「さーて・・・・・・と。明日の用意して、そろそろ寝るかな。」
奈美は読んでいた雑誌を閉じて大きく伸びをする。
座ったまま手を伸ばし、放り出してあったカバンを引き寄せてコタツの上に乗せた。
「えーと、明日いるのは・・・・・」
カバンの中身を掻き出しながらチェックしていくと、ノートやテキストと一緒に四角い包みが滑り出てきた。
「・・・・あ・・・・・・」
奈美はそれに気がつき、手に取る。
赤色の包装紙できれいにラッピングされ、リボンが十字にかけられている。
裏返すと、包装紙の隙間に差し込んだメッセージカードの端が見えた。
「結局・・・・・渡せなかったな・・・・・・・・・・。」
奈美は一つため息をついて、コタツから出た上半身を仰向けにして寝転んだ。
包みを目の前にかざす。
(ほんとにもう・・・・何がホワイトライよ・・・・・・・)
奈美は去年の事を思い出した。あの後、女の子同士で話し合って、今年は渡さない事になっていた。
チョコの包みを軽く放った。
コトンと、音をさせてカーペットの上に転がる。
(・・・あんな渡し方ってないよ・・・・・・)
放ったままの姿勢で、手の先にあるチョコを見つめ、奈美はため息をついた。
『先生も 君の事 好きですよ』
出しぬけに先生の言葉が脳裏をよぎり、奈美は思わずドキッとして体をすくませた。
(バカだ・・・私・・・・・)
コタツの布団を顔まで引き上げ、奈美はギュッと目を閉じる。
涙がじわりとにじみ出てきた。
(・・・あんな冗談をいつまでも覚えててさ・・・・ちょっと本気にしてさ・・・・何度も泣いて・・・・バカだ・・・・)
奈美は腕で顔を覆った。もう涙は止まらなくなっていた。
(・・・先生・・・・・・先生・・・・・・。ホントは渡したかったんだよ・・・・・食べてほしかったんだよ・・・・・ちょっと頑張って手作りしたよ・・・
・・文句言ってもよかったよ・・・・・先生・・・・・)
何度もあの時の言葉が、頭の中で繰り返される。
腕を伸ばし、手探りでチョコの包みをたぐりよせ、胸に抱える。
(・・・・・でも・・・・・あの時のカードは読んでくれたんだよね。・・・・だから、あんな言葉で・・・・・・・・)
手で涙を拭いながら、奈美は包みを見る。
包みを抱えたまま、ゆっくりと起き上がった。
「・・・・・・・・カード・・・・無しのほうがいいのかな・・・・。重くないのかな・・・・」
ぽつりとつぶやいて、そっとカードを抜き取った。
「・・・・・・また期待してる。もう懲りたはずじゃない・・・・・」
(・・・いつも意地悪な事言うけど。・・・・・挨拶みたいに『普通』って言うけど。・・・・・・・私は・・・それが・・・・・・・)
胸の中で何かがズキンと痛み、絞めつける。
奈美は立ち上がった。
「・・・ホントにバカだ・・・私・・・・」
つぶやきながら部屋を出て、玄関へ向かう。
靴を履きながら、ちらりと時計を見た。
玄関の戸に手をかけようとして、一瞬戸惑い、しばらくその姿勢のまま考えた。
また、胸がズキンとした。
(・・・・行こう! まだ・・・今日は残ってるんだから・・・・・・)
決心して戸を開け、外へ出た。小走りで先生の家の方角へ向かう。
冬の冷気が奈美の体を包む。
「さむ・・・・!」
思わず身をすくめる。が、立ち止まらず駆けてゆく。
「そうだ、コンビニ! 交くんの分を買って行こう! ・・・ゴメン交くん! 君に渡すついでに、先生にも持って来た事にさせて!」
自分の考えに思わず苦笑を浮かべる。
(・・・ホント、何やってんだろ私・・・・)
・・・・でも、
いいんだ、答えてくれないのはわかってても。
あなたに渡したい・・・・・・それだけ。 ・・・・・・ただ、それだけの理由で、十分なんだ。
また、胸が締め付けられ、痛む。
奈美は、ふと立ち止まり、ポケットからカードを取り出した。
一瞬考えてから、包装紙の隙間に丁寧に差し込む。
やさしく微笑んでそっと胸に抱きしめた。
そして、また走り出す。
寒い風が奈美の髪を揺らし、少し涙の跡の残る頬をなでていた。