りが深かったためか、肉体に残る 
負荷は軽微である。意識だけでなく肉体も澄んでいるという印象だった。 
 ベッドを去りがたいのは横にリンクがいるから。いっときでも長く寄り添っていたいから。 
 そのリンクは熟睡の態である。就寝時にはきちんとまとっていた毛布を、いまは脇の方に 
蹴りやって、仰向けの裸体をあまねく露呈している。 
 ちゃんと毛布の下に身を置いているこちらに比べ、いささか見苦しい寝相──と揶揄の思いを 
抱きつつ、一方ではそれをリンクらしい快活さの反映とも受け取り、ゼルダは心を和ませた。 
 視線が自ずと下に寄る。 
 胸がどきりと拍動する。 
 快活さが別の形で描出されていた。 
 勃起である。 
『なぜ?』 
 睡眠中なのに。 
 何らかの生理的現象か。好色な夢でも見ているのか。夢とは別に無意識の要因が作用しているのか。 
 どれを望むかというと、三番目の解釈。無意識の要因とはわたしであって…… 
 背筋にぞくりと震えが走った。飽和していたはずの欲情が、一夜を経て再び原点に──増大の 
余地を大きく残した状態に──戻ってしまっているのだった。おのれの色欲には限度がないと 
自嘲的に認めざるを得なかった。 
 どうしてリンクのそばを離れたくないのか。 
 正直になろう。 
 リンクに抱かれたいからだ。 
 リンクをあそこに迎え入れたいからだ。 
 猛り立つリンクの分身を飢えた肉門に思い切り突き入れて欲しいからだ。 
 だけど無理。リンクはぐっすりと眠っている。起こすのは気の毒。それにセックスは夜にこそ 
行うべきもの。適切な時間帯は過ぎてしまった。 
 我慢するしかない。が…… 
 できるだろうか。 
 できない。 
 我慢せずともすむ方法があることを──これまでずっと憚ってきて、けれども憚らなくていいと 
リンクが説いてくれた、あの行為のことを──わたしは知ってしまっている。 
 してみようか。 
 してみよう。 
 リンクを目の前にしてそんなことをするのは奇矯の極みだが、事情が事情だからかまうまい。 
わたしがそうするなら嬉しいとリンクは言った。だったら何の差し支えもないではないか。  
 
 ゼルダは股間に右手を伸ばした。初めはおそるおそる、しかしひとたび谷間の奥に到達した 
のちは一心不乱に指を使った。 
 どこをどうすれば気持ちよくなれるのか、おおまかなところはわかっていた。リンクに 
なぶられた経験があったからである。ただその際は立ちまさる快感が他の感覚を凌駕し、手技の 
詳細を知るには至らなかった。ところが自分で触ってみると、いちいち腑に落ちるのである。 
ああ、あの時リンクはこのようにしてくれていたのだ、と。 
 たとえば快感の中心点に対しては…… 
 上から押さえる。下から撫で上げる。両側から圧迫する。 
 もっと大胆にやるなら…… 
 揉みつぶす。剥きさらす。ひねりこする。 
 それぞれをゼルダは実践し、それぞれが生み出す悦びを満喫した。 
 その部の実態も理解できた。 
 粒状の器官とインパには教わったが、細長いと表現する方がむしろ正確。その形状と位置から 
すれば──大きさの違いは措くとしても──男のペニスに例えられよう。快感を呼び覚ますという 
共通点があるのも理の当然と合点がいく。 
 そうして呼び覚まされる快感が、さらなる考察を不可能にした。当初から湿っていた陰裂は、 
いまや一面の泥濘と化し、踊り狂う指にかきまわされて、ぴちゃぴちゃと淫靡な音をたてる。 
前後に左右にと腰は蠢く。喉は呻きを漏らし出す。リンクを起こさないようにしなければ、との 
配慮も消えた。様子を確かめるゆとりなどなかった。 
 次の段階へと進む。膣に指を挿入するのである。それもリンクによって既知の体験となって 
いたから、心理的にも肉体的にも抵抗は皆無。中指はするりと内部にすべりこみ、活発な運動を 
開始する。ペニスより細い指ではあっても、得られる快感に遜色はない。同時に親指で陰核を 
こする。快感が二重になって燃え広がる。余した左手を胸にやり、硬くなった乳頭をまさぐれば、 
三重、四重の快感となる。 
 リンクにそうされているのだと想像しながら、ゼルダは行為に耽溺した。想像の中のリンクは、 
手と陰茎をいちどきに使いこなす無類の技巧者ということになるのだったが、全く不自然とは 
思わなかった。 
 間もなく最後の時が来た。 
 無上の快美が爆ぜ、全身に飛散し、徐々に鎮静へと移行してゆく。 
 しばし動きを止めて余韻を賞味する。 
 心拍と呼吸が落ち着いてから、閉じていた目をあけ、現実に戻る。 
 毛布が足元でくしゃくしゃになっている。いつしか裸身をさらけ出していたのだった。 
 思わず笑む。 
『あなたと同じ……』 
 傍らを見やる。 
 
 笑みが凍った。  
 
 仰臥のままのリンクである。が、顔はこちらを向いていた。のみならず目が開いていた。 
 いま起きたばかりなのだろう。気づいてはいないだろう。そうに違いない。そうに決まっている。 
でも、でも、ほんとうにそうだろうか。ひょっとしたらもっと前から起きていて、わたしのする 
ことを── 
「見て……たの……?」 
 にこりとするリンク。 
「うん」 
 返事を聞く暇もあらばこそ、ゼルダはあたふたと姿勢を変えた。リンクに背を向け、その背を 
丸め、両腕を交差させて肩をつかんだ。無意味な行動だと認識はしていた。けれどもそうせずは 
いられなかった。顔が火のように熱を発していた。 
「ゼルダ?」 
 怪訝そうなリンクの声。 
「どうしたの?」 
 どうしたもこうしたもない。 
「恥ずかしいのかい?」 
 言わずと知れている。あからさまに指摘しないで欲しい。 
「そんなに気にしなくても……」 
 気にせずにいられようか。リンクがこんなに無神経だとは。それともわざととぼけてみせて、 
わたしをいたぶるつもりなのか。 
 いや、リンクはほんとうに不思議がっている。声の調子でそうと知れる。演技ではない。 
かといって単に無神経なのでもなさそうだ。わたしが人前で自分をなぶって平然としていられる 
女だと信じこんでいるかのような態度。こちらに自慰の経験がないのをいぶかっていたゆうべと 
同様に。 
 そこまで恥知らずなわたしの像がリンクの中にはできているのか。いったいわたしの何が 
リンクにそれほどの印象を与えたのだろう。 
 わたしではないわたしを知られているみたい。 
『そうなのかも……』 
 自分でも気づかない淫乱な匂いをわたしは漂わせていて、それがリンクに伝わっているのでは 
ないだろうか。 
 リンクと結ばれて以来、恥ずかしいと思いながら、その恥ずかしいことどもを、次々と 
行ってきたわたし。 
 いまだってそう。 
 リンクと交わる時、わたしは限りなく淫らな女となる。が、それはあくまでもリンクとともに 
あるがゆえの結果。 
 自慰は悪いことではない。が、それはあくまでもリンクがいない場における代償であるべき。 
 なのにわたしは、奇矯と認めつつも事情が事情だからと勝手な理屈をつけ、眠っているとはいえ 
当のリンクの面前で、ひとりだけ快楽を貪った。 
 歯止めがきかないわたしの欲望。 
 実際、自慰するさまを嬉々として見せつけるくらいの女に、わたしはこれからなっていくのかも 
しれない。それがわたしの本性なのかもしれない。 
 リンクはそうと見破っているのでは? 気にしなくても、とは言うけれど、内心、あきれかえって 
いるのでは?  
 
 肩に手をかけられた。ふり向かせようとする力を感じた。全身を硬くして逆らう。とても顔を 
合わせる気になれなかった。 
 力が弱まった。今度は反対に肩を押された。意図はわからなかったが、顔を合わせることには 
ならないので、その操作には逆らわなかった。 
 うつ伏せとなる。 
 背中に重みがかかった。リンクが身を乗せてきたのである。 
 耳元に近寄った口が、予期せぬ言を呟いた。 
「素敵だったよ」 
 何が?──と、一瞬、惑うも、該当する件は一つしかない。 
「……嘘よ」 
「嘘じゃないさ」 
 言葉を探すように口ごもりながらも、優しげな声でリンクがささやく。 
「ほんとうに、素敵で……その……色っぽいというか……なまめかしいというか……とにかく、 
ぞくっときたよ」 
 露骨な単語の連続が、別の意味で羞恥を誘う。しかし嬉しい評ではあった。嘘をつかない 
リンクであることを思い起こせば、いっそう嬉しさは募るのだった。 
 こんなわたしを、リンクは責めもしないし、あざ笑いもしない。それどころか歓迎してくれている。 
考えるに、わたしが淫らであるのは本性ゆえとしても、その本性を引き出したのはリンクなのだし、 
そうした淫らなわたしにそそられるからには、リンクだって相当に淫らと言わねばならない。 
つまりわたしが淫らであればあるほどリンクは悦んでくれるはずで、だったらわたしも悦べば 
いいのだ。好きなだけ淫らにしていればいいのだ。 
 ──あなたの前では、恥すらも悦び。 
 さっきは拒否した顔合わせに応じるつもりで、ゼルダは首を後ろにまわそうとした。 
 できなかった。 
 うなじに口づけされたのである。 
 瞬間、首がぶるりと震えをきたした。そこが性感を誘発する部位であるとの認識はなかったが、 
震えてしまうほどの快さを錯覚とは片づけられない。リンクの顔を見られないもどかしさが、 
よけいに感覚を鋭くしているようだった。 
 首筋や髪の毛に口を移しながら、リンクは両手を腋にまわし、胴の下へとねじこんできた。 
ゼルダは両肘をつき、わずかに上体を浮かせた。半ば無意識の行動だったが、それに続くはずの 
ことへの期待もあった。 
 リンクの手が両の胸に届く。乳首をつままれる。くりくりと捏ねられる。これまでそうされて 
感じた心地よさを、なお上まわる心地よさが、ゼルダを喘がせ、高ぶらせた。 
 奇妙に思われてならなかった。 
 背後から迫られることで、なぜこんなに感度が増すのか。 
 自分からは何もできず、一方的に施しを受けるのみの体勢。 
 そう、わたしはリンクに屈服している。 
 屈服。 
 王女としての立場なら忍容し難いその語の響きが、リンク相手というだけで甘美な音楽とも 
感じられる。ベッドでリンクのなすがままとなることに、ふだんから悦びを感じているわたしだ。 
なすがままの様相がことさら強調される、この屈服状態だからこそ、わたしは高ぶって 
しまうのだろうか……  
 
「ひッ!」 
 突然、耳に接吻された。あの異様な感覚が激しい興奮を巻き起こした。接触を予測して 
いなかったことが興奮を倍加させた。興奮は一気に爆発へと至り、ゼルダの脳を空白にした。 
 上にある重みが空白を埋めた。リンクの胸がこちらの背に、リンクの腹がこちらの腰に、 
ぴったりと押しつけられている。勃起を維持する一物が尻のふくらみをつつきまわす。欲求を 
言い立てているのだった。 
 無理もない。先に達したわたしとは違って、まだリンクは満たされていない。いまのわたしたちが 
していることは、明らかに交合の準備行為で、それはやがて真の交合へと移行してゆくだろう。 
間違いなくリンクはそうするつもりだ。 
 わたしとてその移行を拒みたくはない。もともとそうしたいと望んでいた。にもかかわらず 
自慰に走ったのは、リンクが眠っているからという理由に加えて、いまはそうするべき時間帯では 
ないという事情があったからで、夜にこそすべき秘め事を日の光のもとでするなどとんでもないと 
いう意識があったからで、その意識はなおもわたしを縛っているのだけれど、実状はどうかという 
と、わたしはリンクに屈服してふしだらな触れ合いを楽しんでいるわけで、ほんとうのところは 
意識の縛りなどとっくに解けてしまっているわけで、ならばこのあとどんなことになろうが 
いささかも気にする必要はないのだ。 
 わたしが淫らであればあるほどリンクは悦んでくれる。わたしだってリンクが淫らであれば 
あるほど嬉しく思う。夜だろうと朝だろうと委細かまわず淫らな二人になりきればいい! 
 リンクの口が背中へとすべりおりた。首が自由になった。それでもふり向きたくはなかった。 
背はうなじと同じく意表外の性感帯となっていて、そこに後ろから触れかかる唇と舌が、 
切れ目なく官能を煽り立てるのだった。 
 さらに口は下降し、双臀の上を這いまわった。いつの間にか胸が解放され、そこに生じる快感は 
失われていた。が、ゼルダはそれを不満としなかった。リンクの口が股間に侵入してくれば 
もっと気持ちよくなれるとわかっていたからである。 
 侵入は、しかし果たされなかった。うつ伏せのままだと肝腎な場所が奥に隠れてしまうのだった。 
 ゼルダは腰を掲げ、心持ち股を開いた。たちまち恥核と秘裂が舌に捉えられた。電撃にも似た 
快感が立て続けに身体の中心を貫き、人のものとは呼びがたい音響を喉から吐き出させた。 
 獣のような──と自らを思う。 
 声だけではない。這いつくばって尻を突き出している格好は、まさに獣のそれ。こちらの秘部に 
口を寄せているリンクもまた、這いつくばった格好のはず。となると…… 
 ゼルダの脳裏に、ある光景が浮かび上がった。 
 馬場で見たことがある。牡馬が牝馬の尻に鼻をくっつけ、しきりに匂いを嗅いでいた。 
 いま、わたしたちはあの二頭の馬と同じことをしている。つまりわたしたちは馬と同程度の 
生き物なのだ。 
 ──と自虐しながらも、自分たちが人として堕落しているとは思わなかった。理性のかけらもなく 
淫欲に溺れるさまは、確かに動物的ともいえるのだったが、純粋に相手を想い、相手を求める 
行為が、正当なものでないはずはないのである。  
 
 その信念がゼルダを没我の境に入らせた。リンクの口技にさらされる部分は発火せんばかりに 
煮えたぎり、そこから生起する快美の渦が、徐々に意識を乱していった。他方、肉体はますます 
敏感となり、舌や唇の動きはおろか、リンクの息の揺れまでもが、多大な刺激となってゼルダを 
悶えさせた。 
 不意に刺激が消失した。無情な仕打ちである。恨めしく思いながら、ゼルダは顔をうつむかせ、 
股の間から後方をうかがった。すぐ近くにリンクの大腿があった。膝をベッドにつけている。 
腰より上は見えない。上半身を起こしているのだった。何をするつもりかと怪しむ暇もなく、 
両手で腰をつかまれた。再び陰部が接触を感知した。口ではない。待ち焦がれていたものである。 
『でも、この格好で?』 
 戸惑いに、 
「いくよ」 
 リンクの声が重なった。答も待たず突入がなされ、すでに相当の興奮状態にあったゼルダを、 
軽々と絶頂に到達せしめた。休みなく刺突が連続し、合わせて絶頂も連続した。新たに経験する 
こととなったその体位が、絶頂感をさらに煽った。 
 馬であれ、他の種であれ、動物がいかなる姿勢で交尾するものなのかを、ゼルダは知らなかったが、 
いまの自分たちの姿勢はそれに近いだろうと想像はできた。獣と同等の行為を引き続き──しかも 
より放逸に──営んでいるわけである。なおかつ屈服する形に自分があることで、激しい倒錯感が 
かき立てられる。けれどもそんな状況がもたらす帰結は、苦痛でもなく嫌悪でもなく、歓喜と 
幸福の極致なのだった。 
 刺突の速度が緩徐になった。速い調子に慣れたあととなっては、歯がゆいばかりの穏健さだった。 
しかし、いかにゆっくりではあっても、押し入ってくる時の力強さは失われておらず、そのつど 
ゼルダは感激の叫びをあげた。 
 往復運動が停止した。感激は途絶えなかった。小さな腫れを呈する三つの点、すなわち両の 
乳首と陰核を、リンクの手指が巧みに弄び始めたからである。 
 続けて喜悦にむせびながらも、ゼルダは膣内の静まりを物足りなく思った。そこで自ら動きを 
作った。肉鞘の壁を収縮させ、腰を前後させて摩擦を生じさせる。応じてリンクが刺突を 
再開させる。初めの急速な展開が立ち戻った。 
 リンクはなかなか達する気配を示さなかった。昨夜の饗宴が肉体に耐性を帯びさせているのかも 
しれなかった。速い動きが再び緩やかとなる。次いでまたもや速くなる。緩急を取り混ぜての 
攻撃が、ゼルダを何度も極点に押し上げた。 
 が、いかなる逸楽にも限界はある。とうとうリンクが終着に至った。ゼルダもあとを追った。 
全身が痙攣に襲われた。 
 無想の時が流れたのち、ゼルダの身体はベッドの上に押し潰された。リンクが前のめりに 
倒れてきたのである。はずみで局部の結合が解けた。それでようやくリンクの顔を見ることが 
できた。呆けたような表情に、陶酔がまざまざと表出されていた。おのれをも満たす陶酔を 
ゼルダは自覚し、そして静かに意識を閉じた。  
 
 意識が稼働を始めた時、室内はさらに明るかった。朝食を予定していた時刻はとうに過ぎ、 
真昼すら遠からぬ頃となっていた。これ以上は寝ていられないと思い切り、ゼルダは身を 
起き上がらせた。 
 髪の見栄えが気になった。生い茂る夏草のごとく乱れきっている。前夜、風呂から上がったあと、 
ろくに乾かしもせず交情へとなだれこみ、あげく、朝まで眠りを貪った報いである。汗と唾液と 
恥液にまみれた肌もうっちゃってはおけない。改めての入浴が必要だった。 
 その旨をリンクに告げると、同意が得られた。二人は浴場に赴いた。 
 髪と肌と秘所を洗い、浴槽に入って肢体を伸ばす。人心地がつく。しかし体内には依然として 
火照りがあった。湯の温かみのせいというより、隣にいる人物を意識するがゆえである。これだけ 
長い時間、起居をともにしていながら、なお欲望は果てていないのだった。 
 リンクが腕を伸ばしてきた。ゼルダは拒まなかった。抱擁と愛撫と接吻が、ごく自然に始まり、 
続けられていった。 
 情感が盛り上がったところで、リンクが身体を離した。浴槽の縁に腰をかけて、脚を開いた。 
ゼルダはその前に跪き、股間に顔を寄せた。まだ蘇生しきっていなかったそれは、念入りな 
口技によって、やがて息を吹き返した。 
 リンクの指示に従い、ゼルダは浴槽を出た。坐した姿勢を保つリンクに向かう形で、膝の上に 
跨った。挿入は容易だった。湯の中にあっても失われないほどおびただしい量の愛液を、すでに 
ゼルダの秘部はあふれさせていたのである。ついさっきそこを洗ったのが無意味になっている 
わけだったが、それでも一向にかまわなかった。 
 他にも交合を阻む要素はなかった。窓の外に広がるハイラル平原の風景は、降り注ぐ日光に 
彩られ、いよいよ昼の様相を濃くしている。けれども時間帯の件はもはや何の制約ともならない。 
ここはこんなことをするための場所ではないという自制も、このたびは全く起こらない。 
いつであろうがどこであろうが気の向くまま、淫らな二人になればいいのだった。 
 双方がすわって交わる体位は、思いのほか快いものだった。騎乗の時ほど放縦には振る舞えないが、 
手と口の使用は自由である。互いを腕の中に抱き、胸をすり合わせ、唇と唇を密に重ねる。 
ひとつになっているという感覚がひときわ強められた。 
 小さく盛り上がった二つの乳首が、リンクの胸に圧せられ、リンクの手で撫でられ、リンクの 
口に啜られ、際限なく快感を訴える。そうなると下半身でも際限のない快感を味わいたくなる。 
貫かれた部分は貫かれただけで相当の満足を得ていたものの、快感を極めるためには動きを 
加えなければならない。動きを司るのは上になっている者の役目である。ゼルダは惜しみなく 
腰を使った。上半身の接触を崩したくなかったので、初めこそ羽目をはずさぬよう心がけたが、 
そのうち留意する余裕も失われ、ひとえに尻を振るだけとなった。 
 随喜の渦が二人を捉えた。  
 
 淫事の名残を湯で洗い流したのち、二人は浴場から脱衣所へと身を移した。丁寧に髪と肌を 
拭き清め、今度こそ食事の支度に取りかかろうとして着衣に及びかけたゼルダに、リンクが甚だ 
放埒な提案をした。このまま服を着ずにいようと言うのである。ゼルダはあっけにとられたが、 
興味を惹かれもした。日常的な時間を裸で過ごすという試みに妖しい魅力を感じた。 
 ふだん自分をがんじがらめにしている種々のしがらみから解放されるような気がする。それに、 
どうせ他の誰に見られるわけでもない。 
 ただ一つ、厨房で素肌をさらすことになるのが気がかりだった。それを告げると、リンクは 
何でもないといった調子で、 
「その時だけエプロンをしていればいいさ」 
 と言い、そんな君の姿を見てみたい、ともつけ加えた。おかしな趣味だとは思ったが、順当な 
方法と納得もできたので、ゼルダはその言を聞き入れた。 
 昼食をこしらえるにあたっては、もともと予定していた品と、ないがしろにした朝食のそれとを 
取り混ぜ、できるだけ手のかからないメニューに変更した。先の失敗を繰り返したくはなかったし、 
長々と時間を費やすわけにもいかなかった。正午が近づいていたのである。 
 新たに作り直したスープを温め、卵を炒る。火を使う作業はそれだけに限定する。あとは野菜の 
サラダ、燻製ずみのハム、魚の油漬けといったところで、デザートは果物の取り合わせとする。 
飲み物は水と果汁のジュース。ぼろが出ないよう気を配った甲斐あって、ともかくも無難に仕事は 
終わった。食するリンクの反応をうかがうに、味もどうやら合格点のようで、事実、今回は率直な 
お褒めの言葉を聞くことができた。ゼルダは胸を撫で下ろした。 
 もっとも、リンクの反応については、解しかねる点もあった。 
 調理の際は身に着けていたエプロンを、食卓では脱ぎ捨てたゼルダであったが、全裸で食事を 
するという行為が──確かに爽快な気分を呼びこそすれ──やたらと煽情的に思われてならなかった。 
裸の自分を意識し、また裸のリンクを眺めていると、興奮を禁じ得なくなる。股間が潤みを 
湛え始める。 
 ところがリンクの方は、給仕するゼルダのエプロン姿を、そして席についたゼルダの生まれた 
ままの姿を、いかにも喜ばしげに見つめながら、かといって、とりわけ情欲に身を焦がしている 
ふうでもないのだった。それは当たり前の行為であり、そうすることには慣れている、と 
言わんばかりに恬然としている。 
 どうしてそこまで落ち着いていられるのかといぶかりつつも、ゼルダはそんなリンクの 
大らかさに、憧れにも似た思いを寄せるのだった。  
 
 食事が終わってもリンクの落ち着きぶりは変わらなかった。とはいえ情欲をなくしている 
わけでもなかった。相変わらず当たり前といった態度で、 
「寝よう」 
 と誘うのである。一も二もなくゼルダは同意した。 
 寝室に戻った二人は、ベッドの上に横たわり、倦むことなく身体を絡ませた。 
 睦みは穏やかに進行した。 
 昨晩から五度も達しているせいか、リンクの一物は猛っていなかった。懇ろに撫でさすり、 
吸い立ててやっても、完全な起立には至らない。それでもよかった。かえっていとおしかった。 
戯れていられるだけで嬉しかった。無理強いとならぬよう配意しながら、ゼルダは細やかな愛玩を 
続けた。 
 その慰めに満足げなため息を返す一方で、リンクもまた、濃密な愛撫を滞らせない。焦る素振りも 
見せず、虚心に肌触りを楽しむふうである。それはゼルダの楽しみでもあり、また、楽しみを超えた、 
より華々しい愉悦でもあった。全身の皮膚を、さらには下の泣き濡れた部分を、優しくまさぐられ、 
あるいは舐められ、ゼルダは何度となく絶頂した。 
 行き着いた直後は動きが止まる。リンクにふんわりと抱き包まれる。じきに愛撫は再開され、 
次に来る高まりを予告するのだったが、無為でしかないはずの間合いさえ、ゼルダにとっては 
至高の時だった。 
 これもセックス──とゼルダは思った。 
 性器の結合ばかりがセックスではない。手でのセックス、指でのセックス、口でのセックスを、 
わたしはリンクと行ってきた。だが男女の間には、他にも多種多様の触れ合い方があって、 
そのことごとくがセックスであり得る。静かに抱き包まれるだけであっても、わたしが悦びを 
感じるならば、それは紛れもなくセックスなのだ。 
 そこで考えついた。 
 身体を下方にずらす。ペニスを持つ。先端を片側の乳首にこすりつける。滲み出る粘液が接触を 
潤滑にし、得も言われぬ快さを湧き上がらせる。次いで反対側の乳首にも快さを分け与える。 
 胸でのセックスは、リンクの性感をも刺激したようだった。軟らかだった肉の突起が、みるみる 
うちに硬度を増し、ぴんと垂直にそそり立った。一時的な現象ではないことを確認したのち、 
ゼルダはリンクを仰臥させ、立ち直らせた者の権利を行使した。 
 騎乗するのである。 
 ただしそれまでとは趣向を変え、リンクの足の方を向いて跨った。 
 不思議な感覚だった。 
 上にあって交合を主導しつつも、リンクに背を向けていることで、屈服の気分が加味される。 
挿入の角度を最適にしようとすれば、上半身が前に傾き、這った姿勢に近くなる。ゆえになおさら 
屈服感が強まる。 
 志向の矛盾が脳を混乱に陥れた。混乱は欲望を先鋭化させた。ゼルダは全速力で腰を振り立て、 
瞬く間に高みへと駆け上った。 
 気がついた時には、後ろから抱きすくめられていた。上体を起こしたリンクの、腿の上に坐す 
格好となっているのだった。膣は硬いままの陰茎に充たされ、絶えることなく快感を生み育んでいた。 
近傍の核にも左右の胸にも快感は凝縮し、蠢動するリンクの手によって、無数の火花を飛び散らせる。 
相手を背後にする点では同じでも、四つん這いの時とは比較にならないほどの濃厚な手練を、 
その体位では玩味することができるのだった。 
 身体が周期的に揺れていた。下から突き上げられている。こちらも動こうとは思うのだが、 
意思を筋肉に伝えられない。幾度も伝達を試みるうち、実はとうから動いていたとわかる。 
腰が勝手に上下している。そうと容易に知れないくらい、頭の働きが鈍っているのだった。 
まともに働いているのは快感を快感と認識する回路だけだった。 
 無限とも感じられる交悦の末、熱狂の中で二人は果てた。  
 
 力の抜けた肢体を横臥させ、リンクに寄り添ってその温かみを自らの肌に行き渡らせながら、 
ゼルダはぼんやりと思いを浮き漂わせていた。 
『ずっとこうしていたい……』 
 しかし反面、いつまでもこうしてはいられないという思いも、厳然と心の中にはあった。 
招待期間は夕方までである。幕切れが刻々と近づいていた。 
 まる一日以上をリンクと二人きりで過ごし、なおかつ何度も幸福の極みに立てたのだ。これより 
上の充実を望むべきではない。 
 未練を振り捨て、ゼルダはベッドをあとにした。別荘を去る前にすべきことがあった。 
 後始末である。 
 番人に任せておいてもよいのだが、身のまわりのことは自分でできるとインパ相手に見得を 
切った手前、ある程度の片づけはやらねばならない。中には番人任せにできない事項もある。 
 リンクとともに三たび入浴し──このたびは入浴が本来目的とする行為に専念して── 
久方ぶりに着衣する。情事の痕跡を残さぬようベッドを整え、逆に、リンクが泊まるはずであった 
部屋のベッドを──未使用のままでは不自然なので──適度に乱しておく。次いで厨房に行き、 
汚れた食器を洗いにかかる。 
 リンクは仕事を手伝ってくれた。主賓を働かせるのは気が引けたが、愛するひとと一緒に何かを 
するというのは、その何かが面白からぬ作業であっても、心の躍ることである。ゼルダは素直に 
援助を受けた。 
 洗い物を終え、仕上げに調理台を布巾で拭き清めながら、他にすることはなかったかと考えて 
いると── 
 いきなり背後から抱きつかれた。 
 勢いに押されて身体が傾ぐ。やむなく台の上に両手をつく。 
 優しくそうされていたのだったら、ゼルダも優しく応じただろう。ところがリンクの行動は 
性急だった。驚きが先に立った。咄嗟にできたのは、戸惑いを声にすることだけだった。 
「リンク──」 
「ゼルダ」 
 上ずった呼びかけがかぶさってくる。 
「もう一回だけ、したい」 
 じん──と総身にうずきが走る。 
 頭巾の縁をかいくぐってうなじになされる口づけが、服の上からではとうてい見定められない 
わずかな胸のふくらみを探り当てようとする両手の動きが、うずきの強まりに輪をかける。 
『もう一回……』 
 揺れる心を、 
「だめよ」 
 かろうじて抑える。 
「もう時間が……」 
 ない。ここで再び寝室に戻って、服を脱いで、ベッドの上で絡み合ったりすれば、また後始末が 
必要になって……  
 
 無視された。 
「いいだろう?」 
 重ねて、 
「いや?」 
 答えられなかった。 
 状況が許さないという意味では「だめ」であっても、本音としては「いや」ではない。 
 無言を肯定と受け取ったのか、リンクは胸にあった両手を下へと移してゆく。片手が下腹の 
なだらかな丘を、片手が後ろにある一組の半球を、それぞれ服越しに揉みしだく。 
 逆らえない。逆らいたくない。いや増すうずきを昇華させたい。 
 リンクはますます大胆になった。長い衣装の裾をまくり上げ、下穿きに直接手を触れてきた。 
 そこで初めて思い至った。 
 ここであなたはしようというの? 
 ベッド以外での交わりを、今日、わたしは浴場で経験したが、あれは裸であるべき場所だったから、 
別段、抵抗は感じなかった。けれどもここは食事を作るための場所で、セックスはおろか裸でいる 
ことすらあってはならないはずの場所で──昼間、脱衣して過ごした時も、ここではエプロンを 
着けていたわたしなのだ──しかも横にはなれないし、すわるのだって不自由そう…… 
 下穿きが引きずり下ろされた。露出した尻に硬いものが触れた。 
「あ!」 
 まさか? このままで? 服を着たままで? 立ったままで? 
 なんと破廉恥な! どうしてリンクはこんなことを思いつける!? 
 しかし手向かいはできないのだった。破廉恥なるがゆえに興奮もひとしおだった。これなら 
時間を気にしなくていいと理由づけもできた。 
 いつであろうがどこであろうが気の向くまま、淫らな二人になればいいと決めたではないか。 
そこに「どんな格好であろうが」という一句が加わるだけのことではないか。 
 硬直が割れ目に挿しこまれる。脚を開いて出迎える。一帯は早くも潤っており、進入は円滑に 
成し遂げられた。 
 リンクの動きは荒々しかった。ひっきりなしに打ちつけられる腰が、尻に当たって派手な音を 
たてた。合わせて内部を強力に突かれ、ゼルダの身体はがくがくと揺れた。調理台についた両手で 
前傾した上体をからくも支える。立っているのがやっとだった。 
 それでも続けたかった。常軌を逸した快さだった。後ろから支配されている感覚が、ゼルダの 
神経を極限まで鋭敏にしていた。 
 朦朧とする脳内に思いが乱れ飛ぶ。 
 勃起もままならなくなっていたリンクが、なぜこんなに勇猛であれるのか。わたしが何をして 
やったわけでもないというのに。いったいリンクはわたしのどこにこうまでそそられたのだろう。 
 わからない。 
 わからないが、特段のことをするでもなく、裸でもないわたしにさえ、リンクは欲情してくれる。 
リンクにとってわたしはそれほどの存在なのだ! 
 感激だけを頭に残し、いかなる言葉によっても表現できない天国的な地点を指して、ゼルダは 
ひたすら驀進していった。  
 
 最後になって吹き荒れた暴風も去り、二人は平静を取り戻して客間に落ち着いた。ほどなく 
インパが姿を現した。しかし直ちに帰城とはならなかった。番人が戻ってくるのを待つ必要が 
あったからである。 
 二人の淫蕩な行状を知ってか知らずか、傍らの椅子に腰を据えたインパは、説教めいたことを 
言うでもなく、泰然とした態度を通していた。料理の顛末も訊ねてはこない。その点には安心した 
ゼルダだったが、 
「ご気分は晴れましたかな?」 
 との何気なさそうな問いには、 
「ええ……」 
 と頷きながらも、思いの広がりを誘われずにはいられなかった。 
 気分はいい。不思議なことに。 
 あれだけ頻回に交わったのだから、当然、身体は疲労しているはず。なのに心は疲労を疲労と 
感じていない。肉体が澄んでいるという今朝の印象は変わっていない。 
 のみならず…… 
 最近、疲れ気味と自覚していたが、以前からの、その疲れすら、きれいさっぱり消えて 
なくなったような感じがする。 
 どうやら、わたしの疲れとは、物理的な意味での疲れではなく、性的な欲求不満であったらしい。 
いまの晴々とした気分は、リンクとの交歓で欲求不満が解消された結果なのだ。 
 つまり、リンクを招待するとの名目で──リンクにとっては名目どころか文字どおり以上の 
招待だったといえようが──淫らな行為にふけったこの二日間にも、心身の鮮度を保つという 
観点に立つなら、相応の意義はあったわけだ。日頃、何かと口やかましいインパが、今回は 
寛大であったのも、そこを見通していたからではなかろうか。 
 今後もリンクは旅を続ける。またわたしは欲求不満に陥ってしまうだろう。けれども、 
たまさかであれ逢瀬を楽しむことができるのなら、我慢のしがいはあるというもの。どうしても 
我慢ができなくなったら、リンクが教えてくれたあの方法で自分を慰めればいい。たまに 
そうするのも悪くはなかろう。 
 ただし、あくまでも、「たまに」だ。おのれの本分を忘れてはならない。 
 この二日でわたしは多くのことを学んだ。自慰の件だけではない。男女の交わり方には 
さまざまな形があること。後ろからされる体位は特に興をそそること。互いの局部を同時に 
舐め合う楽しみ方があること。性感帯は全身の各所に分布していること。交わる二人は時にも 
場所にも身なりにも束縛されないということ。等々。 
 わたしとリンクが愛を育んでゆくにあたって、それらは大いに役立つ知識だが、そっちの方面 
ばかりに詳しくなるのはよろしくない。こうして心身の活力を養えたのだから、本来、学ぶべき 
ことを、きちんと学んでゆかなければ。 
 一つは料理。リンクをもてなす次の機会が来るまでに、しっかり腕を磨いておこう。 
 それに…… 
「リンク」 
「なに?」 
「お城に帰ったら、しばらくの間、お相手できなくなるけれど、許してちょうだいね」 
「どうして?」 
「やりかけの用事があるの」 
「わかった。片づけるものは片づけて、すっきりさせたらいいよ」 
 そのとおり──と微苦笑しつつ、一週間前に別れを告げたきりとなっている三角形と内接円の 
構図を、再び脳裏に描くゼルダだった。 
 
 
To be continued.  
 

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