果てて静まったリンクの身体は、ずしりと重くナボールの胸を圧した。息をするのに 
差し支えたが、煩わしいとは思わなかった。完膚なきまでに蹂躙された者が忍ばねばならない、 
それは当然の不自由さだったし、不自由な目に遭わされていることが喜ばしくさえあった。ために、 
落ち着かない呼吸を苦しみの表現と察してか、卒然と起き上がりかけるリンクを、ナボールは 
抱擁の強化によって引き止めた。リンクも理解したらしく、しっかりと抱擁を返してくれた。 
 至幸の感がナボールを充たした。すでに膣の中のリンクはうちしおれていたが、心の豊潤は 
いささかも損なわれなかった。そこにいてくれるだけで満足だった。相手が年下であることは、 
もはや意識から消え失せていた。 
 ……あたしはこれまでずっと男を支配してきた。あたしにとって男は弱者でしかなかった。 
そこに自分の優越を感じ、しかし弱い男ばかりなのが物足りず、もっと歯ごたえのある奴が 
どこかにいないかとも思っていた。いま、あたしがこんなにも嬉しいのは、強い男に 
屈服したいというひそかな願望があたしの内にあったからなのだ。ゲルド女の多くが 
ガノンドロフになびいたのも同じ願望からであって、つまりそれはあたしたちゲルド族に共通する 
気性であって、あたしと彼女らの間に本質的な違いはない。たまたまあたしはガノンドロフと 
反りが合わず、リンクとは合っていたというだけの話だ。彼女らがガノンドロフに屈従するのを 
苦々しく思ったかつてのあたしは、ゲルド族のありようを正しく理解していなかったといえる。 
だが、こうして彼女らの心情を酌み取れるいまのあたしなら、一族の将来に、よりよい貢献が 
できるだろう…… 
 ──といった感慨は、決して理路整然と営まれたのではなかった。脳内を無秩序に浮遊する 
所念の断片が、偶発的に縒り合わさって漠然と一つの形をとったに過ぎない。精神のほとんどを 
占める恍惚感によって、理性は作動を極度に制限されていた。 
 とはいえ、戦士の本能までは麻痺していなかった。 
 不意にドアのあたりで物音がした。ナボールは全身の筋肉を収縮させた。予期せず敵に遭遇した 
時などの──本気で敵がいると考えたわけではないにせよ──反射的動作である。が、身を 
起こすには至らなかった。ドアの方を見やりもできなかった。体術でいう押さえ込みのごとく、 
リンクが抱擁をさらに強めたのだった。 
 抵抗できなかったのは、恍惚感が消え残っていたせいかもしれない。微動もならず、そして 
それに文句も言えないまま、ナボールは、ドアが開き、再び閉まり、次いでそこから近づいてくる 
者があることを、ただ聴覚のみによって現実と認識した。 
 遅れて視覚が利用可能となった。人の姿が視野に入った。 
 ゼルダだった。 
 さほどの驚きはなかった。現れ得る第三者はその人物に限られていたし、交合の場への第三者の 
闖入とて狼狽には値しない。男を犯す時にせよ、仲間の女と楽しむ時にせよ、他人に見られても 
いっこうに平気なのがゲルド族である。しかしながら疑問は多かった。ナボールの頭は瞬間的に 
いくつもの思考を並走させた。 
 どういうことだ? ゼルダはあたしがリンクに誘いをかけるのを容認していたはずで、あたしが 
夜這いするのを充分に予想できたはずで、あたしとリンクがこの部屋で共寝していると知った上で 
踏みこんできたとしか思えないけれども、なぜ? いまになって咎めようと? 容認とはあたしの 
手前勝手な解釈だった? あるいはゼルダが考えを変えた? それはそうとどうやって部屋に 
入った? ドアにはちゃんと鍵をかけたのに……ああ、もちろん合い鍵を持っていたのだ。自分の 
別荘なのだから持っていて当たり前。だが無断で他人の部屋の鍵をあけてノックもせず入って 
くるとはいかに王女様でも感心しかねる…… 
 思考の混乱はナボールに沈黙を強いた。ベッドの脇に佇むゼルダが、ガウンを羽織った 
軽装であり、就寝前とは異なって長い金髪を結わずに背中へ垂らしている、と視認し得た 
のみだった。 
 ゼルダは右手に持った何かを──ナボールの位置からではゼルダの胴体が遮蔽になってそれが 
何なのかを見極められなかった──近くにある机の上に置くと、やおらガウンを床に脱ぎ落とした。  
 
 素裸である。 
 さすがに今度は驚きを禁じ得なかった。ナボールは再び体動を試み、しかしそれは再びリンクの 
腕に阻止された。 
「どうか、そのままで」 
 というゼルダの穏やかな言葉も、呪文のようにナボールを縛した。 
 頭の方はさらなる混乱に陥っていた。 
 何だ? 何だ? 何がどうなってるんだ? ゼルダは何を考えている? ここにいるのが同性の 
あたしだけならまだしも、男のリンクが見ている前で裸になるなんて! 一国の王女がやる 
ことじゃない! いや、それ以前に、睦まじく抱き合う裸の男女を、どうしてこうも静かに眺めて 
いられる? リンクもきまりが悪いはず……なのに、不平の一つも言わないのはなんでだ? 
不平どころか、ゼルダの登場に臆するふうもなく、あたしと繋がっているのを隠す気もなさそうで、 
ゼルダが裸になっても全く動揺していないようで、そんなリンクの態度にも合点がいかない。 
いったいこの二人はどんな関係── 
『あッ!』 
 そうだったのか! 気づかなかった! 迂闊にも! いまのいままで! 
 自分の裸を見られても相手の裸を見ても問題ない関係──ふだんから裸を見せ合っている関係 
──だったのだ、この二人は! 「他人の部屋の鍵をあけてノックもせず入ってくる」という 
無遠慮な振る舞いにゼルダが及んだのも、ゼルダにとってリンクは「他人」ではないからなのだ! 
『それだけじゃない』 
 リンクは「あたしが来るのを先読みしていた」ようだった。まさにそのとおり、先読みして 
いたのだ! 今夜あたしがそうするに違いないとゼルダに知らされていたのだ! つまり二人は 
示し合わせて──あたしがリンクをものにしようとするのに乗じて──逆にあたしを…… 
 ゼルダがベッドに上がってきた。顔はうっすらと微笑みに彩られている。ナボールはおのれの 
考えの正しさを悟った。単に容認するのみではなく、ましてや咎めるつもりなどさらさらなく、 
進んで淫行に加わろうとしているゼルダなのである。 
 思いもよらぬ展開。ゼルダに男がいるというだけなら──王女というやんごとない身分ではあれ 
──すでに立派な大人なのだから、格別、異とするには足りない。だが二人を超える人数で床を 
ともにするほどの奔放さまでを持ち合わせていたとは! 
『たまげたこった』 
 いや増す驚きは、しかし、ナボールを取り乱させはしなかった。自分が、いわば二人の仕掛けた 
罠にはまってしまったことも、負の感情の誘因とはならなかった。 
 奔放さにかけてはナボールも引けを取らない。女同士の交わりはもとより、多人数での 
交わりをも非常識とは考えないのがゲルド族なのである。 
『そっちがその気なら……』 
 心が傾いた。目に映るものもそれを助長した。 
 女の裸を見慣れたナボールにしてさえ、ゼルダの肢体は──容貌と同じく──絶品と評するしか 
なかった。ほっそりすっきりした体型でありながら、出るべき所は立派に出ている。しかも 
みごとに均整がとれている。真っ白な肌が形の美しさをいっそう際立たせている。戦士たらねば 
ならぬがゆえに筋肉質で、熱した太陽のもとで暮らすがゆえに色黒なゲルド女には、とうてい 
望み得ぬ理想的な女の姿である。同性をも好むナボールにすれば、すこぶる強力な性欲刺激剤だった。 
 中でも乳房に目は引き寄せられる。上向き加減に突き出すかわいらしい乳首。みずみずしく 
張った生気ある球面。ことのほか豊かというわけではないが、人並みの域は超えている。 
ナボール自身のそれよりひとまわりは大きい。もっとも、豊満な胸は射弓を邪魔して不都合と 
ゲルド族は考えており、実際、豊満ではないからこそ弓の名手でいられるナボールだったので、 
劣等感は全く持たなかった。眼前の双丘が内包する質感をおのれの身で確かめたいとする欲望が 
湧いてくるばかりだった。  
 
 ために、ゼルダが添い寝の形で間近にその身を横たわらせ、ゆるりと愛撫に着手するのを、 
ナボールは許容した。ゼルダの参入に合わせてリンクの抱擁は緩み、体動は可能となっていた 
ものの、当面、攻めには回らないつもりだった。まずはお手並み拝見、と構える余裕があった。 
 が…… 
 いくらも経たぬうちに余裕は失われた。ゲルド女に比しても遜色ない──否、こまやかな点では 
それ以上ともいえる──ゼルダの手技によって、ナボールは快感の渦に巻きこまれた。 
 素人の手つきじゃない。何度も女を抱いた経験があるのだ、このお姫様は。ふだんはあれだけ 
お淑やかなのに、なんともはや、人は見かけによらないもの。いったい、いつ、どこで、誰を 
相手に…… 
 ──との感懐も、抱くうちから切れ切れになるほど、頭の回路は攪乱される。 
 まとわりついてくる肌の触感も幻惑的だった。絶えず砂塵にさらされるゲルド女の硬質な 
皮膚とは異なり、実になめらかで、やわらかで、あたたかで、なまやかで、何もかもを捨てて 
そこに浸っていたいと思ってしまうくらいの陶酔にいざなわれる。 
 気づけばリンクの身体は離れていたが、離れて欲しくないとつい先ほどまで切望していたのに、 
それを残念がる気持ちは少しも起こらず、代わって上位を占めたゼルダが、新たに切望の対象と 
なった。 
 意は通じた。 
 緩徐に身体をすべらせながら、二つの手と、十本の指と、唇と、舌とでもって、皮表のすべてを 
満遍なくゼルダはいとおしんでくれる。なかんずく急所は念入りに慈しまれる。喜悦の呻吟を 
ナボールは口から垂れ流し続け、そこに相手の同器官が接触してきた時には、天にも昇る心地で 
その施しを受けた。胸と胸、秘部と秘部とがこすれ合う感覚に、ひときわ喜悦を募らせられもした。 
 そんな自分を、溶解してゆく意識の片隅で、からくもナボールは知覚していた。 
 一つの思いが誘発される。 
 初心者の域を脱して以来、ずっと攻めで通してきたあたしが、どうしてこうもあっさりと 
受けに転じて、あまつさえ、それを嬉しく感じられるのだろう。リンクのような「強い男」に 
ねじ伏せられるのならともかく、腕力も戦闘力もあたしに劣ること明白な年下のお嬢さんが 
相手なのに…… 
 すぐに答は出た。 
 腕力や戦闘力ばかりが強さではない。あたしがゼルダに見いだした気丈夫さ、親しみ深さも、 
充分、人としての強さだといえる。ゼルダは恃むに足る人物と、とうにあたしは認めていたでは 
ないか。「強い男」に屈服したがるあたしなら、「強い女」にも屈服するのが自然というもの…… 
 最後の心懸かりが払拭されると、あとには情欲しか残らなかった。陰部同士の摩擦が作り出す 
鮮烈な快楽にナボールは溺れた。ややもすれば痛みを生じさせがちな恥毛の絡みさえも潤滑 
きわまりなくなるほど、接面は大量の粘液にぬめり、その中心で硬結する小核は、敏感さの 
度合いを極限まで高めていた。一分一秒でも早く登りつめたかった。 
 こういう場面で、上になっているのがゲルド女なら──ふだんのナボールなら、ということでも 
あるが──ここぞとばかりに攻勢を強め、一気に相手を絶頂に追いやるのが常である。 
 ところがゼルダは違っていた。腰の使い方は適確で、ふんだんに快感を引き出してはくれる。 
けれども動きの調子は歯がゆいほどゆるやか。こっちがいきたがっているのがわからないのか、 
と焦れ、誘導するように尻を揺らしてみたが、そんな催促も受け流されてしまう。やむなく 
ナボールは小声で意を伝えた。 
「はやく……して……」 
 この上なく麗しい笑みとともに返ってきた言葉はこうだった。 
「だめ」 
 というわけで、絶え間なく供給される快さと、快さが全うされないもどかしさとが、 
渾然一体となって、寄せては引き、寄せては引きする未曾有の感覚を、ナボールは延々と 
味わわさることになった。 
 ゼルダは故意に結末を遅らせているのだと知りつつ、行き着かせて欲しいと訴えずには 
いられない。もちろん受け入れられない。泣いて頼んでも聞き届けてもらえない。 
 ほとんど拷問だった。が、たとえようもなく甘やかな、と形容もできる拷問ではあった。 
 屈辱的ともいえる自分のありさまに、かえって悦びをかき立てられる。そしてそれが毛ほども 
奇怪とは思われない。 
 とうとうゼルダが──文字どおり──本腰を入れ、望んでやまなかったものを与えてくれた時、 
ナボールは無類の満足を叫びとして激白した。ただ、反面、至高の交わりが終わってしまった 
ことを惜しむ気持ちもないではなかった。 
 無用の憂いだった。 
 終わってはいなかったのである。  
 
 身体の上の重みが消えた。ゼルダが起き上がったのだとわかった。触覚に頼らねばならなかった 
のは、両目を閉じていたからである。起きてゼルダはどうするつもりなのかを、ナボールは 
知りたく思った。たやすいことのはずだった。目を開きさえすればよい。ところが──絶頂に 
痺れた神経が機能を低下させているためか──そうしようとしても、なかなかできない。 
 どうにかこうにか目蓋を上げ、周囲にふらふらと視線を泳がせる。 
 ゼルダの姿はベッドの外にあった。テーブルのそばに立っている。さっきそこに何かを置いて 
いたな、と記憶がささやく。その「何か」をゼルダが手にした。今回は視野が遮られなかった。 
「何か」の正体をはっきりと見定められた。 
 喫驚した。 
 当夜、幾度目かの驚きだったが、衝撃の程度は優に他を圧した。 
 元はナボール自身の持ち物であり、戯れに贈品として譲り渡したそれを、ゼルダは迷う様子も 
見せず、正しい手順で取り扱った。結果、それは少しの遅滞もなく、人工の剛直を聳え立たせた 
形で、ゼルダの腰部にベルトでしっかりと固定された。 
 ナボールはおのれの目を疑った。 
 張形の何たるかを知っているゼルダだったとは! 
 いや、知っているだけじゃない。いかにも手慣れた装着ぶりからして、見たこと、触ったことが 
あるのはもちろん、実際に使ったことさえあるとしか思えない。ゲルド社会に属さぬ者が── 
わけても一国の王女様が──張形にそこまで通じているなど、とうてい信じがたいのだが…… 
 しかし現実である。 
 ゼルダがベッドに帰来した。開いたままとなっているナボールの両脚の、その間に膝をつき、 
奥まった箇所に向けて、惑うふうもなく突隆を近寄せてくる。ここでもまた顔に微笑みが浮かんで 
いるのが、一種、凄みのように感じられる。 
 やはり使用経験があるのだ──と驚きを遷延させつつも、ナボールは事実を事実として承認した。 
張形を使われる立場であったのは初心者の頃だけで、以来、十数年、ずっと使う立場であり続けて 
きたのだったが、再び逆の側となるにあたって、いっさい抵抗をしなかった。運動機能の低下が 
理由ではない。新たな方式でゼルダに制せられるのがいまの自分にとって至当と確信でき、心は 
感悦にわなないていたのだった。 
 ゆえに、ゼルダがいったん進行を止め、なぶるがごとく偽茎の先端を秘唇の表面でさまよわせると、 
そこに発する感覚は純正の快感であったし、また、それが、なおも尽きぬ愛液によって器具に 
潤いを付与するため──挿入時に受け手を苦しませないため──の行為と察せられたにも 
かかわらず、勿体ぶらないで早くして、と得手勝手な焦燥が湧きもし、そして、とうとう、 
ゆっくりと、それでいて決然と、硬い物体が膣に分け入ってきた際には、全身に痙攣が走るほどの 
感動を覚えた。 
 いわば性別を変えたゼルダは、初めこそ慎重な腰つきだったものの、ナボールがすっかり 
受け入れ体勢にあることを悟ってか、次第に前後動の調子を強くし、ついには、「女」であった時の 
穏当さを完全に振り捨て、男も顔負けの激しさで急速な突きを繰り出してくるようになった。 
乱暴すれすれの所行といえたが、目下のナボールには最適の施し──まさにそうして欲しいこと 
──だった。 
 絶頂が連続した。あとに来るものほど高みの位は増した。ゼルダの恵与の対象は下半身に 
限られず、愛撫や接吻として胸や口にも及び、それらが頂上の景趣を華々しく修飾した。 
ナボールにできるのは、そんな無限の悦楽を、ただただ拝受することだけだった。 
 自分の目に何が映っているのか、自分の喉がどんな音声を発しているのか、自分の腕や脚が 
どこをのたうっているのか、全くわからない。 
 しまいにはわからないということさえわからなくなった。  
 
 再び意識が稼働し始めた時──それでようやく、つまりあたしは意識を失っていたんだな、と 
ナボールは知った──膣には従前どおりの充満感があった。が、動きは感じられなかった。 
代わって体外に別の気配が存在していた。 
 遅ればせに稼働を開始した視覚が、その正体を把握する。 
 リンクである。先に昇天させられたのちは、心がゼルダに向いてしまい、ついつい居所を 
気にかけなくなっていたのだったが、いまはすぐ傍らにすわっている。女二人の絡みを見物する 
うちにそそられたのだろう、ひとたびは力を失ったものが、隆々と威勢を回復している。 
 ゼルダが少しく上体を浮かせ、顔を横に向け、鼻先に提示されたそれを、すっぽりと口に含んだ。 
ひとかけらのためらいもうかがえなかった。リンクが腰を押し出す。喉を塞がれたはずのゼルダは、 
しかし苦しがりもせず、頬と顎とをしなやかに動かし、不行儀な侵入者をあやすふうである。 
のみならず、自ら首を前後させ、口腔粘膜との摩擦によって、さかしまにそれをいたぶるかの 
ような積極性を示したりもする。また、口中より解放したそれの、先頭から根元までの全範囲に、 
あまねく舌を這わせるさまは、愛玩ともとれ、挑発ともとれる。亀頭の裏側をゼルダはことさら 
執拗に舐め、そこが最も敏感であるらしいリンクに、悩ましげな呻きを漏らさせる。 
 過去、二人が幾度となく営んできたに相違ないその行いに、ナボールは瞬きも忘れて眺め入った。 
男の性器に女が口を使うという性技を、知識としては頭に有していながら、一度たりとも実行した 
ことはなかった。見るのさえ初めてだった。男は支配するものと考えてきたゲルド族である。 
男に隷従するも同然の性技を好むはずがない。好むとすれば、相手は、唯一、自らの王たる者のみ。 
ましてや、ガノンドロフとの結びつきがなかったナボールにとっては、無縁も無縁の行為であり、 
ふだんなら考えただけで嫌悪感を催すであろう事柄だった。 
 ところが、いまやナボールの胸中は、嫌悪とは似ても似つかぬ感情に占められていた。 
 羨望である。 
 口をも駆使してリンクと睦み合えるゼルダのごとくありたくてたまらなかった。 
 そんなナボールの思いを──顔に出したつもりはなかったのだが──ゼルダは正確に読み取った 
ようだった。口戯を中断し、まことにありがたくも、視線の向きでもってリンクに次なる行動を 
慫慂した。 
 リンクは頷いた。坐す位置をわずかに変え、猛り立った分身を近づけてきた。ナボールは肩より 
上をベッドから離し、肘で体重を支えつつ、迫り来るものに顔を正対させた。 
 口を開く。 
 迎え入れる。 
 羨望に代わって無量の思いがナボールの胸をいっぱいにした。 
 特に優れた味でもない。秘所ほどの快感が得られるわけでもない。なのに、このときめきは…… 
いや、ときめきなどという言葉ではとても追いつかない、いまにも心臓を破裂させそうな、 
いまにも脳を爆発させそうな、この、この──ああ、どう言えばいいのだろう、わからない、 
わからない、わからないなりに表現するなら──表現すること不可能な気持ちのありようは、 
いったい、何が、何を、何に、何としたら、生まれてくるものなのだろう…… 
 いくつかの語が頭の中で明滅した。 
 口/ペニス/倒錯/初めて/リンク/突っこまれる/支配/ゼルダ 
 そのどれもが核心に触れていそうで、けれども結論をまとめ上げるには至らない…… 
『もういい!』 
 ナボールは検討を放棄した。理屈にかかずらわってはいられなかった。かといって忘我の境に 
居続けることもできない。リンクの芳情に報いるべきである。未経験者の自分にうまくできる 
だろうか、との不安がないではなかったが、 
『やれるだけやってやるさ』  
 
 腹をくくって奉仕に取りかかる。 
 目の当たりにしたゼルダの口技を、ナボールは忠実に模倣した。歯で傷つけるのは絶対に禁物と、 
それは容易に了解できたので、舌と唇と頬肉を働き手に徹しさせ、細心に事を運んだ。 
 甲斐はあった。リンクは満足げな吐息を連ね、ゆるゆると肉茎の出し入れを始めた。性感の 
上昇を物語る挙動である。ナボールは欣喜し、ますますの熱意をもって務めに励んだ。 
 ゼルダの刺突も再開された。リンクと調子を合わせるつもりらしく、勢いはさほどでもない。が、 
上の口と下の口を同時に攻められるという待遇は、はなはだしくナボールを興奮させた。かてて 
加えて、リンクとゼルダが片手ずつを左右の胸に派し、そこを盛んに弄ぶため、たちまち興奮は 
熱狂の域に達した。その熱が伝わったかのように、攻めの仕様も強襲に変わる。 
 何度目かも不明な最高地点へと急送されるおのれをナボールは認知した。自分だけがそうでは 
ないとも感得できた。 
 そこで困惑が兆した。 
 射精することのないゼルダの張形はいいとして、リンクの方はどうなる? このままそうする 
つもりなのか? そうされたらこっちはどうすればいい? 普通はどうするものなんだ? 
ゼルダはいつもどうしている? 
 飲みこむ? 
『まさか!』 
 できるわけがないそんなこと! あまりにもあまりにもあまりにも非常識── 
『だろうか?』 
 飲んだところで死にもすまい。リンクに屈服したいあたしならそうしてこそ── 
 いや、しかし── 
 いや、それでも── 
 葛藤は強制終了された。突然リンクが口の中からいなくなった。腰を引いてしまったのである。 
 ナボールは心の内の半ばで安堵し、残りの半ばで失望した。 
 が、後者はたちどころに埋め合わされた。 
 なぜリンクは急に──との疑問を抱く暇もなく、ナボールは自分の身体が浮遊するのを感じた。 
リンクに抱え上げられたのだと気づいた時には、呼応するがごとく仰向けとなったゼルダに跨がる 
体位となっていた。背後からリンクに圧迫される。上半身が前傾する。ゼルダと面を突き合わせる 
格好になる。対手の目は炯々と燃え光っていた。山場はこれからよ──と宣言するようでもあった。 
 事実、そうだった。 
「あッ!」 
 覚えず声がこぼれた。張形に貫かれ続けている部分の裏手──後方にさらけ出された臀裂の 
中央──を撫でまわされたのだった。リンクの指である。悪い感触ではなかった。快くさえあった。 
そこをそのように触られれば快いと前から知っていたナボールではあったし、リンクも── 
迷いのうかがえぬ手つきからして──そこをそのように触れば相手は快くなると知っているに 
違いなかった。ただ、リンクの指の動きには、硬い筋肉をほぐそうとする意図が感じられた。 
それはすなわち、次の段には指の何倍もの太さをもったものがそこを狙ってくることを 
意味している。快いだけではすまされなかった。 
 肛門性交の経験はあった。といっても、おおかたは攻めの方。受けはやはり十数年前に 
卒業している。それとて仲間の張形のみ。男に後ろの門戸を開くなど、ゲルド族にとっては 
法外の極みなのである。 
 口は抗いかけた。 
「そ、そこは──」 
 しかし言い終えられなかった。 
「いいよね?」 
 かぶさってきたリンクの声は、まことにものやわらかだった。キスの時は敢えて許しを 
求めなかったけれども、今度のは破格の交わり方だから、事前に意向を訊いているのだ、という 
配慮と解された。が、ナボールの耳は、しかのみならず、承服以外は認めないとする強固な意思を、 
そこにありありと聞き取っていた。  
 
 ナボールは点頭した。 
 渋々ながら、ではない。 
 嬉々として、である。 
 一瞬で心は決まってしまっていた。 
 口の「処女」さえ捧げたからには、他の何ものをも無条件で捧げるべきなのだった。 
 リンクの両手に腰をつかまれる。ゼルダが両腕を背に巻きつけてくる。 
 虜囚のような境遇に、かえって欣幸感は高められる。 
 挿入が始まった。 
 膣を充填されているせいで、圧は尋常ならぬ程合いだったが、前門から流れ出る恥液によって 
挿れられる側が、唾液によって挿れる側が、いずれも充分に濡れそぼった状態であり、また、 
しばらくぶりでも後門での受け方を忘れてはいないナボールであり、また、リンクが徐行に 
徹してもくれたので、苦痛なく占拠は成し遂げられた。 
 次いでリンクが緩慢な進退運動に移る。ゼルダも休ませていた腰を再動させる。 
 絶叫を抑えられなかった。 
 かつて致したすべての淫事をはるかに凌駕する素晴らしさだった。 
 セックスには熟練しているナボールにしてさえ──いつもは攻めが専門とあって──二本挿し 
されるのは初の体験である。なおかつ生の男根に肛門を抉られるというもう一つの初体験が 
重なっている。つまり初めてが足し合わされている。他の諸々の初めてを先んじて立て続けに 
経験し、そのつど法悦のレベルを高められていながら、こたびの交わりが群を抜いて超絶的と 
印象されるのは、けだし当然なのだった。 
 ただ、それだけが超絶の理由とは思えなかった。 
 ──こうしてリンクとゼルダに挟まれ、二カ所を同時に攻められて狂乱したことが、前にも 
あったような気がする…… 
 全く事実に反した、そんな所感が惹起されるほど、ナボールの記憶は混迷に陥っていたが、 
そう錯覚してしまうのは、リンクとゼルダに寵されるいまのありようが、おのれの志向に、人格に、 
運命に、あまりにもぴったりと適合しているからなのだ、と──条理を超えて──納得できた。 
 二つの運動は、絶妙な連携をもって、徐々にその速さと強さを増大させた。さらに胸は後ろから 
リンクの両手に揉みしだかれ、口は下からゼルダの熱烈な接吻を受ける。感じやすい部分を 
漏れなく感じさせられれば、熟練者といえどもなすすべはない。ナボールは酔いしれた。 
接触している皮膚と粘膜を通して二人の生気が体内に染みこんでくる。肉と臓腑と血液を洗われ、 
熱せられ、沸騰させられる。結果はいつ終わるともない至上感だった。 
 リンクがひときわ運動を激化させた。暫時ののち、肛門に埋めこまれたものがどくどくと 
律動した。腸内で射精されている。その思いが至上感を最高にした。ほぼ同時にゼルダが全身を 
震わせてリンクと同種の顛末に至ったことも、気の高揚に大きく寄与した。 
 爾後、時は静かに流れ過ぎた。 
 折り重なった三つの裸体を、三者の誰もが動かそうとはしない。 
 しかしナボールの至上感は至上感であり続けていた。 
 ……まだ夜は更けかけたばかり。リンクもゼルダも──いまはぐったりとしているが──じきに 
元気を取り戻し、交流の延長を図るだろう。 
 望むところだ。やりたくて、けれどもやっていないことがある。 
 ゼルダの張形に後ろを掘られながら、リンクの怒張を頬ばり、そして今度こそ、喉の奥に精液を 
ぶちまけてもらうのだ…… 
 そのとおりになった。  
 
 ナボールのハイラル城滞在もその日が最後という段になって、いましも引き払われようと 
している城内の客室を、単身、ゼルダは訪れた。他者の目を気にせずともよい環境で、 
ざっくばらんに別れの挨拶をしておきたかったのである。が、相手も同じ腹づもりだったとみえ、 
対面するやいなや、先にナボールの方が口上を述べてきた。 
「いろいろ世話になったね。ありがとよ」 
 いかにも彼女らしい、窓の外に見える晴れ渡った空のような、からりとした口ぶりだった。 
もっとも、 
「あの晩のことも」 
 と続けた時には、声音と表情が、若干、照れ臭げになり、それがゼルダの微笑を誘った。 
「お返し」の効果がうかがい知れたのである。 
 しかし揶揄する意図は毛頭なかった。 
「こちらこそ、素晴らしいひと夜を過ごすことができて、ほんとうに嬉しく思います」 
 正直な気持ちを、修辞抜きで伝える。 
 真意は届いたようだった。ナボールは頷きを重ねつつ、しみじみとした気色で言葉を連ねた。 
「うんうん、全くもって素晴らしかった。あたしのいつもの流儀とは違ってたけど、だからこそ 
新味があって……ああいうのも、案外、あたしに合ってるのかもな」 
 なにやら印象深げな様子。 
『ひょっとすると……』 
 ゼルダは想察した。 
 あんなふうにしてわたしとリンクに挟まれ、二カ所を同時に攻められて狂乱したことが前にも 
あったような気がする──と、あの時、ナボールは思ったのではなかろうか。シークとリンクに 
二本挿しされた『あの世界』での記憶が──いまの彼女には想起できない記憶ではあるが── 
ひそかに意識下で蠢いたのではなかろうか…… 
「それはそうと」 
 ナボールが口調を剽軽にした。 
「あんた、実はとんでもない王女様だったんだねえ。あれを使いこなせるだなんて、びっくり 
仰天だよ。いったいどこでどうやって覚えたんだい?」 
 自ずと笑みがふくらんだ。 
『あの世界』でリンクを相手に、ただしそれは記憶の中だけでの使用歴──というのが、いまの 
問いへの答。 
 いや、そう「だった」のだ。ついこの間までは。 
 別荘に赴く時点で、いきさつは変化していた。記憶の中だけと註釈をつける必要もなくなっていた。 
 その前夜、ナボールは望みを果たそうとし、リンクの部屋へ忍んで行ったに違いない。ところが 
会えなかった。さぞ残念がったことだろう。 
 そう、リンクがそこにいなかったことを、わたしは知っている。 
 わたしと一緒だったのだ。 
 あの晩、わたしはこっそりとリンクを自室に招き、温めていた「構想」を話して聞かせた。 
ナボール歓待の仔細を──別荘で彼女がとるだろう行動にこちらがどう応じるかを── 
打ち合わせておかねばならなかった。 
 リンクは承知してくれた。  
 
 そこでわたしは、いま一つの願いをリンクに申し述べた。 
 ナボールの贈り物を使って彼女に「お返し」をする、それよりも前に、『この世界』のわたしと 
しては初めてになる行為を実体験しておきたかった。 
 予行演習というだけではない。 
 わたしが「童貞」を捧げる相手はリンク以外にあり得なかったのだ。 
 これをもリンクは受け入れた。 
 ぼくが「処女」を捧げる相手はゼルダ以外にあり得ない、と──嬉しいことに──思って 
くれたのだ。 
 かくしてわたしたちは──わずか一週間にありったけの愛を凝縮させるしかなかった 
『あの世界』のわたしたちを、愛し合う回数の点では七年のうちに遠く引き離した『この世界』の 
わたしたちは──それでもなお経験していなかった愛し合い方を、ようやく、『あの世界』の 
わたしたちのように、おのれのものとすることができた。 
 わたしもリンクも、その「とんでもない」交わりに熱中した。熱中するあまり、やはり 
『あの世界』のわたしたちだけがするに至った、もっと「とんでもない」営みを──互いの口に 
向けて放尿するという非常識きわまりない愛し合い方を──思い出し、矢も盾もたまらず、浴室に 
場を変えて実行もしたのだったが…… 
 とまれ、さすがにそんな話をナボールにはできない。 
「内緒です」 
 と、笑みは保ったまま、韜晦しておく。 
 ナボールも拘泥はしなかった。 
「じゃ、穿鑿はよしとくよ。あんたにはあんたの事情ってもんがあるんだろうからね」 
 虚礼は好まず、さりとて狎れたくもなし──といった風情。 
 ゼルダの心は温まった。 
 清々しい。そこに惹かれる。 
「でも、ま、ゲルド族の流儀さえ身につけてるあんたとだったら、この先もうまくやっていける 
だろうさ。よしなに頼むよ」 
「ええ、喜んで」 
 そう、「童貞」は捧げられなかったけれども、わたしが「男」として初めて接した女性が── 
『あの世界』のわたしですら経験しなかった交情の初の相手が──あなたであることを、わたしは 
後々まで喜ばしく思い続けるだろう…… 
 ナボールが言葉を継ぐ。 
「今度の件じゃ、あたしも考えさせられたっていうか、元気づけられたっていうか……ゲルド族の 
頭を張っていく上で大事なことが、何となくわかったような気がするんだ。砦に帰ったら役立てて 
みる」 
「ぜひ、そうしてください」 
 と促したゼルダではあったが、ナボールの意中を理解できたわけではなかった。彼女なりに 
思うところがあるのだろう、と推量するにとどまった。ただ、ナボールがその気構えでいてくれる 
限りゲルド族の未来に大過はない、と確信もできた。 
『それに……』 
 もう一つの確信。 
 いまのナボールが知る由もない経緯によっても、遠からず、ゲルド族は未来に光明を見いだし 
得るはずなのだった。  
 
 砦に戻ったナボールは、奇妙な知らせを仲間たちから受けた。『幻影の砂漠』では日常茶飯事の 
砂嵐が、ある日を境に頻度を激減させた、というのである。不思議に思いつつ、事態を 
静観していたナボールだったが、一時的な変化ではないと判断できたので、ともかく砂漠の現況を 
調べてみようと決めた。 
 ナボールを含む数人のゲルド女からなる一行は、幾日かにわたる旅の末、巨大邪神像に到達した。 
 そこはほとんど人が訪れることのない地ではあったものの、そういう建造物があるとの知識は、 
古来、言い伝えにより、ゲルド族の間で共有されていた。しかしそれよりも西では、以東にも 
増して砂嵐が猛威を振るい、文字どおり人跡未踏のままであらざるを得ず、ゆえに巨大邪神像を 
もって「世界の果て」とする定義が、ゲルド族にも、ひいてはハイラル王国にも、疑問なく 
首肯されてきたのだった。 
 ところが、その西方にナボールらが見たものは、やはり砂塵が跳梁する気配もない、単調にして 
平穏な砂漠の広がりだった。「世界の果て」の向こうにも、世界は続いていたのである。 
 では、どこまで続いているのか。 
 ナボールは興味をかき立てられた。さらなる踏査が必要だった。が、目的地までの距離も知れぬ 
──否、それ以前に、目的地の有無さえ知れぬ──旅を気軽には行えない。ゲルド族単独でできる 
ことでもなかった。 
 報告と依願がハイラル城に伝えられた。王国はこれを認可した。大規模な探検隊が編成された。 
ゲルド族とハイラル王国諸人の混成よりなるその一隊には、前者の代表としてナボールが、後者の 
一員としてリンクが、それぞれ参加した。 
 補給を慎重に確保しながらの行程は、進むに月の単位を要する長途となったが、やがて驚くべき 
形で結末に至った。 
 砂漠が尽きた所は、人の住む土地だったのである。 
 ハイリア人にとっても、ゲルド族にとっても、いにしえより、ハイラルと世界は同義であった。 
しかるに事実は異なっていた。ハイラルの外にも世界はあること、ハイラルは世界の一部でしか 
ないことを、彼らは知らされたのだった。 
 世界観の切り換えを強いられたのは、ハイラル側の面々だけではなかった。相手側もまた驚愕し、 
当初、両者間には緊張の空気が流れた。しかし互いが互いを「同じ人間」と認めるまでに時間は 
かからず、緊張は友好へと早変わりした。 
 現地の回覧。情報の交換。以後の親善の約束。 
 膨大量の記憶と記録がハイラルに持ち帰られた。 
 ゼルダが城内の自室でリンクから聞く土産話も、かつてないほど豊富な内容となった。 
 曰く── 
 先方の世界に住む人々の姿形、言語、風俗、生活習慣などは、ハイラルに住む人々のそれらと 
大きくは違わないこと。 
 すなわち、二つの世界は、伝説すら言及していない太古の昔において一つであり、おそらくは 
気候の変化に基づく砂漠の拡大によって、いつしか二つに分かれ、そののち互いの存在を失念して 
しまったと推測されること。 
 先方の世界には、ホロドラム、ラブレンヌと呼ばれる二地域があり、合わせればハイラルよりも 
広い面積となること。 
 ラブレンヌはハイラル王国と同じく一人の王に治められているが、ホロドラムは特定の支配者を 
持たず、より素朴な社会形態を構築していること。 
 両地域とも、「海」という、ハイリア湖の何百倍もの広さの水たまりに面し、その水はなぜか 
塩辛く、水面には大型の船が行き来し、けれども海の向こうに何があるかは誰も知らないこと。 
 ──等々は、公式の報告書でも述べられており、前もってゼルダはそれを読んでいた。が、 
リンクの口吻は、実見実聞した者ならではの生彩や迫真性に満ち、ゼルダの感興を大いにそそった。  
 
 と同時に── 
 ゼルダは感慨をも抱いていた。 
 二つの世界は、今後、交流を深めてゆくだろう。しかし広大な砂漠が中間にある。頻繁な往来は 
期待しがたい。交易路の整備と維持が必要不可欠。だが、それは相当の大事業となる。いかに 
ハイラル王国といえども、現地で実務に携わる人員すべてを手配はできない。とすると…… 
 ゲルド族だ。 
 両世界の間に営まれる通商を中継するという役割は、地理的にみても、当然、彼女らが果たす 
ことになる。これは充分に「生きがい」たり得る「存在意義」ではないか。 
 リンクの語るところによれば、かの世界の住人は耳の形が丸いという。やはり丸い耳を持つ 
ゲルド族とは系統が同根なのかもしれない。そんな人々と接していれば、ハイラルに暮らす 
彼女らが燻らせ続けてきた疎外感も、いずれは解消されてゆくだろうし、ハイリア人とて、別の 
世界を知ったいま、ゲルド族を疎んずるなど無意味の骨頂と了得しなければならない。 
 畢竟、わたしとリンクとナボールの契りが、この局面を招来したのだ。世界観の切り換えを 
余儀なくされるような大事になるとは、わたしも想像だにしなかったが、ナボールとゲルド族に 
とっては、まことに有益な形勢の変化といえよう。 
 わたしにとっては…… 
 まさに歴史が転換しつつある中、ハイラル王国の将来を担うべき立場のわたしは、これまで 
以上の精妙さで政治を司らねばならなくなった。実に責任重大だ。 
 できるか? わたしに? 
 やってみせよう! 
『この世界』では王たるに必須の万事を学び、『あの世界』では身体を張って巨悪と戦ったわたしだ。 
この程度の課題ができなくて何とする? 
 ただ、そのためには…… 
「どうかした?」 
 滔々と話を続けていたリンクが、ふと声調を変えた。 
 こちらが向ける視線に訝しみを感じたらしい。 
「いいえ、別に」 
 咄嗟に答える。が、どうもしないどころではない。 
 全身の皮膚が火照っていた。 
 欲情ゆえである。 
 長旅を終え、ようやく帰還したリンクに、一刻も早く抱かれたい──と思ってしまったのだった。 
『わたしったら……』 
 意気軒昂と所存の臍を固める一方で、淫らな情に心を揺らされるとは、我が事ながら、 
ずいぶんと埒もない気性── 
『違う』 
 公事と私事を混同するべからず。それは道理。しかしその二つを完全には切り離せないのが 
人間というもの。 
 わたしの場合、『あの世界』では、リンクとの結びつきなくして使命の遂行は不可能だった。 
『この世界』でも、リンクとともにあればこそ、使命を全うできるわたしであるはず。 
『だけれど……』 
 リンクとともにあるとはいっても、具体的にはどんな形で? 
 すでにわたしも十七歳。以前から漠然と脳裏に描いてきたことではあるが、そろそろ真剣に 
考えなければ。 
 ──と、国の将来のみならず、自身の将来へも思いを馳せるゼルダだった。 
 
 
To be continued.  
 

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