幾何学的模様の刻まれた石造りの部屋に、日暮れ前のような穏やかな光が満ちている。  
かつてアイツとここに帰ってきた時、この部屋…いやむしろこの世界は誰かさんの悪趣味をぶちまけた  
かのような漆黒色に染め上げられていたっけなぁ、と今更ながら思い出してみた。  
おそらく彼の目には、真っ暗で不気味な空間としか映らなかっただろう。  
……どうせなら、今のこの世界を見てほしかった。  
ふと浮かんだ感情に、彼女はフッと小さく苦笑し、玉座の背もたれに己の体重を預けた。  
何をバカなことを。第一、今生の別れを決め込んだのは自分ではないか。  
陰りの鏡―――光と影を繋ぐ唯一の道。  
それを勝手に破壊し、反論すらさせずとっとと帰還した自分が、どうやってアイツにここを見せるというのだ。  
 
「…そろそろ、外の様子でも見てくるか」  
玉座から立ち上がり、足を一歩踏み出し―――そのまま止まる。  
 
そういえば、昨日は書類の確認に手間取ってあまり睡眠を取っていなかった。  
情けない話だが、玉座の上でいつのまにか眠ってしまったとしても不思議ではない。  
だから、黄昏の中に落ちた見覚えのあるシルエットに気づいた時、ああもうこれ絶対夢だと確信を持ってしまったのだ。  
 
「警備が入り口に兵士二人だけって、さすがに王城としては無用心すぎない?」  
 
きっと直前まで彼のことを考えていたからだろう。  
でも、それが夢でも幻覚でも構わない。そう本心から彼女は思った。  
「オマエたちの世界と一緒にするな。ザントがよっぽど例外だっただけで、どこかに攻め入ろうと考えるような  
ヤツはここには誰もいないんだよ」  
「……じゃあ、その例外が攻めてきたら?」  
「そうだな…その時は、またオオカミ姿の勇者様でも利用するか」  
己の妄想を相手に会話する自分がおかしくて、くつくつと口元を押さえて笑う。  
と、どうやらその妄想は何か勘違いをしたらしく、眉をひそめて  
「からかうなよ………まあ、あんまり変わってないみたいで安心したけど」  
そう言って、肩をすくめてみせた。  
そこで初めて、はっきりと彼の姿を瞳に映す。  
いくぶん幼い印象を残した『少年』は、精悍な『青年』へと成長し、そういえば声もほんの僅かだが深みを増していた。  
あれから3年も経ったのだ。もし壮健ならば、きっとこんな風になっていることだろう。  
…我ながらずいぶん逞しい想像力だ。情けなすぎて涙が出る。  
「! な、何? どうしたんだよ!?」  
いきなり不意をつかれたように慌てる様子は、本当にどこまでもアイツそっくりで  
「うるさい…!妄想なら妄想らしく、こんな時ぐらい空気読めっ…!」  
何とか言葉を絞りだし、くるりと背を向ける。  
たとえ夢でも、こんな顔をアイツにだけは見せたくない。  
必死で声を殺し、溢れ出る涙を抑えようとして―――  
 
―――ぎゅっと、逞しい腕に抱き寄せられていた。  
 
「なっ……!」  
突然の拘束に、一瞬、思考が停止する。  
「………会いたかった。ずっと、ずっと―――」  
抱きしめた両腕に、さらに力が込められる。  
それはまるで、やっと見つけた宝物に縋りつく子供の様で。  
「ば、馬鹿! 力込めすぎだ! 痛いから放せ!!」  
「…嫌だ」  
力をほんの僅かに抜いてはくれたが、その腕はしっかりとミドナを捕らえたまま、決して放そうとはしない。  
すっぽりと背中を覆う温もりと、耳元をくすぐる吐息が、泣くことを忘れさせるほどに彼女を混乱させる。  
いや、嬉しくない訳ではないのだが、いきなりこんな事されると乙女としては心の準備が―――  
 
………ちょっと待て。  
これは夢だ。夢のはずなんだ。  
じゃあ、何で夢の中なのに『痛い』んだ?  
 
おそるおそる振り向いて、視線をわずかに上げると、穏やかに彼女を見つめる青い瞳とぶつかる。  
静寂に包まれているはずの王宮で、己の鼓動だけがやけに煩く響いている。  
それでも…意を決して、優しげに微笑む彼に向かって手を伸ばした。  
「ミドナ…」  
困惑したように呼びかけられるが、それを無視し、震える右手で頬をそっと撫でてみる。  
わずかに、軽く触れるだけ。  
たったそれだけで判るほど、その頬は温かかった。  
 
―――影の住民と光の住民。大本は同じハイリア人でも、それぞれ世界に順応する為、様々な部分が  
異なった進化を遂げている。  
例えば、肌や髪の色等の外観。そして、体温。  
太陽の下で生きる光の世界の住人に比べると、この世界の人間は総じて体温が低いのだ。  
 
つまり、ひょっとして。いやひょっとしなくても  
 
「ぎっ…」  
「ぎ?」  
突然表情が凍りついた彼女に、つい首を傾げるが  
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」  
 
頬に触れる手は、一体いつの間に握り締められていたのだろう。  
手加減なしに魔力を込められたミドナの拳によって、光の勇者はあっさりと昏倒することとなった。  
…稀代の大魔王すら投げ飛ばす力を喰らって、死ななかっただけでも大したものである。  
 
目が覚めて思った事は、とりあえず  
「……俺、なんか悪い事したっけ……?」  
「虫が付いてて驚いたんだ。すまなかった」  
どこか呆然とした呟きに、さすがに罪悪感を覚えながら、でも間髪入れずにサラリと誤魔化す。  
 
…オマエに会いたすぎて見た夢かと思った、なんて言えない。言った瞬間死ぬ。恥ずかしすぎて。  
 
ああ、そういえば虫苦手だったよな…と、ぼんやりと呟くリンクに心の中だけで謝罪し、先ほど己がぶん殴った  
頬を出来るだけ優しく撫でた。  
「…まだ、痛むか?」  
「いや、平気。…治してくれたの、ミドナだろ? ありがとな」  
「……まぁ、ワタシがやった事だからな…」  
撫でる手を離し、染まる頬を隠すようにそっぽを向く。  
頬から離れた感触を名残り惜しみ―――そこで初めて、リンクは自分の置かれている環境に気が付いた。  
どうやら別の部屋に連れて来られたらしい。横たわっているベッドを何となく眺める。  
お日様の匂いこそないものの、清潔に保たれた白いシーツ。  
きっと羽毛ではないのだろうが、それと同じぐらいふかふかしている布団。多分相当上質な物なのだろう。  
さらにご丁寧に天蓋までついている。……ハイラル城に侵入してなければ、天蓋の存在自体知らなかったけど。  
そのまま視点を廻らせると、謁見の間まででも散々見た幾何学模様の石壁…だけでなく、部屋のあちこちに  
趣味の良さを感じさせる調度品が備えられていた。  
「ひょっとして、ここ、ミドナの部屋?」  
「…ああ。あの部屋からはここが一番近いからな」  
こともなげに言うミドナ。  
と、いうことは、普段このベッドを使って寝起きしているのは目の前の女性という訳で  
「………!?」  
やっと気がついた事実に赤面し、慌ててベッドから身を起こす。  
「…何だよ」  
「い、いやいや何でもないからっ!」  
必死に首を振って誤魔化す。我ながら怪しすぎると思える行動だが、彼女は  
「そ、そうか…」  
とだけ言って、そのまま黙り込んでしまった。  
………何だろう、この違和感は。  
自分の記憶通りの彼女なら、鋭い洞察力でこっちの事情なんてあっさり見通し、  
『はーん。さてはワタシの寝姿でも想像したんだろ、このスケベ』  
なんてからかってくるはずだ。しかもすっごく楽しげに。  
だが、目の前の彼女は、僅かに俯き目を伏せたまま沈黙している。  
「………」  
「………」  
……………この状況は、どうしたらいいのだろうか。  
 
「…なんでだよ」  
永遠に続きそうな沈黙を破ったのは、俯いたままのミドナだった。  
「え…?」  
「なんで、こんな所まで来てんだよ…」  
彼女にとって、彼がどうやって来たのかより、そちらの方が大きな疑問となっていた。  
自分の記憶が正しければ、たしか彼は、故郷の村の時期村長だった筈だ。  
……きっと今頃は、あの幼馴染の女性と、仲睦まじくしてるのだろう。そう、思っていた。  
だが、リンクの服装はミドナと別れた時の、あの深緑の衣のままだ。  
よく見るといくつかのほつれや、繕ったような後が見える。  
それこそが、彼がその後も旅を続けてきた証明だった。…まさか、ここに来る為に?  
「だってミドナ、言っただろ。『またな』って」  
「あ、あれは……!」  
―――あれは、別れを言い出せなかった、己の弱さだ。  
すでに心は決まってたくせに、最後の最後ですら言えなかった本当の言葉を覆い隠す為の。  
だから、彼女にとってあの台詞は、永久の別れを意味するものだった。  
だが、この男は  
「『また』はお別れの挨拶じゃない。…いつか会うための約束の言葉、だろ?」  
そう言って、晴れやかな笑顔を浮かべた。  
「…馬鹿。そんな言葉、とっとと忘れろよ……」  
胸が熱い。鼻の奥がツンとなる。  
今にも泣きそうになるのをぐっと堪え、無理やり笑みを作る。  
「そんな、してもいない約束の為に来たってのか、オマエは……」  
「……いや、多分『さよなら』って言われても来たと思う。  
あのまま別れるなんて、絶対嫌だったし」  
その言葉に、どくん、とミドナの鼓動が跳ね上がる。  
「…何でだよ。引っ付いてたバケモノが消えるのが、どうして嫌なんだよ」  
笑みを消し、問う。―――わずかに浮かんだ期待を、必死で押し込んで。  
「化け物なんて言うなよ……俺は、ミドナのこと好きだったぞ?」  
何気ない口調の中に、込められた彼の心。  
『好き』。  
その言葉が、ミドナの胸の中に強く響いた。その瞬間、喜びが感動となって全身に巡る。  
…今なら、素直に想いを言えるかもしれない。  
「わ、ワタシも―――」  
「だって、ずっと一緒に旅してきた大事な相棒だからな」  
 
………は?  
今、こいつは何て言った?  
 
「………相…棒?」  
「ああ、いちばん大切な、相棒だ」  
その言葉に、喜びやらときめきやらがピシッ、と凍りつくのをミドナは感じた。  
考えたくはない。でも、まさかコイツは  
「…つまり何だ。オマエは『相棒』のワタシに会う為に、わざわざ光の世界からこっちまで  
来たってのか?」  
「もちろん」  
躊躇いもなく、晴れやかな笑顔のままで返される。  
そのはっきりきっぱりとした口調に、ミドナは肩の力が一気に抜けていくのを感じた。  
…ああそうだよな。解ってたさ。オマエはそういうヤツだったよ。  
もう少しロマンチックな理由で来てくれたものだとこっちが勝手に勘違いしていただけだ。  
ハァ、と重い溜息をつき、キッと正面からリンクの顔を鋭く睨みつける。  
「え、な、何?」  
突然の様子にたじろぐリンクの頭を両手でガシっと掴んで固定し、  
「ワタシはこういうつもりで聞いたんだ! いいかげん気づけこの朴念仁!!」  
―――強引に、己と彼の唇を重ねた。  
 
いきなり落ち込んだと思ったら、睨まれて、怒鳴られて―――キスされている。  
突然のミドナの行動と、柔らかい唇の感触に、リンクの頭は真っ白になった。  
なぜ? とかどうして? といった疑問すら浮かばない。  
ただ呆然と、ごく近くにいる、青白い頬を真っ赤に染めた彼女の顔を見ることしか出来なかった。  
「………ぷはっ」  
どれくらいそうしていたのだろう。  
ミドナが突然ぱっと手と唇を離し、苦しげに息をはいた。どうやらずっと呼吸を止めていたらしい。  
そこでやっと、固まってたリンクの思考が正常に廻りだした。  
「あ、あのさミドナ、今のって、その、えっと…」  
…正常というには大分混乱しているようだが。  
「……オマエな。これ以上を女の方から言わせる気か?」  
赤い頬のまま憮然として言う彼女に、ぶんぶんと首を横に振って否定する。  
「そうじゃない! そうじゃなくて、だからその、これってつまり、ミドナが…」  
一旦言葉を切って、緊張で乾いた喉をゴクリと鳴らし、もう一度息をつき  
「俺の事、好きだって事? …そ、その、友達とか仲間って事じゃなくて…」  
「…初めからそう言ってんだよ。この馬鹿」  
悪態をつきながらも、気恥ずかしげに視線をそらす。  
それは、素直でない彼女らしい、肯定の言葉。  
「………」  
その意味をゆっくりと噛み締め、そして―――あっという間に赤面した。  
「え、えっと…あの、ゴメン、気づかなくて…」  
「……フン。そりゃどうせ、オマエと旅してたのはバケモノの方の『ミドナ』だったしな」  
気付かない、というより、そもそもそんな目で見れないだろう。  
ひょっとしてリンクからすれば、『ミドナ』は今の彼女ではなく、あの子鬼の姿のままなのだろうか。  
そう思った瞬間、ちくり、と胸がわずかな痛みに疼いた。  
 
……ああ、なんて馬鹿げているのだろう。  
あんなにも嫌っていたあの醜い姿に、まさか自分が嫉妬することになるなんて…  
 
「…で、どうなんだよ」  
「………へ?」  
いきなりの問いかけに、間の抜けた声を返すリンク。  
「ワタシはオマエに告白したんだぞ? なら、オマエはその答えを言わなきゃいけない。  
…今更友達から、なんて言ったら城の屋上から放り投げるからな」  
すいと細めた目で怖い事を言うミドナ。  
「そ、そんな事急に言われても…」  
「馬鹿、簡単な2択だろうが。やっぱり相棒としか見られないなら、ノーだ。  
で、もしも…」  
わずかに躊躇い、じっと目を見据えてから、言葉を続ける。  
「もしも、少しでもワタシを女として意識しているなら……イエス、だ」  
リンクが自分を好いているのは、先程、本人の口から聞いた。  
…ならば、後はもう、この二つしかない。  
期待と不安が入り混じる心境で、それでも、ミドナはその瞳を逸らそうとはしなかった。  
 
紅い瞳にまっすぐに見つめられながら、リンクは必死に答えを探していた。  
今までは、いちばん大切な相棒としか考えてなかった。それで十分だと思っていた。  
聞かれるまでもなくミドナは女の子だ。意識なんてとっくにしている。  
…でもそれは、きっと、彼女が言うような意味じゃないのだろう。  
 
ミドナ。  
小憎ったらしくて、ずる賢くて、いじわるで……でも、実はけっこう優しくて。  
言うことも考えも厳しいくせに、あんまり非情にはなりきれてなくて。  
こっちが何も言わなくたって、思ってる事なんてすぐに読まれてて。  
虫が嫌いで、民思いのお姫様で―――  
 
…本当に、それだけなのか?  
俺が知っている彼女は、本当に、それしかないのか?  
 
 
唐突に、だが鮮明に、あの日の光景が脳裏を過ぎった。  
 
夜明け前の黄昏の空の下、夕日色の髪を靡かせる、黒衣を纏った女性。  
理知的な瞳。高貴な雰囲気。…でも、はすっぱな口調はそのままで。  
ああ、やっぱりミドナだ、って安心したけど、でもそれ以上に………  
 
「―――見惚れてた」  
「…え?」  
「あの時、初めて今のミドナを見たとき。  
…こんな綺麗だったなんて、思ってなかったから」  
なにげに失礼なことを言われているが、それを指摘する余裕が今のミドナには無い。  
リンクの紡ぐ言葉を、ひとつも溢さないように、黙って耳を傾けている。  
「…うん。そうだ。俺は、ちゃんとミドナを『女の子』として見てた」  
それなのに―――いままで自分は、それをはっきり意識したことはなかった。  
まるで、消えてしまった彼女の思い出を穢さない為のように。  
でも……今は違う。目の前に、触れられる距離に彼女がいる。  
思い出の中だけでない場所で、自分の言葉を待っている。  
―――ならば、自分の答えはひとつだ。  
「俺も、ミドナが好きだ。女の子として好きなんだ」  
 
3年も待ち続けた言葉が、ゆっくりと、彼女の中に浸透していく。  
期待と不安は、いつの間にか驚きと喜びに変わり、全身を震わせる。  
いつまでも見ていたいはずの彼の笑顔が、ぼんやりと歪んでいき―――  
「…ミ、ミドナ?」  
「うっ……うわあぁぁぁぁぁん!!」  
恥も外聞もかなぐり捨て、大声でしゃくり上げながら、ぎゅっとリンクの胸元にしがみついた。  
ミドナ自身もなぜ自分がここまで泣いているのか解らない。それでも、この爆発した感情を  
止めることはしばらくできそうもなかった。  
 
予想もしなかった反応に驚きながら、それでも子供のように泣きじゃくる彼女をリンクは出来るだけ  
優しく抱きしめた。  
彼女が被っていたフードを外し、夕日色の髪をそっと撫でてみる。  
びくっ、とミドナの肩が強張るが、お構いなしにそのまま頭を撫で続けた。  
サラサラとした感触に、さすがお姫様、と変な感心をしていると  
「な、なあ……リンク」  
いつの間に泣き止んだのか、ミドナが困ったように胸の中から顔を上げた。  
…何となく息が荒い気がするのは、自分の気のせいだろうか。  
「ど、どうしたんだ?」  
何故か扇情的な様子の彼女に、つい言葉をどもらせる。  
ミドナもどう言ったものか解らずしばらく眉根を寄せていたが、やがて  
「あ、あんまり、髪、触るな…」  
「…え、何で?」  
こんなに綺麗なのに、と続けるリンクにミドナはふるふると首を横に振る。  
「違う……この髪は、ワタシの身体の一部なんだ。…動かしてるのは見た事あるだろ?  
だから、その、そうやって撫でられると…」  
顔を真っ赤にし、最後のほうはゴニョゴニョと尻すぼみでよく聞き取れない。  
…そういえば以前、彼女はまるで手足のように自在に髪を動かしていた。  
ということは、当然髪にも神経が通っているということだろう。  
つまり、自分は単にあやすつもりだった事が、彼女にとっては愛撫も同然だったというわけで。  
「…! ご、ごめん!!」  
慌てて手を離し、頭を下げた。  
想いを伝え合ったとは言え、そんな事をするにはまだ早すぎる。  
田舎育ちの為か、意外と貞操観念が強かったリンクは、知らなかった事を差し引いても猛烈に反省した。  
そんな彼の様子に、今度はミドナが慌てることとなった。  
リンクが純粋な厚意で撫でてくれていたのは解っていた。だから、余計に言い出し辛かったのだ。  
それに何より―――  
「……べ、別に触られるのが嫌なんじゃない」  
撫ぜる手への嫌悪感は一切無かった。ただ、あれ以上は耐えられそうになかったから止めたのだ。  
「…オマエが、ちゃんと『そういうこと』って自覚して、それで触るんだったら……」  
それならば、ワタシは構わない。―――消え入りそうな声で、彼女はそう言った。  
「ミドナ、それって…」  
「………」  
これ以上は言葉に出来ない。ただ一度だけ頷いて、肯定する。  
その意味を汲み取り、リンクはごくり、と唾を飲み込む。  
抱いてほしい―――そう、彼女は言っているのだ。  
だが、先にも言った通り、彼はそういった面において真面目だった。  
いいのか? 俺たちはまだ、告白したばかりじゃないか?  
理性と欲望がごっちゃになった思考で悩んでいると、不安になってきたのか、ミドナがおずおずと  
「その……嫌、なのか?」  
―――なんて、上目遣いで聞いてきた。  
ぴしり、と理性にヒビが入るのを、リンクはたしかに自覚した。  
突然ミドナを抱きしめて、強引に引き寄せる。  
「うわっ…!」  
「……本当に、俺で、いいの?」  
吐息が触れる距離で、耳元に口を寄せて囁く。  
…きっと、これが最後の境界線。  
踏み越えたら、きっともう戻れない。付き返すなら今しかない。  
でも、それでも  
「だからそう言ってんだろ……この朴念仁」  
今の彼女にとっては精一杯の軽口で、その言葉に同意した。  
願わくば―――この期待と同じぐらいに膨らんだ不安に気づかれない様に。  
 
 
どちらからともなく目を閉じ、唇を重ね合う。  
ただそれだけの行為が、ひどく切なく、そして心地よかった。  
「んっ…」  
唇を離し、瞳を開いたすぐ傍にあるのは、照れたような笑みを浮かべるお互いの顔。  
「何か…照れくさいな」  
「…さっきはそっちからしてきたのに?」  
「ウルサイ」  
軽口を叩きあいながらも、どこか緊張感が漂う空気。  
僅かに黙り込むだけで、一気に鼓動が加速していくのが判る。  
それは、未知の世界へ踏み込む事への不安? 恐怖? …いや、勿論それだけでは無い。  
先に動き出したのはリンクだった。  
ミドナの肩に手を回し、深く口付ける。―――ここまでは、先ほどと同じ行動だ。  
だが、今度はそのまま己の舌で強引にミドナの唇を抉じ開け、そのまま口内に侵入する。  
「ん…んんっ!?」  
突然の事に驚いたミドナが身を引こうとするが、肩に回された手がそれを許そうとはしない。  
鋭い犬歯や付け根に舌を這わせ、やがて、ひときわ柔らかい部分―――彼女の舌を捕まえた。  
「―――んううっ!」  
唇を塞がれたまま、ミドナが声にならない悲鳴を上げた。  
そのまま動きが止まった事を良いことに、リンクは己の舌を絡ませ、その弾力を思うままに蹂躙する。  
己の体温よりも低く、しっとりした不思議な感触に、脳髄に鈍い痺れが走る。  
「………ふぅ」  
「………ぁ」  
重ねた唇を離すと、唾液の残滓がつう、と銀の糸を引いた。  
「……何だよオマエ、ひょっとして結構慣れてるのか?」  
ほんのり潤んだ瞳に微妙な嫉妬心を乗せ、不満げにリンクを睨む。  
コイツが誰かを抱いている姿なんて、想像したくないが……やっぱり幼馴染か?  
が、当の本人は困ったように肩を竦め  
「そんなわけないだろ……まあ、酒場に出入りしてた時、いろんな話は聞かされたけど」  
そういえば、共に旅をしていた時も、情報収集の為城下町の酒場に足繁く通っていたのを思い出す。  
酔ったオヤジに絡まれ、強引に猥談に縺れ込まれる彼があっさりと連想され、ぷっと吹き出した。  
笑うなよ、と拗ねたように口を尖らせる子供じみた仕草に、やっとミドナは普段の余裕を取り戻す。  
「じゃあ何だ。…オマエ、まだ童貞なのか?」  
ごく至近距離で、意地の悪い笑みを浮かべて青い瞳を覗き込む。  
「………悪かったな」  
さすがにバツが悪そうに視線を逸らし、頬を赤く染めて俯くリンク。  
「そっか。なら……」  
心を決めるように瞳を閉じ、ゆっくりと開いた。  
そこに浮かべた笑みは、先ほどとはまるで違う、聖女の様に穏やかな微笑み。  
「―――ワタシの初めてはオマエにくれてやる。だから、オマエの初めてを、ワタシによこせ」  
 
 
「……脱がすよ?」  
その問いに、僅かに躊躇うが…小さく首を縦に振り、了承の意を見せる。  
丁寧にローブとマントを外す手が素肌に直に触れるたび、その温かさに心が跳ね上がる。  
瞳を閉じ、その行為に身を委ね―――  
「……なあミドナ。これって、どうやって脱がせるんだ?」  
―――委ねようとしたところで、そんなすっとぼけた事を言われた。  
 
 
 
「いいか、絶っっっ対、こっち見るなよ!」  
ぴしゃりと強い口調で言われ、仕方なくミドナに背を向け、ベットの縁に腰掛ける。  
後ろから「まったく、もう少しムードというやつを…」と不機嫌そうにブツブツ呟く声が聞こえるが、その  
原因が自分であることが明確な以上、反論は許されていない。  
―――いや、だって、あんなにぴったりくっ付いた服、下手に脱がすと破けそうだし。  
その思いは言葉に乗せず、ただ、黙って後ろから聞こえる衣擦れの音を聞いている。  
装飾具を外しているらしい金属音が聞こえ、そして  
「………もう、いいぞ」  
ミドナの声に振り向き、そして―――息を呑んだ。  
すべての衣類と装飾具を外し、一糸纏わぬ姿となった彼女が、ベッドの上でぺたりと座り込んでいる。  
止め具を取られ、解かれた夕日色の髪に覆われながら、それでも隠しきれない豊かな乳房。  
ほっそりとした印象なのに、出るべき場所はきっちり出た、見事なまでのプロポーション。  
自分とは違う青白い肌は、むしろ次元の違う神々しさすら感じさせる。  
女神、と喩えてもきっと過言では無い―――それほどに、圧倒された。  
「…おい。なんで黙り込むんだよ」  
さすがの彼女も、今ばかりは『綺麗すぎて言葉がでないか?』なんて茶化す余裕は無かった。  
向けられた視線に居心地の悪さを感じ、己の両腕で抱きしめるように胸元を隠す。  
……それによって谷間がより強調される形となるが、当の本人は気づいていない。  
両腕に圧迫されたその柔らかそうな膨らみに、ゴクリと生唾を飲む。  
「リンク…?」  
座り込んだ体勢で、不安げに名前を呼ばれ、そこでやっとリンクは我に返った。  
「あ、ご、ゴメン。 ………じゃあ、触るよ…?」  
「………好きにしろ」  
気恥ずかしげにそっぽを向きながら、そろそろと組んだ腕を下ろす。  
剥き出しになった乳房を、震える手で、そっと触れてみる。  
口内と同じように、己の手よりひんやりしているが、決して冷たい訳ではない。  
その柔らかさを確かめるように、ほんの少しだけ手に力を加えた。  
「うぁ……」  
両手でも持て余すボリュームを、下から掬い上げるように、ゆっくりと揉みしだく。  
「ふ…ぁ、あぁ……」  
ミドナの口から、今まで聞いた事も無いような、頼りなさげな声が漏れる。  
与えられるゆるやかな快楽に、どうしていいのか判らず、戸惑っているようだった。  
自身では持ち得ない柔らかさと弾力に酔いしれている内、ふと、己の手のひらの中で小さな突起が  
少しずつ硬くなっていく様子に気が付いた。  
右手を離し、青白い乳房の中央にある、桜色の乳首を親指と人差し指で軽く摘まんでみる。  
「ひあぁっ!?」  
そのまま、指の腹でふにふにと弄ぶ。  
「ば、バカ、やめっ…あぅぅ……!」  
なまじ今までが緩やかだった分、一転変わってダイレクトに伝わる刺激に身悶える。  
胸の奥が熱い。キスしていた時の満たされた熱さではなく、もっと―――  
 
……もっと先を、求めているというのか。このワタシは。ワタシの、身体は……  
 
呆けた頭が一瞬我に返り、ミドナは己の感情に愕然とした。  
浮かんだ淫らな考えを、必死で否定するように、ぎゅっと目を瞑り頭を振る。  
「あ…ゴメン、痛かった?」  
その仕草を拒否の態度と受け取ったのか、ふと指の動きを止め、今度は宥めるように  
そっと撫でるものへと変える。  
どこまでも優しい感触は―――むしろ、今の彼女を焦らしているも同然だった。  
物足りないような、むずむずとした感覚。もっと強く、はっきり触れていて欲しい―――  
「………変な気を使うな。オマエの好きにしていいって言ったろ」  
さすがに本音は言えず、遠まわしなねだり方をしてみる。  
「でも……」  
「ワタシが痛かったら痛いって言う奴だって事ぐらい、オマエは知ってるだろう?」  
その言葉に納得したのか、もしくは反論を許さない何かを感じ取ったのか。  
リンクは「じゃあ…」と頷くと、先ほどよりも力を込め、胸への愛撫を再開した。  
「んんぅ……うぁ…あ、あぁ…」  
焦らされて高められた感度が、その刺激をより強く感じさせる。  
温かい手で、じわじわと触れられた部分が融けていくような錯覚を覚えた。  
瞳を潤ませ、荒い吐息を溢す。  
「ミドナ…すごい、可愛い…」  
目の前の官能的な光景と、手の中の吸い付くような柔らかな感触に沸騰しそうな程に  
熱くなった頭の中で、ただ、思ったことをそのまま口にする。  
「んぁっ、ば、バカ…と、年上に、言う、セリフじゃ…ひぁんっ!」  
髪の一房を甘噛みされ、ビクリと身体を震わせた。  
それを口に含んだまま、チロチロと舌先で一本ずつ刺激してみる。  
「や、やめ……ん、うぁっ…ふぁぁっ……!」  
わずかな制止は、すぐに甘い響きへと変わる。  
「…なあ、これって、ひょっとして結構敏感なものなの?」  
「し、知るかぁ…っ!」  
リンクからすれば、それはただの好奇心からの質問だった。  
それは彼女も判る。だが…  
―――まさかコイツ、ワタシを困らせて楽しんでんじゃないだろうな…  
以前の自分は棚に上げ、妙に恨みがましい思いを込めて睨みつける。  
「……もうそろそろ、いいかな」  
ふと呟くような、声。  
え? とミドナが尋ねる間も無く。  
いつの間にか胸元を離れていたリンクの手が、彼女の肩を掴み、そのままベッドへと押し倒した。  
ぼすん、と身体を受け止める柔らかい音。解いた夕日色の髪が、シーツの上に散らばる。  
「…じゃあ、今度はこっち、触るよ」  
言うなり、両の太腿に手を当て、閉じていた足を少し強引に開く。  
「ち、ちょっと待っ……!」  
やっと意図を掴んだミドナがその行動を止めるよりも早く。  
腿の付け根に顔を寄せ、すでに綻び始めた紅い蕾をぺろりと舐め上げた。  
「ひっ、ひゃああああぁぁぁっ!!?」  
驚きとも嬌声とも取れる悲鳴を上げ、  
「な、ななな、何やったんだオマエ今っ!!?」  
顔を真っ赤にした、半泣きの目で怒鳴られる。  
「何って…始めは指で触れるより、こっちの方が良いって聞いたから」  
誰に聞いたのか今更聞くまでもない。ミドナは怒りと呆れ、羞恥でぐらりと眩暈を覚えた。  
が、何とかそれを踏みとどめる。  
「聞いたからってあっさりやるな! 汚いだろうがこんな―――」  
「―――汚くなんて、ない」  
不意を付くように、急に真面目な声になるリンク。  
「ミドナの身体に、汚いトコなんか無い。……全部、ぜんぶ綺麗だ」  
嘘も偽りも感じさせない、はっきりとした口調。  
愛する人にそこまで言われ、ミドナは感動で胸の奥がジンと熱くなるのを感じた。  
 
だから―――つい、目の前の脅威に対する警戒を解いてしまったのも無理は無いだろう。  
 
動きが止まった隙を付き、濃桃色に色づいた裂け目にそっと舌を這わせる。  
「うあぁぁぁっ!!」  
完全に無防備となっていた所への刺激に、全身がビクリと引き攣った。  
「ひ、卑怯、だろう、が……」  
「……え、何で?」  
怒りを込めて睨みつけるものの、その張本人は自覚がなく、不思議そうに首を傾げるだけ。  
………まあ、あんな嘘をつく奴で無い事は解っていたが。  
何となくしてやられた感を残していたが、その思考は、与えられる快楽であっさり塗りつぶされた。  
リンクの舌が、彼女の陰核を丹念になぞっていく。  
「はぅ、んうぅ…っ、うぅっ……ふぁぁぁっ!」  
ぴちゃぴちゃと断続する水音と、甘く甲高い、今にも泣きそうなミドナの嬌声。  
……それだけで、どうにかしてしまいそうだ。すでに自分の物は、痛いほどにズボンを張り詰めている。  
だが、まだ早い。彼女が自身を受け入れるには、まだ、ここは狭すぎる。  
唾液と愛液ですっかり濡れそぼった紅い割れ目に、人差し指を第一間接まで埋没させる。  
「んくぅ…っ!」  
突然自分の中に進入した異物に、僅かに顔を歪ませる。  
「…痛い?」  
「い、いや、変な感じはするけど……別に、さほど痛くはない…」  
その答えに安堵し、指をゆっくりと奥まで差込み、周囲を少しずつ揉み解していく。  
ぬるぬるとした内側の襞が、圧迫するように指に絡みつく。  
「ひぅっ……な、何か、キモチワルイ・・・」  
あんまりにも率直な感想に、さすがに申し訳なくなるが、  
「……ごめん。でも、もう少し我慢して」  
指を上下に動かし抵抗感が無くなってきたのを確認し、今度は中指も同時に入れる。  
「痛…ぃ……っ!」  
初めてミドナの口から、明確な苦痛が漏れた。  
その声に、慌てて指を引き抜こうとするが―――  
「…やめろ。この程度で痛がっていたら、到底オマエなんか受け入れられないだろう?  
出来るだけ我慢するから……だから、そのまま、続けてくれ」  
普段の彼女からは考えられない―――なんて言ったら怒られそうだが―――優しげな口調で、  
ミドナは彼に行動を促す。  
そんな健気なことを言われて、引き下がれる訳もない。抜きかけた指を、もう一度膣内へ挿入する。  
「く、うっ……!」  
ふたつの指が入った膣には、わずかな隙間すら存在しない。  
形の良い唇からこぼれた苦痛に罪悪感を覚えながら、それでも指を動かし、膣内をほぐす。  
今だ乾かぬ愛液に助けられながら、少しずつ、指の動きがスムーズになっていく。  
「ど、どう……? 痛くない?」  
両指が抵抗無く出し入れできるようになってから、遠慮がちにミドナに問う。  
「あ…ああ、もう平気だ。 だから、その…」  
わずかに言葉を切る。一瞬の躊躇。……だが、今更止まる気はない。  
「……そろそろ、しよう」  
「………大丈夫なのか?」  
言葉とはうらはらに不安げな表情のミドナを、気遣うように問う。  
その優しさが嬉しくて、  
「そ、その…『好きにしろ』とは言ったが……出来れば、優しくして、ほしい」  
つい、自分らしくもない事を口走り、言った直後に後悔して赤面する。  
「……ああ。勿論」  
そんな彼女が可愛くて、もう一度、ぎゅっと抱きしめて口付けた。  
 
「じゃあ……行くよ」  
「………ああ」  
頷いたのを確認してから、彼女の処女孔に、そっと自身をあてがう。  
瞬間、ビクリとミドナの身体が震えた。  
「あ…す、スマン」  
申し訳なさそうなミドナに、微笑みだけを返す。―――たぶん、今は余計な言葉はいらない。  
意識を戻し、そのまま、濡れた入り口に先端を埋めていく。  
「んんぅ…っ、くぅ……!」  
苦しげな声。普段の強気さを知っている分、その声はひどく罪悪感を覚える。  
ゆっくり入れていくべきか。それとも、一気に貫くか。  
動きを止めて悩むリンクに不安になったのか、ミドナが弱々しく尋ねてくる。  
「な、なあ……今、どのくらい進んだんだ…?」  
「…ゴメン。まだ、先っぽだけ」  
「………」  
はっきりと顔をしかめた。あれだけ痛かったというのに、まだそれだけというのか。  
「………いい。一気に入れてくれ」  
ほんの僅かな逡巡の後、あっさりと思い切ったことを言う。  
「いいのか? ……絶対、痛いぞ」  
「ゆっくりだって痛いんだよ。…だったら、早く済んだ方がマシだ」  
まっすぐ見つめ合う目と目。彼女の決意の固さを理解し、「わかった」と小さく頷く。  
「…躊躇ったりするなよな。出来れば、一瞬で終わらせろ」  
「……努力するよ」  
ミドナの腰を掴む手に力を込める。それに気づき、彼女もギュッとシーツを握り締める。  
「…行くぞ」  
言って―――全力で、己を強引に捻り込んだ。  
「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」  
耳を劈くような絶叫。それを聞きながら、進行を拒むように締め付ける肉壁を引き剥がす  
ように突き抜ける。  
指の挿入と似た、だがあまりにも格の違いすぎる痛みに、ミドナは全力で後悔していた。  
身体を真っ二つに裂くような痛み―――いや、実際裂いているのだが―――に、意識は  
すべて埋没し、他のことを考える余裕は一切ない。  
己の顔が涙でぐしゃぐしゃになっている事にも気づかず、喉の奥から溢れる悲鳴を叫び続  
け―――  
「……入った」  
―――その言葉に、やっと我に返った。  
激しい痛みに耐えながら、自分の下腹部を覗き込む。  
「っ……、よ…よく、入った、な…」  
己の女性器がぎっちりとペニスをくわえ込んでいる様子を、にわかには信じられない思いで  
見下ろした。  
だが、確かに自分の中に、痛みと共に別の脈を打つ何かを感じる。  
信じられないほどの熱をもったそれが、自分と同じ様に激しく脈動している。  
猛烈な痛みの中、それでも、その事実が酷く嬉しかった。  
 
柔らかい襞のひとつひとつが、己に絡みついてくる。  
指ひとつの余裕すらない強引に抉じ開けた膣内が、異物を拒むようにぎゅうっ、と締め付ける。  
初めて味わう女性の体内。そのあまりの気持ち良さに、今にも理性を放り出して激しく突き動かしたい  
衝動に駆られた。  
だが、『優しくしてほしい』というミドナの言葉を思い出し、なんとか衝動を押さえ込む。  
彼女は今、ボロボロと泣きながら、必死で痛みを堪えているのだ。  
……そんな事をしたら、きっと、彼女は壊れてしまう。  
体外に溢れた愛液はすでに乾いてしまっている。リンクは己の指に唾液を絡ませ、剥き出しとなった  
彼女のクリトリスを軽く擦ってみた。  
「ひゃあぁぁっ!?」  
過敏なままになっていたそこは、赤く充血し、わずかな刺激にひくりと蠢く。  
「り、リンク、何を……!」  
「…ミドナ、もう少し、力を抜ける?」  
我ながら無茶な要求に、それでも彼女は黙って頷き、シーツを握り締める手を離した。  
挿入したままの自身を動かさないように、そのまま、唾液を含ませた指を小刻みに動かす。  
「…んぅっ、ふぁ、ひゃぅん……」  
躊躇いがちに漏れる吐息に、少しずつ、甘いものが混じっていく。  
「はふぅ…ん…ぅあ、あっ…!」  
トーンが上がるにつれ、少しずつ、指に加える力を増していく。  
「……あれ?」  
ふと、指に唾液よりも粘度の高い感触を覚えた。  
…それは、彼女の愛液。乾き始めた蜜壷が、リンクの指に反応して、再び潤い出したのだ。  
くちゅ…ちゅ……  
指に愛液を馴染ませ、淫猥な音を立てながら、敏感な一点に刺激を与え続ける。  
「はぁ…っ、ふぁっ、ああ―――!」  
今まで以上に跳ね上がった声。  
それを合図に、擦っていた指できゅっと陰核をつねった。  
「ぁあああああっ――――……!!」  
甲高い、動物の鳴き声のような悲鳴。  
ビクリと大きく身を震わせ、そのままくたり、と力が抜ける。  
「はぁっ、はぁっ、はぁ………」  
絶頂の余韻を残しながら、肩で荒い呼吸をする。  
「……ってか、何やってんだよ、オマエ…」  
ふと我に返ってみると、奥深くまで挿入しながら、この男は、まだ一度も動いていない。  
何のつもりだと言いたげに、半眼になってリンクを睨みつけた。  
「いや、だって痛そうだったし…優しくするって約束しただろ」  
「…だから、いらん気を使うなって言っただろうが……」  
はあ、と深い溜息をつく。  
…言うだけ無駄だという事はわかっていた。どこまでもお人よしなのだ。この馬鹿は。  
それに、コイツは別に興奮してない訳では無い。…それを、彼女は知っている。  
にまり、と彼女らしいからかうような笑みを浮かべ、  
「………でも…オマエのそこは、もう限界なんじゃないのか?」  
ミドナは気づいていた。己の中で激しく脈打つ存在が、さらに強度を増していく様子に。  
「ワタシはもう大丈夫だ。……だから、オマエに合わせてやるよ」  
今だ強く残る痛みを自覚しながら―――それでも、彼女らしい言葉で、行為の続きを促した。  
 
『大丈夫』という言葉が強がりだということは、すぐに判った。  
「う、くぅっ……!」  
僅かに動かしただけで、ミドナの表情に苦悶が走る。  
眉根を寄せてぎゅっと目を瞑り、歯を食いしばる様子は、一見するだけで痛々しい。  
でも―――それでも、決して彼女は「痛い」という言葉を発しようとはしなかった。  
それはまるで、聞いた瞬間、躊躇ってしまうだろう自分の感情を見透かされている様で。  
「んんっ…くっ…かはぁ……!」  
絡みつく肉壁から、ゆっくりと自身を引き抜いていく。  
潤った蜜で大分動きやすくなっているものの、それでも、締め付けるキツさはあまり変わらない。  
快楽に身を任せ、思い切り突き上げたくなるのを堪えながら、抜いた時と同じペースで挿入する。  
「…っ、何…遠慮なんかしてんだよ」  
苦しげながらも、不満を露にした声をだす。  
「べ…別に、遠慮なんてしてないって」  
「………」  
黙って睨みつけること数秒。  
今まで仰向けに寝そべってされるがままだったミドナが、突然リンクの両肩をひっ掴んで身を起こした。  
「……えっ?」  
驚くリンクを無視し、そのまま座位、と呼ばれる体勢にする。  
「お、おい、ミドナ!?」  
「ウルサイ…! オマエが動かないんだったら、ワタシがやってやる……!」  
言うなり、座り込むように体重をかけ、入りかけだった陰茎を強引に自身に押し込んだ。  
「―――――っぅぅぅ!!」  
激痛でこみ上げるを悲鳴を、唇を噛んで押し殺す。  
食い込んだ犬歯によって、ぽたり、と紅い血が雫となって零れた。  
「ば、バカ、やめろっ!」  
掴んだままの肩に力を込め、腰を上げようとした彼女を、抱きしめる形で強引に止める。  
「……オマエに、馬鹿呼ばわりされる覚えはないっての」  
どっちが馬鹿だよこの鈍感、と呟き、己の表情が見えない様にリンクの首筋に額を埋めた。  
「ワタシは、オマエに気持ちよくなって欲しいんだよ。……どれだけ自分が痛くても」  
経験の無い自分では、痛いことぐらい始めから判っていた。  
でも、せめて相手には、…自分がここまで愛した、コイツには―――  
「オマエの初めてを貰ったんだ…だから、ちゃんとワタシが、オマエを感じさせたい」  
―――初めての女として、満足してもらいたい。  
決意を込め、顔を上げた。ルビーの様な瞳が、戸惑う青年の顔を映し出す。  
そこにあるのは揺ぎ無い強い思い。、リンクは、ぎゅっと心が締め付けられるのを感じた。  
抱きしめたままの手で、そっと、髪を撫でる。  
「……ゴメン。次はちゃんと、優しくするから」  
「…そうだな。じゃあ次は、ワタシが気絶するまで頑張ってもらうか」  
ミドナは冗談めいた口調で、軽く肩を竦めてみせた。  
 
そのままリンクの肩から手を離し。繋がったまま、もう一度ベッドに横になる。  
「……さぁ、来い」  
おどけた雰囲気から一転、驚くほど優しげな微笑みと口調。  
それに誘われるように無言で頷き、そして、深く結合していた陰茎を直前まで引き抜いた。  
「ふぁ、あああぁっっっ!」  
「…く……っ!」  
ねっとりと食い込む肉襞を、強引に引き剥がす感触。  
長らく待ち望んでいた快楽で、脳の一部に擦り切れそうなまでの熱が走った。  
苦しげなミドナの声。だが、ここで止めては彼女を侮辱する事になる。  
そのままの勢いで、一気に挿入する。  
「んぅ…っ、ぅあ、ああっっっ!!」  
何度も何度も、繰り返す。  
結合部から零れる互いの分泌液の中に、紅いものが混じっているのが見えた。  
それでも―――すでに理性は、快楽の前にあっさり沈められていて。  
気持ちよさと、自身を受け入れる彼女への愛しさ、それしか頭の中には残ってなかった。  
 
薄れ行く意識のなかで、ぼんやりと、だがとても大切な事を聞いた気がする。  
だが、それが何かを聞き返すより早く、頂点に達した欲望が、彼女の膣内で弾け飛んだ。  
 
 
行為の余韻を残しながら、寄り添ったままぼうっと窓の外の黄昏の空を眺めている。  
火照った身体にミドナのひんやりした体温が心地いい。  
最初は「暑苦しいから離せ」と愚痴っていた彼女も、今はおとなしくリンクの腕の中にいた。  
―――単に諦めただけかもしれないが。  
「………なあ、リンク」  
「何?」  
「そういえばオマエ、どうやってこっちに来たんだ?」  
今更ながら、ふと脳裏に浮かんだ疑問をミドナはそのまま口にした。  
そもそも、本来それがいちばん大きな問題の筈だ。王族として、その手段は管理する必要がある。  
だが、あの時は理性的な考えが出来る余裕が無かったのだ。…理由は割愛するが。  
「あー…うん。まあ、色々と。手間取って3年も掛かったけど」  
言葉を濁しながら、おかげで伝説の勇者と同い年だよ、と困ったように苦笑するリンク。  
だが、一瞬だけ、酷く遠くを眺めるような目をしたことにミドナは気づいた。  
……多分、コイツはもう帰る手段は無いのだろう。なんとなくそれを確信する。  
だから、あえてそこは触れないことにした。  
…そういえば、本当に3年間も旅をしていたのか。しかも  
「『大事な相棒』に会うために3年も費やしたのか? …アホだろ、オマエ」  
「…ミドナ。ひょっとして、まだ根に持ってる?」  
一部やけに力の込められた物言いに、妙なトゲを感じたものの  
「…フン、べっつにー」  
そう言ってプイとそっぽを向かれた。  
―――無論、今更そんなことを気にする彼女ではない。  
純粋に、嬉しかったのだ。それだけの年月を、己の為に使ってくれたという事が。  
…まあ、出来ればそこにもっと特別な感情を含めてほしかった本音もあるが。  
 
―――いつからだろう。こんなにも、彼を愛しく感じているのは。  
だが、きっかけなら解っている。今でも鮮明に思い出せる。  
ザントに闇の結晶石を奪われた時、身を挺して自分を庇ってくれた瞬間。  
利用していただけの存在だった彼に抱いた、それまでとはまったく別の感情。  
何となく身体を眺めるが、その時の傷跡は、時間の流れが消し去ってしまいすでに見えなく  
なってしまった。  
それに安堵し―――それでも、なぜかちょっぴり悔しくて。  
傷があったはずの場所に、そっと唇を寄せ、自分の証をそっと残した。  
 
 
 
「………は?」  
「何だよ。ボーっとしてないでちゃんと聞けっての」  
「いや、聞いてはいたけど…」  
翌日の昼下がり―――影の世界に明確な昼夜は存在しないが、時間によるソルの加護の強弱  
によって、概念的にそう呼ぶらしい―――の穏やかな時間、ミドナの自室で出されたお茶に口を  
つけながら、リンクは驚くべき問題に直面していた。  
「『既婚者の夫婦間以外での性交渉、および婚前交渉は禁ずる』…だとさ。  
まさかこんな法律があったとはな」  
広げていた辞書ほどに分厚い本をバタンと閉じ、ベッドの上にぽいと投げ捨てる。  
姫君らしからぬ謹みもへったくれもない行動だが、それが普通なリンクはとくに指摘もしない。  
…というか、そんなことを気にしている余裕が無い。  
「と言っても、今更だれも気にしてない事だし…せいぜい親告したってブタ箱3日ってトコだろ」  
「…そんな適当でいいのか?この世界の法律って」  
「まあ、何せここ10年以上、裁判沙汰すらなかったからな」  
どうやら、ここの平和ぶりは聞いて想像していたものを軽く超えているらしい。  
ザントが例外、と言った彼女の言葉を、ここに来て初めて理解した気がする。  
 
「でも……まあ、そのぐらいなら良かったよ」  
明らかにほっとした顔になるリンクに、頬をポリポリと掻きながら  
「……あー、まあ、ワタシはな」  
「…………?」  
何故か歯切れの悪いミドナ。  
「あのな、ホントにワタシも知らなかったんだ。…ゴメン。許せ」  
珍しくしおらしいとも取れる態度に、リンクは猛烈に嫌な予感がした。  
そしてその予感は現実となる。  
「…『王室侮辱罪』ってのがあるんだとさ」  
言いながら、先ほどとは別の本を掴んでぱらぱらと捲りだす。  
「王族相手に犯罪を行ったヤツに適用される法なんだが…  
これが意外と重くてな。いちばん軽くて終身刑」  
「終…身……」  
サラリと言われているが、内容はとてもシャレにはなっていない。  
「で、重けりゃ死刑。しかも磔刑だ。  
…すごいぞリンク。もし執行したら80年ぶりの快挙だな」  
感嘆を上げる。……どうやら、それは執行記録らしい。  
やけに薄っぺらいのが気になるが―――いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。  
「い、いやでもまだ死刑って決まった訳じゃ……!」  
「一国の王女の純潔を奪っておいて、軽罪なんて言うと思うか?」  
「う……」  
そうだ。時々忘れそうになるのだが、彼女はまぎれもなく『影の世界』の姫君なのだ。  
…いや、判ってはいるのだ、やはり共に旅をしてきた印象の方が強いというもので。  
「…って、そうだ!!そもそも親告しなければ―――」  
「それは無理だな」  
一筋の光明をあっさり潰すような、ハッキリとした口調。  
「昨日オマエを部屋に運んだ時、手伝わせた侍女たちが城内で言いふらしまくったそうだ。  
…今頃は外まで流れてるかもしれないな」  
「俺は逃げ場すら無いのかぁぁぁぁっ!?」  
まさに四面楚歌。血の気の失せた顔で、頭を抱え込んで激昂する。  
それでもミドナを責めないのは、彼なりの優しさかあまりの混乱ゆえか―――たぶん後者だろう。  
 
……実は、ひとつだけ、彼を無罪とする方法がある。  
それは、彼女の純潔を穢すことを許される、この世でたった唯一の存在になること。  
 
「ところでリンク、オマエが助かる手段がひとつだけあるんだが……」  
「……! 本当かミドナ!?」  
目の前で頭を抱えて苦悩していた青年が、一転して目を輝かせて飛びついてくる。  
…これを言ったら、コイツはどんな顔をするのだろう。  
もうほんの少しだけ未来の展開を想像し、ミドナは己の口元が緩むのを堪えられそうになかった。  
 

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