何もかもが美しく見える──というのが、その日の朝を迎えたゼルダの感想だった。世界が 
変貌したわけでもなければ、視覚が異常をきたしたわけでもない。単に気分のせいである。しかし 
美しいものは美しい。それほど喜ばしい日なのだった。 
 朝食を終えれば、勉強の時間。真面目にしていなければならないのだが、ついつい頬は緩んで 
しまう。 
「今日はやけにご機嫌麗しいようですな。私の話も耳に入らないくらい」 
 机の横に立ってハイラル王国勃興期の歴史を概説していたインパが、講義を中断し、皮肉っぽい 
語調で指摘した。 
「あら、ごめんなさい」 
 と、口では謝るが、胸の浮き立ちは治まらない。 
「でも、どうかわかって。今日は誕生日なんですもの。嬉しく思って当然じゃない?」 
 そう、わたしは十歳になった。二桁の年齢だ。まだ成人にはほど遠いものの、そのなり始めの 
とば口には立っている。幼いと呼ばれる時期は過ぎ去りつつあるのだ。 
 夜には城内の広間で誕生祝いのパーティーが開かれる。国王として多忙な日々を送っている父も、 
必ず出席すると約束してくれた。父と一緒にゆっくり過ごすのは久しぶり。夜になるのが待ち遠しい。 
ただ、待ち遠しい理由は他にもあって、むしろ──父には悪いけれど──そっちの方がわたしに 
とっては…… 
「嬉しいのは誕生日だからというだけではありますまい」 
「え?」 
「リンクが戻ってくるのでしょう?」 
 図星。 
 今度の旅に出る前、リンクは明言した。わたしの誕生日には何を措いても戻ってくると。だが、 
その言をインパは聞いていないはず。なのに── 
「どうしてわかるの?」 
「あなたの様子を見れば簡単にわかります。恋人を待って心ここにあらずの女性を絵に描いた 
ようですよ」 
「まあ、恋人だなんて。いやね、インパったら」 
 その実、全然いやではない。 
「だけど、ほんとうにわたしとリンクが恋人同士に見える? だとしたら……」 
 勢いよく席を立ち、 
「本望だわ!」 
 ワルツのステップを踏んで室内をめぐる。口からは自然に歌声が漏れる。 
「のんきなことを……」 
 苦々しげにため息をつくインパ。 
「あなたとリンクが恋人同士に見えたら、大いにまずいではないですか。あなた方の関係は秘中の 
秘としておかねばならないというのに」 
「わかっているわ。インパの前だけよ、こんなふうにするのは」 
「それですめばよいのですが……リンクが今夜のパーティーに来るのなら、自重が必要ですぞ。 
決して人前で親密すぎる態度をとってはなりません。いまのような浮かれぶりは、もってのほかです」 
「はいはい」 
 と、一応は小言を聞き入れ、踊るのをやめたゼルダだったが、心の方は踊りっぱなしである。 
インパの渋面さえ微笑ましく感じられる。そこを見透かしているのか、なおもインパは説教を続けた。 
「いいですか。本来なら、あなた程度の歳の子供が、男とその手のつき合いをするなど、とうてい 
許されないことなのですよ。ましてや、あなたは王女なのに。もしも実情を他の誰かに知られたら、 
それこそ一大事です。この国はひっくり返ってしまうでしょう」 
 よくわかっている。インパの心配はもっともだ。が、こうもしばしば同じ台詞を聞かされると、 
いい加減、飽きがくるというもの。 
「だって、リンクとのおつき合いは、インパも認めてくれているじゃないの」 
「それはもともと、ガノンドロフを倒すのに必要だとあなたがおっしゃったからです。リンクに 
よれば──根拠は知りませんが──世界のためにも都合がよいらしいですし。ところが最近の 
あなたを見ていると、目的がだんだんずれてきているように思われ──どうなさいました?」 
 インパが怪訝そうな口調になった。応じられなかった。身体に違和感が生じていた。違和感は 
鈍い痛みに転じて下腹部にわだかまり、姿勢の維持を困難にした。 
 床の上にうずくまる。 
「姫!」 
 ゼルダは無言を保った。返事ができないほど激烈な痛みというわけではない。おのれの急な 
変調に当惑していたのである。 
 痛みとは別の感覚が股間にあった。 
 右手を足元にやる。裾の内へと差し入れる。下着越しに感覚の溢出点を探る。 
 湿っている。 
 手を引き出す。 
 指先が赤く染まっていた。  
 
 インパの助けを得て、ゼルダはソファに身を横たえた。あとはインパが適切に処置してくれた。 
下着は新たなものに替えられた。再び血が滲まぬよう、股間には、その際、女性が常用する、 
吸水性の高い布片があてがわれた。 
 自分に何が起こったのかを、ゼルダは理解していた。いずれは経験すること、とインパに 
教えられていたからである。が、あまりにも突然だったので、脳は事実の認識のみに占められ、 
感情が作動するゆとりを失っていた。言葉も出せないままだった。 
「お加減は?」 
 と問われ、ようやく答える。 
「悪くはない……みたい……」 
 ゼルダは横にしていた身体を起こし、ソファに腰かける姿勢をとった。下腹部の痛みは 
軽減している。固まっていた頭脳もほぐれつつあった。 
「こうなるのは、もっと先だと思っていたけれど……」 
「普通よりは、やや早いですな。しかし、なってもおかしくない頃ではありますよ」 
 インパは平静な調子で述べ、次いで、深々とお辞儀をした。 
「おめでとうございます」 
 厳かな声であり、態度であったが、表情は温かく、優しげだった。 
「ありがとう」 
 と礼を返しながら、インパの祝辞がもたらした、陶酔にも近い感慨を、ゼルダは胸中で 
しみじみと味わった。年齢が十代に達したことにも増して、それは女としての成長を端的に物語る、 
象徴的かつ感動的なできごとだった。 
 ──わたしは「大人」になったんだわ…… 
 併せて考える。 
 早くもこの時となったのは、リンクとの交わりが、わたしの身体に、速やかな開花を促した 
せいではあるまいか。少し前から胸がふくらみ始めているのと同様に。 
 ならば感謝の意味もこめて、ぜひともリンクにこのことを知らせなければ。 
 リンクは驚くだろうか。喜んでくれるだろうか。ひょっとすると、このこと自体の知識を持って 
いないかもしれない。子供ばかりのコキリ族と一緒に暮らしてきたリンクなのだから。とすると、 
わたしが教えてあげなくては…… 
 いや、そうとも限るまい。 
 初めてリンクに会った時、頼れるのは、そして愛せるのはこの人しかいないと確信する一方で、 
遠い辺境から出てきた独りぼっちの少年を庇護してやりたいとの思いをも、わたしは抱いた。が、 
いまにすれば、それはずいぶんと的はずれな発想だった。確かに、ハイラル城内でのリンクの 
立場は、わたしの存在によって保証されている。とはいえ、リンクは──あの歳にして── 
なまじな庇護など必要ないほど気概に富んだ人物だし、辺境暮らしが長いわりには諸事に詳しい。 
特に各地へ旅をするようになってからは──学問的なことはともかくとして──城に居続けの 
わたしよりも、世間の事情には通じている。女性の生理の知識くらい持っていても不思議はない。 
なにしろセックスに関しては、常にリンクが教える側、わたしは教わる側なのだ。 
『だとしても……』 
 あるいは、 
『だからこそ……』  
 
 いまのわたしは、リンクとの再会に、いつも以上の喜びを感じる。 
 そもそもは、今日が誕生日であることからきている、ひそかな喜び。 
 わたしとリンクは同い年だが、誕生日はわたしの方が少しだけ早い。その「お姉さん」的な 
意識は、わたしがリンクを思う時、絶えず何とはなく付帯してきた。庇護してやりたいという 
かつての発想も、由来の一部はそこにあったのだ。しかして今日から、わたしは年齢において── 
わずかな差であるにせよ、また短い期間であるにせよ──リンクを上まわることとなる。それを 
喜びと見なしても、あながち不当ではないだろう。ましてや、大人に向けての成長を、リンクに 
先立ち、ひとつ経たわたしであるならば。 
 ただし、こうした喜び──換言すれば優越感──も、リンクと同衾する時になったら…… 
「今後はくれぐれもお気をつけください」 
 インパの声が思考を遮った。咄嗟には意味をつかめなかった。 
「何に?」 
「妊娠です」 
 わかっていないのかとばかり、インパがいかめしい態度となって直接的な言葉をかぶせてきた。 
「ああ、それなら……」 
 わきまえている。 
「大丈夫よ、前に教わっているから。充分に気をつけるわ」 
 ハイリア人女性の月経周期は厳密に定まっており、まずもって狂うことはない。三十日の 
周期のうち、妊娠可能な期間は十六日目の排卵日から四日間。その「危険な四日間」にさえ 
留意していれば、望まぬ妊娠は避けられる。 
 実のところ現状では、そんな留意も不必要なのだ。まだリンクは女性を妊娠させられる身体に 
なっていない。だから何の心配もなく、いつだろうと好きなだけわたしたちは── 
「あ、でも……」 
 思い至る。 
「いまは、まずい……かしら」 
「何がです?」 
「いまの時期、あれを、するのは……」 
「言うまでもありません」 
 インパの目が吊り上がった。 
「生理中の閨事など、言語道断です。そのような不埒な考えは、即刻、頭から追い払ってください」 
「……はい」 
 頷かざるを得ない。 
 落胆の中で、思いは漂う。 
 せっかくリンクが戻ってくるのに、しかも記念すべき誕生日なのに、情を交わすことが 
できないとは。 
 喜ばしいはずのできごとが、こうなると、逆に呪わしくなる。 
 今日だけではない。三十日という月経周期は、暦の上のひと月と正確に合致するから、月々の 
生理は必ず同じ日に始まる。つまり、わたしにとって誕生日は、不可避的に月経開始日となる。 
リンクに抱かれて自分の誕生日を祝うことは、この先、絶対にできないのだ。 
『けれど……』 
 くよくよしていてもしかたがない──と、ゼルダは思いを前向きに切り替えた。 
 誕生日の交合は無理であっても、無理でなくなる時を待てばいいだけの話。妊娠可能な期間が 
四日間であるのと同じく、月経期間も四日間と決まっている。四日後には支障なくリンクと 
睦み合えるのだ……  
 
 パーティーは盛況だった。招待者を限定せず、お望みの方はどなたでも、と触れさせてあった 
せいか、会場は、さまざまな身分、さまざまな職種の人々が入り混じり、賑やかに、和やかに、 
楽しい時を過ごす所となった。客のほとんどは城内の知り人だったが、中には、城下町の人民を 
代表して訪れたという一団や、慶賀の使者としてカカリコ村から到来した兵士もいた。後者は、 
そこを出身地とするインパがゼルダの乳母であるとの縁により、村の守備隊長が特に派遣して 
きたのである。 
 各人から贈られる祝いの言葉を、ゼルダは嬉しく、ありがたく受領し、自らも心をこめて答礼した。 
 国王は──多少、遅刻はしたものの──約束を守って来駕し、すでに無礼講となっていた場の 
雰囲気に乗せられてか、誰を憚るつもりもないように、あからさまな口吻と態度で娘への愛情を 
発露させた。威厳ある平素の居住まいとはかけ離れた様相のハイラル王を目にして、誰もが 
驚き混じりの笑みを隠せないふうである。ゼルダにすれば照れ臭い限りだったが、反面、父の 
真情が痛いほど感じられもし、心は幸福感に満たされた。 
 遅刻者はもう一人あった。リンクである。いつになったら現れるのか、もしや事故にでも 
遭ったのか、と心配になり始めていた折りも折り、息せき切って会場に飛びこんでくる緑衣の姿が 
見いだされた。ゼルダの胸は歓喜ではちきれんばかりとなった。 
「遅くなってごめんよ。旅の途中で急な用事が入っちゃったんだ」 
「いいのよ、来てくれさえすれば」 
 できるなら抱きつきたいところである。けれども衆人環視の状態とあっては──インパの小言を 
思い出すまでもなく──とうてい不可能。会話も控えめにしておかなければならない。歯がゆく、 
またリンクに申し訳なく思うゼルダだったが、リンクの方は大らかにも、ゼルダの及び腰を別に 
変だとも受け取っていないようで、その点では気を休めることができた。それに実際、リンクだけを 
相手にしているわけにもいかなかった。次から次へと面前に来る客をもてなすべき立場なのである。 
この分なら横で見張っているインパもわたしの挙措に文句はつけられないだろう──と、ゼルダは 
心の内で独り言ちた。 
 誕生日を祝うパーティーであるから、客はいずれも贈り物を携えている。その授受の場面を 
傍らで眺めていたリンクが、客の途切れを待って話しかけてきた。特別な贈り物を用意していない 
──と、困り顔をして謝るのである。そういう習慣があることを知らなかったらしい。 
『まだ世間の事情に通じきってはいないのね』 
 面白がりつつ、 
「かまわないわ。気にしないで」 
 と取りなす。リンクの存在自体が何ものにも換えがたい贈り物だった。 
 が、それでは気がすまぬふうのリンクである。 
「有り合わせで悪いけれど……」 
 と言いながら、奇妙な物を手渡してきた。 
「これは?」 
「『青い炎』さ」 
 その名のとおり、瓶の中で青白い火がちらちらと光を放っている。聞けば、ゾーラの里の 
奥にある氷の洞窟が原産地で、里を訪れた時に見かけて興味を抱き、キングゾーラに頼んで分けて 
もらったとのこと。 
「特に使い道があるわけじゃないんだ。でも、きれいだろ?」 
 確かに美しい。炎とは信じられぬ幻想的な色彩。燃料もないのに燃焼する不思議さ。見ていて 
飽きず、心が落ち着く。部屋に置けば一風変わった装飾品となろう。 
「ありがとう。とても嬉しいわ」 
 ゼルダは謝辞に誠意をこめた。他の人々から贈られた物の多くは、ちょっとした装身具だの 
ドレスだの、いかにも年頃の女の子が喜びそうな品であり──事実、年頃と見なされてすこぶる 
気分はよかった──それらの中で『青い炎』は場違い的な独特さを呈している。しかしその独特さが 
リンクの個性の反映とも感じられ、ゼルダの胸は高鳴ったのだった。 
『個性といえば……』 
 これは君にあげようと思って手に入れたんだ──などと言わないところもリンクらしい。 
そう偽ってもばれるはずはないのに、有り合わせだと馬鹿正直に告白する。 
 覚えずゼルダは笑みを漏らした。 
『そこが、好き』  
 
 パーティーが終わったあと、なお就寝時刻までには間があったので、ゼルダはリンクを自室に 
招き入れた。無論、人目につかぬようこっそりと、である。インパにだけは気づかれるだろうと 
覚悟していたが、案に相違し、割りこみはかけられなかった。あれだけ釘を刺したのだから、 
肉体的な事情を考慮して、けしからぬ仕儀には至るまい──と見切っているようだった。 
 居間のソファに隣り合って腰を据えたのち、ゼルダはリンクに、その肉体的な事情を話して 
聞かせた。リンクは、まず驚き、次に喜びの表情となって、祝福の言葉を献じてくれた。やはり 
それについての知識を持っていたのだと了解しつつ、リンクの反応が期待どおりのものであった 
ことに、ゼルダは満足した。父王にも先にパーティーの会場で、そっと耳打ちしておいたのだったが、 
その時の父に負けず劣らず、リンクは嬉しそうである。心を許せる二人の男性に、女性としての 
成長を寿いでもらえるのは、ゼルダにとって無上の欣快事だった。 
 しかし、欣快は続かなかった。 
 期間中は交接を控えなければならないけれども、四日経てば何の障害もなくなる──と告げた 
ところ、リンクは顔を曇らせた。 
「城に長居はできないんだ」 
 いきさつはこうである。 
 ──デスマウンテンに暮らすゴロン族の間で、奇妙な眼病が流行している。族長のダルニアに 
対策を依頼され、とりあえずカカリコ村へ下って薬屋の婆さんに相談すると、ハイリア湖畔に住む 
みずうみ博士なら『特製本生目薬』を処方できる、と教えられた。材料となるのは、ゾーラの里にのみ 
棲息するメダマガエル。そこで里に赴き、キングゾーラの好意にすがって、目的のものを調達した 
(『青い炎』は、その際、併せて分与されたのである)。次いでハイリア湖へ向かう途中、いま、 
こうしてハイラル城に立ち寄っている。材料は生き物だから、急いで届ける必要がある。遅くとも 
四日後の早朝には城を発たないと間に合わない── 
 つまりは、パーティーに遅刻した理由である「急な用事」が、まだ片づいていないという 
次第なのだった。 
 待ち望んでいた機会が、紙一重の差で逃げてゆく…… 
 失意の底に落ちるゼルダをよそに、リンクは能天気な調子で語を継いだ。 
「だけど、生理の時にセックスするのは、そんなに悪いことなのかな」 
 当たり前でしょう──と返しかけて、ふと、気持ちが動いた。 
 ほんとうに悪いことだろうか。 
 言語道断とインパは言ったが、あれは一種の脅かしではなかったか。最近、わたしが小言に 
慣れて、足元を見ているふうなのを察し、わざと高圧的な態度に出たのだとも思われる。 
 リンクにせよわたしにせよ、毒に侵されるわけではないのだ。確かにこちらは万全ならぬ体調。 
下腹部の鈍痛が続いている。とはいえ、さほど強くもない。パーティーの間は我慢できていた。 
性交にも耐えられよう。挿入したものが血まみれになるのをリンクさえ容認するのであれば、 
なんら問題はないのではないか。もとより妊娠の危険もない。 
 心を決めようとしたところで、先んじられた。 
「でも、まあ、無理しちゃいけないよね。なにしろ初めてのことなんだし」 
「……ええ……そうね」 
 と答えざるを得ない。思いやりを押しのけてまで欲望を主張するのは憚られた。 
『それに……』 
 ここでリンクと寝室にこもったりしたら、インパは黙っていないだろう。 
 ゼルダは強いておのれを納得させた。軽い抱擁と接吻のみを交わし、その夜、二人は個別の 
眠りに就いた。  
 
 翌日から翌々日にかけ、股間からの出血は増量し、並行して痛みの程度も増した。生活に多大な 
影響を及ぼすほどではなかったが、どうしても気分は鬱ぎに傾く。何かをしようという意欲も 
殺がれてしまう。交わらないでおいたのは正解だったかもしれない──と、ゼルダはひそかに 
思った。リンクが城にいてくれることで、心は慰められたものの、性欲を苦痛に優先させる気には 
なれなかったのである。もっとも、インパが目を光らせている以上、優先させたくてもさせられない 
状況ではあった。 
 四日目になって状況が変化した。 
 ゼルダの誕生日に際して、外部のカカリコ村がわざわざ慶賀の使者をよこしてきたからには、 
こちらも返礼の使者を送らなければならない──とハイラル王が言い出し、その任をインパに 
命じたのだった。当然にして的確な人選といえた。そもそもカカリコ村が使者を派遣してきたのは、 
インパがらみの縁があってのこと。加えて国王には、久しく故郷に帰っていないインパに 
ささやかな休暇を与えてやろう、との意図もあったようである。 
 ゼルダに目を届かせられなくなるとあって、インパは若干の懸念を抱くふうだった。身体を 
気遣うだけでなく、不埒な考えを頭に残してはいないかと疑っている節があった。が、それまでの 
二日間、芳しからぬ体調ゆえに気分も乗らない様子のゼルダを見ていて、心配するまでもなかろうと、 
結局は判断したらしい。あまりうるさく念押しもせず、インパはハイラル城を発っていった。 
 もちろん、ゼルダの頭には、不埒な考えが残っていた。月経も最終日に入り、身体がけっこう 
楽になっていたのだった。 
 カカリコ村へは馬を急がせても半日の行程。インパが出発したのは昼過ぎなので、帰城は 
早くとも明日。つまり今夜は、インパに監視されることなく、自由な行動が可能。かくも 
千載一遇の好機を見過ごす手はない。 
 ただ一つ、確かめておくべき点があった。 
 ゼルダはリンクを自室に誘った。二人きりになるわけだったが、午後のお茶をともに喫するという 
名目なので、まわりの者は怪しまない。 
 これからリンクが行くハイリア湖とはどんな所なのか、などと軽い会話をしばらく交わし、 
一段落したところで、本題に入る。 
「今夜、ここに来てもらえないかしら」 
 インパの付き添いがなければ別荘へは行けない。城内での密会は危険を伴うものの、この際、 
選択肢はお互いの部屋だけ。戸締まりの厳重さを考えれば、妥当なのはこちらの部屋。それに、 
わたしが移動するよりも、リンクが移動する方が、不時の折りには対応しやすい。 
「一緒にいたいわ」 
「いいよ」 
 屈託のない笑みを浮かべてリンクが応じる。 
「夕食のあとは、ここでお茶にしようか。それとも、いっそ、この部屋で夕食にする?」 
 肩すかしを食った感じだった。 
 案そのものは悪くないけれども、話は噛み合っていない。こちらの真意がわからないのか。 
 あきれながらも、察しが悪いのはいつものこと、と気を取り直す。 
「そうじゃなくて……」 
 はっきり伝えなければならない。しかし露骨な物言いをするのもためらわれる。 
「来て欲しいのは……」 
 ぎりぎりの表現を見つけだす。 
「ベッドなの」 
 リンクの顔が輝いた。が、すぐに面持ちは疑念を表す。 
「だけど、まだ身体の具合がよくないんだろう? このところ、だいぶつらそうだったし」 
「もうかなりいいのよ。だから……」 
 とまで言っても、 
「うーん……」 
 煮え切らない様子のリンク。 
「血に濡れるのは、いや?」 
「いやじゃないよ。ただ……血が出る所に挿れたりしたら、君の方がずいぶん苦しいだろうと 
思ってさ」 
 あくまでこちらの体調を慮ってくれるのである。  
 
 それはそれで嬉しいのだが、機会を逸したくはない。いまの顔の輝かせようから、ほんとうは 
リンクもそうしたがっているとわかる。かといって、慮りを無にするのも、かえってリンクに悪い 
気がする。 
 しばし流れる沈黙を、リンクがそっと押し分けた。 
「じゃあ、別の方法でやってみようか」 
「別の方法?」 
「後ろでするんだよ」 
「後ろって?」 
「お尻」 
 理解の域を超えていた。意味を判じて、仰天した。 
「そっちに……挿れるの?」 
「うん」 
 よほど驚いた顔をしてしまったらしい。あわてたようにリンクがつけ加える。 
「無理にとは言わないけれど……」 
 答えられなかった。それほど意想外な要求だった。何度かリンクにその部の表面を指や舌で 
愛された経験がありながら、そこを性交自体に使用するという発想には、ついぞ至らなかったのである。 
 何といっても排泄器官。非常識にもほどがあろう。 
『でも……』 
 心は揺れる。 
 膣と同じく管状の構造。そういう方法があっておかしくはない。そこから出てくるものの 
大きさを考えれば、男性器の受け入れも可能と思われる。受け入れてどんな感じがするのか、 
危ぶまずにはいられないが、そこが快感を生む場所であることは、すでにリンクが教えてくれた。 
挿入されても快いのではないだろうか。 
 のみならず…… 
 そこでリンクを悦ばせられるのなら、どんなにしてでも悦ばせてあげたい。わたしが捧げられる 
すべてのものを、リンクに向けて捧げたい。 
 思い切る。 
「してみるわ」 
「ほんとう?」 
「ええ」 
「よかった」 
 再びリンクが顔を輝かせる。 
「そろそろ君もそのやり方を覚えていい頃だと思ってたんだ」 
 妙に通ぶった言い方を──と、ゼルダはいぶかしんだ。 
「リンクはどうして知っているの?」 
「え? 何を?」 
「そのやり方のこと」 
「あ、それは……」 
 リンクの口調が弁解めいたものとなった。 
「いや、あの、そんなやり方もあるって、聞いたことがあって……」 
「旅の途中で?」 
「うん、まあ……」 
 何となく怪しい気もするが、品のよい話題ではないから、詳しい経緯を語りづらいのだろう。 
どこかで大人がする猥談を小耳に挟みでもしたに違いない。これもリンクが知っている世間の 
事情のうちなのだ。 
『ともあれ……』 
 ゼルダは意識を方向転換させた。そうするとなったからには、いろいろと準備が必要なのだった。  
 
 夕食はいつもどおり食堂で摂った。自室で──しかもリンクと二人で──食事をしたりすれば、 
周囲の疑惑を招きかねないと考えたからである。リンクもその点には理解を示し、自らの提案には 
固執しなかった。 
 食後は早めに部屋へ引き取った。リンクとべたべたするさまを人に見せてはならなかったし、 
入浴に時間をかけるつもりもあった。浴室では常にも増して清潔を心がけ、後ろの方は特に 
注意して洗浄した。 
 潤滑剤も入用だった。あった方がいいとリンクに言われていたのである。化粧品の類が 
よかろうと思われたが、ふだん化粧をしないため、適当な品を持ち合わせない。そこでお気に入りの 
侍女に、生理のせいで肌が荒れたような気がするからと述べ──それはまんざら嘘でもなかった 
──瓶入りの乳液を借りた。すでにインパ経由で初潮の件を伝えてあったので、侍女は疑いもせず 
求めに応じてくれた。 
 腹痛はほとんど治まっており、体調には問題ないと判断された。入浴中に確かめたところでは、 
出血も少なくなっている。それでもベッドを汚さぬ配慮は要ると考え、浴室から大きめのタオルを 
持ち出しておいた。 
 仕度を終え、寝室にひとりとなる。ソファに腰かけて、時が過ぎるのを待つ。 
 身体を動かしている間はさほどでもなかったが、じっとしていると気になってくる。 
 寝衣のまま、下穿きだけを脱ぐ。空気にさらした股間を、手鏡でじっくりと観察する。 
 初めての行為ではなかった。リンクに処女を捧げたのち、自分の性器というものに関心が湧いて、 
一度だけそうした経験があった。が、今回の観察対象は性器ではない。もうすぐ使うことになる 
場所である。 
 リンクのそこは何度も見ているから、どういう形なのかは知悉している。ところが自身の 
そことなると──あまつさえ、そこでなすべき行いを思うと──印象は多分に異なるのだった。 
 いかにも狭そう。見れば見るほど不安になる。物理的には大丈夫とわかっているのに…… 
 ゼルダは頭を振った。 
 いまさら迷ってはいられない。 
 改めて着衣を整える。 
 そこで、ふと、想起した。 
 わたしの女の部分を、リンクが花に例えたことがあった。的を射た比喩だと思った。左右に 
分かれた唇が花弁に、真ん中の突起が雌蘂に、そしてあふれる液体が蜜にあたると解釈できるからだ。 
 それほど派手やかではなくとも、後ろの門とて、花に似ているといえるのではないか。全周に 
寄り集まる細かい皺を、多数の細い花びらと見なせなくもない。 
 とすると、先にリンクはわたしの前の花を開き、今夜は後ろの花を開くわけだ。わたしの持つ 
二つの花は、二つともリンクによって咲くことになるのだ。 
 その着想はゼルダを安らがせた。不安は消え、身体は熱くなった。一刻も早くそうなりたいと 
切望された。 
 そうしてゼルダは待ち続けた。  
 
 約束しておいた刻限となって、リンクが部屋に忍んできた。 
 真夜中である。 
 王族の私室があるあたりは、城の中でも奥の方で、深夜ともなると、めったに人はやって来ない。 
リンクの部屋も同じ領域内に位置しているから、気をつけてさえいれば、誰にも悟られず移動が 
可能だった。 
 とはいうものの、ことがことだけに、いくら警戒してもしすぎにはならない。リンクを 
迎え入れるいなや、ゼルダは複数のドアに鍵をかけ、外部との連絡を遮断した。 
 寝室は、もはや誰も侵入を成し得ない聖域である。弱めた灯火のもと、言葉もなく二人は 
抱き合い、唇を重ねた。 
 やがて初段の交歓は終わる。リンクが衣服を床に捨てる。ゼルダも合わせて脱衣する。ただし 
血液の漏れを防ぐため、下穿きだけは残しておいた。 
 並んでベッドに横臥する。再び互いの両腕が相手を包み、再び互いの口が相手を貪る。相手を 
あまねく探ろうとして、四つの手が淫靡な動きをなす。 
 リンクが手を止めた。 
「ここ……」 
 こちらの胸に触れている。 
「ちょっと大きくなったね」 
「そう?」 
 確かめる。乳暈の部分だけがわずかに盛り上がっている。いつものままである。 
「そんなふうには思えないわ」 
「君は毎日見ているから、かえって気がつかないのさ。久しぶりのぼくには、違いがよくわかるよ」 
 再度、注視する。実感は湧かない。 
 けれどもリンクが断言するからには、それは確かなことなのだ。些細な程度であれ、わたしは 
少しずつ成長している。その些細な変化を、リンクは正確に認識してくれている。 
 心は感動に満たされた。両胸への口づけが感動を倍増させた。口は次第に活動を強めた。感動も 
強くなる一方だった。 
 リンクの下半身に右手をやる。感動を共有してもらいたかった。が、握ったものの硬さと熱さに、 
ますますゼルダは感動させられ、ろくに愛撫も施さないうち、一気に頂点へと登りつめてしまった。 
 快感の波が引くのを待たず、中断した行為を再開させる。手を、指を、唇を、舌を、リンクの 
勃起と戯れさせる。知る限りの動作で奉仕する。 
 リンクの声が、表情が、身体の震えが、感動を如実に映し出しているとわかり、ゼルダの感動も 
新たとなった。なおもそれを拡充させるため、さらなる動作に没頭しようとした時── 
「もう……」 
 局部に寄せていた頭が、リンクの手に軽く押さえられた。動作を止める。顔を上げる。両目に 
切迫の色を湛えて、リンクが左手を伸ばしてきた。身に着けた唯一の衣装を介して尻に触られる。 
触られただけである。とはいえ、意図は明白だった。 
 下穿きを脱ぐ。股間の布片は愛液にまみれ、しかし赤い染みは広がっていない。出血が止まって 
いるのだった。時刻からすると五日目に入っているから、当然といえば当然である。 
 これなら正規のやり方も可能ではないか──との思いを、直ちに退ける。 
 第二の花を咲かせることこそが、今夜の至上命題なのだ。 
 リンクに乳液の瓶を渡す。念のためベッドにタオルを敷く。うつ伏せになる。 
 すぐ始まるかと思って身を硬くしていると、意外な箇所に接触を得た。うなじに接吻されたのだった。 
ぞくりとした快美感が背を走り、その道筋をたどるかのごとく、唇は徐々に下降する。ついには 
尻の狭間へと達した。 
 腰を浮かせる。開かれるべき部位を露呈させる。そこへの口接を予想する。と──  
 
「この匂い……」 
 リンクが呟いた。 
「香水?」 
「ええ……」 
 顔を伏せたまま、ゼルダは答えた。洗うだけでは心許なかったので、風呂から上がったあと、 
使用しておいたのである。 
「いいね。いつもの匂いも素敵だけれど」 
「いつもの──って?」 
「君からいつも匂ってくる、あれだよ。ここだけじゃなくて、身体中から」 
「わたしが? そんな匂いを?」 
「そうさ。知らなかったのかい?」 
 知らなかった。自分では全く気づかなかった。 
 香水はめったに使わないから、体臭なのだろう。自分で感知できないのは、鼻が慣れてしまって 
いるためか。といっても、他人に体臭を指摘されたことなど、いまのいままで一度もない。 
 どういうわけなのか。リンクの嗅覚がとりわけ鋭敏なのか。過去のつき合いをふり返ってみても、 
思い当たる節はないのだが…… 
『もしかすると……』 
 リンクと接している時だけ、わたしはその匂いを発するのでは? 想いが身体に作用して。 
 とすれば、その匂いは、わたしがリンクに対して抱く愛情の証。 
 またもや感動が湧き起こった。同時に肉体も震えをきたした。リンクの舌を感じたのである。 
 肛門への口技は経験ずみ。ただし表面を舐められただけ。ところがこのたびのリンクは、さらに 
内へと入ってくる。舌の長さに対応して、あまり深い進入とはならない。それでも、未知の接触を 
得た粘膜は、未知の感覚を脳へと伝える。 
 まぎれもない快感だった。 
 感動を華々しく修飾され、ゼルダは耐えきれず呻きを発した。心にも身体にも抵抗はなかった。 
新鮮な刺激をひたすら堪能した。 
 そうこうするうちに舌は去り、替わって指が触れてきた。指はしばらく入口をさまよった。 
その感触で乳液が用いられているとわかった。潤いを広げているのだった。 
「楽にしてて」 
 その言葉で次の行為が知れた。予行として指を挿入されるのである。 
 ゼルダは頷いた。挿入が始まった。舌とは異なる硬さが、筋肉を反射的に収縮させた。 
 指が停止した。 
「痛い?」 
「いいえ……」 
 痛くはない。ちょっと緊張しただけ。楽にしよう。楽にしよう。でも、どうすれば楽に 
できるのかしら。 
「力を抜いて」 
 それはわかっている。けれどもそうはできない。意図してそこを締めているわけではないのに、 
どうしても力が入ってしまう。落ち着こう。落ち着こう。落ち着くためには、そう、ゆったりと 
構えて、呼吸を整えて…… 
 深く、長く、息を吐く。 
 緊張が和らいだ。全身が軽くなった。ゼルダは静かに事態の進展を待った。 
 指はゆっくりと分け入ってきた。括約筋は断続的に収縮したが、そのつどゼルダは呼吸に留意し、 
挿入を妨げぬよう心がけた。  
 
 ややあって、指の動きが止まった。 
「どう?」 
「ん……」 
「大丈夫?」 
「ええ……」 
 リンクが優しくしてくれているからだろう、ここまで痛みは感じていない。だけど、なんとも 
奇妙な感じ。舌を送りこまれた時の感覚とはかなり違う。その時より奥まで掘削されているせいか、 
その時より硬いものを挿しこまれているせいか、身体の中心を押さえつけられるような、変な、 
不思議な、重々しい感覚。といってもそれは苦痛ではなくて、わたしの内部に隠れている情動を、 
穏やかに、控えめに、呼び覚ますがごとく、揺り起こすがごとく、そんな誘惑めいた甘美さが、 
おぼろげながらにもうかがえる、それは…… 
 快感? 
 これが快感? 
 初めてリンクと結ばれて以来、いろいろな形のセックスを、わたしは経験してきたけれど、 
その折りに得た快感とは、明らかに一線を画している。 
 が…… 
 指が忍びやかに動き始めた。前後方向に往復するかと思えば、一点にとどまって内壁を圧迫する。 
あるいはくすぐる。優しくも多彩な動きの数々が、捉えきれなかった感覚の正体を、ゼルダに 
教示することとなった。 
 快感! 
 これも快感! 
 認めてしまうと、もう何も気にならない。 
 心の中で嘆願する。 
『もっと!』 
 指が引き抜かれた。 
『どうして?』 
 疑問は一瞬のうちに氷解した。後ろで身動きする気配がした。リンクが体勢を整えている──と 
思う間もなく、腰を両手で抱えられた。 
「いいね?」 
 ああ、とうとう、この時となった。リンクの男性自身によって、わたしの後ろの花は開かれるのだ。 
 ごくんと唾を呑みこんで、意思を短く言葉にする。 
「きて」 
 接触を感じた。圧が加わった。指よりも太い物体が、ゆるりと入りこんできた。 
「んん……ッ!」 
 喉から唸りが滲み出る。 
 さすがにすんなりとはいかない。けれど、さっきの予行でこつはつかんだ。息を吐いて、 
楽にして、力を抜いて、そうすれば、無理なく、問題なく、わたしは、ここに、この場所に、 
あなたに捧げるべくわたしが残していた最後の領域に、あなたを迎え入れられる……  
 
 そのとおりだった。最初の関門を開放すると、あとは順調にことが運んだ。リンクは慎重であり、 
決して急ぐふうを示さなかった。時には案じるように言葉を投じ、ともすれば顕在化しそうになる 
緊張をほぐしてくれる。そんないたわりにも助けられ、ほとんど困難を覚えぬまま、やがて 
ゼルダは一幕の完了を知った。リンクのすべてが自分に埋没した状態となっているのだった。 
 涙がこぼれた。 
 苦痛ゆえではない。 
 苦痛など微塵もなかった。 
 感激ゆえである。 
「ゼルダ……」 
 かすれた声がした。こちらを慈しむとともに、自身の想いをも吐露していると察せられた。 
「リンク……」 
 声を返す。 
「嬉しい……」 
 声が返る。 
「ぼくも……」 
 リンクもまた感激している。わたしたちは一緒に感激している。それはわたしたち二人の 
繋がりが、切っても切れない緊密さを有していることの、絶対的な証拠なのだ! 
 リンクが体動を開始した。そうするだろうと確信し、かつ、待望していた行動だった。 
直腸内での抽送は、もはやゼルダにとって快楽以外の何ものでもなかったのである。 
 相変わらずリンクは慎重だった。押す時も、引く時も、きわめて悠長に振る舞った。その悠長さが 
リンクの心遣いと理解しつつも、ゼルダは焦れるおのれを自覚せざるを得なかった。もっと激しく 
攻め立てて欲しかった。 
 自ら腰を前後させる。 
 リンクは願いを汲み取ってくれた。抽送の速度が増し、力強さも加わった。ゼルダは満足し、 
しかしそれでも腰の動きを滞らせなかった。満足の上を行く満足を求めた。口はだらしなく喘ぎを 
漏らし、流れ出す唾液は顎を伝ってシーツに染みを作った。そうとわかりながらどうにも 
できなかった。どうするつもりもなかった。ただただリンクと快感を分かち合っていたかった。 
 ほどなく絶頂が訪れた。そのこと自体の悦びだけでなく、初めての肛交で絶頂を極められたと 
いう悦びが、ゼルダの満足を真の満足たらしめた。 
 が、悦びは完結していなかった。 
 絶頂がもたらす忘我の境地にあって、静止状態となっていたゼルダを、既知の──ただし 
その場では、肛門でのそれに重なり、既知とは思えないくらい鮮烈なものと化した──快感が 
見舞ったのである。いまだ達していない硬直を腸に埋めたまま、ゼルダと同じく静止の体勢と 
なったリンクが、腰に添えていた手を前方へと移動させ、両の胸でほころびかけた一対の蕾と、 
股間の結合部に近接した場所でなおも欲望の信号を発する雌芯を、巧みに弄び始めたのだった。 
 たちまち絶頂が回帰した。無数の光芒が脳内を飛び交い、ゼルダを歓喜の渦に巻きこんだ。 
全身が壊れてちりぢりになると錯覚されるほどの、爆発的な法悦だった。 
 再び抽送が始まった。リンクは慎重さをかなぐり捨てていた。獰猛ともいえる勢いだった。 
ゼルダは腰を揺らす力を失い、甘んじてリンクの強襲を身に受けるだけとなっていた。 
 それでよかった。 
 それでこそよかった。 
 自分はリンクに支配されているとの実感が、背後から攻められているという例の屈服感とも 
相まって、ゼルダを恍惚の極へと運んだ。 
 暫時ののち、リンクが終局に至った。腸内における男根の痙攣が、支配の完遂と得心され、 
ゼルダはおのれを至上の陶酔に浸らせた。  
 
 その夜の交情は一度にとどまった。リンクの出発が早朝であり、しかもそれに先立って自室へ 
戻らねばならないとなれば、長々と絡み続けるわけにはいかなかったのである。 
 にもかかわらず、ゼルダは不満を感じなかった。さらなるまぐわいを必要としないほど、心身が 
充足していたのだった。 
 ベッドの上に横たわり、リンクの腕に包まれて、静かな触れ合いを、静かに楽しむ。 
 頭は陶然とし、先ほどまでの交わりのさまを、前後の順もなく思い起こす。 
 新たに知った肛門でのセックス。 
 膣交とは異質の、しかし素晴らしい魅力を持った秘戯。 
『そういえば……』 
 リンクに抱かれて自分の誕生日を祝うことは絶対にできない──と思っていたが、この方法を 
使えば、それができる。もちろん、誕生日であろうとなかろうと、また月経期間であろうと 
なかろうと、したければいつでもしていいわけで、きっとこれからわたしたちは、しばしば 
この方法で結び合うようになるだろう。 
『ただ……』 
 誕生日を迎えて一つ年齢の差をつけ、なおかつ一足先に「大人」の身体となりながら、 
依然としてわたしはリンクにものを教わる立場のままだ。この方法を教えてくれたことでは 
感謝を惜しまないし、支配される悦びを否定するつもりもないけれど、「お姉さん」のわたしと 
しては、何となく悔しい感じもする。 
「あのさ」 
 不意にリンクが口を開いた。 
「なあに?」 
「おしっこしたくならない?」 
「え?」 
 まごついてしまう。 
「ならないわ。妙なことを訊くのね。なぜ?」 
「いや、その……お尻でしたあと、そうなる女の人がいるらしいんだよ」 
 思いもよらない話だった。 
「中には、我慢できなくて、漏らしちゃったりする人もいるとか」 
 驚くばかりである。 
「でも、それはこらえ性がなさすぎるんじゃないかしら。好きな人の前で粗相するなんて。 
わたしだったら、とても生きてはいられないわ」 
 ぷっ──とリンクが噴き出した。懸命に表情を保とうとするも、ついには耐えきれなくなった 
ようで、肩を揺らしてくつくつと笑い始めた。声が響き渡るのを憚るふうではあるが、笑いは 
一向に治まらない。 
「どうしたの? わたし、何かおかしなことを言った?」 
 途切れ途切れに言葉を絞り出すリンク。 
「ごめん……だけど……君にも……いずれ……わかると思う……」 
 あとは笑いの継続である。 
『リンクったら、変な人。ひょっとして、わたしがそんな恥ずかしいことをするとでも思って 
いるのかしら。なんだかとっても失礼ね』 
 自分の理解が及ばない何かを独占するかのごときリンクに、いくばくかの怪しみと憤りを 
覚えつつも、 
『けれど、こんなに笑い転げて飽きないなんて、やっぱりまだまだ子供なんだわ』 
 と、溜飲を下げるゼルダだった。 
 
 
To be continued.  
 

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