チンクルはふわふわ飛んでいた。  
あたり一面、色とりどりの三角形のルピーがいっぱい浮いていて  
取っても取ってもルピーは尽きる様子がなく、チンクルを喜ばせた。  
 
(楽しい夢なのだ。夢の中で夢って判っててもちっとも怖くないのだ。  
最近、月が怖い顔になって変な夢ばかり見るからこの夢はずっと見ていたいのだ)  
 
なんだかにぎやかな声が聞こえる。  
目を落とすと空飛ぶチンクルのはるか足元に緑の「妖精さん」が居た。  
 
(いつも夢に出てくる男の子の妖精さんなのだ。  
夢の中だから夢の事は思い出せるのだ。  
この子はチンクルの友達。何度も会うから覚えてるよ。  
何度も友達になって、何度も…えーと何か怖い事があったけど思い出せないのだ)  
 
夢の中だからいつもの妖精さんは4人になってて、  
緑の妖精さんは赤や青や紫の妖精さんと一緒に浜辺に落ちてるルピーを拾ってる。  
負けるもんかとチンクルも浜辺に飛び降りて、競争するようにルピーを拾った。  
 
「うわ!チンクルがキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!」「構う前に早く拾おう、もう時間が無いよ」  
「そうだな。フォース、ぎりぎりだもんな」「急げ!」  
 
チンクルを無視し妖精さん達はルピー拾いに熱中した。  
4:1なので小さな身体でも拾う量は圧倒的に妖精さんのほうが上だった。  
「ひとりでもチンクルは負けないのだ!」  
切羽詰った少年達の事情も知らず、チンクルはのんきに周りをぴょんぴょん跳ねながらルピーを拾う。  
 
35歳無職に気を取られ警戒がおろそかになった隙を突くように、  
いきなり怪物の群れが砂をかきわけ現われ妖精さん達に飛び掛る。  
素早く戦闘態勢に入り、フォーメーションを変えながら立ち向かう妖精さん達だったが  
敵の来襲を許したツケは大きく雑魚相手に苦戦しだした。  
 
いきなりの修羅場に目を丸くするチンクルの目の前、  
巨体に跳ね飛ばされた妖精さんのポケットから今まで見た中で一番大きなルピーが零れ落ちた。  
「ゲットなのだ!」手を伸ばしてキラキラ光る三角形を拾うと嬉しそうに眺めるチンクル。  
 
「おい!」「何をする!」「ああ!返して!」「返せよ!」  
妖精さん達は怒りだした。  
 
だんだん大きくなる妖精さんの怒声が怖くなってチンクルはルピーを握ったまま空に飛び逃げる。  
4色の少年は口々に叫ぶ。  
 
「そのフォースが足り無いとボスが倒せないんだ!返せ!」  
「お願いだよ。返して!これじゃ捕まった子が助けられないよ」  
「もう時間が…」「もうだめだ!また集め直しか…」  
 
頭を抱えたり泣きそうな様子の妖精さんを見てちょっと気の毒になったチンクルは  
掴んだルピーを元の持ち主に戻そうと、背に負った風船の制御レバーを下降に向けた。  
 
幾らも降りないうち、いきなり紫の妖精さんが空を見上げて叫ぶ。  
「畜生!お前なんか大嫌いだ!」  
 
びっくりして手に握ったルピーを離そうとしたら  
霧に包まれるように目の前が真っ白に曇っていき、世界が薄れて消えていった。  
 
「違うのだ!これは返そうと思ったのだ、チンクルを嫌いになっちゃイヤなのだ!」  
 
眠りながら無理に声を出そうとした時の喉がひりひりする痛みでチンクルは目覚めた。  
 
(楽しい夢が嫌な夢になってしまったのだ。  
すぐにもう一度眠って夢に戻って妖精さんにルピーを返すのだ)  
 
もう一度妖精さんに会うのだと念じながら目を閉じる。  
単純なチンクルは目を瞑ってすぐに眠りに落ちていった。  
 
「399ルピー」  
 
「足りないよ」  
 
気が付くとチンクルは高い塔の広間に居た。  
目の前に地図を手に困り顔の妖精さんが居た。  
 
妖精さんに声を掛けようとすると、身体が勝手に動いて広間をぐるっと見回す。  
驚いて前に動こうとしても身体は壁に向かって移動する。  
思うようにならない身体はチンクルの意思とは関係なく行動していた。  
それはまるでチンクル自身が幽霊になって誰かの身体に乗り移ってるような感覚だった。  
 
疲れて嫌そうな顔しながら中央の柱の歯車を手で押して回す人たちに向かって  
夢の中のチンクルはえらそうに威張ってる。  
なれなれしく肩を叩きながら夢の中のチンクルは  
妖精さんに地図解読の代金として399ルピーを要求した。  
 
(友達にあげる地図にそんな高い値段を付けちゃだめなのだ!  
待ってて!そんな地図より今チンクルが新しい地図を書いてあげるから)  
 
懐からペンを取り出すつもりで腕を動かそうと必死に身体を傾けるチンクル。  
ぜんぜん思い通りにならずに身体は好き勝手に動いて思っていない事をしゃべりだす。  
 
「ルピーが足りない。399ルピーって言われても、そんなに持ってないんだ」  
 
お金が無いなら帰れと、あざ笑う調子で冷たく妖精さんを突き放す夢のチンクル。  
 
(ごめんなさいなのだ。チンクルが妖精さんのルピーを拾ったから  
お金が足りなくて妖精さんが困ってるのだ。これを早く返さなきゃ…早く…早く…)  
 
握った手の中にある固い塊を目の前の少年に渡そうと  
腕を伸ばし指を広げようと虚しい苦闘を続けるチンクル。  
 
腕がつって思わず悲鳴があがる。  
寝ながら手を無理に動かそうとした時の筋肉の痛みでチンクルは目覚めた。  
 
(あーあ。もっと嫌な夢になってしまったのだ。  
早くルピーを返してあげないと妖精さんは困ってしまうのだ)  
 
今度こそと、強くルピーの事を念じながら目を閉じると  
すぐに夢の中へとチンクルの意識は落ちていった。  
 
目を開けるとチンクルの足元にルピーが山のように積もっていた。  
ざくざくとルピーを踏んで誰かが近づいてくる。  
ふわっと花の蜜ような、森の樹のスパイスに似た香りのような、甘くていい匂いが立ち込める。  
 
すぐ目の前に背が高くてきれいな女の人が、透けるような薄いネグリジェだけで立っている。  
透けた服越しに見える子供の頭ぐらいある大きなおっぱいにチンクルの目は釘付けになった  
 
きれいだけどかなり派手目な顔は、クロックタウンのどうくつに住んでる  
「おーーーーーーほっほっほっほっほ!」と笑いながら泉から出てくる  
顔の濃いお姉さんを連想させた。  
 
女の人はするっとネグリジェを下ろす。  
目の前で生の大きなおっぱいが揺れる。  
いつか窓越しに見えた、お風呂に入ってるクリミアさんのおっぱいより大きくて  
ぷるんと弾力があるのに柔らかそうで、真ん中にピンク色の豆が付いていた。  
 
思わず知らずチンクルはきれいな豆に手を伸ばす。  
さっきと違って身体はちゃんとチンクルの意思の通りに動いた。  
触れると軽い反発があって、おっぱいに潜り込んだ柔らかな豆は少し大きく硬くなって戻ってきた。  
 
勝手に胸に触れても怒る事もなく、チンクルに向かって女の人は優しく微笑む。  
愛しそうに慈しむように向けられるその笑みは、アンジュさんがカーフェイ君に向けてた笑顔によく似ていた。  
「あのね?チンクル。私、あなたがお金持ちじゃなくても  
きっとあなたの事好きになったと思うの」  
 
女の人はかがむとチンクルの顔を両手で支え、唇がそっと頬に触れ舌が顔を撫で下ろす。  
今まで一度も味わった事のないぞくぞくする感覚がチンクルの肌を走る。  
ゆっくりと地面に横たえられ大きなおっぱいごと抱きしめられると  
背中に当たるルピーのごつごつも気にならない。  
 
顔の濃いお姉さんの指がゆっくりチンクルの腹を這う。  
くすぐったくて身をのけぞらした途端に  
ベッドから転がり落ちた衝撃でチンクルは目覚めた。  
 
辺りを見回してお姉さんの姿を探す。  
「い、今の夢に戻るのだ!」  
思うだけでなく大声で意思表示するチンクル。  
 
なんとなく夢の続きを見ると妖精さんになれなくなる気がしたけど  
チンクルはあのお姉さんのうるんだ優しい瞳をもう一度見たくてたまらなくなっていた。  
 
おっぱいを念じながら夢に落ちたチンクルの目の前に  
念願のおっぱいがあった。  
だが、さっき見たのより小さくて乳首も灰色がかって大きかった。  
 
「いや〜ん、もう好きにして〜」  
鼻に掛かった声でおっぱいの持ち主の若くてそこそこ可愛い娘が叫ぶ。  
「私も」「私が先よ!」  
同じような調子で叫びながら3人の裸の若い娘がベッドに並んで座っていた。  
 
(可愛いけどチンクルの趣味じゃないのだ。  
チンクルはおっぱいが大きい優しい人か、小さな妖精さんの女の子の方が好きなのだ。  
妖精さんになれたら森の中で緑の服にカチューシャの妖精さんの女の子と一緒に  
オカリナを吹いて暮らすのが夢なのだ。  
妖精さんになれなかったらさっきのお姉さんみたいな人と一緒に毎日ご飯を食べて  
ワンちゃんをなでて暮らすのが夢なのだ)  
 
「はっはっは。焦らなくても順番に可愛がってやるよベイビー」  
 
また、自分では身体が動かせない夢の中のチンクルになっていた。  
夢のチンクルは自分も裸になると3人まとめてのしかかり、  
娘達の体中を触って舐め回し噛み付き獣のような声を上げた。  
 
娘達の裸の身体が体中に当たって恥ずかしいし、  
息が出来ないぐらい口の中におっぱいや柔らかくてしょっぱいものが出入りしたり  
次々と下半身が揉まれ舌で吸われてるうち、気持ちが変になってチンクルは頭がくらくらしてきた。  
 
(こんなの違うのだ!身体は気持ちいいけど心が気持ちよくないのだ!  
さっきのお姉さんの軽いチューの方が素敵だったのだ!  
あ!あうっ!あわわわわわわわ…)  
 
チンクルが目覚めると下半身が脱力して  
下着の中がべたっと濡れた独特の気持ち悪い感触がした。  
 
(また悪い膿がでたのだ)  
 
たまに寝てるあいだに身体から膿がでてきてパンツが汚れてしまう事があった。  
間違えてうっかりクリミアさんのお風呂を見てしまった時や、  
アンジュさんがカーフェイ君と抱き合って地面に倒れて苦しみだしたのを見た時の次の朝  
なぜかこんな事になってしまっていた。  
 
きっと裸の女の人を見てちょっと嬉しくなった罰で  
悪い心が膿になって出てきたんだとチンクルは解釈していつも哀しい気分で下着を洗った。  
 
(女の人と結婚すると妖精さんになれないって聞いたのだ。  
さっきの夢は妖精さんに意地悪した罰で、妖精さんの仲間になれなくなる罠をかけられたのだな。  
うっかり、おっぱいで誘惑されて妖精さんになりたい気持ちを忘れそうになったから、  
もうおっぱいには…おっぱいには…。ちょっとだけあのお姉さんの夢を見たいけど我慢なのだ)  
 
チンクルが風呂場でパンツを洗っていると、扉が開き  
タオルを背に掛けた裸の父親が驚いた顔を見せつつ入ってきた。  
「その年で夢精って…。くぅー父ちゃん情けなくて涙も出ねえよ」  
 
洗い物をするチンクルの隣で不機嫌そうに浴槽に浸かりながら父親はぼやく。  
「よおチンクル。いい加減嫁さんでも貰って俺を楽にさせてくれよ。  
お前だって独り身は色々辛いだろ」  
「チンクルは妖精さんになるからお嫁さんは要らないのだ」  
「おめえ、いい年して『妖精さん』はねえだろ。確かにあと5年そのままじゃ  
ランクアップして魔法使いになっちまうがな(苦笑)」  
「魔法使いも素敵だけど、チンクルは妖精さんになるのだ」  
「馬鹿もん!魔法使いってのは駄目人間を揶揄って言ってるんだよ!  
どこの世界に35過ぎて童貞で夢ばっかり見てる馬鹿が居るんだよ!  
居ねえよ!  
俺の目の前以外にはなっ!」  
 
風呂もそこそこに怒鳴りながら父親は風呂から出て行った。  
結婚の話題になるといつも  
妖精さんの存在を否定する父親に一方的に罵られる結果になるのは悲しかった。  
普段は息子に甘い父親が本気で怒る理由をチンクルは理解できていなかった。  
 
今度こそと思いながらシーツを代えたベッドに潜り込むチンクル。  
(ちゃんとお願いできてなかったから変な夢に巻き込まれるのだ。  
チンクルは妖精さんにルピーを返したいのだ、返したいのだ、ケンカしたままは嫌なのだ…)  
 
目を開けるとどこかの料理店のようなお店のなか。  
この暖かな甘い匂いはシナモンを利かせたホットミルクの香り。  
この鋭いアルコールの匂いはレモンを利かせた冷たいミルクソーダの香り。  
見慣れないその場所はミルクバーのように見える。  
 
すっと扉が開いて、見知らぬミルクバーに妖精さんが入ってきた。  
やっと会えた念願の主の顔を見て、チンクルは思わずあとずさってしまう。  
安堵よりも、まだ怒っていたらどうしようという不安のほうがチンクルの中を大きく占めていた。  
 
妖精さんはキャプテンとか言う人を探していた。  
懐から地図を取り出し、バーのマスターに聞かされたキャプテンの居る神殿の場所に丸をつけ  
マスターの説明にうなずきながら妖精さんはたどたどしい手つきで地図に注意書きを書き込む。  
 
(その書き方は心細いのだ。チンクルがもっときれいに書いてあげる。  
地図だって、ほこりで文字が潰れてたり、  
圧力でインクのにじみを移さないと本当の文字が出ない仕掛け地図があるから  
チンクルが助けてあげないと妖精さんは道に迷ってしまうのだ)  
 
妖精さんはバーを出て行き、追いかけようと思ったチンクルの前にガラスの壁が立ちふさがる。  
どんどんと壁を叩いてみても壁に隙間は見えず押してもびくとも動かなかった。  
いきなりチンクルは後ろに向かってダッシュした後逆転し、勢い良く壁に向かって走り出した。  
 
普通の人間だったら壊した後どうなるか予想できるガラス板に飛び込もうと思わない。  
こんなものに突進するのはチンクルと テロリストに立ち向かう不運な刑事ぐらいのものだ。  
 
チンクルが壁に激突すると同時に甲高い不協和音と共にガラスは粉々に砕け、  
35無職は地面に投げ出される。  
チンクルが起き上がると在るはずのガラス片はどこにもなく、傷ひとつなく無事に立ち上がる事ができた。  
静かになった周りを見回すとそこは一面に草の生える森の中だった。  
ミルクバーは影も形もなく消えていた。  
 
(ラッキーなのだ。ワープポイントに飛び込んだので近道できたのだ)  
何も考えていない者は強い。  
 
記憶にある神殿の方角に向かって星で方向を図りながら適当に森の中を歩くチンクル。  
後ろから小走りで移動する靴音が響く。  
振り向くと妖精さんが立ってる。  
 
逃げようか。  
どうしよう。  
 
「妖精さん」  
「ん?なに?」  
「あのね。これ…あげる」  
握った手の中の物を渡そうと指を開く。  
 
手の中にあったのは三角形のルピーではなく、ただの木の実だった。  
 
(どうしよう、ルピーじゃなかったのだ)と焦るチンクルを不思議そうに見返してから  
妖精さんは差し出された木の実を見てにっこり笑った。  
「ありがとう」大事そうに木の実を袋にしまう。  
 
チンクルも嬉しくなって笑い返す。  
(よかった。もう怒ってないのだ)  
 
「チンクルは友達だよ。妖精さんの友達だよ」  
 
(やっと楽しい夢に戻ったのだ。もうこのままの夢でいいのだ)  
 
 
チンクルの眠るタルミナの空の上、  
無慈悲な月がどす黒い笑みを浮かべて全てを無に返そうと待ち構える。  
 
無限に近いあいだ繰り返される破局へのひと時。  
それでも今のチンクルは、友達と一緒に笑って遊べる心からの安らぎの中に居た。  
 
 

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