夕食のあと、リンクはあっさり自分の部屋に引っこんだ。神妙にしているとの意思表示かとは 
思われたものの、インパはそれに絆されることなく、日中に宣言したとおりの方針を貫いた。 
自室の居間にこもったゼルダのそばを離れず、監視役の立場であり続けた。 
 ゼルダの口数は少なかったが、叱られたことを根に持っている節はなく、見張られているのを 
鬱陶しがるふうでもなく、謹慎という処罰を慎ましく甘受している様子だった。他にも挙動に 
不審なところはなかった。見られたというのは思い過ごしだったか──と、インパは改めて安堵した。 
 就寝時刻となって、二人は寝室に移った。寝衣に着替えてベッドに入るゼルダに対し、インパは 
衣服を替えずソファに横たわった。気候の温暖な頃とあって、夜具を使用する必要もなかった。 
 寝心地はいまひとつのソファだが、むしろその方が望ましい。監視役に熟睡は禁物だ。 
 インパはベッドへの注意を怠らなかった。 
 灯りを消した室内は暗黒に近い。窓を覆うカーテンの隙間から、わずかに月光が漏れ入ってくる 
のみである。それでも妙な動きがあればたちどころにわかる。シーカー族ゆえ、夜目を利かせ 
られるよう鍛えられているインパなのだった。 
 ゼルダは妙な動きを見せなかった。が、眠りに入っているのでもなかった。呼吸の具合によって 
そうと知れるのである。 
 しばらくして、ゼルダが静寂を破った。 
「インパ?」 
「何か?」 
 見張っているとの強調をこめて即応する。ためらい風味の小声が返ってくる。 
「そこだと眠りづらいでしょう? こっちに来ない?」 
「お気遣いは無用です」 
 辞退しておいて、考える。 
 どういう意図なのだろう。同じベッドに招けば監視を強化することになるだけなのに。 
こちらとしては渡りに船だが。 
 しばしの間をおいて、再び声がした。 
「一緒に寝たいの」 
 答を保留し、さらに考える。 
 さっきはこちらを慮る言い方だったけれども、今度は自らの希望を意味する発言。おそらく 
気弱になっているのだ。叱責されたのを恥じると同時に、叱責したこちらへの恭順を示そうとして、 
甘えた態度をとっているのだ。媚びといえば媚び。しかしそう切って捨てるのは酷だろう。 
大人びてはいても、まだ十一歳の少女なのだから。 
「わかりました」 
 インパは移動した。普段着のままゼルダのベッドに寝るのは憚られたので、上下の下着だけと 
なって──ただし剣は手の届く所に置いて──毛布に身をくるませた。 
 ゼルダが身体を寄せてきた。顔が胸に接触する。抱擁を期待しているふうである。インパは 
両腕をゼルダの背にまわした。接触の強まりが優しい気分を呼び起こした。 
 こうして添い寝をするのは、ずいぶん久しぶりになる。乳母になった当初は毎晩だった。 
幼くして母親を亡くしたゼルダには、すがるべき大人の女性が必要だったのだ。父たる王は 
その点をよくわきまえており、自身には代替不能な役回りを私に託した。私としても演じ甲斐の 
ある役回りではあった。否、「演じる」とは言いたくない。実の娘であるかのごとく、私は 
ゼルダを愛してきたつもりだ。自分の育ちが育ちだけに、世の母親とはかなり違った愛し方では 
あっただろうが。 
 成長するにつれてゼルダは独立心を養い、添い寝の必要もなくなってしまった。いまでは 
ゼルダのすがるべき相手はリンクだ。もちろん、ただすがっているのではなく、逆にリンクを 
魅了している面もある。それで結構。そのようにあらねばならない。ゼルダは私から離れて 
ゆかねばならないのだ。 
 とはいえ、たまには甘えられるのも悪くない。あの頃のゼルダが戻ってきたようで。  
 
『戻ってきた──か……』 
 ゼルダをリンクに奪われたという感傷が、私の心にはひそんでいたのか。 
 リンクを恨む気には毛頭なれない。しかしゼルダを腕に抱く喜びを放棄したくないとも思う。 
「インパ……」 
 ゼルダの声。 
「昼間のことは、ほんとうに、ごめんなさい」 
 叱責の際、すでに聞いた謝罪だ。繰り返して謝罪せずにいられないほど身に染みたらしい。 
 穏やかに応じる。 
「ご理解いただければ、よいのです」 
 ほっとしたようにゼルダは吐息をつき、次いで、口調に熱をこめた。 
「でも、これだけはわかってちょうだい。リンクに抱かれていると、こんなに幸せなことは 
ないというくらい幸せになれるの。その幸せをなくしたくないの」 
 謹慎の期限は決めていない。ゼルダはそこに不安を感じているのだろう。さて、どうするか。 
そのうち許してやるつもりではいるが、簡単に許してしまうのはよくない気もする…… 
「この気持ち、わかってもらえるかしら」 
 重ねての言がインパを困惑させた。 
 わかるかと問われると返答に窮する。性の快楽は知りつくしていると言っていい。けれども 
愛する男に抱かれる幸福を私は知らない。 
 とりあえずは歯止めをかけておこうとして、答にならない答を返す。 
「ご自分の年齢をお考えください」 
 ゼルダは抵抗した。 
「わたしはもう十一よ」 
「まだ十一でしかありません」 
「いくつならいいの?」 
「成人してからとされています」 
「十六?」 
「はい」 
「インパの初体験はいつ?」 
 絶句する。 
「それとも、未経験?」 
 そこまで言われては黙っていられなかった。 
「十二の時です」 
「じゃあ、いまのわたしとほとんど違わないわ」 
 声を強めるゼルダ。 
 反応が予想できていたから、告げたくはなかった。つい挑発に乗ってしまった。 
「あなたとは事情が異なります」 
「どんな事情?」 
「話せません」 
 その年頃には経験しなければならなかったのだ。他者籠絡の訓練として。 
 ハイラル王国においてシーカー族がいかなる存在であったかを、ゼルダには教えた。王族なら 
知っておくべき事項だ。が、教える内容にも限度はある。性の実態は限度の外。それだけ特殊な 
一族だったのだ。 
 部族の特殊性については別の例もある。ゲルド族の女は初潮を迎えると性交が許可されるという。 
仮にいまのゼルダがゲルド族であったとすれば、社会的公認のもとにセックスできるわけだ。 
 無論、他部族がどんな性習慣を持っていようと、ハイラル王国の王女であるゼルダには関係ない。 
けれども、同じ人間なのにどうしてだめなのかと反論されたら──一応、筋は通っているだけに 
──説得力のある再反論は難しい。そんな議論の泥沼を避けるためもあって、ゼルダには特殊例の 
存在を伏せてきたのだ。 
 ここで追及されると厄介だが……  
 
 ゼルダは追及してこなかった。シーカー族の暗部に触れる話題と察したのかもしれなかった。 
 しかし納得からはほど遠いはず。できるだけの返事はしてやらねば。 
「ですが、あなたのお気持ちは、わからないでもありません」 
 私も若年でのセックスを経験した。ゆえにゼルダの心情は想像できる。リンクとの交際に寛容で 
いられたのも、そうした経験があってのこと。 
「よかった……」 
 安心したようにゼルダが呟く。 
「好きな男の人に抱かれたいと思うのは、女として普通よね?」 
「普通ですな」 
「長い間、抱かれていないと、身体が寂しくなるわよね?」 
「そういうこともあるでしょう」 
「身体が寂しいと、ついつい、自分でしたくなる?」 
 再度の絶句。 
 話が妙な方向に進んでいる──と気づいた時には、 
「ほんとうのことを言うわ」 
 ゼルダの声音が変わっていた。感情を抑えた口ぶりだった。 
 ──昼間、叱られたあと部屋に戻って、もう一度インパのもとを訪れたくなった。わかって 
欲しいという、いまのような訴えをしておきたかった。聞いてもらえるかどうか心配だったので、 
ノック抜きで寝室のドアを少しだけ開き、そっとインパの様子をうかがった。見てしまった。 
意味はわかった。とても声はかけられなかった。そのままドアを閉じて、夜まで待った── 
 やはり見られていたか──と臍をかむ。 
 これで弱みを握られてしまった。淫らなことではそちらも同じで説教する資格などない、と 
責め立ててくるだろうか。 
 違っていた。 
「覗いたりして、ごめんなさい」 
 と、まず謝ったのち、 
「だけど、見るつもりはなかったの。たまたまだったの。どうか許してちょうだい」 
 ゼルダは真剣な声をぶつけてきた。 
 答える。 
「気にしません」 
 嘘だった。羞恥はあった。頬が火照っていた。暗闇が顔色を隠してくれているのが救いだった。 
 しかし悪気がなかったのなら文句は言えない。こちらの弱みを利用しようとしない点にも 
感心できる。気にしないと答えるしか手はないではないか。 
 一方では疑問も覚えていた。 
 黙っていれば謝る必要もなかったのに、どうして告白したのだろう。良心が咎めたということ 
なのか。 
「わたしたちのせいね?」 
 とゼルダ。咄嗟に意味をとれず、 
「え?」 
 と訊き返す。 
 ゼルダは語を多くして言い直した。 
「わたしとリンクがしているのを見たせいで、寂しくなったんでしょう?」 
 まさに図星だが、そのとおりとは言いづらい。かといって否定しても嘘臭くなる。ゼルダは 
こちらの心理を見通している。 
 やむを得ず黙る。相手は言葉を継ぐ。 
「わたしでは、だめ?」 
 またもや意味をとれない。 
 沈黙に対してゼルダが次に行ったのは発語ではなかった。 
 下着の上から片側の乳房に手を触れさせてきた。 
 単なる接触ではない。愛撫としか呼びようのない手つきである。 
 当惑が沈黙を継続させるうちにも愛撫は進む。もう片側の乳房にも手がすり寄ってくる。頂点の 
部分を撫でられる。こすられる。快感が電流のように体内を走る。  
 
「姫……こんなことは……」 
 ようやくたしなめにかかるも、ゼルダは愛撫をやめようとしない。 
 大量の思念がないまぜとなってインパの脳内を乱舞した。 
 つまり欲求不満のつらさを煽った罪滅ぼしとして私を慰めたいというのか。女同士の性交も 
経験している私ではあるが、ゼルダとこの種の行為に及ぶなどいままで露ほども考えたことは 
なかった。ところがゼルダは積極的にそれを志向している。女性を相手とするのを全然ためらって 
いない。不思議だ。リンクと恋仲であるというのに。それとこれとは別だと割り切っているのか。 
相手は女性であって他の男と関係するのとは意味合いが違うと考えているのか。実際、私と 
ゼルダの間には緊密な繋がりがあって、ゼルダにすれば私は一種特別な存在であるだろうけれども、 
その繋がりがセックスをも包含するとなると、いかに特殊な性生活を送ってきた私であっても 
首肯しかねる。止めなければならない。止めるべきだ。止めよう、止めよう、止めよう── 
 ──と思いながらも止められない。愛撫がもたらす快感を、私の身体は許容している。昼間、 
発散できなかった欲望が、いま、また、急速に膨張しつつある。加えて、ゼルダを腕に抱く喜びを 
放棄したくないとの願望が、私に誘惑の言葉をささやくのだ。 
 かまわないではないか──と。 
 リンクとの交わりを容認するのなら、女性との交わりを容認してもかまわないではないか。 
その相手が他ならぬ私であれば、私は戻ってきた「娘」と、改めての──そして新たな── 
繋がりを構築できるのだ。「娘」と繋がるにしては異常な行為だが、一種の性教育と言えなくもない…… 
『待てよ』 
 ふり返ってみれば、ゼルダが私をベッドに招いたのも、自慰を目撃したと告白したのも、 
この行為に至るための予備行動だった。ゼルダは計画を立てていたのだ。しかし果たして寂しい 
私を慰めるというだけの計画なのだろうか。他にも何らかの目的があるのではないか。私を 
籠絡して、今後、リンクとの交情に容喙させまいとしているのではないか。 
 だとすれば笑止。久しくセックスの機会がなかったとはいえ、ゼルダごときに籠絡される 
私ではない。こちらは籠絡の本家なのだ。なるほど、いま、私はゼルダの愛撫によって快感を 
得ている。行為を続ければさらなる快感も得られよう。が、だからといって、ゼルダの教育指導を 
手控えるつもりは全くない。「それとこれとは別」の話だ。 
 もっとも、そんな意図ではないだろうとは思う。ここまでのゼルダの言には真実味があった。 
邪な謀りごとをめぐらしているふうではなかった。決して。 
 当たってみる。 
「本気ですか?」 
「ええ」 
 迷いのない返事。 
「どうして?」 
「インパには、幸せになってもらいたいの」 
 慰めるにしては大げさな表現。けれども真情は伝わってくる。 
「他にも理由があるのでは?」 
「わたしも……」 
「あなたも?」 
「インパと一緒に、幸せを感じたい……」 
 計画と呼ぶほどの計画ではなかった。自身の欲望をも満たしたいというわけだ。 
 いや、そう言い換えてしまうと身も蓋もない。ゼルダは私との触れ合いを求めている。 
その真心は率直に受け止めよう。私を「幸せ」にするだけの技量を有しているかどうかは 
疑問だけれども。 
「では、お望みのままに」  
 
 ゼルダの動きが積極性を増した。手が下着をくぐって、じかに胸をまさぐり始める。 
「羨ましいわ」 
「何がです?」 
「こんなにも胸が大きくて」 
 インパは思わず微笑した。 
 胸が豊かだと武闘では不便なのだが、男を籠絡する役には立った。色気に欠ける私が女を 
主張できる、ほとんど唯一の拠り所といっていい。私に女としての自信を与えてくれる。 
羨ましがられると素直に嬉しい。 
「あなたのも、そのうち大きくなります」 
 寝衣の上から触れてやる。 
「あ……」 
 びくんと身体を震わせるゼルダ。 
 いまだ未熟の範囲内ではあるも、そろそろ乳房の形になってきている。思春期のそこは 
敏感だから、軽い接触でも強く感じてしまうのだろうが、そればかりではないようだ。性的な 
刺激を性的に感受できるだけの肉体になっているのだ。 
 対抗せんとするがごとく、ゼルダの片手が下半身に伸びてくる。下着越しに股間を撫でまわし、 
さらには布片の下へと侵入してくる。 
 かすかに粘液性の音がした。 
 濡れているな──と自覚する間もなく、インパは多大な快感に襲われた。一時では終わらない 
快感だった。的確に急所を捉えられていた。 
 インパもゼルダの股間に触れ、手を下穿きの中へもぐりこませた。 
 淡い恥毛の下方にあって、自分と同じく潤ったその部分を、指で精密に攪拌する。潤いの 
度合いが強まってゆく。 
「あぁッ!……んッ!……うぅぅ……ッ!……」 
 ゼルダはかわいい呻きを漏らし、くねくねと肢体を悶えさせる。活動させていた手も止めて 
しまう。身の内を駆けまわる快感の賞味に専念せざるを得ない状態とみえた。 
 シーカー族の能力をもってすれば、ゼルダを絶頂させるのはたやすい。そうしてやっても 
いいのだが、それだと私を慰めるという本来の目的が果たされないことになる。こちらとしても 
不本意だ。ゼルダの好きなようにやらせてみよう。 
 インパはゼルダの秘部に配置していた手を引き戻し、素早く下着を脱ぎ去った。息を弾ませて 
いたゼルダも、あとを追って全裸となった。 
 その幕間のあと、インパは攻勢を控えた。接せられる素肌の感触を楽しみつつも、そこへは 
手による緩やかな按撫を与えるにとどめた。 
 自由となってゼルダは再び活発に動き始めた。仰臥するインパの右に、左に、上にと位置を変え、 
さまざまな箇所にさまざまな手技をさまざまな密度で行使してくる。口も盛んに各部を経めぐる。 
右の乳房を揉みしだくのに合わせて左の乳首に舌を絡めるかと思えば、胸に片手を残したまま、 
唇を唇に密着させ、他方、余した手をまたもや脚間に差し入れて、せわしない微動を連続させる。 
 闇に差すかぼそい月光のもとで休みなく繰り広げられる影絵芝居を、着々と高まってゆく性感に 
浸りながら、インパは興味深く鑑賞した。 
 お手並み拝見とのつもりでいたら、なかなかどうして達者なものだ。積極的であるのみならず、 
いかにも慣れているという印象を受ける。リンクと関係を続けているゼルダだから、セックス 
自体には慣れていて当然だが、こちらの急所を突く手際といい、どうすれば女が心地よくなるかを 
知悉しているようでもある。ゼルダに女性経験はないはずなのに。 
 それとも、あるのか?  
 
『まさか』 
 いつもリンクに施されている操作を思い起こし、そのままを実践しているのだ。 
 自慰の効果でもあるだろうか。 
 ゼルダが自慰を行っているらしいとはだいぶ前から察していた。別に悪いことではないし── 
私自身もたまにはやるのだ──耽溺しているわけでもなさそうだったので放っておいた。 
その経験がゼルダの感覚と技術を磨いたに違いない。 
 ゼルダが身体を下方へとずらせ、局部に口を触れさせてきた。 
 躊躇するふうもなくそうするのは、リンクのそこを口にし、また自分のそこもリンクの口に 
預けたことがあるためだろう。奔放にセックスを楽しんでいるらしい。同性の性器への口接を 
厭わないのも、そんな奔放さの表れか。日頃は清楚な王女様が、寝所ではこれほど淫らになるとは。 
リンクも果報者だ。もっとも、リンクの影響があったればこそ、ゼルダもこのようになった 
のだろうが…… 
 急に胸の鼓動が速くなった。なぜなのかと心を探る。理由に思い当たった瞬間、インパは強いて 
探査を打ち切り、なおも高まりつつあった性感の方に意識を集中させた。 
 折しもゼルダが行為の種類を変えるところだった。口戯に携わらせていた身を、胴の上へと 
すべり移らせ、陰部と陰部を接触させるや、律動的な摩擦の行を開始する。 
 冴えた腰使いではなかった。一本調子の感があった。しかし情熱はひしひしと感得できた。 
自らが随喜し、同時にこちらをも随喜させたいと切望しているのである。 
 インパはいとおしみをこめてゼルダの上体を抱いた。応じるがごとく、ゼルダは両手と口を 
二つの乳房に挑みかからせてきた。腰の動きも勢いを強めた。荒々しいとも呼べる所作だったが、 
二人分の恥液にあふれた接触面は潤滑な摩擦を保証しており、荒々しさを荒々しさと認識させなかった。 
いや増す快感がインパを押し包んだ。 
 ゼルダの呼吸が切迫してきた。それまで断続的に漏らしていた呻きが持続的な音声に転じた。 
絶頂が近いのだとインパは知った。自分が同じ状態にあることもわかっていた。 
 いよいよその時を目前にして、ゼルダは声を憚らなくなった。 
 少々の声なら外には聞こえない。けれどもできるだけ控えるべきではある。ゼルダもそこは 
心得ていただろうに、とうとう抑えがつかなくなったか。 
 インパはおのれの口をもってゼルダの口を塞いだ。身長差があるので、そうするためには頭を 
かなり前傾させなければならなかったが、密着の保持は容易だった。 
 目的は何であれ、生じた現象は接吻である。それがゼルダを刺激したとみえた。インパの腕の 
中で少女の肢体は強直した。 
 一拍おいてインパも追随した。 
 ゼルダの法悦が肌を通して伝わり来たかのような感覚だった。  
 
 波が静かに引いてゆく過程で、二人の姿勢は当初のものに戻った。ともに側臥して向かい合い、 
ゼルダはインパの腕の中にあって、胸に顔をうずめる格好である。かつての添い寝にも合致する 
その形は、インパに無上の安息をもたらし、それはゼルダにおいても同様と思われた。ゆえに 
言葉は必要なかった。 
 ゼルダが胸から顔を離し、 
「……どうだった?」 
 と問うてきたのは、そうした安息にも心が慣れ、そろそろ変化を欲し始めていた頃だった。 
そこでインパは変化に応じた。 
「堪能しました」 
 本心だった。肉体の不平は霧消していたし、精神的にも満足が得られていた。わずかしかいない 
「身体を触れ合わせて心の底から嬉しいと思える相手」の中で、ゼルダが筆頭の位置を占めるに 
至ったことは明らかだった。 
 ただし──と、インパは胸の内で独言する。 
 熱狂の域には達さなかった。ゼルダの技量が完成されていないためでもあるが、そればかりでも 
ない。年齢を考えれば、むしろゼルダは立派にやったといえる。 
 要因はこちらの方にあるのだ。 
 どれほど感激的な場面にあっても、私の心は常に冷めた部分を残している。だから私は性交に 
際して我を忘れたことがない。シーカー族の性でもあろう。任務としてのセックスならば相手への 
警戒を捨てられないし、そうでなくとも、相手を冷静に観察した上で適切な行動をとろうとする 
癖が抜けない。先ほどの交わりも然りだ。私は、終始、ゼルダを観察していた。絶頂の直前でさえ、 
ゼルダの声量を案じて口を塞ぐだけの分別を、私は忘れていなかった。 
 そして観察の対象はゼルダのみでなく…… 
「でも、こういうのはやっぱり男の人との方がいいと思ってはいない?」 
 続けての問いがインパの注意を惹きつけた。 
 こちらの冷静さを感じ取り、自分の力が足りなかったと省みているのだろうか。堪能したとの 
返事が端的すぎて、信じきれずにいるのだろうか。暗いせいでこちらの表情をうかがえないことが 
不安を助長しているのかも…… 
 いや、違う。ゼルダの口調にいじけたところはない。率直な疑問のようであり、同意を求めて 
いるようでもある。自分はそうだと言いたいのか。 
 喚起される思いを吟味する。 
 男には男のよさがあり、女には女のよさがある。にわかに優劣は決められない。純粋に快感を 
極めようとするなら、互いの勝手がわかる同じ女の方がいい。しかし男に膣を領された時の 
充足感は、他に何によっても代えられない。ゼルダのように愛する男が相手であれば、至高の 
一体感も得られるだろう。私にはそこまでの経験はないけれども。 
 ──といった意見をありのまま述べるのは躊躇される。ゼルダにする言としてはあまりにも露骨。 
「近頃、男性には縁がありませんので」 
 インパの答は韜晦的となった。が、ゼルダはその点こそを問題としたいらしく、さらに言葉を 
重ねてきた。 
「つき合っている人はいないの?」 
「いません」 
「気に入っている人とかも?」 
「特には」 
「インパのことを気に入っている人が、どこかにいるとしたら?」 
「いるとは思えませんな」 
「だけど、いたら嬉しいでしょう?」 
「たぶん。いたとすればの話ですが」 
「いるわ」 
「ほう、ご存知なので?」 
「ええ」 
「誰です?」 
「リンクよ」  
 
 黙する。 
「リンクはインパに魅力を感じているわ。インパとの結びつきを望んでいるわ。真面目によ。 
応えてあげてもいいんじゃないかしら」 
 黙する。 
「インパは前に言ったわね。わたしくらいの歳ならリンクを好きになっていたかもしれないって。 
ほんとうは歳のことを抜きにして好きなんじゃない? 少しでもそういう感情があるのなら、 
リンクの気持ちに応えてあげて」 
 なおも黙する。 
「インパさえよければ……」 
 ゼルダが声を低くした。その分、真剣味が増したように感じられた。 
「これからリンクをここに呼ぶわ。実を言うと、もう居間に来てもらっているの」 
 意外ではなかった。ゼルダとの行為中、インパが働かせていた観察力は──ゼルダの気配を 
捉えそこねた昼間の失態への反省に立って──寝室の外へも向けられており、隣の居間に現れた 
気配を早くから探知していたのだった。 
 気配の主も特定できていた。 
 就寝時に戸締まりをしてあるから、居間へ入ってくるには鍵が必要。ゼルダの部屋の鍵を持って 
いるのは、ゼルダ本人と私と国王のみ。私の分は手元にある。国王が就寝後のゼルダを──いかに 
娘であれ──訪うとは考えにくいし、仮に訪うとしても必ず先触れがあるはず。よって使用された 
鍵はゼルダのもの。ゼルダが鍵を他者に預けるとすれば、預かり手はリンク以外にあり得ない。 
 そこまではわかっていた。しかし目的がわからなかった。いつ質してやろうかと時機を計って 
いたのだが…… 
 私とリンクを結びつけるためだったとは! 
「恋人が他の女と寝るのをお認めになるのですか? まことに太っ腹なご提案ですな」 
 ようやく口から出た言葉は皮肉味を混じた。皮肉味でも混じさせないことには一言たりとも 
発せられなかっただろうと思われた。 
 ゼルダは平静だった。 
「わたしとインパが抱き合うのを、リンクは認めてくれたわ。だったらわたしもリンクとインパが 
抱き合うのを認めるのが筋というものじゃない?」 
 筋といえば筋である。再び黙さざるを得なくなる。 
「わたしはリンクのことが好きだし、インパのことも好き。もちろん『好き』の内容に違いは 
あるけれど、リンクとの繋がりも、インパとの繋がりも、ずっと大切にしていきたいと思って 
いるの。だからインパとリンクにも繋がりを持って欲しいの。そうすればわたしたち三人は完全な 
形で繋がり合えるわ。わたしたちはそうあるべきだと信じているわ」 
 いささかの惑いもまじえず押し寄せるゼルダの弁に、どうにかインパは自分の語を挟み入れた。 
皮肉をこめることはできなかった。 
「ですが……それは……あまりにも……異常かと……」 
 ゼルダの平静さに変化は生じなかった。 
「異常というなら、そもそもわたしとリンクの関係からして異常よ。ついさっき、わたしと 
インパが結び合ったのだって異常だわね。だけどわたしは自分が間違ったことをしたとは思って 
いないわ。インパも間違いだとは思わないからこそ、わたしとリンクがつき合うのを許してくれて 
いるんでしょう? わたしに身を任せてくれたんでしょう? それと同じよ。インパとリンクが 
繋がりを持つのは、異常ではあるとしても、決して間違いではないわ」 
 反論の余地は皆無である。インパにできたのは、心の中で思いをめぐらせることだけだった。 
 やはりゼルダには計画があった。私との交わりで「異常」の前例を作り、リンクとの交わりという 
次段階の行為を、私が論理をもって否定できないようにしたのだ。一方では、あらかじめリンクに 
自室の鍵を渡しておき、いつでも次段階へ移行できるよう、居間で待機させていた。 
 策略とは呼ぶまい。 
 ゼルダにとって私との交わりは、断じて単なる言い訳作りではなかった。ゼルダは心底から 
私との触れ合いを求めていた。いまとなってもその真実性は疑えない。 
 私とリンクの繋がりを欲し、ひいては三者の総合的な繋がりを欲するゼルダの心情にも、私は 
同じ真実性を感じる。  
 
『それにしても……』 
 以前はリンクの「浮気」に激怒していたゼルダが、どうしてここまでの境地に達することが 
できたのか。どんな機縁があったというのか。 
 あの諍いののち、二人の関係は前にも増して強固になった。時期的には…… 
 そう、ゼルダが国王の名代として初めて視察の旅に出た頃だ。中でも注目される訪問地は 
コキリの森。 
 そこにはサリアという幼馴染みがいる──とリンクから聞いたことがある。私はリンクの 
「浮気」の詳細を知らないが、いかにもゼルダが嫉妬の情を抱きそうな存在だとは思っていた。 
コキリの森でゼルダとリンクは私から離れて行動したため、そこで二人に何があったのかは 
わからない。しかしサリアを含めた三者の間で何らかのやりとりがなされただろうとは推測できる。 
結果、ゼルダは嫉妬心を捨て、広い視野で「人との繋がり」を希求するようになった。 
ひょっとするとその時に──先刻は「まさか」と切り捨てた可能性だが──同性との交わりをも 
経験したのか…… 
「どうかしら」 
 ゼルダの声が詮索を打ち切らせた。 
「言いたいことを言わせてもらったけれど、無理を通すつもりはないわ。いちばん大事なのは 
インパの気持ちだもの。リンクのことをどう思っているのかを踏まえて、どうするのが正しいかを 
判断して、その上で返事を聞かせてちょうだい」 
 回答を迫られ、やむなくインパは眼前の問題に回帰した。 
 私はゼルダとリンクとの交わりを容認した。自分とゼルダとの交わりも容認した。自分も含めた 
当事者の立場や感情を勘案して、容認するのが正しいと判断したのだ。ここで自分とリンクの 
交わりをも容認するか否かは──ゼルダに言われるまでもなく──私がリンクに向ける感情の 
内容によって決まる。 
 どんな感情なのか──との検討は、繰り返しにしかならない。 
 私はリンクを「男」と認めている。妄想内とはいえ欲情の対象にしようともした。 
 それだけではない。 
 ベッドの上でゼルダが淫らなのはリンクの影響だろうと考えた時、私は胸をときめかせて 
しまった。私に性技を施すゼルダの背後にリンクがいて、私を間接的に悦ばせてくれているという 
印象を持ってしまったのだ。その場ではゼルダに──リンクを恋い、また、実際に私を悦ばせて 
くれているゼルダに──申し訳ないとの意識が働いて、得た印象をすぐさま脳裏から消し去った 
のだが…… 
 あの印象が現実のものになろうとしている。間接的ならぬ直接的な悦びに転じて。しかも 
ゼルダの承認つきで。 
 なおかつ、悦びの招来者であるリンクが、私に魅力を感じてくれているとあっては…… 
 出せる答はただ一つだ。 
 が、留意すべき点も一つある。 
 二人の関係を壊してはならない。 
 ゼルダに不安はないのだろうか。私がリンクを──無論、そんなことは全く企図していない 
けれども──奪ってしまうとは思わないのだろうか。 
 思わないのだ。 
 自身ともリンクとも大きく歳が離れている私は嫉妬の対象になり得まいし、そもそも嫉妬という 
感情自体を超克しているのがいまのゼルダだ。リンクとの愛に絶対の自信を抱いているのだ。 
何があっても二人の愛は揺るがないと確信しているのだ。 
 それを、私も、確信できる。 
『ならば……』 
 インパは口を開いた。 
「受けましょう」  
 
 腕に包んでいたゼルダの身体が柔らかみを帯びた。緊張が解けたのだとわかり、その緊張を 
いままで知覚していなかった自分もまた緊張していたのだと実感された。 
「ありがとう、インパ」 
 声も柔らかくなっていた。 
「じゃあ、呼ぶわね」 
 頷きを返す。直後、暗闇では頷きも見えないだろうと思い当たったが、ゼルダは音声による 
了承を待たなかった。起き上がってベッドを降り、寝衣も纏わず、居間に続くドアへと歩み寄って 
ゆく。インパは上体を起こし、ゼルダの歩行を見守った。足取りに乱れはない。それで腑に落ちた。 
すでに目が闇に慣れているのだった。 
 ドアがあけられた。やはり無灯火の隣室に向かってゼルダが何やらささやく。暗中にせよ 
ベッド以外の場所で全裸をさらすそのさまに、インパは多少の驚きと、そして微笑ましさを覚えた。 
そうすることをためらう必要もないほど気心の通じた相手に、ゼルダは話しかけているのである。 
同時にインパは、ゼルダが寝衣を着ない点に、別の含みをも嗅ぎ取っていた。 
 要旨の伝達がすんだとみえ、ささやきは絶えた。一つの人影が戸口に現れた。ゼルダはドアを 
閉じ、施錠したのち、確かな歩調でベッドの方に戻ってきた。後ろに従う人物の歩調も同様に 
確かである。居間で待つうち、闇に惑わない程度の視力は養っていたのだとわかる。 
 インパは自身の姿を意識した。上体を立てた格好なので、胸部は露出されている。それを 
新来者は──おぼろげにせよ──目に捉えているはずである。 
 隠そうとは考えなかった。元来の実際的な気質がインパを律していた。 
 すると決めた以上、逡巡は不可。肌を合わせれば否応なく見られるものを隠す意味はない。 
むしろ自分の「女」を見て欲しい。ゼルダも見せているのだから、とも思う。 
 おのれの意志を確認しつつも、ベッド脇で少年がおずおずと行う脱衣に、インパは動悸を誘われた。 
 ほどなくリンクは準備を終え、ゆっくりとした動作でベッドに上がってきた。 
「あの……」 
 控えめな調子で言いかけられた語のあとを、インパは続けさせなかった。無言のまま、相手の 
片腕をつかんで胸元に引き寄せ、ついてきた裸身を腕の中に抱き取った。 
 現在の心持ち等、話す事柄がないではない。しかしそれらは行動で表現すればいい。 
 抱きしめた裸体は、ゼルダと同等に小さくありながら、ゼルダにはない筋肉の硬みを皮下に 
有していた。逞しさにおいて成人とは比ぶべくもないが、「男」の様相は明確である。インパは 
動悸の速まりを自覚した。 
 かすかな軋みが聞こえた。ゼルダがベッドの端に腰をかけたのだった。敷布に片手をつき、 
身を乗り出して、注目の態勢をとっている。 
 ゼルダが寝室を去り、自分たちを二人きりにする──という筋書きもあるかと、インパは事前に 
考えていたが、ゼルダに着衣の意思がないのを見て、その考えは放棄していた。ゼルダは行為に 
立ち会うつもりなのである。それを厭う気はないインパだった。他者の交合を眺めた経験のみならず、 
訓練では他者に交合を眺められた経験もあったので、第三者の存在は気にならなかった。 
喜ばしくさえあった。ゼルダが自分たちの結びつきを心から是認し、祝福してくれている証拠だと 
信じられた。  
 
 リンクが行動の気配を示した。控えめである要もないと悟ったらしい。インパは気配を実動に 
させるべく、立てていた上体を再び倒して仰向けとなった。 
 愛撫と接吻が体表を回遊した。乳房への執心も含めて、ゼルダのそれに似た作法だった。 
 実際は逆である──と、インパは理解していた。 
 さっき思ったとおりだ。ゼルダの方がリンクを模倣していたのだ。 
 ただし、微妙な差異もある。 
 リンクは手慣れている。ゼルダよりも。だがゼルダほどの繊細さはない。女の壷をつかみきれて 
いない。そのあたりは男の武骨さといえよう。ところが奇妙なことに、私個人の壷は正確に 
押さえてくる。あたかも私の身体をよく知っているかのようだ。そこは巧みと評するべきだ。 
しかもリンクの振る舞いには、技巧をひけらかそうとする嫌味さがない。篤実に、一途に、 
こちらを悦ばせようとしている。技巧を超えた真情が感じられる。 
 単なる快感にとどまらない、感動的なうねりが心身に引き起こされる。 
 過去のまぐわいでは決して得られなかった種類の感動。 
 インパは高ぶった。右手を伸ばしてリンクの陰茎を握った。それは硬く、熱していたが、 
大きさは年齢相応であり、形状にも特別なところはなかった。発毛すら伴っていない未熟な性器。 
ゼルダがあれほど喜悦していたのが不思議なくらいである。 
 けれども不思議ではないのだった。 
 いま、自分が味わっているのと同じ感動を、ゼルダもリンクとまぐわうたびに味わっているのだ 
──と得心できた。 
 リンクが喘ぎを発した。自分の手が原因であることをインパは知った。覚えず技を行使して 
いたのである。それは痙攣しており、シーカー族の手弄に長くは耐えられまいと思われた。 
ゼルダとの交わりでそうしたように、インパは主導権をリンクに返し、感動を受領する側へと 
戻った。 
 リンクは行動を続け、感動はますます増進した。急速な高揚を制御できなかった。恥部を口で 
かきまわされるに及び、インパは早くも頂点に達した。感悦は減衰せず、やがて本体の挿入が 
なされるや、一段と強力になってインパを打ちのめした。 
 いささか単調の感があったゼルダの腰使いに比べ、リンクの刺突は多彩だった。速度と強度は 
さまざまに変わり、時には完全に静止した。それは限界に近づいたためのやむない中断なのかも 
しれなかったが、インパは不満を抱かなかった。欲望の独善的な遂行をよしとせず、できる限り 
相手に歓を献じようという信念の表れなのである。さらに静止はかえって次なる突撃への期待を 
かき立てた。そしてその期待は必ずかなえられた。 
 幸福だった。 
 未熟であるはずの男根が圧倒的な存在感を体内で主張していた。上にかぶさる身体も圧倒的な 
重みと感じられた。からくも保った思考はリンクへの賛嘆に占められ、腕は幸福の供与者を固く 
懐抱した。 
 リンクが刺突を激化させた。多彩さを捨て、行き着きたいとの望みをあらわにしたのだった。 
インパもそれを望んだ。腰を揺すってリンクを鼓舞した。鼓舞されたリンクは攻めをいっそう 
激しくした。インパの思考は吹き飛んだ。ひと突きひと突きが絶頂に直結した。その繰り返しは、 
ついに一個の長大な絶頂となって、インパを忘我の境に運んだ。 
 膣壁に伝わる脈動でリンクの終着を知り得たのが、唯一の意識作用だった。  
 
 上にあった重みが消失したのを機として、インパの脳は再び稼働し始めた。ただし能率は 
悪かった。横に身をすべり落としたリンクが行う、唇への接吻と乳房への愛撫を受け入れながら、 
秘所で舌が蠢いているのを感じ、どうしてリンクにそんな離れ業が可能なのかと──一瞬では 
あったが──疑問に思ってしまった。ゼルダが新規の参入者として口戯に従事しているのをすぐに 
察知できないほど、インパの観察力は鈍っていたのだった。 
 羞愧はしなかった。自分の朦朧状態が嬉しかった。上半身と下半身に並行してなされる奉仕が、 
歓喜と朦朧の双方を倍加させた。インパといえども、二人を超える人数で交わった経験はなく、 
異なる者によって、同期しつつも独立した性的刺激を肉体に加えられるのは、未知の範疇に属する 
ことだったのである。 
 これもまた異常。しかし確然たる幸福。 
 この幸福の時間をできるだけ長く延ばしたい──とインパは冀った。が、幸福の頂上に至る 
道のりを短くしたいという矛盾した願望も抑えられなかった。 
 リンクの股間に顔を寄せ、うなだれた一物を口に含む。やはり小さい。射精の痕跡もない。 
こんなものに自分は熱狂させられたのだと改めて思い知らされ、けれども喜びは喜びのまま。 
 否、そればかりか…… 
 一物は徐々に硬度を取り戻してゆく。上体を起こしたリンクが、なおも乳房に手をまとわり 
つかせてくる。秘所はゼルダに吸われ続ける。 
 喜びは大きくなる一方だった。 
 ゼルダの吸啜は後方へも及んだ。その部を性交に使用した経験はあるインパだったので、少しも 
忌避感は起こらなかった。ゼルダがそこへの口接すら躊躇しないのをいぶかしむ気にもならなかった。 
 リンクが完全に立ち直った時点で、インパは顔を引いた。 
 男を口中で果てさせるのはシーカー族の得意技だが、ここでそうするわけにはいかない。それを 
本来の役割に復帰させるための補助作業を行ったに過ぎないのだ。もっとも、実に心楽しい 
作業ではあった…… 
 リンクも本来の役割を飲みこんでいるとみえ、迷うふうもなく居場所を下方に移した。合わせて 
インパは、口淫中、横向きとしていた身体を、仰向けに戻そうとした。 
 リンクの手に阻まれた。 
 インパは従った。別の体位を求められていると判じたのである。 
 単なる体位変換ではないと悟ったのは、背後にまわったリンクが、陰門ならぬ肛門に硬直を 
押しつけてきた時だった。ゼルダが自分に施していた口戯はおそらくこれの下準備でもあったこと、 
自分がリンクに施した口戯も──そこを湿らせるという意味で──思いがけず下準備になって 
しまっていたこと、そして、リンクの物腰がこうも自然なのは同じ行為をすでにゼルダと営んで 
いるために違いないことを、インパは瞬間的に認識した。 
 硬直の先端は入口にとどまっている。 
 インパはその部の力を抜いた。もはや異常かどうかを考える気もなかった。ただただ幸福を 
享受したかった。 
 筋肉の弛緩を許可と見なし得たらしく、リンクは硬直を進入させ始めた。受容者への慮りで 
あろう、リンクの動きはきわめて緩徐であり、硬直の小ぶりさと、男には慣れたインパのそこで 
ある点も相まって、暫時ののち、進入はつつがなく完了した。 
 慣れてはいても久々である。インパは直腸を貫かれる感覚に酔った。 
 感覚は次から次へと修飾されていった。 
 リンクがおもむろに動き始める。貫通に摩擦の要素が加わり、腸壁は不随意に痙攣する。 
挿入の際は休めていた口戯をゼルダが再開し、さらには膣内へと送りこんだ指にリンクと同調した 
往復運動を司らせる。位置を接した二カ所への同時攻撃が、激越な快感を全身に放散させた。 
 歓喜と朦朧が極限に達するかと思われた時、ゼルダが新たな行動を起こした。正面から 
局部同士の接触を図ってきたのだった。六本の脚がもつれ合い、やがてきわどい平衡に達すると、 
前後両所への猛烈な攻めが開始された。 
 前では秘裂をこすり立てられ、後ろでは肛門を抉られる。 
 両の乳房は四本の手によって変形せんばかりの玩弄を受ける。 
 インパの感覚は極限を超えた。 
 おのれを挟んで躍動する若い二人に遂情の震えが連鎖すると、その連鎖はインパをも巻きこみ、 
かろうじて存続していた意識を休止に追いこんだ。 
 至上の幸福感に陶酔しつつ、インパは、再度、忘我の淵に沈んだ。  
 
 さほどの間もなく回復した頭脳の働きを、敢えて通常の域には戻さず、インパは陶酔の余韻に 
浸った。時が穏やかに流れてゆく中、ベッドに横たえた肢体は延々と幸福感に満たされ続けた。 
 疲れ果てた少年少女は早々と眠りに落ち、いまは静かに寝息をたてている。それが暗闇の中で 
聞こえるもののすべてだった。 
 右にリンク。左にゼルダ。 
 両側に寄り添う二つの小さな身体を、ゆったりと腕で抱き包み、三者の緊密な繋がりを 
了得しつつ、インパは心の内で述懐した。 
 この二人にはいくら感謝しても感謝しきれない。生まれて初めて「我を忘れる」セックスを 
体験させてくれたのだから。 
 そしてこの二人なら──こちらが望みさえすれば──これからも一度ならず我を忘れさせて 
くれるはずだ。 
 もちろん、そんな機会をたびたび求める気はないが、実現の折りには──ほぼ受け身に徹した 
今回とは違って──こちらが教えてやれることもあるだろう。 
『その前に……』 
 二人への処罰について。 
 今夜、二人は交わらなかった。それぞれが私との交わりに専心していた。いまも二人は私の 
両側にあって、肌の触れ合いを自粛している。謹慎処分に従っているのだ。 
 この点は考慮に値する。リンクが次の旅に出発する直前くらいには、別荘行きを許してやるか。 
『ただし!』 
 インパは心を引き締めた。 
 融通をきかせるのはそこまでだ。今夜のことで私が甘くなると思ったら大間違い。明日からの 
教育指導は手控えない。「それとこれとは別」の話なのだ。 
 明日の問題は目の前にも存在する。夜が明けるまでにリンクを自室へ帰さねばならないし、 
侍女らに怪しまれぬよう、このベッドの寝具を整えておく必要もある。他に…… 
『まあ、あわてることもない』 
 引き締めた心に緩みを戻す。 
 夜明けまで、まだ数時間。いましばらくは安らぎの中に身を置いていよう。処罰の解除を 
どんな台詞で二人に伝えるか、考えておこうか。あっさりとした許し方では足元を見られそうだ。 
特に── 
『私を堂々と論破するまでになった、この手強い王女様が相手では、な』 
 なお寝顔はあどけないゼルダに向けて、インパはそっと微笑みかけた。  
 
 新たな旅の空の下にあって、リンクは経緯を回想した。 
 ああ見えてインパは欲求を内に溜めているようだから、まずはわたしが交誼を持ちかけて、 
うまくいったら次の段階に進む──という、夕食前に聞かされたゼルダの計画が、果たして図に 
当たるものだろうかと、居間で待機しながら、ぼくは不安に思い続けていた。厚い壁は物音を 
通さず、ドアには鍵がかけられていて──そんな真似をしようとは全く考えなかったが── 
覗き見もできない。寝室内の状況を知る手立ては皆無で、それがぼくの不安を煽った。 
 けれども、結果は理想的だった。大人の女性に初めて挑んだゼルダが、あの厳格なインパを 
みごとに攻略し、ぼくとの契りまでも成就させたのだ。 
 理由は、わかる。 
 単に攻略しようとするだけだったら、インパは絶対に攻略されなかっただろう。ゼルダの真情が、 
インパの真情を共鳴させ、ぼくの真情との共鳴にも導いたのだ。 
 本来なら、ぼく自身がインパに働きかけるべき一件ではあった。しかしゼルダがいてくれなければ 
ここまでの成功は得られなかっただろうし、ましてや三者の繋がりを確立させることはできなかった。 
『あの世界』でのそれをも凌駕する関係を、『この世界』のインパと結び得たぼくは、ゼルダに 
深く感謝しなければならない。 
 ただ、かくも「親密な」関係となったにもかかわらず、翌朝のインパはいつもの厳しさを 
取り戻していた。ぼくにもゼルダにも決して甘い顔は見せなかった。 
 それでいい。 
 それでこそインパだ。 
 インパにはインパらしくあって欲しい。厳しさもまたインパの魅力なのだ。 
 そして、厳しさの裏にある優しさも。 
 この旅に出る直前となって、インパはぼくとゼルダの別荘行きを許してくれた。仏頂面での 
淡白な物言いだったが、その陰に隠されたインパの優しさを、ぼくは充分に感じ取ることができた。 
 感謝はインパにも捧げられなければならない。 
 別荘で熱烈な行為に没入しつつ、ぼくとゼルダは一つの同意に至った。 
 もしもインパが望むなら、先夜の交歓の再現を、ぼくたちは構えて拒むまい──と。 
 加えて、インパへの感謝を正当づけるであろう事柄。 
 ぼくとゼルダと賢者が織りなす繋がりは、賢者が関わる地域に何らかの幸福をもたらすはず。 
それを確かめるのが今回の旅の目的。 
 期待に胸を膨らませながら、足取りも軽くカカリコ村への道をたどるリンクだった。 
 
 
To be continued.  
 

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