風太郎の前でしゃがみ込んだままの緑は、  
彼の興奮したものを捧げ持つようにして両手で包み込んだまま、  
竿のあたりをゆっくりとしごく様にして、ボディーソープを塗り広げていく。  
 
たっぷりと時間をかけて優しく丁寧にゆっくりと何度も何度も、  
風太郎を包み込んだまま両手を上下に滑らせ続ける。  
 
ローションを思わせるボディーソープのぬるぬるとした感触に、  
そしてきつ過ぎず、かといって緩いわけでもない、  
優しくあたたかく風太郎を包み込んだまま繰り広げられる、  
緑の両手の動きのあまりの心地よさに風太郎の息は自然と弾んだ。  
うっとりと開かれたままの口の端からよだれを垂らしそうになり、何度慌てて口元を拭ったことか……。  
 
そんな風太郎に気づいているのかいないのか、  
緑は口元に優しく笑みを浮かべたまま、風太郎を包み込んだまま「清める作業」を続けている。  
 
「み、緑さん……」  
息を弾ませながら風太郎がつぶやいたときだ。  
「うお!」  
突然の刺激に彼は思わず声を上げた。  
 
それまで竿のあたりを上下していたはずの緑の両手は、  
不意に風太郎の大きくなったままの頭の部分をそっと包み込み、  
そのまま大胆にこねまわすようにしてきたからだ。  
 
敏感な部分を刺激されることに、たまらず風太郎はやや腰を引き気味にしてしまうが、  
緑はそれに構う様子もなく、風太郎の頭を包み込んだまま、遠慮なく大胆に両手をうごめかせ刺激を続ける。  
 
「ちょ、ちょっと、緑さん……それは……」  
腰を引いた格好のまま、少しでも刺激から逃れようと身体をくねらせながら風太郎が緑に声をかけると、  
「こらー、動かない。ここも綺麗にしてあげてるんだから」  
まるで母親が子供を優しくしかりつけるような感じで緑は風太郎をたしなめ、  
「なんだよ、こんな程度でびくびくしてちゃ、この後持たないよ?」  
なおも風太郎の頭に刺激を与え続けながら、彼を見上げてイシシ、と笑った。  
 
「い、いや、そうなんですけど……」  
緑からの刺激に腰をくねらせる格好は自分でも無様だと思うので、  
風太郎はなんとか我慢しようとするが、なかなか上手くいかない。  
「み、緑さん……これは……きついっす……」  
 
刺激が強く、そしてあまりにも気持ち良すぎるのだ。  
 
緑がこれまでどんな経験を経てきたのかわからないが、  
彼女の「清めの作業」は風太郎にとってはかつてないほど刺激的な愛撫だった。  
きつ過ぎず緩すぎず、優しく時に凶暴に、風太郎を丁寧に「清め」ながら刺激し続けるのだ。  
 
おそらくは風太郎に限らずどんな男も、緑にこのようにされたらたまったものではないだろう。  
 
と、緑は両手の動きを止めると、少し軽蔑を込めたような感じで言った。  
「なんだかさあ、さっきからふー君のおちんちん、ビクンビクンしてるー」  
「い、いや……そ、それは、気持ち良すぎてですね……」  
顔を真っ赤にした風太郎はしどろもどろの様子で返事をした。  
 
確かに緑の刺激の前に、風太郎は何度も身体をぶるると震わせ、  
緑に包まれたものも何度も大きく跳ねさせていたからだ。  
が、それはやむを得ないことだろう。緑があまりにも巧みに刺激しすぎるのだから。  
 
そんな風太郎を追い詰めるように緑はなおも続ける。  
「綺麗にしようと思っても、どんどんふー君のおちんちんぬるぬるしてくるしさあ……。  
これ絶対ボディーソープじゃないよね? ほら、見て? 何だか糸引いてる」  
そう言って風太郎の鈴口にぺとりと指を触れさせた緑はそのままつーっと指を離していき、  
鈴口と緑の指の間に細長い透明の糸を伸ばして見せた。  
「ねえ、何これ? ふー君、これ何? おしっこじゃないよね? 何なの、これ?」  
糸を伸ばしたり縮めたりを繰り返しながら、緑は真顔で風太郎を見上げて言った。  
 
――……これって……言葉責めってやつですか……?  
 
恥ずかしくて緑に返す言葉が見いだせない中、風太郎は心の中で思った。  
いくらなんでも、今、風太郎と緑との間で糸を引いているものを緑が知らないはずはないからだ。  
風太郎には、緑がわざとそんな問いかけをして、彼が戸惑う様を見て楽しんでいるようにしか思えなかった。  
 
「わ、わかってる……でしょ……」  
そんな言葉責めに少し抗議の意味をこめて風太郎がつぶやくと、  
「いや、わかんない。だから聞いてるの。ねえ、ふー君、このねばねばの糸が何だか私にもわかるように教えて」  
緑は風太郎を真顔で見上げたまま白々しく言った。  
戸惑う風太郎を見るのが楽しいのか、彼女の口元には笑みが浮かんでいる。  
 
「……」  
風太郎は思わぬ緑の責めにどうしたらいいかわからず、返す言葉に詰まっていると、  
彼を見上げたままの緑がうっとりと瞳を細め、甘くそっと囁いた。  
「もし教えてくれたら……フェラチオしてあげる……」  
 
それはあまりにも蠱惑的で妖しげな、そしてとろけてしまうほどに甘い響き。  
風太郎は思わず身体をゾクゾクと痺れさせた。  
 
――答えたら……緑さんにフェラしてもらえる……。  
 
そう思うと、風太郎の下す結論は一つしかなかった。  
しばらくの沈黙をおいて彼はそっとこぼした。  
「……か、カウパー液……いわゆる……ち……ち……んぽ……汁……で……す……」  
恥ずかしさのあまり最後は途切れ途切れになりしかも声をかすれさせてしまった。  
 
緑は風太郎を見上げたまま首を傾げると、怪訝そうな表情を作って言った。  
「ごめん、最後の方聞こえなかった。もう一度言って?」  
「え?」  
風太郎が戸惑いの声を上げると、  
「だから聞こえなかった。カウパー液ってのはわかったけど、そのあと何て言ったの? 教えて?」  
緑は首を傾げたまま風太郎に言った。  
最後、途切れ途切れになった言葉を風太郎にはっきり言わせるつもりなのだ。  
風太郎が思わず声をかすれさせてしまった、恥ずかしい一言を……。  
 
本来ここでもう不快感をあらわにしてもいいはずだし、そういう人もいると思うのだが、  
風太郎はなぜかそういう感情を抱くことはなかった。  
 
小さく深呼吸をすると、彼は少し声を大きくして言った。  
「ち、ちんぽ……汁……です……」  
「え、ごめん聞こえない、なんだって?」  
緑は片方の耳に手を添えて「聞こえない」という素振りを見せながら言う。  
まだ、どこか恥じらいを抱いて言葉を途切れさせてた風太郎の繰り返した言葉ではまだ不十分ということか。  
 
風太郎はここでも緑に忠実で、さらに声を大きくして言う。  
「ち、ちんぽ……汁……」  
「え、なんだって?」  
「ち、ちんぽ汁……」  
「聞こえなーい!」  
「ち、チンポ汁!!」  
なおも執拗に風太郎に言葉を繰り返させる緑に、最後風太郎がやけくそ気味に声を大きくして言うと、  
ここで緑は初めて優しく笑みを見せ、耳元から手を離してゆっくり頷くと呟いた。  
「よくできました」  
そして、ねとねとと指を前後に動かして、自分で糸を伸ばしたり縮めたりする様を見つめながら、  
「そう……これ、ちんぽ汁っていうんだ……私のような清純な乙女には何のことだかさっぱりだったよ」  
さも風太郎の言葉に感心した風にわざとらしく何度も頷いて見せた。  
 
――よく言うよ……。  
 
そんな緑に少し呆れながら風太郎は内心つぶやいていると、  
「あ、『お前清純な乙女とか何言ってんだ』とか思ってる? ね?」  
表情から察したのだろう。緑は風太郎の気持ちを読んで彼を睨むようにして見つめながら言うと、  
「あー悲しいなあ、ふー君に私は汚い女だなんて思われてるんだ。あー悲しいなあ。もう泣いちゃいそう」  
そう言って大げさにすねた様子を見せ始めたので、  
「い、いや、そ、そんなことないです。緑さんは素敵な人です! 素敵! さすが清純な乙女!」  
風太郎が慌てながらややオーバー気味に緑をフォローすると、  
「だよねー。こんないい女が汚れてるわけないもんねえ。ふー君はさすがよくわかってる。私は信じてましたよ」  
緑は白い歯を見せて嬉しそうに笑った。  
 
――信じてたなら最初から余計なフォローさせないでくれ……。  
 
そんな緑を見て笑顔で頷きながら、風太郎は内心うんざりした。  
 
しかし悪い感情は全くなかった。  
緑の手のひらの上で転がされていることはわかっていたが、そのことがむしろ嬉しかった。  
 
その証拠に、今見せている風太郎の笑顔は自然に生まれたものだった。  
 
そして、  
 
――じゃあ今度は俺の番だなあ……。  
 
そう思った風太郎は緑に言った。  
「じゃあ緑さん、約束ですよ……」  
「へ、何が?」  
緑がきょとんとした表情で言うので風太郎が、  
「いや、だから……さっき言ってたじゃないですか……『教えてくれたら、フェラしてあげる』って……」  
さっき緑が伝えたことを繰り返すと、  
「ああ、それね」  
緑は思い出した、と言った様子で小さく頷くと、あっけらかんと言った。  
「けど、すぐにフェラするなんて言ってないよね?」  
「ええっ!?」  
思わぬ緑の返事に風太郎は声を上げる。  
「いや、それは、緑さん、こっちは……」  
混乱してしどろもどろになっていると、  
「やだなあ、ふー君。今はふー君のおちんちんをきれいきれいしてるんだよ? 何でそこでフェラなんかするんだよ」  
「いや、けど……」  
なおも風太郎は抗議の声を上げたが、  
「それはふー君の勘違いじゃん。私はすぐにフェラするなんて言ってないよ」  
戸惑う風太郎とは対照的にきょとんとした表情のまま緑は冷静に言う。  
 
当然風太郎は納得がいくわけがない。  
「けど、けど……!」  
と、抗議の声を上げてまるで駄々をこねる子供のようにして粘っていると、  
さすがにこれには参ったのか、緑はあきれた様子で風太郎を見上げると言った。  
「もう……そんなにフェラしてほしいの?」  
「は、はい……」  
 
――やった、粘り勝ち!  
 
風太郎は緑の意地悪に散々粘って繰り返した抗議が実を結んだと思った。  
緑はさすがに根負けしたのだ、そう思った。  
 
そんな風太郎を見上げたまま、緑は笑みを見せると言った。  
「しなーい。だって今はおちんちんを綺麗にする時間だもん。だからフェラチオなんかしないよ」  
首を左右にゆっくりと振りながら、さも残念そうにそして意地悪げに緑は言うと、  
「さあ、じゃあきれいきれいしちゃいましょーね」  
そう言って再び、ボディーソープを大量に手に取り、風太郎のものを清める作業に取り掛かった。  
 
竿を頭をあたたかく包み込んだ両手を滑らせ、念入りにゆっくりと優しく丁寧に清めていく。  
 
――ドSだ! この人半端ないドSだ!  
 
そんな緑の愛撫を受け入れて、息を弾ませながら風太郎は思った。  
けれどそれでも風太郎は悪い気はしなかった。戸惑いながらもどこか嬉しかった。  
 
ただ風太郎は一つ気付いていないことがあった。  
 
それはここまでの一連の彼女の「意地悪」が、  
罪悪感に苦しむ風太郎の気分を少しでも軽くしてあげよう、忘れさせてあげようと、  
緑が気遣ってのものだということに……。  
 
緑はわざと努めて明るくふるまい、風太郎の気分転換をさせようと意地悪を繰り返していたのだ。  
そしてそれは見事に成功していた。  
 
緑はこういう気遣いを見せる女性だった。  
 
しかし、緑はそのことは一言も口に出さず、優しく笑みをたたえたまま、  
風太郎の興奮したものをゆっくりと清め続けている。  
 
この優しげな表情こそ彼女の心を素直に映しだしたものだった。  
 
それからも緑はしゃがみこんだまま、丁寧に風太郎の大きくなったものをボディーソープで清め続けている。  
そんな彼女を見下ろしながら風太郎は思った。  
 
――緑さん、おっぱい大きいなあ……。  
 
緑の気遣いの甲斐もあって、彼はようやく落ち着いてきたのだろう。  
風太郎は緑の裸体をじっくり観察する余裕が出てきていた。  
 
 
緑は一見するとスレンダーな印象を与える色白美人だ。  
しかし、こうしていざ裸になった彼女を見ると、  
彼女は結構むっちりと肉付きが良く、特にその乳房が大きいことに驚かされる。  
 
まず重たげに揺れている緑の二つの乳房だが、それは垂れて無様な形をしているということもなく、  
絶妙のバランスを保った綺麗な弧で輪郭を描かれた形の良い美しい乳房だった。  
元々色白の緑だが彼女の二つの乳房はその中でもひときわ白く、  
見ているだけで乳房から息が詰まりそうなほど濃厚な甘い香りが漂ってきそうだ。  
 
そんな彼女の大きな美しい乳房の先端にある乳首は薄い桃色をしてやや小さく平べったい。  
その小さな乳首を中心にして、乳首とおなじ薄い桃色をした乳輪が淡く滲むようにやや大きめに広がっていて、  
緑の可憐な乳首と大きな乳房をバランス良く美しく彩っていた。  
 
しかも、シャワーを浴びながらもなおも彼女の肌に残っているボディーソープが、  
さっきと同じくとろとろと緑の身体の上を垂れてきていて、  
彼女の二つの大きな乳房に流れたそれは、緑の二つの乳首の先から真っ白い滴となってこぼれ落ちていて、  
このことが緑の乳房を一層妖しく艶めかしく彩っていた。  
 
――エロいな……。  
 
風太郎は思わずごくりと生唾を飲んだ。  
 
乳房から目線を落としていくと、  
細く美しい曲線を描いてくびれながら、ねっとりと肉をつけた彼女の腰、  
うっすらと腹筋が割れた中心で美しくくぼむ縦長のおへそ、  
そしてその下でふっくらと膨らむ肉の丘の上を彩る濡れた黒い草叢が目に入るが、  
そのすべてが風太郎には言葉に出来ないほど美しいものに思えてしまい、そのままじっと見惚れて言葉を失ってしまう。  
 
すでに見たことのある茜の裸体も姉の緑同様美しいものなのだが、  
茜の場合はどこか幼さ、あどけなさが残るもので、美しさ以上に可愛らしさを感じさせるものだった。  
緑のような妖しさ、艶めかしさを併せ持ってはいなかった。  
 
と、  
 
――恥ずかしいよ、ふー……。  
 
初めて茜と関係を結んだ時、恥ずかしげに自分の裸体を隠す茜の姿が風太郎の脳裏に浮かんだ。  
顔を真っ赤にして、おそるおそる手を外して幼さの残る乳房を露わにし、ゆっくりと両脚を開いていった茜の姿だ。  
 
「……」  
さすがに風太郎は気まずくなり、ぶんぶんとそれをかき消すようにして頭を振ると、  
それを忘れるようにしてただ一心に緑の裸体に集中した。  
 
この場面で茜のことを考えるのは緑にも、そして茜にも失礼な気がしたのだ。  
 
 
「ん?」  
そんな風太郎の様子に気づいたのだろう。緑は顔を上げると、  
「そんなにじろじろ見ないでよ」  
と苦笑いしてみせた。  
 
「す、すいません」  
緑の言葉に風太郎があわてて目線をそらし、そのままおろおろと視線をさまよわせてしまったのだが、  
その様子が滑稽に映ったのか、緑はそんな風太郎を見上げたままクスクスと笑っていた。  
 
緑が風太郎のものを清めるのをやめて腰を上げたのは、それからしばらくしてからのことだった。  
「ふー、これでほとんど綺麗になったよ」  
風太郎の前に立ちあがった緑はそう言いながら、うんうんと頷いていたのだが、  
ふと「あ!」と何かを思い出したように声を出すと、  
イシシ、と何かいたずらを思いついた子供のような表情をして風太郎を見つめた。  
 
「な、なんすか……?」  
何か企んでいそうな緑の表情に、  
また何か意地悪をされるのではないか、と内心怯えながら、またどこか楽しみにしながら、  
風太郎がおそるおそるつぶやくと、急に緑は風太郎を思いきり抱きしめてきた。  
 
緑の大きな二つの乳房がぐにゃりと形を歪めて、風太郎の胸板にピッタリと重なる。  
 
「え……? え……?」  
突然の出来事に風太郎が戸惑っていると、  
緑は風太郎を抱きしめ自分の乳房を重ねたまま、自分の上半身をゆったりと円を描くようにして動かし始めた。  
 
互いの身体がボディーソープで濡れていたせいで、  
形を歪めた緑の乳房が彼女の動きに合わせてぬるぬるとスムーズに風太郎の胸板を滑っていく。  
それはまるで風俗で行われるマットプレイ、いわゆる「泡踊り」をほうふつとさせるものだった。  
 
「ふー君の胸もきれいきれいしないとねー」  
そう言って笑いながら、緑はなおも自分の乳房を風太郎の胸板に滑らせ続ける。  
 
――これ、やばい……。  
 
緑に抱きしめられたままの風太郎は思った。  
 
緑の乳房がまともに触れていることはもちろんだが、  
それがぬるぬると自分の胸板を滑る心地よさがたまらないのだ。  
特にコリコリと固くなった彼女の乳首が当たる部分の心地よさと言ったらなく、  
また自分の乳首と緑の乳首が重なりあった瞬間など電気が走るようだった。  
 
「み、緑さん……」  
息を弾ませながら風太郎がつぶやくと、  
「あれ、ふー君、何でそんな気持ちよさそうな顔してるのかなあ? 私のおっぱいでふー君の胸を綺麗にしてるだけだよ?」  
緑はそんな風太郎をからかうように笑った。  
 
再び風太郎は緑の意地悪の餌食にされたのだ。  
自分の行為に感じる風太郎を見て緑は楽しみたいのだ。  
 
しかしその気持ちよさと言ったらない。  
緑の意地悪とわかっていても風太郎はあまりの心地よさにうっとりととろけそうになる。  
 
「こらこらー、ダメだよ。綺麗にしてるだけなのにそんな気持ちよさそうな顔しちゃ。なんでそんな風になるんだよ」  
緑はなおもからかうように言ったが、風太郎の目に映るそんな緑の頬も真っ赤に染まっていて、息を弾ませている。  
自分の乳房をぬるぬると滑らせるのがたまらないのだろう。  
 
「み、緑さんだって……」  
風太郎はそんな緑をからかってやろうと言い返そうとしたが、気持ち良くてそれ以上言葉が続かない。  
「うーん? 何だって……?」  
緑はうっとりと瞳を細めて首をかしげたが、彼女もそれ以上言葉は続かなかった。  
元々は風太郎をからかうつもりで始めた行為だったが、予想以上に気持ち良すぎてやめられなくなってしまったのだ。  
 
それからは二人とも無言になった。  
 
ただ互いに「はあはあ……」と息を弾ませたまま、  
緑は風太郎を抱きしめたまま自分の乳房をぬるぬると滑らせ続け、  
風太郎はそんな緑の背中をいつしか何度も優しく撫でさすっていた。  
 
そしてしばらくの時間が過ぎると、  
「これ以上はやばい……」  
緑は小さく恥ずかしげにつぶやくと、風太郎を抱きしめるのをやめて身体を離した。  
彼女にすればここでこのまま行為に没頭するつもりはなかったようだ。  
「は、はい……」  
緑が離れたことに風太郎は少し未練を感じたが、無理強いはできない、と思い、ただ頷くだけだった。  
 
しばらく二人の間を沈黙が支配したが、  
「歯、磨こう」  
ふと緑はそう言うと備え付けの歯ブラシを風太郎に手渡し、丁寧に歯磨きを始めた。  
「はい」  
風太郎もそんな彼女に合わせるように歯を磨く。  
 
二人とも身体は洗ってもまだ歯を磨いてはいなかったのだ。  
 
シャワーが溢れ続ける中、「しゃこしゃこしゃこ……」としばらくの間、二人仲良く歯磨きをする音が響く。  
先に歯磨きを終えたのは風太郎。彼の歯磨きはいつも手早くすませるものだった。  
 
風太郎がシャワーで口をすすいだ後しばらくして、緑も歯磨きを終え風太郎と同じように口をすすいでいたのだが、  
口をすすぎ終えた緑がシャワーを元の位置に戻しながら、風太郎を意地悪げに見つめて言った。  
「なんか磨くの早くない? そんなので綺麗になるの?」  
「だ、大丈夫ですよ。いつもこんな調子ですけど口が臭うとか言われたことないですし……」  
口を綺麗にしたことを風太郎は強調したが、緑は疑いの眼差しで風太郎を見つめたままだ。  
「ほんとかなあ……みんなふー君に気を遣って臭ってること言わないだけかも……」  
「そ、それはないですよ……たぶん……」  
緑にそんな風に言われるとさすがに少し自信がなくなり、風太郎がやや弱々しく言うと、  
彼女は風太郎に向き直り、あっさりと言った。  
「確かめさせて」  
「え?」  
風太郎が戸惑いの声を上げるが早いか否か、緑の唇が風太郎の唇に重ねられた。  
歯磨き粉特有の冷たい香りを漂わせた、濡れたやや肉厚な緑の唇が風太郎にははっきりと感じられる。  
 
と、そのまま緑はそっと唇を開くとぬるりと舌を差し出してきて、微かに開かれていた風太郎の唇の中に侵入してきた。  
緑の冷たい香りが一層濃厚に広がる中、緑はうっとりと妖しげに瞳を細め、  
風太郎の口の中で自分の舌を大胆にうねうねと這いまわらせながら、風太郎の舌を、歯を、頬の内側を何度もしつこいほどに舐めまわす。  
 
「……!」  
突然のことに風太郎はびっくりして身動きがとれずされるがままになっていたが、  
徐々に落ち着きを取り戻し、緑に応えようと舌を動かそうとしたとき、  
そんな彼から逃れるようにしてさっと緑は舌を戻し、唇を離した。  
 
「あ……」  
緑の為すがままにされただけで終わったことに少し未練ありげな声を出した風太郎のことをじっと見つめたまま、  
意地悪げな笑みを浮かべた緑はぺろりと口元を舐めると、  
「うん、確かに綺麗になってるみたいだね。よかったよかった」  
そう言って何度かうんうんと頷いた。そして、  
「言っとくけどこれはキスじゃないからね。あくまで風太郎君が綺麗になったかのテストだよ」  
そう言うと、なおも未練ありげな表情をしていた風太郎に、緑はイシシと白い歯を見せて笑った。  
 
――敵わねえな……。  
 
そんな緑に風太郎は苦笑いをするしかなかった。  
またも緑にからかわれたのだ。  
 
完全に緑のペースで時間が流れていっていた。  
 

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