「ん…っ」  
漏れてしまいそうになる甘い声を抑えるように軽く頭を振ると  
腰の辺りまで伸びたウェーブのかかった髪がベッドの上にさらっと流れた。  
色の黒い男の手が唇から顎をなぞり、首筋をなぞっていく。  
 
仰向けにされた紫穂の体に覆いかぶさるようにしながら、賢木が紫穂の髪を鋤いた。  
皆本の家とは違う男らしい彼の部屋。  
ここに紫穂が時折誰にも言わずに訪れるようになったのはいつからだったろう。  
そして透視する気の全く起こらないこのべッドで抱き合うようになってから、もう半年は経っていた。  
 
 
自分の上で動き始めた男を紫穂はぼんやりと眺める。  
はっきりとした深めの目鼻立ちに、焼けて引き締まった体つき。  
流れるようになれた手つきで動く手は、紫穂の求めるあの人と似通うはずも無いのに。  
 
いくら髪を伸ばしても体が女としての成長をとげても、皆本が志穂に与える感情は子供の頃から全く変わらなかった。  
泣きたくなるほどに真っ直ぐな親愛の情だ。  
残酷な話である。間違いなく愛されているのを知っているのに  
それは自分が求めるベクトルでは永遠にないのだ。  
 
ふと、志穂のシャツのボタンをはずしていた男がくくく、とおかしそうに笑った。  
「…最中にこんなに他の男のことばっかり考えてる相手はお前くらいだぜ?」  
勝手に心を読まれていた事とその顔にイラッとくる。  
昔からこの男は紫穂の癇に障る言葉を的確に選んでくるのだ。  
「いい年して、4股かけてるような男に言われたくないわ。昨日、頬殴られて最低って言われたばかりのくせに。」  
「あ、あれはだな上手くいきそうだったのに、ひがんだ男がチクったからであってなー」  
「あーら、どうにかごまかそうと頼んだ催眠能力者にチクられたんじゃどうしようもないわよね。」  
「余計なとこまで読むなー!!」  
 
ベッドの上でするべき会話じゃない。  
間があってそう考えたと同時に同じくその考えが脳内に伝わってくる。  
 
「…まあ、サイコメトラー同士は下手に口説かなくていいから楽っていやあ楽だよな」  
にやりとそう言って、いつの間にかシャツが脱がされて露にされていた白く細かい肌に顔をうずめた。  
ごつい大きい手が背中に回り、ブラジャーのホックを慣れた手つきで外す。  
弾けるように現れた大きな乳房に顔を寄せ吸い付いた。  
 
「あっ…」  
なんだかんだ生意気な事を言っても、まだ17である紫穂が賢木の巧みな動きに勝てるはずも無い。  
突起に舌を這わされ転がすように愛撫されると、途端に体が自分の言う事を聞かなくなっていく。  
白い体がかすかに紅く染まり、これから来るであろう快感に背筋が震えた。  
 
「はっ、……んっ………ん……っ!」  
「声押さえる意味あんのかよ、感じてくれちゃってんのまるわかりなんだぜ?」  
相変わらずからかうように楽しそうに笑う。  
「…っ」  
それでも声を抑えようとしてしまうのは、羞恥心と意地からだ。  
きゅっと目をつむって、耐える顔は子供の頃と変わらず幼く見える。  
 
「ホント…エロい体になったもんだよな」  
思わず逃げそうになった紫穂の腰を掴んで、引き寄せる。  
「あっ…や…っ」  
手が既に濡れていた下肢に滑り、ぐちゅりという水音とともに太ももを蜜が伝う。  
細い足首を捕まれ濡れたその箇所にとぷりと指を埋められると、びくんと体が跳ねた。  
「や、ぅあっ…はあ、んっ…」  
いやいやと小さく首を振って快感を逃がそうとするが上手くは行かない。  
ぐいっと強引に足を開かされ、指の動きに体が支配されていく。  
 
「もう、イきそうじゃねえか」  
「…そっち、こそ、欲しくて堪らないくせに…!」  
「…っ、ホンット、かわいくねえなあおい」  
 
「!!」  
紫穂の最後の強がりな言葉は、勢いよく、猛ったモノが体に貫かれて途切れた。  
じゅくじゅくと卑猥な音が鼓膜を犯していく。  
「ひっ…ああはあん、やあ…!」  
「は、キ、っつ…」  
賢木の呟きに、もうまともに紫穂は言葉を返す事も出来ない。  
激しい抽出に否応なく昇り詰められる。  
隙間なく体が重なり、紫穂の白い手が汗で滑る黒い背中を必死で縋った。  
 
「イ、く…!」  
「あ、あああっ…!」  
 
最奥にいっそう強く突き上げられて、文字どおりの絶頂を迎える。  
賢木の強い感情が押し寄せてくるが、痛みと快感で頭が真っ白になって何も考えられなくなり  
結局いつもその瞬間のこの男の感情だけは、紫穂は読めたことがなかった。  
 
 
家路への道を1人小走りに進んでいた。  
きっちり着こなした制服もきちんとセットされた髪も  
ほんの数十分前までは男に抱かれていたなどとは全く感じさせない。  
 
賢木に抱かれてそのまま彼の横で眠ったことはない。  
理由はカンタンである。皆本に心配させない為で、なによりバレない為だ。  
秘密のままずるずる続くこの関係に意味もなにもないけれど  
それでもあの男は、自分の唯一の理解者であり共犯者だった。  
 
…ばかみたい。  
もう一度服の匂いをかいで残り香がないことを確かめながら、小さくそう呟いた。  
 
 
 
完  
 
 

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