私本・時のオカリナ/外伝/第五話/ルト編、投下します。 
連載内で何度か触れたルトとシークのやりとり。 
エロはルトの独演のみ。 
「対決」については『4-14-2 Ruto V-2』参照。  
 
 
「陛下がお呼びでございます。喫緊のご用件につき、お急ぎください」 
 と侍女に告げられ、朝っぱらから何ごとかと怪しみながら王の間を訪れたルトは、そこに未知の 
人物が立っているのを見て、踏み入れた足を思わず止めた。 
「これが余の一人娘、ルトじゃ。よしなに頼む」 
 壇上の玉座にすわった父──キングゾーラが、丁寧に話しかけるその人物の様子と、部屋の中の 
状況とを、ルトは急いで観察した。 
 若い男。いや、むしろ少年。自分よりいくつか年下のようだ。服を着ているということは── 
初対面だから当たり前だが──ゾーラ族ではなく外部よりの訪問者。王である父の前で起立を 
許され、しかも家臣を退けて二人きりで話ができる立場なのだ。この歳で。いったい誰なのだろう。 
 キングゾーラによる紹介が疑問を解いた。 
「ルトよ、こちらはシーク殿じゃ。カカリコ村の王党軍を指揮していたインパ殿のご子息」 
 少年はルトに向き直って床に片膝をつき、 
「お目にかかれて光栄です。お見知りおきを」 
 と静かな声で口上を述べつつ、深々と低頭した。 
 ルトは無言で頷きを返し、おもむろに再開させた歩みを、玉座の傍らにある自らの席へと寄せる 
一方、横目で観察を続行した。 
 敬語は使っているものの、王族に対する物言いとしては、ややぞんざいだ。けれどもカカリコ村は 
対ゲルド戦で共闘する仲間であって、こちらの配下というわけではない。それで過剰な儀礼を 
省いているのだろう。適切な態度といえる。物腰は穏やか。面立ちは端正。非の打ちどころがない 
人物……なのだが…… 
 理由もなくルトはいらつきを覚え、改めて身を立たせるシークから視線をはずし、自席に腰を 
下ろすや、キングゾーラへと端的な問いを放った。 
「して、父上、わらわに何用ですか?」 
 外界との交渉がほとんどなかったゾーラの里も、三年前にゲルド族が反乱を起こしたのちは、 
共闘仲間であるカカリコ村からの使者を、しばしば迎え入れるようになった。しかし自分が会談の 
場に呼ばれたことはない。政治的な用向きに関心はなかったし、父も自分を政治に関わらせたいとは 
思っていないはず。 
 返ってきた答も端的だった。 
「ハイリア湖へ行け」 
 頬を張られたような気がした。 
「お前が水の神殿に赴く時が来たのじゃ。シーク殿が付き添ってくださる。すぐにも発て」  
 
「その件は──」 
 反駁しかけたところへ、さらに言葉が押しつけられる。 
「幾度も言い聞かせてきたであろう。お前の身を守るには最善の方法。もはや猶予はできぬのじゃ」 
 確かに事態は切迫している。カカリコ村を急襲したゲルド軍は、なぜかあっさりと撤退し、 
ゾーラの里へと矛先を転じてきた。ゾーラ川の急流が天嶮の要害となり、また一族の奮戦もあって、 
どうにか持ちこたえてはいるものの、劣勢は否めず、カカリコ村やゴロン族の援助も大局を 
変化させるには至らない。里がいつまで耐えられるかは、はなはだ心許ない、と言わねばならぬ 
現状だ。が…… 
「わらわとて幾度も申し上げました。一人で逃げるわけにはゆきませぬ。わらわも一族と運命を 
ともにいたします」 
「ならぬ」 
 にべもない返事。いつもは娘に甘い父なのに、今日はやけに厳格だ。 
 攻め手を変えてみる。 
「難を避けるのであればカカリコ村でもよいでしょう。最近では──事情はよく存じませぬが── 
ゲルド族が侵入できない場所になったと聞きました」 
 キングゾーラは首を横に振った。 
「カカリコ村にはゾーラ族が生きてゆけるだけの水がない。それに……」 
 語気がいかめしさを増す。 
「わかっておるはずじゃぞ。身の安全だけではない。『水の賢者』たるお前には、神殿に入って 
覚醒を得、ガノンドロフの魔手から世界を守るという使命がある」 
 その使命とやらに納得がいかないのだ。ガノンドロフに対抗すべしとの理念はいいとしても、 
どうやって世界を守るのか、具体的な方法はさっぱりわからない。第一、なぜ自分がそんな使命を 
負わなければならないのか。神殿に入った賢者は現実世界との繋がりを絶たれてしまうのだそうだ。 
つまり── 
「父上や里の者たちと、わらわは二度と会えなくなるのです。それでもよいと父上はおっしゃる 
のですか?」 
 情に訴えても効果はなかった。 
「ここまでお前を手元に置いたのは、余のそうした私意ゆえであった。もっと早くに決断すべき 
だったのじゃ」 
 キングゾーラは平静な口調を保ち、 
「余はすでに覚悟した。お前も心を決めるのじゃ。出立について詳細をシーク殿と相談し、 
のちほど余に知らせよ。よいな」 
 言い終わるやいなや玉座を立って、あとも見ず部屋を出て行った。  
 
 室内に二人きりとなって、シークが口を開いた。 
「姫、早々にご仕度を。お父上はすぐにも発てとのご意向。私もそうすべきだと思います」 
 慇懃な話しぶりが、かえって気に障った。 
「わらわは行かぬ!」 
「なりません。お父上に命ぜられました。姫が何と言い張られようがハイリア湖にお連れしろと」 
 シークは動じたふうもなく言葉を連ねた。落ち着き払った様子に、ますますいらだちを覚えて 
しまう。 
「部外者であるその方が口を出す筋合いではない!」 
 突っぱねる。が、あくまでシークは冷静だった。 
「部外者ではないのです。姫に使命がおありのように、私にも賢者を守るという使命があります」 
 引っかかった。 
 なぜ「姫を」ではなく「賢者を」と表現するのか。自分の他にも賢者がいる? シークの使命の 
対象は自分だけではない? 
『だとしても!』 
 引っかかりを振り捨てる。 
「いかなる使命があろうと、わらわが神殿へ入るにあたってどれほどの苦痛を忍ばねばならぬ 
ものか、その方には決してわかるまい」 
 高飛車に投げつけた弁は、またもあっさりと受け流された。 
「わからなくもありません。私の母が賢者でしたので」 
 意外な言に当惑する。 
「『闇の賢者』であった母──インパは、カカリコ村がゲルド族に襲われた時、闇の神殿へと身を 
投じ、現実世界との繋がりを絶ちました。修行のため村を離れていた私は、その場に立ち合う 
ことはできませんでしたが、それによって村は救われたのですから、なんら不満は持っておりません」 
 驚きだった。 
 やはり賢者は他にもいた。シークは当事者に近い立場で、しかし別れの挨拶すら交わせなかった、 
と…… 
 加えて一つの疑点。 
「村が救われたとはどういう意味じゃ?」 
 シークは淡々と答えた。 
「神殿に入った賢者は力を得て、自らが関わる土地の周囲に結界を張ることができる身となります。 
ゲルド族がカカリコ村に侵入できなくなったのはそのためです。ゾーラの里の場合もおそらく 
同じでしょう」 
 愕然となる。 
「姫はカカリコ村の事情をご存じないと言われましたが、お父上からお聞きになってはおられ 
なかったのですか?」 
「……いや……何も……」 
 としか言えない。 
 シークはいったん口をつぐみ、ややあって、慰めるように言葉をかけてきた。 
「お父上にしてみれば、実の娘を、いわば人柱にして、ご自身や一族を守ることになるわけです。 
姫にそうと告げにくかったのは当然だと思います」 
 なおも語は継がれる。 
「ご理解いただけましたか? 一族と運命をともにすると言い切るほどの心構えがおありなら、 
どうかご自分の使命についても心構えをお持ちください。そうされてこそ王女というものでしょう」 
 むかっときた。 
「王族でもないその方に王女のあり方を説教されるいわれなどないわ!」 
 シークの両目が細くなり、眉間に皺が寄った。ずっと冷静だった面貌が、初めて感情を 
宿したのである。が、浮かびかけた感情を、すぐにシークは元の冷静さへと戻した。その 
自己制御ぶりが、なおさら腹立たしく感じられた。 
「いくら母が賢者であっても、所詮、他人事ではないか。近しい者から永遠に引き離されて独りに 
ならねばならぬわらわの苦悩が、その方にわかるはずはないのじゃ!」  
 
「近しい者とは、お父上のことですか?」 
 黙る。 
 重ねて問われる。 
「お好きな殿方がおられると?」 
 言い当てられてどきりとする。併せて不審にも思う。 
 シークは知らないのか? 父から聞いてはいないのか? 
『どうであれ!』 
 知らないのなら知らないでいい。知らせたくもない。なぜそんな気分になるのか、自分でもよく 
わからないけれど。 
「お気持ちはお察ししますが──」 
「笑わせるな!」 
 一蹴する。 
「人を好きになるおなごの機微が、どうしてその方のようなこわっぱに察せられようぞ! 
きいたふうな口をきくでない!」 
 自分が「おなごの機微」なるものを知ったのが、いまのシークと同じくらいの歳の頃であった 
ことを、敢えて頭の中から追い出し、ルトは一方的に決めつけた。 
「その方には人を好きになった経験などないであろうが!」 
 再びシークが目を細め、眉の間に皺を作った。先ほどと同様の仕草だったが、今度は一瞬の 
変化ではなく、冷静さが戻ってこなかった。自分の言が図星を突いたのかどうかは判然と 
しなかったものの、相手に動揺が生じているのは明らかと断じ、ルトは言葉による攻撃を続けた。 
口が止まらなくなっていた。 
 ──そもそも、その顔が気に入らない。美男を自認して鼻高々なのだろうが、表情が無きに 
等しく、何を考えているのかわからない。目つきが悪い。鋭すぎる。陰険そうである。人の痛みが 
わからない冷血漢である── 
「いい加減にしなさい!」 
 シークが大喝した。 
「私を貶すのはかまいませんが、それでは何も解決しません。考えるべきことを考えなさい!」 
「わらわに命令するのか!」 
「丁重に申し上げるだけでは、おわかりにならないようですから」 
「平民風情が無礼であるぞ!」 
「この際、身分は関係ありません」 
「何と言われようが行かぬからな!」 
「行っていただきます。お父上のお許しも得ております」 
「腕ずくでもと申すか!」 
「気は進みませんが」 
「やれるものならやってみよ!」 
「そこまでおっしゃるなら」 
 シークの足が前に出た。 
『まさか?』 
 ルトは椅子に置いた身を思わず後ろへ引いた。その時── 
「あの!」 
 と脇から声が飛んできた。目をやると、いつの間にか部屋の戸が開かれており、おろおろ顔の 
侍女が立っていた。後ろには数人の衛兵がいて、心配そうにこちらを覗きこんでいる。 
「お二人とも、どうかもうそのあたりで……」 
 侍女は声を小さくして続けた。おそるおそるといった感じである。 
 高ぶった会話が外に聞こえてしまったのだ。それで様子をうかがっていたのだろう。空気が 
あまりに険悪で、すぐには止めに入れなかったのか。 
 シークに目を戻す。足を止めて侍女の方に顔を向けている。無表情に戻っているが、ばつの 
悪そうな色合いも見てとれる。 
 ルトは素早く席を立った。シークを置いて部屋の出口へと走り、侍女と衛兵たちを押しのけ、 
逃げるように王の間を去った。  
 
 自室に飛びこみ、戸に鍵をかけるや、ルトはベッドの上に身を投げ出した。種々の思念が脳内で 
渦を巻き、錯綜の極みを呈していた。 
 戸が控えめに叩かれた。侍女が名を呼ぶ声も聞こえた。ルトは返事をしなかった。誰とも顔を 
合わせたくなかった。 
 呼びかけは何度か繰り返された。が、いっさい反応を返さずにいるうち、やがて外は静かになった。 
 ルトはもつれた思考を解きほぐしにかかった。容易な作業ではなかったものの、時が刻々と 
過ぎるにつれて、乱れていた理性も復元され、一つの結論が自ずと浮かび上がった。 
『行かずばなるまい』 
 以前から抱いていた思いではある。けれどもいままでその思いにまっすぐ向かい合うことが 
できなかった。このたび初めて向かい合わざるを得なくなった。シークから知らされた事実によって。 
(神殿に入った賢者は力を得て、自らが関わる土地の周囲に結界を張ることができる身となります) 
 ゾーラの里を守れるのは自分だけだ。ゲルド族の攻撃を退けるためには、水の神殿に入って 
結界を張らねばならない。それが王女たる者の使命なのだ。シークに諭されるまでもなく。 
 そう、シークの主張は正当だった。反論の余地はない。 
 にもかかわらず、反論せずにはいられなかった。 
 なぜだろう。 
 シークが醸し出す雰囲気がそうさせた──とみるべきだろうか。 
 侮蔑的な個人攻撃に走ったのはよくなかった。省みなければならない。とはいえ、あの場で 
口にした内容が、自分の持つシークの印象を反映していたことは確かだ。最初から虫が好かないと 
思っていた。 
 ──というふうにシークのことを考えてゆくと、どうしても引き合いに出したくなるのが── 
『リンク……』 
 双方ともに部族外の人物。同じ年格好の少年。しかしいろいろと異なった面がある。 
 シークは内面をなかなか外に出さない。礼儀を知っている。身のこなしが洗練されている。 
大人びている。顔立ちは整っていて、中性的な趣がある。 
 対してリンクの場合、あくまで容貌は男っぽく、健康的だ。年齢相応に無邪気でもある。 
態度には礼儀のかけらもなく、初めは腹に据えかねたものだが、のちにはそこがむしろリンクの 
魅力と知った。外面を飾らない、正直な気性の表れなのだ。 
 そんなリンクに惹かれている自分だから、対照的なシークに反発を覚えるのだろうか。 
 そればかりではない気がする。 
(お好きな殿方がおられると?) 
 と問われた時、リンクのことを知らせたくないと思ったのはどうしてか。単なる疑問ではない 
シークの深意を、そこに感じ取ったせいではなかったか。 
 王女のあり方を説教されるいわれはない──と、また、人を好きになった経験などないだろう 
──と言ってやった時、シークが示した表情の変化は、その深意が露呈しかけた徴候ではなかったか。 
 そして…… 
(いい加減にしなさい!) 
 リンクにも叱られたことがある。寄生虫に襲われた時だ。こちらの場違いな言動に怒りを 
爆発させながらも、身体を張って助けてくれたリンク。それと同様の真剣さが、シークの叱声には 
込められていなかったか。シークの深意はそこにも働いていたのではなかったか。 
 どうだろう。 
 わからない。 
 シークとは会って間もない。わからないのは当然だろう。あるいはこちらが気を回しすぎて 
いるのかも……  
 
 無理してわかろうとする必要はない──と、ルトは思考を旋回させた。どうせ考えるのなら、 
好きなひとのことを考えていたかった。 
 今回の件も、シークにではなく、リンクに説かれていたのだったら、素直に耳を傾けられて 
いただろうに…… 
 ほんとうはそうなるはずだったのだ。リンクは自分に賢者や使命の件を知らせようとして、 
しかしそうはできなかった。だからしかたなく父に伝言を頼んだのだ。 
 できなくしたのは、自分自身。 
 思い出す。 
 三年前の、あの夜。 
 ハイリア湖に浮かぶ小島の上で、女のすべてをリンクに捧げ、至上の悦びに身をわななかせつつ、 
それをも超える哀しみに──リンクとともにあることはできないという哀しみに──打ちひしがれ、 
拒絶の姿勢をとった自分。 
(二度と、そなたの顔は、見とうない) 
 想いを断つには、そう言い捨てるしか方法はなかった。のちにリンクが里を訪れた時も、 
徹底的に接触を避けた。 
 さぞかしリンクは困惑しただろう。 
 いまは悔いている。 
 あれは自分のわがままだった。身勝手きわまりない振る舞いだった。自分のことしか頭になく、 
リンクの心情を推し量ろうともしなかった。 
 いずれは謝らなければならない──と、これまでずっと思ってきた。 
 機会は四年後。一度きり。 
『水の賢者』として覚醒するために必要不可欠なリンクとの再会。 
 それが過ぎれば、二度とリンクには会えなくなる。どうしようもない。もう一度会えるだけでも 
ありがたいと思わなければ。 
『その時には……』 
 謝るのみにとどまらない。ともに生きることはかなわずとも、ただ一度であれ機会があるなら、 
ありったけの想いを込めて、この身を再びリンクの腕に── 
『預けようぞ』 
 ベッドに横たえたおのれの裸体を、ルトはしみじみと観賞した。 
 この三年で、身長も、胸のふくらみも、股間の茂みも、格段に成長の度合いを増した。いまでは 
里の成人女性に比しても遜色ない。四年後にはもっと成長していよう。そういう自分を見て、 
リンクはどんな反応を示すだろうか。 
 全裸が常態のゾーラ族ゆえ、別段、気にもかけなかったが、思えば、三年前のリンクは、 
こちらが裸であることをやたらと意識していた。着衣を習慣としていれば、それが自然な 
反応なのかもしれない。ならば四年後の再会時にも、リンクは意識してくれるだろう。 
『じゃが……』 
 シークは全く意識していないようだった。同じく着衣を習慣とする部族外の者であるというのに。 
 こちらの魅力を無視するがごとき態度が、シークに反発を感じた理由の一つでもあっただろうか。 
もしくは、そこにシークの特異さが暗示されているのか。あの深意も、ひょっとしたら、 
その特異さと関わりが…… 
『知らぬ!』 
 シークのことなどどうでもいい。リンクのことだけ考えていればいい。四年ののち、みごとに 
開花した女の姿を目の当たりにして、リンクがどうするか、どうしてくれるか、どのように 
語りかけ、迫り寄り、触れかかってくるかを考えて、考えて、考えて、そしてリンクがそうする 
だろうと思うとおり──  
 
 そっと乳房に手をかぶせる。 
 三年前、リンクにここを触られた時は、覚えず派手に叫んでしまったものだ。いまは自分で 
触れているのだから、そんなふうに叫んだりはしないけれど、あの頃は控えめな盛り上がりに 
過ぎなかったここが、最近ではくっきりと丸い形を作ってきて、内側は生き生きと張りつめていて、 
それは肉体の発育を意味するとともに、リンクを想う心の強さをも表していて、その想いが 
あふれ出んばかりに皮膚を押し上げ、とりわけいちばん先の部分──かつては豆粒ほどでしか 
なかったのに、このところ少しずつ大きくなってきた乳首──に集中して、凝縮して、そこが 
ちぎれて飛んでいきそうになるくらいの強烈な感覚を生み出して、矢も盾もたまらず、 
「う……」 
 と呻きを漏らしてしまう。 
 そうなると、もう声を止められない。 
「あぁ……」 
 だの、 
「んん……」 
 だの、時には、 
「リンク……」 
 と、しどけなく呟いてみたりしながら、胸にかぶせた手を動かす。ふくらみの全体を揉みしだく。 
と同時に、だんだん硬くなってゆく突先を、繰り返し、繰り返し、撫でる。押さえる。こねまわす。 
ひたすら快感を追い求める。 
 もちろん快感は乳房だけでなく、身体の別の部分にも飛び火していて、特に敏感な股間の奥は、 
いまや激しく興奮している。そちらへも迷わず手を伸ばす。リンクならそうしてくれるに決まって 
いるから。 
 発達した恥叢をかき分け、さらに下へと這わせた指が、早くもねっとりと潤んだ秘裂の中の、 
うずく一点に達した瞬間、 
「あ!」 
 と喉は小さな悲鳴を吐き出し、全身はびくりと痙攣し、脳は強烈な刺激を得る。強烈すぎて 
怖いほど。なのに指は休みなく動きを続ける。強烈な上にも強烈な刺激が、やがて無上の歓喜と 
なって爆発することを、いまの自分は知ってしまっているのだ。 
 その歓喜が欲しくて欲しくて、これまで何度もこんなふうに自分をいじりまわしてきた。 
里の女たちのひそひそ話を小耳に挟んだところでは、こういう行為を自慰と呼ぶらしい。あまり 
感心できない習慣なのだそうだ。本来なら王女がなすべきことではないのだろう。けれども 
せずにはいられなかった。なぜなら── 
 指を谷間にもぐらせる 
「んッ……」 
 熱い鞘へと挿し入れる。 
「んぁ……あぁッ……」 
 ゆっくりと慎重に往復させる。 
「は……うッ……あッ……」 
 次第に往復の速度を上げる。 
「ひッ!……はぁッ!……あんッ!……」 
 なぜなら、この行為こそがリンクとの交情を──自分が最も幸せだったあの時間を──鮮やかに 
想起させてくれるからで、なおかつ、来たるべき再度の交情のためにしておくべき準備でも 
あるからだ。  
 
 そう、使命からは目を背けつつも、リンクとの契りについてだけは、常に思いをめぐらせてきた。 
 経験するまでは指の挿入などできなかった。どういう心持ちがするのだろうと試した折りも、 
痛みが実行を妨げた。実際、初めてリンクを身の内に迎え入れた時、ここに感じた激しい痛みは 
──あとに続いた目くるめく快楽によって打ち消されはしたものの──いまだに忘れることが 
できない。次の機会には何の障害もなく交わりたい。すでに開かれているここではあっても、 
七年分の成長を経て見違えるほど逞しくなっているだろう未来のリンクを、容易に受け入れられるか 
どうかは定かでないから、いまのうちに慣れておかねばならないのだ。 
 甲斐あって現時ではこのように、物理的にも心理的にも抵抗なく指を使える。これならたぶん 
大丈夫。 
『でも……』 
 すべきことは他にもある。 
 あの時の自分は何もかもリンクに任せきっていた。今度は積極的に行動しなければならない。 
リンクが触ってくれるのなら、こちらもリンクを触ってやろう。そうすれば、こちらが 
得られるのと同じ快感を、リンクにも与えてやることができる。 
 といっても、どうすればいいのか。経験の乏しい自分にはわからない。 
 想像してみよう。 
 男が最も感じる部分が、あの棒状の器官であるのは確かだ。あれを女の中で往復させて快感を 
得るのなら、往復を模した処置を講じてやればいい。つまり、あれを手に握って、適度に圧迫を 
加えて、上下方向に──あるいは前後方向にと言ったらいいのか──こすってやるのだ。丁寧に 
撫でてやってもいいかもしれない。自分だってそうされると気持ちがいいのだし。 
 手だけではない。リンクは口も使ってくれた。あの時はそんなことをされるとは予想もしておらず、 
ずいぶん戸惑ってしまったけれど、結局は手でされるのと同じくらいの──否、それを上まわる 
ほどの──素晴らしい気分を堪能できた。ならば今度はこちらも口を使ってやらねば。 
 どんな具合に使うかというと…… 
 これも想像するしかないが、リンクの行為に倣うとすれば、唇を押し当てたり、舌で舐めたり 
するのがいいか。外に突出した器官なら、口に含むのが適当だろうか。ちょっと練習してみよう。 
こうすれば、それともこういうふうにした方が── 
 ふと顧みる。 
 片手で胸を弄びながら、片手を秘所に挿し入れながら、だらしなく口をあけ、舌を突き出し、 
あまつさえ絶えず淫らな声を発している自分。 
 なんと浅ましい姿だろう。もしもリンクがこの場にいたら、あきれてものも言えなくなるのでは 
ないか── 
『いいや!』 
 そんなはずはない! リンクがそんな態度をとるはずがない! 
 これはリンクのためにしようとしていることなのだから、リンクを悦ばせようと思ってしている 
ことなのだから、いかに見かけが浅ましくとも、リンクは必ずこちらの気持ちを酌み取ってくれる。 
こちらの気持ちに応えてくれる。この手の中で、口の中で、そして女の秘洞の中で、リンクは 
感激に打ち震えてくれる。それはこちらも全く同じ。リンクの手によって、口によって、そして 
男の武器によって、たとえようのない感激を、そう、いま、まさに、この身を打ち震えさせようと 
している感激に優るとも劣らない感激を、感激を! 感激を──!!  
 
 絶頂の波が過ぎ去ったあととなっても、ルトはベッドの上の身を立たせる気になれなかった。 
 ふだんならここで行為は終わる。けれども終わりにしたくなかった。一度の絶頂では解消できない 
衝動が残っていた。それは現実に直面したくないという負の心情を映し出したものともいえたが、 
より純粋な願望が結晶した末の意思ともいえた。 
 しておくべきことが、もう一つある。 
 三年前、リンクは後ろを求めてきた。四年後も求めてくるだろう。いや、求められるよりも早く、 
こちらから求めてしまうだろう。ただ、その際に無欠の感悦を得ようとするなら、よほどの準備が 
必要だ。前よりもなお通るに困難な後ろの道であるがゆえ。 
 これまでそこをいじった経験はない。排泄に使う場所との意識が抜けず、手の接触を 
ためらってきた。が、ためらったままではいられない。いつかはしなければならなかった。 
運命の変転を目前としたいまこそが、新たな境地を知るにふさわしい時なのではないか。 
 意を決する。 
 まずはリンクがしてくれたように、前からしたたる粘液と、加えて唾液をも使用して、そこを 
充分に潤わせる。 
 次いで指を触れさせる。くすぐったいような、ぞくぞくするような、前で得る快感とは異質の 
感覚が──それでもやはり快感の範疇と認めずにはいられない感覚が──じんわりとそこに 
生まれ出る。 
 その感覚に心を強くし、そっと指先を奥にやる。 
「くッ……うぅッ……」 
 苦しい。さすがに苦しい。しかし耐えなければ。耐えなければ。指よりもずっと太いリンクの 
ものを受け入れて、ついには究極の法悦に達した自分ではないか。あの時はどんなふうに 
したのだったか。思い出そう。リンクは言った。力を抜いてと。そうだ、緊張してはいけない。 
緊張してはいけない。楽にして、筋肉を緩めて、しばらくは静かにして、そうしていれば 
この苦痛も快感に変わる。変わる。変わる。変わってきた。変わってきた。リンクにされて 
いるかのように感じられてきた。ならばここでもリンクの動きを真似て、ゆっくり、ゆっくり、 
少しずつ、少しずつ、先へと、先へと、ああ、もう、進めない。これ以上は先へ進めない。 
指の長さの限界だ。できる限りの深みに到達したのだ。到達することができたのだ。苦しくはない。 
気持ちがいい。できたという達成感だけでなく、あの時と同質の肉体的な快美感を、得られている。 
得られている。だったらもっと動かしてもかまわないだろう。前でやるほど奔放にとはいかない 
けれど、ゆっくり引いて、ゆっくり進めて、引いて、進めて、引いて、進めて、たまには指先を 
内壁に押しつけてみたり、撫でてみたり、こすってみたり、細やかな振動を加えてみたり、 
いろいろやってもいいだろう。いいだろう。いい。いい。とてもいい! たまらない! 
 これも自慰なのだろうか。前ならともかく、後ろでこんなことをする女が果たして自分の他に 
いるだろうか。世界で自分ただ一人かもしれない。だとしても全くかまわない。ここまでできる 
自分が誇らしいとさえ思える。 
 リンクと一緒に最高点を極めるためなら、どんな奇行であろうと厭いはしない! 
 ルトは行為に没頭した。するほどに快感は強まり、以外の念は消え散った。 
 ほどなく二度目の絶頂が訪れ、ルトの意識は空白となった。  
 
 しばしの時をおいて、ルトはのろのろと起き上がった。今度こそ戯れの時間は終わりを 
告げたのだった。 
『行かずばなるまい』 
 幻想に逃避し続けることはできない。しっかりと現実を見据えなければならない。 
 ならないのだが…… 
 不可避的な運命とわかってはいても、忍びがたいとの思いは残る。 
 他に方法はないのだろうか。 
 ない。あるわけがない。この運命を変えるすべは何ひとつとして── 
「あ!」 
 あるかもしれない! 
 当面の課題はゲルド族の攻撃からゾーラの里を守ることだ。神殿に入って結界を張るのが唯一の 
方法と考えていたが、他にも手はあるのではないか。たとえば何らかの政治的工作によって。 
 工作といっても、政治には無縁だった自分だから、直ちに良策は思い浮かばない。しかし誰かの 
知恵を借りられたら…… 
『みずうみ博士!』 
 そうだ。父を安心させるためにも、当面はおとなしくしておいて、とにかくハイリア湖へは 
行こう。向こうに着いてから態度を翻す。神殿には入らない。みずうみ博士に相談するのだ。 
解決が得られるかどうかはわからないにせよ、やってみるだけの価値はある。付き添いのシークは 
ぐだぐだ言うだろうが、なに、かまうものか、あんな男は放っておけばいい。 
 もちろん、そこで運命を回避できたとしても、四年後のことはどうにもならない。リンクとの 
契りによって『水の賢者』としての真の覚醒を得るという運命だけは動かせない。 
 けれども四年間は自由でいられる。 
『あるいは……』 
 四年後には情勢が変わっている可能性もある。賢者の運命とは無縁でいられる望みだって、 
全くないとはいえないだろう。 
 悪あがき? 
 結構! 
 できる限りの手立ては尽くす。それだけのこと。  
 
 身なりを整えたのち、ルトはキングゾーラの私室に赴き、父と、同席していたシークとに、 
ハイリア湖行きを了承したと告げた。併せてシークには──表面上はしおらしく──先刻の 
暴言についての謝罪を述べた。シークは不思議そうな顔つきとなったものの、特に疑いは 
持たなかったようで、同じく謝罪の言葉を返してきた。 
 以後の行動を決めるにあたり、シークは即時の出発を主張した。焦っている様子がうかがえたので、 
ルトはさまざまな理由をでっち上げ、出発を夜まで遅らせた。なぜシークが焦るのかは 
わからなかったが、それでシークが困るのならいい気味、困らせてやろう、と思ったのである。 
 いよいよ出発の時となって、キングゾーラは日中の厳格さを捨て、永遠の別れを運命づけられた 
娘に向けて、父としての愛情を切々と吐露した。さすがに悄然となるルトだったが、永遠の別れに 
なるとは決まっていないと胸中で自分に言い聞かせ、愁嘆場とならぬうちに別離の辞を終えた。 
 近侍の者たちへの挨拶もすませば、することはもう残っていない。やむなくルトはシークに 
手を預けた。 
 ハイリア湖への経路は地下水道である。水中での呼吸に必須となる『金のうろこ』を、ルトは 
一枚だけしか持っていなかった。リンクとは交互に使い合ったことのあるその品を、シークと 
共用する気にはとうていなれなかった。そこでシークには、キングゾーラが所持する、もう一枚の 
『金のうろこ』を渡しておいた。ただ、それで充分というわけにはいかない。シークの泳力が 
どの程度であれ、ゾーラ族に匹敵するはずはないから、少なくとも多少の補助は必要だった。 
とはいえ、リンクのごとく、胴にしがみつかせるつもりは毛頭なかった。片手を握り合うだけとした。 
ほんとうはそうするのさえいやだったのだが、他に方法もなかったのである。 
 水際まで至ってルトは立ち止まり、ゾーラの里の大空間を見渡した。そこでしばらくの時間を 
費やした。感慨はあったが、思惑もあった。ますます心急く様子となっていたシークを、さらに 
焦らしてやろうと企み、故郷を去りかねる少女の役を演じて見せたのである。案の定、シークは 
いらいらした素振りを示し、ついには腕を強く引っぱってきた。 
 ひそかにほくそ笑む。 
 シークとはあちらでも対決することになるだろう。 
『絶対に退かぬぞ』 
 決意を胸に固めつつ、ルトは水中へと身を沈めた。 
 
 ハイリア湖での「対決」が、実に意外な形で行われ、おのれの方針を大きく変える結末に至る 
ことを、この時のルトは予想だにしていなかった。 
 
 
The End  
 
 
 
 

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