【絶対可憐チルドレン Xth.Sence ヴァレンタインデイ・キッス】
「皆本さん?」
時は2月14日。世間がバレンタインデー一色に染まる中。
自室で報告書作りに追われていた皆本に、背後から落ち着いた声がかかる。
「……紫穂か。二人は一緒じゃないのか?」
パソコンの画面から目を離さず、背後の紫穂に語りかける皆本。
「薫ちゃんは友達と公園に行って来るって。
葵ちゃんは来月を見越して賢木さんに義理チョコあげに行ったわ」
『チョコ』という言葉を聞いて、皆本はふとキーボードの上を走らせていた手を止めた。
「……そうか、バレンタインデーだったな」
「うん。二人とも、帰ってきたら皆本さんにあげたいものがあるって。楽しみね」
そう呟いて、紫穂はソファに座る皆本のすぐ後ろへと歩を進める。
「――だから、私が一番乗り」
くすり、という僅かに妖艶な微笑み。
それと共に、かり……と、何か乾いたモノを齧る音が聞こえてきた。
かり、こり……としばらくその音が続く。
それが止んだかと思うと──、紫穂は再び口を開いた。
「はい、食べかけのチョコあげる♪」
──『いつものか』『紫穂らしいな』──と、振り向かないままに皆本が苦笑する。
その思考を遮るように、紫穂の手が伸ばされた。
頭と頬に這わされたその柔らかな手で、強制的に振り向かされる格好になる皆本。
背伸びをして、紫穂は皆本の顔に向けて首を傾ける。
そして身体に無理を強いる体勢のまま、紫穂の口唇が皆本の口に重ねられた。
「…………っっ!?」
まったくの不意打ちに、皆本は目を白黒させる。
口の中に、咀嚼されたチョコが流し込まれてきたのである。
どろ……ぉぉっ……。
口腔内の熱さでとろとろに溶かされた、溶岩のような熱濁。
それを潤滑油代わりに、紫穂の舌が皆本の口の中を蹂躙していく。
にちゅ、にちゃ、にちゅっ……。
「紫、……穂っ、っうっ! んんっ!!」
ねとりとした感触と共に、十歳の少女の口づけで良いように嬲られる皆本。
チョコの甘さを感じていられたのは、初めの少しの間だけであった。
二人の唾液を絡められ、すぐに溶け消えてしまうチョコ。
あとは、紫穂に与えられる唾液を嚥下するだけの口づけに成り代わっていった。
味などしないはずの唾液が、酷く甘露に感じられる。
口元から溢れるチョコと唾液のアトが、そのキスの激しさを物語っていた。
やがて、抵抗しないことを悟った紫穂の手がゆっくりと下へ降りていく。
ソファ越しのために下半身まで到達させることは出来なかったが、
緩められたワイシャツの襟元から侵入するには十分であった。
カリ……!
「んっ!? んんっっ!!」
人指し指の爪が皆本の胸の突端を軽く引っかく。
皆本が新たな衝撃に驚いて身を震わせた隙に、紫穂はさらに深く口づけをしていった。
舌先を喉へも届かせようというかの如き勢いで、深く舌を口腔の奥まで届かせていく。
器用に皆本の上顎を、歯朶を舐めねぶり、舌同士を絡ませあった。
「っ!! んむっ──……!!」
ペニスを嘗められるのとは違う、口腔同士の、しかも一方的な接触による快感。
背筋をぞくぞくと震わせる別種の悦楽が、皆本の全身へと波及していった。
ちゅぱ……っ。
舌を引き抜くように口唇を離した紫穂が、眼下の皆本の表情をまじまじと覗き込む。
未知の快楽に緩んだ貌。まなじりを泣きそうな程に下げ、
更なる愛撫を求めるように半開きの口を動かす様を満足げに眺めて、
長く深い口づけで昂った自身を震わせて、舌なめずりをしながら紫穂は熱い息を吐く。
「んぁ……っ。皆本さん、可愛い…………♪」
────ぞくぅっ!!
その一言が、引き金になった。
年端もいかぬ少女に『可愛い』と揶揄される屈辱に、身体中から熱さが込み上げてくる。
熱さが屈辱以外のモノから来ていると、半ば気付いてはいたが
「ぁ……やめ、ろ……っっ!!」
口だけで拒否をしつつも、笑みの形から開かれる紫穂の口腔粘膜から視線を離せない。
蠢く舌が、まるで何かの軟体動物のように見える。
捕食される──と、皆本が本能的な危険を察したのも、当然であっただろう。
口元にばかり注意が行ってしまっていたので皆本本人も気付いていなかったが、
そのペニスはズボンの中ですっかり固く反り返り、暴発寸前だった。
──そして、皆本本人が気付いていないことも、紫穂には読み取られてしまっていて。
見せ付けるように大きく口を開き、かぶりつくようにとどめの口づけをしにかかる。
ん……んちゅうううぅぅぅっっ……っ……!!
「んッ、ん、むぅぅぅっ!!」
それまでよりも更に強い紫穂の吸いつきに、明滅する皆本の意識。
ビリビリと痺れるような感覚に合わせて全身に伝播する快楽のパルスに耐え切れず、ついに限界が訪れた。
「んぐっ!? んッ――――!!」
口を塞がれたまま、目をしきりに瞬かせる皆本。ガクガクと腰が前後に震え、内側での放出の勢いを伝える。
ペニスからぶちまけられた精液は、外側からは見えないが確実に皆本自身へと降り注いでいった。
「……ンっ……」
鼻でだけ繰り返される呼吸の荒さをこそばゆく感じたのか、紫穂が顔を上げる。
間近で苦しげに射精を続ける皆本の額に浮いた汗を舐めとると、ようやく皆本から身を離した。
「はぁ、はぁっ────……」
声も出せず、顔を赤くし目尻に涙まで溜めて息をつく皆本。
そんな10歳年上の成人男性の顔をまるで宝物のように眺めながら、
紫穂は口元をハンカチで拭いてにっこりと頬を綻ばせる。
「……ごちそうさま♪」
してやったりと言わんばかりのその表情を、皆本はただ恨めしげに睨むことしかできなかった。
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「たっだいま──!!」
「帰って来たでー」
「〜〜っっ!!」
紫穂との口唇交合の余韻も覚めやらぬ中、玄関から元気に響く薫と葵の声。
一種哀れなほどに皆本は慌て、弾かれたようにソファから立ち上がる。
口元のチョコと唾液の洗い落とし、そして何より下半身の始末のために洗面所に駆け込んでいく。
キスで与えられた性感だけでズボンの中で無様に射精してしまった、
──それでもなお屹立し続ける股間を前かがみになって隠しながら。
そんな皆本が自分の横を通り過ぎる瞬間に、紫穂は挑発的な笑みを浮かべる。
「皆本さん、来月のお返し……、期待してもいいわよね?」
その言葉が、何を望んでのことなのか。
以後一ヶ月の間、皆本は悶々と悩まされることになったという。
おわり