私、恋をするとダメなんです。  
 
そう、私、「常月まとい」は超恋愛体質、いわゆるストーカーというやつらしい。  
無論私にはそんなつもりはない。好きな人が何やってるかなんて、恋する乙女なら誰だって気にすることのはずです。  
 
今日も愛しき糸色先生を後ろから眺めてるの、私はそれだけで幸せ。  
 
誰かを好きになることに理屈なんていらない。  
それが私の信条だ。  
そして夢中になったら追いかけるだけ。  
きっかけなんて別に大したことじゃなくてもいいのだ。  
 
「のめりこむっていうのは、ある意味すごく楽なことなのよ」  
だって、他のことを考えなくていいじゃない?  
イスに座った私にスクールカウンセラーは花のような笑顔を見せて言った。  
私は特に感慨もなくそれを聞き流しながら、隣のソファへと目を移す。  
そこでは、いつも根拠のない疑心暗鬼、被害妄想に駆られては絶望し、  
勝手に疲れきっている先生の眠る姿があった。  
「スキミングされるって怯えてるわりには、無警戒なんですね」  
眼鏡を外し、ぐっすりと眠り込むその寝顔は教員とは思えないあどけなさを残していた。  
私は反射的にデジカメを取り出すと、落ち着きなく立ち上がっては度々その寝顔を撮影しているのだが、  
その気配にも一向に気づこうとはしない。  
「そういうところが可愛いと思わない?」  
「先生はそう思うんですか?」  
「どうかしらね」  
彼女のいつもの無表情さからは感情は読めなかった。  
暗くなった室内にカメラのフラッシュを焚いても先生は起きない。  
静かな放課後の校舎にトロイメライが流れた。  
「さて、そろそろ部屋を閉めたいから先生を起こしてくれないかしら?」  
「……はい」  
 
「私はちょっと用があって…職員室に居るから、部屋の戸締りお願いして良いかしら?  
そう言って鍵を差し出した。私は頷く。  
「後で鍵返しに行きます」  
ありがとう、そう返し 部屋を出る前、彼女は思い出したように告げた。  
「…遅くなっても良いからね」  
無に近い表情が少しだけ楽しそうに見えたのは気のせいではないだろう。  
ピシャリと閉まったドアに近付き、遠ざかっていく足音に感謝しながら私は手にした鍵を見つめる。  
後ろを振り返り、ソファで眠っている彼を確認すると 少し迷いながらも鍵をかけた。  
---ガチャ  
鍵のかかる音と共に、室内に静寂が訪れる。  
聞こえるのは先生の規則正しい寝息と私の妙に高ぶった鼓動の音だけだった。  
 
静かな息を放つソファへと足を向ける、自分の足音がやけに大きく感じた。  
先生の側へ寄ると 屈んで顔を覗き込む。いつもの眼鏡が無く、瞳が閉じられた彼の表情はとても安らかに見えた。  
普段の言動から考えると あまり良い夢は見ないのではないかと思っていたので何だか意外だ。  
それ程ここが安心出来る所なのだろうか。感謝すべき女性に嫉妬を覚えてしまい、私は少し後悔した。  
先生の耳元へと唇を止せ、囁くように言う  
「せんせい…」  
……起きない。少し身動ぎしただけで何も変化は無かった。どうしてこんなに無防備なんだろう。  
そう考える時間さえ惜しく感じたので 私は頭の中で何度もシュミレーションした行動を実行する事にした。  
 
私は先生の好みを全て把握している。  
何が嫌で絶望するのかも知っている。  
だから…、きっと、私なら先生を心の底から喜ばせる方法を、心の底から愛する方法を、知っている…。  
 
時間が惜しい。  
 
最早私の中には、先生の一挙手一投足全ての行動が刻まれている。下手に考える必要は、無い…ハズ。  
そう、私なりのやり方で、私なりの愛し方をすればいいのだ。今までそうしてきたように。  
 
先生を好きになってから必死で覚えた和服の着付けが、こんな風に役立つとは思わなかった。  
先生の袴を慣れた手つきで脱がせながら、私は声を立てずに笑った。  
下半身を露わにされても依然として眠ったままの姿に後ろめたさを感じながら、  
先生のモノに下着越しにそっと手で触れてみる。  
「ん…」  
先生は身じろぎすると、さも不快そうな声を出し眉をしかめた。  
「あ、ちょっと大きくなった」  
眠ったままの男の人に、こんな悪戯紛いの行為ができるのも、  
それを楽しく感じてしまうのも、全ては恋のなせる業だ。  
触れるたびに形を変え、熱を帯びる先生のモノが愛しくて仕様が無い。  
私は下着の中で窮屈そうに納まるモノを外に出してあげた。  
 
外気に晒されて中途半端に立ち上がっているそれを 私は興味深げに眺めた。  
男の人のものをこんなに近くで見るのは初めてだ。  
それが好きな人のものとなれば、興奮するのは当然である。  
 そう、当然なのだ。  
言い訳のように繰り返し、じわじわと迫る下半身の疼きを誤魔化した。  
 
先生の先端に舌先を当ててみる。  
(暖かい…)  
チロチロと刺激しながら当たり前の事を考える。  
手を添えて口に含み、隅々まで丹念に舐め上げると、熱くなったそこは小さく震えた。  
ふと気になり 先生の表情を盗み見る。  
そこには 瞼は閉じているものの 眉を寄せながら必死に快楽を堪える先生の姿があった。  
無意識だろうか、手はソファの端をぎゅっと握っている。息があがり何だか辛そうだ。  
…大丈夫。まだ起きてない。  
日頃の行いからか、すぐにそう確信する事が出来た。観察するのは得意だ。  
唇を離し、私は自分の制服へ手をかけた。  
パサリ。  
乾いた音を立て、スカートが落ちる。上も脱ぎ、下着姿になった自分の身体を見下ろした。  
白いシンプルな下着。  
(こんな事になると分かっていたら もっと可愛いのを付けてきたのにな)  
家の箪笥に忍ばせてあるとっておきのお気に入りを思いながら溜息をついた。  
 
 

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