ここ、クロックタウンにはアンジュという女性がいる。
町唯一の宿、ナベかま亭の看板娘である彼女は、その器量・気だてのよさから町の男たちからは大変人気があった。
積極的に彼女にアプローチする者は後を絶たなかったが、彼女はそれをやんわりと断ってしまう。
そんな身持ちの堅さ、誠意溢れる態度がまた彼女の人気に拍車をかけているのだ。
そんな中、やはり気恥ずかしさからか声をかけられず、陰からそっと見つめる者も少なくない。
彼、雑貨屋のバイト君もそんな一人であった。
「アンジュさんって…いいよなァ」
なんとなく、独り言を言ってしまう。
基本的に彼のシフトは深夜なので、訪れる客は皆無に等しい。
なので彼はひとりごち、今夜も物思いに耽るのであった。
「あんな人が彼女だったらなぁ」
出会いはちょっとしたことだった。
彼が昼間たまたま店にいた時、彼女が訪ねてきたのだ。
なんでもこの店の店長とは昔からの知り合いらしく、差し入れを持ってきたんだそうだ。
その時店にはしばらく客が来ておらず、暇であった彼は趣味のギターをいじっていた。
そんな彼にアンジュは声をかけてきた。
『ギター、お好きなんですか?』と。
見かけによらずシャイであった彼は、なんとなくドギマギしながら答えた。
『まぁ…好きな方っスね』
若干ぶっきらぼうな言い方であったが、気にした様子もなくアンジュはまた話しかけてきた。
『そうですか。ちょっと聞いてみたい気もしますね』
アンジュは少しばかり冗談っぽく言ったのだが、彼はその笑顔に一瞬ドキッとさせられて、
『じゃあ…』
一曲弾いてみせたのだった。
店長に見つかったら流石に注意されるだろうが、あいにく店長は外出中で今はいない。
『わぁ、お上手!いまの風のさかなですよね?』
ぱっと花が咲くような笑顔で言うのだからたまらない。
『コ、コピーっスけどね。オ、オリ曲もあるんスよ』
その後調子に乗って2、3曲披露してしまった。
『楽しかったです。また、聞かせてくださいね』
そう言って、彼女は帰っていった。
「あのアンジュさんが結婚かよ…」
あれ以来彼女とは会っていない。そんなアンジュに結婚が決まったと聞いたのは、ごく最近だった。
あからさまに悔しがる者、むせび泣く者と色々だったが、みな彼女の結婚を祝っていた。
「クソッ…なんだよ」
しかし彼の心にはアンジュへの苛立ちが募っていた。
なんとなくムシャクシャして彼は店を出た。
「客は来ねぇし、店長はいねぇ。かまうもんか」
こんな日は一杯やるかと、バー・ラッテへ向かう。
その間も、
「そりゃ別にアンジュさんは俺のもんじゃないけどさ」
とかなんとかぼやきながら。
遠回りして北側から行くかと、クロックタウンの北側に入った時、彼は見つけた。
意中の人物を。
『こんな時間に?』
アンジュは浮かない顔で歩いている。そして東側通路近くの草むらに腰を下ろした。
ふぅ、と溜め息をついて、ぼんやりと虚空を見つめている。
憂いを帯びたその表情は美しく、また常にはない妖艶さも宿していた。
ゴクリ。
彼は彼女の放つ、どこか艶やかな雰囲気にすっかり呑まれてしまった。
『ヤベぇ…アンジュさん、メッチャ綺麗だ…』
自然と鼓動が早くなり、股間が主張を始める。
『いまなら誰も…いねぇよな?』
門番は居眠りしているようだし、あそこの子供は―なんでこんな時間にガキが?
『まぁいいさ。どうせわかりゃしねぇ』
彼はもう一度唾を飲むと、気配を殺してアンジュの後ろへ回り込む。
『マジで…犯っちまうか?』
しかし彼女の後ろ姿からその香りをかいだ時、彼の理性は飛んだ。
大妖精のほこらからの帰り道、アンジュはいきなり襲われた。
「だ、誰ですか!?や、やめて!!」
あっという間に芝生に組み伏せられる。
『ヤダ、男の人!?』
暗闇で顔までは見えないが、相手が男とわかりその真意に気づくやアンジュはぞっとした。
男の手が伸び乱暴にシャツのボタンを引きちぎる。そしてブラがずり上げられ、意外にも豊満な乳房があらわになる。
「イ、イヤぁ!!」
「…これがアンジュさんのオッパイ…」
『え!?私を知ってる!?』
男は一瞬見とれた後、胸を鷲掴みにしてきた。柔らかな乳肉はしっかりとした張りを男の手に感じさせた。
「んぁ…お願い、やめてくださ…んっ」 熱い男の手が乱暴に乳房を揉みしだき、男の舌がねっとりと乳首を愛撫する。
アンジュは凄まじい嫌悪を感じながら、下腹部が熱くなるのに気づいた。
『ウソッ!どうして!?私感じてなんか…』
男が今度は長いスカートをたくし上げ、純白のショーツが露わになる。
アンジュは今度こそ強い恐怖を感じ声を上げた。
「や、そこは…ダメェ!!」
逆に男はその声に触発されて、ショーツを一気に足首のあたりにまでずり下げた。
絶望に身を震わせながらアンジュは愛しい人の名を呼んだ。
「カーフェイ…」
皮肉にもその呟きが彼に理性を取り戻させた。だが今更止められない。
彼は痛いくらいに張りつめた分身を取り出すと、アンジュの秘所にあてがった。
だが彼に残る微かな良心が挿入を躊躇わせた。
彼は肉棒をずらしてアンジュの秘所に擦り付けた。
「んっ…あんっ…んんっ…」
彼の先走りとアンジュの僅かな愛液が混ざり合い、動きを滑らかにする。
加えて彼はアンジュの太ももの感触も楽しんだ。
怒張を擦り付ける度に亀頭の部分がむっちりとした太ももに挟まれるのだ。
普段はロングスカートに隠れていて分からなかったが、長くしなやかでカモシカのようなアンジュの脚は、彼に充分な快感を与えている。
「んっ、あぁっ、んくっ!」
必死に声を押し殺しているが、彼女の頬は赤く、見るからに切なげだ。
激しく腰を動かしつつ、同時に胸をこねくり回す。
肉と肉をぶつけ合う音が夜の町に響く。
永遠に味わっていたい快感の中で、しかし彼の限界は唐突に訪れた。
ビクビクと痙攣する男の肉棒にアンジュもソレを知る。
ドピュッ!!ドピュピュッ!!
「い、いやあぁぁぁぁ!!」
凄まじい量の白濁液が吹き出し、アンジュを汚した。
…
…
…
男は走り去っていった。
後に残されたのは、茫然自失状態のアンジュ。
彼女の端正な顔、真っ白な喉、たわわな乳房、細くくびれた腰と、精液がかかっていないところなどないほどであった。
…
…
…
どのくらいそうしていただろう。
やがてアンジュはムクリと起きあがると、ハンカチで全身に飛び散った精液を拭き始めた。そして衣服を整える。
『膣には…出されてない』
男は結局挿入してこなかった。暴漢の子を妊娠することもない。
しかし彼女の心には醜い傷跡が残された。そう簡単に消えることはないだろう。
朝日に照らされる顔は憔悴してはいたが、瞳の奥の輝きだけは失われていない。
アンジュは決して弱い女性ではなかった。
『カーフェイ…』
彼を信じて待つ。
それが彼女の果たすべきことなのだ。彼が帰ってくるまでは、決して諦めてはいけない。
「急がなくっちゃ」
直に夜が明ける。今日もやらなければならないことはたくさんあるのだ。
アンジュはナベかま亭に向けて歩きだした。
そして最初の朝が始まる。