「どうでしょう」
不意に──と感じたのは思考を別事にさまよわせていたためで、会話は途切れることなく続いて
いたのだったが──意見を求められ、ルトはあわてて現実のゼルダに注意を戻した。
「すまぬ、よう聞き取れなんだ」
「リンクにも泳ぎを教えてあげたらいいのでは、と思うのですけれど」
「ああ、それもよかろう。一人教えるのも二人教えるのも、こちらとしては同じじゃからな」
「せっかくの機会ですもの。わたしたちがお互いに教え合うだけでは、リンクが仲間はずれに
なってしまいそうで」
「そなたもリンクに料理を教えてやるがよい。三人でできることは三人でするのが合理的という
ものじゃ」
「そのとおりですわね」
「リンクからも教われることはあるはずじゃぞ」
「何ですか?」
「釣りじゃ。リンクはここへ来るたび、釣り堀に入り浸っておるらしい」
「そういえば、聞いた覚えがあります。食糧確保が目的だとか」
「じゃろうな。そなた、釣りの経験は?」
「一度もありませんわ」
「わらわは自力で魚を捕れるゆえ、これまで釣りにはさして関心もなかったが、この際、習うて
みるのも一興かと思う」
「わたしもやってみたいと思います。リンクに頼みましょう」
「うむ、二人で頼めばリンクもいやとは言うまい。ただ、リンクには他のことも頼みたいのう」
「何を?」
「旅にばかりうつつを抜かさず、我らのもとにおる時間を、もっと長くとるように、とな。
どうじゃ? 我らが手を組んで、リンクに要望を突きつけるというのは?」
冗談めかした言い方とはしたものの、かなりの程度に本気の勧誘だった。ところが、
「それは……実現が難しい要望です」
ゼルダは真顔となって首を横に振った。
「なぜじゃ?」
しばしの沈黙を挟んで、答が返る。
「リンクは、一つ所に長くとどまっての生活をしたがりません。何ごとからも自由でありたいと
考える人です」
「何ごとからも? そなたからもか?」
「というより、わたしに付随する諸々の事柄からです。形式張ったところの多い王城で暮らすのは、
リンクの性に合わないのです。あなたの場合はどうなのか、わかりませんけれど」
ふり返ってみる。
ゾーラの里に居づらいなどと言ったためしはないリンクだが、文化の異なる地で長期を過ごすと
なれば、確かにそれは容易ならぬことであるだろう。
「でも、リンクは旅に逃避しているのではありません。あくまで前向きです。常に新しい何かを
追い求めています」
「何かとは?」
「人々と出会い、その生き方を知り、種々の事物に接し、また、自然の中に身を置いて自己の
研鑽に励み──と、挙げればきりがありません」
「なるほど、な……」
リンクにとっての旅の意義など、考えたこともなかった。旅しているという事実すら、ろくに
意識しなかったくらいなのだ。近視眼的どころか盲目的と自嘲したくなる。これでリンクを
好きだ好きだと触れまわっていたのだから、我が事とはいえ、あきれてしまう。いままで自分は
リンクの何を見ていたのだろう。
翻って、ゼルダは……
リンクの本質を把握している。把握した上で、その行動に理解を寄せている。
『……かなわぬ』
しかし引き下がる気は毛頭ないルトでもあった。
これまではこれまで。これからはこれから。行き届かなかった点を反省して、前途に活かせば
よいだけのこと。
奮起が心に余裕を生んだ。揶揄の台詞がするりと口を出た。
「そなたも厄介な男に惚れたものよのう」
にっこりと笑って、ゼルダ。
「お互い様ですわ」
然り。現時点ではお互い様。ゼルダもそうと認めている。三者の関係が、この先、いかなる
経過をたどるかは、いまだ定かではないにせよ、それは将来のこととして、時の流れに委ねよう。
──と、思いに区切りをつけたのを見計らったかのように、
「ところで……」
ゼルダが話題を転換させた。
「ひとつお訊きしてもよろしいですか?」
「何なりと」
「立ち入った質問かもしれませんけれど……」
「かまわぬぞ」
促すと、ゼルダは、声にためらいの色合いを残しながらも、そこはかとなく熱意を感じさせる
眼差しで、問いの内容をつまびらかにした。
「では、うかがいますが……あなたは、いまのような姿で人前にあって、なぜ心平らかでいられる
のでしょう」
「はて……」
面食らった。
「どういう意味じゃな?」
「要するに……一糸も纏わずにいて、恥ずかしそうでもないのが、不思議で……」
どこが立ち入った質問なのかとルトは怪しみ、一拍おいて、目の前にいるのはそれを立ち入った
質問と考える社会の住人なのだと気づいた。
「恥ずかしいとは思わぬな。なぜと訊ねられても答えられぬ。わらわや、わらわが一族にとっては、
これが普通の様態じゃからの」
と言うしかない。しかし異常な人種と判断されたくもなかった。ルトは続けて所懐を述べた。
「わらわからすれば、いちいち服など着るそなたらこそ珍異に見えるぞ。水や、空気や、日の光を、
じかに肌で感じられる方が、よほど快適で、人心地もつく」
「ああ、それは──」
ゼルダが身を乗り出した。眼差しにあった熱意の兆しが、声と表情にも転移していた。
「わかるような気がします。水着を着けてではあっても、ふだんは服で覆っている所をさらして
水に浸かるのは、とても爽快でしたもの」
「であれば、あの時、わらわが言うたとおり、いっそ裸で泳いでみてはどうじゃ?」
戯言である。
が──
「そうですわね」
ゼルダは予期せぬ反応を示した。
「いま、暗い中で泳ぐ勇気はありませんけれど、格好だけでも、あなたの真似をしてみましょうか」
と、涼しげな顔で言い放つや、すっくと立ち上がり、衣装を解き始めたのだった。
ルトは喫驚した。
「よ、よいのか?」
「はい。ここだと人目にはつきませんから」
ゼルダは平然と手を動かし続ける。
間もなくルトの前に裸体が出現した。含羞の気配をかすかに漂わせてはいるものの、どこを
隠そうとするでもない。いままでにも戸外で脱衣した経験があるかのような沈着ぶりで──よもや
実際にそんな経験があるとは思えないが──静やかに佇むゼルダである。
地に腰を置いたまま、ルトはその立ち姿を茫然と見上げた。
日中は「ひよっこ」と嘲った肢体が、まるで異なった感懐を心に呼び起こしたのだった。
どうして? すべてがあらわになっているから? 夜の暗みが実態をおぼろげにしているから?
冴え冴えとした月の光によって幽玄の趣が加えられているから? あるいは、こちらがゼルダの
内面を知って、そこに惹かれてしまっているから?
どれもが当たっていそうで、しかしはっきりとは決められない。確かなのは……
「そなた……美しいのう……」
ルトはおのれの容姿に自信を持っていた。出会いの時よりゼルダの美貌は美貌とひそかに
認めながらも、自分の方が劣っているとは爪の先ほども考えなかった。身体の発達に関しては──
前言のとおり──懸け隔たって優位にあると断定できた。
なのに、いまは、まだ成熟には達さぬその裸身を、美しいと表現せずにはいられない。
「ありがとうございます」
はにかんだふうにゼルダは頭を下げ、
「でも、女としての姿形では、あなたに遠く及びません」
奢ることなくルトの確信を代弁する。賞賛でもある言に気をよくし、ルトは大らかに力づけを
贈った。
「そなたとて、数年も経てば、この程度にはなろう」
「そうなら、嬉しいのですが……」
控えめな微笑を頬に現し、ゼルダは再び坐した。元の場所ではなかった。ルトのすぐ隣である。
間隔は無に等しい。腕が触れ合うほどの至近距離。
ルトの胸は動悸を打った。
異性ならばともかく、同性の裸が鼻先にあるのは、ゾーラの里において、何も特筆すべき
状況ではない。一族の女性と隣り合ってすわることは珍しくない。にもかかわらず、慣れている
はずのその状況が、やたらと意識されてしまう。そばにいるのが一族外の人物で、さらに、
精神面でも肉体面でも魅力を感じる相手だからだろうか。
接触が強まった。ゼルダが上膊の表面に手を這わせてきたのだった。
「たぶん、いくら年を経ようと、あなたの、この肌には太刀打ちできませんわ。ほんとうに、
みずみずしくて、つややかで……」
重ねての賞賛。受けるだけであってはならない。
そちらの肌こそ白さときめ細かさの点ではこちらのそれを凌駕している──と、正直に賛辞を
返そうとして、しかし、返せなかった。ゼルダに触れられている箇所から、ぞくりとした異様な
感覚が、間欠的に身体の中枢へと向けて走り、そのつど心臓を派手に収縮させるからだった。
不快な現象ではなかった。むしろ好もしかった。
なにゆえ──と、おのれに問う。理由は直ちに明確となる。
過去に同じ現象を経験しているせいだ。好もしいひとの手によって。
やはり一族外の人物。たぐい稀な魅力を感じる相手。
『リンク……』
ルトはおののいた。
つまり自分は好もしさにおいてゼルダをリンクに匹敵する存在と見なしていることになる。
それもただの好もしさではない。リンクの手に触れられてこの感覚を味わうのは言うまでもなく
秘め事の折りで、よってその種の情を自分はゼルダに対しても向けるに至っていると筋の上では
結論されるわけだが、そんな自分であるとはとうてい信じられない。ゼルダにせよこちらに
そういう情を向けているはずは──
「この肌を……」
ゼルダの顔が近づいた。目に妖しい輝きがあった。
「あなたは、リンクの、好きにさせているのですね」
ルトの心臓は一段と拍動を速めた。目の輝きが何らかの意思表明とも思われた。
意思? どういう? こちらがリンクに抱かれていることをわざわざ指摘する裏にある
意思とは? 嫉妬? あり得ない。いまさら。けれどもそれならゼルダは何を?
だいたいゼルダにしたってリンクに抱かれているのだ。その美しい肌を、身体を、リンクの
好きにさせているのだ。こちらもいまとなっては嫉妬などしない。何かを心に感じるとすれば──
『え!?』
自身が思い浮かべた概念にルトは驚愕した。続けて耳を打った言葉が驚愕をいっそう著明にした。
「わたしの好きにもさせてもらえるでしょうか」
実は「その種の情」を燃やすゼルダであったと、いまや、はっきり知れたのである。ルトの
おののきは頂点に達した。が、はねつけることはできなかった。腕に触れていた手が力を増しても、
隣にあった身体が前方に位置を変えながら体重を預けてきても、その重みによって草の上に
仰向けとされても、なされるがままのルトだった。
自分もまたゼルダを求めていると──やはり「その種の情」をゼルダに向けている自分であると
──信じずにはいられなくなっていたのだった。
リンクとゼルダの交わりを想像した結果、ルトが心に感じたものは、羨望だった。リンクに
抱かれるゼルダを羨んだのではない。心身ともに魅力の限りないゼルダを抱くことができる
リンクを羨んで、自分もそうできたら──と考えてしまったのである。
『なぜというに……』
女性同士の性愛なるものがあり得るとは知っていたが、これまでそのような趣味には関心の
一片すら払わなかった。いや、いまでもそんな「趣味」はない。こうしてゼルダを身の上に迎え、
素肌を触れ合わせるのは、決して趣味という枠には括れない行いなのだ。
「誼みを、その域にまで、広げようと──か?」
崩れゆく理性をどうにか保って、ルトは問うた。
「ええ」
いささかも悪びれるふうなく、ゼルダは答える。
「あなたとともに、幸せでありたいと」
胸に落ちた。
(相手をほんとうに理解したい、人としての繋がりを築きたいと願って、また、相手も同じように
願うのであれば、身体を交わらせるのが自然の成りゆきで、そうしてこそ双方が幸せになれると
信じているのです)
──と、リンクを評するのに用いられた文言は、そのままゼルダにも当てはまるのであって、
畢竟、リンクとゼルダの思想は完全に一致しているのであって、二人の繋がりの特異さはそこに
由来していたのであって──
(リンクと繋がる人は、リンクを介してわたしとも繋がっています。その人の幸せは、わたし自身の
幸せでもあるのです)
──それのみならば別個でしかない二つの幸せは、ここで自分とゼルダが直接の繋がりを築けば
一つの幸せに収斂されるわけで、リンクとゼルダの特異な繋がりに自分も参画できるわけで、
そうしてこそ自分はリンクをもゼルダをもほんとうに理解でき、真の幸せにも到達できるという
ことなのだから──
ルトはゼルダを両腕に包んだ。その行為にこめた意味を、ゼルダは正しく受け取ったとみえ、
同じように両腕を胴にまわしてきた。
静かな抱擁に安楽を覚えながらも、ルトは先行きに一抹の不安を感じていた。女性との
交情体験がないため、自分がどう振る舞うべきか惑ったのである。
不安は、しかし、すぐに払拭された。ゼルダが抱擁を解き、より複雑な動きに移ったのだった。
二つの手が同期して、あるいは個々独立して、身体の表面をすべりさまよう。
肌に点々と口が吸いつき、かと思えば、延々と舌が這いまわる。
軟体動物のように全身が蠢き、接する各所に多様な触感をもたらす。
快かった。
ひたすら快かった。
かくも絶大な快感のもとでは、ゼルダがこれほど能動的なのは女性経験があるためだろうかと
いう疑問も、年下の少女を相手にして受動的な立場に甘んじている自分への心許なさも、
たちどころに雲散霧消してしまう。
いっさいをゼルダに任せていいと思い切ることができた。口を吸われようと、乳房を
揉み立てられようと、秘所をいじまわされ、あげく、そこが唇と舌の執拗な貪りにさらされようと、
全く抵抗感は湧かなかった。いずれもかつてリンクに施された性技だったが、リンク以外の人物に
それらを許す自分を不身持ちであるなどとは微塵も思わなかった。ゼルダには何もかも
許せるのである。あまつさえ、細かい手際の点ではリンクを凌ぐゼルダでもあった。どこを
どうすれば女は悦べるかを、同じ女であるゼルダは知悉しているのだった。
無量の欣快がルトの体内を攪乱した。口からは絶え間なく歓喜の声が弾み出た。
幾度かの絶頂が過ぎたのち、ルトは陰部に新たな刺激を感知した。手でも口でもない何かが
持続的に摩擦を加えてくる。繊細さには欠けるものの、密着感と圧迫感は際立っている。
それまでとは異質の快感が喚起される。
まるでリンクに攻められているような──と、ルトは印象し、直後、刺激の本態を知った。
まさにゼルダがリンクのごとく躍動していた。ルトを組み敷く体位をとり、秘部と秘部とを
こすり合わせているのだった。
感動した。
自分が快美に没入できるからというだけではない。ずっと快美の贈り手だったゼルダが、
いまこそ──しかも自分と一緒に──快美を堪能できるのである。嬉しくないはずがないのだった。
ゼルダの腰使いは巧みの一語に尽きた。激しさと穏やかさを絶妙に取り混ぜ、こうして欲しいと
思うところで、的確に期待どおりの動作を行ってくれる。ルトは熱狂し、さらに幾度かの絶頂を
極めた。
ゼルダも一度ならず絶頂していると思われた。盛んな体動と急迫した呼吸が唐突に止まり、
体表を微細な震えが駆け抜け、喉が小さな呻きを断続させる際、おそらくゼルダは登りつめて
いるのである。それは時としてルト自身の絶頂とも重なり、なおさら恍惚感は強まるのだった。
相手が絶頂を繰り返せる点も喜ばしかった。リンクであれば、いったん果てると、復帰までに
多少なりとも時間がかかる。ところがゼルダの場合は、果てても継続的な運動が可能である。
女性同士の交媾でしか生じない、長期にわたる悦楽の連鎖が、ルトを陶酔の極へと運んだ。
けれども無期限の交媾はあり得ない。やがてゼルダは動きを終止させた。体力が限界に達した
ものと察せられた。
二人は当初の抱擁姿勢に戻り、不動のまま、ひそやかに時を過ごした。
ルトは満足していた。肉体的にも、精神的にも、である。ゼルダとの緊密な繋がりを
築き得たという達成感が、小島の岸をゆったりと洗う湖水のように、ルトの心を清くしていた。
が、いくばくかの未練はあった。
体力を使い果たすほどの能動を、ゼルダに強いることとなってしまった。自分はあまりにも
受動的でありすぎたのではないか。
そして、また──
「とても……」
ゼルダが呟くように声を漏らした。
「……いい、心地でした」
弱い声ではあったが、安らかさもうかがえた。消耗を気にしてはいないとわかり、ルトは
未練の一端を溶かした。
「わらわも……じゃ」
嘘偽りのない本心である。しかし本心のすべてというわけでもなかった。
ああも女性同士の交媾に耽溺してさえ、なお、それでは得られない快感と満足感を、自分は
欲している……
そんないま一つの未練を見通すかのごとく、ゼルダはゆっくりと言葉を連ねた。
「明日は、リンクも、誘いましょう」
主旨は呑みこめた。放逸な提言である。が、ルトは動揺なく同意の頷きを返すことができた。
欲求を満たせるという利点のみを考えたのではない。それが自然な成りゆきと得心できたのだった。
覚えず、くすりと笑ってしまう。
『三人でできることは三人でするのが合理的じゃから、な』
湖研究所に戻ってきたゼルダとルトを見て、リンクは狐につままれたような気分となった。
「ベッドは二人で一緒に使うと決まりました。ご心配かけてすみませんでした」
と、みずうみ博士に向けて朗らかに宣するゼルダの横では、いかにも左様というふうに頷きつつ、
ルトが莞爾とした笑みを面に宿らせている。引き続いては両者の間で、「王女の生活がいかに
不自由なものであるか」を主題とした活発な対談が始まる。
「──とはいうても、窮屈じゃと愚痴をこぼすばかりでは能がないぞ」
「何か方策があるでしょうか」
「がみがみ言う輩には言わせておいて、自分の好きなように振る舞えばよいのじゃ」
「そうもいきませんのよ。インパは厳しい人なので」
「ああ、あの者は手強そうじゃな」
「わたしも不自由なりに工夫はしているのですけれど」
激突は必至と思われた二人が、一転して、あたかも長年の友人同士であるかのような、
打ち解けた仲となっているのだった。
いきさつを問おうにも、割って入れる雰囲気ではない。入れたとしても、博士がそばにいるから、
突っこんだ問い方はできない。たぶん、二人もそれを考慮し、わざと肝腎な点に触れるのを
避けているのだろう。
リンクは待った。ところが好機は訪れなかった。そのうち二人はあくびを連発し始め、博士に
就寝を勧められてしまった。ゼルダは申し訳なさそうな視線をリンクに送ってきたが、博士の
親切を無視してまで居座る気にはなれなかったとみえ、多言をせず、ルトとともに客用の寝室へと
去った。
「ほれみい、心配は要らなんだじゃろうが。若いうちは、いろいろある。いっとき仲が悪うに
見えても、わかり合える時はわかり合えるもんじゃ」
博士がすまして口にする、『あの世界』で聞いたものにも似た台詞に、なるほどそのとおり
だったと納得させられる。が、どうやって二人はわかり合うに至ったのか、との疑念はなくならない。
ただ、一点、思い当たることがあった。
「そろそろ、わしも寝るとするわい」
と言い置いて博士が自室に消えたのち、リンクは──感心できた行動ではないと気を咎めさせ
つつも──女性二人がこもる部屋の様子を、戸の外に立ってうかがった。一つのベッドで寝ると
いう二人に、かつてゼルダとサリアがどのような筋道をたどって仲よくなったかを想起させられて
いたのだった。
しかし、らしい気配はない。
当然ではある。他人の家では慎むべきことと──ルトはともかく──ゼルダならばわきまえて
いるはずだ。それに、あれだけ眠たそうだったのだし……
『待てよ』
眠たそう? そんなに疲れていたのか?
『とすると……』
すでに行い終えていたのだろう──と、リンクは推察した。
推察が当たっていたと確かめられたのは、翌日になってからである。ひとり早くに起き出してきた
ゼルダが、ざっと経緯を説明してくれたのだった。事態を好転させてくれたことにリンクは
感謝したものの、別言すればゼルダにすべてを依存してしまったわけであり、その点で忸怩たる
思いを禁じ得なかった。けれどもゼルダは、リンクのそんな思いをも把握していたようで、焦点は
自分とルトの関係にあったのだから、当該の二人による直接の対話が問題を解決する最善の
方法だったのだ、と付言し、心の負担を軽くしてくれた。
「それに、今日は、あなたがいてくれないと」
「どうして?」
答を聞くことはできなかった。ちょうどみずうみ博士が部屋から出てきたため、話は中断を
余儀なくされてしまったのである。が、ゼルダの顔貌を彩る愉快げな色調に、何らかの思惑が
映し出されているようではあった。
ゼルダとルトの親密さは、日が変わっても変化をみせなかった。驚いたことに、前日は王女の
厨房入りをずけずけと批判したルトが、このたびは進んで朝食作りに加わり、腰を低くして
ゼルダに調理の何やかやを訊ねるのである。ゼルダも楽しげに手取り足取り教示する。
恋人同士でもかくやとばかり、くっついて離れない二人だった。
リンクの胸はちりちりとうずいた。
ゼルダをルトに──もしくはルトをゼルダに──奪われたかのごとく思われてしまう。これが
嫉妬という感情なのかもしれない。しかしそう呼ぶのはおこがましい気もする。以前、ぼくが
二人に味わわせた本物のそれは、とてもこの程度ではすまないものだっただろう。
──と自戒するリンクだったが、疎外感を強いられる時間は短くてすんだ。二人に参加を
求められたのだった。迷わずリンクは仲間に入った。旅の間は自炊が普通なので、男が料理する
ことにも抵抗はなかった。
朝食には、野営地から再来したインパも同席した。態度も口調も常のままに冷静だったが、
ルトに目をやる頻度の高さから、その変貌ぶりに不審を抱いているらしいと推断できた。
食後、みずうみ博士ゼルダとルトは片づけに取りかかった。手伝おうとしてリンクは台所に
向かいかけ、そこでインパに引き止められた。
「ルト姫は、たいそうご機嫌麗しくなられたな」
「あ、うん」
「お前が説き伏せたのか?」
「いや……説き伏せたのはゼルダなんだ。ぼくは何もできなかったよ」
詳細は省き、けれども事実は事実として正直に伝える。「これくらいのごたごたも取り捌け」
なかったのを責められるかと思いきや、インパは気にするふうもなく、
「ならば、ゼルダ様は、やはり、いい経験を積まれたわけだ」
と言っただけだった。昨夕の仄めかしに対応する弁とわかったが、真意をつかみきるには
至らなかった。
「どういうこと?」
「対立する相手を説得して翻意させられるゼルダ様だということだ。政治を司ろうとするなら、
会得しておくべき手腕だ。無論、単なる駆け引きではだめで、誠意を尽くさねばならんのだが、
ゼルダ様はそのあたりも心得ておられる。さもなくば、あれほど敵意満々だったルト姫を、かくも
軟化はさせられまい」
思い及ばなかった点である。
ゼルダは肉体のみを発達させているのではなかった。未来の女王への道を、一歩一歩、着実に
進んでいるのだ。
対して、ぼくは……
ゼルダにとっていい経験になると前もって仄めかしたインパは、今回の件を解決できるのは
ゼルダであると予見していたことになる。ゼルダ自身やみずうみ博士もそうだった。ぼくだけが
問題の性質を見極められていなかった。
さほど苦もなく魔物を倒せるくらいに剣が使えても、少しばかり身体が成長しても、人の微妙な
心情を酌み取るについては、まだまだ修行が足りない自分である──と、リンクは神妙に内省した。
勝手を言ってたいへん申し訳ないが──と前置きし、ゼルダはインパとみずうみ博士に一日の
滞在延期を所望した。その日をルトとの交流に充てたいというのが理由だった。博士は快諾して
くれた。ただ、別の面での懸念があった。ハイラル平原で待機中の一行は、さらに一日をそこで
過ごさねばならなくなるのである。ゼルダの水着姿にも増して、衆目にさらされざるべきものが、
ルトの全裸姿であるからだった。しかし、二人の王女が──私的にではあれ──親しくするのは、
外交的にも有意義といえる。インパは調整に動き、つつがなく日程は変更された。
ゼルダのお料理教室を交流の一時限目とするならば、二時限目はルトの水泳教室だった。
ゼルダとともに生徒たるよう求められたリンクは、自分にとっても修練になると考えて、
その立場を受け入れた。
初め、ルトは全裸での受講を言い渡し、リンクをどぎまぎさせた。が、それは冗談の範疇だった
ようで──前夜もゼルダとの間でそういう会話が取り交わされたらしい──結局、二人の生徒は
初日と同じ格好で湖に入った。
講師が凄腕だと、教わる側の上達も早い。ゼルダは──もともと素質があったせいでもあろうか
──瞬く間にいっぱしの泳ぎ手となりおおせた。水泳に関しては一日の長があったリンクも
瞠目してしまうほどだった。ただし、上達はリンクの方にも等しくもたらされたので、何とか
先輩としての面子は保つことができた。
昼はゼルダによって再びお料理教室が開講され、さらにそののちは、女性二人の意向に沿い、
リンクが講師役を務める次第となった。課目は釣魚術、教場は釣り堀である。頼られて嬉しくない
はずがなく、今度はこちらが技量を誇る番だと発奮もし、リンクは張りきって指導に励んだ。
釣り竿の扱い方や、魚が多くいる場所の見定め方などを口述しつつ、まずは手本となるよう、
立て続けに何尾かを釣り上げてみせる。次に実践させる。食いつきを長く待つ羽目になったら
退屈してしまうのでは、と心配されたが、二人とも──初心者ゆえの幸運と表するべきか──
夕食のおかずに足るくらいの釣果は上げられ、大満足のようだった。
──という具合に交流を楽しみながらも、リンクは、ある感触を心の内に育んでいた。
ゼルダもルトも、今度は何をしようか、などと相談したりはせず、整然と事を進行させている。
昨夜のうちに筋書きを作っていたのだ。
(今日は、あなたがいてくれないと)
とゼルダが言ったのは、その筋書きにぼくを組みこんでいたからで、事実、料理にしても
水泳にしても釣りにしても、ぼくはきっちりと役を振られている。
二人にうまく操られているような感じがする。主導権を握られてしまっている。
それでもいい。手にした主導権を分かち合えるほど二人の仲が円満なのは喜ばしいことだし、
ぼくだって操られっぱなしでいるつもりはない。ゆうべゼルダとルトが結んだ誼みは、
未完成なのだ。ゼルダもそうと認識しているはず。筋書きにはその件も含まれているだろう……
夕食のあとで、ゼルダが誘いをかけてきた。
「夜風に吹かれてみない?」
すでにインパは野営地へと去っていた。その日、若い三人の交流に容喙しようとはせず、ただし
観察は怠らないふうであったが、王女と王女の仲睦まじさを見て、外交問題は案ぜずともよしと
判断したらしい。
インパから監督を任されているはずのみずうみ博士は、ゼルダの言に反応を示さなかった。
傍観するというのでもない。全く無関心の態である。何も聞こえていないのでは、と疑われて
しまうほどだった。
インパにせよ、博士にせよ、ひそかに思うことはあるのかもしれなかった。しかしそれを表に
出さないのが配慮とも解釈できた。そこでリンクは自分の望みに忠実な行動をとった。
「いいね」
と応じて立ち上がる。ルトも合わせて席を離れた。ゼルダと目配せを交わしたようではあるも、
言葉は交わされない。やはり意思の疎通ができているのである。
その疎通がいまから起こることにどう反映されるのだろうか──と考えながら、リンクは戸口に
移動し、扉を開いて女性二人を送り出したのち、自らも暗がりの中へと足を進ませた。
行く先は訊ねるまでもなかった。同伴者が両名とも申し合わせたかのように──事実、
申し合わせていたのだろう──沖の小島に通じる橋へと歩みを向けたからである。
幅の狭い橋とあって、三人が並んで渡るのは難しい。ゼルダとルトは互いに寄り添い、
一心同体ぶりを崩そうとしないので、リンクは二人を先立たせ、そのあとに続いた。
会話が聞こえてくる。
「今宵の月もきれいじゃのう」
「ほんとうに……空の澄み具合も申し分なくて」
「ここはいまの季節がいちばん過ごしやすい。よい時に来たぞ、そなたは」
「幸運でしたわ。風光明媚な所と聞いてはいましたけれど、これほどとは思いませんでした」
いかにもそのとおり──と、リンクも心の中で頷く。
夜風に云々というゼルダの台詞が修辞に過ぎないことは、もとより承知していたが、移ろいゆく
大気はまことに涼やかで、また清らかで、単なる修辞と片づけるのが惜しまれる。広々とした
湖面はささやかに踊って、時おり、控えめな波音を耳に届かせる。岸辺に生い茂った樹林から
運ばれてくる、湿りを含んだ植物性の匂いが、しっとりと鼻腔に染み通る。さらには、月と星々の
ほのかな光が、透明のはずの水と空気に、青いとも白いともつかぬ淡みを帯びさせている。
夜のハイリア湖が織りなす佳景を、過去、何度となく観賞してきたリンクでさえ、ことのほか
美しいと嘆じざるを得ない、それは幻想的な佇まいだった。
なおかつ、そうした天然の美をいっそう引き立てる要素も加わっている。景観内に点じられる
二人の女性が、これまたすこぶる美しいのである。
そこでリンクの思いは流れをなした。
二人の美しさは微妙に異なっている。成長の度合いに左右される身体つきの差はひとまず措くが、
顔立ちについて述べるなら、ゼルダの場合は美しいと表現する以外に方法がないくらいの美しさで
──とはあまりにも工夫に欠けた描写だから何とか表現方法を探してみるに──いわば規範的な
美しさであって、目にしても鼻にしても口にしても耳にしてもそれぞれが理想的な形で理想的な
箇所に位置していて、そのまとまりが実に典雅で慎ましやかで、ゼルダならではの気品を象徴する
ものになっていて、しかしお高くとまっているわけでは決してなく、喜怒哀楽に応じて生き生きと
変化する表情がどれも──そう、怒っている時ですら──ぼうっと見とれてしまうほど魅力に
満ちているのだ。
他方、ルトの場合は、まとまっている点では同じでも、造作が大きめで、彫りが深くて、
派手やかで、華やかで、少しきつい感じもするのだけれど、そこが彼女の自己主張の強さに
ぴったり合っているとも思えて、のみならず年を経るにつれて以前には目立たなかった洗練の
気配を加えてきているのが王女としての成長を物語るようでもあって、それやこれやを
引っくるめてみると、やはりルトという人物の魅力を如実に表した美しさという他はない。
──などといろいろ評しながらも、二人のあとを歩いているいまのぼくには、彼女らの顔は
見えていない。後ろ姿しか目に入らない。だが、後ろ姿だけでも、二人の美しさと、その微妙な
差異は看取できる。
ゼルダの歩みは淑やかだ。脚を動かしても体軸がぶれない。すべるように身体が前へと進む。
頭に何かを載せて、それを落とさず、どこまでも歩いて行けそうな安定ぶりが、清楚な衣装とも
相まって、たぐい稀な上品さを描出している。
ルトはもっと軽快に歩く。舞うにも似た律動性、官能性がうかがえる。裸だから余計に艶っぽく
見える。とりわけ、尻がくいくいと左右に揺れるさまは──『あの世界』でそれを初めて眺めた
時と変わらず──ぼくを惹きつけてやむところがない。
そんなふうに、ぼくの頭の中には賞賛の言葉が引きも切らず浮かんでくるが、二人の後ろ姿は
いままで数え切れないくらい目にしているし、きのうも今日もしばしば鼻先にあったのだ。なのに、
今夜は、お馴染みのはずのその姿が、ひとかたならず魅惑的と感じられてしまう。二人が
人物要素として夜景の美しさを引き立てているだけでなく、逆に、夜景の幻想味が二人の美しさを
強調しているのだろう。ただし、美しさは美しさにとどまらず、より生々しい情動をぼくに
起こさせる。ゼルダの安定ぶりを突き崩してやりたい。ルトの尻をぼく自身の動きで激しく
揺らしてやりたい。きのうから水着姿のゼルダや裸のルトを見続けてきて、おまけにその二人が
二人だけで至福の時間を過ごしたと聞かされて、ぼくの欲求は高まりきっているのだ。ゼルダも
ルトもぼくがそんな具合なのを知っていて、故意に誘惑的な歩き方をしている……わけでは
あるまいが、彼女らの筋書きではこれからが佳境なのであって、ゆうべ二人が結んだ誼みはぼくが
そこに加わってこそ──ぼくたち三人が一つとなってこそ──完成することを二人は承知している
はずで、そうすると、ぼくの具合は二人が期待するとおりでもあるに違いないから──
思考は遮断された。ゼルダとルトが歩みをやめていた。小島に到着していたのである。
リンクも足を止めた。二人が後ろをふり返った。二つの顔が微笑んだ。が、声は聞こえて
こなかった。
こちらが何か言うべきだろうか。しかしこの場にふさわしい台詞とは?
二人がそれぞれ片手を差し伸べてきた。言葉は不要のようだった。リンクは両腕を前に出し、
二つの手を握った。握るやいなや引き寄せられた。続けて下方へと引っぱられる。二人が身体を
かがめたのだった。逆らわず、リンクも草の上に腰を下ろした。
右にゼルダ。左にルト。二体に挟まれての密着状態である。けれども不思議なことに、両側の
二人はさらなる行動を起こさない。
どうしたのだろう。ゼルダはともかく、ルトならば、待ってましたとばかりに腕を組んで
きそうなものなのに。ゼルダに遠慮しているのだろうか。それとも、ここまできたら主導権は
こちらに譲るというのが筋書きなのか。
『どっちにしたって』
期待には応えなければならない。
リンクは腕を広げた。左方では支障なくルトの肩を抱けた。ところが右方では目算を狂わされた。
ゼルダが身を離し、腕の動作を阻んだのだった。
いぶかしんで目をやると、ゼルダは鷹揚に笑みつつ、ルトの方に顎をしゃくってみせた。
そちらを優先しろと?
ゼルダがそれでかまわないのなら……
リンクはルトと正対した。左腕に加えて右腕も使い、間近に坐す裸体をかき抱く。すかさず
固い抱擁が返ってくる。麗しい美貌が網膜に拡大される。
喜び一色の顔容。
衝動が膨れ上がった。
唇を唇に押し当てる。刹那、腕の中の肉体に細かな震えが走った。唇は圧を感受した。ルトが
接触を強めてきたのだった。
接触は固定されなかった。互いの顔が上下し、左右し、頬や顎や鼻までを唾液に濡れさせる。
ただし唇から遠く離れることはない。その奥とも接触したいのである。
望みは容易に実現した。リンクが舌を差し出すやいなや、相手は自領を明け渡した。
乗じて侵入する。まずは慎重に。やがては大胆に。舐める。舐めまわす。舐めまわし続ける。
形状が複雑で、また部位により硬くも軟らかくもある口腔は、いくら探索しても飽きがこない。
ルトも占領に甘んじてはいないから、なおさら感触は多様になる。伸ばした舌を舐められる。
吸われる。噛まれる。ついには逆に舌が侵入してくる。喜んで迎える。できる限りの方法で
歓待してやる。
錯綜した舌技を交換しながら、リンクは別所での接触にも注意を惹かれていた。
互いが互いを向いて抱き合えば、自然、胸と胸とがくっつく格好になる。ルトの豊かな乳房が、
そこに内蔵する弾力をひたむきに及ぼしてくる。それは女にしか備わっていない弾力、女である
ことの強烈な主張──と意識すればするほど、男としての欲情が狂おしいばかりに沸き立つ。
同時に不満が募る。
これほど秀でた弾力を、ぼくは間接的にしか享受できていない。せっかくルトが裸でいるのに、
服を着たままでいるぼくの迂遠さときたら!
邪魔なものを捨てようとして唇を離した、まさにその時、リンクは背中に何かが触れるのを
感じた。何かというのがゼルダであることは即座にわかった。腰を抱き包むようにして後ろから
伸びてきた二つの手が、勝手知ったる服装とばかり、惑いもなくベルトを緩め始める。あたかも
リンクの企図を看破したかのごとき行動。単なる偶然なのかもしれなかったが、だとしても、
そうするべきと考える点では意見が一致しているのだった。
ルトもゼルダの企図に気づいたらしく、抱擁に専念させていた両手を、リンクの衣服に
乗り換えさせてきた。四つの手は巧みに働いた。リンクが自らの手を参入させるまでもなかった。
適宜、身体を動かすだけで、二人の作業はすらすらと進み、たちまちリンクは全裸にされた。
再び前方から抱擁を受けた。今度の弾力は直接的である。胸板が圧せられる感覚は鮮烈の極致。
欲情の度合いが一段と増す。それをさらに強めたのが後方からの抱擁だった。抱き手はゼルダ。
確かめるまでもない。ところがその触感には意表を突かれた。素肌なのである。布の一片さえ
そこには介在しなかった。いつの間にか生まれた時の姿になっているゼルダなのだった。
若々しい裸の女体二つに、ひしと抱き挟まれ、リンクは陶然と意識をたゆたわせた。
こういうふうな絡み合いになることを、ある程度は予想していたものの、いざ、なってみると、
予想をはるかに超える快さだ。腹背に感じる肌触りの違いが、ひときわ快さを奥深くする。
ルトの肌はすべすべしていて、つるつるしていて、まるで流れる水のように清冽。それでいて
引き締まってもいる。達者な泳ぎ手だけに筋肉が発達していて、押せばぷりぷりと生きのいい
張りを返してくる。乳房に充溢する弾力は、その張りにも起因しているのだ。ルトの奔放な性格に
似合った特質といえるだろう。
ゼルダの方も、なめらかな肌であること、優に常人の水準を上まわってはいるのだけれど、
きわめて微細なざらつきがあって、しかし、だからこそ、刺激的。印象的。肉の密度はルトよりも
柔らかく、その柔らかさと、年齢ゆえの未成熟さによって、乳房に潜在する弾力は慎ましやかだが、
それとていかにもゼルダらしい風合いではないか。
後ろにゼルダがいて、前にはルトがいて、両者の持ち味を余さず発揮し、ぼくを包みこむ。
ぼくをわくわくさせる。荒れ狂う欲望。猛り立つ股間。これらをどっちに差し向ければいいのか。
ルトか? ゼルダか? ゼルダを放置したくはないが、いまはルトの腕に絡め取られて方向転換が
できない。ゼルダの腕もぼくをルトの方へ押しやるように動いている。
であれば、迷うまい!
リンクはルトに身を浴びせかけた。思惑どおりには運ばなかった。ルトは仰臥せず、倒れざま、
するりと左側へ逃げ出してしまった。怪訝に思う暇はなかった。右側にゼルダが横たわっていた。
後方から身体を回りこませてきたのだった。悪戯っぽい笑い顔と、夜目にも白い皮膚と、それまで
背中に彼女なりの弾力を伝えていた、満開の前段階にある一双の乳房が、リンクの心臓を
早鐘にした。見慣れた裸でも、そこはゼルダである。訴求力は抜群である。興奮せずには
いられなかった。
ゼルダが両腕を巻きつかせてきた。リンクは抱かれるがままだった。興奮のせいばかりではない。
ゼルダに代わって後方に位置を占めたルトが、リンクの胴をがっちりと固め、逃げ場を──
逃げる気など皆無だったけれども──奪っていた。
ルトを優先しろというのがゼルダの肚ではなかったのか? ルトもそのつもりではなかったのか?
頭の隅に兆した疑いは速やかに霧散した。いったん解放しかけた欲望を鎮めるすべはない。
眼前の相手を抱きしめ、強引に口を貪る。ゼルダも劣らぬ強引さで舌を踊らせる。体表は
せわしなくこすれ合う。勃起の極にある部分が突撃の願望を声高に言い立てる。
リンクはゼルダの両脚を割り、その間におのれを進ませようとした。ところが、またもや思惑は
破綻した。熱烈な抱擁と接吻に溺れていると見えたゼルダであるのに、リンクが肉薄の気配を
示すやいなや、にわかに脇へと逃れ去ってしまう。
ルトが跡を継ぐ。しかし長続きしない。
続いては再びゼルダ。やはり行為は限定的である。
それが繰り返された。ルトもゼルダも、リンクとの濃厚な接触を拒まず、むしろ嬉々として
身を任せるのだが、そのくせ肝腎な結合を許さない。目まぐるしく位置を変え、リンクを翻弄する
ばかりなのだった。
この翻弄も筋書きのうち? あくまで主導権は渡さないと? ぼくをどこまでなぶるつもりなんだ?
が、やがて焦慮は快感に転じた。四方八方から迫り来るのが、肌触りの違う二人ではなく、
二種類の肌触りを持つ一人とも感得される。渾然一体となったゼルダとルトの饗応を、
とことんまで賞味したくなる。筋書きだの主導権だのは、もう何がどうであってもかまわなかった。
リンクは我執を封じ、自らの手と口が届く範囲にある対象を、その持ち主が誰かに囚われず、
温雅にいとおしんだ。
従順さを評価されたのだろう、翻弄に慈悲が加わった。硬直しきっていながら安住できない
不遇をかこつ肉柱に、さまざまな慰安が下され始める。手による、あるいは口による愛撫は、
局所の憤懣を和らげるとともに、脳内を極彩色の幸福感で充たした。
それでも知覚は単純化しなかった。快感以外のものをも認識できた。そこに触れているのが、
誰の手であり、誰の口であるかは、過去の経験に則して、目を閉じていても特定が可能だった。
激しく嗜虐的な摩擦を辞さないのはゼルダだ。事に及べば、いつもの淑やかさをかなぐり捨て、
色情の塊になる。その懸隔がゼルダの魅力。ただし、ぎりぎりの加減はわきまえている。決して
粗暴の域には至らない。
ルトの技は、思いのほか、おとなしやかだ。身体を寄せてくるくらいまでは攻勢的なのに、
行為が深まるにつれて柔婉となる。ふだん見せつける強気の裏には、案外な繊弱さが秘められて
いるのだ。それもまた魅力的な懸隔。ゼルダ並みの回数をこなしていないせいもあるだろうけれど。
いま、ぼくはルトの口に含まれている。遠慮がちな舌使いや、歯を当ててしまって申し訳なさげに
びくっと首をすくめる仕草が、かわいらしくて、いじらしくて、ぼくをくわえた口の奥から
漏れ出る呻きの切ない音色も、ルトが感じる快美の甚大さをまざまざと物語っていて──
『ん?』
おかしい。ぼくに口戯を施してくれているだけのルトが、どうして声を抑えられないほどの
快美に浸れるのか。
リンクは目をあけた。そして仔細を知った。いつしかゼルダが目標をルトに変え、秘所への
口淫に熱中しているのだった。
胸が躍った。
女性二人にまとわりつかれるのは──その実状が翻弄であろうとも──悪くない趣向といえた。
それどころか、普通なら望んでも得られない夢のような待遇である。にもかかわらず、
まとわりつくのが一人に減った現況の方がより望ましい、とリンクは思った。なぜそうなのかを
考察するゆとりはなかった。が、リンクにとっては議論不要の結論だった。
けれども最高最善ではない。まだ何かが足りていないのである。
不足を補うべきは自分であると気づくまでに、さして時間はかからなかった。
ルトに対してゼルダは直角に近い体勢をとっていた。ゆえにゼルダの下半身はリンクの顔から
遠からぬ位置にあった。リンクは、おのれになされるルトの吸啜を妨げないよう留意しながら、
上体を曲げ、ゼルダが草の褥に投げ出した二本の脚の合流部に顔を寄せた。腿に手と顎を
触れさせる。ゼルダは直ちに片膝を立て、逡巡するふうもなく奧処を開陳した。ルトへの口戯を
保ったままであってもリンクの着意は瞭察できる、と言わんばかりである。
了承と誘致を兼ねた挙止に便乗して、慣れ親しんだ、しかしそれでもなお著しく心惹かれる、
芳香と湿潤に彩られた場所へと、リンクは唇を訪わせた。
ゼルダがくぐもった呻き声を発した。舌でのくすぐりを加味させると、声は調子を高め、
先刻から続いていたルトの謡いと合し、悩ましくも淫らな二重唱に転化した。
リンクも黙してはいられなかった。情交に際してむやみに声を出すのは男としていかがなものか
と思われるのだが、どうしても我慢できない。二人の女性ほど放埒にはあらず、断片的な発声に
とどまるとしても、である。かくして演目は三重唱となった。
それほどの感激なのだった。
横臥する三人の各々が、一人に口を奉仕させ、一人に口で奉仕され、平等に相和して三角をなす。
これこそがぼくたちのあるべき形!
──であるとはいえ、限界に近づいてもいる。射精の欲求が高まってくる。ルトの口内で
果てるのは初めてではないし、その果て方を好まないルトでもぼくでもないが、ここまで
引き延ばした──あるいは、引き延ばされた──からには……
リンクは上半身を起こした。他の二人も頭を上げた。ルトの面差しには、急な体動への不審と
ともに、何ごとかを待望する気色が仄見えた。ゼルダへと目を移すに、そちらは落ち着いたもので、
やはり優先順位は決定ずみとあってか、笑みつつ場所を譲ってくれた。感謝は頷きにこめる
だけとし、リンクは蒼惶とルトに向き直った。
肩に手をかける。仰臥させる。覆いかぶさる。
気が逸っていて、荒っぽい挙動となってしまうが、そんな荒っぽささえ嬉しいらしく、こたびは
回避の気配も示さずに、再度、表情を輝かせるルトである。
あでやかなその面貌に見入りながら、リンクは開かれた長い脚の間に身体を据え、下方に
横たわるぴちぴちとした躯幹を、両腕でしっかりと捕捉した。捕捉はルトの側からも行われ、
二体は密に接着した。
二人の急所も近接していた。同部は両者が湧出させる恥液によって──そしてリンクのそこは
ルトの、ルトのそこはゼルダの唾液によっても──ぬかるみきっており、リンクが腰を前に
送ろうとしても全く障りはなかった。生じるのはルトの切迫した呼吸のみであり、それはリンクの
気を挫くどころか、ますます攻撃欲を高まらせた。
我慢が限界を超えた。
突入する!
途端にルトの口から悲鳴にも聞こえる音声がほとばしり、全身は硬化して、侵入物を強固に
囲繞した。
ルトの体内は燃え盛る炉のように熱かった。山間の清水を想像させる体表温度の低さとは
対称的である。それはあたかも、人を容易に懐かせない高慢さの陰に隠れた、しかし確然としてある
彼女の純な真情を、肉体でもって活写するかのごとくであり、締めつけられ炙られる陰茎は
もとより、リンクの精神までを絶所に追いつめた。
リンクは必死に耐えた。ようやく念願の地にたどり着けたとはいっても、即刻の遂情は許されない。
男を上に迎えて向かい合う体位は、ルトの特段に愛好するところである。リンクの重みを
感じられ、同時に、顔を見ていられるのがよい──と、かわいいことを言う。ゆえにルトと交わる
折りには必ずその体位を組み入れ、じっくりと悦びを味わわせてやるのを、リンクは常として
いたのだった。
原則は守りたい。ルトの心根を酌量するなら。
耐え続け、耐え続け、四散しそうな意志の力をかき集めて決壊寸前の閘門を死守し──
かろうじて凌ぎきる。
息をつき、目睫の間にある麗顔に、リンクは改めて見入った。
とろけていた。感悦に酩酊している趣だった。が、まだ感悦は頂点に至っていないという、
もどかしげな気分も透察された。
閘門の安定を確認した上で、抽送を開始する。
初めはおもむろに。耐えられる域内で次第に速く。
喜悦の声をあげる口を口で塞ぎ、片手で豊満な乳房をこねまわし、おのれが危うくなりかければ
勢いを弱め、大丈夫となったら全力攻撃に戻る。
ついさっきまで余裕ありげに翻弄役を演じながら、実はルトの方も切羽詰まっていたらしい。
ほんの短時間で、快楽を極めること以外は念頭にないといったふうな狂乱状態に陥った。
急激に登りつめてゆくさまが感じ取れた。
いつもなら自らも合わせて達するところである。しかしリンクは余力を残していた。そこで
相手をいったん先行させると決めた。
刺突を休み、瘧がついたように痙攣するルトを抱擁のみで慈しむ。
しばらくして痙攣は終息した。狂乱の様相も薄まった。けれども、なお息は荒く、両の瞳は
恍惚の色を浮かべつつも妖艶な光を放っている。情熱までは薄まっていないのだった。
その情熱に応えるべく、刺突を再開しかけた時──
ゼルダが傍らに寄り添ってきた。腹這いの姿勢である。それまで彼女がどうしていたのか、
リンクにはわからなかったが、ルトに劣らず発情していることは、皮膚が伝える体温の上昇と、
弾んだ呼吸と、目の異様な輝きと、そして行為によって明らかだった。リンクと顔を並べて、
ルトの頬に接吻をしかける。意を酌み、上体を浮かせて空間を作ると、そこはたちまちゼルダの
頭部に占められ、接吻は唇同士のものとなった。ルトは拒まない。自分の口を啜るのがゼルダと
知り、むしろ情熱がいや増しているようだった。
邪魔されたとは寸毫も思わなかった。一対一よりも優れたあり方といえた。ゼルダと一緒に
ルトを悦ばせられるのであるから。
リンクは上半身を直立させた。ルトの両脚を腕に抱え、腰の前後運動に専心する。空いた領域は
ゼルダに任せる。得たりとばかり攻略の範囲を広げるゼルダ。仰向けであっても重力に抗して
本来の形態を失わない、見事な胸の隆起を、手で撫でさすり、口でついばむ。
またもやルトに狂乱の徴候が生じた。身体の上方と下方を、それぞれ異なる者に、異なる方式で
攻められるのは、ルトにすれば新鮮な刺激であり、快感であるに違いなかった。
しかるに──と、性器の摩擦が惹起させる極上の感覚に酔いしれながらも、リンクはゼルダへの
配慮を心の一画に浮かび上がらせた。
ルトが悦んでいるのは結構だが、これでは悦びの与え手でしかないゼルダが不憫だ。ぼくが
手でも使って慰めてやろうか……
その必要はなかった。ゼルダは自主的だった。やおら起き上がると、リンクの方を向いた形で、
ルトの頭の左右に膝を置き、顔上にしゃがみこむ姿勢をとった。ゆるゆると腰が下降してゆく。
陰部にルトの口をかしずかせるつもりなのである。
リンクの位置からでは委細を視認できなかった。しかし実態は判然としていた。同性の局部に
口づけするという不慣れなはずの行為を、ルトはためらいもしていない。鋭意、舌と唇での奉事に
努めている。ゼルダの放つ随喜の叫びが証拠だった。
ただしゼルダが悦びの受け手になりきってしまったわけではなかった。両手はルトの胸にあった。
ただの支えではない。両の乳房を揉みしだいている。指は勃起した乳首を捕まえ、目にも留まらぬ
忙しさで乱舞する。受け手であり与え手でもあるのがいまのゼルダであり、ルトなのだった。
二人の女性の間でなされる双方向の快感授受が、間接的にリンクをも高ぶらせた。自ずと抽送に
力が入る。けれども終着するには時期尚早だった。
ぼくとルトは繋がっている。ゼルダとルトも繋がっている。ならば、ぼくとゼルダも……
リンクは上体を前傾させた。察したゼルダも前傾してきた。
唇が触れ合う。舌が絡み合う。
脳に陶酔感が満ちあふれた。
最前とは異なる三角の完成! ぼくたちがあるべきもう一つの形!
これで準備は整った。だが、途中参加のゼルダには、いま少しの刺激が必要かもしれない。
左手をルトの膝から離し、ゼルダの胸へと届かせる。愛撫というには手荒い所作となったものの、
それがかえってゼルダを興奮させたようだった。ルトと同じく切羽詰まった状態でもあったのか、
見たところ、予期した以上の速さでゼルダは性感を上昇させていた。
リンクは抑制を捨て、腰の動きを斟酌ないものにした。片脚だけを抱えた格好なので、直線的に
動くのがやや難しかったが、大きな障害とはならなかった。
抱えたルトの脚が震え始めた。震えは腰に、腹にと広がり、急速度で往復するリンクの肉棒に、
短い周期の圧迫を及ぼした。
前兆である。
ここぞとばかりにリンクは動きを速めた。
ゼルダの興奮も極限に近づいていた。ルトは身悶えしながらも、口戯を怠ってはいないらしい。
絶頂への階段を駆け上がるルトが、ゼルダの手を引いて同着させようと、根限りの努力をして
いるのである。
その努力は報われた。
突然、ルトの身悶えが強直に変わった。同時にゼルダも強直した。
間髪入れず、リンクも終末点に達した。女性二人がわずかの差で先着したことは感知できて
いたため、自分がそうなるのには何の心残りもなかった。
長い忍耐を強いられてきたリンクの男性自身は、ようやくすべての制限を振りきり、存分に精を
吐き散らした。
ルトの頭は朦朧としていた。しかし意識と感覚はどうにか保たれており、リンクが自らの内から
出てゆくのを知ることはできた。至上の時を過ごさせてくれた相手の退去は残念だったが、
そうした思いはすぐに新規の期待へと変じた。
リンクが占めていた部の入口を、以前に領していたものが、再び──前夜の交流を含めれば
三たび──訪ねてきたからだった。
ゼルダである。
依然、その身は上にあり、ただし胴は前に倒されている。ゆえに口はルトの秘部を吸うことが
できるのだった。膣から漏れ出ているに相違ないリンクの精液を厭いもせず──否、むしろそれを
舐め取りたいのだろう──ゼルダは一心に唇と舌を使っていた。
奉仕には奉仕を返すべきである。ルトは口戯を再開させた。ゼルダの臀部は元の位置に
あったので、体勢は変えずともよかった。心情的にも引っかかりはなかった。
初めから平気だったわけではない──と、ルトは前段をふり返った。
ゼルダの股間が目の前に迫ってきた時は、わななきを禁じ得なかった。同性の性器をまじまじと
見るのは初めてだったし、当てにされている行いを無難にやってのけられる自信もなかった。
が、やってみた。
受動的でしかなかった昨夜の自分を省み、今回は能動的であろうと志したのだ。また、リンクに
快感を与えられている自分であるからには、ゼルダに快感を与えるのが至当とも考えられた。
取りかかったあとでは、わななきも消えた。
知識のない者が見ればグロテスクと評しかねない形をしている女陰も、ゼルダの場合は──
姿態の他の要素と同じく──美しいとしか表現できない。愛液は多少の辛味を帯びているけれども、
不思議な芳香のせいか、舐めるうちに甘いとも感じられてくる。
左様に素晴らしい部位なのだ。わななく理由などありはしない。魅入られてしまったと
言ってもいい。気づけば心から喜んで口づけしていた。
うまくやれたと思う。ゼルダを行き着かせられた。もっとも、ゼルダはリンクと接吻を交わして
いたようだったから、こちらだけの手柄ではないのだが、それでも自分の努力が主因であるのは
間違いない。
嬉しい。
さらに、三人が一体となった交わりにおいて、その内の二人から悦びを授けられ、かつ、二人に
悦びを授け得たという首尾で──リンクを行き着かせた自分という我れ褒めもあるのだ──
嬉しさはひとしおとなった。
そして、いま……
もう何の心がかりもなく、何の仕損じもなく、ゼルダを愉悦にまみれさせることができる。
そこまでの技能を自分は身につけたのだ。しかし、なお、ゼルダには一歩を譲る。愉悦にまみれて
いるのはこちらも同じで、白状すれば、思考が途切れる間際にあって、ようよう口を操作させて
いるのが実状なのだが、ゼルダときたら、愉悦が多大になればなるほど、ますます口の動きを
激化させるようだ。平時の気品はどこへ行ったのか。ハイラル王国の王女がこんなに淫らな女で
あったとは!
……いや、淫らさの点では自分も大差ない。
いいだろう。淫らな王女二人、徹底して淫らになってやろう。
──と決心してはみたものの、ここにいるのは王女二人だけではなかった。リンクは?
いったいリンクはどこにいて何をしている?
直後、ルトはそれを知った。草の上に仰向かせた頭の先の方で何かが動いたと思うが早いか、
両の耳のそばにずしりと接地するものがあり、続けてルトの口は唐突に愛玩対象を失った。
リンクがルトの頭部を跨ぐようにして膝をつき、両手でゼルダの腰を持ち上げたのだった。
短いながらも距離が生じたため、ルトはゼルダの隠し所に対して視覚を働かせることができた。
もとい、ゼルダとリンクの隠し所に対して、である。
猛々しくそそり立つ陰茎が、粘液だらけの秘裂に攻めかかろうとしていた。女性同士の
相互吸啜がどれほどにわたって続けられたのかを、ルトは全く計れていなかったが、そんなに
長い時間であったはずはない。にもかかわらず、リンクのそれは非の打ちどころなく復活して
いるのだった。
その逞しさにルトは感動した。リンクが漸進し、陰唇を押し分けてゼルダの膣内へと侵入し、
すっかり姿を隠してしまうに及んで、感動は胸を破裂させんばかりとなった。
男と女が──しかも他ならぬリンクとゼルダが──交わる瞬間をこの目で見られた!
嫉妬の一片だに湧かなかった。我が事のような喜びだった。
ゼルダの声が聞こえた。そこで初めてゼルダが口淫を中断させていたとわかった。そうと
気づかないくらい、喜びが尋常ではなかったのである。
ゼルダはすすり泣いていた。もとより悲しみゆえではない。声は甘美の情を赤裸々に報じている。
背後からリンクに挿入されて、ゼルダも感動の極にあるのだった。
結合部は静止を保っていた。リンクもまた感動に打たれ、営為を始められずにいるらしい。
ルトにとっては好都合だった。
頭を浮かせる。唇と舌を再稼働させる。
ゼルダの恥丘からリンクの陰嚢までを、ルトの口は、くまなく経めぐった。ゼルダを貫く
剛棒の幹と、その幹に裂かれた一対の花弁と、花弁の上端に凝結する女芯は、とりわけ入念に
処遇した。ゼルダの声は甲高くなり、リンクも発作的に喘ぎを漏らす。二人の交わりに寄与する
ことで、ルトの喜びは膨張の一途をたどった。
リンクの希求も膨張したとみえ、とうとう体動が始まった。はなから勢いは激しかった。
ゼルダの腰の邀撃ぶりも同等に激しい。二人ともそうせずにはいられないほど具合がよいのだろう
──とルトは思い、口による補助を活発化させた。ぶつかり合うように前後する男女の恥部に
ルトの顔面は擦過され、多量の淫水を塗りたくられる羽目になったが、具合のよさをもっと
よくしてやるとの意志は一向に影響を受けなかった。
ひとたび達しているリンクは、猛烈に躍動しながらも、なかなか果てない。一方、ゼルダは
達しまくっている。声の上下強弱と筋肉の収縮ぶりで察知できる。けれども主体性をなくしては
いなかった。腰は暴れ、内に取りこんだ一物を食いちぎろうとするかのようである。さしもの
リンクも呼吸を乱している。
餌食はリンクばかりではなかった。ゼルダの声が絶えたと思う間もなく、ルトは凄まじい刺激を
局部に感じた。ゼルダがかぶりついてきたのだった。最前からの喜びが性的快感を司る神経に
作用していたためか、ルトの身体は鋭く反応し、一気に頂上への行程を突っ走り始めた。飢えた
獣と化して貪食するゼルダも同じ状態にあるとみえた。それに感化されたかのごとく、リンクも
抽送の勢いをさらに強めた。
ほどなくルトの体内で爆発が起こった。力が抜け、頭は草の上に落ちた。ただ、眼瞼を開く
筋肉だけはわずかに力を残しており、リンクとゼルダが繋がっている部を眺めることは可能だった。
深々と突き抜き、突き抜かれた形で、二人は運動を止めていた。
結合部の境目に白濁した液体が滲み、それは少しずつ量を増して、ルトの顔に滴った。
拭うだけの力はなく、そうしようという気もなかった。二人の想いが混和された液体である。
相伴できることに感謝した。
ルトは満ち足りた思いで意識を沈めた。
意識を再び浮き上がらせたのは、胴部に加わる重みと、胸をさすられる感触だった。ルトは
うっすらと目蓋を開き、仰臥位のままでいる自分の上に俯すゼルダを見いだした。いつのうちにか、
先ほどとは向きを逆にしている。ルトの鳩尾あたりに頭が、脚の間に腹部以下があり、片手は
乳房に戯れかかっている。
ルトがしたわずかな身動きで意識の回復を知ったのだろう、ゼルダは嫣然とさせた顔を
近寄せてきた。ためにゼルダの全身は上方へ移動し、二人の躯幹の前面が、ずれることなく
合わさる形となった。
ゼルダが身体をゆっくりと揺らし始める。必然的に生じる摩擦によって、ルトの呼吸は速まった。
なかんずく、胸と胸、性器と性器のこすれ合いが、治まっていた興奮をよみがえらせる。その上、
口と口とが結び合わされ、なおさら興奮は高じてゆく。
尽きせぬゼルダの性欲にルトは驚嘆し、けれども忌避しようとは思わなかった。
徹底して淫らになると決めたのだ。満足の上をゆく満足が得られるのであれば、それに優る
喜びはないではないか。
ルトはおのれの身体をも揺らし、摩擦による快感を倍加させようと図った。目論見は当たり、
いよいよルトの肉体は熱を帯びた。
しかしながら、受動的な加熱に甘んじたくないという所存もあった。ルトは小声でゼルダに
位置換えを申し入れ、それはすぐさま受容された。
昨夜の交誼の再現を、今度は自分が上になって果たすのである。攻撃的な気分がルトの胸に
みなぎり、腰は勇み立って攻めかけを繰り返した。もみ合う箇所を起点として、快味が体内の
すみずみまで放散する。脳は感激に満たされる。ゼルダも似寄りの状態にあるらしく、口は不断に
嬌声を垂れ流している。そのさまがいっそうルトを感激させた。
このままゆける所まで、と思いを固めた矢先──
後ろから腰をつかまれた。
ゼルダとの行為に没頭するあまり、余人の存在を意識しなくなっていたルトにとって、それは
慮外のできごとだったが、無粋と難じる気は起こらなかった。
三人が作り得る新たな形を否定できるわけがない。介入を望まずにいた自分の方がおかしいのだ。
股間に押しつけられたものは充分に硬かった。三度目にしてなお凛々とあれるリンクにルトは
感服し、いましがたのゼルダと同じように自分が扱われることを予感した。
おおむね予感は的中した。体位は同一といってよい。けれども一点のみ相違があった。リンクは
前門ならぬ後門を求めてきたのだった。
そこを用いての性交を、すでにルトは馴染みとしていた。初めてリンクに抱かれた時、
正規の方法とともに、そちらも体験したのである。一夜のうちに双方の処女を男に捧げた女は、
ハイラル広しといえども自分の他にはあるまい──というのが、ルトのひそかな誇りだった。
ゆえに、その場面でのリンクの所行を、ルトは歓迎した。肉体的にも困難はなかった。うち続く
淫事が後方までを潤わせていたとみえ、挿入は楽々と成し遂げられた。
すぐに刺突が始まった。巻き起こる快感は筆舌に尽くしがたく、ルトは自らの動きを
調整できなくなった。が、リンクの突き押しにより、意図せずとも腰は揺動する。従って
ゼルダとの摩擦は中断されない。前後両所でよがれる幸運をルトは獲得できたわけだった。
かてて加えて、前方での摩擦が威勢を増した。ゼルダが両脚をルトの腰に絡ませ、局部を熾烈に
突き上げてきたのだった。下にあっても能動性を放棄しようとはしないゼルダなのである。
ルトは狂喜した。リンクとゼルダに挟まれて悦楽の淵に沈めることを無上の幸福と感じた。
時を経ずして思念は散り失せた。悦楽と幸福の極点へと向かう激流に身を任せるだけが、ルトに
可能なすべてだった。
ゼルダにとって、ルトと出会ったのちの数刻は、とうてい楽しいとはいえない時間だった。
けれども憎しみは抱かなかった。ルトはおのれに──リンクがそうであるごとく──正直なのである。
また何よりも、ルトがさらけ出していた内心は、かつてゼルダ自身がサリアに相対した際のそれと
同質であり、自然、他人とは思えないという感が育まれたのだった。
そこで、意は定まった。サリアのように真率であろう、と。
正しい方針だったとゼルダは断じ得ていた。だからこそ、必ずしも一般通念には沿わぬ内容の
説得と誘引が、蹉跌なくルトに受け入れられたのである。ただ、ルトが思いのほか清々しい性格を
していた点も、事を成さしめた要因であったには違いない。言うなれば、二人の精神は
呼応するべくして呼応したのだった。
結果、事態は理想的に進捗した。リンクをまじえた交歓の宴も、いまや大詰めの段階である。
種々の形をとって推移した三者の繋がりのうち、リンクとともにルトを挟撃する現在の形が、
掉尾を飾るには最もふさわしく、ルトにしてもそれを最も望んでいるだろう──と、ゼルダは
確信していた。
四肢を総動員させてルトを拘束する格好は、しがみつくというよりぶら下がるに近く、腰を
使うには相当の体力が要った。その体力も尽きようとしていた。連夜の淫行。当然の仕儀である。
が、ゼルダは活動を中絶させなかった。気力が体力を補っていた。気の本態は一様でなく、
しかし総体的には一点を指向していた。
ルトを悦ばせたい!
ルトに攻め入るリンクを悦ばせたい!
自分自身が悦びたい!
三人で一緒に悦びたい!
完遂は間近と思われた。ルトとの交接を続けていた口が、対手の呼吸に乱れを感じたのだった。
全身の揺れも周期を速めている。リンクが抽送を速めたせいである。寄せに入っているのである。
ルトが獣のように喉を唸らせ始めた。ゼルダが接吻を解くやいなや、ルトの口は叫びを
放出させた。表情は大きくゆがんでいる。明らかに達しかけているとわかる様態だった。
直後、ゼルダは衝撃を感じた。リンクがとどめの一突きを繰り出したのだった。その一突きは、
狙いどおりにルトを悶絶させ、リンク当人の埒をも明かせ、同時にゼルダまでも絶頂させた。
──ルトを通して届けられたリンクの熱情。
──三者の交わりに似合わしい幕切れ。
それがゼルダの致した思いの幕切れでもあった。
放心を兼ねた休息が、どうにか一同の腰を上げさせた。湖水で身を清め、研究所へと戻った
三人に、みずうみ博士は事情を質そうともせず、みなが初めから室内に居続けていたかのような
口ぶりで、自然に会話を誘導した。とりとめのない座談ののち、四人は前夜と同じ配置で眠りに
就いた。
翌朝、ルトはゾーラの里へと去った。別れに際し、リンクとはもちろん、ゼルダとの間でも、
いつの日かの再会が約されたことは、言うに及ばず、である。
お預けを食ったままハイラル平原で待機していた視察団の一行は、それでようやくハイリア湖
観光に興じられる境遇となった。各種の風物に学究的な関心を寄せる者もあり、みずうみ博士は
そうした人々との対話に余念がない。釣り堀の方は、親父の思惑どおり、いまだかつてない
繁盛ぶりである。
そうして一日は過ぎた。すべての予定をこなし終えた視察団は、名残を惜しみつつ湖畔を発ち、
ハイラル城への帰途についたのだった。
数ヶ月後、ゾーラの里を訪れたリンクは、キングゾーラから、かの地に起こった事件に関して、
一つの相談を持ちかけられた。
──ゾーラの泉で魚が大繁殖している。理由は不明。一族の食糧が保証されるという点では
好都合なのだが、魚たちは、ゾーラ川の急流を嫌ってか、泉から出て行こうとしない。
放っておけば生態系が乱れてしまう。過剰分を人為的に水揚げしてやる必要がある。けれども
ゾーラ族の人口は限られているので、水揚げしても消費しきれず、保存用の加工を施したとしても、
一年後には無駄に廃棄せざるを得なくなるだろう。しかもこの繁殖現象は、どうやら半永久的に
続きそうである。廃棄も半永久的に続くことになる。魚を大切にするゾーラ族としては耐えがたい。
唯一の対処法はハイラル王国内への輸出と考えるが、日頃の通商関係がないため、交渉の糸口を
つかめずにいる。リンクには、その交渉役を引き受けてもらえないだろうか──
リンクは思案した。
商人を見つけるのは難しくない。しかし天嶮の要害たるゾーラ川を往復してまで物を
商おうとする奇特な者はあるまい。かといって、ゾーラ族が川を下って商売に出かけるというのも
非現実的だ。どこかに接点を設けられれば……
ひらめいた。
『あの世界』では、ゾーラの里とカカリコ村との間に山道が開かれ、両者は交流を行っていた。
『この世界』でも同じことが可能なのではないか。カカリコ村はゴロン族と通商している。
ゾーラ族との通商にも興味を示すはずだ。王国内では貴重な食品と見なされている魚類を
扱えるのだから。山道の開設には時間を要するかもしれないが、一年のうちにできない作業では
ないだろう。
リンクはその所見を述べ、交渉役となることを了承した。
キングゾーラの謝辞を聞きつつ、併せて、他者には告げられない思いを敷衍する。
魚類の大繁殖は──理由不明とキングゾーラは言うが──間違いなく、ぼくとゼルダとルトの
交わりに起因している。それはゾーラ族の食生活を豊かにし、そして外部との通商関係が
樹立された暁には、彼らの生活全体をも豊かにすることとなるのだ。経済面だけではない。
人と人との交流、文化と文化の交流は、必ずや、ゾーラ社会に有形無形の好影響を──
なにがしかの幸せを──もたらすと確言できる。
といっても、独特な生態ゆえの独特な習慣を、今後、ゾーラ族が捨て去ってしまうとまでは
思えない。彼らはいつまでも泳ぎの達人であり続けるだろうし、いつまでも衣服を着用しようとは
しないだろう。そうでなければ困る。服を着たルトなどルトではない。裸でいてこそルトは
ルトらしく、存分に魅力を発揮できるのであって……
その魅力に接する機会を、無論、リンクは得ることができた。キングゾーラとの面談後、
部屋へ来いとルトに誘われていたのだった。ただし眺めるだけの機会。里での閨事をルトは
肯んじない。さすがに周囲の──特に父親の──目を意識しているのである。しかし二人とも
それを不満とはしていなかった。地下水道の流れが整い次第、いつものとおり、ハイリア湖へ赴く
手筈となっていたからで、ために、そこでは親しくも健全な会話が営まれるにとどまった──
のだが……
「そなた、以前、ハイリア湖にある神殿のことを話しておったな」
「うん」
「先日、中に入ってみたぞ」
「えッ!?」
「古臭いばかりで、少しも面白うなかった。おまけに、通路がごちゃごちゃしておって、
迷うてしまいそうになったゆえ、早々に引き上げたわ。あれを建てたのはわらわの先祖と聞くが、
なぜあのような馬鹿げた造りにしたのであろうな。昔の者の考えは、さっぱりわからぬ」
感興のかけらも持たない様子のルトを、リンクは茫然と見つめることしかできなかった。
万が一、ぼくのいない場面で賢者が敵に襲われたら、神殿に入って覚醒──あるいは半覚醒──
するのが、助かるための唯一の方法。その事態に備え、ぼくは賢者たちと契りを結んできた。ただ、
いったん契れば、賢者は神殿に足を踏み入れた時点で現実世界と切り離されてしまうから、
他に逃げる道はないというぎりぎりの危機に陥らない限り──
「神殿には入っちゃいけないって、あれほど言っておいたのに……」
やっとのことで口にした咎めは、
「そう言われれば聞いた気もするが、しかと覚えておらなんだ。許せ」
柳に風と受け流される。
賢者は自分が賢者であることを知らない。詳しい事情を話すわけにはいかなかった。
それにしても、ルトの、この能天気さは──
「そんなに怖い顔をせんでもよかろう。害の一つもあったのならともかく、わらわはぴんぴんして
おるのじゃから」
「あ、ああ……まあ、そうだね……」
そのとおり。ルトは神殿に閉じこめられなかった。半覚醒に至ったとの自覚もないらしい。
これはどういうことなのか。『あの世界』と『この世界』では半覚醒の機序に違いがあるのだろうか。
何が違う? 二つの世界に共通しないものといえば……
『ゼルダだ!』
考えてみれば、ゼルダもまた、半覚醒の条件を満たしていながら、自身の半覚醒を認識して
いない。魔王ガノンドロフに対抗するという賢者本来の使命を、いまのところは要求されないので、
賢者としての意識や思念が、さしあたり封印されているのだ──と解釈してきた。しかし
潜在的には賢者の力を発揮でき、ぼくと他の賢者との交わりに加わることで、相手の関わる地域に
何らかの幸福を招来する──とも。
だが、対象は「地域」だけではなかった。「賢者本人」にも影響があったのだ。ルトは、
ゼルダの関与によって、ゼルダと同じく、半覚醒という賢者の運命を──この先、もし必要と
なった時は避けられない運命なのだろうけれど──さしあたり封印された状態にあるのだ。
サリアやインパについても同じであるに違いない。
賢者が賢者として覚醒せずともすむ世界を──というのが、『あの世界』のゼルダの望みだった。
『この世界』のゼルダがその望みを字義どおりに抱いているはずはないが、望みの本質はいまの
ゼルダにも通底していて、賢者が普通の人間として生きられるよう、無意識的な働きかけを行って
いるのだ。
つまり、ぼくと賢者たちとの関係は、ゼルダをまじえてこそ、自然で完全なものになると──
「どうした?」
ルトの声である。リンクは我に返った。
「心ここにあらず、じゃな。ゼルダ姫のことでも考えておるのじゃろう」
図星──にしても、ルトが仄めかすような内容ではない。答に迷いつつ、顔色をうかがうと、
「わらわに隠しごとはできぬぞ。フフッ!」
からかい気味の言葉と笑みを、ルトはやんわりと投げかけてきた。ゼルダの介在は、もはや
彼女の機嫌を損ねはしないのである。
「君のことも一緒に考えていたさ」
と──ありのままとは言えないまでも──確かなところを告げる。
「ほんとうか?」
「ほんとうだとも」
「ならば、よい」
寛大さを気取って頷くさまに、つい微笑みを誘われる。
人の話をろくに聞かず、神殿に入りこむという軽挙に出たルト。サリアやインパなら絶対に
そんなことはすまい。しかし非難はしないでおこう。そのおかげでわかった重大事実があるのだから。
「遠からぬうち、ゼルダ姫にも会いたいものじゃ。そなた、算段をしてくれぬか?」
「わかった。当たってみるよ」
山道が開かれれば、ゼルダもゾーラの里を訪問できる。ハイリア湖よりは近くなる。二人の
王女の会見は、いずれ恒例の行事となってゆくだろう。
けれどもハイリア湖は舞台としての意義を失わない。あそこでなければできないことがあるのだ。
あれ以来、水泳がすっかり気に入ったゼルダにしても、ハイリア湖へ行くのは一石二鳥……
だろうか?
ゾーラ族とカカリコ村の通商関係が成り立って、大量の魚がハイラル王国内に出回れば、
女性たちは魚食という新たな美容法を実行できるようになる。水泳の価値が減じてしまうかも
しれない。とすると、ゼルダも……
いや、ゼルダは肥満に悩んでいるわけではない。水泳そのものが好きなのだ。であれば、
ゼルダが水着を捨てるという残念な結果には決してならないと断言──
『何を考えてるんだ、ぼくは』
人々の食卓が賑やかになることこそを第一に喜ぶべきなのに、ゼルダの水着姿ばかりを気にする
自分は、ルトに劣らず能天気である──と、胸中で苦笑いするリンクだった。
To be continued.