―メスの匂いだろ?ツラを見りゃあわかるんだよ―  
 
輪郭の曖昧な、黒と黄に支配された平原を、リンクは獣の足で地をつかんで走っていた。  
やっとつかんだ幼馴染の手がかりに嬉々としていただけなのだが、  
あんな風に言われ頭にきた。  
そんなんじゃないとリンクは唸る。  
決してそういう感情は抱いてはいない。  
幼い頃から一緒にいる異性というのは  
兄妹のようなもので、そういう方向へは持っていけない。  
だから彼女の言う"メスの匂い"に過敏に反応したのは  
やっと幼馴染を助けられるという安堵からくるものなのだ。  
 
そんなふうに意識していない。断じて違う。  
誰に弁解するわけでもないのに、必死にリンクは胸中で否定した。  
憤りを、思いきり地を蹴ることで発散しようと、リンクは吼えて速度を上げた。  
「うわっ・・・!」  
背にまたがっているミドナは後ろに引っ張られ、慌ててリンクの背にしがみつく。  
「・・・っおい、オマエ!・・・急くのはいいけど、こういうときこそ冷静になれよな」  
リンクの耳をつまんで寄せてミドナは言う。返答はなかった。  
ミドナは呆れたように肩をすくめて上体を起こした。  
曖昧な闇の向こうに大きな石橋が見える。手前の樹を避けようと急な角度で曲がりかけたとき、  
幹の根元の植物が大きく動いた。  
 
「!!」  
植物の魔物、デクババだ。  
牙を剥き出しにして涎をしたたらせている。  
地を蹴って後退しようとしたリンクの前足にデクババは噛み付いた。  
一瞬の対応の遅れが命取りだ。ぎゃうっと吼えて地に転ぶ。  
前足に噛み付いたデクババは粘液のようなものを吐き出しながら、顎にさらに力を加える。  
リンクは前足ごとくれてやる勢いで振り切ろうとするが、なぜか力が入らない。  
「おいオマエ!なにやってるんだっ・・・、!」  
ミドナはリンクの異変に気づき、同時にその要因も理解した。  
毒だ。  
傷口にこれでもかとどす黒い液体を注がれている。  
「ちっくしょう、手間かけさせやがって…!」  
ミドナは一旦リンクの背を離れ、目の前の獲物に夢中になって  
隙だらけのデクババの背後に回った。  
全神経を集中して魔力を高め、  
「タチの悪いやつは・・・」  
敵に向けて一気に放つ。  
「嫌いなんだよ!」  
ミドナの髪は、それ自体が魔力の塊だ。  
だがまともにそれを食らったはずのデクババはかろうじて生きていた。  
ミドナは舌打ちをした。  
(こんな弱い魔力・・・っ!)  
瀕死でまともに動けないデクババにすかさずリンクは飛びついて、  
その頭部を思いきり噛み千切った。  
 
幸い石橋の下には川があり、  
流れこそ止まっているが、充分な水があった。  
前足を水に浸して毒を洗い流そうとするが、思うように取り除けない。  
前足を口元に寄せて毒を吸いだそうとするが、獣の口ではそれも上手くいかなかった。  
仕方なしに舌で傷口をちろちろと舐めると、口内にひどい痺れが広がる。  
激痛にびくりと体を揺らした。  
その様子を見かねたようにミドナが傷を覗き込んで言った。  
「しかたないな・・・オマエ、ちょっとおとなしくしてろよ」  
言い終わるか終わらないかのうちにミドナはかがんでリンクの前足をとって口付けた。  
 
戦いの興奮冷めぬこの獣の体。もう慣れたものだと思っていたが、  
先ほどの失態といいこの様といい、非常に情けなく思う。  
少々からかわれたくらいで平常の警戒を怠ってしまった。  
傷口を吸われるたびに痛みで体がこわばる。  
それをなだめて抑えるようにミドナが頬から腕へと撫でる。  
やはり情けないと思う。  
 
メス、女性、女――――幼馴染の彼女を、そんな風に見たことがないわけではなかった。  
ただあまりに身近にいるために、いわゆるその気が起きないのである。  
女といえば、目の前のこの影の者はどうなのだろう。  
最初は魔物かと思った彼女は、よくよく見れば大きな瞳に丸みのある体のライン、  
そして小ぶりだが確かに膨らんでいる胸。  
つまりは女である。  
言動のせいか、普段は意識もしていなかったが、こう改めて意識すると  
この柔らかい体をいつも背に乗せているということになる。  
そう思うと普段の背の感触を思い出してリンクは変な気分になった。  
そして今の状況もそれを助長していた。  
 
ミドナはそれこそ狼になった自分より多少背は上だが、  
今はかがんで自分の前足を両手で持っている格好で、多少彼女を俯瞰の視点で見ることになる。  
そうすると胸に視線がいくわけなのである。  
これはまずい。  
なにやら先ほどから感じているその変な気分が、どんどん膨らんでいく。  
それにやはり片足でも重いのか、ミドナは持ち手を慎重に持ち替えたりする。  
その動きがゆっくりと、あの柔らかそうな両の胸を寄せたり離したりするものだから――――  
 
気が付けば前足の痛みもそっちのけでミドナを押し倒していた。  
「・・・うわっ!ちょ、な・・・・・・ッ!」  
突然の事態に上手く体制を整えられないのをいいことに、その上にのしかかる。  
自分の状況を飲み込めたのか、ミドナは怒号を浴びせる。  
「オマエ!一体何のつもり」  
だがそれは最後まで続かなかった。  
いきなり腹から胸へとぺろりと舐められたからだ。  
「んぁっ、!く・・・・・・」  
漏らしてしまった己の妙な声色を聞いて、ミドナは奥歯を噛み締めた。  
なんとか逃れようとするのだが、リンクは全体重をかけるように  
両前足で自分の腕を押し付けている。びくともしない。  
さっきの傷の痛みはどうしたんだと思った。  
その間にも、上体を舐めまわされる。  
「・・・んっ、ぅんん・・・く・・・」  
胸の頂に舌を押し付け、わき腹から胸、首筋を舐められる。  
素肌に直接かかる息遣いは雄のものだった。  
視線をリンクの下肢にやれば、膨張しきっているその象徴が見えた。  
動揺した一瞬の隙をついて、リンクはミドナを四つんばいにさせる。  
露になった背骨を舌でたどって耳に甘く噛み付く。  
「んんっ、・・・・・・っ!」  
ミドナの背がこわばった。  
無意識に開いていた脚の間の女の部分に、熱い物があてがわれた。  
それが何なのか、意味するところがわからないほど子供ではない。  
ただリンクのこの急な発情が、一体なんなのか解せないのだ。  
なぜだ、なぜと疑問がぐるぐると胸中を回る。  
それは強い衝撃に掻き消された。  
 
「!!ぅああっ、あっ!つッ・・・」  
内部に、自身の体温と異なる温度を持つものが入ってくる。  
痛みと、圧迫感と、なぜか感ずる心地よさ。  
襞とそれが擦れて、ミドナはもう声を抑えられなくなった。  
「なん・・・で、あ、あっ、んあっ、あッ」  
リンクが腰を打ち付けてくる。  
ミドナは思考を放棄した。  
「んんっ、ゃ、あっ、はッ、・・・」  
本能のおもむくままに激しく突き上げられ、擦れて揺さぶられる。  
なんの技巧もないが、それが逆に生物としての根源を刺激し、  
自分をただのメスにする。  
気づけば視界は涙で滲んでいた。  
リンクはきしむミドナの背、潤んだ嬌声、そして神経に直接染みる  
その体温、感触、そのすべてに追い立てられる。  
たまらず彼女のうなじに噛み付いた。  
「ぁっ、はあ、んっ・・・く・・・」  
耳元の荒い息遣いが、存在を主張し続ける体内の雄が体温が、  
快感を増長させる。  
終わりが近いのか、律動はさらに加速していく。  
ミドナも無意識に、それを助けるように腰を揺らす。  
「ぁ、ああっあ、ああ・・・・・・!!」  
最奥を、なにか温かいもので満たされ、  
ミドナは果てた。  
 
 

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