身体を下方にずらせ、手にしたものと対面する。 
 口づけする。 
 やはり迷いは一片だに湧かなかった。 
 かつてシークと交歓する際にも致したことである。このたびも、ゼルダの計画が当初の 
目算どおりであれば、おそらくは同様に致しただろうことでもある。ただ、致す相手がシークと 
なると──先日、彼との接触を想像して二の足を踏む気持ちを抱いたように──幾許かの 
ためらいは生じていたに違いない。ところが、いまのリンクの胸中にあるのは、ためらいとは 
正反対の感情だった。そうしたくてそうしたくてたまらなかった。そこを除けば肉体的に 
ゼルダ以外の何者でもなく、ましてや精神的には完璧にゼルダである人物を、至上の境地に 
至らしめるためなら、できることは何であろうと徹頭徹尾やりつくす。その人物の内にラウルなる 
第三者がひそんでいるという点も、意志にかすかな影響さえ与えなかった。 
 吸う。 
 舐める。 
 含む。 
 慣れぬこととて、適確にできているかどうか、いまひとつ自信を持てなかったが、ゼルダは 
施しを退けようとはせず、あまつさえ、一段と乱れるその声は、もはや戸惑いを越えた純粋な 
歓喜の反映と感じられた。リンクは励まされ、また励みもした。 
 結果、口中のものはさらに膨張した。時おり不随意的な痙攣をも呈した。刺激を続ければ、 
そう長くない先、限界に達するだろうと思われた。 
 それも一興。いまにして可能となった方式での絶頂を、できるだけ早くゼルダに堪能させたい。 
 しかしその頃には、同じく膨張の極にあったリンクの一物も、そろそろ憤懣を訴え始めていた。 
 ぼくがしていることを君も、と求めれば、即座にゼルダは快諾するだろう。 
 だが、この場面で進み入るにふさわしい所は他にある。 
 リンクは準備に取りかかった。 
 凸部に集中させていた口戯を、後方の凹部へと移す。潤滑を図る。ゼルダは抵抗しない。 
そればかりか、進んで開脚し、腰を上げ、施行を容易にしてくれる。そこが場になることを 
ゼルダも待望しているのである。 
 かくして地は均された。リンクは相手におのれを重ねようとした。その過程で予期せぬことが 
起こった。二人のいきり立った部分が、ふと触れ合ったのだった。 
「うッ」 
 思わずリンクは呻いた。 
「あッ」 
 期を同じくしてゼルダも声をこぼした。 
 些細な偶発事に過ぎない。とはいえ、等閑に付すには惜しい感触だった。 
 左手を赴かせる。二本の高ぶりを一緒に握る。こすり合わせる。 
 再度、呻きが喉を割って出た。快感ゆえである。そして同等のそれをゼルダも得ていることは、 
ひときわ大きくなった声と、そのなまめかしい音質から推察できた。 
 性器と性器が密着すれば、互いに快感を得るのが順当な成りゆきではある。両所の頂から 
湧き出す前触れの粘液によって、摩擦がしごく円滑になされているからでもある。が、そうした 
常識的な理由づけでは説明しきれない、実に新鮮な感覚なのだった。 
 リンクは左手の動きを速めた。そうせずにはいられなかった。快感の度合いが急激に増した。 
思考が一点に収束し始めた。 
 このまま達してしまおうか…… 
『いや!』 
 踏みとどまる。 
 鍵は鍵穴に挿しこまれてこそ真価を発揮する。鍵と鍵とでは──たとえいかに新鮮な一対で 
あろうとも──最善の組み合わせにはならない。もっともゼルダは肝腎の鍵穴を失ってしまって 
いる。残念ではある。だが気分の高まりには何の影響もない。失ったそれに劣らぬものを、なおも 
別所に備えているゼルダなのだ。  
 
 名残惜しさを振り捨てて、所定の行動に戻る。いったん腰を引く。ゼルダの身体をうつぶせにし、 
尻を持ち上げる。 
 力はほとんど要しなかった。ゼルダが自発的に──わたしにしてもそうするのが所定の行動と 
言わんばかりに──姿勢を整えたからだった。 
 志向の完全な一致。心と心が通い合っている何よりの証拠。 
 非論理的かもしれないその考えに、リンクは一筋の疑いも入れなかった。思いのすべてが 
ただ一つのことに収斂していた。 
 ベッドに膝をつき、上体を直立させる。両手でつかんだものの真ん中にある的に、固まりきった 
分身を突きつける。 
 そこに触れた刹那、ゼルダの肢体がぴくりと震えた。けれども緊張をうかがわせる仕草は 
それだけだった。すぐに門戸は開放された。 
 リンクはおのれを分け入らせていった。 
 ゆっくりと。ただし停滞はせず。 
 ほどなく完没が果たされた。リンクは静止した。そうせざるを得なかった。前進の限度に達した 
というだけではない。後退もままならない。挿入を平易にしていた肉壁の緩みが、俄然、強力な 
絞めつけへと変化したのだった。 
 痛みにも近い感覚が局部を襲った。 
 が、苦しいとは思わなかった。むしろ快かった。感激的でさえあった。 
 久しく昵懇にした前門の、あの絶妙な居心地とは異なる。しかしこの後門も幾度となく訪れた 
馴染みの場所。ここならではの趣──たとえばいまのように括約筋の素晴らしい働きをじかに 
賞味できる嬉しさ──というものが確固としてある。こうしてゼルダとひとつになれるのなら、 
それが格外の交わりであろうとも、人生、何の不足があるだろうか! 
 ゼルダは声を途絶えさせていた。難渋のせいではあり得なかった。尻に男根を受け入れるに 
ついて、とうにゼルダは熟練している。欣喜のあまりと確信できた。 
 リンクの内でも感激は急増した。 
 だが極みには足らない。じっとしていては埒が明かない。 
 ゼルダも同感のようだった。絞めつけが軽くなった。動けという示唆である。 
 一も二もなく従った。 
 退く。 
 進む。 
 退く。 
 進む。 
 穏やかさを心がけた。 
 摩擦が生み出す快美感は筆舌に尽くしがたく、また抽送に合わせてゼルダも腰を揺らすため、 
摩擦の強さは倍になり、快美の程度も倍になり、そうよわたしもそうなのよと吐露するがごとく 
改めてゼルダの口が奏で始める悩ましい喘ぎにも煽られ、荒々しい刺突に移って一気に果てたいと 
いう誘惑に、ともすれば駆られるリンクだったが、からくも衝動を制し、緩徐なペースを守った。 
 常にも増してゼルダをいたわらなければならない。 
 常にも増してゼルダの悦びを優先しなければならない。 
『だったら……』 
 ゆるゆると腰を使いながら、リンクは右手を前に伸ばした。ベッドと平行するゼルダの胴は、 
胸の丸みの一対を重力が命ずるままに懸垂させていて、探れば、先にした愛撫の際よりも、 
なおいっそう豊かな体積と質量と弾力を感得できる。触れる側からすれば無欠の女性性。また、 
そこだけは硬く尖った頂部を、やはり穏やかに指掌で撫でると、ゼルダは喘ぎを数段も悩ましくし、 
男の自分が同じことをされてもこうまでいい気持ちにはなれないだろう、触れられる側にとっても 
枢要きわまる、それは女性の特権品なのだ、と頷けるのだった。 
 しかし、ただの女にとどまらないのが現在のゼルダである。 
 余していた左手を股間に赴かせる。 
 猛々しいほどの勃起は、把持しても微小な当惑すら示さない。のみならず、そうされるのを 
待ちわびていたとしか思えない嬌声をゼルダの口は噴出させる。純一に悦楽を求めているとわかる。 
おのれの求めとも合致する恋人の意に、従前どおり、リンクは服した。 
 すでに二人の下半身は同期している。 
 リンクが自らを前進させれば、ゼルダは腰を後方へ突き出す。 
 リンクが後退すれば、ゼルダは前方へ。 
 その運動に左手をも同期させた。ゼルダが行う前後動とはそれぞれ逆方向となるように。 
そうすればゼルダの硬直にも効果的に摩擦を施せる。無論、右手による乳房の愛玩も忘れない。 
男性的な快楽と女性的な快楽を併せて供することこそが、両性を兼備する自分という現状を 
肯定するに至ったゼルダへの、最高最大の奉仕なのである。  
 
 志は通じた。ゼルダは心持ちがいかに佳良であるかを、喘ぎに加えて言葉で表現し始めた。 
口ぶりはたどたどしく、措辞は文章の態をなさない。ただ、話し方に神経を使うゆとりを持てぬ 
ほど、唯一、リンクとの至福の共有のみに固執しているゼルダの脳であることを、それは如実に 
物語っていた。しかも可及的速やかな実現を望んでいるらしく、腰の揺動はどんどん振幅を 
大にする。穏健さを基軸とするリンクは、その穏健さを維持し、相手をなだめ、いったんは 
ゼルダも同調して揺動を緩和させるのだったが、情熱の炎までは弱らないとみえ、たちまち調子を 
前のごとくに戻す。 
 何度かのやりとりを経て、リンクは指針を変えた。 
 ここはいたわりよりも情熱を尊重すべきだ。望みはかなえてやるべきだ。ぼくの望みも本来は 
ゼルダのそれと同一なのだ。 
 ピッチを上げる。交合が終盤に差しかかったことをゼルダも悟ったのだろう、得たりとばかり 
体動を速め、華々しい幕切れにしてくれとの願いを、乱れに乱れた口調で叫びにする。 
 放出の欲求が突き上げてきた。余裕はほとんどなかった。限界は目前にあった。 
 が、押しとどめる。 
 優先すべきものは変わっていない! 
 肛門を掘鑿し続けながら左手の操作を倍速にする。ゼルダの声が量と高さを増す。代わりに 
言葉の形は失われ、種々の母音の無秩序な連なりと化す。 
 ゼルダも限界を越えようとしているのである。 
 決めにかかる。 
 追い立てる。 
 追い詰める。 
 そして── 
 
 左手の中のものが激しく脈を打った。 
 先んじてゼルダをそこへ送りこめたことにリンクは満足し、自身にも追随を許した。 
 
 絶頂と、その後も果てない恍惚感とが、ないまぜとなって観察力を鈍らせていたのだろう、 
リンクがそれに気づいたのは、肉体の結び合いをほどき、立たせていた身をベッドに横たえ、 
同じく横臥の姿勢に落ち着いたゼルダと、互いを抱擁する形になったのち、しばらくの時間が 
経過してからだった。 
 シーツに粘性の湿りがあった。 
 精液。 
 量は少なからず、ゼルダの肛門から漏出したものでも、自らに遺残していたものでも 
あり得なかった。ゼルダが性器から射出したのだと判断するしかなく、湿りの位置もその判断を 
裏づけていた。 
 驚くべきことである。けれども驚けなかった。まだるい頭脳が驚きを抑止しているのだった。 
 ただ、疑問ではあった。 
 ぼんやりと、考える。 
 ──なぜ? 
 ──シークは射精しなかった。同様にラウルを体内に住まわせる、いまのゼルダが、なぜ? 
 説明は可能と思われた。 
 シークは全身の形態が男でなければならなかった。ラウルの男性性はゼルダの女性性を 
秘匿するのが精いっぱいで、射精という機能にまでは力を及ぼせなかった。対していまのゼルダは 
性器のみが男の形態。ゆえに射精機能を保持するだけの余裕がラウルにはあった。 
 正しい説明とは断じかねた。しかしリンクはそれでよしとした。理由にこだわる必要はなかった。 
 ゼルダは射精する。 
 その事実を無条件で受け入れられた。 
 そしてなお、受け入れの余地は残っていた。 
 まだゼルダは悦びを全うしていない。愛するひとの内におのれの証を放ち得たぼくとは違って。 
 では、こののち、どうするか。 
 リンクは結論した。 
 依然として一片の迷いもなく。  
 
 ゼルダは陶酔の淵にどっぷりと浸かっていた。 
 十六歳の自分が『あの世界』で、あるいは九歳の自分が『この世界』で、それぞれリンクと 
初めて──前者の場合は「実質的に」という但し書きがつくが──結ばれた時のそれにも、決して 
劣ることのない感動だった。 
 ……もはや人間ならぬ生き物といってもいいわたしに、なおもリンクは愛を注いでくれる。 
 葛藤の末に下された決断ではなかった。迷いの片鱗さえうかがえなかった。そうするのが 
当然であり自然であるとリンクは信じているのだ。 
 だから、嬉しい。なおさら。 
(身体のどこがどんなになっても、君は君だよ) 
 というリンクの言は、『あの世界』での、 
(それだからといって君が君でなくなるわけじゃないんであって、それもこれも全部引っくるめて 
君なんであって、それであろうとなかろうと関係なくぼくにとって君は君なんであって) 
 あの熱弁と正確に符合する。 
 ぶれない。リンクは。いつ何どきであれ。一寸たりとも。 
 そんなリンクになら、わたしはわたしのすべてを捧げられる。 
 もちろん、これまでもそう思ってきたが、その思い方は微温的に過ぎなかったと言わねば 
ならないくらい、いまのわたしの心は堅い。 
 肉体のありようなど、どうだっていい。 
 かくのごとく女性器を欠いた身となり果てても、他の場所で十二分にリンクの情けを拝受は 
できるし、リンクも交接の部には全然こだわっていない。あまつさえ、わたしの股間に生えた、 
醜怪と評されてもやむなしの異物を、こうまでするかと感銘してしまうほど、丁重に、熱心に、 
取り扱ってくれた。君のこれは尊い、と説き聞かせられているような気さえした。 
 おかげでわたしは、肛門を突き抜かれて達せられる、すでに知るとおりの絶頂に加えて、 
「男」としての絶頂を極めることができた。 
 爆発的な、その快感。 
 世界中のいかなる女も経験不可能なそれを、わたしだけが自分のものとなし得るのだ。 
この珍奇な身がありがたいとすら思える。 
 シークだった時に経験した感覚ではある。が、女の心で男の感覚を味わうのは、知識や記憶では 
代えられない、実に法外な鮮烈さだった。 
 シークが致さなかった射精という現象を、今回は伴っていたせいかもしれない。 
『そう……』 
 わたしは射精する。 
 意外ではなかった。想定内だった。 
 ハイラル王国において唯一の王位継承者であるわたしは、もはや子供を産めない身体となった。 
このままだと王国は滅亡する。けれども、ハイラルの守護者たる『光の賢者』ラウルであれば、 
わたしを懲らしめようと思いこそすれ、王国の滅亡までを企図するとは考えられない。とすると、 
わたしは「男」として子孫を残せるはず──換言すれば、射精できるはず──なのだ。 
 もっとも、ほんとうにそうなら、わたしの身体は一生このままという、先日から抱いていた 
予感は、正鵠を射ていたことになる。部屋に閉じこもっている間、その論理が真であるか否かを、 
自らの手で──自慰によって──証明しようと思わないではなかった。しかし、できなかった。 
あまりにもやりきれない帰結を目の当たりにするのが怖かったし、そもそも、そんな気分で射精が 
可能な勃起状態には至れない。 
『でも……』 
 もういい。もう怖くはない。 
 いまのわたしは、嘆きのほんのかけらさえもなく、この運命を受け入れられる。 
 むしろ喜びをもって──と言ってもよい。 
 なぜなら、 
『リンク……』 
 何があろうと、わたしのすべてを、あなたは認めてくれるから……  
 
 ゼルダの陶酔は連綿と続いた。 
 リンクが抱擁を解いても、 
「風呂に入ってくるよ」 
 と、独自行動をとる旨の台詞を口にしても、寝そべったまま、 
「ええ」 
 平静に応じられ、さらにリンクが去っても、ベッドに残されることを寂しがる心持ちには 
ならなかった。 
 離れていても常に一つの二人なのである。 
 ──という恍惚的な思考回路だけが働いていたのでは、実のところ、ない。別荘滞在中に 
入浴する際は、先にリンクが浴場へ赴き、ゼルダはあとから合流する。そうした習慣が以前から 
何とはなしにできている。つまり二人にとっては予定の次第であり、寂寞の情が起こるはずも 
ないのだった。 
 ただ、こたびも習慣に従うのなら、リンクを待たせすぎぬよう、陶酔に身を任せるのは 
ほどほどにすべきである。もっとも、浴場に行けば新たな陶酔が期待できるから、格別、起きるに 
不服はないゼルダであった。 
 ところが、陶酔の種類は思わぬものに変わった。 
 ベッドを降りると、床に脱ぎ捨てられた二人分の衣服が目に入った。まぐわいを前にして 
整理整頓など気にかけていられるかという、一種、熱意の表れなのだが、だらしなくもある。 
『畳んでおいた方がいいわね』 
 ゼルダは腰をかがめ、放置されたものを拾おうとした。 
 そこで、突然、奇妙な考えが心に浮かんだ。 
『リンクの服をわたしが着てみたら?』 
 かつて抱いたためしのない発想である。 
 おかしなことをわたしは──と訝る頭をよそに、手の方はためらいなくリンクの緑衣を取り上げ、 
その持ち主を待たせる結果となるのにもかまわず、さっさと作業を終えてしまった。 
 そうなると、具合を確かめたい。 
 寝室の隅に置かれた鏡。全身を映せる大きさ。 
 前に立つ。 
 身長や体格までが、男なみ、リンクなみになったわけではない。当然、寸法は合わない。 
さすがに胸まわりだけは乳房の盛り上がりが弛みを防いでいるが、あとはだぶだぶ。見栄えがする 
とは言いかねる。 
 なのに、 
『なかなかいいわ』 
 と思えてしまう。 
 嬉しい。 
 胸がどきつく。 
「あ──」 
 ゼルダは狼狽した。先刻、行き着いたのちは萎えていたものが、それから大して時も経って 
いないというのに、再びむくむくと勢いを取り戻したのだった。 
 性的な興奮。 
『なぜ?』 
 リンクの服を身に着けることで、リンクと一体になれたと感じる。 
 リンクの服に身を包まれることで、リンクに抱かれているように感じる。 
 そうした感覚が現実の行為を想起させるのだ。 
 服に染みこんだリンクの匂いに、知らず知らず、官能をくすぐられてもいたか。 
『でも、それだけ?』  
 
 そもそも、どうしてわたしはリンクの服を着てみようなどと考えた? 
 潜在的に求めていた? 何を? 男装することによる倒錯じみた悦び? 
 違う。わたしにその種の趣味はない。あるのなら過去に一度くらいは同種の着想に至ったはず。 
けれども実際にはこれが初めて。とすると、今回、一部ではあれ男の身体になったことに 
影響されているわけだ。しかもわたしの内には、倒錯感とは逆に、むしろこうするのが自然だと 
思う気持ちがあって、だから躊躇なくリンクの服を着られたのであって、つまりこんなわたしに 
男の格好が似合うか否かという興味……いや、単なる興味ではこの興奮を説明できない。もっと 
根源的な願望。そう、わたしが、もっと「男」だったら、どうなるか、どうするか、どうしたいか 
……もともと、なぜ、わたしは、シークに、なり、た、かった、の、か…… 
 分析は中絶した。燃え上がる情欲が理性を霞ませていた。勃起の極に達した物をいかに 
取り扱うか。それしか考えられなかった。 
 露出させる。右手で握る。 
 そうするだけでもかなりの刺激だった。手の中のものは覚えずぴくりと跳ねた。 
 だけど、足りない。もっともっと刺激が欲しい。 
 方法はわかりきっている。さっきリンクに施されたとおりのことをすればいい。だが、受け身で 
よかったさっきとは違って、今度は自分でしなければならない。全身が男だったシークでさえ 
しなかったことを。 
 するの? わたしは? 
 股間の猛りが迷いを許さなかった。 
 ゼルダは右手を働かせた。著しい快感が巻き起こった。続いてのその高まり具合も尋常では 
なかった。男は女に比して性感の変動が激しい。シークであった時の経験より得た知識を記憶から 
引き出しつつ、さらなる高まりを求めて手の捌きを速める。 
 鏡にはそうしたさまが克明に映し出されていた。 
 男の服装で男の行為に耽る人物。 
 しかしそれは女なのだった。顔貌、背中まで届く長い髪、胸の二つの隆起、加うるに何よりも 
自意識が、衣服と性器では覆せない元来の性別を認識させた。 
 奇態である。 
 この世にあり得べからざる光景である。 
 が、否定の感情は生じなかった。誇らしくさえあった。 
 これが、わたし。 
 女でもあり男でもある、これが、わたし。 
 ただ、いまは、少しばかり──いや、かなりの程度に──男寄りの気分になっている。攻撃的な 
気分になっている。男のしるしを晒したい、溢れさせたい、ぶちまけたい気分になっている! 
『だめ!』 
 高まりが極限に届く寸前で、からくも右手を肉棒から離す。 
 ここでぶちまけてはだめ。絶対にだめ。なぜなら、もともと、わたしは…… 
 ゼルダは服を脱ぎ捨てた。せっかく身に纏ったものではあったが、もうそれになんらの執着も 
なかった。 
 再び全裸となって寝室を出る。駆けるに近い足どりで次の間を横切り、ドアをあけるだけの 
動作さえもどかしく思いながら脱衣所へ、そしてタオルも手にせず浴場内へと突き進む。 
 広大な浴槽の中にリンクは坐していた。首から下を湯に沈め、ゆったりと四肢を伸ばした格好。 
戸が開く音を聞きつけ、向けてきた顔には、待っていたよという歓迎の意と、待ちくたびれたよ 
という抗議の色とが入り混じっていたが、それはすぐと怪訝そうな表情に取って代わられた。 
 かまわずゼルダは猪突した。掛け湯も略して浴槽に足を踏み入れ、リンクの前に至ってようやく 
足を止めた。隆々と勃った陽物を隠す気もなかった。むしろ誇示したかった。 
 見下ろせば、リンクの表情は、怪訝の域を超え、あっけにとられたふうとなっている。 
 無理もない。いまのわたしはおそらく飢えた獣のように獰猛な顔つきをしているだろう。両目が 
吊り上がってもいるだろう。なおかつ恥知らずにも欲望に滾った「男」の部分を丸出しにして。 
そんな「女」に睥睨されたら、リンクといえども唖然となるのは必定。  
 
 ──と斟酌しつつも、事情を説くだけの余裕をゼルダは持たなかった。仮に持っていたとしても 
説かなかったに違いない。説かずともわかって欲しかった。 
 だが、わかってくれるだろうか? 
 一歩を進める。リンクの顔前に竿先を突きつける。 
 懸念は不要だった。さほどの間もなく、リンクは表情を落ち着かせ、尻ごむ気配も見せずに 
上半身を起こし、跪きの姿勢をとって、呈示されたものを口に含んだ。 
 ゼルダは随喜した。言葉抜きでも想いが通じる強い絆を確かめられたこと、その想いを積極的に 
受け取ってくれたリンクであることが、性器を吸われる快さと渾然一体になり、感激の渦を 
生成した。 
 続けて感激を極まらせにかかる。 
 最前の口戯ではリンクに預けきっていた主導権を、今度は自分が握り通すつもりだった。 
攻撃的な気分がいよいよ強くなっていた。 
 リンクの頭を両手でつかむ。 
 腰を前後させる。 
 突く。突く。突く。突く。 
 しばしばリンクに致されている行為だったが、致す側になって初めてその妙味が知れた。敏感な 
場所が口腔粘膜で摩擦される物理的快楽に加え、本来は性器でない部を性器として制圧する 
精神的快楽が、ゼルダの身体を灼熱させた。 
 慣れない役柄をリンクは健気にこなしていた。よどみなく肉茎が活動できるよう、開口の程度や 
形をまめまめしく調節している。息苦しくもあるだろうに、左様な気色は微塵も見せない。 
それどころか、この境遇からぼくは離れたくないと力説するかのごとく、両腕で尻をかき抱いてくる。 
 意図した進度を超えてゼルダの感激は躍増した。いつしか刺突が苛烈になっていた。止まらない。 
止められない。リンクの咽喉を破ってしまうかも、との思いは頭の隅にちらと浮かんだだけで、 
尻に巻きつく腕の力の強さにすべての危惧は打ち消される。体内の熱が臨界に到達しかけている。 
その熱を──「男のしるし」を──体外に放つべき時が迫っている。口からほとばしり出る欣快の 
声は以前と変わらず甲高い。腰の前後動に合わせて乳房は盛んに跳ね踊る。ともに女の要素である 
それらは、しかし、もはや一抹の惑いをも生起させない。 
『これがわたし!』 
 リンクの懐抱により結合は安定していた。腰を振りつつゼルダは両手を自由にし、おのれの 
胸乳に貼りつけた。 
 握る。揉み立てる。ひねくりまわす。 
 引き金になった。 
 重々しくも輝かしい感覚が局部に凝縮した。 
 炸裂した。 
 一度、二度、三度、四度…… 
 回を追うごとに射出の威は減ずる。反比例して幸福感は膨大する。 
 ごくり──とリンクの喉が嚥下音を発した。 
 感極まった。 
 これまでわたしはリンクの体液を何度となく消化してきた。わたしの肉体にはリンクの成分が 
組みこまれている。そして、このたびは、さかしまに、わたしの体液をリンクが消化する。 
わたしの成分がリンクの肉体に組みこまれる。 
 完全以上に完全な一体化をわたしたち二人は成し遂げた! 
 ゼルダは腰を引いた。同時に膝が力を失った。湯槽に身体が崩れ落ちる。が、転倒は免れた。 
リンクに抱き支えられていた。 
 そうされるのは嬉しい限り。でも抱かれ続けるつもりはない。何となれば…… 
 陰茎は硬化したままだった。  
 
 身体を拭くのもそこそこに、二人は寝室へ戻った。細かく表せば、気の急くゼルダがリンクを 
引っぱるようにして、という塩梅だった。先の入室時とは立場を逆にした構図である。しかし 
引っぱられる方がそうされることを拒んでいない点は共通しており、のみならず、差配をすっかり 
相手に任せるつもりのリンクであるらしく、ベッドに乗ったあともゼルダが行うことに注文を 
つけず、進んで至適な姿勢をとってくれもした。 
 ゼルダが行うこととはリンクの秘所への口撫だった。といってもゼルダは、自身のそれにも 
増して硬直した部分には──多分に心を惹かれつつも──挨拶程度の接吻を贈っただけで、 
もっぱら肛門に舌と唇を立ち働かせた。これもまた先の睦みとは攻守が入れ替わった構図であり、 
その際、攻の側にあって、ゼルダの真意を見抜けるはずのリンクは、それでも従順な態度を崩さず、 
さらには、しばしののち、準備はいいと告げるふうに──あるいは、早くと懇願するふうに── 
伏して臀部を高々と掲げた。 
 ゼルダはその後ろにつき、遅疑なく怒張を目的の場所に埋めた。 
 すでに幾度か張形を使っているので挿入は容易だった。続けての往復運動も支障なく行えた。 
が、快感は前例に百倍した。張形とて、押し入れる時には、棒状部の根元の裏側にある突起が 
陰核を圧し、それなりの快感を提供してくれる。とはいえ、生の器官が直接に得る感覚とは比較に 
ならない。最前の口淫すらも、一体化の完遂にあれだけ感激しながら、もはや次善の交わり方だと 
思えてしまう。肛門の狭隘さが抜群の摩擦刺激になっているのだった。 
 シークとしては経験ずみのことである。肛交の攻め側が享受できる佳味については記憶している。 
その佳味を再び体感したいがため、今回、シーク化を欲したのである。ところが、ゼルダの人格で 
味わうそれは、記憶の中のそれよりも、はるかに素晴らしく、はるかに新鮮だった。 
 そしてまたここでも、物理的快楽とともに精神的快楽がゼルダを燃え立たせていた。 
 ──わたしはリンクを犯している! 
 ──救国の勇者たるリンクをわたしだけがこうして支配できる! 
 ただし一方では、リンクの度量が広いからこその、その特権であることも、充分に理解していた。 
自分のみの満足であってはならないのである。無論、肛交の受け側の佳味もよく知るリンクでは 
あって、それは息づかいや喘ぎ声の調子から聞き取れるのだったが、そこで満足を停留させるのは 
不適当といえた。 
 ゼルダは抜き差しを激しくしながら、同列の激しさでもってリンクの勃起に右手を使った。 
期待どおりの嬌艶な反応をリンクは示し、そのさまがゼルダを一段と熱狂させた。 
 二人の高揚は相伴い、ついには絶頂も相伴った。 
 
 忘我の境に入りつつ、ゼルダは思いを漂わせた。 
 ……これほどわたしが──心理的にも──「男」であれるのは、わたしの中にラウルがひそんで 
いるからだろうけれど、それだけが理由でもない気がする。王女という、人の上に立つべき地位に 
あることが、かねてより、わたしの心理や振る舞いを、男めいたものに近づけていたのかも 
しれない。淑やかさを要求される立場であることへの反動も、あるいは、あっただろうか。張形を 
使う性交にためらいを覚えなかったのも、そこに原因がありそうだ。 
 が、「女」の悦びを捨てたわけではない。犯される悦び、支配される悦びは、依然として 
わたしの求めるところなのだ。 
 リンクも、それを、知っている。 
 このあと、必ず、リンクは、再び、わたしを「女」に仕立てたがるだろう。 
 さしあたって、おそらく、今日、まだ、していないこと……回復したあれを、わたしの口に、 
猛然と、突き入れて、くる、の、では…… 
 予見のとおりだった。  
 
 二人は交わり続けた。 
 数合を経ると、ともに精液は涸れ、行き着いても透明に近い液体が雫ほどしか漏れ出てこない 
仕儀となったが、色情は少しもおさまらず、性器はたちどころに威勢を取り戻す。それを 
恋人たちは、何度も、何度も、互いの口と肛門に没入させた。 
 時刻が正午になっても、昼下がりへと移っても、熱意は持久した。食欲は全く兆さなかった。 
 陽が傾く頃、ようやく疲労が乱行に制止をかけた。 
 ゼルダはベッドの上に裸身を投げ出し、同じ格好のリンクに寄り添って、荒れた呼吸を整えた。 
当面は休憩すべきだった。が、疲れは脳髄までを痿痺させてはいない。そこで、長い淫事の間は 
放擲していた思料へと、一時、立ち返ることにした。 
 満ち足りている。 
 わたしは満ち足りている。 
 かような営みが可能となったについて、性器の男性化という処罰を下したラウルに、いまでは 
感謝したい。 
 もしも他の誰かが、わたしとリンクのこんなありさまを知ったら、眉を顰めて変態的だと誹る 
だろう。しかしわたしは──そして必ずやリンクも──他者の評価など気にしない。わたしたちに 
とっては、男女の区分を超越したこの関係こそが、唯一にして至高のあり方なのだ。誰にでも胸を 
張ってそう言い放てる。 
 もっとも、このありさまを誰かに話すつもりは全くないが── 
『あ、でも……』 
 わたしはハイラル王国の後継者を残すべく義務づけられている。応分の女性に子供を産んで 
もらわねばならず、その女性にはわたしが男性器を持つ女であることをどうしても知らせて 
おかねばならない。また、その女性との一風変わった交誼を成り立たせようとするなら、世間に 
対しては真実を伏せるにしても、身近な幾人か、すなわち、国王たる父、インパ、侍医、 
少なくとも一人の侍女あたりには──もちろん他言無用を絶対の条件として──事情を説明 
しなければならない。幸い、彼らはわたしのよき理解者たちだから、いかに突拍子もない話を 
わたしが持ち出そうと、真摯に応じてくれるはずだ。が…… 
 わたしの子供を産んでくれる女性とは誰なのか。 
 そんな女性をわたしは見つけられるのか。 
 男女が混淆した人間──と言えるかどうかも微妙な生物──と交わり、あまつさえ、その子を 
産むなど、いったいどこの誰が承知するだろう。 
 ──と、早々に諦めてもいられない。 
 考えてみよう。 
 そういう奇特な御方を、未知の人々の中から探し出すのは、非常に難しいと言わざるを得ない。 
現時点で相当に親しい相手でなければ。 
 となると……  
 
 まず思いつくのは、身近にいる二人の理解者。 
 お気に入りの侍女。そして、インパ。 
 ……だが、無理だ。 
 あの侍女を性的行為の対象に? これまで想像すらしたことがない。いま無理やりに想像しよう 
としても、すこぶる非現実的としか感じられない。それに、彼女には以前からの恋人がいる。 
近いうちに結婚するらしいとも聞いた。わたしが割って入れる余地は皆無だ。 
 その点、すでに「関係」のあるインパだと、もう少し想像はしやすい。ある意味ではリンク 
以上にわたしを愛してくれているインパだから、真剣に請えば、わたしとの間に子をなすことを 
了承してもいいという気に──情の上では──なるかもしれない。が、いかんせん、インパは歳だ。 
四十代半ばの女性に出産を求めるのは酷。 
 ならば、他には? 
 現時点で相当に親しい相手。すでに「関係」のある相手。 
 インパ以外の賢者たちはどうだろう。 
 サリアは? 
 だめ。 
 子供を産むとなれば、少なくとも一年ほどはわたしと連れ添わねばならない。生活の場が 
コキリの森に限定されるサリアには不可能な条件。第一、サリアは──コキリ族としては例外的に 
思春期の徴候を呈しているとはいえ──初潮を迎えておらず、今後も迎えることはない。成長が 
止まっているからだ。妊娠できない身体なのだ。 
 では、ダルニアは? 
 だめ。 
「男」として生きてきた彼女に、いまさら女の役割は負わせられない。ゴロン族の族長が地元を 
長く留守にできるはずもない。その上、インパよりも年長のダルニアだ。サリアとは逆の意味で 
妊娠適齢期を逸脱している。 
 では、ルトは? ナボールは? 
 だめだ。どちらも。 
 年齢的な問題はない。しかし立場的な問題は確固として存在する。各々、ゾーラ族、ゲルド族の 
中枢にいる人物。自分たちの社会に束縛される点では、サリアやダルニアと同様だ。特にルトの 
場合、ゾーラ族が生きるに必須の清浄かつ豊富な水を、ゾーラの里でなければ得られないという 
大制約がある。ナボールについても付言すれば、相変わらず仲睦まじい『副官』との暮らしを 
二の次にはさせられないし、また、ゲルドの女性が産む子はゲルド族の容貌を多少なりとも 
受け継ぐだろうから、過去の因縁を踏まえると、その子をハイラル王家の後嗣とするのは── 
人種差別をするつもりは毛頭ないけれども──難題に過ぎる。 
 かくのごとく、賢者たちが、みな、候補外に去ってしまえば……  
 
 残るは、ただ一人。 
 マロン。 
 年齢は大丈夫。ロンロン牧場の跡継ぎではあるも、賢者たちに比べれば社会的束縛は緩い。 
新しい侍女とでもいう名目でハイラル城に招いて、実際にはわたしの「伴侶」となってもらう。 
咲きほこる花のように明るい、あのマロンとなら、心の通った関係を築いてゆけよう。無論、現状、 
これはわたしの一方的かつ独善的な願いだ。マロンの意思を無視して進められる計画ではない。 
肉体の秘密を明かすのにも度胸が要る。が、何であれ艶事には興味を示し、張形を使われるのさえ 
やぶさかではなさそうな発言をしたことがあるマロンだから、案外、すんなりと承諾してくれる 
のではなかろうか。 
 折りを見て話をしてみよう。 
 そうすると、もう一点。 
 マロン──と、とりあえず仮定しておく──が産んだ子は、表向き、わたし自身が産んだ子と 
なる。さすればわたしは、偽装的にではあれ、男と結婚しておかねばならない。 
 すべての経緯を心得た上で、わたしと結婚してくれるような男性といえば…… 
『それは! もう!』 
 決まっている! 
 考えずとも決まっている! 
 この期に及んでどうしてその座に他の男を据えられようか! 
 リンク! 
 リンク! 
 リンクとの結婚! 
 これまで絶えず夢見てきたそのことを、とうとう現実のものとする時が来たのだ。まともな 
妻にはなれないわたしだけれど、だからこそリンクしか──いかなるわたしであろうと受け入れて 
くれるリンクしか──夫たるべき人はいない。 
 それに、リンクなら、間違いなく、マロンをまじえた生活にもうまく溶けこんでゆけるだろうし、 
マロンの方も、リンクの参画を、喜びこそすれ、決して厭いはしないだろう。 
 解決すべき問題は他にも少なからずあるが、こうするのみと決まったからには、万難を排して、 
目標に向け、邁進しよう。 
 まずは、リンクに、告げることだ。 
 この身体が休まったら……もう少し、落ち着いたら…… 
 もう、少し…… 
 もう……少し………… 
 もう………………少し……………………  
 
 心の安寧に誘われた睡眠は意外に深かった。目が醒め、身を起こして窓の外をうかがった 
ゼルダは、すっかり暗くなった空に月が輝いているのを見た。その位置からすると、日が 
没してから、まだ長らくの時間は過ぎていないようだった。 
 肌を接する者の体動に知覚を刺激されてか、同じく眠りから脱したらしいリンクが、ごろりと 
身体の向きを変え、左手を伸ばしてきた。ゼルダは、入眠前に決意したことを実行しなければと 
考えつつも、股間に這い寄ってくるリンクの手を排せなかった。情熱は無尽蔵なのだった。 
 ところが── 
 突然、手は探りをやめ、次いで迷子のごとくうろうろとし、さらには、あわてふためいたふうに 
あたりを行きつ戻りつした。 
「ここ……これ……ええと……どうなって……」 
 混乱しきったようなリンクの呟きを聞くまでもなく、触られての感覚が先刻とはすっかり違って 
いるのにゼルダも気づいていた。 
 言葉が出ない。動きもならない。 
 それほど喫驚していた。 
 リンクが上体を立たせた。室内は戸外と同等に暗く、そのための手間取りと考えたのだろう、 
ベッド脇の小机に置かれた蝋燭に灯をともし、ふり返り、凝視を送ってきた。ゼルダもそこを 
しげしげと眺めた。 
 感触は事実を伝えていた。 
 ないのである。 
 円柱状の突起物が、附属する二つの球形物もろとも、跡形なく消え失せているのである。 
 代わりに見て取れるのは、女に特有の縦筋構造に他ならなかった。 
「なんで……」 
 リンクが途切れさせる疑問の言を、 
「さあ……」 
 との没意義な返事でしか受けられない。  
 ──夢だった? 
 ──いや、現実だ。 
 ゼルダの脳内では交わし甲斐のない問答が繰り返された。その裏には奇妙な想念があった。 
せっかく新たな自分を容諾できたのに、男性器を持つ女として生きる覚悟ができたのに、そんな 
身の上に感謝さえしたのに──との、喪失感にも似た思いだった。 
 ただ、他方では、理性が息を吹き返してもいた。 
 我が子をマロンに産んでもらうなどという非常識きわまりない企みを、どうしてわたしは平気で 
ひねり出せたのだろう…… 
 次いで思考は前向きになった。 
『身体が元に戻ったということは……』 
 ゼルダは自己の内面をくまなく探った。他者の気配は感じられなかった。憑依していたラウルは 
就寝中に離れ去ったのである。 
『なぜ?』 
 一生あのままの身体だとわたしは断じた。それがラウルに下された罰だと信じた。なのに…… 
 ラウルが予定を変えたのだろうか。 
 女性器を失ってさえもリンクとの愛を貫こうとするわたしに絆された? 
 あるいは、そうなってさえも痴情に溺れるわたしに、もうつき合いきれないとあきれ果てた? 
こんなふうでは自分の男性性が費消しつくされてしまうと危ぶみもした? 
 それとも、あの確信は──リンクが指摘したように──結局、わたしの考えすぎでしか 
なかったと? 
 ……そう、あれはわたしの特殊能力たる実現必至の予知とは機序が異なっていた。夢のお告げの 
形か、もしくは予兆の星の喚起でしか、予知はできないわたしなのだ。  
 
 つまり、わたしが考えすぎたこと自体、ラウルによる精神干渉の結果だった? いずれは 
わたしを女に戻すと初めからラウルは予定していた? 処罰は一時的なものだった? そもそも 
ほんとうに処罰だったのか? 他の目的がラウルにはあったのでは? そうだ。忘れていた。 
ラウルの覚醒。おそらくそれは起こっただろう。わたしがシークの形態ならずともそれは 
可能だっただろう。むしろシークの形態ならざるがゆえに──男女を兼ね備えた肉体であったが 
ゆえに──わたしとリンクとラウルの三者は契りを結べたのだ。そして、覚醒後の賢者は、 
その能力で、関与する地に──ラウルの場合はハイラル全体ということになるが──何らかの 
幸福をもたらす。どんな幸福? ハイラルの幸福? ハイラルの王女たるわたしの幸福? 
今回の件でわたしは幸福になった? 何か影響でもあった? わたしの何に影響があった? 
リンクとの結びつきをますます強くしようとする意志? 結婚? わたしとリンクの結婚? 
将来のわたしの幸福? それがハイラルの幸福にも通ずると? 
 気が鼓舞される想像だった。しかし自分に都合のよすぎる解釈でもあった。 
「だけど、まあ、よかったよ」 
 リンクが言った。なお釈然とせぬ雰囲気を漂わせながらも、ほっとしたには違いない様子である。 
「そうね……」 
 とゼルダは答えた。 
 ともかくもラウルは去った。目的を果たした上での退去なら、その目的が何であれ、再度の 
憑依は起こるまい。「ふた目と見られぬ」わたしの姿は、「二度と見られぬ」姿になったのだ。 
 が、わだかまりは溶け残っている。 
 リンクとの結婚を間近なものと考えられたのは、性器が男性化が発端だった。身体が元どおりに 
なったいま、結婚する必然性はなくなってしまった…… 
『いいえ!』 
 思い直す。 
 その必然性に導かれる結婚は、まことに異常な形のそれだった。いまのわたしはそんなものに 
固執せずともよいのだ。改めて事を進めればよいのだ。この一件が起こる前の状態に戻っただけ 
……いや、前の状態よりは一歩も二歩も前進している。わたしの意志は固まっている。ラウルの 
本意は読み取れないけれども、自分に都合のよすぎる解釈だからといって、それが誤りだと 
どうして決められよう! 
 
 ──と、鼓舞される方を選択してしまったがための、その後のゼルダの過失であっただろうか。 
 
 再びリンクが股間に手を差し入れてきた。今度はそこが「女」であることを前提にした 
指技だった。ゼルダは身の内に火がつくのを感じた。「男」の快感を堪能した上でも、やはり 
「女」の快感は他に代替させられないと──そしてリンクも「男」の快感を最大限に味わいたがって 
いるのだと──確言できた。やがて濡れそぼった谷間に屹立が近づけられた。ゼルダはおのれを 
大きく広げた。「女」としてリンクを迎え入れる感悦には抗しがたかった。 
 抗するべきだった。 
 リンクは失念しているのかもしれなかったが、ゼルダは覚えていた。 
「時期」がよくない。困ったことになりかねない。 
 そうと知りつつ…… 
 困ったことになってもいい、どのみち、わたしたちは──と、らしからぬ刹那的な情に 
押し流されてゆく自分を、もはや、たしなめる気もないゼルダだった。 
 
 
To be continued.  
 

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