『さあ 帰りなさい リンク
失われた時を取り戻すために!
あなたがいるべきところへ…
あなたがあるべき姿へ…』
そう言うと女性はオカリナを吹き始める。
自分の体が光に包まれ、視界からその女性が消えていった…
目が覚めるとその先にはシンプルながらも豪華な細工が施されたランプが天井から釣り下がってるのが見えた。
別にうなされるよう夢でもなく、とりわけ楽しい夢でもないが何故か起きてしまった。それも自然に…
ふと横に目をやると窓から月の光が射しておりその先は自分の寝てるベッドの端まで延びている。
もう一度寝ようと毛布を被るがなかなか寝付けない、どうやら完全に目が覚めてしまったようで仕方なしにもう一度半身を起こして
ベッドの先を見つめて何かを考え込もうとするが、
「スース―」というおだやかな寝息がリンクの隣から聞こえてきたのでそちらに目を向けた。
視線の先にはさっきまで見ていた夢の中の美しい女性と姿がまったく同じ者が眠っている。
しかしそれは夢の中の女性とは同一人物ではなく、(まぁ見方によっては同一人物かもしれないが…)
あくまで姿が同じの別人である。
リンクはその美しい女性の頭を優しくなでながらベットから出て床に散らばっていた服を着るが、
同時に何故か後ろめたい気持ちになり、その部屋を後にして中庭に移動した。
夜の中庭は月の光で明るく、リンクは中央にあるこれまたシンプルながらも何処か気品のある彫刻がなされた
石で造られた小さな建物に行きそこにあるベンチに腰を下ろし空を見上げた。
しばらく何も考えずボーッと月を見ていたリンクだが、ふと自分は月に行った事を思い出し、そこから
自分のしてきた冒険の思い出にひたった。そして今まで出会った人たちを懐かしむ。
スタルキッド、チャット、チンクル………
サリア、ルト姫、ナボール、マロン、ナビィ、そして――――――
――――ゼルダ―――――
さっき見た夢が頭を過ぎる。
それと同時にさっき感じた後ろめたさが罪悪感に変わっていくのを感じて
「俺は最低だな…」
そうつぶやき足元に目を下ろした。
自分が愛している彼女は…いや、それもただ自分を正当化しようと言い聞かせてきた言い訳かもしれない。
この違和感は前から感じていたんだ…だけど子供の時は感じなかった。
ガノンを倒し7年後から戻ってきて彼女に会った時は、幼かったせいもあるかもれないが、素直に
また彼女に会えてうれしかった。だけどガノンと戦った年齢に、大人になるにつれてこの気持ちが、出てきたんだ…
この時代の彼女もたしかに気高く、美しく、そして民を、人を思う優しさは変わらない。
だけど…7年前の7年後のゼルダが見せた寂しい表情はない。
そりゃそうだ、あっちのゼルダは7年間つらい思したのだから。
それに俺をシークとなって支えてもくれた、共にガノンを打ち倒した。
それをふまえて、最後にあんな寂しい表情をしたのだろう…
そんなゼルダに俺は惚れたのだ。そしてゼルダの奥底に潜む闇を取り払ってあげられない自分を責めた。
もう二度とゼルダには会えないのだ…
今の俺は…今の時代の彼女にゼルダを重ね合わせて自己満足に浸ってたに過ぎない。
まるで…そう人形の様に…
「ホント…俺は最低な奴だ…」
だがもう俺は取り返しのつかない事を…今さら『あなたを愛する事は出来ません、ゴメンなさい』じゃ済まされない。
なぜなら彼女を自分の手で汚してしまったからだ……
あぁ…このまま彼女の元を去るべきか…イヤ、そんなことで済む問題ではない。
考えてる内に腰に下げた護身用ナイフがリンクの目に入った。
「そうか…、そういう事か…」
そうつぶやきナイフに手を伸ばす。
…死ぬしかない、せめてこの命をもって彼女にお詫びしよう、もうこの世界に思い残す事はないだろう…
「ゴメン」
そう言いながらナイフに手をかける
―――ガチャ
ナイフ抜こうとした時だった、部屋に通じるドアから白いクロークを身にまとった彼女が立っていた。
「リンク、何をなさっていたのですか?」
すぐさまナイフから手を放しこう答える。
「いや、ちょっと眠れなくて…月を見ていたんだ…起こしちゃったね」
「いえ、構いませんよ、それより余りにも遅いので心配なさったのですよ」
そう言いながら彼女は少し寂しそうな顔で近づいてくる。
「あぁゴメン、ゴメン、少し考え事にふけっていて………――――え!?」
そのまま足を止めることなく近づいてきた彼女は俺の背中に手を回し、俺の頬に自分の頬を近づける。
「寂しかったのです」
―――エ?
「最近の貴方は私を私と見てくれないような気がしてたんです。自分でもバカな事を考えると思っていたのですが
だけど貴方の私に対する愛は、そのなんていうのでしょう、私ではなく他の方に向けられてる気がしたのです。」
―――気づかれてたのか…
「だけどやはり私は貴方を愛しています。貴方以外の殿方を愛するなんて考えられません。
今日、貴方に抱かれて私は幸せでした。お願いします、ずっと、ずっとそばにいて下さい。
自分でも勝手な女と承知しております。ですが――――!!」
自分の頬に冷たいものが伝ってくるを感じた。
彼女から顔を離し彼女の顔を覗きこむ……
彼女は一瞬、手で顔を隠しそれから涙を手で拭う、そして落ち着きを取り戻しこちらに顔を向けた。
「ゼルダ!?」
驚いた―――その彼女の寂しげな表情はゼルダとまったく違わなかった…
「はい?」
俺の言葉を聞いた彼女は少し笑顔を取り戻し、返事をした。
―――似てる、この感じ…笑顔の奥に潜む寂しさ、闇も…まったく同じだ、
その瞬間ハッと気付いたのだ、俺はまた一人救う事が、寂しさを取り払うことが出来なくなる所だったと。
「何処にも行かないよ、そばいるさ、今までゴメンね、実は…」
自分の事を正直に話そうした時、彼女のやわらかい唇が俺の口を塞ぐ。
「っん」
そして彼女の方から口をはなす。
「いいのですよ。リンク、私はその言葉を聞けたのですから、それ以上はいりません。ありがとう、リンク」
少し照れながらも彼女に笑顔が戻る。
あぁ俺また繰り返すとこだった…また闇を残す所だった…でも、気付いてよかった…
「さぁ部屋に戻ろう、ここは冷える、姫に風邪を引かすわけにはいかないからね」
「ねぇリンク、姫って言うのは止めていただけないかしら?貴方と私はもう…」
「そっか、ゴメン。じゃあ部屋へ戻ろうゼルダ」
俺は彼女……ゼルダの手を取り部屋に向かって歩き出した…
もう繰り返さない、放さない、
『俺はずっとゼルダの側にいるよ』