憤りと不満はリンクのみに向け、マロンへはもっぱら親愛の情を注ぐ、という方針を、以後も
ゼルダは徹底させた。それをリンクは謹んで認容するしかなかった。
絶頂後の忘我と弛緩に浸るマロンを、腕の中にゆったりと抱き収めるゼルダ。先ほどまで不断に
行っていた手と言葉による攻略を、いまはいっさい控えている。代わりに癒しを与えていると
いった態である。快楽の供与に専心し、受納は──少なくともさしあたり──欲さないとの
ありようは、やはり、マロンよりも経験が──種類はともかく回数の点では──はるかに豊富な
ことからきている余裕の表れなのかもしれなかった。
マロンが人心地を取り戻し、さすがに恥ずかしげな風情を示すと、ゼルダは、その羞恥を
拭い去ってやるかのように、いたって日常的な呼びかけをした。
「夕食を作るのを手伝ってくれる?」
それで平生の心理となれたのだろう、マロンは快諾し、元気よくソファから身を立ち上がらせた。
合わせて腰を上げ、マロンを連れて厨房に赴こうとするゼルダに、リンクは思い切って声をかけた。
「ぼくも、手伝うよ」
食事となれば──一時的にせよ──淫蕩な雰囲気は薄まる。それに乗じてゼルダの怒りを
和らげようと企てたのである。ルトとの一件以来、リンクは別荘滞在時における炊事をゼルダとの
共同作業にしていたので、不自然な発言ではないはずだった。
しかし、申し出はにべもなく拒絶された。小手先の計略などお見通し、絶対に矛先は鈍らせない
──と宣言するにも似たゼルダの口ぶりだった。そのためリンクは、厨房から聞こえてくる
和気藹々とした談笑を聞きながら、食堂にぽつねんと坐していなければならなかった。
料理の腕では優にゼルダを凌ぐマロンが協力したとあって、できあがったものの外観は、
見ているだけで口の中に唾液が溜まるほどの素晴らしさだった。食事までは禁じられて
いなかったので、味の素晴らしさも堪能できた。が、孤独を忍ばねばならない状況に変化は
なかった。ゼルダとマロンがひっきりなしに交わす会話の材は、場に合致した料理ねたを
皮切りとして、服飾、化粧、手芸など、男のリンクを置き去りにしたものに終始し、あまつさえ
彼女らは、それを不親切とも考えていないようなのである。
とはいえ、リンクにすれば、一息つける時間ではあった。予察したとおり、雰囲気は淫蕩さを
稀薄にしており、灼熱していた股間にも安静が戻った。
けれども安静は一過性でしかなかった。さらなる試練が次に待ち受けていた。
食後、ゼルダはマロンに、相伴っての入浴を提案した。マロンは喜んで承知した。先には──
無意識的にではあれ──脱衣を躊躇する素振りを示していたのに、このたびは全くこだわらない
ふうである。風呂に入るという真っ当な理由が、マロンの心を縛りから解放したらしい。それを
見越したゼルダの提案でもあるのは間違いないと思われた。
リンクにも同伴が命じられた。無論、拒否は不可である。
かくして浴場には三個の全裸体が出揃った。内の一個であるリンクにとって、残りの二個は
強烈な刺激源となった。もはや想像を封じる意味はない。個々では見慣れている二体が、並ぶと
二倍、いや、自乗にも、なおその自乗にも増幅された魅力として感得されるのだった。
まず目を引くのは、何といっても、マロンの豊満な乳房だ。あらかじめ注意を喚起されていた
せいもあってか、常にも増して秀逸な形状、秀逸な色艶と嘆じられてしまう。
しかし、それでかき消される程度のものではないのが、ゼルダの姿態の、これもまた嘆ずるべき
秀逸さ。胸の発達ではマロンに劣っていても、そのふくらみ具合は、すっきりとした伸びやかな
全身に相応し、みごとな均整を形作り、結果、いま一歩で完成に到達せんとする女体に、大人の
官能性を帯びさせ始めている。
対してマロンの体型は、乳房を別とすれば、むしろ幼げだ。肥満にはほど遠いながらも全体的に
ふっくらしていて、それは成熟の証ともいえるのだが、ゼルダよりも身長がやや低いためか、
比較すればどうしても子供っぽい印象となる。浴場の広さに感嘆し、はしゃぎ声をあげるさまを
見ると、そんな印象がますます強まる。ただ一方では、やけにおませなところもあるのだから、
乳房の率先した発育と併せて、精神的にも肉体的にも均衡のとれているゼルダとは違った、
面白い不均衡さと認められる。その不均衡さがマロンの魅力でもあるのだ。
不均衡さといえば、もう一つ。
恥毛。
面積も密度もそこそこになっているゼルダのそれに比し、マロンのそれはごくごく少ない。
生え始めたのはつい最近だ。胸の豊かさに釣り合わないその点も、マロンを子供っぽく見せる
要因で、同時にこちらの興奮をかき立てる要素でもある。加えて、左右の秘唇にまばらな発毛が
生じているマロンと、最初の芽吹きが秘裂の上方だったゼルダ。さらに、ゼルダの金色、マロンの
栗色という、髪の毛のそれに対応した色調の差。そこで髪にも言い及べば、ともに背の半ばまで
届いていて、しかるにマロンの方がいささか長く、そうした違いを挙げれば他にもいろいろあって、
肌の色が純白に近いゼルダはいかにも深窓の佳人らしく、他方、牧場で野外作業に勤しんでいる
マロンの皮膚はいかにも健やかそうに輝いていて、次に観察部位を元に戻して胸の先では乳暈が
広めなのに乳首はやはり子供っぽい小ささのマロンを幾分かは上まわっているゼルダの乳首の
突き出し具合──
リンクは思考をまとめられなくなっていた。美しい女性二人の裸体を眺めるという状況に
ふさわしい言葉は、本来ならば「眼福」である。しかし、それに起因する欲情を当分は
発散できないとなると、眼福どころか苦痛の極み。その苦痛に、苦痛と認識しつつも見たいと望む
男の本性を捨て去れない情けなさが加味され、リンクの脳は加熱を始めていたのだった。もちろん、
加熱は性器にも波及し、そこを猛々しく──ただし無駄に──勃起させている。
そんなリンクに一顧をも与えず、女性二人は並んで湯に浸かり、飽くことなく語りを続けて
いたが、しばらくののちに浴槽を出た。身体を洗うとみえた。どうやらゼルダは、それをマロンの
素肌に触れる「真っ当な理由」としたかったようで、相手に有無を言わせず、その体表をタオルで
優しく摩擦しにかかった。マロンも有無など言わず、心地よげに奉仕を受容している。
洗いの作業が性的行為へと移行するのに時間はかからなかった。タオルはうち捨てられ、
ゼルダの両手が、舞いを舞うかのごとく流麗に、マロンの全身をくまなく愛撫で覆いつくす。
とりわけ念入りに扱われるのは、先刻よりゼルダが関心の的としていた両胸の双球と、再度の
訪問となる脚間部である。マロンは喜悦の喘ぎを連ね、それはゼルダが口をも愛撫の担い役と
するに及んで、浴場内に響き渡るほどの嬌声となった。
幕切れは、床の上で仰向けの身体をくねり踊らせるマロンの陰部に、ゼルダが情熱的な口戯を
続ける場面で、熱狂の末にマロンは果て、熱狂の演出者たるゼルダは嫣然と微笑み、熱狂を熱狂に
できないリンクだけが悶え苦しむという、三者三様の姿を結尾に残した。
次の幕はゼルダの寝室で開いた。
全裸のまま浴場からそこへと移り入ったゼルダは、同じく全裸のままのリンクに椅子での観覧を
指図し、抱き支えるようにして連れてきた、いまだ恍惚の気配を漂わせている、やはり全裸の
ままのマロンをベッドに寝かせると、自らもその横に臥して、前幕のそれよりも情熱的な絡みを
演じ始めた。
客間と浴場では見せなかった、自身が頂上を極めたいという欲求を、このたびのゼルダは
隠さなかった。
愛撫と接吻は忘れず取り混ぜつつも、マロンの上にのしかかり、あるいは脚を交差させた形で、
女陰と女陰との密なこすり合いに没頭する。
並行して、受け身一方だったマロンに能動的でもあるよう求め、なすべき行為を教示する。
女性経験のなかったマロンは、当初こそ覚束ない手つき、口つきだったものの、ゼルダの指導
よろしきを得て、また、本来の気質である奔放さ、好奇心の強さを働かせて、すぐに各種の技を
習得し、ゼルダに歓喜の声をあげさせられるまでとなった。
けれども、ゼルダとて受け手に転じきってしまったわけではない。歓喜の声はマロンの口からも
幾度となく放出された。各々が攻め手と受け手を兼ねる場合もあった。互いが互いの胸や秘所を
捏ね合い、舐め合うのである。
二人は倦むことなく交わり続けた。言葉とはならない歓喜の声に加え、相手の名を呼び、施しを
求め、そしてその施しが喜ばしい際に発せられる単語や、口なり局所なりが相手の種々の部と
接する際に生じる粘液質の音が、複雑に組み合わさって艶事を彩った。
幕が下りたのは夜半の頃だった。ゼルダもマロンも疲れ果て、眠気に勝てなくなってしまった
のである。
リンクは退去を命じられた。交接はせずとも朝までの時間はマロンを傍らにして過ごすという、
それはゼルダの断固とした意思表明だった。
従わざるを得ない。
割り当てられた寝室へ行き、ベッドに横たわる。
別荘に泊まる時は、ゼルダと寄り添い合っての就寝が常だったリンクである。旅先では
当たり前の独り寝が、その夜はやけに寂しく感じられた。
それもぼく自身が招いたことなのだ──と、リンクはおのれに説き諭した。
考えようによってはありがたい環境ともいえるではないか。刺激源から離れていられるのだから。
が、刺激源の遠近とは無関係に、股間は滾ったままだった。
ともすれば、手がそこへと伸びかける。
ここで自慰に及んでもゼルダには知られっこない──と、いま一人の自分が頭の中でささやく。
そうした誘惑を、リンクは必死で振り払った。万が一、ばれでもしたら、事は悪化の一途を
たどるのである。
葛藤と辛苦は明け方まで続き、その精神的疲労が、ようやくリンクを眠りへといざなった。
翌日は前日の再現──否、再現以上──だった。
朝食の際の食堂は、先の夕食時とは異なり、リンクが息をつける場所ではなかった。ゼルダと
マロンは素肌にガウンを纏っただけの格好をしており、ややもすると胸元や素足が露出され、
リンクの目はどうしてもそこに釘づけとなった。いきおい性感は刺激された。
女性二人は──快眠が彼女らに活力と性欲を取り戻させたとみえ──朝食が終わるやいなや、
寝室に戻って交媾を始めた。同座を強要されたリンクは、またもや悶々として長丁場を耐えねば
ならなかった。持ち越されていた欲情に新たな欲情が累積するせいで、前日よりも厳しい状況と
いえた。
不幸中の幸いだったのは、交媾が午前中で終了したことである。マロンは日没までに
ロンロン牧場へ帰る予定となっていた。それを踏まえてタロンがハイラル城へマロンを迎えに来る。
つまり、日の高いうちに別荘を去る必要があるのだった。
去るにあたって、リンクは、やっと拷問のような仕打ちから解放されるという安堵とともに、
一つの疑問をも胸に抱いた。
いったい二人は何回交わったことになるのだろう。男女の性交とは違って、女同士のそれは、
どこからどこまでが一回なのか判然としない。数えられるものではない。とすると、ゼルダが
達した回数か。あるいは、マロンが達した回数か。ただ、どちらにしても、この二日で四十二回も
達したとはとうてい思えないから……
ゼルダとマロンの交わす会話が、答を示唆していた。
「一週間後に、またご招待したいのだけれど、来てもらえるかしら」
「ええ、喜んで」
そういうわけなのだった。
そののちの一週間を、リンクはハイラル城に半ば軟禁された形で過ごした。城から出ては
ならないとゼルダに言い渡されたのである。
あまりいい気はしなかった。
ぼくがよそへ出かけて他の女性に会うのを防ぐつもりなのだろうが、「謹慎」はすでに
了承している。そこまでぼくを信用できないのか。後出しで罰則を増やすのも理不尽だ。
申し立ての機会がないではなかった。城内では相変わらずリンクを避け通すふうのゼルダだったが、
毎度の食事だけは──なぜか──自室ならぬ食堂で摂る。その場で寛恕を請うことは可能だった。
しかし、依然、ゼルダの態度は冷淡きわまりなく、何を言っても無駄だという感はリンクの内で
覆らなかった。ひとたび信用を裏切った身であれば、容易にそれを回復することはできないのだ、
とも反省された。ゆえにリンクは忍従を決めた。
とはいうものの、「軟禁」生活は楽ではなかった。刺激源が面前になくとも、無為にしていれば、
自ずと性欲を認識する。とりわけ夜。股間が火照ってしかたがない。
日中の疲労に睡眠を促進させようと考え、リンクは剣の稽古に励んだ。肉体のみならず頭脳にも
疲労を与える目的で、苦手としている勉強にも取り組んだ。いずれにも、かねてからリンクに
それらを──特に後者を──奨励してきたインパが、先生としてつき合ってくれた。インパは
ゼルダの先生でもあったが、近年、ゼルダがする学問は高等化し、専任の教授陣がつくように
なったため、その分、手が空き、時間に余裕ができていたのである。
ところが、これは失策だった。
インパを前にしていると、マロンのそれにも優る雄大な胸の隆起が──ふだんなら特に留意は
しないのに──やたらと意識されてしまう。目の毒だ。かといって、さぼるわけにもいかない。
そんなことをすれば、インパは山のように小言を積み重ねるだろう。
結局、いや増す火照りをどうにもできないまま、リンクは再度の試練に臨むこととなった。
マロンを伴った二度目の別荘滞在は、初回と同様に──ただし多少の差異をも添えて──その
一日目を終えた。
同様だったのは各種行為の順序と時間配分である。昼過ぎに到着してから深夜までの長期間を、
ゼルダとマロンは、もっぱら性交に費やした。夕食と入浴が中途に介在したものの、なされる
事柄の内容において、浴場は寝室と実質的に変わらない。女性二人の肌が接触しなかったのは
夕食時だけで、しかしそこでも──それが差異の一つだったが──互いの肌は互いの視線に
さらされていた。かつてリンクがゼルダに施行を呼びかけ、以来、両者の間では常態化していた
ことを、今回はゼルダがマロンに提案し、奔放なマロンも同調したのである。言い換えれば、
ゼルダもマロンもガウンさえ纏わず食卓についたのだった。ぶっ通しで全裸の二人を眺めさせられる
羽目となったリンクは、その余分にして多大な刺激が股間に作用した結果を、ひたすら
受忍し続けなければならなかった。
食事に関しては別の差異もあった。日が暮れかかる頃となって、ゼルダとリンクの間に
次のような会話がなされたのだった。
「あなた、この前、夕食の支度をしたいと言っていたわね」
「うん」
「してくれる?」
「いいのかい?」
「いいわ。ただし一人でやってちょうだい」
「えッ?」
「それくらいのことはできるでしょう? わたしとマロンは休憩させてもらうわ。ついでに明日の
朝食もお願いね」
さすがに筋違いの要求だとリンクは思ったが、ぐっと怺えて料理に取りかかった。そこそこの
技術は身につけていたので、そこそこのものは作ることができた。
ゼルダとマロンは、一応、礼をよこしはしたものの、食事中、味については何の評価もせず、
従前どおり、リンクには縁遠い話題をめぐってのお喋りにうち興じていた。大して気には
ならなかった。辛口の評価が返ってくるよりは、黙っていてくれた方がましである。ただ、
ゼルダの素振りには腑に落ちない点があり、それがリンクの心を穏やかならざるものにした。
時折り、ちらちらとこちらを見る。くすりと小さく笑いを漏らす。
それらは必ずしも相伴ってはおらず、考えすぎといえば考えすぎなのかもしれなかったが、
リンクには、行き場のない劣情に囚われて局部を勃起させ続けるしかないこちらのありさまを見た
ゼルダが──リンクも二人と同じ姿でいることを強いられていたのである──冷笑を送ってきて
いるように思われてならなかった。
同じ素振りを、ゼルダはマロンとの交接中にも示した。のみならず、しばしばリンクに向けて
股を大開きにし、あるいはマロンの両脚を押し開き、どうだとばかり二つの女陰を展覧するのだった。
脇目もふらず閨事に没入していた前回とは異なり、今回は、リンクの反応を観察し、その興奮を
煽れるだけ煽ってやろうと企んでいる節があった。
実際、リンクは煽られまくった。
二人だけの饗宴が果てたあと、一人だった傍観者は、前例のとおり、別室へと追いやられた。
すわって見ていただけであるにもかかわらず、身体はくたくたに疲れきっていた。寝衣を着る
気力もなく、リンクは裸のままベッドに倒れこんだ。
股間のみが高ぶっている。それを意識すれば苦しみが増す。そこで理屈っぽい考えをめぐらす
ことにした。
以前、『南の荒野』で修行した時は、半年間の禁欲に耐えきったぼくだけれども、あれは単独の
環境だったからできたのであって、いまのように、生の女体が絡み合うのを眺めっぱなしだと、
早晩、限界がくるだろう。それまでに二人が規定の回数をこなし終えてくれればいいのだが、
今回の別荘滞在を最後に、とはいかないのではないか。さらに一度、もしくは数度の滞在が必要に
なるのではないか。もしそうなったら、自分を抑えていられる自信はない。いまでさえ、ぼくの
ペニスは一触即発、いや、何にも触れないまま射精してしまいそうなくらいの切迫ぶりなのだ。
同じものを見ていればそのうち飽きがくるのでは、とも考えていたが、とんでもない。見れば
見るほど欲情が募る。いかにゼルダとマロンが魅力に満ちあふれているかということなのだろうし、
いかにぼくの性欲が強いかということなのかもしれない。
性欲といえば、女性二人のそれには驚かされる。こんなに長く交わり続けても、てんで弱まる
気配がない。女の性欲は底なしなのか。
──と片づけるのは単純すぎる気もする。
ゼルダがマロンを情交に引きこんだのには、それなりの理由があると推測できる。
一つ。自分とぼくとの関係の実態に気づいたマロンを手なずけ、いわば「共犯者」にして、
秘密を三人だけのものとする。
二つ。これは賢者たちとの交流にも共通する点だが、ぼくが関係している女性と自らも関係し、
相手に影響力を及ぼし、ぼくの恋人としての立場を保つ。
三つ。これは今度に限っての動機だが、マロンを「寝取る」ことでぼくを罰する。行為を
見せつけて、欲情を煽って、しかし我慢させるという肉体的な意味の懲罰でもあり、つき合っていた
女性を奪われたぼくに焦燥感を植えつけるという精神的な意味での懲罰でもある。
ただ、そんな策略めいた理由だけではない、と充分に理解もできるのだ。
大切な人との繋がりを、身体の繋がりによって完成させる。ゼルダにとってマロンは、ぜひとも
そうしたいと思えるほどの相手なのだ。その欲求がゼルダを熱情的にさせている。それもまた
やはり賢者たちとの交流に通底するあり方だし、ぼく自身の信念と同一でもある。
おそらくはマロンも同種の意識を持っているだろう。初めは受け身を余儀なくされていた
けれども、たちまちゼルダに匹敵する能動性を示すようになった。より能動的と感じられる
時さえあった。ゼルダとの交わりを有意義と見なしていなければ、あれだけの熱意は維持できない
はずだ。
が……
まだ他の理由があるようにも思われる。ゼルダもマロンも、ひたむきすぎるくらいひたむきだ。
交わる悦びとは別次元の「何か」を追い求めていると印象されてしまうほどに。その「何か」とは──
『そんなことより』
筋道の立った思考が、敢えて封じていた所感を浮き上がらせた。「何か」についての考察は、
意識の外に追いやられた。
ゼルダのやり口は度を越しているのではないか。こちらが必死で我慢しているのに、かえって
それが気に食わないというふうに、禁欲の条件をどんどん厳しくし、難渋するぼくをあざ笑い、
あまつさえ食事の支度まで──しかも後出しで──押しつけてくる。
この一件に関しては、確かにぼくが悪い。罰を下されて然るべきだ。しかし、こうなると、
罰の域を超えた「いじめ」とも思われてしまう。
自省と憤懣がないまぜとなってリンクの心を乱した。
──我慢の限界に達したリンクは、ゼルダに関係の改善を申し出た。ゼルダは拒否した。
その態度があまりにも傲慢だったので、さすがのリンクも怒り心頭に発し、とうとう実力行使に出た。
ゼルダに襲いかかり、力任せに衣服を引き裂き、全裸に剥いた身体を荒々しく縄で縛りあげた。
突如、変貌したリンクを、ゼルダは口汚く罵った。リンクはかまわず、鞭を手にして、激しく
ゼルダを打ちすえた。初めは耐えていたゼルダだったが、鞭の勢いが増すにつれ、かたくなな
態度は少しずつ崩れていった。
君とは別れてマロンを恋人にする、とリンクが宣言するに及んで、ゼルダは完全に屈服した。
リンクなしでは生きてゆけない、リンクと一緒にいるためなら何でもする、だから許して、
どうかわたしを捨てないで、と涙顔で懇願した。そして、縛られた格好のまま、這いつくばって
尻を掲げ、無抵抗でリンクを受け入れる意思を示した。
前技も施さず、リンクはいきなり挿入した。優しくして、とゼルダは泣きわめいたが、リンクは
それを無視し、贅沢を言うな、君なんかこれで充分だ、と嘲りながら、情け容赦なく突きまくった。
征服の歓喜に酔いしれつつ、リンクはゼルダを完膚なきまでに蹂躙しつくし、何度も悦虐の
絶叫をあげさせたあと、子宮に向けて精をほとばしらせた──
そこで目が覚めた。
シーツが大量の精液にまみれ、濃密な臭いを芬々と発散させていた。
現象自体には驚かなかった。旅先では稀に経験することである。が、その現象を導いた夢の
内容の罪深さは、リンクをおののかせた。
ぼくがゼルダを縛って、鞭打って、挙げ句の果てに、君とは別れるなどと……
(捨てないで)
なんと哀しい言葉だろう。いくら夢でもゼルダにそんな台詞を言わせてしまうなんて……
あり得ない! 絶対にあり得ない!
現実にはあり得ないはずの状況に現実の射精を誘われたのは確かだが、あれはぼくの本心じゃない!
長い禁欲が無理やりそうさせたんだ!
──と、リンクは自らを説き伏せにかかった。悟性はそれを承認した。しかし脳内には妖しい
興奮の残滓があり、陰茎は硬度を失わなかった。
その時──
ノックの音がした。
返事をする間もなく部屋のドアを開いたのは、ガウン姿のゼルダである。
「リンク、早く朝食にしてちょうだい。わたしもマロンもおなかがぺこぺこ──」
無愛想な声は途中で切れた。ゼルダは不審げな顔で鼻をひくつかせ、直後、目を吊り上げて、
つかつかと歩みを寄せてきた。リンクはあわてて濡れたシーツを隠そうとしたが、そうするだけの
暇はなかった。仮に隠せたとしても無意味だった。室内にはむせかえるような精臭が充満していた
のである。
ゼルダはベッド脇で足を止め、その上で身を縮めるリンクに、怒りのこもった視線と言葉を
降らせてきた。
「オナニーしたのね!」
「いや、違う──」
「言い訳は聞かないわ!」
「ちょっと待って、これは──」
「何も言わないで!」
黙らざるを得ない。
穢らわしいものでも見るかのような目つきで、ゼルダはべとついたシーツに視線を移した。
「三回分くらいかしら」
「え?」
「いつもの三回分くらい出したんじゃないかということよ」
再び睨まれる。
「規定の回数に三回を上積みするわ。その程度で片がついてよかったと思いなさい」
無慈悲な判決を下すと、もう口もききたくないといったふうな素っ気なさで、ゼルダは背を向け、
ドアの方へと足早に歩き出した。
「違うんだ!」
リンクはベッドから飛び降り、ゼルダを追って、その右肩に左手をかけた。とうてい首肯できない
「判決」だった。
ゼルダは立ち止まり、首だけを回してリンクに目を据えた。
「罰が終わるまでわたしには触れるなと言ったはずよ」
氷点下の声である。が、もう黙ってはいられない。
「聞いてくれ。いまのは無茶苦茶だ。君は男の身体のことがわかっちゃいない」
「そんなこと、わかりたいとも思わないわ」
「いいから聞けって!」
剣幕に押されたか、ゼルダは口を噤んだ。その機をつかんでリンクは説明を試みた。
「夢精だよ」
「ムセイ?」
怪訝そうな顔。
「何、それ?」
「夢を見てああなっただけなんだ。オナニーなんかしてない」
はっと表情を動かすゼルダ。誤解だったと悟ったらしい。が、そうと口には出さず、別の点を
衝いてきた。
「どんな夢なの?」
返答に窮した。
「言えないわけ?」
そこを狙い所とみてか、ゼルダは言葉を畳みかけてくる。
「射精するくらいだから、どうせその手の夢なんでしょう。お相手は誰だったの? マロン?
サリア? それともルト姫?」
リンクの胸に激情が沸いた。
どうしてこんなふうに責められなければならないのか。誤解を認めて「判決」を撤回する方が
先だろう。なのに夢の内容へと話をそらして、しかもそのことについての決めつけたるや、
邪推としか呼びようのないものだ。答えられないのは君に対してあまりにも申し訳ない夢だった
からだが、こうなったら洗いざらいぶちまけてしまおうか。夢の中でぼくが君にしたことを全部。
それで君がどう思おうとかまうもんか。ぼくは自分の夢の内容にまで責任は持てないし、
君にだってぼくを責める権利なんかないんだ。あんな夢を見たくらいで罪悪感を持ったぼくが
甘かった!
覚えず左手に力がこもった。ゼルダは肩にかかる圧が気に入らなかったらしく、
「離して!」
と声を張りあげ、右腕を後ろへ急旋回させた。手先がリンクの頬にぶち当たり、派手な音をたてた。
理性が吹っ飛んだ。
その一撃が故意なのか偶然なのかは不明だったが、どちらか確かめようという気は起こらなかった。
それまでに溜めていた憤懣をも含めた、ゼルダに対する負の感情が、一気に爆発してしまったのだった。
どんな夢だったか教えてやる、夢で見たままのことをやってやる──等々の言葉を、文章には
ならない形で口走りつつ、リンクはゼルダを床に押し倒した。
「何するのッ! やめてッ!」
ゼルダの叫びも、また自分自身の声も、耳には届いていながら、意味あるものとして脳には
伝達されなかった。ゼルダは激しく身をもがかせたが、力では圧倒的に優るリンクだったので、
動きを封じるのは容易だった。縄と鞭は手元にない。そこでガウンを引き剥ぎ──現れたのは
素裸だった──その帯を用いて後ろ手に縛り、膝の上に腹這わせて押さえつけ、あらわとなった
尻を平手で連打した。そんなことをされるのは間違いなく生まれて初めてであろうゼルダは、
心理的にも打撃を受けたのか、暴れるのをやめ、リンクが叩くのに合わせて、ただただ悲鳴を
あげるだけとなった。その音声と、臀部の皮膚が赤く染まってゆくさま、そして、自分を
支配していたゼルダを今度は自分が支配しているとの逆転的な高揚感が、リンクを著しく興奮させた。
いったん失った抵抗の意思を、ゼルダが取り戻す兆しはなかった。リンクは打擲を中止し、
伏せるゼルダの後方に身を置いて、腰を両手で持ち上げ、かつてないまでに屹立した陰茎を、
猛然と膣内に突入させた。
ゼルダが金切り声を発した。しかしそれとてもリンクの興奮を妨げはしなかった。支障なく
最奥まで到達した肉柱が、快感を脳に大量発送し、他の感覚を遮断していたのだった。
先にした射精によって性器は即座の暴発を免れていた。が、待望久しかった環境ゆえ、そこが
得る悦楽の度合いは筆舌に尽くしがたく、とても長くはもたない状況だった。リンクは抽送を
開始した。ひと突きごとに快感は急増し、抽送の速度も急増した。
終局はたちどころに訪れた。
あらゆる思考が弾け飛んだ空白の底から、まず浮き上がってきたのは、何かがおかしいという
印象である。脳がゆっくりと正常の機能を回復してゆくにつれ、おかしいのは自分の格好であり、
そのおかしな格好で誰かと接触していることであり、その誰かとはゼルダであり、そもそも
ゼルダとこうしていることがおかしいのであり……と、現状把握も段階的に進んでいった。
リンクは身体を引いた。
支えを失ったゼルダの腰が、くたりと床に沈んだ。手首を縛っていたガウンの帯は、いつの間にか
ほどけており、さらにリンクの支配からも脱せられた上は、いかなる行動も可能なはずだったが、
ゼルダは俯したまま、姿勢を変えようとしない。自由になった両腕を頭の下にやり、そこに顔を
うずめ、肩を小刻みに震わせている。かすかな声が漏れ聞こえてくる。
すすり泣きだった。
リンクは愕然となった。否、愕然などという語ではとうてい足らない、全身を鉄の棒で串刺しに
されたらそうも感じるだろうと思われるような激痛が、ようやくおのれの所行を認識するに至った
リンクの精神を打ちのめしたのだった。
自分で自分が信じられない。だが、これは現実だ。
いま、ぼくが、したことは……
強姦以外の何ものでもないじゃないか!
『あの世界』のアンジュに絶対してはならないと言われていたこと。
『あの世界』のガノンドロフがやり放題にやり、奴を倒すべき理由の一つとぼく自身が固く心に
刻みこんでいたこと。
そんな狼藉を──男が女にする最大最悪の犯罪的行為を──他ならないぼく自身が、他ならない
ゼルダに働いてしまうなんて!
『あの世界』のサリアにも働きそうになったことがある。あの時はサリアの制止がすんでのところで
ぼくを思いとどまらせた。ところが、さっきは、ゼルダがあれほどやめさせようとしたのに、
ぼくは耳を貸そうともせず、極悪な蛮行へと突っ走ってしまった!
ゼルダの人格をいっさい無視して!
『もう……だめだ……』
ゆらり──と、リンクは立ち上がった。ほとんど無意識の動作だった。長きにわたった
ゼルダとの仲もこれで終わりだという絶望感が、リンクの心を真っ暗にしていた。
一歩、二歩、足を後ずさらせる。しかし三歩目に持ってゆくことはできなかった。ゼルダが、
顔も上げず──周囲に注意を払っているふうには見えなかったのだが、わずかな気配を
察したのだろう──蚊の鳴くがごとく、
「待って」
と言ったのだった。小声ではあっても、しゃくり上げながらではあっても、その言い方には、
聞く者を否応なく従わせるような真剣味があった。
のろのろとゼルダが上体を起こした。合わせてのろのろと向けられた顔が、リンクに意外の感を
抱かせた。そこに見られるはずと予想していたのは、憤怒であり、怨嗟であり、侮蔑である。が、
泣き濡れたゼルダの顔は、懇願とでも解するほかないしおらしさを呈していたのだった。
さらに、ゼルダの次なるひと言は、ほぼ文字通りの意味でリンクを驚倒させた。
「……ごめんなさい」
聞いた瞬間、がくりと脚の力が抜けた。膝が床にぶつかり、それでも全く痛みを感じなかった。
どうしてゼルダが謝るのかという不可解さにも増して、その言葉自体がとてつもない衝撃となり、
リンクの神経を麻痺させたのだった。
衝撃に囚われっぱなしではいられなかった。ゼルダが言葉を続けていた。
「行かないで……お願い……」
──何だって? もしかして君はぼくが怒ってああいうことをしたと、いや、怒ったのは
事実だけれど、いまだにぼくが怒っていて、それで君から離れていこうとしていると君は思って──
「わたし……リンクなしでは、生きてゆけないわ……」
──しかもまさかそこまで君はぼくを、ぼくにそんな価値なんかあるわけがないのに君はなぜ……
え? ちょっと待て、その台詞──
「リンクと一緒にいるためなら、何でもする……」
──知っている、ぼくは知っている、夢の中で君が言っていた、だったら次は──
「だから……許して……」
──同じだ、全く同じだ、何を許してなのかさっぱりわからないがとにかく君は──
「どうか……」
──いけない! その先を言っちゃいけない!
「わたしを──」
「ゼルダ!」
跳びつく。かき抱く。顔を両腕と胸で包みこむ。
それ以上、ゼルダが何も言えないように。
あの哀しい言葉がその口からこぼれ落ちるのを、どうして放っておけるだろう!
君を捨てるなんて。君と別れるなんて。
できない! できるわけがない!
ぼくは君なしでは生きてゆけない。君と一緒にいるためなら何でもする。だから……
「ごめん!」
そう! これを! ぼくは! 君に! 言わなければならなかったんだ!
あの衝撃。同じ言葉を君から聞かされてやっと気づいた。ぼくは約束を破った自分が悪いと
認めはしたが、一度たりとも謝罪の言葉を君に申し述べなかった!
背中に何かが触れるのを感じた。ゼルダが、だらりと垂らしていた両腕を、優しく抱擁に
携わらせたのだった。謝罪は肯定的に受け取られたのである。
ゼルダに抱かれる喜びが、暗黒だった心に光となって差した。しかし喜びを無心に享受できる
身ではない。まだまだ言わなければならないことがあった。ただ、それはゼルダも同じだったようで、
「わたし……こそ……」
抱擁は保ちつつも、顔をリンクの胸から少しく離し、なおも涙の涸れぬ目に、なおも懇願の情を
湛えて、訥々と語り始めた。
「腹立ちまぎれに……馬鹿なことばかりして……もっと早く、あなたを、許してあげなくちゃ、
いけなかったのに……だけど、あなたが、何も言ってくれないから……」
──そう、ぼくは何も言わなかった。何を言っても無駄だと諦めていた。でもそうじゃなかった。
君はぼくが──ああ、なんと察しの悪いぼくだろう!──謝るのを待っていたんだ!
それにしてはなんとも謝りづらい態度の君だったし、ぼくが自発的にそうするのを望んでか、
そうしろとはひと言も口にしなかったけれど、謝る機会はちゃんと与えてくれていた。毎度の
食事をわざわざ食堂でぽくと一緒に摂っていたのはそのためだったんだ! つまり──
「それで……わたしも、むきになって……ますます、馬鹿みたいになって……筋の通らないことを
言って、あなたをいじめて……自分でも、馬鹿だって、わかっていたけれど……どうにも、
ならなくて……」
──つまり君が求めていた別次元の「何か」とはまさにそれであって、ぼくの「謹慎」ぶりに
満足していないことを禁欲の条件強化でぼくに気づかせようとして、なのにぼくが鈍感な
ものだから、どんどん条件を強化するしかなかったと──
「その上……しょんぼりしているあなたを見て……心の中では……ああ、ごめんなさい!」
急にゼルダが声の調子を高めた。
「いい気味だとか思ったりもしたの! わたしってほんとうにひどい女だわ!」
「違う!」
反射的に大声が出た。あとは言葉が止まらなくなった。
「君が悪いんじゃない。確かに君のやり方にはおかしなところがあったけれど、それだってぼくの
せいなんだ。ぼくが君を追いつめたんだ。ぼくが言うべきことをさっさと言いさえしていたら、
いや、そもそもぼくが約束を破ったりしなかったら、こんなふうにはならなかったさ。だいたい、
「ひどいとか言ったら、ぼくの方が何千倍も何万倍もひどいことを君に──」
「違うの!」
返される。
「わたしがあなたをあそこまで追いつめたんだわ。そうでなかったらあなたも決してあんなことは
しなかったはずよ。あれはわたしの自業自得なの。馬鹿でひどいわたしに下されて当然の罰だったの!」
「罰だなんてそんな! 悪いのはぼくだ!」
「いいえ、わたしよ!」
「ぼくだよ!」
「わたしよ!」
「ごめん!」
「ごめんなさい!」
「ごめん!」
「ごめんなさい!」
「ごめん!」
「ごめんなさい!」
詫びの応酬は、やがて、自然に、二人ともが口を別の形で使う行為──接吻──へと変移していった。
許し、許された者同士のそれは、リンクを恍惚境へといざなった。
飲食に使う器官はめったなものには触れさせられない。にもかかわらず、進んで触れさせられる
くらい自分は相手を許容しており、同時に相手も自分を許容している。ただ唇を合わせている
だけで無上の幸福に浸ることができる。
過去、無数回の口づけをゼルダと交わしてきた身にすれば、いまさらながらの感慨である。
しかしそれが真実なのだった。あたかも二人がする初めての口づけであるかのように感じられていた。
ある意味、そのとおりなのかもしれない──と、リンクは思った。
ゼルダとの約束を破るなど、『あの世界』にいる時のぼくなら、絶対にやらなかっただろう。
ところが、平和な『この世界』で暮らすうちに知らず知らず心が緩んで、生きてゆくために多少は
必要な知恵というか狡さというかをいつの間にか会得して、そして何より、ゼルダがくれる愛に
慣れてしまって、これくらいならいいだろうと高を括った結果があの約束破りだった。
間違っていた。
誠実な上にも誠実であらねばならないゼルダに対し、まことにぼくは不誠実だった。
加えて、いかに謝りづらい態度のゼルダだったにせよ、それを言い訳にして真摯な対応を怠った
ことについては、臆病、逃避と蔑まれてもしかたがない。
悔い改めよう。
初心に返って、ゼルダとの愛を築き直して、そうして、ぼくたちは──
『けれど……』
唇を離す。ゼルダの顔が眼前にある。涙の跡を残しつつも、その顔は陶然とほころんでいる。
「ゼルダ」
と呼べば、
「なあに?」
うっとりとした声が返ってくる。ゼルダも恍惚境をさまよっているのである。
しかしリンクは現実に片足を踏みとどまらせていた。どうしても思い捨てにできない点があった。
「やっぱり、謝っただけじゃ、足りないよ」
「どうして?」
「君にあんなひどいことをしたんだから」
「でも──」
「あれがたとえ君への罰だとしてもさ、だったら、ぼくは、もっと罰を受けないと」
しばし黙したのち、
「わたしね」
おもむろにゼルダは口を開いた。
「あなたに、あんなふうにされても、心のどこかでは、嬉しかったの」
当惑した。
「だって、あなたの夢に出てきたのは、わたしなんでしょう?」
言われて思い至る。
(夢で見たままのことをやってやる)
そんな意味の台詞をぼくは口走った。だから君は知っている。ぼくの見たのが君の夢だという
ことを。のみならず、ぼくが夢の中で君に──必ずしも現実と同一ではないにせよ──どういう
種類の仕打ちをしたかということも。
どんなにひどい内容であっても、自分を夢にまで見てくれるぼくであるのが嬉しい──と、
君は言うのか?
どんなにひどい仕打ちであっても、自分を夢にまで見てくれるぼくにされるなら嬉しい──と、
君は言うのか?
ことさら気持ちの一部を取り出して述べているだけなのだろうけれど、それにしても、ああ、
それにしても、なんと寛大な君だろう。寛大すぎる。君はぼくを想うあまり、あばたもえくぼ
どころではすまないくらいになってしまって──
『いや……』
そこまでぼくは君に想われているということ。
もって瞑すべしとしなければならない。
それに、ぼく自身、似たような嬉しさを感じないでもないのだ。
本人が馬鹿だと自嘲するように、このところのゼルダの振る舞いは、ゼルダらしからぬ
ものだった。いつもの彼女なら決してあんな理不尽を通そうとはしなかっただろうし、あんな
意地悪もしなかっただろう。それはゼルダがめったに見せない人間性の狂い、人間としての
弱さであって、それをぼくには──ぼくにだけは──見せてくれるというところに、ぼくが
ゼルダにとっていかに重い存在であるかをうかがい知ることができる。あれだけ苦しい目に
遭わされてもそんな感想を持ってしまうのだから、ぼくもたいがいゼルダに参って──
「だけど」
ゼルダの声が思いを堰き止めた。
「そこまであなたが言うのなら、もう一つ、罰を受けてもらうわ」
「いいとも」
「どんなことでもする?」
「するよ」
「いますぐにでも?」
「いますぐにでも」
「じゃあ……」
至純の笑みがゼルダの頬に浮かんだ。
「今度は、優しくして」
にわかに熱いものがリンクの胸を満たした。言葉を出せなくなった。可能なのは唯一、
先ほどのように、否、先ほど以上に固く固く固く固くゼルダを抱きしめることだけである。
どんなに君が寛大であっても、ぼくが罪を犯したという事実は消えない。しかしそれで償える
罪だと君が言うのなら、今回の件を未来永劫にわたっての戒めにすると誓った上で、ぼくは諾々と
君の慈悲にすがろう。
胸の熱感がわだかまりを溶かし、総身の隅の隅まで滔々と広がってゆく。その熱を君も
感じ取ってくれているはず。なぜなら君とぼくとは裸で、そう、わだかまりが溶けてぼくは
ようやくそれを意識できるようになったのだけれど、ぼくは裸で、君も裸で、そんなぼくたちが
こうして抱き合っていたら、ぼくの熱は君に伝わって、そして、ああ、わかる、君の総身をも
燃え上がらせているその熱もぼくに伝わって、なおさらぼくは熱くなって、熱くなって、この熱を
別の形で君に伝えよう君と分かち合おうそうするためには君が新たに下した「罰」をいますぐ、
いますぐ、現実のものにしなければ!
──と、逸る心を抑えに抑え、リンクはそろそろと腰を浮かせた。償いの方法を念頭に置く
ならば、ゼルダを腕の中にしている者として、乱暴の「ら」の字さえ行動に付帯させてはならない
のである。ともに立ち上がったゼルダを、次いでベッドに横たわらせる際も、仰向けではなく
俯せとした。
いまだ臀部の皮膚に赤みは見えるものの、腫れ上がっているというほどではない。そっと左手を
触れさせてみるに、
「あ……」
ぴくりと腰を震わせ、あえかな声を漏らすゼルダではあるが、痛みを感じているふうでもない。
細心の注意を払って手をすべらせる。もしも痛みが残っているようなら、即、触れるのをやめて、
いいや、逆だ、この手で痛みのすべてを拭い去ってやるんだ、との意志が功を奏したか、ゼルダは
微塵も辛苦の気配を示さず、心地よさげに深々と息を吐く。これならよしと判じ、少しずつ按撫の
域を広げる。併せて唇も使う。ゼルダの呼吸は乱れ始め、躯幹は間欠的に痙攣する。いつもより
敏感である。が、その敏感さに乗じて事を急ぐつもりはなかった。複雑精巧な工芸品を扱うように、
腰の、背の、引き返して脚の、再び戻って脇腹の、肩の、腕の、うなじの、なめらかにして繊細な
肌をじっくりと賞翫する。
続いていた痙攣が、随意的な体動に転じる徴候をみせた。意を酌んで、いっとき手と口を
休ませると、ゼルダは身体を仰臥位にした。尻をベッドに接触させても差し支えないとの
打ち明けであると同時に、なにがしかの望みをこめた動きかとも思われた。しかし拙速は
禁物である。そこで背面に施したのと同等の按撫を前面にも施すにとどめた。
ゼルダの反応は顕著だった。唇を合わせるやいなや口をあけ、勢いよく舌を踊らせる。胸では
乳首の尖りようが尋常ではない。下腹部に注目すれば、どうか存分にと言わんばかりの従順さで、
脚を左右に大きく開く。
時期とみてもよさそうだった。ただ、事前にすべきことがあった。
リンクはその身を開かれた場所に正対させ、谷間へと顔を近づけた。視診するに、最前の手荒な
侵入は、幸運にも傷を作らなかったようである。けれども粘膜のひりつき程度はあるやもしれずと
考え、舌による慰撫を行ってやった。
「んんッ……ん……あッ……あぁぁ……」
ゼルダが断続させる呻吟は、明らかに悦びの表白だった。苦痛の一片すら感じていないとわかる。
傍証もあった。リンクはそこへの口接に、奥から滲み出てくる自らの体液を自ら舐め取り、罪の
始末をつけるという目的をも持たせていたのだったが、その必要もないほどなのである。大量に
分泌される愛液が白濁物を洗い流し、それでも尽きずにあたりを冠水させていた。また、
ゼルダ特有の芳香は常時の幾層倍も濃厚で、異臭を完全に駆逐してしまっている。加えて、
陰裂の上端に伏在する雌芯は、ここまでなのは初めて見るというくらいの腫脹ぶりだった。
舌でつついてみる。
「きゃッ!」
ゼルダの腰が跳ねた。ひときわ顕著な反応である。面白味を覚えて操作を繰り返すと、そのつど
叫びを伴って身体が弾んだ。そんな制御不能の運動を強いられながらも、ゼルダはそれを求めて
いるのだった。リンクがひと息でもつけば、やめないでというふうに股間を押しつけてくる。
応じるにやぶさかではなかった。が、真の目標をおろそかにはできない。
リンクは谷あいに舌を戻し、さらに先へと挿入させた。
突然、ゼルダが能弁になった。
「あぁッ! そこよッ! リンクッ! そこッ!」
感度では雛尖に及ばぬはずの鞘内を少しばかり探られただけでそれほど興奮するのは、ゼルダが
そこへの客来を待望しているからに他ならない。しかも──
「もっとッ! あぁあッ! 来てッ! 奥まで来てッ!」
──長さの限られた舌では不可能なことを要求する。つまり可能なものを使えと言っているのである。
本人が望みを明示した上は待機の要もない。当該部を余さず自分自身──それはとうに勃起を
回復していた──で充たしたいとの望みを、もはやリンクも抑えきれなかった。
口戯を切り上げ、身を上方にずらす。至近で対するゼルダの顔は、燃えるがごとくの目と、
紅潮した頬と、せわしなく息をする口に、ありありと欲情を表出していた。ひしと抱擁を図る
両腕も、圧された双丘の頂で硬度を強調する乳頭も、するに最適な位置を定めようとして蠢く腰も、
また然りである。ゼルダのあらゆる身体部分、あらゆる挙動が、いまや一つのことのみを志向して
いるのだった。
抱擁に抱擁を返す体勢をとって、リンクはおのれを進ませた。ただし拙速禁止の縛りは
依然としてあった。粘液にまみれた互いの部分が触れ合い、それだけで痺れるような快感が背筋を
走り、
「あッ! はぁッ! ああぁあッ!」
それだけで惑乱に震えるゼルダの声にもけしかけられて、膨張した肉棒を直ちに叩きこみたくも
なるのだったが、「罰」に付された要件を忘れるわけにはいかないのである。
ゆっくりと──
「あ!……あぁ……ん……んん、んあぁ、あ、あぁぁ……」
ゆっくりと──
「あぁぅ……ぅうぅぅぁあ……はあぁあッ……あんんッ……」
分け入らせるにつれて鮮明となる体熱の炙りに耐え──
「んぅううッ……はぅうぅぁあッ!……んぁぁあッ! リンクッ!」
もぐりこませるにつれてぐんぐん増大する内圧にも耐え──
「ぅああぁッ! 来てッ! あッ、あッああッあああぁあもっとッ!」
どうにか無事に充填を完了させるや、ゼルダはぴたりと発声を止め、呼吸をも止め、きつく目を
閉じ、歯を食いしばり、リンクを抱きしめる腕に甚だしい力をこめて数十秒の強直を演じたのち、
徐々に筋肉を弛緩させつつ、感動の極にあることを告知するように、長い、長い、吐息をついた。
リンクも全身全霊を感動させていた。僅少な身動きさえせずにいるのに、得られる快味は
無限大だった。体表に染み入るゼルダの肌の温かみと、留置したものをきつくきつく包みこむ
挙止に仮託されたゼルダの情熱、そして何より、こうしてゼルダとひとつになることを許された
ぼくなのだという、これもまたいまさらながらの、しかしいまだからこそ、その真実性を
再認できる喜びが、至上の幸福感をリンクに与えていた。
が、いまだ幸福は完結していないのだった。
ゼルダが膣壁を波打たせる。
督促である。
リンクは従った。
いったん退く。改めて忍び入る。
それを繰り返す。
絡みつく襞の強圧には逆らうことになる運動であり、できるだけの緩徐さを心がけた。
ところがゼルダは、まさにその逆らいを冀っていて、
「あぁ……あああ……そう……そうよ……」
うわごとめいた呟きをしたたらせながら、合わせて自らも腰を揺らし始める。出だしは
悠長だったそれが、だんだんと周期を短くしてゆく。せっかく作った和合の形を崩すまいとして
リンクも運動を速める。速すぎてはいけない、無理はいけないと頭の中で何度も唱え、けれども
実際には自制の必要などなかった。
「そうよ!……ああぁあそうよッ!……いいッ! いいわッ!」
独走的に腰の突き上げを激しくし、
「もっとッ! もっとしてッ! リンクッ! ああッあッあぁあッリンクッ!」
声を再びあられもなくするゼルダ。他事をいっさい忘却し、ひたすら高みを目指しているのである。
リンクも遠慮を捨てた。いつもなら緩急をつけて終着を引き延ばすところだが、罰される者は
罰する者の意向に添わねばならない。最大級の速さでゼルダを貫く。ここまで来ればそうするのが
優しさなのだった。
「ぁああぁあッ! もうッ! もうだめッ! リンクッ! リンクッッ!!」
ゼルダの語調が切迫の度合いを強めた。もはや待ったなしである。リンクは刺突を継続させつつ、
決定的な時になるまではと控えていた急所への攻めにも踏み切った。
右の耳に舌を這わせた瞬間、ゼルダは獣じみた叫びを放ち、凄まじい勢いで全身を拘縮させた。
腕に囚われた胴が軋みをあげるほどの、そして下方では挿し入れた器官が押し潰されそうなほどの
圧搾だった。リンクの内で急速に衝動が膨れ上がり、反転不能の奔流を形成した。
限界である。
想いの丈の産物を、リンクは次々に撃ち出した。
発射が終わっても脈打ちは止まらなかった。ゼルダの肉壁は──絶頂に伴う筋肉の不随意的な
作動が長引いているのだろう──収縮を続け、しかもその程度が規則性なく変化するため、
中にあるものが享受する快感は絶大なのだった。
やがて二つの肉体は安静に至った。が、精神の法悦は連綿していた。
ゼルダは抱擁を解こうとしない。ひとつのままでいたいという願望の表れである。それは
リンクの願望でもあった。ゼルダの唇におのれの唇を触れかからせ、あとは従前の姿勢を維持した。
至高の時間が流れていった。
「どういうこと!?」
いきなり怒声を浴びせかけられた。仰天のあまり、リンクの身体は跳ね上がり、平衡を失って
シーツの上に転がった。あたふたと声の方を見れば、ガウンを羽織ったマロンがベッドの横に
立っている。いつしかまどろみに落ちていたためとはいえ、他者の入室に気づかなかった迂闊さと、
たったいま演じた動作の無様さが恥ずかしく、リンクは言葉を口にのぼらせられなかった。同じく
まどろんでいて不意打ちを食らったゼルダも、同じく発語に至れないようである。
そんな二人のうちのもっぱら一方に、マロンの睨みは向けられていた。
「ゼルダ様ったらひどいわ! 抜け駆けするなんて! まだリンクへの罰は終わってないのに!」
それまで一応は使っていた敬語を略するくらいのむくれっぷり。
もっともな言い分と認めざるを得ない。
一時的にせよぼくとのつき合いをゼルダに禁じられていたところ、そのゼルダが自身設定の
期限を無視してぼくと床をともにしたとあっては──現場を押さえられた以上、ごまかしは
きかない──マロンが立腹するのも当たり前だ。
さだめしマロンは、朝食の催促をしに寝室を出たゼルダがなかなか戻らないのを怪しみ、
ここへ捜しに来たのだろう。予想していなければならなかった事態。ところがぼくは──そして
間違いなくゼルダも──マロンの存在を完全に失念していた。それほどぼくたち二人は二人だけの
世界に没入していたのだ。こうしてマロンに闖入され、二人だけの世界は崩れ去ってしまった
けれども、かといってマロンを責めることはできない。「抜け駆け」の点からも、存在を等閑に
付していたという非礼さからも、責められるべきはこちら側だ。
どうする?
こうすればいい──との案をぼくは持っているが、果たしてゼルダは?
もしもゼルダにとって、マロンとの行為が単にぼくへの当てつけだったのなら、ぼくとの関係が
正常に戻った現在、マロンの価値は失われたことになる。しかしゼルダは決してそんなふうに
考えてはいない。ならば……
目をやる。
視線が合った。
それだけでこちらの考えを読み取ったらしく、ゼルダは同意を頷きにしてよこした。次に、
身体を起き上がらせ、マロンの方へ向いてベッドの上に正座し、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい」
先にリンクを驚かせたのと同一の言、同根の殊勝さである。
「あなたを出し抜く形になったことについては、ほんとうに申し訳ないと思います。どうか許して
ください」
これにはマロンも毒気を抜かれたようで、しばし沈黙に陥ったあと、おとなしげな物腰となって
問いを発した。
「あのう……ゼルダ様は、結局……リンクと仲直りしたんですよね?」
「ええ」
「罰はおしまいってことですか?」
「ええ」
「じゃあ、あたしとリンクは?」
「元どおりに」
「いまからでも?」
「いまからでも」
「わかりました!」
マロンの態度が一変した。
「だったら許してあげます!」
満面を笑みにしてガウンを脱ぎ捨てる。現れ出でた全裸の肢体は、どさりとベッド上に倒れこみ、
リンクとゼルダの間にその位置を占めた。
「というわけで、今度はあたしとよ、リンク」
寄せられる顔、絡みつく腕、そして豊満な胸が加えてくる圧力に、にわかな動悸を誘われながらも、
リンクは苦笑を禁じ得なかった。
現金きわまりないといえばいえるけれども、これまたマロンならではの天真爛漫さ。なんとも
憎めない性格ではある。が、ここまでの経過を思い返せば、皮肉の一つくらいはかましてやりたい。
「君はぼくのことなんか忘れたんだと思ってたよ」
「え? 忘れるはずないじゃないの」
「それにしちゃ、ずいぶんとゼルダに夢中だったよね」
「あれは──」
心外そうなマロンである。
「できるだけいっぱい数をこなして、リンクの罰を早く終わらせようとしてたからよ。
気がつかなかったの?」
「あ……」
気づかなかった。全く気づかなかった。それこそがマロンの追い求める別次元の「何か」で
あったとは。
「あら」
ゼルダが口を入れた。
「わたしは出しにされたのかしら」
諧謔的な口ぶりと表情が、真に気を悪くしているのではないことを物語っている。マロンも
その意は感知し得たとみえ、ゼルダに向き直って、
「いいえ!」
と即座に否定しつつも、あわてた様子はなく、真率さが充分にうかがえる声で、あとに言葉を
続けた。
「ゼルダ様も素敵です。一緒にいられてとってもよかったと思ってます。だから、あたし、
こうして……」
途中で消えた台詞を、リンクは脳内で補完できた。
マロンがぼくとゼルダの間に割って入ってきたのは、二人を分断するためではない。同時に
二人と接していられる場所を選んだのだ。こうすればいいとぼくが考え、ゼルダが同意したことを、
マロンもまた望んでいるのだ。
三者の意向が一致をみたのであれば、なすべきことは、ただ一つ。
リンクは行動に出た。ゼルダも追随した。両側からマロンを挟撃する形になった。といっても、
ごく穏便に、である。放置の憂き目を見させてしまったマロンには、ひたすら奉仕するのが当然の
あり方なのだった。
四本の手と二つの口が、マロンの頭頂から足先までを幾度も逍遙した。探訪が一カ所に集中する
こともあれば、分散することもあった。性感帯は特に重視され、二人が左右の乳房を分担する場面、
あるいは胸と秘所とを別個に担当する場面がしばしば出現した。
相手が一人ならざるまぐわいを初めて経験するマロンにとっては、快感も通常のそれに倍する
もののようだった。絶えず悩乱の叫声を放ち、総身を悶え狂わせ、股間を多量の蜜液であふれさせた。
リンクも高ぶっていた。久方ぶりに触れるマロンの肉体という点もさることながら、三人が
気持ちを一つにしての交歓という点が、リンクを鼓舞し、強健にしていた。
その強健さを如実に示すべき時が来た。
互いが側臥して向かい合う体勢をとり、リンクはマロンに攻め入った。三度の射精は興奮を
なんら阻害しておらず、しかし興奮を容易には爆発させない方向にも働いたので、長時間の肉交が
可能だった。対してマロンは敏速に興奮の極へと達し、無数の絶頂に見舞われている様態を示した。
ゼルダは後方からマロンを抱き、尻や腿に陰部をこすりつけて自らの性感を高める一方、
前にまわした手で乳房を揉みしだくなど、マロンの性感を高める補佐をもしていた。補佐の
しかたは次第に過激となり、しまいには肛門へ指を挿入する挙にまで至った。
それをリンクは感触で知った。膣と直腸を隔てる薄い肉の壁を通して、淫らな動きが陰茎に
伝わる。間接的にではあれ味わえる奔放な指技が、リンクの興奮を調節困難にした。
マロンの乱れようにも拍車がかかった。そこでの性交は経験ずみでも、二穴をいちどきに
抉られるのは、鮮烈な上にも鮮烈な快さであるらしく、激越な音声と体動によってその快さは
表現された。リンクの一物はもみくちゃにされ、ために興奮は限度を超えた。
三者は究極の満足を共有した。
こうしてマロンは、リンクとゼルダ両人の親友となった。
二人の女性にとって、かたや王族、かたや庶民という身分の差は、いささかも友情の障害とは
ならなかった。生活に違いがあるからこそ、互いの視野が広がるのである。時おりハイラル城に
招き招かれ、飽きることなく話に花を咲かせるゼルダとマロンであり、その際にはリンクも、
もはや蚊帳の外ではなかった。リンクのオカリナとゼルダの竪琴を伴奏にして、マロンが得意の
歌を披露するという、文化的な交流が生まれもした。
肉体的な交流も、もちろん続けられた。別荘では三人が楽しみを分かち合い、ロンロン牧場では
マロンがリンクを迎える。後者に関してゼルダが口を差し挟まなくなったことは言うまでもない。
そんなふうにして、半年ばかりが経った、ある日のこと。
リンクは長旅を一段落させ、久しぶりに別荘でゼルダと二人きりの時間を得た。双方とも欲情を
抑えがたく、日も暮れないうちからの床入りとなったが、脱衣し、さあこれからという段になって、
「ねえ、リンク」
何やら思惑ありげにゼルダが言い出した。
「わたしの胸、ちょっと大きくなったと思わない?」
「ああ、うん、そうだね」
旅の前に見た時よりは確かに成長している。『あの世界』で触れたゼルダのそれには──
年齢差もあることゆえ──いまだわずかに及ばないけれども。
「もうあれができるんじゃないかしら」
「あれって?」
「ほら、あれよ。あなたがマロンとしているっていう……」
思い出した。
とともに、おかしみが湧き起こる。
マロンに対して含むところなど全くないはずのゼルダだが、マロンにはできても自分には無理な
性技があることについては、こだわりを持ち続けていたらしい。
「やってみる?」
「ええ!」
仰向けに寝て、左右の手を両胸の外に添わせて、内側に寄せて──と指図する。いそいそと従う
ゼルダである。その胴を跨いですわり、新設の隘路に怒張を差し向ける。
『あの世界』のゼルダとは、どうにか行えたこと。それよりもやや条件が厳しい、いまの
ゼルダではあるが、不可能事というわけでもなさそうだ。
実際、可能だった。マロンにされる時ほどの包摂感は賞味できなかったものの、乳房の体積が
劣る分、道を保つには両側からの圧迫を強める必要があり、その圧と、圧の作成に頑張るゼルダの
健気なさまが、リンクを感奮させ、一心不乱にさせた。
あっという間に終点へと達する。
乳房に挟まれた陰茎の先端から、おびただしい量の精液が飛び散り、ゼルダの顔面に降りかかった。
それをゼルダは嫌厭しなかった。むしろ、うっとりとした面持ちである。精液を顔にかけられる
という被虐的なありようを、心から悦んでいるのだった。
そう──と、自らも陶酔にあって、リンクは思いを展開させた。
『あの世界』のゼルダも、こうされて、同じ表情をしていた。ゼルダには──ともにあるのが
ぼくだけの場では──被虐を求める性向があるのだ。
ふだん後背位を好むのも、その表れといえる。
そして、半年前の「暴行」においても。
(あなたに、あんなふうにされても、心のどこかでは、嬉しかったの)
夢の件だけが嬉しさの理由ではあるまい。
あの時、ぼくはかなり乱暴にゼルダを貫いたけれども、挿入に支障はなかった。いま思えば、
ゼルダはその時点ですでにそこを濡らしていたのだ。挿入に先立っての緊縛と尻の打擲に性的な
興奮を覚えていたのだ。
おそらくゼルダは、ぼくへの罰を継続させながらも、意識下では、「馬鹿でひどい」わたしを早く
罰して欲しいと願っていたのだろう。「筋が通らないと思ったら、相手が誰であれ、はっきり自分の
意見を述べる」人物が好きなゼルダであるのなら。
とすると、ぼくが夢に見て、しかし実行はしなかった一事──鞭打ち──さえも、ひょっとして、
ゼルダは……
『まさか』
とてもそこまでは行えない。
そもそも悪いのはぼくだったのだ。鞭打たれるとしたらぼくの方──
どきりとした。
縛られた裸体をゼルダの前に跪かせ、その手で鞭打たれるおのれが想像されたのである。
現実にそんな事態が生じるはずはない……が……
奇妙な感覚に襲われてしまう。
『ゼルダにそうされるのなら……』
それが必ずしも不快な感覚ではないことを肯定せざるを得ないリンクだった。
To be continued.