海が見える。  
どこまでも、果てしない海が。  
そしてちょっと目を下にやると  
リンクが寝ている。  
 
テトラは自分の足元で寝息を立てるリンクを眺めた。  
 
リンクは、トライフォースの神々に選ばれた勇者だ。その強い勇気で、世界を我が物にしようとした魔王に打ち勝った。  
だが…テトラの知っているリンクはそんなに勇敢な男ではない。  
どこか幼さがあるし、少し女々しさもあったりする。お人よしだし、肝が据わっておらず、怖がりな一面もある。  
後ろから忍び寄って「ワッ!」などとやった日には  
「な、なにするんだよぉ…」  
と、泣きそうな顔になったりする…。  
テトラに言わせれば、とても、勇気のトライフォースに値する男ではなかったが、ひとたび勇気を振り絞れば、これほど頼れる男はいなかった。テトラは、リンクに呆れ、反面信頼し、そして、その性質に心惹かれていた。  
 
今リンクは、その小さな体には大きすぎる義務を果たし終え、開放感に浸って、安心して眠りについている。甲板の上で、あまりに無防備だ。  
テトラから見れば可愛らしかった。  
リンクのすぐそばにしゃがみこんで、寝顔を覗き込む。ギリギリまで近づいているのに全く起きる気配がない。  
 
テトラはあたりを見回す。船員は誰もいない。何かをするには絶好のチャンスだった。  
テトラは、リンクの頬にゆっくり近づく。  
「…いいだろ…ちょっとくらい…」  
テトラは、リンクの頬に、唇を近づける。  
頬にキス。そのくらい、ちょっと女の子としてもあこがれる。  
 
テトラはその気質とは対照的なほど優しく、リンクの頬にキスをした。リンクの頬は柔らかかった。  
リンクはまだ気づいていない。相変わらず眠っている。  
 
テトラはその横に、並んでそっと横になった。添い寝だ。  
リンクの寝顔が、テトラの目の前にある。安堵の表情で、眠りについている。  
ついつい、そうっと髪に手をかけてみたくなった。意味もなく、額のあたりを撫でてみたりしてみる。  
リンクが気づかないので、さらに擦り寄った。リンクに抱きかかるように寄り添い、リンクの寝息が頬にかかるほど接近した。  
 
テトラは、リンクの柔らかい頬に、自分の頬をピッタリ押し付けた。リンクの背中に手をかけ、体の距離もできるだけ縮める。  
リンクから頬を離し、リンクの顔を眺め回した。大きい瞳と、それと対照的に薄い唇。  
テトラは思い切った行動に出た。リンクの両肩をつかみ、そうっと、リンクに顔を近づける。  
テトラの唇と、リンクの唇の距離がだんだん縮まってくる。もう少し、もう少しで届く…  
「ウーン…」  
「!!」  
リンクが唸って、目を開いた。  
テトラは驚いて、硬直する。  
 
リンクは目の前にテトラがいることに驚き、唖然とした。  
「テトラ…? なにしてるの?」  
「!!!!」  
テトラはようやく我にかえり、ものすごい勢いで立ち上がった。  
「な、なにって、別に? は? なんかしてた?」  
「??」  
「リ、リンク何言ってんだい、寝ぼけてたんじゃないのかい?」  
「え? でも今テトラ…」  
「うるさい!」  
リンクの言葉をさえぎる。  
「? テトラ? 何怒ってるの?」  
「怒ってない! あ、そうだそうだ、ホラ! もうすぐ幽霊船が出るってウワサの海域に出るよ! リンクもさっさと準備しな!」  
テトラは逃げるようにその場をさった。  
風のように自分の部屋まで駆けて行き、鍵をかけて部屋にこもってうずくまる。  
テトラの顔は、赤かった。照れと恥ずかしさのゆえだろう。  
リンクは、テトラの様子に首をかしげたが、またふたたび、横になって眠りだしてしまった。  
 

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