それから二人はシャワーで身体のボディーソープを洗い流すと一緒に浴槽を出た。
風太郎の前を歩いていた緑は備え付けのバスタオルで自分の身体を大雑把に拭うと、
すぐにもう一枚のバスタオルを手に取り、
「ほら、じっとして」
と言うと、そのまま風太郎の身体をてきぱきと拭いていった。
まるで母親が小さな子供の身体を拭くように……。
「あ、あのそれくらい自分で……」
ここまで緑に世話をしてもらうことになんだか恥ずかしくなって、
風太郎が遠慮がちに言うと、
「いいよ、遠慮しないで」
構わず風太郎の髪をぐしゃぐしゃと乱暴に拭きながら緑は優しく目を細めて微笑んだ。
――この人から見ると、俺って子供なのかな……。
緑のあまりの子供扱いに、風太郎のプライドが少しカチンとする部分もあるのだが、
しかし、それ以上に、緑に甘えることが出来るのが嬉しかった。何だか安心できるのだ。
緑に髪を拭ってもらいながら、いつの間にか風太郎はぼんやりと緑の優しい笑顔を見惚れていた。
と、
「ん?」
風太郎に見つめられていることに気づいたのか、緑は小さく首をかしげると、
「何、ぽーっとしてるのさ」
そう言って風太郎の額を指で軽く弾くと、イシシと笑った。
「す、すいません」
風太郎は照れ笑いを浮かべるしかなかった。
緑に見惚れていた、と正直に伝えるのはさすがに恥ずかしかった。
風太郎の身体を拭い終わると、緑は再び自分の身体を丁寧にバスタオルで拭っていた。
その間にバスタオルを腰に巻いていた風太郎は、洗面台の鏡でぼんやりと自分の顔を眺めながら、
ちらりと鏡に映る緑の裸体を見つめた。
――おっぱい大きいなあ……。
改めて思う。緑の乳房は明らかに大きい。
さっき風太郎の胸板の上をボディーソープでぬるぬるになった彼女の乳房が滑ったが、
ぬるぬるした彼女の乳房はやわらかくてあたたかくてぷにゅぷにゅしていて、男なら誰でも虜になってしまうだろう。
今も鮮やかにあの自分の胸板を滑って行った緑の乳房の感触が生々しく鮮やかに蘇る。
――もっと……触りたい……。
風太郎がぼんやりと緑の乳房に欲情を抱いたころ、
緑は何気なく風太郎に背中を向けた。
――あ……。
風太郎は心の中で声を上げた。
緑の背中からヒップにかけてすべてが露わになったのだ。
緑の真っ白の背中はすーっと綺麗にくぼんだ背骨のラインによって美しく彩られていて、
その下で滑らかな曲線を描いて腰がきゅうっとくびれていき、
そしてふわりと優しく再び曲線が膨らむことで彼女のヒップが描かれていくのだが、
優しく膨らむ緑のヒップは大きすぎることも、逆に貧相な感じも与えない、
きゅっと肉の引き締まった丸く可愛いらしい形のいいものだった。
――緑さん、おしりもいいなあ……。
鏡ごしに風太郎は緑に見惚れていたのだが、
「なあに見てんだ?」
と緑に睨まれて、慌てて眼を逸らした。
それからほどなく身体と髪を拭い終わった緑は、
「お待たせ。じゃ行こうか」
そう言って風太郎の手を優しく握った。
「み、緑さん、バスタオルは……?」
タオルで身体を隠そうともせず、そのまま浴室を出ようとする緑に風太郎が少し慌てて声をかけると、
「ふー君こそ、こんなもん外しちゃいなよ」
緑はそう言って風太郎が腰に巻いていたバスタオルを一気に外してしまった。
自然風太郎も何もかもが露わになる。
「あ……!」
慌てて股間を手で覆い隠した風太郎だったが、そんな彼を見て、
「どうせこれから全部見えちゃうんだからいいじゃん」
そう言って緑はけらけらと笑っていたが、ふっと笑うのをやめると、
「こうして裸でいる方が気持ちいいよ。ね? 二人きりなら別に恥ずかしくないんだから……」
そう優しく囁いて風太郎が恥ずかしげに股間を隠す両手をそっと外すと、
彼の右手を握り、何の恥ずかしげもなくゆっくりと足を進めていって風太郎をリードする格好で浴室を出た。
――大胆だなあ……。
風太郎は緑に少し引っ張られるようになりながら、恥ずかしさをこらえることが出来なかった。
しかし、それは緑も同じだった。風太郎をリードしながら彼女は内心、実は恥ずかしかった。
けれど緑にしたら、それ以上にありのままの二人でいたかった。
肩書とか恥じらいとか何もかも一切合財を捨てて何からも解放された裸のままで風太郎と向き合いたかった。
だからあえて恥を忍んで大胆な行動に出たのだ。
浴室を出てベッドルームに戻った緑と風太郎。
そのままベッドに向かうかと思いきや、緑はそのまま大きな窓の方に向かった。
「ふー君、ほら見て! 月が綺麗だよ」
そう言って窓から見える大きな月を指さしながら緑は風太郎に振りかえり笑った。
その夜はちょうど満月。真ん丸の月が浮かんでいた。
「ちょ、ちょっと!」
そんな緑の行動に風太郎はあわてた。
ホテルの部屋はかなり上の方に位置するし、幸い同じ高さで向かい合う建物もないので、
窓辺に立つ緑の全裸が誰かに見られる心配は少ないのだが、しかしそれでも思い切った大胆な行動だ。
「緑さん、表から見えちゃいますよ」
風太郎は緑を心配して言ったが、
「大丈夫だよ。誰にもわからないって。それよりふー君、ほら月が綺麗……」
そう言うと緑は窓辺に両手をかけてうっとりと月を見上げた。
「……」
風太郎は思わず言葉を失っていた。
月明かりに青白く照らし出される緑の裸体の美しさ、
そして月を見上げる美しくもあまりにも儚げで寂しげな横顔に……。
――なんて綺麗なんだろう……。
風太郎は見惚れていた。
「綺麗だねえ……」
月を見上げたままうっとりとつぶやく緑に、
「ええ……綺麗です……」
風太郎は小さく返事をすると、緑の隣に立って一緒に月を見上げた。
そして、クサいな、と内心思いながらも思い切って言った。
「緑さんも……綺麗ですよ……」
風太郎の言葉にびっくりした様子で振り返った緑。
――ダメだ……やっちまった……!
振り返った緑を見て風太郎は思った。
自分のクサいセリフを緑にからかわれる、そう思ったのだ。
が、
「ありがとう……」
緑は小さく囁くと、そのまま寂しげに微笑むだけだった。
思わぬ緑の反応に、そしてその儚げな美しさに風太郎は言葉を失い、
緑から目をそらすようにして月を見上げた。
まともに目線を合わせることが出来なかったのだ。
そんな風太郎が可愛らしく思えてクスッと緑は小さく微笑むと、再び月を見上げた。
それからも二人は一言も発することなく静かに月を見つめていた。
優しく冷たい青白い月明かりに裸体を静かに照らされながら……。
それからどれほどの時間が経ったろう。
月を見上げるのをやめた二人は窓を離れ、
備え付けの冷蔵庫からペットボトルに入ったミネラルウォーターを2本取りだすと、
二人仲良く並んでベッドに腰かけて、それぞれ静かにペットボトルを口に含んでのどを潤していた。
照明は一切付けず、ただ窓から差し込む月明かりが静かに部屋の中を、そして二人を青白く照らし出している。
ミネラルウォーターを静かに飲みながら、風太郎は隣に座る緑をちらりと見た。
風太郎と同じく全裸のままの緑はさっき浴槽ではしゃいでいたのとは打って変わって、
おなかのあたりでペットボトルを両手でぼんやりと持ったまま、やや伏し目がちに静かに腰かけている。
――なんて悲しそうな顔をするんだろう……。
美しくも儚げな緑の横顔に風太郎は思う。と同時に、
――俺は緑さんを、そして茜を悲しませるだけじゃないか……。これでいいのか……?
いよいよ迫る「その時」を前に、風太郎はそう思わざるを得なかった。
儚げな緑の横顔を見ていると再び罪悪感とそして迷いが生じてきたのだ。
と、
「ふー君」
緑はふっと風太郎の方に振り向くと、
「やろっか」
そう言って、風太郎の背中に両手を回しそのままぎゅっと抱きしめてきた。
やわらかくてあたたかな緑の肌が風太郎にぴったりと密着し、
緑の大きな二つの乳房がむぎゅうと圧しつぶされる。そして、
「……大丈夫だよ……」
緑は優しく囁くと、薄く開かれた彼の唇にそっと口づけた。
一人だけで堕ちるなら怖いだろう。不安だろう。
だけど大丈夫。私が一緒に堕ちてあげる……。君のそばにいてあげる……。守ってあげる……。
愛しいふー君、私はずっと一緒だよ……。
緑はそれらの想いを「大丈夫」という一言に込めていた。
口づけは風太郎とともに堕ちるという緑の誓いの印だった。
――緑さん……。
緑に抱きしめられ優しく口づけされたまま、風太郎は何もできなかった。
しかし、それは無理のないことだった。
なぜなら、彼の中に再び生じてきた迷いは、緑に抱きしめられてから、さらさらと消えていき、
そして口づけられた瞬間それは完全に消滅し、かわりに大きな安らぎが訪れていたためだ。
母の胎内に帰った様な、信じられないほど心地よい安らぎに風太郎は満たされていたのだ。
それがいいのか悪いのかはわからない。
ただ、少なくとも緑は自分の行動をもってして、
風太郎を彼が再び陥りそうになった悩みから解き放ったことは間違いなかった。
それは緑の想いがあるからこそなせる業だったに違いない。
と、そっと唇が離された。
シャワーを浴びている時の「チェック」とは違い、緑は舌を差し入れることも何もしない。
それは唇を重ねただけの、とても純粋で美しい、甘く優しい口づけだった。
「ふー君、これがキスっていうんだよ」
唇を離した緑は風太郎を見つめてにっこりと笑った。
「はい」
彼女の優しい癒しのおかげで心を軽くした風太郎も一緒に笑いながら頷くと、
緑は嬉しそうに再び風太郎に抱きつき、彼の耳元でからかうように囁いた。
「ねえ、ふー君、さっきからずっと私のおっぱい見てるよねえ?」
「え……!?」
風太郎は思わず返答に詰まった。
事実だったからだ。
シャワーを浴びていた時……。
シャワーから出て身体を拭っていた時……。
何かと風太郎は緑の大きな乳房に目をやり、そして見惚れていた。
今、風太郎の胸板にピッタリと押し当てられて、ぐにゃりとつぶされている、
信じられないほどやわらかくてあたたかい、大きくて美しい緑の乳房に……。
「……おっぱい……好きなの?」
緑が小声で風太郎に囁く。
「え、あ、いや……」
風太郎は戸惑った。そんなことを考えてみたこともないからだ。
――けど、緑さんの言う通りなのかも……。
風太郎は思う。
茜と初めて関係を持ったとき、
それは男に目覚めた風太郎が初めて女性の裸を目の前にしたのだが、
今思い返してみると、風太郎はまず最初に茜の乳房に目が行っていた。
茜の乳房も姉の緑と同じ血を引いているためか、大きいほうだった。
けれど緑とは違ってそれはどこかあどけなさ、幼さのあるもので、
緑の乳房を「美しい」とするなら、茜のそれは「可愛い」ものだった。
緑は桃色の乳輪が輪郭をにじませるようにして淡く、やや大きめに広がっていたが、
茜の場合、緑と同じ淡い桃色をした乳首も乳輪も小さくきゅっと引き締まっているような感じのもので、
それが一層茜の乳房を可憐なものに見せていた。
そんな茜の可愛い乳房を風太郎は気がつけば、夢中で舐め、吸っていたものだ。
ぺろぺろちゅうちゅうと無様な格好で……。
――くすぐったい……。ふー、何だか、赤ちゃんみたいだね……。
そんな彼のことを茜は顔を真っ赤に染めたまま、クスクスと笑っていたが、
それを気にすることなく、風太郎はなおも茜の乳房を吸い続けていた。
そんな過去の出来事を思い出した風太郎は、緑に抱きつかれたまま小さくつぶやいた。
「たぶん……好きだと思います……」
言われてみると、緑の指摘を否定のしようがないと思った。
自分はおっぱいが好き、いわゆる「おっぱい星人」なのだろう、そう思った。
「たぶん、じゃなくて、絶対、だね。だってふー君、私のおっぱい見る時、狼みたいな目つきで見てたもん」
緑は「絶対」という言葉を大きく強調して頷きながら、風太郎の耳元で言った。
「そ、そうですかあ……?」
そこまであからさまに緑の乳房を見つめていたつもりのない風太郎は疑問の声を上げたが、
「見てたよー。絶対絶対見てたー」
緑はわざと大げさに不機嫌そうな調子で反論すると、
「はあー、そうかー。ふー君も私のおっぱいが好きですかー……。
しかし、男の人ってのはどうしてこうもおっぱいが好きなんですかねー。
女の私からするとこんなもの重たくて肩がこるばかりのうっとうしいだけのものなんですけど?」
と、少しうんざりしたような、軽蔑するような、残念そうな、そんな調子で、
ため息交じりに首を大きく左右に振りながら言った。
「い、いや、その……」
緑が怒っているわけではないのは、風太郎にはわかっていた。
本気で怒っていたら、その言葉とは裏腹に優しく抱きしめたままでいてくれるはずはないからだ。
ただ、どう返事をしていいのか、と戸惑っていた。
と、
「えーい、こうなりゃおっぱい好きのふー君に罰を与えてやる!」
緑は声を大きくして、わざとらしく言うと、そのまま風太郎を抱きしめるのをやめてベッドに押し倒した。
「え!?」
突然の出来事に風太郎がびっくりしていると、急に風太郎の視界がふさがった。
あたたかくやわらかいものが風太郎の顔全体を突然覆って圧迫してきたのだ。
「むぐ……うぷ……」
顔全体を突然圧迫されたため、風太郎は息も満足にできない。
そんな風太郎の耳に勝ち誇ったような緑の声が届いた。
「ほらどうだ! おっぱいで顔を押しつぶされて苦しいだろう! おっぱいむぎゅむぎゅの刑だ!!」
そう。
風太郎の顔を突然覆ったものは緑の大きな二つの乳房だった。
緑は風太郎を押し倒すと、そのまま自分の大きな二つの乳房で風太郎の顔を挟み込むようにして圧迫してきたのだ。
緑の二つの乳房はぐにゃりと大きく形をゆがませながら、風太郎の顔全体を覆っている。
「どうだどうだ、私のおっぱいは苦しいか?」
両肘で上半身を支えた緑はなおもわざとらしく勝ち誇ったように言いながら、
いつの間にか、上半身をゆっくりとうねらせたり上下左右に揺すったりして、
押し付けたままの乳房をぎゅうぎゅうぐにゃぐにゃと大きくゆがませながら、風太郎をさらに圧迫し続ける。
「う……う……」
ボリュームたっぷりの緑の二つの乳房に顔を圧しつぶされている風太郎は息も満足にできなくて苦しかった。
しかし、同時にすごく心地よかったのも事実だ。
当然だろう。
緑の言う「おっぱいむぎゅむぎゅの刑」はそれは風太郎を苦しめるためではなく、
「おっぱい星人」の風太郎を楽しませるためのものであるのは誰の目にも明らかだった。
事実、緑は「罰」という名の下、自分の乳房で風太郎を楽しませてあげていたのだ。
――たまんねえ……。
風太郎は緑から「おっぱいむぎゅむぎゅの刑」を受けながらぼんやりと思った。
緑の肌の色のせいだろうか、視界一面が真っ白となる中、
顔いっぱいに広がる真ん丸に大きくて、ぷにゅぷにゅと中に水が詰まった風船のようにやわらかくて、
そして優しくあたたかい緑の乳房の感触の心地よさと言ったらこの世のものとは思えなかった。
しかもそれが緑の手によってぎゅうぎゅうぐにゃぐにゃとうごめくのだからたまらない。
同時に息が詰まるほどに濃厚な甘くて真っ白い緑の匂いもたまらなかった。
――緑さんに包まれている……。
そう思わずにはいられなくなるのだ。
ぷにゅぷにゅぎゅうぎゅうぐにゃぐにゃと緑の乳房に顔を圧迫され、
濃厚な甘い真っ白な匂いの中で優しくあたたかく包まれた風太郎は夢心地の中にあった。
いつまでもこのままで過ごせると思った。