強くて気高い母の背を見てきた。母に惹かれて後をついていく男達を見てきた。  
海賊として、女として、母は私の憧れだった。  
女の子らしさに憧れなかった、と言ったら嘘になる。  
けれど今、自ら男達をひっぱっていく私は今さら女の子には戻れない。  
私の事を慕ってくれる海賊の船員達のためにも、憧れの母のためにも。  
 
「…よしなよ、本気なの?」  
静かな夜、穏やかな波、優しい月。今、起きているのは海を往く波と私たちくらいだろう。  
明るい月を背に私におおいかぶさる彼の表情は逆光でよく見えない。  
ただその光に照らされた彼の顔の輪郭が、  
どことなく不確かで不安定に見えた。  
 
 
***  
 
 
「アネキ!前方にモンスター発見!」  
「大きさは!どんなモンスターだ!?」  
見張り台を見上げてテトラが声を張り上げる。  
寡黙なズコに代わってゴンゾが海賊船全体に聞こえるような野太く大きな声で返答する。  
「でっかいイカですぜ!渦を作ってやがります!どうしますか、アネキ!」  
ゴンゾの声に、海賊達が行動を開始する。そして、その行動は頭であるテトラが決める。  
「フン、決まってるだろ!ほらほら、ボサっとしてないですぐに大砲を用意しな!」  
テトラはゴンゾと入れ替わりに台に登る。ゴンゾが舵を取る。  
モコがあのモンスターの弱点は目玉ですナ、冷静に分析を始めてセネカはテトラの指示に従って帆をたたむ。  
ニコが奥から爆弾をえっちらおっちらと運んでナッジが大砲をイカめがけて放つ。  
「イカのいる場所にはお宝が眠ってるんだ!しっかり仕留めてから、お宝を頂くよ!」  
テトラの指揮に海賊達は高揚する。  
「おおおおおおおっ!」  
爆弾はモンスターの体力を確実に奪っていく。  
いくつもの目玉をつぶしていくと、モンスターは太くて長い触手で海賊船につかみかかった。  
海賊船が大きく揺れる。  
ある者は近くの手すりに捕まり、ある者は耐えきれずに甲板の上をゴロゴロと転がっていった。  
その時、まだ幼い雄叫びが船を包んだ。  
 
「うわあああ!」  
緑の衣を纏った少年が転がっていうニコとは逆の方向へ駆け抜ける。  
モンスターの目が黄色く光る。己の姿より遥かに小さい少年を敵と認識する。  
リンクは猛る。  
その触手が横なぎに海賊船を打ち付けた時、船は大きく揺れたーと同時に、彼は跳んだ。  
束の間の空中の時間。  
まだ幼さの残る顔に似合わぬ勇気を秘めた眼にひとかけらの緊張をたたえ、リンクは弓を引いた。  
「やああああーっ!」  
放たれた矢は目映い光を纏い、イカの目玉を貫いた。  
命の断末魔の咆哮が空気と海を激しく振動させ、  
モンスターはその身を海のそこに沈めていった。  
やがて、海は静けさを取り戻す。  
 
*  
 
海底から宝をサルベージするため、船はそこで碇を下ろした。  
リンクは甲板に身を横たえて空を見上げる。今日も天気は快晴で、こんな日は微睡みに身を任せるのもいいだろう。  
「リンク。何サボってんだい」  
今まで空でいっぱいだった視界は突然白眼視でこちらを見ているテトラに切り替わり、リンクはあれ?と大きな目をしばたたせた。  
「まぁ、いいけどね。どうせ今はサルベージ中だし、アンタじゃゴンゾやセネカの邪魔になっちまうし」  
「んん…」  
まだ寝ぼけ眼のリンクに呆れながら、テトラは背を向ける。  
「まったく、ハイラル王との約束も、これじゃあいつになることやら」  
何気無い一言だった。  
はっきりとしない口調ではあったが、リンクも何気無い一言をぼやいた。  
「ハイラルといったら…」  
 
「ゼルダ姫、きれいだったよね」  
 
瞬間、かっと赤くなった目の前の少女に気付かかったリンクは本当に寝ぼけていたのだろう。  
次の瞬間、海賊船にぱぁん、と良い音が響き渡った。  
驚いたナッジ達が様子を見に行ってみると、うつむいたまま足早に自室へ向かうテトラと、のびているリンクの姿があった。  
 
*  
 
陽が沈み、下弦の月が優しく海を照らしていた。  
時刻は深夜、カモメ達はどこで羽を休めて眠るのだろう。  
そんな事を考えながら、テトラは1人、船首へと足を進めていた。  
 
今日の稼ぎは上々だった。  
海賊をやっている以上、お宝や稼ぎにいつ出会えるかは分からない。  
それでもテトラが海賊業を続ける。  
 
 
亡き母を慕う海賊達は、自分を慕ってくれる。  
彼らのためにも海賊業は続けていくつもり。  
そして、自分自身のため。  
女である自分が海で生きていくためには、力を持たなくてはいけない。  
それから…  
ハイラル王が自分の国より私たちの未来を選んだのなら、  
ハイラル王女として、ハイラル王の希望として、私は…。  
 
テトラは思考を打ち切った。  
感傷にひたるなんて、らしくもない。  
それでも頭の片隅で、一度答えを求めて走り出した思考はすぐには止まらず一人歩きをする。  
女である事に負い目を感じた事はなくても、男だらけの海賊船。多少は気になる事もある。  
自分がボスに向いているのかと。  
そうなると女である自分にコンプレックスを抱くもの。  
母は気高かった。あんな風に自分もなりたいと心で願っていた。  
自分にはお姫様ゴッコやおままごとは似合わないと思っていた。  
それでも現実は奇妙なもので、そんな自分が亡き王国の王女だとハイラル王に知らされた時は、  
自分が否定され、今まで自分が積み上げて来たものが全て打ち砕かれたような心地すらした。  
お姫様の格好なんて、ガラじゃない。  
そう思っていたのに。  
 
『ゼルダ姫、きれいだったよね』  
 
昼間のリンクの言葉が離れない。  
自分がゼルダに転身した時のリンクの表情は覚えてる。  
驚きと…どことなく惚けていたような表情。  
あの時の自分はそれどころじゃなくて気付かなかったけど、今思うとあの表情は、  
 
 
「…私はいつからこんなくだらない事を考えるようになったんだ」  
思わず自嘲する。  
こんな女々しい有様では、海に還った母に笑われてしまう。  
でも大丈夫。  
こんなの、ひとときの夢みたいなものだから。  
月が海の向こうに隠れて、また太陽が登ればこんな事は忘れられる。  
また明日になれば、自分は海賊のボスとして声を張り上げて海を往くだろう。  
船首で夜風に少し当たろう。  
今日の私はなんだかおかしいな。  
 
その時、テトラは今最も目にしたく無い人物を見る事になる。  
…リンク。  
 
 
幸いにもリンクはテトラには気付いていないようだった。  
船首の先端で、何を見ているのだろうか。何を考えているのだろうか。  
水平線の彼方に浮かぶ島か、それとも海に映った黄色い月か。  
テトラは暫く微動だにしないリンクを眺めていたが、ふと我に気付いてあわてて引き返そうとする。  
その際、近くの樽に蹴つまづく。  
「あっ」  
「え?…テトラ?」  
見つかった。  
テトラは体勢をよろけさせつつも、思わず駆け出した。  
リンクから逃げるように。  
自分でもわけがわからずに。  
「テトラ…?ま、待ってよ!」  
驚いたリンクもあわてて追ってくる。  
 
(駄目だ、駄目だ、)  
自分を呼ぶあいつの声。  
(あいつといると、私は私じゃないような感覚になる)  
私より早い、あいつの走る音。  
(私は、私は、私は…)  
腕を掴まれる。  
不安定な状態で走っていたテトラの身体は大きくバランスを崩した。  
その場に転び、地面に肘を、背を、尻をつく。  
続けてバランスを崩したリンクがテトラの上におおいかぶさった。  
沈黙と、互いのやや荒い息がしばらく続く。  
 
「あ…あの…」  
リンクが困ったような顔をした。  
「ごめん…急だったから、つい…」  
普段の自分だったら、何が『つい』だと啖呵をきっていただろう。  
けれども、今は何故だか言えなかった。  
実際にはリンクに捕まれたとはいえ、自分が先に倒れて、リンクが自分の身体を押しつぶさないようにかばって倒れたのであるが、  
端から見ると押し倒されたような構図になっている。  
それは自分を『女』として意識させるのに十分であった。  
今日はおかしな私。  
いつもより女々しくて頼りない私は、不安に満ちた私の瞳は、リンクに目にどう映っていることだろう。  
不意にリンクが身体を起こした。  
「どうして、ぼくから逃げたの?」  
テトラは半身を起こす。心の臓はまだ大きく鼓動を打っている。  
「…それは…」  
 
こいつは、私には純粋すぎる。  
こいつの前では、私は強がりで染めた海賊の頭でいられない。  
 
「…どうだっていいだろ!アンタと目を合わせたくない気分だったんだよ!」  
自身のプライドが、ただの女である事を許さない。  
テトラはリンクの胸ぐらをぐっと掴んで引き寄せた。  
「だいたいなんでアンタがこんな所にいるんだ!」  
私は海賊の頭なんだ。男達を率いて荒波を越える海賊をまとめあげなくちゃいけない。  
「そ、ういうテトラこそ…何してたの?」  
女々しさなんかいらない。  
とっくに海の底に捨てて来た。  
「人の勝手だろ!」  
「…あ、ちょっと待ってよ、テトラっ…!」  
捨てて来た。  
「アンタがいると、私がおかしくなる!ほっといて!」  
捨てて来た…筈なのに。  
 
「テトラ…。ぼくが…嫌い?」  
思い詰めたリンクの言葉に思わず胸がしめつけられる。  
そうとは言ってない、と言おうとしたが、リンクの言葉がいちいち突き刺さる。  
「ぼくが、海賊じゃないから…?ハイラル王との約束だから、…無理してぼくを船に乗せてる?」  
「誰がそう言った!私は…」  
いつからだろう。  
リンクのまっすぐな瞳が気になり始めたのは。  
「アンタのこと、嫌いじゃ…ないけど…」  
 
ハッキリしない自分が嫌になる。  
私はこんなやつだったっけ。  
 
不安の色を残すリンクの前でテトラはうつむいた。  
「けどっ…」  
その時、リンクが動き出した。  
「リンク?」  
両の肩を捕まれて、押し倒される。  
テトラがもがく。  
「リンク、やめて!」  
月の淡々とした表情が、無情に見えた。  
抵抗しても、いくつもの修羅場を小さな身体1つで乗り越えて来たリンクに力で適うはずもなかった。  
「だめだよ、リンク、こんなのは…!」  
抗議の声をあげる。  
リンクは無言でテトラを見下ろした。  
テトラは月で逆光になったリンクを見上げる。  
「…よしなよ、本気なの?」  
弱々しい自分の声が、自分のものでないように感じる。  
やがて、リンクは、  
「ぼくは…」  
静かに切り出した。  
 
「はじめてきみに会った時はびっくりした。  
 それから、ちょっと乱暴だけど…ぼくを手助けしてくれるきみがいて、うれしかった。  
 ハイラル城で、ゼルダになったきみを見て…ああ、綺麗だなって憧れた。  
 ガノン城で一緒に戦って、強気で勇敢なきみが、頼もしかった。  
 一緒に船に乗って、今までいろいろあったけど…」  
 
「ぼくはきみのこと…好きだった。  
 強気で、優しくて、仲間思いで、ひたむきで、男勝りなきみが好き。  
 きれいな…きみが好き」  
「テトラは、テトラはぼくのことを…どう思ってたの?」  
テトラの身体がビクっと震えた。身体から力が抜ける。  
目を伏せて、静かに口を開いた。  
「…今日の私は、おかしいよ。  
 やけに女々しいし、…あんたの事が、…気になって仕方がない…」  
 
「今日のことはみんな夢。  
 明日になれば、太陽は昇る。船は進むし。  
 私は頭、あんたはあたしの部下。  
 …でも、太陽が昇るまでは…夢の出来事」  
 
「…夢に、任せるのもいいかもしんない」  
 
それがテトラの最後の、精一杯の強がりだった。  
華奢なテトラの身体を優しく抱いて。  
そっと口づけをした。  
 
*  
 
「大丈夫?」  
「大丈夫」  
「ホントに大丈夫?」  
「ああもうしつこいな!大丈夫だって言ってるだろ!」  
船の甲板の上、月明かりの下。  
不器用そうな手つきでリンクがテトラのスカーフをはずす。  
「じゃ…」  
「うぁっ!」  
突然服の中に手を入れられて、テトラが小さく悲鳴をあげた。  
それをかわいらしく感じながら、リンクがテトラの髪留めを引っ張ると、髪が引っかかってテトラが目をしかめる。  
ごめん、と謝るといちいち話しかけるな、とテトラが叱る。  
流れるような、長い金髪がほどかれる。  
その綺麗な髪に愛おしさを感じながら、テトラの唇に口づけをした。  
時間をかけた接吻に、テトラの吐息が溢れる。  
口を放した後、繊細なものに触れるように、おそるおそる柔らかな肌を撫でるリンクの手が、服をたくしあげていく。  
されるがままのテトラを、いたわるかのように包み込むように抱いて。  
「ふ、くっ…」  
小さく鳴く声に、女らしさを感じながら女を求める。  
胸の頂きを甘噛みしながら、指は、もう片方の胸の上を優しく滑る。  
羞恥に顔を赤くする目の前の少女を前にして、リンクは悪戯を企む子供のように笑った。  
「ねぇ、テトラ、どんな感じ?」  
突然語りかけられてはぁ?とテトラが眉をひそめる。  
「なっ…どんなって…あ、ぅぅっ!」  
少し強めにリンクが歯を立てる。身体をのけぞらせたテトラを身体で無理矢理押さえつけて、  
執拗に胸を揉む。ソプラノの嬌声を聞きながら、右手をそろそろと沿わせる。  
異変に気付いたテトラが身をよじって逃れようとする。  
そんなテトラの首元に唇を落として、愛撫をプレゼントしながらリンクはテトラの衣服を剥いだ。  
目をきつくむすぶ。  
「あっ、…つあぁ…!ああぁっ…」  
身体が打ちのめされる気がした。  
じん、と身体の内側が震える。  
秘所に挿入されたリンクの指が、生々しく動く。  
「っぅ……あ、ぅ…」  
目の裏側がガクガクする。感じた事のない感覚に頭がおかしくなりそうになる。  
「いっ…ッ、た……くぅ…」  
「痛い?」  
「そ、そんな事言ってない!」  
困った顔をしつつ、リンクは指を2本に増やす。開いた手で胸を弄びながら。  
身体の内側をぐいぐいと広げられ、自身が締まる感触にぞくりとする。  
リンクが胸をいじっていた左手を引いて、身を落とす。  
 
「ま、待って…リンク…はぁっ、くぅ…」  
しばらくたっても何も起こらないのでおそるおそる目を開けてみると、リンクが律儀に待っていた。  
「な、何待ってるんだアンタは!」  
「え?待ってっていったんじゃ…」  
テトラは顔をしかめて、おもいっきり背ける。  
目の前にいるのは自分より年下の、まだまだ子供の男なんだ、と自分にいい聞かせる。  
「…あー…。リンク…。その…、  
 多分…私はやめてとか、待ってとか言うけれど…  
 リンクは絶対やめない。分かった?」  
「え?う、うん。でも…」  
「いいから。でないと海から突き落とすよ!」  
「わ、分かった!」  
「あ、でもちょっとは臨機応変に待って…って、わっ、やっぱり待って!あっ…うぁっ…、……………ッ」  
言葉にならない声をあげる。  
最も敏感な部分に舌を這わせるリンクがケモノのように見える。  
もがくテトラを片手で押さえつけて接吻する、舌でなぜる、歯を立てる。  
テトラが大きくのけぞって絶頂する。  
溢れた愛液を絡めながら指を増やす。愛しさを知る。  
どことなく虚ろな目のテトラをひと目見て、指を引かせて、  
リンクは自分も邪魔な衣服を脱ぎ捨てる。  
自身の性器の先端をあてがう。  
その間に意識を取り戻したテトラは、呼吸を整えながらリンクの男性器を見て顔をしかめる。  
「は、入るかな…」  
リンクはずっと子供だと思っていたけれど。  
いつの間にか、身長は年上である自分とそう変わらないくらいに成長してた。  
それは彼の身体にも、これからの事を予期して高揚している彼の分身にも言える事で。  
一気に不安の色を強く見せるテトラに、リンクが耳打ちする。  
「ねぇ、テトラ…ぼく。…まだ……、いまならやめられるよ…いちおう。…たぶん…」  
「…そういうのは…ね、…最初に言うんだよ。…バカ…」  
「…もう、ホントに後戻りできないよ?」  
「うん…」  
テトラが静かに頷いたのを確認して、リンクは身を沈める。  
荒い呼吸をするテトラの身体を起こして、そっと抱きしめる。  
亀頭と菊が静かにお互いを認めあった。  
「うぅ……、ふっ……はぁっ…」  
自分を抱きしめるテトラの緊張が、肌から直接伝わってくるのを感じながら、リンクは静かに、着実に進ませた。  
「は………ぁっ、ふぁっ…ッ!!」  
今にもおかしくなって消え入りそうな意識の中テトラは考える。  
止まらない自身の身体の震えは、いくつかの単純な感情に支配されて起こってるものだと。  
恐怖と…、混乱と…それ以外のひとひらの何か。  
(それ以外ってなんだろう…)  
「く、ぐぅっ、うわぁぁっ……、ああぁぁあッ…」  
何かが弾ける音がした。  
何もかもよく分からずに夢中でリンクを抱きしめる。強く、強く、強く。  
あらゆる激しさに耐える自分を、リンクは優しく抱きとめる。  
その手に、肌に、香りに、互いに1つになった部分に…温もりを感じながら、愛しさを覚えながら、緊張を緩める。  
 
(…愛しさ?)  
平気?という小声のつぶやきに、いちいち聞くな、バカ。と答える。  
(…そっか、愛しさ…だったんだ)  
秘所から、男性器を通して一筋の赤が伝って来る。  
その赤がリンクの根元まで到達した頃、リンクは腰を動かし始めた。  
一度愛しいと理解すれば、今までとはこの世界が違って見えた。  
「くっ……あ、あっ…あぁあ…!」  
「…、……っ、く…っ!」  
あなたの腕の中で、私は女になる。  
 
海賊だから、女々しさとか、おしとやかさを嫌った。  
でも、目の前の彼は全部の自分を好きだって、言ってくれた。  
 
「あっ…ッ、う、あぁっ…!ん、んくうぅ……ッ」  
「っッ、く…あぁ…!テトラ…ッ、も、もう…」  
だんだん焦点があわなくなっていく。  
リンクの声も、だんだん頭の中から消えていく。  
けれども。  
 
熱い、熱い…その圧倒的な熱の存在感。  
見えなくても、聞こえなくても、これだけで十分だと思えた。  
「うあ、あっ…!」  
彼も自分も、確かに此処にいる。  
 
リンクが性器を引き抜いて、びくびくんと跳ねた。  
そこから放たれた命が、テトラの身体を白く染めていく。  
うなだれたリンクの頭を自分の胸に押し付ける。抱きしめる。  
 
 私も女の子に、  
 せめてあなただけの女の子なれたかな…  
 今宵限りの夢でもいい  
 
下弦の月に照らされて、穏やかな波が往く海の上、優しげな世界の中で抱き合った男女が1つ。  
長い金髪が、あてもなく吹く風になびいていた。  
 
*  
 
「アネキがあぁぁ、体調をォォ、崩したあぁぁぁぁ!!!??」  
ゴンゾの世界の終わりかのような声が船内を包む。  
「ゴンゾのアニキ…そ、そんな大げさな声をしなくても。休めば治りますって…」  
「バカ野郎!」  
「ぐぇっ」  
 
ニコをポーンと張り飛ばし、大慌てでテトラの私室に駆けるゴンゾの後をリンクもついていった。  
 
「アネキぃ!大丈夫ですかい!アネキに何かあったらオレ達は…」  
ゴンゾの大声に、驚きズコが吹っ飛ぶ。  
「…ゴンゾ。私だって風邪はひくんだよ…」  
額に手を当てて、呆れたような顔で溜め息をつく。  
「アネキにケガをさせたり、カゼをひかせるなんてもってのほか!カゼが、モンスターだったら、この手で殴って、殴って、袋だたきにして、海に捨てて退治できるってのに…悔やんでも悔やみきれねぇ…すまねぇ、アネキ!」  
ゴンゾの後ろで思わずリンクがバツが悪そうな顔をして顔を背けた。  
おおかた、自分がそんな目にあった事を想像したのだろう。  
…風邪をひいた原因は、外でヤっていたから、だなんて。  
とてもゴンゾには言えない。  
 
海賊船は陽気に海を進む。  
テトラが休んでいるという事以外は、いつもと変わらない(ゴンゾの生態系は大きく乱れたようであったが)  
時間の合間を見て、リンクは1人テトラも私室に入る。  
 
「具合は…大丈夫?」  
「…それは、どっちの心配をしてんの」  
「えっと…両方」  
申し訳無さそうな顔をするリンクに、それなら最初からやるなと言いたくなるが、  
その言葉は呑み込んでおく。  
「そういうアンタはどうして風邪ひいてないんだ…」  
ジト目のテトラにリンクは苦笑して答える。  
 
「そうそう、昨日の答えだけどね」  
「え?」  
突然切り出したテトラにリンクは目を丸くする。  
「昨日、あんた、無理してこの船に乗せてるかとか言ってただろ。それだよ」  
「あ、ああ…うん」  
「別に私はハイラル王との約束に縛られてるつもりはないよ。したいからこうしてるんだ。私は自分の好きにやってるつもりさ」  
 
一息。  
「あんたがここにいたければ、いてもいい。いたくないなら…力づくでも止めてやるよ」  
「テトラ…」  
 
「…でも、私が覚えているのはそこまで。今日になったら私は風邪をひいていた」  
「…そっか」  
寂しさを感じる。  
リンクは、どうとも取れず、曖昧な笑みを浮かべた。  
そんなリンクの様子を見て、テトラは静かに言う。  
「…でも、とてもいい夢を見たんだ」  
 
「…素直じゃないんだから」  
困ったように笑うと、  
「何の事だい?」  
不敵に笑って返される。  
2人の笑顔は明るかった。  
 

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