深夜、薄暗い室内で二人の少女が絡み合っていた。彼女たちの名は紫穂と葵という。  
「紫穂、ウチ、ウチもう…」  
「いいわよ、葵。イッて…」  
「いや!紫穂もいっしょに…」  
紫穂はくすりと小さく笑うと、葵の耳元に囁く。「ええ、一緒にイキましょう…」  
耳にかかる息に思わず葵は体を震わせた。  
二人の手はさらに激しく互いの体をもてあそび、互いの体をこすりつけあう。  
二人の息遣いがさらに激しくなり、そして、  
「アーッッッ…」「くうっっ…」  
甲高い声と共に全身を緊張させ、やがてベッドにその体を投げ出した。  
 
行為後のけだるい沈黙の中、不意に紫穂が口を開く。  
「ねえ、葵。あなた明日の休日どうするの?」  
「どうっていっても…宿題やって、自主トレして、あとは…テレビでもみてる」  
「非生産的ね」  
「なら、紫穂はどうするん?」少しぶっきらぼうに葵は聞いた。  
「私も同じよ」紫穂の答えはそっけない。  
「あーあ、つまんない。昔はよかったなあー」葵はベッドに大の字になった。  
三人で皆本に「買わせた」特注品のベッドはとても広い。二人で使うには広すぎた。  
「ところで二人は?…聞くまでもないか」  
「…」紫穂は答えない。  
とある事件以来、皆本と薫の二人は急速に接近していった。薫は皆本に休日を「作らせて」は  
あちこち「飛び回って」いる。かと思うと、紫穂や葵の存在に気付いて急に離れたり、目で語り  
あったり、密かに小指を絡めたりしていて、紫穂と葵はしばしば砂を吐きたい気分になる。  
「いっそ二人のとこにテレポートしたろか?」葵の声に苛立ちが混じる。  
「やめなさい。馬に蹴られるわよ」  
「馬に蹴られるのはそっちやん。しょっちゅうちょっかい出して…」  
「わだしはいいの」  
「なんで」  
「わたしは二人が好きだから」  
 
理解できず怪訝な顔をする葵に向くと、紫穂は説明をはじめた。  
「皆本さんは薫を好き。薫は皆本さんを好き。そして私はそんな二人が好きなの」  
「なんやそれ…」  
「だから、二人が結婚して、私を愛人にしてくれればいいの」  
「ちょいまち。それっておかしかない?」  
「そうかしら?」  
思わず半身を起こして尋ねる葵に、紫穂は平然と答える。沈黙が流れ、紫穂も体を起こす。  
「それよりも、葵はどうするの?」  
「どうするって?」  
「皆本さんを好きなんでしょう?」  
「なっ、何やて?!」葵はベッドの上に立ち上がった。薄暗闇に、四人でいた頃より肉付きの  
良くなった、女に変わりつつある少女の体が浮かび上がる。「ま、まさかウチを『読んだ』んか?」  
「そんなことしないわ…葵、あなた気付いてないの?最近のあなたがいつも皆本さんを目で  
追っていることに」  
「え、あ、いや、だからそれは、つまり、その、ええと…」  
 
混乱状態の葵に、紫穂はさらに追い討ちをかける。  
「それで、どうするの?」  
「薫に対抗して皆本さんを奪う?それとも私みたいにする?それとも…」  
紫穂の真剣なまなざしに葵は一瞬に真にかえった。  
「うちは…うちは何もせえへん…なんかしたら二人を傷つけるだけやし…紫穂のいう通り、  
うちもあの二人好きやから…」なぜか紫穂の目を見れずに、顔を背け、自分に言い聞かせる  
ように葵はつぶやいた。  
「嘘ね」そんな葵を紫穂は言葉で切り裂く。  
「あなたは傷つきたくないだけ。臆病なだけよ」  
「うるさい!!あんたにうちの何がわかるん!!」葵はベッドから飛び降りると、脱ぎ捨てた  
服を引っつかむ。  
「葵」  
「なんね!!」  
「後悔を残す事だけはしないでね」  
「大きなお世話や!!!」  
葵は部屋から消え去った。二人でも広過ぎるベッドに一人、紫穂は寝転がった。  
 
 
「ふぅ…」紫穂は一人ため息をついた。  
葵には話せなかった。それはかつて皆本が原因不明の昏睡に陥った時のこと。  
皆本と薫を同調させ昏睡から救ったあと、事後調査で薫を見たときの光景。  
愛する人を止めるために愛する人を殺した皆本。  
愛する人に殺されるためにその身をさらした薫。  
「あんなことさせない。あれが運命だ、と言うなら私は運命だって変えてやる」  
紫穂の誓いの言葉は暗闇に溶けて消えた。  
 
予言の時まであと…  
 

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