「どうしたん?早くこっちにきて…?」
ラブホの一室で、葵は全裸で黒木を誘った。
それでいながら、葵には興奮も欲望もなかった。
強いて言えば、自分が気付かないうちに賢木というセフレを見つけていた紫穂や、その紫穂に小学生並と言われながらも皆本と恋人関係にある薫への嫉妬。
それだけだった。
黒木は優しげに、それでいて瞳に明らかな欲望を表しながら葵に覆い被さる。
(やっぱり皆本はんとは違う…)
今さらながら葵は思った。
口付けを交わす。
黒木の舌が葵の唇を割り、彼女の歯を撫でる。
葵は口を開く。入り込む黒木の舌。彼女の舌に触れる。彼女もぎこちなく舌を絡める。
気持ちよくなどない。ただ、以前紫穂に聞いた事を思い出しながら、それを再現する。
やがて黒木の手が、指が、葵の体を撫でる。
やはり快感など無い。強すぎたり、弱すぎたり、くすぐったいだけだ。
黒木の手が強引に葵の足を広げようとする。
「いや…」
葵は拒む。しかし黒木の力はそれをねじ伏せてしまう。
葵は手で顔を覆った。
恥ずかしかった。そして悔しかった。自分の初めてが自分の想い人でなかった事が。
黒木の指が葵の秘所に触れる。葵の体が跳ねる。
そして中に入り込む。蠢く。
やはり感じない。明らかにツボを外した動き。
胸を揉まれる。乳首を舐められる。
感じない。感じるのは気持ち悪さだけ。
鳥肌すら立ちそうな嫌悪感に、黒木を突き放そうとして、彼の真剣な眼差しに打たれた。
黒木を抱きしめる。自分に思い込ませる。
彼の手は皆本はんの手。
彼の指は皆本はんの指。
彼のペニスは…
体が反応し出す。乳首が尖る。秘所が潤む。
「…いいかい?」
黒木が囁く。
「ええよ、来て」(皆本はん)
決して言えない名前を秘めて誘う。
秘所にペニスがあたる。
そして、一気に突っ込まれる。
「いた、痛い、痛、、やめ、いやぁ」
激痛に体を捩じらせ、ずり上がりながら逃げる。
両肩を押さえられる。
そのままさらに深く突きこまれる。
「ぐ、ぐ、うぁ、あぁぁ…」
葵は苦痛のうめきをもらす。その痛みにわずかになれた頃、黒木は猛然と動き出した。
「あ、ひ、ひぁ、ぐ、んぐ、ぎ…」
苦痛の中、必死に黒木に縋り、懇願する。
「お、お願い…もっと…ゆっくり…」
だが彼の動きは止まらない。それどころかさらに激しさを増す。
もはや葵にはシーツを握り締めて、ひたすら耐えるしか無かった。
…事が済んで、黒木は葵に囁いた。
「良かったよ…初めてだったんだね」
葵には答える言葉は無かった。
ただ、これ以上彼の言葉を聞きたくなくて、唇を重ねた。
翌朝。
葵は紫穂に肩を叩かれた。そして告げられる。
「ああ、あなた、処女を捨てたんだ」
葵は言葉も無い。
「どうだった?初体験は。気持ちよかった?」
「…痛かった」
思わず紫穂は吹き出す。そしてひとしきり笑った後で葵に話し掛けた。
「まあ、そんなものよ。もし私に任せてくれたら、最高の処女喪失にしてあげれたのに」
「…処女くらい普通に捨てたいやん」
「そう?どうせなら気持ちいいほうがいいと思うけど…」
「ウチは…っ!」
(あんたとは違う!)
思わずそう叫びそうになって、葵は口を閉ざした。そのままテレポートする。
葵の脳裏に、もはや見慣れてしまった、寂しげに微笑む紫穂の顔がちらついた。
まさにその顔をしながら、志穂は空に向かって呟く。
「予言は回避された。でも、その結果がこれだとしたら…悲しいよね」
紫穂の呟きは、誰にも届かずに消えていった。