ハイラル城内での情交は原則として禁ずる、というインパの言いつけを、おおむね守ってきた 
リンクとゼルダだったが、敢えてそれに逆らう時も稀にはあった。 
 一例は、リンクがゲルド戦役に出征する直前のことである。永の別れになるやもしれずとあらば、 
何もなしではとうていすまされない。かといって、戦時下では、安閑と別荘に滞在してもいられない。 
そこで、出征を翌朝に控えた深夜、ゼルダは意を決し、人目を忍んで城内にあるリンクの部屋を 
訪れ、リンクも恋人の意を無下にはせず、結果、狂おしいまでに情熱的な一夜とはなったのだった。 
 その際、二人はインパの許可を求めなかった。横槍を入れられれば反駁する心づもりではあった 
ものの、前もって目こぼしを乞うのは──厳格をもって鳴るインパだけに──ためらわれたのである。 
幸い、横槍は入らなかった。二人の密会を見漏らすほど迂闊なインパであろうはずもないので、 
黙認してくれたのだと判じられた。 
 もう一つの例では、いささか事情が異なった。 
 七ヶ月以上にわたったゲルド戦役も終わり、リンクは無事に帰還した。『あの世界』のゼルダと 
『この世界』のゼルダとの合一化も果たされた。となると、久しく会えなかった二人が── 
とりわけリンクにすれば七年ぶりに『あの世界』のゼルダと接することができたわけで── 
愛を確かめる行為に没入したいと願うのは理の当然。とはいえ、戦勝を祝う行事が目白押しと 
あっては、別荘行きもままならない。城内を場とせざるを得ないのだったが、インパの監視は 
相変わらず厳重。再会の日の夜──その時のゼルダは、まだ合一化を迎える前であったけれども 
──祝宴の会場を抜け出し、城の中庭で淫らな振る舞いに及びかけた二人を見逃さず、咳払いで 
牽制したくらいである。 
 そんな具合に前例と似た状況で、しかしゼルダは前例のとおりのゼルダではなかった。 
 インパに対し、臆することなく、 
「今夜、わたしはリンクの部屋で過ごします」 
 と言い切った。 
 依願ではない。通告である。 
 インパも否とは言わなかった。国の難局に瀕して、一時的にではあれ離別を余儀なくされた 
恋人たちが、久方ぶりに相和するのを、もともと許してくれる腹ではあったのかもしれないにせよ、 
ゼルダの直截さに固い意志をうかがい知ったからこその計らいでもありそうだった。 
 リンクは成りゆきを喜ぶ一方で、ゼルダの口ぶりに一種の懐かしさを覚えずにはいられなかった。 
 直截なのは王女の威厳の発露ともいえたし、戦争終結による気分の晴れが加味されているとも 
解釈できた。が、そこには、七年間、リンクが馴染んできた『この世界』のゼルダにはない── 
難局と呼ぶ程度ではすまされぬ苦闘の数々を経た『あの世界』のゼルダのみに表出し得る── 
強靱さが感じられたのだった。  
 
 そののちも、折りに触れて『あの世界』のゼルダは顕在化した。 
 インパ以外の人々に悟られぬよう注意した上で、リンクとゼルダは二人だけの時間を持った。 
リンクは猛り立ち、いとしいひとの前門に二度、口と後門にそれぞれ一度、熱した体液を注ぎこんだ。 
ゼルダも受け役に甘んじてはおらず、リンクの精を残らず搾り取ろうとするかのごとく、盛んに 
肢体を躍動させた。 
 ようやく情動が治まったあとは、互いに相手を腕の中に置いて、静かな触れ合いを楽しんだ。 
 ややあって、 
「あら?」 
 リンクは不審げな声を聞いた。見ると、ゼルダが自己の身体を──特に腹部を──まじまじと 
眺めている。 
「どうしたの?」 
 と問うに、思いもよらない答が返ってきた。 
「わたし、太っているわ」 
「え? どこが? 戦役前と少しも変わってないのに」 
「そうじゃなくて、『あの世界』のわたしと比べての話よ」 
 ゼルダの脳内では『あの世界』の記憶と『この世界』の記憶が統合されている。しかるに肉体は 
『この世界』のゼルダのもの。それに対して『あの世界』のゼルダが抱いた感想なのだ。情欲が 
充たされて初めてそこに気づいたということらしい。 
 納得できなかった。 
「いいや、『あの世界』の君にしたって、いまの君と同じだったさ」 
「まさか!」 
 ここでも「強靱」なゼルダである。 
「あなたが最後に『あの世界』のわたしを見たのは七年も前でしょう? 厳密に同じだとは 
言えないはずよ。わたしの方はきのうまで『あの世界』のわたしでもあったんだから、間違えようが 
ないわ」 
 なるほど、理屈は通っている。自分の身体のことは自分がいちばんよくわかるだろう。 
考えてみれば、食に全く不自由していない『この世界』のゼルダと、粗食を常とした『あの世界』の 
ゼルダ──実際にはシークだったのだけれども──とでは、肉づきに差があって当たり前。 
だが、あるにせよ、その差は微々たるものだ。何と主張されようと、いまのゼルダには肥満の 
徴候さえないとぼくは断言できるし、ゼルダがそんなことを気にする必要もありはしない。 
 ──と説いてみても、おそらくは無駄。この種の事柄に敏感なのが女性の特質だ。 
「じゃあ、仮に太っているとして──」 
「『仮に』じゃないの。太っているの」 
「わかったわかった。で、太っているならどうするんだい?」 
「痩せないと」 
「どうやって?」 
「泳ぐわ」  
 
 数年前に流行の端緒が開かれた水泳という運動は、当時、城下において、すっかり人々の生活に 
溶けこんだ習慣となっていた。 
 初めは天然の池を場としていたが、利用者の増加に伴い、それでは狭すぎるという世論が興った。 
プールと称する人工の池が造られた。さらに種々の要望がその規模を大きくした。まず更衣室や 
手洗い所、次いで休憩所、飲食店、みやげ物屋、果ては旅館までもが併設された。いまや 
一大娯楽施設である。 
 流行の発端が美容目的だったこともあって、泳ぎに興ずるのはもっぱら女性だった。 
ハイラル城で暮らす女官たちの中にも嗜好者は少なくなかった。いちいち休みを取って町へ 
行くのは面倒だから城内にもプールを造れ、との声を彼女らは上げた。上層部も、頻繁に休まれて 
業務に差し支えが生じるよりは福利厚生を充実させた方がよい、と判断した。かくして始まった 
工事は、しかし、ゲルド戦役が勃発したため、中断を余儀なくされていた。 
 これをゼルダは再開させた。いくら泳ぎたくとも気軽く町のプールへ出かけるわけにはゆかず、 
また戦争による混乱の収束を図るべき時期では過去に遊んだハイリア湖へも赴けず──たとえ 
それが可能となっても赴けるのはせいぜい一年に一度──というゼルダにすれば、城内居住者用の 
プールができるのは実に好都合なのだった。 
 リンクは工事の詳しい経過を追えなかった。戦場となったハイラル平原西方の復興状況を 
調査するようゼルダに依頼され、城下町を離れたからである。一ヶ月後、復興は順調との吉報を 
携え、ハイラル城に戻ってみると、工事は早くも完了目前となっていた。特に急がせたわけでは 
ないとゼルダは言ったが、王女の熱意に影響された結果であろうとは容易に想像できた。けれども 
それを権力の濫用だと批判する気は毛頭なかった。女官らは無論この施策を支持していたし、 
戦争が城中の人々に及ぼした心労を癒すには妥当な方法といえたし、リンクにとってもゼルダの 
水着姿を鑑賞できるのはまことに欣快なことだった──のだが…… 
 水泳が女性たちの間で常識となるにつれ、男性の中にも水に身を浸したがる者が現れ始めた。 
保守的な人々は事態を問題視した。泳ぎ手は水着を着用するが、肌の露出は避けられない。 
そんな格好をした男女が一つ所で泳ぐのは、風紀上、感心しかねる、と彼らは苦言を呈した。 
これは真実の一端を突いていた。泳ぎを志向する男の動機の少なくとも一部は──リンクも 
そうであるように──水着の女を眺めたいというものだったし、逆に、自分の身体で男を 
惹きつけたいと望む女もいなくはなかったのである。もっとも、水泳は健康増進の手段であって、 
風紀の観点から評するのは不適当だ、との正論──別の表現をすれば綺麗事──を庶民の大方が 
支持したため、特に紛糾もなく町のプールは男女共用となった。ところがハイラル城では、 
そこにこそ保守派の多くが居ついていたせいで、プールは女性専用と決められてしまった。 
男の視線を欲しているとは思われたくない女官たちも、まだほとんどが水泳熱に染まっていない 
男官たちも反対はせず、ゼルダもそれに同意したのだった。 
 リンクは落胆した。 
 が、他ならぬゼルダから救いの手が差し伸べられた。王女という立場では多数者の意見を 
採るしかなく、個人としても不特定の男の目に我が身をさらしたくはないから、プールの 
女性専用化に賛成はしたけれども、あなたにだけなら二人きりの場所でこっそり水着のわたしを 
見せてあげる──と約束してくれたのである。 
 たちまち落胆は歓喜に変わった。  
 
 日ならずして機会は訪れた。戦後処理が軌道に乗り、多忙だったゼルダにも時間の余裕ができて、 
恒例の別荘行きが──すなわち「二人きりの場所」の確保が──可能となったのである。 
 リンクの期待は高まりきっていた。鑑賞の対象が大幅に増えていたのだった。 
 当初、一軒のみだった水着業者は、水泳人口の拡大に伴い、三軒に増えた。各々が業界の 
トップを目指し、独自に商品の意匠を工夫するなど、激しい競争を演じている。ゼルダは、初めて 
ハイリア湖を観光するにあたり水着を買い求めた古参の業者から、過去にそうした経緯があると 
いうだけの特に深くもない理由で、今回のプール落成に先立ち、またも水着を購入していたが、 
業者の方はそれを奇貨とし、自店を「ハイラル王家御用達」と宣伝して、大いに売り上げを 
伸ばした。そのお礼の品を、ちょうど業者が献上してきたので、これから行く先に運ばせてある 
──と、別荘訪問の間際にゼルダはささやいたのだった。 
「まだ中身は見ていないの。でも、聞いたところだと、選りすぐりの水着を取り揃えてあるんですって。 
売れ行きのいいものとか、最新のものとか、試作段階だけれど一押しのものとか。あけてみるのが 
楽しみだわ」 
 それを楽しみとする点ではゼルダ本人以上と自覚し、また、その意をいまさら体裁ぶって 
隠すつもりもないリンクだったので、別荘に着くとすぐ、期待の実現を所望した。 
「せっかちなのね」 
 と、たしなめるようにゼルダは言い、しかし満更でもない様子で承諾した。 
 くだんの品々は一つの荷物にまとめた形で寝室に置いてあるとのことだった。二人はそこへ 
向かった。が、当の部屋に入ったのはゼルダだけで、リンクは隣室に取り残された。身に纏う 
ものをさまざまに取り替えたゼルダが、そのつど披露しに現れるのを待つのである。勿体ぶった 
やり方とは思われたものの、更衣の現場をじかに眺めるのはかえって風情に欠けると考え、 
リンクはソファに腰を置き、わくわくしながら時が早く過ぎるよう願った。 
 願いは通じ、ほどなく寝室のドアが開いた。リンクは現れたものに見入った。 
 瞬きを忘れた。胸の鼓動が倍速になった。 
 さもあろうと想像していた姿である。にもかかわらず興奮を禁じ得ない。 
 胴だけが桃色の薄い布でぴっちりと包まれている。四肢はつけ根から先端まで素肌のまま。 
三年前、ハイリア湖でゼルダが生まれて初めて泳いだ時の水着と同様の型、同様の色調だが、 
すべてが同じというわけではない。サイズが以前よりも大きくなっている──のはゼルダが大人に 
育っているせいだから特に云々する必要もないのだけれど、問題は水着の中身、つまり育ちの 
具体的内容であって、身長の伸びもさることながら、三年前と比べたら胸だの尻だのが一段と 
張り出していて、震いつきたくなるほどみごとな曲面を形作っていて、着衣の下にあるその実体を 
一刻も早くさらけ出させて目に焼きつけて隅から隅までまさぐりつくしてやる、とゼルダの裸には 
慣れっこのはずのぼくを改めて高ぶらせるだけの力をこの水着という不思議な服は持っている── 
「どうかしら、これ」 
 訊かれて我に返る。 
「え? あ、ああ、うん、そうだね、何というか……」 
 思っていたとおりを述べるわけにもいかない。あわてて観察し直すに、いくつかの点が目を 
引いた。 
 布と皮膚との境に細かい模様が見える。刺繍で縁取りをしてあるようだ。全体の色相も一様では 
なく、微妙な濃淡が認められる。控えめながらも風雅な趣。 
 本来は泳ぐための実用性さえあればいい水着なのに、最近では見栄えも重視されるのか── 
といった流行への無知を暴露する所感はひとまず措き、そうした特徴が好ましく、また着用者に 
よく似合っている、との意味をこめた賛辞を、ただし、かなりの程度にたどたどしい語調で口から 
送り出す。それでもゼルダは満足げだった。聞けば、その水着は寄贈された分ではなくゼルダが 
買い入れたもので、ゆえに自身の美的感覚を褒められることになるのが嬉しいのだろうと察せられた。  
 
 ゼルダ購入の水着はもう一つあった。次に公開されたそれは、形状こそ第一のものと類似して 
いたが、色においては対照的だった。深みのある紺。漆黒にも近い。先の水着の桃色がいかにも 
可憐に印象されたのとは異なり、沈静的な濃彩さがしっとりと大人の雰囲気を醸し出していて、 
なおかつゼルダの美の一大要素である肌の白みをいっそう強調していて──などと意識は 
相変わらず尾籠な向きに漂う。しかし服地自体への関心も妨げられはしなかった。 
 色合いは均一なのに単調さを感じさせない。表面が微細な輝きを帯びている。光を反射する 
特殊な糸を織りこんであるのだろう。水着といえどもファッション性を追求するのが、やはり 
昨今の風潮らしい。 
 その追求が思った以上に先鋭的であることを、続けて見せられたとりどりの展示物── 
業者寄贈の分──によってリンクは知った。ゼルダが自分で選んだものはごくごく地味な 
部類なのだとわかった。鮮やかな原色が複数種を組み合わせる形で使われている。組み合わせ方も 
さまざまで、抽象的な幾何学模様であったり、鳥の羽や獣の毛並みを模倣するかのようであったり、 
咲きほこる花々を描いていたりと、美術品さながらの華やかさ。あまつさえ──リンクにとっては 
喜ばしくも悩ましいことに──布地を節約してある。言い換えれば、肌の露出がふんだんなのだった。 
 あるものは背中が半分ほどもあらわになっている。 
 あるものは胸の谷間が現れかかっている。 
 下端のラインが腰骨のあたりまで切れ上がったものもあった。長い脚がひときわ長く見える。 
素晴らしい。もっとも注意は否応なく幅の狭い股間の部分に向かってしまう。 
 さらに甚だしきは──ゼルダによればそれが目下の流行とのことだったが──一着のはずの 
ものが二つに分離していた。隠されているのは胸まわりと腰まわりだけ。その中間は丸出し 
なのである。 
 リンクは言葉を失った。 
 こんな格好で泳ぐのがいまの流行りだと? 露出が多いほど水泳達者のゾーラ族に近くなって 
好都合との理由づけ? 同じく臍までをさらすゲルド族の衣装を参考にでもした? いずれにせよ、 
これは奇抜すぎる。泳ぐための服という本分を逸脱している。男を発情させるのが目的だとしか 
思えない。実際、ぼくは刺激されまくって、一物に血潮が滾るのをどうにもできない。 
 ゼルダの態度も解しかねる。購入した水着の上品さ、おとなしさからすれば、派手なものや 
きわどいものは好みの外と思われるのに、むしろ嬉々として着用している。特に恥ずかしがっても 
いない。いかなる心意のなせる業か。 
『ひょっとすると……』 
 水着を購う際、大胆なデザインのものもひととおりは目にしていて、実はそっちにも大いに 
興味があって、しかし王女としては分別に欠けると思われそうな品に手を出すのが憚られて、 
心ならずも無難な方を──それも決して悪くはないにせよ──選んだ、というのが実情では? 
だから献上品を「あけてみるのが楽しみ」だったのでは? 
 そうに違いない。でなければこれほど危なっかしい姿に堂々となったりはすまい。よさげに 
見せようと企んでか、軽くポーズをとりさえしている。「自分の身体で男を惹きつけたいと望む女」 
だったのだ、この王女様は。もちろん惹きつけたい相手は──ありがたくも──ぼく一人だけ 
なのだが。 
 ともあれ、ゼルダがそんなふうに流行を進んで取り入れるのなら、ぼくも奇抜だなどと 
保守論者よろしくあげつらったりはせず、素直に惹きつけられようじゃないか。 
 開き直ったところでゼルダが言った。 
「次の分が最後よ」 
 もう終わりなのか。せっかくこっちがその気になったというのに。 
 ──と、愚痴ってもしかたがない。あとに心が残らぬよう、せいぜいとっくりと拝ませてもらおう。  
 
「どんなのだい?」 
「その包みを開いていないから、よくはわからないけれど、開発したての最新様式だと目録には 
書いてあったわ」 
「まだ世間には出まわっていない水着?」 
「そういうことね」 
 つまりゼルダは流行を先取りするわけだ。 
 見たい。ぜひ。 
 ゼルダも着る気満々の様子で寝室に消えた。 
 リンクは待った。 
 待った。 
 待った。 
 待ちくたびれてきた。 
 おかしい。これまで着替えにさして時間はかからなかった。なぜ今回に限ってこんなに待たせる? 
焦らしているのか? それとも何かの事情が? 急に体調でも崩した? 声をかけてみた方がいい? 
 ソファから腰を浮かせようとした、ちょうどその時、開扉の音がした。すわ、と見守るリンクの 
前に登場したのは、奇妙なことに、ゼルダの全身ではなかった。頭部だけをドアの隙間から 
覗かせているのだった。 
 不審に思いつつ、 
「どうしたの?」 
 と問う。返事はない。困り果てたような顔をするのみのゼルダである。 
「早く見せて」 
 催促するに、 
「それが……その……」 
 声は発せられたが、期待を充たすにはほど遠かった。 
「……見せられないわ」 
「なんで?」 
「……小さすぎるの」 
 ますます不審が募った。 
「他のはぴったりの寸法だったのに、一つだけ小さいってのは変だな」 
「寸法が合わないわけじゃないのよ」 
「じゃあ、何が小さいんだい?」 
 声が途絶える。 
「寸法が合うんなら、着られることは着られるんだよね?」 
「……ええ」 
「いまも着てるんだよね?」 
「……ええ」 
「だったら問題はないだろう? どうして見せ渋るのさ」 
「……はみ出すの」 
「何が?」 
 またもや声が消え、しばしののち、かぼそくなって再帰した。 
「……け」 
 それが「毛」のことだとわかるまでに多少の時間がかかり、髪なら最初から出しっぱなし 
だったが──と間抜けな感想をも一瞬ながら抱いてしまったものの、結果、ようやくリンクは 
理解に至った。 
 股の部分が狭くなっている水着があった。いまのも同種の型で、ただ、狭さの程合いが幾分か 
増しているだろう、ゆえに陰毛がはみ出すということなのだ。しかしここまで来てその水着を 
見られないのも遺憾。どうにか折り合いをつけたいものだが。  
 
 頭をひねるまでもなく一案が浮かんだ。 
「剃れば?」 
「え?」 
「毛がはみ出すのが困るなら、剃ればいいんじゃない?」 
「そうね、でも……」 
 ゼルダは思案の態となった。理に適った方法と了解しつつもためらっているようだった。 
 さらに押す。 
「ふだん腋毛は剃ってるだろ? それと同じさ」 
 効果があった。ゼルダは頷いた。ところが、次いでリンクは喫驚する羽目になった。 
「あなたが剃ってくれる?」 
 予想もしなかった発言である。 
「……ぼくが?」 
「ええ」 
 本気らしかった。上目遣いの表情が、いかにも助けを求めるふうだった。薄く頬を染めるさまに 
胸をくすぐられもした。 
 けれどもにわかには承服しがたい。 
「自分で剃れないの?」 
「剃刀を使い慣れていないから」 
「腋毛は?」 
「侍女にやらせているの」 
「『あの世界』の君は剃刀を使ってたじゃないか」 
「『あの世界』でも下の方には手をつけなかったわ。そっちは勝手が違っていそうで、うまく 
やれるかどうか心許ないのよ」 
 もっともな言い分ではある。顔を間近に寄せられない場所ゆえ、細かい作業をするのは 
難しかろう。誰かに任せた方が安全かもしれない。とはいえ、その「誰か」がぼくだとは…… 
「そんな所、侍女にだってあからさまには見せられないでしょう? あなたにしか頼めないの」 
 確かに、ゼルダのそこをまじまじと注視できる立場の者は恋人であるぼくだけだ。他人の陰毛を 
剃った経験などはないが、毎日の髭剃りで剃刀の扱いには通じている。この別荘にも持参して 
いるのですぐにでも実行が可能。そして── 
「お願い」  
 何より、ゼルダにそうまで言われたら断れない。 
「わかった。やるよ」 
 安堵とおぼしきかすかな笑みをゼルダは頬に浮かべた。が、 
「じゃあ、いまどんなふうなのか見せてくれない?」 
 とつけ加えるや、再度、ためらいの色がそこに戻った。 
「どれだけはみ出してるか確かめておかないと、剃る範囲を決められないだろう?」 
 論理的な提案をしたつもりである。しかるにゼルダは迷っている。 
 腑に落ちなかった。 
 どうして尻込みするのか。着替えに時間がかかったのもそのせいらしいが、さっきまでの 
積極的な振る舞いとは差がありすぎる。なるほど、他者には見せづらかろう。ただし、ぼく以外の 
人物に対してならば、だ。そこを何度も生で見ているぼくしかここにはいないのだから、 
ちょっとぐらい毛がはみ出していても、いまさら気にする必要はないはず。実際、剃毛すると 
なればそこをすべてさらすことになる。それをゼルダは自ら求めたのだ。はみ出し程度に 
こだわるのは矛盾している。 
 ──との内心をあたかも読み取ったかのように、 
「いいわ」 
 神妙な顔でとうとうゼルダは受諾した。覗いていた頭部が寝室に引っこみ、短い間ののち、 
ドアを広げて全身が現れ出でた。  
 
 後ろ向きだった。 
 おかしな現れ方だとか、なおもそこを直視されたくないらしいとかいう思考は、瞬時にして 
脳から飛び去った。驚愕のみがリンクを支配した。それほど突拍子もないゼルダの姿だった。 
 細い紐が一本、腰の部分を横に走り、その中央からもう一本の紐が下に別れて両脚の間に 
消えている。両の尻の丸みがほぼ完全に視認できる。上背と項にも各々──長い髪に隠れ気味では 
あるけれども──横向きの紐が垣間見える。それだけである。とうてい衣類とは呼びがたかった。 
おまけに、紐が白いため、同じく色白の肌に紛れてしまい、何も着ていないのではないかと 
錯覚しそうだった。 
 ものも言えずにいるうち、ゼルダがその身を半回転させた。肢体の前面が視野に入った。 
 さらなる衝撃! 
 そちらの側ではさすがに紐のみならず布が使われていた。もっとも、かなり切り詰められた 
使われ方ではあった。問題の箇所は、一応、逆三角形の白布で覆われているが、下端は相当に 
鋭角的。恥丘が──ひいてはそこに茂る金褐色の縮れ毛が──左右に分かれた形で顕然と 
露呈している。 
 かくなるありさまだと聞かされていながら、いざ目の当たりにすると動揺を抑えられない。 
 全部が見えているよりも格段に猥褻だ。ゼルダもそのように感じたのだろう。披露を 
ためらったのも当然といえる。 
 しかしなぜそう感じてしまうのか。丸見えの方がもっと煽情的であるはずなのに。 
 中途半端な状態がもどかしく思えて余計に妄念をかき立てられるのか。 
 隠そうとしても隠しきれないためにいや増す羞じらいが淫らさを増強するのか。 
 どっちにしろ、こんな眺めは耐えがたい。猛り立つ股間をどうにかしたくてたまらなくなる。 
かといって他に目を転じても事情は変わらないのだ。逆にいっそう刺激を受けてしまう。 
とりわけ胸。両腋と両肩をめぐる紐に繋がる、やはり白い──ただしそこでは頂点を上にした── 
三角形の布片が、二つの隆起にかぶさってはいるが、面積の狭さは恥部のそれに劣らない。 
かろうじて乳首とその近辺は被覆されているものの、乳房の形状がはっきりと見てとれる。通常の 
下着を大きく上まわる露出度。いくら水着でもこれで実用になるのか。泳ぐのにここまでする 
意味があるのか。いっそルトのように裸で泳げばいいではないか。にもかかわらず、こうも過激な 
「衣服」が存在するのは、先に得た印象のとおり、男を発情させるのが目的だとしか── 
「あの……」 
 ゼルダがおずおずとした調子で呟いた。 
「この水着は……わたしが選んだわけじゃなくて……あくまでも……貰い物で……」 
 こちらがあきれているとみての弁解だ。自ら欲した格好ではないと。それは事実。だが言葉の 
ままには受け取りがたい。ほんとうに着るのがいやならいやと主張すればいいのに、毛の 
はみ出しを気にしこそすれ、着用自体をゼルダは拒んでいない。はみ出しさえなければ着るに 
やぶさかではないのだ。だから剃毛を承知した。そうまでしてこの「発情水着」を着たがるのは 
どう考えてもぼくを悩殺するためだと── 
『待て待て』 
 勘繰りすぎかもしれない。これが水着の正統な進化なのかもしれない。流行に疎いぼくが世間の 
常識に──そしてゼルダの現実適応性に──ついていけていないだけともいえる。ぼくも現実に 
適応すべきだ。 
「とにかく……始めようか」  
 
 髭剃り道具を取りにいったん部屋を出、戻ってみると、ゼルダは椅子に腰かけていた。下半身が 
裸だった。手まわしよく準備を調えていた──というより、はみ出すくらいなら剥き出しの方が 
まだいいと考えてのことらしい。どこかしら緊張が減じたように見える。露出が増えて安心する 
奇妙な心理を、けれども奇妙ではないと納得しつつ、リンクはゼルダの前で床に膝をついた。 
剃刀を手にすれば、何も言わぬうちから相手は背もたれに胴を預け、腰を押し出し気味にし、 
静かに脚を開く。そこに展じられるものは常のごとく実に蠱惑的だったが、過度の動揺は 
生まなかった。眺め慣れた対象であることに、リンクもまた、何とはない安心感を覚えていた。 
動揺などしていられない場面でもあった。 
「動かないで」 
 と声をかける。点頭し、両眼を閉じるゼルダ。 
 リンクは作業に取りかかった。繊細な場所である。傷の一つだにつけてはならない。かなりの 
慎重さが要求される。自ずと雑念は払われた。 
 丁寧に、丁寧に──と、繰り返しおのれに言い聞かせながら、わずかずつ繁茂の域を狭める。 
 やがて適切と思われる加減になった。 
「できたよ」 
 ゼルダは目をあけ、真剣な眼差しを下に向けた。眉根に皺を寄せている。寄せたままである。 
満足のようには見えなかった。 
「もう少し剃った方がいいんじゃないかしら」 
「大丈夫だって。もうはみ出さないさ」 
「でも、身体を動かして水着がずれたりしたら……」 
 それも想定している。心配しすぎだ。しかし不安がる気持ちはわからないでもない。ここは 
言うとおりにしてやるか。 
 作業を追加する。 
「これならいいよね?」 
 合意は得られなかった。 
「もう少し……」 
 さてさて、厄介な。不安がるにもほどがある。こうなったら── 
「じゃあ、全部剃るよ」 
「えッ?」 
「それで万事解決さ」 
「ちょ、ちょっと待って、全部だなんて──」 
「そうすりゃ絶対にはみ出さないだろう? 違うかい?」 
 改めての論理的提案である。そして論理を受け入れるだけの知性は充分に備えているゼルダである。 
暫時、逡巡するふうではあったものの、結局、 
「わかったわ。いいようにして」 
 と諾い、再び目を閉じた。 
 委ねに応じて務めに戻る。どれほど剃るか、どれほど残すかに留意せずともよくなった分、 
事は単純化した。が、気を抜くわけにはいかない。粘膜との境へもくまなく刃を届かせる必要がある。 
先にも増しての集中をリンクは自らに課した。  
 
 甲斐あって、無事に作業は終了した。 
 肌の至近に寄せ続けていた顔を引き、仕上がりを確かめる。 
 途端に心臓が動悸を打ち始めた。 
 集中が解けた状態でその部の全貌を目にし、いまさらのごとく、自分の行いの結果に情感を 
そそられたのだった。 
 他ならぬゼルダの隠し所──というだけでは説明できない妖しげな震えをぼくの心はきたしている。 
作業中は鎮静に傾いていた股間が、またもや岩のように硬直している。どうして? 何がぼくを 
こんなにもいきり立たせる? ゼルダがまだ幼い少女だった頃のようなつるつるのそこに当時の 
あんなことやこんなことを想起させられるから? それもあるだろう。しかし懐かしさのみではない。 
妙に新鮮なのだ。毛を欠く点では子供っぽいのに実態は大人の性器という不均衡さ。なめらかな 
斜面に一筋の谷が刻まれている概形は同じだけれども、細っこい身体つきだったあの頃に比べて、 
全身が適度に丸みと柔らかみを帯びたいまでは、谷の両壁も脂肪を蓄えてふっくらと盛り上がって、 
また谷の内は熟れたある種の果実にも似る複雑な構造を呈していて、それは人としての正常な 
発育の結果なのだが、性の愉楽を知った女であればこそのなまめかしさとも言えそうで、実際、 
谷底は女が悦びを求める際に分泌する液体を湧き上がらせ始めていて── 
『ん?』 
 濡らしている? ゼルダが? そこを? 
 リンクは目を凝らした。見間違いではなかった。加えて、最も快に敏い粒状の器官が、包皮を 
めくり返らせんばかりに腫脹している。 
「リンク……」 
 呼ばれて声の方に視線を移せば、いつしか目蓋を上げたゼルダが、双眸にも潤みを滲ませている。 
 性的な興奮状態にあることは明白だった。その興奮に共鳴してくれとの訴えが、呼びかけの 
あとの無言に凝縮されてもいた。 
 さもあろう。他ならぬぼくに隠し所を熟視され、加えてそこを──正しくは周辺部だけとはいえ 
──執拗に触られていたのだ。だが、他にも理由があるのでは? 興奮の質がどことなく 
いつもとは違う。以前には知らなかった何かを知ったとでもいったふうな。何を知った? 
ゼルダにとって何が斬新だった? 毛を剃られたこと? 自身の不均衡さにゼルダも情感を 
そそられた? どんな情感? 毛を剃られるとはつまり大人のしるしを剥奪されて子供並みの 
外観に成り下がること。それが嬉しいのか? 一種の被虐的快感? もしかするとゼルダは 
初めからそういう快感に浸りたくて毛剃りを承知した? 
 異常な心境だとは思わなかった。 
 もともとゼルダには軽い被虐嗜好がある。表立っては凛とした王女の威風にわずかな瑕瑾も 
見せないゼルダが、ぼくの前だけでは嫋娜な小娘たるをいとわない。そこに常々ぼくも魅惑されて 
いるのだ。 
『ということは……』 
 ゼルダから大人のしるしを剥奪して子供並みの外観に成り下がらせようという加虐的な快感を、 
ぼくの方も無意識のうちに欲していたのだろうか。それがぼくの得た情感の正体なのだろうか。 
 かもしれない。いや、そうに違いない。でなければ、いまのぼくの、このいきり立ちようを 
解釈できない。 
 どうする? 共鳴するか? 
 するしかなかろう。ここまで来たら。 
 けれども単純な共鳴ではつまらない。加虐的な自分を意識してしまったら、なおさら加虐的で 
ありたくなった。  
 
「すんだ」 
 素っ気なく聞こえるだろうな──と思いながら、リンクは短く告げた。いぶかしげな表情をする 
ゼルダに、 
「もう穿いていい」 
 と続ける。いぶかしみに代わって失望の色がゼルダの顔に浮かんだ。が、そこで情欲を 
言い立てるのはさすがにはしたないと考えたのか、 
「ええ……」 
 と曖昧に呟き、床に落としていた水着を拾い上げ、のろついた仕草で、紐が作る輪の中に脚を 
通した。剃刀を片づけつつそのさまを見、リンクは内心でほくそ笑んだ。敢えて望みに応じないのも 
加虐のうちである。しかし邪険にしとおすつもりはさらさらなかった。 
 元の姿に戻って椅子から立ち上がろうとしたゼルダを、 
「ちょっと待って」 
 と制しておき、 
「どんな具合だか調べさせてもらうよ」 
 開脚の姿勢を保たせる。ゼルダは逆らわなかった。ただ、何を調べるのかと怪訝がるふうでは 
あった。 
 かまわずリンクは、つい先ほどまで眼前にしていた部へと、再び顔を近づけた。はみ出すものが 
なくなったいま、見えるのは白い肌のみである。他の部と本質的には同じである。とはいうものの、 
恥丘の両縁が露呈しているのは、依然として猥褻な眺めだった。 
 陰裂はからくも隠されている。それでも興は殺がれない。隠されているからこそ趣深いのである。 
 さりとて、隠蔽の域をそのままにしておくほど無欲なリンクでもなかった。 
 逆三角形の布地に右手を這わせる。左右の辺に指をかけ、軽く握るようにして引き上げる。 
幅狭の布はなおさら狭くなり、谷間に食いこんだ。 
「あッ!」 
 ゼルダが狼狽の声を発し、身体をぴくりと震わせた。両手もが動きかけたのは、剃毛中は 
容認した秘唇の供覧を、着衣ののちは──例の心理が作用して──見過ごしかね、思わず秘匿の 
挙に出ようとしたものか、あるいは、布による圧迫が敏感な部分に対して過剰な刺激になった 
せいかもしれなかった。 
「痛い?」 
「い、いいえ……でも……」 
 あとに言葉は繋がらない。そこで前半だけを聞き入れることにした。 
 布を食いこませたまま、その上に左の示指の腹を置き、ゆっくりと撫でる。 
「あ……あぁ……」 
 ゼルダが喘いだ。甘やかな声音だった。失望が一時のものに過ぎなかったことを明らかに 
悦んでいる。不規則に強まる呼吸と、布越しに指先を湿らせる──そしていまや布の両脇から 
溢れるほどになった──潤滑液の多量さも、それを裏づけていた。 
 ことさら平静に話しかける。 
「こんなふうに食いこむとなると、迂闊に動きもならないね」 
「え? え、ええ、たぶん……」 
「それとも、毛さえ剃れば、これくらい食いこんでもかまわないのかな?」 
「ど……どう、かしら……」 
 漠然とした返事である。快感が頭の働きを鈍らせているようだった。  
 
 布の下に凝結する一点を指が探り当てる。 
「あ! そこ! そこ、お……ぉぉ……ぉ……」 
「ここ?」 
「そう! そこ……が!……あ……あぁあ……」 
「ここがいいの?」 
「い……ぃ……い!……とっ……ても……ッ!」 
 口調が乱れてきた。露骨にもなり始めていた。理性が稀薄化しつつあるとみえた。 
「だろうね。かなりふくらんでるのが、水着の上からでもはっきり見えるよ」 
 嘘である。触知はできても、布を持ち上げるほど顕著に腫大するはずはない。揶揄をこめた 
戯言のつもりだった。 
 ところが、 
「そ、そんなッ! ああッ! いやッ!」 
 ゼルダは信じたらしい。声を強くしてかぶりを振る。それでいて脚を閉じようとはしない。 
腰を浮かせ、自らそこを指に押しつけてきさえする。口では「いや」と言いながら、その実、 
おのれのふしだらな──と思いこんでいる──ありさまに色情亢進を誘われているのだった。 
 追い討ちをかける。 
「よくこんなのを着る気になったね」 
「うッ……だ、だって……」 
「毛がはみ出したり、ぐいぐい食いこんだり、ここの形が浮き出て見えたりするような水着をさ」 
「だって、だって……あなたが……」 
「ぼくが?」 
「あなたが言ったのよ、見たいって」 
「ふーん、見たいって言えば見せるんだ」 
「え、ええ……」 
「誰にだろうと」 
「ち、違うッ!」 
「どっちなのさ」 
「あなた……に……」 
「ぼくに?」 
「そ、そう……あなた……には……」 
「ぼくには見せてくれるの?」 
「そう! そうよ!」 
「ぼくにだけ?」 
「そうよッ! あなたにだけ! あなたにだけよッ!」 
 わかっていたことではある。それでも言わせたかった。悩殺されてばかりいるぼくではないとの 
対抗心ゆえだった。  
 
「ありがとう。見せてもらってるよ」 
「ああ……見て……全部……」 
「触ってもいいんだよね、こういうふうに」 
「ええ、いいわ……いいわッ! あぁぁッ!」 
「これで充分?」 
「え──あ、い、いいえ、まだ……」 
「足りない?」 
「ええ……も、もっと……」 
「こうかい?」 
「あッ! そうッ! あ、あッ……で、でも……」 
「でも?」 
「触る……だけ、じゃ……なく、て……」 
「他にも?」 
「んんッ! そ、そう……欲しい……」 
「何が?」 
「あぁ……あ……あなた、が……」 
「ぼくの何が?」 
「あなたの……あ、あれ……」 
「あれって?」 
「あれよ」 
「あれのこと?」 
「そうよ」 
「君の好きな、あれ?」 
「そうよ!」 
「どこに?」 
「そこよ!」 
「ここ?」 
「そうッ! そこッ!」 
「ここにあれが欲しいんだね?」 
「そうよッ! 早くッ!」 
「じゃあ、するよ」 
「してッ! 早くッ! 早くぅッ!」 
 もはや声は悲鳴にも近い。リンクは頃合いとみた。自身の欲求も──悠然たる態度を装っては 
きたものの──爆発寸前になっていた。 
 手技を打ち切る。立ち上がる。ゼルダの腕をつかんで椅子から引き起こす。半ば投げるようにして 
ソファに仰臥させる。いささか手荒な扱いとなったが、いまのゼルダはそんな仕打ちを決して 
疎みはしないはずだった。 
 おもむろに武器を取り出す。 
 怒張の極にあるそれを、ゼルダは欲情のこもった目つきで凝視しつつ、腰に纏わる紐状の衣に 
手をかけた。脱ごうとしての動作である。  
 
 すかさずリンクはゼルダに覆いかぶさり、手をつかんでその動作を封じた。 
 わざわざ穿かせたものを脱がせてしまったら意味がない。 
 男女が交わるにあたっては、着衣の場合であれ、通常、少なくとも女性の側だけは股部を 
全開放する。挿入の便を考慮すればそれが至当である。二人もそうしてきた。しかるに今回、 
リンクはゼルダに下穿き──正確には下穿き相当の衣類──を着けさせたまま行為しようと 
決めていた。交わりに適さない風体の相手と押して結合することが、加虐──と呼ぶには、 
かつて空想した鞭打ち等に比べれば、いたって物柔らかなあしらいといえたが──の範疇と 
感じられたのだった。先ほどからの言葉によるなぶりも、ふだんのとおりに服を着た自分が 
裸に近いゼルダを組み敷いて肉交になだれこむ展開も、こちらが支配者であるという高揚感を 
助長した。 
 いきなり拘束状態に落ちたゼルダは、表情に驚きと戸惑いを混和させていた。脱衣の意思は 
頓挫したとみえた。リンクはゼルダの両腕を上方に遠ざけ、次いで秘裂に埋まった薄布を左手で 
側方へと偏らせた。伸縮性に富む素材だったので──その点はすでに確認ずみである──事は 
容易に運んだ。 
 遮るものがなくなった膣口に亀頭を押しつける。 
 そこでようやくゼルダは何が起ころうとしているかを悟ったらしく、うろたえた様子で抗議を 
言葉にしかけた。 
「ちょ、ちょっと、待って──」 
「待たない」 
 じわじわと腰を進ませる。 
「あぁッ! あッ! あッ! あぁぁあッ! あぁーーーーーッッ!!」 
 ゼルダの叫びは──目論みどおり──そこに衣類を残して挿入されるという倒錯へのおののきを 
如実に描き出していた。しかし反面、恋人に体内を充たされて至福の境地にあることも、また 
確かだった。七年間もつき合っていれば、造作なく声に本音を聞き取れるのである。そして七年を 
かけた開発は、ゼルダの膣に、正しい鍵を差しこまれれば無条件で錠を解く鍵穴のごとき従順さを 
備わらせていた。ために侵攻はなんらの障害も経ずして成し遂げられた。 
 ただ、成果を誇り続けてもいられなかった。 
 充填が完了するやいなや、肉鞘は強烈に収縮し、侵入物を厳しく絞り上げた。リンクは遂情の 
際へと追いやられた。進みも退きもならない。わずかでも動けば果ててしまいそうだった。 
ゼルダを訪う際に稀ならず陥る状況である。このまま果ててしまえとのささやきが脳裏に兆しもした。 
 が、耐えた。 
 徹底的に攻めつくすまで果てるわけにはいかない。 
「あぁッ……あぁん……んん……あ……は……あぁぁ……ぁ……ぁ……」 
 音量を減じ、いまや陶酔のみの表現となったゼルダの声に、なお快感中枢をくすぐられながらも、 
リンクは懸命に沈着であろうとした。 
 どうにか成功した。 
 当面、暴発は回避可能と見極めた上で、緩やかな往復運動を開始する。ゼルダが再び声を 
上ずらせる。その聴覚的誘惑にも打ち勝ち、さらなる施しに取りかかる。 
 仰向けでもしっかりと隆起を保つ若々しい一双の乳房を、申し訳程度に覆う三角形の白布は、 
頂点で明瞭な突出を形作っていた。大きさの点で恥核に数倍する乳頭が、そこでは勃起を隠せて 
いないのだった。それをじかに弄ぼうとするなら、ささやかな遮蔽物を、上下左右のいずれでも 
かまわないから、ほんの少しだけずらしさえすればよい。髪をかき上げるほどの力も要さない。 
だがリンクはそうしなかった。秘所と同じく、着せたままでの接触にこだわった。  
 
 布の上から、撫でる 
「あッ! うぅッ……」 
 つまむ。 
「くぅ……ぅ……ッ!」 
 こねくりまわす。 
「ぅあッ! あぁッ! いッ! い……ぃぃ……」 
 所作に応じて変じる声が耳に心地よい。表情の多彩さにも魅了される。両目は固く閉じられ 
続けているが、顔筋はさまざまに収縮し、痙攣し、口が大きく開いたかと思うと、次には軋みが 
聞こえそうなほどの強圧で上下の歯がこすり合わされる。首は右に左にねじ曲がり、後ろに 
のけぞりもして細かく震える。 
 頂点に向けてひた走っているのだとわかった。攻め方は妥当であると自信を持てた。 
 ならばこの路線を継続しよう。 
 右の胸に顔を寄せ、布ごと突起を噛む。 
「ひぃッ!」 
 声とも空気の漏れともつかぬ奇音がゼルダの喉からほとばしった。構音に支障が出るくらい 
神経が乱調をきたしているのである。 
 路線の選択が正しかったことを心の内で自賛しながら、歯による愛撫を左の胸の突先に 
移そうとした、その時── 
 後頭部に何かが触れた。と思う間もなく、顔面が目の前の小山にめりこんだ。ゼルダの両腕に 
抱きすくめられたのである。悪い姿勢ではなかった。生き生きとした乳房の弾力を堪能できた。 
しかし密着のしすぎで口を使う余地がない。呼吸にも差し支える。 
 捕縛を脱して頭を起こす。が、腕は追いすがってきた。再び頭部は絡め取られ、さらに前方から 
迫るものにも自由を封じられた。ゼルダが接吻をしかけてきたのだった。しゃにむにといった 
ふうに猪突してくる唇を、唇で受ける他に道はなかった。受ければ今度は舌に襲いかかられる。 
口内を余さず舐めつくし、吸いつくそうとするその勢いは、リンクをたじたじとさせるに充分だった。 
 俄然、攻撃的となったゼルダは、下半身でも活発な勤しみを始めていた。緩徐な進退に 
徹してきた陰茎が、最前にも増しての力で絞扼された。といっても、一本調子の締めつけではない。 
肉壁は複雑に波打ち、収縮と弛緩を繰り返す。 
 意図しての操作とは思えなかった。けれどもリンクは、そこに確然と、あやすがごとき優しみや、 
励ますがごときまめやかさを感じ取った。ゼルダの本能が筋肉の不随意的運動に影響を与えている。 
それが唯一可能な説明であり、そうまでされた上は、次に行うべきことも、また、ただ一つだけ 
だった。 
 抽送を速める。 
 ゼルダは反応した。 
 引き起こされる快感の高まりを、接吻に倦まない口の奥から湧き出る呻きに代弁させている。 
のみならず、寄せ手の腰を両脚で捕捉し、自らも腰を振って摩擦の強化を図ろうとする。 
 もう足踏みも寄り道もできなかった。 
 突きまくる。 
 突きまくる。 
 突きまくる。 
 それしかリンクには許されていないのだった。 
 みるみる限界が近づいてくる。そこに向かってなおも速度を上げる。 
『つまり……』 
 加虐だの何だのとうそぶきながら、ぼくはゼルダの意のままだった。ゼルダがそうあれと望んだ 
とおりに事は運んだ。ゼルダを誘導していたつもりのぼくは、実のところ、徹頭徹尾、ゼルダに 
誘導されていたのだ。 
『でも、それは──』 
 思考は断たれた。すべての感覚が股間に集中した。 
 溜めに溜めていた衝動が、堰を切って一気に噴出する。 
 待ちかまえていたかのようにゼルダが全身をこわばらせた。よく知る絶頂の態である。 
想いのたけを撃ち出しつつ、おのれの身に伝わるゼルダの恍惚を、リンクは感得した。 
 限りなく幸せなありようだった。  
 
 その後、幾日かを経て、ハイラル城内のプールは完成した。水泳に執着していた女性たちが、 
好きな時、好きなように、欲求を満たせる運びとなったのである。もちろんゼルダも熱心に 
プールを利用した。所持する水着は満遍なく使われた。ただし、あまりにも過激な、例の紐めいた 
代物だけは、当然ながら日の目を見なかった。それ以外にも注目必至の大胆な水着はあっただろう、 
とリンクは気を揉んだが、ゼルダによれば、他の女性らも、プールが男子禁制の場であることを 
踏まえ、けっこう流行に染まった格好をしており、彼女だけが特段に目立つ存在とはなっていない、 
とのことだった。 
 ともあれ、そうして「発情水着」は存在を秘されたのだったが、間もなくそれは別ルートで 
人々の知るところとなった。 
 業者が発売に踏み切ったのである。 
 話題は沸騰した。 
 一部の女は積極的にその新作水着を買い入れ、恥毛を剃り落とすという、ゼルダが先鞭をつけた 
方法でもって、「自分の身体で男を惹きつけ」にかかった。男たちの多くは喜んで惹きつけられた。 
 が、このたびは人々の意見も統一されなかった。いかがわしすぎるという批判が出た。 
なかんずく、水泳の流行を従来より苦々しく思っていた保守派は、ここぞとばかり大声をあげ、 
その水着を購入した者や業者を風紀紊乱のかどで罰するべきだ、との強硬論までぶった。 
 かくして事は政治的題目と化し、ハイラル城は対応策を決定する要に迫られた。 
 そこでは一つの件が俎上にのぼった。 
 くだんの水着を販売するにあたり、業者はいつものように「ハイラル王家御用達」と宣伝していた。 
この場合、「王家」とは、すなわちゼルダである。王女が左様な水着を愛用しているのか、であれば 
由々しき事態、との非難が湧き起こったのだった。 
 窮地に立たされたゼルダは、しかしみごとに──そして巧みに──紛糾の根を絶った。 
業者からの進物にその水着は含まれていたけれども、着て泳いだことはただの一度もない、と 
名誉に懸けて言明したため──それは確かに真実ではあった──重ねての追及は行われず、結局、 
問題の水着を販売中止にはするが、以外のペナルティを業者には与えず、購入者もお咎めなし、 
という線で議論は収束した。自身の言明が真実性においてきわどいと重々承知するゼルダが、 
その言明によって非難の矛先を他者に転じさせてはならないと慮り、婉曲に穏便な処置を求めた 
結果でもあった。 
 ただ、そうした経緯があっては、以後、疑惑が復活せぬよう手を打っておかざるを得ない。 
ゼルダは自らのもとにある当該の水着を処分した。致し方ない仕儀とは理解しつつも、リンクは 
残念でならなかった。 
 一方、ゼルダは恬淡としていた。 
「この先、悪い噂が立つのを心配しなくていい状況になったとしても、あれを着るならあそこを 
ずっと剃っておかなくちゃいけないでしょう? 手間がかかるし、何より、人として不自然な 
姿だと思うのよ」 
 ゼルダとてひそかには残念な気持ちを抱いているはず──とリンクは推量したが、自然のままが 
よいとの言い分には同意もできたので、不満がるのはやめておいた。 
『だけど……』 
 質したいこともあった。 
 腋毛はどうなのか。そこを剃るのは不自然ではないのか。 
 ゼルダは反論するだろう。恥毛と腋毛とでは事情が異なると。しかし『あの世界』でも 
『この世界』でもゼルダの腋毛をじっくりと観察する機会に接し得なかったぼくは、だがいずれは 
そんな機会を、という望みを、いまなお捨てられずにいる。腋毛を処理しないゲルド族の女性に、 
彼女たちならではの魅力──野性味というかと生彩というか──を感じるぼくとしては、 
ゼルダにもその種の魅力を感じてみたいのだ。 
 説得の余地はあるかもしれない。 
 ゲルド族の衣装にも似た臍出し水着を平気で着るくらいなら、腋もゲルド風にして然るべきである 
──という論拠を、こじつけと自覚しながらも頭の中で構築せずにはいられないリンクだった。 
 
 
To be continued.  
 

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