サリアの顔が跳ね上がった。表情をこわばらせ、怖じたような目で、おどおどと視線を
向けてくる。自分が要望されるとは思いもしなかったと言いたげである。
が──
「そうよね……」
面に浮かべた逡巡を──
「ゼルダが見せてくれたんだから……」
徐々に決意へと変化させ──
「あたしだって、見せなきゃね」
ただし動作には遅疑の気色を残しつつ、サリアはおもむろに上半身を裸とし、対顔する位置に
腰を据えた。
注目する。
乳房といえるほどの丸みはない、けれども女としての特徴は明らかな、左右の胸の、ほのかな
盛り上がり。中央では薄桃色の小円が緩やかに突出している。
確かにわたしと同程度のふくらみ──とゼルダは了解した。しかしその了解を口にすることは
できなかった。ふくらみの程度といった即物的な情報をはるかに上まわる鮮烈な主張をサリアの
半裸体は開示しており、それがゼルダの言葉を奪ってしまったのである。
信じざるを得ない。未熟なるがゆえの美というものが存在することを。
胸のふくらみにとどまらず、首から肩を経て腕へと続く曲線が、胸部から腹部にかけての曲面が
──単調なようでいて実は複雑な輪郭が──大人と子供の中間に位置する者の特異さをみずみずしく
具現している。
体内に溌剌と息づく生命力が、いまにも開花に向かってほとばしろうとしながら、なお開花を
ためらう慎ましさと拮抗し、危うくも玄妙に均衡する、そのさま。
成長途上にある少女の肉体が、これほど魅力的なものだったとは!
自分も同じ途上にあるというのに、いままで少しも意識したことがなかった。他者を客観して
初めてわかった。
サリアは頬を赤らめている。胸を手で隠したくなるのを我慢している様子。日々の習慣が
わたしとは違っていて、服は捨てられても羞恥心までは捨てられないのだろう。ただ、そのような
羞じらいの様相が、未熟な肉体の魅力をいっそう際立たせている。
「きれい……」
と、どうにか、言う。
サリアもそうだったのか──と、いまにして思う。
わたしの身体に見とれて、感動のあまり「きれい」と表現するしかすべのない、先ほどの
サリアであったのか。だとすると、わたしにもサリアと同じ魅力があることになるが──
「そんな……」
はにかみを強めて、サリアが言う。
「ゼルダの方が、よっぽどきれいよ」
やはりそうなのか。サリアはわたしに魅力があると思っているのか。けれどもわたしにしてみれば
サリアの方が……
「ゼルダは、ほっそりしてて……」
単に痩せているだけだ。対してサリアの肢体は、そこここに女性らしい柔らかみを備え、
それでいて肥満に堕することなく、あくまでも均整を保っている。
「雪みたいに色白で……」
ろくに屋外へ出ない王城暮らしゆえの生白さとするのがむしろ正しい。自然の中に住むサリアの
健やかさには太刀打ちできない。
「きめの細かそうな肌で……」
サリアこそ、肌に触れたらぴちぴちと弾みが感じられそうで、できれば実際に触れてみたいとさえ
わたしは──
「触ってもいい?」
とサリア。
『え!?』
束の間、怯む。
が、
「いいわよ」
と、諾する。
サリアが腰を浮かせる。身を近寄せてくる。右手を伸ばしてくる。左の二の腕に触れられる。
ぴくり、とわたしは小さく震え、しかし従順にその接触を受け入れる。サリアの手の温かみを
受け入れる。
「すごく、すべすべしてる……」
撫でられる。さらさらと。伝わってくる温かみの範囲が広がる。この温かみが欲しかったからこそ、
また──
「触っていいよ、ゼルダも」
そう、わたしが許せばサリアも許すと期待したからこそ、わたしはサリアの求めを受け入れたのだ。
右手を伸ばす。サリアの左の二の腕に触れる。
予想どおり、張りのある肌。
体内の生気が隙あらば溢出せんと活動している気配がする。加えて、ここにも宿っている、いや、
サリアの心身すべてに宿っていること間違いなしの温かみが、触れさせた手のひらを通じて、
脈々とわたしに流れこむ。
どきどきする。わくわくする。サリアの命を感じ得たようで。
そのサリアも、もはや羞じらいを忘れ、心魂を傾けて、手に伝わる感覚を賞味するふうだ。
わたしの命を感じてくれているのだ。
サリアの手が肩に移った。温かみの拡大が嬉しかった。が、そこから下方へと手がすべりゆくに
及び、一転してゼルダは惑いを覚えた。惑ううちにも手は左胸に至り、小さなふくらみを
やんわりと包んだ。
自然な動きだった。あまりにも自然で、制止することができなかった。
サリアは手を休ませず、愛撫としか言いようのない操作を行ってくる。胸の先端がちりちりと
うずく。
リンクによって何度となく経験させられた感覚。
快感。
『だめ!』
素肌を見せ合う程度なら問題はない。触れ合うのも腕くらいならばよしとしよう。けれども、
裸の胸に触れられて、さらに快感まで得てしまったら、それはもう性行為の範疇ではないか。
こういう行為をリンク以外の人物と交わしてはならない。いくら相手が女性とはいえ。
いや、そもそも女同士である点がとてつもなく異常。ゲルド族は女同士で愛し合うと聞くが、
それは基本的に男不在の社会だからで、わたしやサリアはこういう行為とは断じて無縁であるべきだ。
サリアの腕に這わせていた手を引き戻す。しかしこちらの胸に施される愛撫は終わらない。
いったいサリアは何を考えているのか。
女同士の性行為など、はなから全く念頭になく、ただ胸のふくらみに素朴な関心があって、
無邪気に行動しているだけ──ではあるまい。胸の露出に羞恥を感じるのなら、そこへの接触が
性的な意味を持つと知っているはず。リンクとの契りにおいてもそういう接触はあっただろう。
その上で愛撫を続けるのは、性的な意図があってのこととしか思えない。ならばわたしは理性を
保って、この行為は異常であるとサリアに理解させなければならない──
──というのに、わたしはサリアの手を払いのけられない。触れられていたいと願ってしまう。
なぜかというと──
「ゼルダの、ここ……硬くなってる……」
乳首の勃起を触知したサリアが、興味津々といったふうにそこをいじって快感をかき立てて
くれるからで、心地よいかと訊ねられたら躊躇なく頷いてしまいそうになるほどわたしは
この行為に耽溺──
『してはだめ!』
すんでのところで自制心を取り戻す。とにかく流れを遮らなければと考えて咄嗟に口から出たのが、
「あなたの胸が──」
先刻、サリアが言いかけながら、詳しい説明は行わず、疑問のままとなっていた事柄である。
「──ふくらんできたわけって、何なのかしら」
手が止まる。
「ああ、そのこと……」
手が離れる。流れは遮られたと判断し、ゼルダは自らが持ち出した疑問への答に耳を傾けた。
「あたしね……」
サリアは目を閉じ、先刻のごとくうっとりと顔をほころばせ、
「リンクと、とっても、素敵なことをしたの」
これは至高の記憶であると強調するように、ゆっくりと句切りをつけて語り始めた。
「二人とも、裸になって、抱き合って……大切な場所を結び合わせて……ひとつになったの。
そういうことするのは、初めてで、ちょっと、痛かったけれど……じきに、いい気持ちになって
……気持ちよすぎて、何が何だかわからなくなっちゃって……でも、ほんとに、幸せだったわ……」
リンクに聞かされた口づけの件など及びもつかぬ生々しい体験談。本来なら耳を塞ぎたくなる
はずの内容。であるにもかかわらず、いまのわたしは穏やかな心で聞いていられる。わたしも全く
同じだった──との親近感をもって。
「その時……リンクに、胸を吸われて……そんなにされるのも、すごく、気持ちよくて、暖かくて
……あたしの胸は、こうやって、リンクに吸われるために、ふくらんできたんだなって、
わかったの……」
そこでサリアは目を開き、おぼろげだった口調を元に戻した。
「リンクが言うには、あたしとリンクがそうなったのは、あたしにとって、とても大事なこと
なんだって。どういうふうに大事なのか、はっきりとは教えてくれなかったけれど、大事なのは
間違いないって、あたしは信じてる。リンクは嘘を言わないから。でしょ?」
「ええ、そうね」
迷わず同意する。が、
「あたしとリンクがしたようなこと、ゼルダも、リンクと、した?」
続けて投げかけられた質問には、さすがに即答しかねた。
リンクもそこまでは話さなかったようだ。何と言って返せばいいだろう。
相手の表情をうかがう。
微笑んでいる。底意のない笑みと見てとれる。サリアは答をすでに予測し、かつ、その答を
期待しているのだと確信された。
「したわ」
「やっぱり……」
笑みを大きく広げるサリア。
「そんな気がしてた。世界中でいちばんリンクが好きって言い切るほどだから」
そう、サリアにとってセックス──という単語をサリアは知らないらしいが──とは、
「好き」ならば自ずと行うことになるものなのだ。それだけを取り出して特別な行為と
見なしたりはしていない。リンクを好きであるわたしを喜んで許容したサリアが、リンクと
交わったわたしをも喜んで許容するのは自明の理。
本音のままのやりとりが始まる。
「リンクに抱かれてると、素晴らしい気分になるよね」
「この世にいるとは思えない気分になるわね」
「リンクに抱かれて、ゼルダも幸せだった?」
「幸せと何度言っても足りないくらい幸せだったわ」
「いまは?」
絶句する。
流れを遮っていた水門がいきなり開かれたという感じだった。
「あたし、ほんとは……」
笑みを抑えてサリアが言う。
「こんなふうに、素肌を見せ合って、触り合うなんて、リンクとしか、しちゃいけないんだって、
思ってたの」
ああ、サリアもそう思っていたのか。ならば、どうして──
「でも……ゼルダとなら、してもいいんじゃないかって……」
わたしとなら? 女同士なのに?
「いまみたいなことだけじゃなくて……他のことも、していいんじゃないかって……」
他のこと? それは何?
「もっと言ったら……するべきなんじゃないかって……」
そこまで言う? なぜ?
「だって……あたし……」
サリアが顔を寄せてくる。
「ゼルダが……」
両目がひたむきな情を湛えている。
「好きだから」
不思議にも衝撃は感じなかった。心の底では予期していたのかもしれなかった。
「好き」であれば身体の触れ合いがあって然るべき──と、サリアは考えるのだ。たとえ相手が
同性であっても。
それはサリアの性知識が普通ではないため──と断ずるのは安直。人と人との繋がりを純粋に
希求しようとすれば、自然にその結論へと到達しよう。決して異常な考え方ではない。むしろ
サリアの考え方こそが、偏見のない、正当なものだといえる。わたしがサリアとの触れ合いを
即座に拒否できなかったのは、意識の深層でその正当性を認めていたからだ。
サリアの、あの「寛大」な発想を、正しいものだと思ったように。
では、いまは?
これ以上の触れ合いを、わたしは望むのか?
これ以上の行為に踏み込むだけの感情を、わたしはサリアに対して持っているのか?
サリアがわたしを「好き」であるように、わたしもサリアを「好き」だと言えるのか?
敢えて言おう。
「わたしも、あなたが、好き」
サリアという人間を知りたい。サリアとの関係を築き上げたい。そういう思いを「好き」だと
表することに何の問題があるだろう。精神の繋がりと肉体の繋がりが相和してこそ二人の関係は
完全になる──と、わたしはリンクとの交情を通じて知ったではないか。
サリアが笑みを取り戻す。
「じゃあ、いま、幸せ?」
応じて笑みを送り返す。
「幸せよ。でも、もっと幸せになれると思うわ」
「どうやって?」
「わかっているんでしょう?」
「こうするの?」
顔が近づく。
「そう」
顔を近づける。
「いいのね?」
近づく。
「いいのよ」
近づける。
「ゼルダ……」
「サリア……」
交錯するささやきを最後の発音として、二つの唇は重なり合った。
『とうとうわたしは──』
と、ゼルダは思う。
『──リンクならぬ人の唇を……』
悔いではない。
悦びである。
もう一人のわたしであるサリアとの口づけは、二人の繋がりをいっそう強固にしてくれる。
二人の一体感を強化してくれる。どうして悔いなど起こり得ようか。
のみならず……
サリアの唇から伝わってくる温かみが、この上もなく快い。それはかつてリンクも感じたはずの
温かみであり、快さだ。あたかもわたしがリンクその人となってサリアの唇に触れているかの
ような──わたしとリンクが一体となっているかのような──印象が生まれてくる。さらには、
リンクがサリアの唇に伝えたはずの温かみが、なおもそこには残っていて、わたしの唇をも
温めているかのように思われてくる。
いまこそわたしたち三人は緊密に繋がり合ったのだ!
歓喜が心を解き放った。もはや微塵のためらいもなく、ゼルダは行為に没頭した。
合わせた唇は留め置かず、角度を変え、強度を変えて、微妙に移ろう感触を楽しむ。
舌先を突き出してみる。リンクにも同じことをされた経験があるのだろう、サリアは待っていた
とばかりに口を開く。すかさず侵入する。サリアが応酬する。舌と舌とが絡み合う。互いの口腔が
舐めつくされる。
交歓は口だけにとどまらない。再びサリアの手が──今度は右手のみでなく左手までもが──
腕に、肩にと触れてくる。わたしも両手をサリアに触れさせる。腕を、肩を、念入りに撫でさすり、
生彩ある肌の魅力を味わう。わたしの肌の上で手をさすらわせるサリアも、そこに存する魅力を
──サリアが言うところのきめ細かさ、すべらかさを──感じ取っているだろう。
そう、諸々の点で「同類」のわたしたちだが、各々に特有の魅力というものもある。サリアには
サリアの魅力があるように、わたしにはわたしの魅力がある。それを虚心に認めよう。へりくだる
必要はない。互いの魅力を素直に誇示し合い、享受し合ってこそ、わたしたちの繋がりは完全と
なるのだ。
具体的にはどうするのかというと、またもサリアが施してくる胸への愛撫に抗わず、むしろ
こちらから胸を押しつけるようにして、サリアの手と指に自由な動きを保証して、その動きが
生み出す快感に惑いなく身を委ねて、もちろんわたしもサリアの胸に手を伸ばして、なだらかな
隆起に戯れかかって、それは幼い頃に接したことのある母やインパの成熟した乳房と同じ器官で
あるとは思えないほど不確かでなよやかなふくらみなのだけれど、サリアの肌が誇る健康的な
弾力はここにもしっかりと息づいていて、若々しさを雄弁に主張していて、さらに、わたしと
同じくふくらみの頂点をきりりと突き立たせて悶えるさまは、サリアが快楽にどっぷりと浸かって
もっともっとと心の中で叫んでいることの歴然たる証拠で、つまりわたしの手はそこまでの快感を
サリアに与えているわけで、そう考えるとわたしがサリアから与えられている快感も一段と
強くなって、何らかの形で感動を表したくなって、時おり接吻を中断しては、
「あッ……」
とか、
「うッ……」
とか、言葉にならない声の断片を荒らげた吐息とともに口から漏れ出させて、サリアも
似たような喘ぎを盛んに漏らして、それがまたわたしの興奮を幾重にも高めて、興奮はぐるぐると
体内を駆けめぐって、こういう時には決まって熱くなる場所を遠慮会釈なく刺激して、たまらず
わたしはもっともっとと心の中で叫んで両腿をすり合わせて腰をよじらせて、でもそんな迂遠な
方法ではとうてい満足できなくて、そこをもさらけ出して直接的な刺激を加えたい加えられたい
サリアと一緒に愉悦したい──
──との熱望をやり過ごすかのように、サリアは唇を離してしまう。胸を揉み立てていた両手も
撤収させてしまう。しかしこの交わりを終わらせたがっているのではない。それはサリアの両目が
爛々と煌めいて欲情と期待を言い立てていることからも明白で、ならば何を欲しているのか──
考察するまでもなかった。サリアは右手を自らの下腹に置き、かすれた声で訊いてきた。
「ここに、毛が生えてる?」
と言うからには……
サリアも発毛しているのだ。胸がふくらみかけているのなら、股間に芽吹きが起こっていても
おかしくはない。となると、これからの展開は簡単に予想できる。上半身の変化に苦悩した
サリアであれば、下半身の変化にも苦悩したはずで、ここでわたしが──
「ええ、少しだけ」
──と答えてやったら食いつくようにして開陳を迫るだろう。無論、わたしは快諾し、同じ
要求をサリアに返す。サリアも快諾するに違いない。それでわたしは望んでいたことを実行できる
……のだが……気になるのは……
予想は裏切られた。サリアは無言で腰に手をやり、残り少ない着衣である半ズボンのベルトを
緩め始めた。すべきことは知れきっていて会話による段取りなどいっさい省略できると言わん
ばかりである。
「脱ぐの?」
「そうよ」
念押しにも全く動じるところがない。
ゼルダはあたりを見まわした。
「言ったでしょ? ここには誰も来ないって」
確かに人が来そうな気配はない。だが、どうしても気になる。野外で下半身までも露出させると
なると……
「ここはね……」
サリアがしみじみとした口調になった。
「……あたしにとって、とても大事な場所なの。あたしとリンクが結ばれた所なの。だから、
ゼルダとも、ここで、同じようにして、結ばれたいの」
『結ばれたい!』
その語を脳内で反復させる。サリアの意中を想像して。おのれの意志の表現にもして。
結ばれるなら、この場所しかない。
そう、ここでは衣服など不必要であると、すでにわたしは得心していたではないか。
ゼルダは行動した。サリアも行動を継続させた。
全貌をあらわにした二つの裸体が、草上に坐して向かい合う。
見る。
見られる。
「やっぱり、同じ……ね」
と、サリアが呟く。まさにそのとおり、とわたしは頷く。
リンクに初めて指摘された時よりは、いささか濃くなっているわたしの恥叢。それとほとんど
同量の繊毛が、部位も同じく、サリアの秘裂の上端付近を慎ましやかに飾っている。ただ
色合いだけが、わたしのは金褐色調、サリアのは深い緑をまじえた黒色調と、互いの髪の色に
対応した相違を示している。
「ゼルダ……」
呼びかけられて顔に視線を移す。欲情と期待をいっそうあからさまにした目の煌めきが、
わたしをぞくりと震わせる。わたしの欲情をも煽り立てる。煽り得たことを確かめてか、サリアは
黙って両膝を開く。わたしはそろそろと右手を差し入れ、薄い草むらに指を混じりこませる。
「あん……」
とサリアはかわいい声を出し、両手を脇について背を仰け反らせる。胴の傾きによって股間は
ひときわ接触容易となる。
誘っている。サリアは誘っている。女性と事を致すのは初めてだから、その誘いに的確な
応じ方ができるかどうか、いまひとつ心許なくはあるけれど、リンクがいつもわたしにしてくれる
ように、そしてリンクがいない時は──稀にではあるが──自分で自分にしているように、
サリアにもしてあげればいい。
人差し指を谷間にもぐりこませる。
「あぁッ!」
嬌声。
抵抗はない。
まずはよし。だが性急であってはならない。
意識的に急所を避け、柔らかな一対の秘唇と、その間の窪みを、ゆるゆると撫でさする。そこは
すでにじんわりと湿っていて、なめらかな動きが可能となっている。さするにつれて湿りの
度合いは増す。あとからあとから湧き出す愛液が、たちまち一帯を氾濫させる。
「あッ……あッ……あッ……あッ……」
指技に呼応して喘ぎを発するサリア。明らかに快美の音声と判じながら、ぎゅっと閉じられた
目が、眉間に作られた皺が、辛苦の描出とも感じられる。こういう時わたしはどんな顔をしていた
かしら──と考えても無駄。行為中に自分の顔を──たとえ鏡が近くにあっても──見たことなど
ない。
案じて問う。
「気持ちいい?」
答が返る。
「とっても……いい……」
ほっとして、ただし意は強く保って、指の動きを加速させる。サリアの喘ぎも加速する。
『この調子なら……』
快楽の中心点を押さえつけてやる。刹那──
「きゃッ!」
とサリアは叫びをあげ、胴を弓のように反り返らせる。力が抜けてしまったのか、体重を
支えていた両腕が曲がり、胴は後ろに倒れて背を草につける。
その傍らに身を移し、寄り添う形となって横たわる。いったん離した右手を元の位置へと戻し、
指による刺激を再開させる。
「くッ!……あぅッ!……んんッ!……」
喘ぎを多彩にしてサリアは悶える。そんなさまを見ていると、加える刺激も多彩にしたく
なってくる。
耳元に口を寄せ、ささやきかける。
「リンクにもこういうふうにしてもらったんでしょう?」
顔が真っ赤に染めて頷くサリア。
「気持ちよかった?」
「うん……でも……」
サリアの顔がこちらを向く。目がしっとりと潤んでいる。
「いまも……同じくらい……気持ちいい……」
ほんとうだろうか。わたしにリンクほどの技巧はない。とはいうものの、女がどうして
欲しいかをわきまえている点では、女であるわたしの方が優っているかもしれない。いずれにせよ、
リンクがもたらしたのと同等の悦びを、わたしがサリアにもたらし得ているのなら──それが
サリアの主観に過ぎないとしても──この上なく嬉しい。
嬉しさが心に余裕を作った。
「じゃあ、いちばん気持ちがいいのは、どこかしら」
予想はつく。ついていて、敢えて訊く。言葉による刺激を続けたかった。
返事はない。さもあろう。いくら率直なサリアでも、その部の名称を露骨には言えまい。
あるいは名称を知らないのか。
「ここ?」
入口に指先をめりこませる。サリアは息を呑み、怯えたように身を竦める。
リンクが開いたはずの場所だが、思いのほか狭く感じられる。挿入はやめておこう。サリアは
緊張しているようだし、それに何より、この奥を訪うのはリンクだけであるべきだ。
「そこも……いいけれど……」
許諾めいた台詞を口にしながらも、
「もう少し……上……」
限られた語彙で本意を告げるサリア。
「ここ?」
指の腹で該当箇所を撫で上げてやる。と──
「ひッ!」
サリアは小さく笛の音のような悲鳴をあげ、全身を硬くし、しかし、
「そこッ! そこよッ!」
と、あくまでも正直に自らを表出する。
「ここがいいのね?」
「うん」
「もっとして欲しい?」
「うん」
花芯を集中的に愛撫する。優しく。かつ、執拗に。
「あッ!……いいッ!……いいのッ!……もっとッ!……」
不規則な呼吸を介在させつつ、随喜の語句が綴られてゆく。文とはならぬその断章を、
胸躍らせて鑑賞するゼルダだったが、一方では、おのれの同所が訴える憤懣を抑えきれなくも
なっていた。
胸に触れてきたあたりではけっこう積極的だったサリアなのに、いまはすっかり受け身に
なっている。わたしが翻弄する形になっている。そういう形も悪くはないが、わたしだって
そこへの刺激が欲しい。濡れそぼっているそこを慰めて欲しい。
手を休めて、請う。
「わたしにも、して」
陶然と表情をとろけさせていたサリアが、我に返ったふうとなった。おずおずと右手を
差し伸べてくる。下腹に触れられる。萌え初めた秘毛を探られる。甘美な序奏とゼルダは解し、
あとに続く主題を待望した。
ところがサリアは手を止めてしまう。
「やり方が、わからないわ」
サリアとて女性との行為は初めてに違いない。やむを得まい。だが──
「自分のそこに触ったことは?」
「ないの」
「どうして? 好きな時に気持ちよくなれるのに」
「それはわかってるけれど……」
恥ずかしげに目を伏せるサリア。
「あたしひとりだけ気持ちよくなるのは……リンクに悪い気がして……」
思わずくすりと笑いが漏れる。
性の快感はリンクとともにある時でなければ得てはならない──と、自己を戒めていたのだろう。
かつてはわたしも同様に考えていた。どこまでも「同類」であるわたしたち。
「悪くはないのよ。あなたがリンクのことを想ってそうするのだったら、きっとリンクは喜んで
くれるわ」
「ほんとに?」
「ええ」
文字どおり、愁眉を開くといった顔になり、サリアは安らかな声で言った。
「じゃあ、今度から、そうする」
不要な拘束を取り除いてやったことで、ゼルダの心も安らぎを得た。しかし元々の問題は
解決していない。
「リンクがしてくれたように、わたしにもしてちょうだい」
と水を向けるも、戻ってきた返事は曖昧である。
「どんな具合にされたのか、よく覚えてないの」
先ほどの述懐を思い出す。
(気持ちよすぎて、何が何だかわからなくなっちゃって……)
無理もない。わたしも初めのうちはそんな感じだった。
「それなら、わたしの真似をしてみて」
覚束なげな顔をしながらもサリアは点頭し、そろりと指を忍び入らせてきた。待ち焦がれていた
感覚が、ゼルダの脳を甘やかに溶かす。
「こう?」
「そう……そうしたら、次は……こんなふうに……」
サリアの秘裂に埋めていた指を、改めてゆっくりと蠕動させる。またもやサリアは切なげに
喘ぎ始め、けれども指は忠実にこちらの動きをなぞる。巻き起こる快感に身を任せつつ、サリアの
最も敏感な部分を再び捉えて揉みほぐす。愉楽の言葉を吐き連ね、しばし手を滞らせる
サリアだったが、どうにか生徒の立場を維持し、目標地点へと指先を到達させてきた。
「ああぁッ!」
自分でも驚くほどの派手な叫びが口から飛び出す。
「ここ?」
サリアも驚いたように行為の成果を確認してくる。
「そうよ!」
「こうするの?」
「そうして!」
「これでいい?」
「いいわ!」
「あたしにも!」
「サリア!」
「ゼルダ!」
叫びに叫びが積み重なる。互いの秘所をかき混ぜる指が粘液質の重奏を繰り広げる。耳に届く
それらの聴覚的刺激が、股間をいじくりまわすと同時にいじくりまわされる触覚的刺激を修飾し、
いやが上にも快感は強まってゆく。さらに、呆けたかのごとく恍惚となったサリアの表情、
汗ばんだ皮膚から立ちのぼる甘酸っぱい匂い、衝動に駆られて奪う唇の淡い風味といった、視覚的、
嗅覚的、味覚的刺激も加わって、いよいよ興奮は頂点に近づく。
ゼルダは指を踊らせ続けた。それがサリアを幸福に至らしめる方法と信じて疑わなかった。事実、
サリアは完全に他事を忘れ去り、ひたすら喜悦の極を目指して邁進しているかに見え、ゼルダの
意欲は一段と高まった。
「あぁあッ! あたしッ! ああぁあたしッ! ぁああぁあッ! あぁああぁあああーーーーッッ!!」
サリアが絶叫した。果てたのだとわかった。
ゼルダは指の動きを止め、凍りついたように硬直する仰臥のサリアを、晴々とした気分で眺めた。
初めての「女性体験」であるにもかかわらず相手を幸福の絶頂に導き得たという満足感が、
ゼルダの心をも幸福にしていた。
ただしゼルダの幸福には欠落があった。サリアが忘れ去った他事の中には手技の行使も含まれて
いたため──換言すればサリアがまたも受け身に専念する形となってしまったため──ゼルダは
興奮の頂点に達することができなかったのである。
『けれど……』
それでもいい。まだ交媾は終結していない。
サリアが受け身に専念するつもりなら、わたしは攻めに専念しよう。いつもはリンクに圧倒され、
支配されて欣喜するわたしだが、いまはサリアを圧倒したい、支配したいという熱情に囚われている。
自分の幸福の成就は、あとのことでもかまわない。
こちらの股間から離れてしまったサリアの手は放置し、止めていた指を再稼働させる。
サリアが呻く。身をよじらせる。呻きは少しずつ音量を増す。
高ぶってゆく。サリアが高ぶってゆく。
高ぶって。高ぶって。もっともっと高ぶって。いったん果てたら間をおかなければならない
男とは違い、女は何度も続けて果てられる。それをまだリンクに教えてもらっていないのなら、
わたしが教えてあげる。リンクがわたしに教えてくれたことを、ここではわたしがあなたに
教えてあげる。もしもリンクがいまのわたしの立場ならこうするだろうと思われるとおりにして。
そう、リンクなら、こんなふうに、片手で秘部への刺激を続けながら、あなたの口を貪って、
もう片方の手で胸を愛撫して、尖った乳首をつまんで、くりくりとひねって、手のひらを
回すようにしてそこをこすって、そんなふうにするとあなたは声を抑えられなくなるから、
口を離して、頬だの額だの目蓋だの耳だの、そこらじゅうにキスの雨を降らせて、顎から首筋、
首筋から胸へと下ろしていって、左の胸を手で弄ぶ一方では、右の胸に舌を這わせて、突先を
舐めて、吸って、軽く噛んだりもして、次には手と口の位置を入れ替えて同じ行為を繰り返して、
繰り返して、繰り返しているうちにあなたは──
「ぅあッ! ああぁあッ! ああッあッあぁあああーーーーッッ!!」
いったのね? サリア、いったのね?
嬉しい。嬉しい。手のみならず口によってもあなたに幸福の絶頂を極めさせられて。
でも、まだよ。まだ終わりじゃない。ひとたび胸まで口を下ろしたら、ますます下ろしてゆくに
違いないわ、リンクなら。ふんわりとしたおなかに唇をすべらせて、かわいいおへそを舌先で
かきまわして、その下の丘に生えたささやかな若草をべっとりと唾液で湿らせて、どう? サリア?
何ともない? わたしがここまで口を持ってきても驚いたり焦ったりびくついたりしない?
しないのね。それどころか、もっと口を下ろしてもいいよと誘うようにあなたは脚を大きく開いて、
つまりあなたはそこにリンクの口を迎えたことがあるわけで、だったらわたしも同じことを
するからいいわね? サリア?
あなたの脚の間にしゃがみこんで、顔をゆっくりと近づけて、そうやって女の人のそこを間近で
見るのは初めてだけれど、手鏡で見たことのあるわたし自身のそこと似ているところもあれば
違ったところもあって、左右の堤は丸まっこくて、柔らかさと硬さを精巧に混ぜ合わせた
あの弾力がそこにもひそんでいると感じられて、奥に続く紅い粘膜は温かみを通り越してかっかと
熱を発しているかのごとくに思えて、あふれる粘液によっててらてらと光るさまがなおさら熱さを
強調しているようで、清新で、美麗で、感動的で、それらの印象を目だけでなく口でも確かめたい
という欲望をわたしはもう隠しもせず──
「あ! あんッ!」
唇を押し当ててその部の弾力と熱をじかに感受して──
「はぁッ! ああぅッ! いッ!」
絶えず汲み出される情欲の液体に舌を浸らせて──
「あおぉッ! ぅああぁあッ! やああぁッ!」
さんざん指でなぶった肉の芽を今度は口でなぶりまくって──
「ひゃあッ! あぁああぁああッ! あッああッあああぁあッああッ!」
舐めて舐めて舐めて舐めて──
「ああぁッあたッああぁあたしッ!」
吸って吸って吸って吸って──
「いッいいッいいぃぅぁあぁあッ!」
あなたの腿が頭をがっちりと挟みこんでくるのを気にもかけず──
「あぁあんぁあッあッああぁあッ!」
攻めに攻めて攻めに攻めて攻めに攻めて攻めに攻めて──
「あああぁ────ッッ!!」
やったわ! 口だけであなたをいかせてあげたわ!
さあ、次はわたしがいかせてもらう番よ。いままで待ったんだもの、もう我慢しない。でも、
サリア、安心して。一人でいこうとは思っていないから。あなたと一緒にいこうと思っているから。
どうするのかわかる? ここでリンクなら満を持してあなたの中へ入ってゆくところだろうけれど、
女のわたしにはそれができない。といっても、できることがないわけじゃない。似たような
やり方を考えついているの。
脚の力を緩めてちょうだい。そうしてくれたらわたしは身体を起こして、その身体を、そう、
こんな具合に、仰向けのあなたの上に乗せて、あなたを抱きしめて、あなたと最大限の面積で
接触して、ぴちぴちとしたあなたの身体をいまこそ最大限に玩味して、その上、わたしの顔の
真下になったあなたの唇に唇をぴったりと重ね合わせて、胸と胸をぴったりとくっつけ合って、
わたしたちが最も感じる部分、感じたい部分をもぴったりと、ああ、でも、これだと完全に
ぴったりとはいかない、角度が合わない、どうしよう、あなたが膝を立ててくれたら、いいえ、
もうちょっと、あなたが脚を上げてそこを上に向けてくれたら、そうよ、そうするのよ、あなたも
わかったのね、わたしがしたいことをあなたもちゃんとわかっていちばん都合のいい格好になって
くれて、それでわたしたちはとうとうそこをぴったりと──
「んんッんッ!」
「んんーんッ!」
気持ちいい! 気持ちいい! 気持ちいい!
こんなに気持ちいいとは思わなかったわいくらそこが最も感じる部分とはいっても!
こんなに気持ちいいのはわたし自身の気持ちよさに加えてあなたの気持ちよさがわたしに
乗り移ってきているからだとしか考えられない。ならばわたしの気持ちよさはあなたにも
乗り移っているに違いない。ということはこうして気持ちよさを乗り移らせ合ううちわたしたちは
無限に気持ちよくなれるはず!
だけど、サリア、脚を上げたままでいるのはたいへんでしょう? その脚をわたしの腰に
巻きつけてみて。脚だけじゃなくて腕も巻きつけてわたしをぎゅっと抱きしめてみて。わたしが
リンクに抱かれる時はそんなふうにしているの。あなたもする? するわね? するのね?
したわね? これでわたしたちはわたしたちにできる限り密に密に触れ合えて絡み合えたわけで、
この上に何をするかといったらわたしに可能なのは一つのことだけで、それはわたしが男のように
リンクのように腰を使ってそこを──
「んんッ! んんッ! んんんーーーんッ!」
「んーーんんッ! んッんんんッ! んッ!」
いいッ! いいッ! いいッ! いいッ!
そこをこすり合わせてこすり合わせてこすり合わせてこすり合わせることで、わたしたちは
二人とも途方もない快感に呑まれて、溺れて、狂って、喉の奥から突き上がってくる声を
重ね合わせた唇でやっと堰き止めていたけれどもう堰き止められなくなって息も続かなくなって
どうしようもなくなって口を離したら、あなたもわたしもはしたなくきんきんと叫びを吐き散らす
吐き散らすそれほど桁外れの快感、快感、快感、快感が激しすぎるあまりにも激しすぎる
このままだとわたしはどうにかなってしまいそうで怖いくらいだというのにわたしは腰を
動かし続けるそことそことをこすり合わせ続けるなぜってどうにかなってしまいたいからあなたと
一緒に快感の真っ只中の中の中の行けるだけの所まで行ってみたい、いってみたい、いきたい、
いきそう、いく、いくわ、わたし、いくわ、サリア、いって、いくわ、いって、いくわ! いって!
いくわいっていくわいって早くはやくハヤク──!!
ぐったりと弛緩したサリアの肢体を、その傍らに側臥させた自分の身体でくるみ、相変わらず
そこに確固としてある温かみを受けながら、絶頂のあとの気だるくも快い余情に、ゼルダは黙然と
心を預けた。
無想の時間が過ぎ、やがて思考が動き始める。
おのれの熱狂の顛末をふり返ってみる。
女性が相手であったとはいえ、わたしのした行為は性交以外の何ものでもない。
わたしはリンクを裏切ったことになるのだろうか。「浮気」をしたことになるのだろうか。
違う。
わたしは真剣にサリアと相対した。リンクと関係した女性を性的に征服して優位に立とうとの
意識が皆無であったとは言わないが、わたしがほんとうに望んだのは、サリアを──「恋敵」という
枠に填めて見るのではなく──一人の人間として認識し尊重することであって、それは肉体の
触れ合いをも通してこそ成し遂げられると信じたのだ。
わたしたちは結ばれてよかった。結ばれるべきわたしたちだった。
その一方で、わたしがリンクに対して抱く愛情はいささかも揺るいでいない。
わたしがサリアに抱く想いとて「愛」の範疇と言えないことはないだろうけれど、リンクへの
「愛」とは次元が異なる。両者は無理なく併存し得る。
リンクも同じなのだ。
リンクもサリアと──そしてルト姫やダルニアと──真剣に相対し、単に相手の身の安全を
図るにとどまらず、人間的な繋がりを確立する上での然るべき行いとして、契りを結ぶに至ったのだ。
わたしに対して抱く愛情をいささかも揺るがせることなく。
(セックスというのは人と人との繋がりを確かめ合うもので、男と女がめぐり会ってお互いに
そうしたいと望んだらそうするのが自然なことだろう?)
あのリンクの台詞の意味を──かつてわたしを激怒させたあの台詞の真の意味を──いまの
わたしは完全に理解できる。
言葉を聞くのみではわからなかった。実際に体験して──わたしの場合は女と女だったが──
初めてわかった。
その体験を──と、ゼルダは思考の向きを転じた。
まだ終結させてはならない。
わたしとサリアが結び合ったことで、リンクを含めたわたしたち三人は、各々同士の繋がりを
完成させた。しかし三者全体の繋がりは完成されていない。
それを完成させるためには……
「ん……」
サリアがかすかに声を忍び出させた。忘我の状態から脱したらしく、甘えるように身を
すり寄せてくる。その動きに応えて、ゼルダはサリアの肩にまわしていた手を背中へと移し、
肌を丹念に撫で、絶頂を経てもなお失われない溌剌とした生命力をいとおしんだ。
続けて賞翫の対象を臀部に変える。サリアの身体に備わった弾力を最も豊かに感じられる
場所である。嘆美の念に浸りながら、手を臀溝の奥にある陥凹部へと這わせる。
何気ない行為だった。常々リンクのそこに触れているので、奇矯なことをしているとの自覚は
なかった。が──
「あ! だめ!」
サリアのうろたえ声と、あわてて腰を引こうとする仕草が、ゼルダの手を止めさせた。
「リンクはここに触らなかったの?」
「まさか」
「じゃあ、ここで結び合ってはいないのね」
サリアが目を丸くした。口がぽかんとあけっぱなしになった。
あきれかえっている。いや、こちらが何を言っているのかさえわかっていないかもしれない。
まるで以前のわたしを見ているような──と、何度目かの「同類」感を抱き、ついつい微笑んで
しまう自分を意識しつつ、ゼルダは詳細に説明した。
肛門性交という交わり方があること。通常の交わりとはひと味違った独特の快感を得られること。
当初、懐疑的な表情を崩さなかったサリアは、しかし説明が進むにつれて徐々に興味ありげな
態度を示し始め、話が終わった時には、
「そんなにいいんだったら、あたしもしてみたいな」
と希望を述べるまでになっていた。
「リンクに頼めばいいわ」
ゼルダは言いやった。ところがサリアは浮かぬ顔つきである。
「無理よ」
「なぜ?」
「前に結ばれた時、こういうことをするのは一回だけだって、リンクは言ったの。どうしてだか
わからないけれど、そうなんだって」
どきりとする。
一回だけとの制限をリンクに課したのは、他ならぬわたし自身。
(リンクがこの森にいる時は、あなたが一緒にいてあげて)
とサリアに言った時点で、わたしは制限を撤回したつもりになっていた。だからいまも
「リンクに頼め」とこだわりなく勧めることができた。だが撤回はわたしの心の内でなされた
だけだ。依然としてサリアはその制限に縛られている。
制限を課したのがわたしであることも、サリアは知らない。知っていればわたしに恨み言の
一つもぶつけてきただろう。どうしてリンクとの交誼を妨げるのか、と。
いまとなっては、申し訳なく思う。
サリアが受け身に専念する仕儀となったのも、覚束ない手の使い方しかできなかったのも、
膣口が狭いと感じられたのも、単に経験の乏しさゆえ。リンクと一度きりの契りを交わした
だけだったからだ。別言すれば、サリアとの交媾でわたしが優位に立てたのは、リンクと複数回の
経験があるという恵まれた境遇であったからに過ぎない。
もしサリアに「ゼルダはリンクと何回したの?」とでも訊ねられたら、わたしはいったい何と
答えればよいか。
「リンクが一回だけと言ったのには、ちょっとした事情があるの。でも、頼めば聞き入れてくれる
はずよ。わたしからも頼んでみるわ」
事情の内実を告げられないことに後ろめたさを感じながらも、できる限りの償いを申し出る。
「ありがと。お願いね」
無心に頼ってくるサリアがいじらしく、また、
「リンク、早く来ないかな……」
との呟きには、我が意を得たりと返したくなる。
わたしたちが裸で抱き合っているこの場にリンクが現れて欲しいとサリアは思っているのだ。
サリアも三者全体の繋がりを完成させたいと思っているのだ。
考えてみれば──いや、考えるまでもなく──わたしは初めからそれを望んでいた。ここには
誰も来ないというサリアの言をわたしは信じ、けれども例外が一人だけあることを認識していた。
認識した上で交媾に及んだのだ。たとえそのさなかにリンクが現れても一向に差し支えないと
腹を括って。
サリアも──回数制限の件を別にすれば──心境はわたしと同一であっただろう。
ぴくっと腕の中の身体が動く。サリアの両目が欣然と輝く。
理由は知れていた。石段を駆け登るかすかな足の音を、ゼルダも聞き取っていたのである。
抱擁を解くつもりはなかった。
こんなわたしたちを見たら、さぞかしリンクは驚くだろう。でも、かまわない。わたしたち
三人がどうあるべきかを伝えるためには、わたしとサリアの現況をあるがままに見てもらうのが
最も適切な方法なのだから……
石段を登りきった所で、リンクは足を止めた。
止めざるを得なかった。
信じがたいものが眼前にあった。
迷いの森をいくら捜しても見つからなかったゼルダが『森の聖域』にいた。それはいい。
行き違いになるかもしれないとは思っていた。サリアが一緒にいるのも、もちろん想定のうち。
とはいうものの……
どうして二人とも素裸で、しかも抱き合った格好で横たわっているのか。
ただ抱き合っているだけじゃない。二人の姿態は明らかに情交後のしどけなさを匂い立たせている。
女性同士の交わりは『あの世界』で実見したから、そのこと自体には驚かないが、ゼルダと
サリアがそんな間柄になっていることについては、いくら驚いても驚き足りない。
サリアはともかく、ゼルダの方はサリアに対し穏やかならぬ感情を抱いていたはず。いったい
どんな過程を経て、かくも仲睦まじい二人と相成ったのか。仲睦まじいのに越したことはない
けれど、喧嘩などされるよりはよほどありがたいことなのだけれど、にしても仲睦まじすぎるだろう!
疑問が脳内を乱舞する。
しかし疑問とは別なる印象もあった。
突拍子もない二人のありようが、なぜか、実に自然なものと感じられる。こうなるのが
定めだったのだと断言したくなるほどに。
寝ていた二人が上体を起こす。二つの顔がこちらを向く。全く動じるふうもない。
ぼくが来たのに気づいていて、それでも抱擁を続けていたのだ。ぼくにそのさまを見せつけて
いたのだ。これがいまのわたしたちなのよと態度で語っていたのだ。
二人が顔を見合わせる。微笑みが交わされる。言葉は交わされない。意思の疎通は微笑みのみで
可能らしい。そこまで意気投合した二人が、次に何をするのかというと……
もう一度、顔を向けてくる。微笑んだまま、二人ともが片手を差し出してくる。意味は明白だ。
ぼくを誘っているのだ。自分たちの交わりに加われと、やはり態度で呼びかけているのだ。普通に
考えれば異常きわまりない三人での交わりを、ゼルダもサリアもまるで異常とは考えていない。
加わったらどうなる?
三人あるいは四人での交わりを『あの世界』で体験したぼくは、それがいかに目くるめくもので
あるかを知っている。それがいかに強くみなを結びつけることになるかを知っている。ぼくたち
三人もそうなるだろう。そうなるべきだ。ゼルダとサリアの繋がりが──経緯は不明にせよ──
自然であり定めであるのなら、ぼくとゼルダとサリアの三人が総体的に織りなす繋がりも
自然であり定めであるに違いない。三人がそうしたいと望んだらそうするのが自然なことなのだ。
ゼルダは望んでいる。サリアは望んでいる。
ぼくは?
無論、望んでいる。未熟ながらも未熟なりの官能美を際立たせた、他ならぬゼルダと他ならぬ
サリアにこうして誘いをかけられて、望まずにいられるわけがない!
足を前に出す。ゼルダとサリアの身体が離れ、そこに一人分の隙間ができる。自分のための
隙間と解し、与えられた場所に腰を下ろす。すぐさま両側からしなだれかかってくる二人。
右を見ればゼルダがいて、左を見ればサリアがいて、どちらを向いても顔が目の前にあって、
唇に唇がぶつかってきて、それを左右で何度となく繰り返すうちに三人の顔が一カ所に集まって、
ぼく以外の二人が唇を合わせるのをぼくは間近に見てびっくりしてしまって、けれどびっくりする
ほどのことでもないのだと納得もできて、両の腕で二人の肩を抱いて自分も顔を近づけて三つの
唇を一つにして、誰が誰に口づけているのかわからないくらいぼくたち三人は渾然と一体に一体に
一体になったかと思えば唇はまた三つに分かれて、でもぼくはがっかりしないなぜならゼルダの
手がサリアの手がぼくの服にかかってぼくが身に着けたものを少しずつ少しずつ奪い去ってゆく
からで、女性二人によって裸にされる悦びをぼくはぞくぞくと味わって同時に二人の裸の背を尻を
胸を腹を二つの手で存分にまさぐって、二人はたまらないというふうに喘ぎをあげてぼくの耳を
愉しませる一方ではぼくを剥き出しにしようとする意思を決して失うことなく手を働かせ続けて
とうとうぼくは生まれたままの姿にされてしまって、そうなるとゼルダもサリアも仕事から
解放された両手をここぞとばかりにぼくの素肌へと這わせてきておまけに口も使い始めて、
同期しているようで独自の動き方もする四つの手と二つの口がぼくの身体のいろんな所を
あっちこっちと行き来するものだからぼくはそのうちのどれに集中していいか判断できない、
予期した動きと予期しない動きが重なって重なっていつの間にかぼくも喘ぎをあげていて、
もちろんぼくも二人への愛撫を絶やしてはいないのだが一人対二人では与える快感受ける快感に
自ずと差があってぼくはぐいぐい押しまくられて、さらに二人は一緒になってぼくの股間に顔を
寄せてきてすでに高ぶりきっているぼくのそこを交互に舐めたり吸ったり口に含んだり、どちらか
一人が先端の方を受け持っている間はもう一人が根元や袋の方に専心したりとすこぶる息の合った
奉仕をしてくるああもう我慢できないと叫びたくなるのを必死で抑えてぼくは返礼を試みる、
ぼくの左右で対称形をなして股間への口技に熱中する二人は二人とも尻を後ろへ突き出す姿勢に
なっていて二人のそこは丸見えでびしょ濡れでひくひくと蠢いているのが見えるようでそれは
二人もまた高ぶっていることの明瞭な徴候、ならばぼくは右手をゼルダのそこにやって左手を
サリアのそこにやってもっともっともっともっと二人を高ぶらせてやる!
「うぅあッ!」
いきなり後方から加わった刺激がゼルダを大きく叫ばせた。
サリアとともに登りつめた頂点を下りきらぬうち、新たな展開を迎えて再び熱を帯びつつあった
その場所に、馴染みの指が、馴染みの技を、馴染みの巧みさで施してくる。しばしゼルダは口戯を
忘れ、一気に沸点へと向かい始めた肉体を感悦の波にたゆたわせた。
が、単独での充足は望まなかった。
口戯を再開しかける。
そこで気づいた。
男性器への接吻にためらいも見せず──それも以前の契りで経験していたのだろう──こちらと
競うようにリンクを攻め立てていたサリアが、いまはリンクのもう一つの手に股間を侵略され、
喉から快美の声を噴出させている。すっかり受け身となっている。攻めの態勢に戻れないのだ。
あまりに快感が強すぎて。
このままだとサリアはすぐに達する。そうなりたいと本人も望んでいるはず。しかしその望みが
果たされるにあたっては、もっと適当な形がとられるべき。
リンクの手から敢えて身を離し、後ろに向き直って慫慂する。
「サリアを抱いてあげて」
ここはコキリの森。優先権はサリアにあるのだ。
リンクが怪訝そうな表情になった。一度だけという約束はどうなったのか──と、顔が語っている。
どんな過程を経てわたしがその境地に至ったか、リンクには見当もつかないだろう。
「いいの」
簡潔な一語に真情をこめる。
なおも疑念を捨てられないふうのリンクだったが、真情は無事に受領し得たとみえ、承知の旨を
顔に表したのち、余していた右手をサリアに差し向けた。
リンクの腕によって姿勢を変えられ、草の上に仰向けとなったサリアは、その腕の主に欣快の
笑みを返す一方、ゼルダにも面貌で感謝の意を送ってきた。ゼルダは無言の頷きをもって返事に
代え、一対一の艶事に没入してゆく二人を坐して見守った。
リンクの両手が、口が、サリアの体表のあちこちを経めぐる。サリアも両手をリンクの体表に
這わせながら、悩ましい声に情感の高まりを投影している。
声が切迫の様相を呈し始めた。リンクがサリアの脚間に身を置いた。いきり立ったものの
切っ先を目標に近づけてゆく。少しずつ腰を沈ませてゆく。進入は緩慢に、けれども支障なく
行われ、やがて二つの裸体は、リンクを上に、サリアを下にして、完全な結合を果たした。
しばらくの静止を挟んで、運動が始まった。まだ二度目でしかないサリアを慮ってか、リンクは
慎重である。運動の速度は緩慢である。にもかかわらず、サリアは絶大な感激の中にいるようで、
顔を陶酔に照り輝かせ、なまめかしくも派手やかに喘ぎ続ける。
わたしがリンクに充たされて得る幸福を、いま、サリアも同様に得ているのだ──とゼルダは
確信した。心に妬みはなかった。サリアの幸福を素直に祝することができた。
わたしとリンクがそうであるように、わたしとサリアがそうであるように、リンクとサリアも
また、結ばれてあるべき一対なのだ。
リンクに吸われるために自分の胸はふくらんできた──とサリアは言った。筋の通った
理由ではない。根拠がない。しかしサリアの言は真実だ。わたしにはわかる。
性交は胸のふくらみを必須としない。わたし自身がそうだった。けれどもそれはわたしが
性の知識をあらかじめ持っていたからで、その知識を持たなかったサリアの場合、リンクとの
契りに抵抗なく臨むためには性徴の発現が必要だったのだ。つまりサリアはリンクと契るべく
運命づけられていたのだ。
なにゆえの運命であるのか。
そこまではわからない。が……
左様に運命づけられたサリアは、確かに「重要人物」といえるだろう。わたしとリンクの
繋がりが世界の安寧に不可欠であるのと同じく、サリアとリンクの繋がりも世界の安寧に何らかの
貢献をなすだろう。のみならず、サリアの美点を基盤としてリンクと繋がり得たわたしが二人の
繋がりに参画すれば──わたしたち三人の繋がりが完成されれば──ひときわ実りある貢献が
なされることになるだろう。
『でも……』
いまはサリアとリンクの時間。参画は控えておかなければ。
自分が疎外されているとは思わない。秘すべき密事の傍観を、二人はわたしに許してくれて
いるのだ。
とはいえ、悦楽にふける二人を見ていて、わたしだけが冷静でいられるはずもない。
放縦に声をあげ、理性のかけらもない乱れた表情で、身を妖しくくねらせるサリア。
同様のサリアをさっきわたしは自分の腕の中にしていたが、視点が変わると印象も新奇だ。
人が交わるさまを眺めるのは初めてのこと。自身、何度も経験した行為だというのに、否応なく
興奮してしまう。リンクに抱かれる時のわたしもこれほど淫らであるかと恥じ入られる反面、
淫らであれるサリアが羨ましく、そう、妬ましくはないが羨ましく、だから──
ゼルダは右手をおのれの股間に派した。快を貪り合うリンクとサリアの横で自らも快を貪る
ことにより、間接的な参画を図ったのだった。
不意にサリアの声がやんだ。
ぎりぎりと歯を噛み合わせている。全身が強直状態となっている。
達したのだ。
ゼルダはあとを追おうとした。
すんでのところで思いとどまった。
リンクが運動を続けている。緩慢なままだ。まだ達していないのだ。余裕がうかがえる。
二人の時間は終わっていない。どうせなら最後の時に合わせたい。
消極的に過ぎる考えだった。
リンクが上半身を立て、結合を保ったまま、強直から脱しつつあったサリアを抱き起こし、
自身は後ろに倒れて仰臥の姿勢をとった。騎乗する形となったサリアだが、急な体位変換に──
そしておそらくは初めて経験する体位に──まごついているようである。それでもリンクの指示に
従って、緩徐に腰を揺らし始め、自発的な体動がもたらす快楽を堪能するふうとなってゆく。
傍観の継続を覚悟したゼルダは、しかしそこでリンクに視線を向けられ、思いも寄らない勧誘を
受けた。
「上にきて」
一瞬、意味をとれなかった。
上はサリアに占められているではないか。
直後、腑に落ちた。
占められているのは一部でしかない。
存在を忘れずにいてくれたことに対して心で謝辞を述べながら、ゼルダは地に膝をつけ、
サリアと対面する向きでリンクの頭部を跨ぎ、期待に胸を躍らせつつ、ゆっくりと腰を落とした。
両腿に手がかかってきたと思うが早いか、その何倍もの触感が中心部に湧き起こった。
どうすればわたしが悦ぶかを知りつくしたリンクの口戯!
保留していた絶頂へと、ゼルダはたちどころに到達させられた。一度だけではなかった。
舌と唇の蠢動は続き、連接的な爆発がゼルダを襲った。
やっとのことで意識を前に向ける。サリアが身体を躍らせている。騎乗のこつをつかんだらしく、
動きに迷いは見られない。恍然と緩んだ顔には笑みがあった。自分を歓迎する笑みだとゼルダは
悟り、上体を前傾させ、両腕をサリアの胴にまわした。サリアも両手を背にまわしてきた。四つの
手は抱擁を形作るにとどまらず、届く範囲のすべてを愛撫し、とりわけ互いの胸がその対象と
なった。口と口とも密接した。
『これなんだわ!』
とゼルダは胸中で快哉を叫んだ。
わたしたち三人の感じやすい所が何らかの形で同時に触れ合って繋がり合って刺激し合って
みんなが一緒に熱くなって盛り上がって気持ちよくなってそうよこれなんだわこれなんだわ
これこそがわたしたち三人のあるべきあり方なんだわ!
サリアの動きが激しくなった。当人の動きのみではない。リンクが下から突き上げているのである。
そのさまをゼルダは自らの下にあるものの揺動で知り、かつ自らに加えられる口戯の激化をも
感じ取った。そこから生まれる性感も激化し、ゼルダの脳を思考不能にした。
絶頂の連続が回帰した。サリアが急に動きを止め、硬化した肢体をびりびりと痙攣させた。
ひしと抱き合う二人の下で、リンクの活動も終息に至った。
あるべきあり方のあるべき結末だった。
しかしそれを全幕の結末とするつもりはない──というのがゼルダの意思であり、他の二人も
そうであるようだった。
結合が解かれるやいなや、ゼルダはリンクの局部に顔を近寄せた。そこは硬度を弱めながらも
萎えきってはおらず、なお欲情を発散しつくしていないと判じられた。実際、その部を
立ち直らせようとするゼルダをリンクは制止せず、満足そうに吐息を漏らして手と口の奉事を
受け入れた。
サリアは協力態勢をとってくれた。初めはゼルダを補完する形で同所の督励に参加し、効果が
現れてくると、あとはゼルダの熱意に任せたとばかり、側面からの援助に移行した。リンクの
胸腹部に愛撫と接吻を集中させて高揚の推進を策したのである。
ほどなく勃起は完全となった。ゼルダは再びリンクを仰臥させ、今度は腰の上に跨り、自らが
復活させた肉茎を秘孔にあてがうや、一気に尻を落として全長をくわえこんだ。
貫通の感覚がゼルダを昇天させた。
手や口による精密な戯弄も捨てがたい。女性器同士の摩擦も他にはない快味。けれどもリンクを
おのれの内に収める欣幸は他の何ものをも凌駕する!
気づけばサリアが前にいた。仰向いたリンクの顔上にすわりこみ、秘所を口になぶらせて
喜悦している。ゼルダはその身を抱き包み、サリアに我が身を抱き包ませ、先刻とは位置を
換えた状態で、先刻と同様の交じらいを執り行った。
リンクが下からの突き上げを開始したのも先刻と同様である。ただしこのたび突かれているのは
自分なのだという感動と、体内を激しく突かれて生じる圧倒的な快感がゼルダを狂喜させた。
突きに応じて腰を上下させる。感動と快感が倍になり、さらに倍になり、倍になり、無限の
域へと急増してゆく。
間もなく三人は同時に極点へと達し、三者の繋がりは完成をみた。
『森の聖域』を支配する淫靡な空気は、それでもまだ消えやらなかった。
サリアが最も熱心だった。ゼルダはその意をよく知っており、ひそかに支援を企図していたが、
リンクへの心配りも忘れてはいなかった。
立て続けに二度の絶頂を経たあとだと、回復には時間が必要。しばらくは直接的な刺激を
加えない方がいい。
リンクには休息を促しておき、ゼルダはサリアを抱き寄せ、先ほどの交媾を再現した。リンクを
間接的に刺激するとともに二人の関係の実態を知らしめるためであり、リンクの回復を
待ちきれないふうのサリアに一時の慰めを与えるためでもあった。もちろん、いまだに
燃え続けている自らの情欲を満たすという目的も兼ねていた。
リンクに騎乗して自主的に腰を振った経験ゆえか、あとに来る催しを心に描いて気を逸らせるが
ゆえか、今回のサリアは受け身に専念することなく、能動的に手を使い、口を使った。ゼルダも
負けじと対抗し、熱狂の程度は優に先の交媾を上まわった。
最後の段となって、ゼルダは新たな方法を思いついた。両者が開いた脚を交差させ、互いの
身体を挟むようにして、秘所をこすり合わせるのである。上下に重なった場合よりもはるかに
密な接触が可能となり、二人はともに全身を躍動させて、次から次へと訪れる絶頂に酔いしれた。
女性二人が酔いから脱した時、リンクは臨戦状態に復しており、呼吸を穏やかに保つのさえ
難しそうな急迫ぶりを呈していた。目論見が図に当たったことを喜びつつ、ゼルダはサリアの耳に
短いささやきを投じた。
「さあ」
サリアが頷き、
「リンク」
と呼びかけ、次いで、秘めていた願望を明示する。
「あたし、お尻でしてみたい」
リンクが驚きの面容となった。自分が教えていないその交わり方をどうして──と不思議がる
様子である。が、すぐに思い当たったらしく、顔はゼルダの方へと向いた。
君が教えたのか?──と、目が訊ねてくる。
そうよ──と、ゼルダも目で答える。
わたしだって体験したんだもの。サリアにも体験する権利があるわ。
リンクが表情に決意を宿らせた。サリアを四つん這いにさせ、その後方に陣取って両膝をついた。
ゼルダは両人から離れようとした。見守る立場を放棄する気はないにしても、できるだけ二人を
二人にしてやるべきだと考えたのである。ところが、
「ゼルダ」
サリアに引き止められた。
「あたしに、ついてて」
不安を捨てきれないのだろうと察せられた。ゼルダは考えを変え、サリアの前に正座し、
頭を膝の上に迎えて安楽な体勢をとらせた。
リンクが左手を動かし始めた。サリアの後部を撫でている。次にかがみこんで顔を接近させ、
愛撫の担い手を舌に替える。その部の緊張を解きほぐし、同時に潤いを与えているのだった。
サリアは悦びをもって受容していた。時おりぴくぴくと身体を痙攣させるものの、顔つきは
明らかに性的快感を得ている者のそれである。リンクが指を挿入させると、さすがに快感ばかりとは
いかないようだったが、経験ある二人の助言によって、さしたる困難もなく直腸への刺激を楽しむ
気色となった。
指に代わって陰茎が挿入されても、サリアはその気色を失わなかった。一つはリンクの優しさ
ゆえであろう。急迫しているにもかかわらずリンクは我欲を抑え、かなりの時間をかけて慎重に
自らを埋めきったのだった。
そしていま一つはわたしの存在ゆえ──とゼルダは思う。
わたしの腰にしがみついて──わたしを支えにして──サリアは身を震わせている。
感動しているのだ。
わたしとリンクが二人で一緒にサリアを感動させているのだ。
もっと感動させてあげたい。
ゼルダは両手をサリアの胸に伸ばし、下を向いているせいでわずかに懸垂した小さなふくらみを
懇ろに揉んだ。リンクも左手をサリアの股ぐらに差し込み、鋭敏な一点をくすぐりにかかった
ようである。震えを大きくし、あられもなく喘ぎ狂うサリア。その背の上で、ゼルダは感動を
与える側としての喜びに浸り、向かいにあって同じ喜びに浸っていること疑いなしのリンクと、
微笑みを交わし、口づけを交わした。
それを察知したかのごとく、サリアも口を活発化させた。顔を置いたゼルダの腿に、しきりと
接吻をしかけてくる。
そんなふうにされると、より熱く煮え立った部分にも接吻してもらいたくなる。
ゼルダはリンクとの触れ合いを打ち切り、後ろへ身を倒して仰向けとなった。脚を広げて
誘いかける。間もおかずサリアの顔がそこにうずめられる。熱のこもった口戯が開始される。
頭の中に火花が散るような快感を貰い受け、ゼルダは仰け反って歓を声にした。
やがて快感の質が変化した。吸啜と並行してサリアが顔を規則的に押しつけてくる。
サリア自身の動作ではなかった。リンクが腰を前後させており、その動きが伝わってサリアの頭も
前後しているのだった。
生まれて初めて肛門を攻められながら口での攻めをやめようとしないサリアのけなげさが
いとおしく、また、リンクの刺突がサリアを貫いて自分にまで届いていると感じられ、ゼルダの
心は感激で満たされた。
感激が極致に至った時、サリアの顔と口の動きが絶えた。同じ感激の極致に、サリアもが、
そしてサリアの体動を促進していたリンクもが至ったことの、それは顕然たる証拠だった。
三者の繋がりは新たな形で再び完成をみたのだった。
うち続く感激の中で、ゼルダは未来に思いを馳せた。
いまとは異なる「三者」の繋がりも、いずれは……
饗宴はそこで幕となった。日没が迫っていたのである。
リンクは他の二人を促し、帰途についた。迷いの森の中にある泉で身体を洗うのに時間を
費やしたため、サリアの家まで帰り着いた時には、もう空は夜の暗みに染められ始めていた。
デクの樹サマを追悼する時間はない。
リンクは爾後の行動をいかにするかについてゼルダと話し合った。次に──ゼルダはそこに
残しておいて──一人で旅仲間の野営地へと赴き、話し合いの結論をインパに告げた。
──よんどころない事情があって日のあるうちに追悼を行えなかった。明朝を待たねば
ならないが、疲れのみえるゼルダに野宿をさせるのは忍びないので、ベッドのある自分の家に
泊まらせたい──
幸い、インパは「事情」の内容を問い質してこなかった。ただ、二つ返事で了承してくれるほど
お人好しでもなく、
「不埒なことを考えてはいまいな?」
と──同行の兵士らに聞き咎められぬよう小声ではあったにせよ──いかめしい顔つきで釘を
刺してきた。リンクはきっぱりと否定した。本心だった。「不埒なこと」は終えたあとであり、
夜にそれを繰り返すつもりはなかったのである。
インパは信用してくれた。
サリアの家に戻ると、二人の女性はおしゃべりに興じていた。サリアが勧めるのを承けて、
三人は夕食をともにする次第となったが、その席でも女性同士の会話は途切れなかった。ゼルダは
初めて同性の友人を持つことになったのだと得心され、また、『あの世界』では常にどことなく
愁いの影を引きずっていたサリアが、『この世界』では本来の明るさを保持できているのだと
実感され、リンクは事の成りゆきに満足を覚えた。
とはいえ、夜通し話を続けるわけにもいかない。適当なところでリンクは歓談を切り上げ、
ゼルダとともにサリアの家を辞し、自宅へと向かった。
建物は樹上にある。暗闇の中、梯子を登るという振る舞いが深窓の姫君に可能だろうかと
リンクは危ぶんだが、ゼルダはきびきびとそれをやってのけた。
家に入り、蝋燭の光で内部を照らす。最近ではハイラル城に滞在することの方がはるかに多く、
自宅とはいっても足を踏み入れたのは久しぶりで、床やテーブルには埃が積もっている。
そんな所に落ち着いてもらわなければならないのが申し訳なくもあったが、
「これがあなたのおうちなのね」
などと言いながら興味深そうに屋内を見まわすゼルダの様子からすると、埃っぽさなど気にも
留めていないらしい。ここまでの旅で少々の汚さには免疫ができているようだった。
しかし居住まいが正されるまでに長い時間はかからなかった。
「話があるの」
リンクはゼルダを椅子にすわらせ、自らも別の椅子に腰を下ろして謹聴の姿勢をとった。
まず、勝手に迷いの森へと入りこんでリンクに迷惑をかけたことを謝ったのち、ゼルダは、
かつての諍いのあと、一応の和解を経ながらも、自分がどんなわだかまりを心の奥底にひそませて
いたか、そして今日、そのわだかまりがいかにして解消されたかを述べた。
前段は、ほぼリンクが推察していたとおりであり、後段の話も、大体においてなるほどと
同意できるものだった。性愛に関する二人の認識が、おおむね一致したわけである。リンクは
胸を安んじさせ、自らの思うところをゼルダに語った。それは諍いの折りの弁を繰り返すことでも
あったが、このたびのゼルダはいささかも怒りの色を見せず、顔に理解の色を表していた。
最後になって、問いを受けた。
「あなたはサリアが好きなんでしょう?」
「うん」
そこは迷いなく肯定できたものの、
「愛しているの?」
続けての問いに答えるには、多少の間が必要だった。
リンクはおのれの心を浚い、思いを吟味した上で、正直に返事をした。
「そうだ──と、言えば言えるかもしれない。でも……」
声に意志をこめる。
「その言葉は、君に対してだけ使いたいんだ」
ゼルダは何も言わなかった。示したのは微笑みと頷きだけだった。
それで充分だった。
二人はベッドに入った。脱衣はしたが、下着までは脱がなかった。身体は寄り添わせるだけとし、
抱擁もごく軽いものにとどめた。
サリアのいるコキリの森でそれ以上のことを行うべきではなく、また、二人の間に存在していた
見えない壁がなくなったからには、それ以上のことをせずとも安らかな眠りは保証されていたので
ある。
翌朝──
枯死してもなお雄大な姿を残すデクの樹サマの前で、ゼルダは地に跪き、敬虔な祈りを捧げた。
後ろに立つリンクも、そしてミドやサリアを含めたコキリ族の面々も、同じく粛然と黙祷した。
追悼の行事はそれで終わりだった。しかし誰もその場を立ち去らなかった。とうていすぐには
立ち去れないほどの「もの」を──前日までは決してそこに存在しなかった「もの」を──追悼に
先立ち、一同は発見していたのである。
喜び、立ち騒ぐコキリ族らをよそに、リンクは脳内で飛び交う思考と格闘した。
ぼくとサリアが契りを交わしただけでは誕生しなかったデクの樹のこどもが、いま、ここに
誕生している。
なぜなのか。
理由は一つしか考えられない。
きのう、ぼくとサリアの交わりに加わった、新たな要素。
ゼルダ。
賢者の長たる『時の賢者』なら、デクの樹のこどもを誕生させられるだけの影響力を持っている
としても不思議はない。
だが……
いくら『時の賢者』であっても、ゼルダはぼくと契っただけで、半覚醒にすら至っていない。
そんなゼルダがぼくとサリアの交わりに加わったところで、これほどの成果が得られるものだろうか……
『あ!』
思いつく。
「ゼルダ、君は……」
思いつきをそのまま問いにする。
「ぼくと出会ってから、時の神殿の中に入ったことがある?」
突然の質問をいぶかしむふうのゼルダだったが、答は単純かつ明快だった。
「あるわ、何度か」
「どういう理由で?」
「あそこは王家にとって大切な場所だから、時々お参りしているの。言わなかったかしら」
聞いていない。ゼルダにすれば日常的な習慣で、ことさらぼくに話そうとも思わなかったのだろう。
ぼくもしょっちゅう旅に出ていて、ゼルダが時の神殿を訪ねる機会に立ち合うことがなかった。
ぼくと契りを結び、かつ、時の神殿という場の影響を受けたゼルダは、もう半覚醒に至っている。
本人がその点に気づいていないようなのが不思議だが、魔王ガノンドロフに対抗するとの
賢者本来の使命を、現時点では要求されないので、賢者としての意識や思念が、さしあたり
封印されているのだろう。『時の賢者』であるゼルダは、他の賢者と違って、半覚醒しようが
覚醒しようが、神殿内に閉じこめられることはない。以前となんら変わらぬ生活を送っている。
もっとも、半覚醒した賢者としての力を、潜在的には発揮できるらしい。ぼくとサリアの交わりに
加わったゼルダは、その潜在的な力をもって、デクの樹のこどもの誕生を現実のものとしたのだ。
ということは……
思考がさらなる思考を呼ぶうち、別れの場面となっていた。ゼルダとサリアが手を取り合い、
親しげに言葉を交わしている。
「また来てくれる?」
「ええ、必ず」
そう、ゼルダは今後も──頻繁にとはいかないにしろ──コキリの森を訪れ、サリアと「親密な」
関係を持つだろう。もちろん、関係は二人だけのものではない。正確にはぼくを含めた三人の
関係であり、一方、ぼくとサリアの二人が構成する関係も、いままでどおり存続してゆく。
ゆうべゼルダは話の中で、ぼくと「重要人物」との契りを一人一回に制限するという約束は──
その日の饗宴にとどまらず、以後も継続して──なかったことにすると宣言したのだ。
ぼくと賢者たちとの繋がりを──サリアに限らず──いまやゼルダは、わだかまりなく認めて
くれている。
だが、それだけではないのではないか。
ゼルダは自分と賢者たちとの繋がりをも──サリアに限らず──念頭に置いているのではないか。
だとすれば大いに奨励したい。人と人との繋がりは人生を豊かにしてくれる。
しかも……
デクの樹のこどもを誕生させなければならないというような喫緊の問題を、他の地域は抱えて
いない。しかし、ぼくとゼルダと賢者の三人が織りなす繋がりは──コキリの森ならずとも──
それぞれの地域に、たとえささやかではあれ、何らかの幸福をもたらすのではないだろうか。
──と、新たな展開の予感に興奮を覚えるリンクだった。
To be continued.