〈リンク…〉  
 耳の近くで声がする。囁きかけるような、しかし遠くから必死に呼んでいるような、不思議な声だ。  
 振り返って呼びかける声の主を確かめようとした。しかし、体は思うように動かない。  
〈助けて…〉  
悲しげな、か細い声。女の人だ。  
〈リンク…!!〉  
 意識が明瞭になるに従い、声は一方向からではなく、前後左右、つま先から、頭の先から、リンクの全身を包み込むように響いてくる。  
 金縛りにあっているのか、自分の動かない体を訝しく思いながら、自由になる目だけを必死で動かして、自分の周囲を見渡した。  
 誰もいない。  
 何だ? ただの夢か?  
〈…どうか助けて…!〉  
 君は誰なの? どうして僕の名前を?   
〈私はゼルダ。あなたのことをよく知っている者です〉  
 リンクは眉をしかめた。ゼルダなんて知り合いはいないし、生まれてこのかた、若い女性と接する機会なんて、さして多くはなかった。  
 その僅かな女性達との記憶を辿ったところで、やはりゼルダという名前は見当たらない。  
 不信感が頭を擡げるが、無碍に懇願する女性を放り出すわけには行かない。  
叔父さんに叩き込まれてきた騎士道に背く行いだ。  
リンクは腕を持ち上げて上体を支えようとしたが、腕全体の筋肉が抜かれてしまったかのように動かない。歯を食いしばって力をこめるも、徒労に終わってしまう。  
助けが必要なら行ってあげたいけど、なんだか、動こうにも動けないんだ。  
 城勤めの叔父さんがいるから、彼に頼んで…  
〈まあ、ダメよ! いくら私でも許容範囲はそんなに広くないんですから〉  
 何の許容範囲だよ。  
 間の抜けた会話に思えたが、女性の声はやむことなく助けを求めてくる。  
 いくら踏ん張っても動けないでいるリンクの様子を見て取ったのか、彼女はついに、  
〈仕方ないですね…〉  
と溜息混じりに呟いた。  
 諦めて叔父さんに頼みにいくのかな、と、ほっと胸を撫で下ろすものの、次の瞬間、声の主がその身をリンクの目の前に現したのである。  
「動けないだなんて…そんな騎士様は本には出てきませんでしたよ」  
 輝くような黄金の髪を後ろに流し、青と白を基調としたドレスを身に纏った美しい少女が、目の前に立っていた。  
 リンクは目を見張った。ゼルダの名が、よもやこの「ゼルダ」を指すとは思いもよらなかったのである。  
王国の民でその姿を知らぬものはない。遠目からではあったが、リンクも姿を見たことはある。  
ハイラル王国王女ゼルダ。  
今目の前にいる少女が自国の「お姫様」であるとは俄かには信じ難かったものの、そんな肩書きも意味を失うような神秘性が少女を取り巻いていた。  
 
少女の周りにだけ、白い霧のような仄かな光が灯り、暗い部屋の中で彼女が精霊のように浮かび上がる様は、何とも幻想的で妖艶だ。  
 惚けたように少女に見とれているリンクに目をやり、僅かに頬を膨らませた少女は、赤く潤った唇を尖らせて近付いてきた。  
 慌ててベッドから起き上がろうとしたが、相変わらず体は動かない。  
 少女はそんなことはお構いなしに、リンクの上から覆い被さるように覗き込んでいる。  
「…私の騎士様?」  
 僅かに顔を傾げて尋ねてくるその様は、女性との会話に慣れていないリンクにとって、可愛いどころでない魅力を放つ。我知らず、胸が動悸した。  
「私を助けてくれるのは、私の騎士様じゃなきゃダメなの。他の方に任せようなんて、そんなんじゃ私、その人の所にいっちゃいますよ?」  
 拗ねたような口ぶりでそう話すが、ちょっと待て、何の話をしてるんだ! という思考ばかりが巡り巡って、肝心の口が動いてくれない。  
「…本当に起きられないみたいですね」  
 だからさっきからそう言って――!  
「じゃあ、優しく起こしてあげちゃう」  
 へ!?  
 悪戯っぽく微笑んだゼルダは、そういうと同時に、胸元の赤い宝石の止め具を外した。  
 寝転んだまま動けないリンクの目の前で、ゼルダは面白がっているかのように軽やかに身を翻す。  
長い髪を上に留め、背を見せて、ゆっくりとファスナーを下ろしていく。  
 手弱かな曲線に沿って服が左右に割れ、さなぎから蝶が飛び立つように、美しく実った少女の姿が現れる。  
 髪留めを再び外し、軽く頭を振れば、少女の体を縁取る金の羽衣が肌を覆う。  
 目の前で突然脱ぎ始めた少女に呆然となり、訳も分からずいたリンクだが、性的な興奮なんかを覚えるよりもまず、少女の女としての神秘的な美しさに感動を覚えた。  
 背を見せていた少女が、胸元を交差した腕で隠すようにして、リンクの正面に立つ。  
 楽しげに服を脱いでいた彼女だが、実際に裸を男の前に晒すのには、まだ羞恥があるらしい。  
 顎を引き、上目遣いでリンクの様子を窺っている。  
 やることが性急過ぎたかしら。  
 でも、いいわよね。これで私を助ける気になってくれるのなら。  
 今、自前のものでなく少女の体を覆っているのは、可愛らしいクリーム色のレースで仕立てられた下着だけだ。  
 引き締まった足首、滑らかな長い足、謙虚な臍に続く対照的なくびれたウエストと張りのある尻。それらを真っ白に覆う、染み一つない陶器のように滑らかな肌。  
 そして、意を決したように、少女が腕を下ろす。  
 金糸のような髪で見え隠れする桃色の頂点。そこから滑らかな傾斜を以って、少女の乳房が覗いた。  
 頭に一気に血が上る。悲鳴に近い声が挙がりそうになったが、押し殺したような声が喉から掠れて出ただけだった。  
 まん丸に目を見開いたリンクの上に、さっきとは違った表情で少女が乗る。  
 一人用の簡素なベッドは軋む音を立て、リンクは混乱で気絶しそうになっていた。  
少女は不安げに眉尻を下げ、懇願するような表情でリンクの鼻先に軽く口付ける。  
「驚きましたよね…でも、これがあなたにできる唯一の動機付けなの。分かって…」  
 動機付け? 何を…  
 思う暇もなく、少女は体をずらし、リンクの寝間着をそっとめくった。  
   
 うううううえぇえええええぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!  
 
 やはり声にならぬ悲鳴が迸るが、少女はそんなことにはお構いなしだ。  
「私も初めてだから、失敗しないように気を付けます!」  
 失敗って何!?  
たった今まで見せていた、しおらしい表情は何処へやら、気合を入れるように腕まくりすると、ゼルダは一気にリンクに襲い掛かった。  
 
先程の少女の即興ストリップショーのお陰で、リンクの武器はほぼ完全に臨戦態勢だった。  
 小さく頼りない少女の指先が、暗中模索しながら優しくリンクを弄ぶだけで充分。  
 自分の状況と、見たこともないような美少女の奉仕と羞恥とで、リンクは敏感に反応した。  
 声は出ないが息は漏れる。浅く速くなっていく呼吸の音を長い耳で聞き取りながら、少女は不安げに何度も尋ねてくる。  
「これでいいですか? 気持ちいい?」  
 返事もできないリンクを少女はどう見たのか、顔を屈め、リンクを口に含んだ。  
 
 おおぉぉぉぉおおおぉぉ!!??!!??!!??  
何やってくれてんの!?何やってくれちゃったの!?すっげ気持ちいい!!  
 
 暖かく、柔らかい舌で慈しむように舐められ、リンクは絶叫した。とはいえ、やはり心の中でだけだったが。  
 震えがくるような快感を知る由もなく、ゼルダは緩急をつけ上から下まで、つ…と舐め、柔らかな掌で優しく睾丸を揉みしだく。暫くの後、再び上気した美しい面を上げ、不安げに覗き込んできた。  
「これでもダメですか? ごめんなさい…」  
 顔を顰めて、しかし声を出さないリンク。  
 自分の手ではマッサージにもならないのかと、ゼルダは申し訳なさそうに目を伏せた。  
 そんなことはない、初対面(であろう)の自分にこんなことをしてくれるなんて、何といじらしく素晴らしい女性なんだと思いつつも、リンクは意思表示できないことを歯がゆく思った。  
「これが最後の手段なんですが…これでもあなたを満足させられなかったら、生け贄になってしまった方がましです」  
 生け贄? …何だって?  
 口から零れた単語に一瞬反応したものの、リンクは次の瞬間の大きな快感で、再び天に舞い上げられてしまった。  
 いつの間にか自分の上に跨った少女。リンクの中心は、同じく、下着を取り払った少女の中心へと飲み込まれてしまった。  
「ん…あぁ…」  
 濃い息をつき、少女はゆっくりと腰を動かし始めた。  
 最初は完全に密着したまま、前後左右、円を描くように。  
 優雅な踊りを見ているようで、リンクは襲ってくる快感に耐えながら、必死で目をこじ開けて少女の舞を焼き付けた。  
 艶かしく蠢く腰、その動きに合わせて揺れる二つの乳房(それに触れたいとも思ったがやはり無理だった)。  
やがて平面的な動きでは物足りなくなったのか、少女の動きが立体的になっていく。  
 上へ下へ、遅く速く、浅く深く、少女が予想もつかぬ動きを展開する。  
 動く度に色っぽい喘ぎ声が耳を刺激し、目を開けば乱れた少女の淫靡な表情が見える。  
 自分の中の激情の波が否応なしにどんどん高くなり、とうとう自制という堤防を越えた。  
 
エアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ  
 
同時にゼルダの中も強く収縮し、二人は同時に果てた  
…と思ったのだが。  
 
「はい、続きはまた後でね」  
…へ?!  
今までの狂乱っぷりが嘘のように、ゼルダがすっくと立ち上がる。  
 気付くと、頂上を迎えたと思ったにも関わらず、リンクの武器はまだまだ大きく脈打ったままだ。  
 どういうことだという表情を浮かべたまま少女を見上げると、あっという間に着衣を済ませた少女が茶目っ気たっぷりに微笑んでいる。  
「ミヤモトって人が言ってたんです。助けなきゃ!って主人公が思える動機が必要だって。助けてくれたら、本当の私をあげる。…夢だからって、そのままじゃ嫌でしょ?」  
 恥ずかしそうに頬を染める少女の視線の先には、欲望のはけ口を求めたままのリンクが。夢! 夢だって!?  
「気持ちいい、って言ってくれなかった仕返しです。悔しかったら、城の地下牢まで頑張っておいでなさいな」  
 最後は挑発的に悪戯っぽく笑って、少女は部屋から姿を消した。  
 
がばっと身を起こす。  
体が動いた!ということは…  
リンクは恐る恐る布団をめくり上げ下半身を窺ってみた。  
いつもより朝立ち度合いが素晴らしい。  
 
いよいよやる気が出た。  
「…よーし! 待ってて下さいゼルダ姫! 必ず助けに行きますから!!!!」  
 
 

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